開拓計画〜群れ飛ぶ珍客
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 84 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月24日〜08月01日
リプレイ公開日:2008年08月03日
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●オープニング
多少暑いが、過ごしやすい陽気になったロシアの森の中に、まだ新しい村が一つある。
そこでは日中、住民達が忙しく働いているが、夕暮れ時には若者が集まって、武術の練習をするのが習慣になっていた。
そのほとんどがエルフだが、幾人かハーフエルフが混じっている。後者が場を仕切る様子を見せているのは、彼らがこの開拓村の維持・管理を任されている代官だからだ。いずれは住人だけで運営することになるとはいえ、開拓が進んで安定するまでは、アルドスキー家が配置したこの代官達が細かいところまで目配りすることになっている。
とはいえ、代官だから何でも得意なわけではなく。
「目を閉じたら駄目だって教えてもらっただろう」
「そうなんですけど‥‥あぁ、天使様に泥が!」
「汚れたら困るものを持って歩くなって、言われてなかったっけ?」
一人だけ、ぽかぽか皆から殴られている者もいる。名前はユーリー。こんなでも、この村の代官代表である。
彼の悪癖は、ノモロイ村の特産品『ノモロイの悪魔』なる焼き物を『天使様』と呼んであがめる事だったが、焼き物は危険なので普段は布製の『天使様』を持って歩いている。本物の『天使様』が悪魔と称され、魔除けとされる外見なのに、『天使様』に見えるのだから審美眼が疑われる。
「これは、教会で綺麗にしていただきましょう」
ついでに、そんなものを教会に平気で持ち込む神経も、色々と問題なのではないと他の代官達は悩んでいた。
キエフから歩いて二日。更に遠方に領地を持つ貴族のアルドスキー家の飛び地領地である開拓村では、六月末に本領から教会建設のための大工や資材と共に、修道女が一人やってきてくれた。当初は神父の予定だったのが、予定していた人物が持病の腰痛を悪化させたため、代理で送られてきた人物だ。
もちろんジーザス教黒派で、住人がほぼエルフであることを考慮して同族。老齢とはいかないまでも、元は金色だったという髪がほとんど白っぽくなっている程度に年齢を重ねた女性だ。誰かが尋ねたところでは、御年百五十歳。本人自ら志願して、この開拓村にやってきてくれた人物である。
開拓村の住人達のほとんどは、これまでジーザス教を知らなかった。蛮族と呼ばれていた森の住人達で、今もそれほど信心深いとはいえないが、修道女が説く教えには素直に耳を傾ける。なにしろ彼女は色々と特技が多く、教えを説く以外にも様々なことを住人に教えてくれるので、一目置かれていたのだ。
そして修道女は、とてもとても心が広かった。なにしろ代官代表の悪癖である『ノモロイの天使様』を見ても動じず、ユーリーがそれがいかに素晴らしいかと語るのに耳を傾け、何をどう説いたのか『天使様』をユーリーに自分の小屋にしまわせることに成功したのだ。村人の一部はこの奇妙な代物に愛着を感じていたので、そちらには自作の本物の天使様らしい人形を作ってくれている。
黒派の人物ゆえに怠惰や増長には厳しいが、人の性質を見る目はあるのだろう。ユーリーの審美眼も、最近は少し矯正されてきた模様である。
この修道女が、ある日のこと、招いていない珍客を連れてきた。
「目印のくぬぎの木の下にいたのですよ。聞けば、皆さんと似たような出来事で住む場所がなくなってしまったとおっしゃるので」
森の中に香草摘みに出掛けていた修道女の背負ったかごには、すっかり元気を失ったシフールの老人と子供が六人ほど。その背後にはふらふらになったシフールの老若男女が三十余人。
あまり定住しないと言われるシフールだが、いい環境なら老人や子育て中の家族などがまとまって集落を作ることもたまにある。そうした場所にいたものが、デビルに森を焼かれて逃げ惑ううちに、持っていた食料も尽きるし、勝手に分からぬ場所で水場も探し当てられず、これからどうしようと考えていたところを発見されたのだ。
開拓村の住人も、皆住んでいた村をデビルと手を結んだラスプーチン一党に攻められて失い、同胞の半分以上と離別、死別の憂き目に遭っている。他人事ではないと世話を焼き、追っ手がいないかも警戒すること数日。異変はなく、シフール達も皆元気を取り戻した。
そうして、何か相談していたシフール達はユーリーに対して、
「俺らも、この村に入れてくれ。畑作りは手伝えるぞ」
シフール達は、なんだか変な白っぽい糸みたいなものを持っていて、それと引き換えに村に入れてくれと言ったのである。
糸のようなものは、スクリーマーの根っこ。本当はなんと言うのか誰も知らなかったが、これを適した場所に植えて世話をすると、美味しいきのこが取れるのだ。難点は、収穫する時に悲鳴を上げること。うっかりきのこの周りを歩いてもうるさいが、シフール達は滅多にその失敗はしなかったようだ。
開拓村は、新築なったばかりの教会を中心にようやく全家族分の小屋が建ち、まだ開墾始めたばかりの畑を世話して、少数の家畜を飼い、森の幸を採取しながら、収穫物用の倉庫を建築中だ。薪などを売ってはいるが、生活は成り立たないのでアルドスキー家からの援助と一部若者の出稼ぎで糧を得ているところ。
四十数名の新規住人はシフールであっても受け入れ難いが、住人は同じ境遇の彼らを見捨てられず、スクリーマーの畑も実はなかなか魅力的。
「こういう時は、冒険者さんに知恵を借りましょう」
「わたくしはほとんど会ったこともありませんが、頼りになるものですか?」
「とっても親切で、物知りで、強い方々なんですよ」
シフールの住居が増えるとなれば、開拓計画にも手直しが必要だ。その立案も手伝ってもらえればありがたいが、なによりもスクリーマーが村の近くで育てられれば、いずれは特産品にすることも出来るかもしれない。
代官として、将来は開拓村から相応の税収が見込めるように開拓計画を進めなくてはならないユーリーは、冒険者ギルドに依頼を出しに行ったのだった。
●リプレイ本文
歩いて二日の道のりを、馬やアイテムを使って一日と少し。予定より早く到着した冒険者一行だが、リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)以外は見知っている人々なので、エルフ達は普通に迎えてくれた。ただ挨拶と初顔合わせの挨拶をしたら、一人二人が残念そうに舌打ちしていたのを、ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)は見逃していない。笑顔を振りまくのが仕事の彼の妻に、見惚れたくらいでとやかく言うことはないけれど。
問題のシフール達は、村の中であちこちにいたようだが、三々五々に集まってきた。口々に名前を名乗られてもなかなか名前を覚えるのは大変だが、向こうは向こうでイリーナ・リピンスキー(ea9740)が布地を持ってきたのを見つけて気もそぞろだ。
「これだけ増えたら、ただ受け入れただけでは確かに大変なことになりますね」
ウォルター・ガーラント(ec1051)が周囲を見渡して、冷静な分析の結果を口にしたが‥‥その頃には村人がほとんど集まって、最近の様子を口々に告げて寄越す、非常に賑やかな状態になっていた。
それからしばらくして、村の周辺の下見に出掛けていたユーリーと修道女のクセニアが戻ってきた。それを見付けてリュシエンヌは『あらまあ』と笑いながらも挨拶をしたのだが、他の三人はしばし言葉が出なかった。
「剣の鍛錬で、うっかりしまして」
ユーリーの額に真っ青なアザがあるので、三人以外はそれが原因だと思ったろうが、その他にももう一つ。
「少し面差しが変わったようだか?」
「あ、大分鍛錬しているので筋肉がついたのだといいんですけど」
イリーナが問い掛けたものの、当人はやはり自覚がなく、邪気のない笑顔を振りまいている。以前からあまり代官の責任者らしく見える青年ではなかったが、
「どことなく、以前より年少に見えますな」
「そうですか?」
「はっきり申せば、子供っぽくなりました。仕事振りは大丈夫ですか?」
「その点は変わりなく」
ヴィクトルがクセニアに少しばかり段階を踏んで問い掛けたところでは、三人が思った『まるで少年に戻ったような顔付き』は見間違いではないらしい。
挙げ句。
「後々ご恩返しが出来ると限らない方から、安易に物を貰わないよう教えないといけないんです」
態度も、『ノモロイの天使様』で上向かせているのと似た感じだが、イリーナ相手でも意見が主張できるようになったのは大きな変化である。相変わらず『天使様』は首から紐で吊ってあるのだが。
ちなみにイリーナとは、彼女が差し入れで持ってきた布地の代金を払うかどうかで会話している。途中から経理を担当しているらしい代官までやってきて、イリーナに金銭面の負担はさせない代わりに、ここまで持参した労力分は厚意として有りがたく受け取るという話になったようだ。
「大分、雰囲気が変わりましたね」
「そうなの? ちょっと子供っぽいけど、頑張ってるじゃない」
この場合、リュシエンヌの言い分にヴィクトルもウォルターも反論はない。とはいえ、仕事の段取りが今ひとつでは問題だから、その点は当人に言って聞かせる。
この日は村人も交えて、翌日からの仕事の割り振りをして、誰が誰と組んで動くのかを決めた。そのあたりで日も傾いてきたから、森に入るのは翌朝からとなる。
実際の人数と労力から、開墾する畑の大きさなどを代官と検討するのはヴィクトル。農業に明るい訳ではないが、植物の知識は相応にあるので、植えつける作物から収量の予想くらいは出来る。シフール側からも話を聞きに来る者がいるから、スクリーマーの育て方を教授願えるように働き掛けもする予定だ。
村周辺の土地の確認は、リュシエンヌとウォルターが行なうことになった。リュシエンヌは畑として開墾がすぐに出来るか、伐採で家畜の放牧場とするに適した場所を探す。これにはユーリーと村人が数名、付いてくれることになった。
ウォルターは村内では習慣と身体条件の違いでいざこざが発生しやすくなることも考えられるので、村の近くでシフール達が住むに適した場所の選定だ。こちらはシフールがぞろぞろと付いていく。
イリーナは初日は村内で、持参した布地で衣類を作ることになった。エルフもシフールも女性達が衣類作りはしているが、どちらも着の身着のままでここまで辿り着いているので足りないものが多い。村の女性と膝が痛いクセニアが一緒。
倉庫の建築は木材を切り出している最中だそうなので、その材料を見て、イリーナが助言することになっている。
そうして翌日。
裁縫組は、村の教会が作る日陰で針仕事を始めた。針や糸はいずれもアルドスキー家で用立てたものを使い、今まで作った服の余り布なども持ち寄ってきた。
ただし。
「服がない者が優先だろう。子供ではないのだから、取り合いはしない」
模様がある布地を幾つか選んできたものだから、女性達は少しでも布地を貰おうと掴んで離さない。イリーナに注意されても止めないので、とうとう叱られていた。
何故か刺繍糸だけは大量にあったので、イリーナは簡単な模様を教えてやって、布地の取り合いが喧嘩にならないようにすることにした。一部はクセニアが染めたものもあるそうだ。
「将来を見据えて木材加工はと思いましたが、染色がお出来ならそれもどうでしょう」
「もう少し余裕があれば、ですわね」
この時は穏やかだったクセニアだが、刺繍糸を巡ってシフールの娘二人が喧嘩を始めたところ、それを一喝するようなところも見せた。聞けば、長く教義を広めるために暗黒の国の森の中を旅してきた伝道師の一人らしい。膝を痛めたので、こちらを終の棲家と定めて移ってきたので、村人には折りに触れて教義の話をする。
裁縫をしながら、賛美歌を歌わされたイリーナだった。
夕方になって、リュシエンヌとウォルターが戻ってきた。村内で開墾に必要な品物の有無と数を見回っていたヴィクトルが出迎えて、報告の前に双方が集めてきた朽ち木の枝を馬から下ろす作業を手伝う。リュシエンヌは一頭、ヴィクトルは二頭の馬を連れていて、その三頭を連れ出したリュシエンヌ達は結構な量の焚き付けを集めていた。ウォルター側は彼の一頭だが、それぞれが背負ってきた分もあるので見劣りはしない。
「薪だけより、建築材の丸太が取れればと思ったけれど‥‥しばらくは村で使う分が必要なのよね。あと、薪の代金が村に来る物資の代金の一部に充当されているって」
当人はかなりしなびたどんぐりを幾つか拾っていて、リュシエンヌは夫に手渡している。モンスターの気配はないが、木の実があれば住んでいる小動物はいるはずだ。スクリーマーを植え付けるなら、それらが辺りを騒がすことも考えに含んでおかねばならない。
建材に向いた木々は、村の周辺では大分伐採されていた。二時間も歩けばまだ大量にあるが、村で消費する分がどれほどかで、将来の売り物となるかは違ってくる。ついでに森を回復させつつ利用する知識がないといけないので、適した木材だからと伐採の話だけ持ちかけることも出来ない。
「豚もいいが‥‥トナカイの放牧のほうが冬場は楽だろうな。経験がある者がいればいいが」
ヴィクトルも牧畜に詳しくはないが、妻が調べた植生に適した動物は考えている。けれども家畜よりはスクリーマーがすぐに取り掛かれる作物だし、育て方を心得ている者もいるのだから、そちらの首尾が気になるところだ。ちなみに彼自身、シフールの長老と話をしてみたのだが、『住んでいいというまでは教えない』と頑張っている。村のエルフの一部も、違う種族と一緒に住めるのかと頷かないようだ。
今までは、村の敷地に隣り合わせで住むという考え方でいたからゆえ、ウォルターの提案は双方ともに魅力的だった。どちらも日常的に助け合える隣人である分には問題ない。
後はウォルターがシフール達の気に入る土地を見付けてきていれば、話が進みやすいが、これがなかなか元通りのものとはいかない。けれどもシフール達もまったく同じでなくてもいいと思っている。
「北の方角に、少し伐採すれば村の中心と道を繋ぎやすい場所がありました。周辺の木々の様子からも孤立せず、でも大型の鳥は寄り付きにくいので、よい場所でしょう」
家をどういうものにするかはさておき、場所はウォルターが動物の襲撃を受けにくそうで、周辺に警戒の仕掛けをするのも容易いところを見つけてきた。後は他の人々が見て、別の目的に転用するほうが適しているのでなければ、本決まりだ。
薪を下ろしながらの話はそこまでで、村に残っていた人々も集まっての報告会になった。先にイリーナやクセニアがやってきて、簡単に話を聞いている。
それからシフールの長老やら、村人の主だった者がぞろぞろと集まり、日が暮れきらないうちにと報告がどんどんと進んだ。
「ここまで、わかりましたか」
「おう。家を作って、住んでいいんじゃね?」
「食料の作り方を言うのが先じゃろう」
「この年寄りは、どうして冷たいことばっかり言うんだい!」
皆が調べた内容をユーリーが解説すると、移住に難色を示すエルフが口を挟む。双方がやいのやいのと始めたら、ユーリーが止めても聞かず、
「時間もないのに、騒いでどうしますかっ!」
クセニアに怒鳴られた。
「頭ごなしになり過ぎないように配慮はしておいでと見るが、相手はご老人ゆえ」
「あの二人は、やれ自分の要求が先だと繰り返して喧嘩をするのですよ。この間二度と喧嘩はしない、話し合うと約束していたので、怒りました」
そういうことならとヴィクトルは納得した。怒鳴られた二人は、それぞれ村人達から『また怒られた』と言われてむくれている。
「頑固老人二人ってところよね。その内に茶飲み友達になれるんじゃない?」
リュシエンヌの言う通りかも。
その頑固老人二人に捕まって、右と左からああだこうだと言われ始めたウォルターには別の意見があったろうが、彼は老人の話を振り切って立ち去るような性格はしていなかった。つい聞いてしまう。
その内に日が暮れて、続きは明日となった。
それからは調査の内容を元に、リュシエンヌは畑と放牧地に転用可能な土地を確かめて回った。途中一日は、木材の運搬をウォルターとイリーナと一緒に馬四頭を連れて手伝っている。力仕事は男性陣がやるので、女性二人は主に馬の制御が仕事だ。
放牧はどの家畜にするかでも違うので、場所だけを選定。さすがに短い日程では伐採までは手が回らなかった。
ゆえにリュシエンヌは予定地を決めて、植える作物も検討して、村人に色々と教えておく。ウォルターは獣避けの罠に転用できるような仕掛けを幾つか教えて、代わりに村人達が長年使っていた狩りの罠などを聞いてもいた。相談して、改良するには双方時間がないが、知識としては多少蓄えられただろう。イリーナは木工品を作れるかどうかを確かめていて、あまりに実用一辺倒の村人達の腕前に商品化への道のりを考えている。
「その内に希望者がいれば、領内のどこかの職人に弟子入りしてもらいますよ」
話を聞いたユーリーは、毎朝イリーナに鍛錬の相手をしてもらって生傷を増やしつつ、にこにことしている。村の中では弓の腕で上の中の立場だが、騎士なので剣の鍛錬を怠らないことにしたらしい‥‥上達の道は遠いが。
そういう間にヴィクトルは布教活動の手伝いを行っていた。子供を集めて、聖書に出てくる話を聞かせたり、村人達の仕事の合間に大いなる父の教えを語り聞かせたりするのだが、一番は冠婚葬祭の約束事を若者に叩き込むこと。アルドスキー家の下に出稼ぎに出ている若者達がそうしたことに疎いので、あちらの兵士や使用人とぎくしゃくする事があるためだ。
「どうやったら見える?」
「見るのではなく、感じるものだ」
でも、大いなる父を見たいと平然と言うあたりで、色々と不安が募るヴィクトルだった。自然と教え方にも熱がこもる。
ちなみにこのあたりの反応は、シフール達も同様だ。ウォルターのところに『見えないものを信じるって変』などど、とんでもない愚痴を言いに来たりする。
「精霊も見えないことが多いけれど、そちらはいると知っているのでしょう?」
神はその精霊達よりも至高の存在なのだと、ウォルターも言い聞かせている。
「じゃあ、今夜はジーザスの奇跡の話にしましょ」
リュシエンヌは三日目の夜から、皆が寝る前のひと時に歌やオカリナの演奏を提供していたが、夫が苦労しているのを知って、得意分野の語りと歌で応援を始めた。
神聖騎士のイリーナは説法ではなく、天使の人形を作るのに駆り出されていた。ユーリーの『天使様』の手直しにしていたら、本物の天使様らしい人形も作るようにと頼まれたのだが。
「どうして、この天使は髪の色が茶なんでしょう?」
大抵の宗教画では天使は金髪だろう。そしてエルフが大半の村でなら、彼らの髪の色に合わせたほうが馴染み易かろうが。
「ノモロイ村の天使、あれの話は事前に聞いていましたけれど、どう見ても魔物でしょう? 異端審問に掛けられかねないと一週間ほどなぜあれが天使に見えるかと追求しましたら」
十日掛けて、ユーリーが物心付いた頃からの人生を語り始め、取り留めのない話をまとめると『養父や母に似た天使は怖い』という訳で、髪の色は茶。その内に金色の髪も作る予定だが、その色糸もないのでまだ先だ。
「では、彼はあなたを母のように慕っているのでは?」
「姉でしたら、許してあげましたけれどね」
クセニアはにこりと笑うが、言うことは優しくない。イリーナも会話の糸口に迷っているうちに、その話はそれきりになった。クセニアも何か言い出させるような雰囲気は作らない。
細々とした仕事を重ねて、明日の昼前にはキエフに向かわねばという日になって、
「この村に居つくなら、今日のうちにお話していただかないと」
「記録を取りたいのでな。それがあれば、皆の苦労が減るやも知れん」
ウォルターとヴィクトルがシフールの長老を説得して、ようやくスクリーマーの菌糸をユーリーに譲り渡してもらった。植えつける場所はシフール達がすでに見付けていたので、そこに行って、植えてもらう。
「人に話をするときは、相手がちゃんと分かる速さで話せ」
「字の書き方は、クセニア様に習ってね」
育て方の覚書はヴィクトル一人では手が足りないので、イリーナとリュシエンヌも一緒に書き取る。シフール達が複数でわいわい言うので、その整理も大変だ。
それでもなんとか育て方の覚書が出来て、収穫された後の加工方法も皆が知る限り書き足され、これをもとにユーリー達がアルドスキー家と先の相談を進めることになった。家と倉庫の完成図面もイリーナに書いてもらい、こちらも作り始める手筈を整えている。
ほとんどはアルドスキー家との物品でのやり取りゆえに金銭の動きがなく、挙げ句に現金の取り置きもない村から、帰り道に食べてと食料を差し出されたのは村人からの素直な感謝の表れだろう。