ぽいずん・糖度
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月13日〜12月18日
リプレイ公開日:2004年12月19日
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●オープニング
ドレスタットの港の近く、船乗り相手の小さな酒場が軒を連ねる一角に、『竜騎亭』という店があった。
名前は勇ましいが、店主は二十代もようやく半ばの人間の女性。店が広くない上に、ほとんど常連しか来ないものだから、基本的に一人で切り盛りしている。
はっきりきっぱり、たいして流行っていない店だ。
「おう、姐さん、久し振りだな」
「あらぁ、いらっしゃぁい。えぇとぉ、イぃギリスぅのぉ、んぅとぉ」
「もう二年のお付き合いだから、早く思い出してよ」
流行らない理由は幾つもある。
まず、綺麗どころが不足している。店主のディアヌはちょっとぽっちゃりしているが、顔立ちは愛嬌があって、腰回りはほどほどにくびれている。胸回りは眼福の極みと評した客がいるほどだ。要するに見た目は悪くない。でも、店には彼女一人しかいないわけで、しかもディアヌには船乗りの旦那がいる。
そして、このディアヌは気立てもいいのだが、誰もが一度話したら忘れられないほどに、話すのがとろくさかった。他人の三倍も四倍もかかる。挙句に、話し好き。気の短い男は、これだけで嫌になってしまうようだ。何ヶ国語も話すのだが、何語でもとろくさい。
更に、彼女は人や船の名前を覚えるのが苦手だった。顔は一度見たら忘れないし、『いつ、どこで会った、どこの国のどんな仕事の人か』は言える。しかし名前を思い出すのに、滅法時間が掛かった。よその酒場の姐さんに『それで客商売か!』と怒鳴られたこともあるらしい。
そういうわけで、どうにも流行らない『竜騎亭』だが、家庭料理のくせに盛り付けがやたらと綺麗な酒の肴の数々と、どういった伝でか仕入れてくる様々な酒のおかげで潰れないで済んでいた。常連客の大半は、ドレスタットに拠点を置くか、定期航路便に乗り込んでいる船乗りだ。その中でも、結構気のいい男ばかり。
ただ、その気のいい男たちが唯一額に青筋を浮かべたり、苦笑したりするのが‥‥
「あのねぇ、この間のぉねぇ」
「帰ったぞー」
「あっ、あぁなぁたぁ」
このディアヌ、旦那が帰ってくると話し振りとは正反対の素早さで、店のカウンターから飛び出してしまう。熱烈(でもとろくさい)挨拶と、熱烈な抱擁と、熱烈な‥‥
「兄貴の注文は、えーと、エールだっけ?」
「よんじゅうきゅう、ごぉじゅうっ。よし、俺の勝ちだな」
「まったく、お熱いなぁ」
要するに人目もはばからず、二人の世界に突入してしまうのだ。
常連客は慣れていて、勝手にカウンターに入って注文をさばいたり、『本日のお熱い時間がどれだけ続くか』を賭けてみたり、面白がって眺めたりと色々だ。敬虔なジーザス教徒や、単に血の気が有り余った船乗りには目の毒なので、なかなか新しい客がつかないのが『竜騎亭』だった。
まあ多少問題はあるが、ディアヌはのほほんと店を切り盛りしていたのだが‥‥
ここで、場面はようやくドレスタットの冒険者ギルドに移る。
ギルドのカウンターの前で、しくしくと泣いているのは『竜騎亭』のディアヌだ。ただでさえとろくさい話し振りが、泣いているものだからとろくささ倍増。
「それでぇねぇ、あのねぇ、おじちゃぁん」
「ええい、二十四にもなって、子供みたいにしゃべりおって。ちゃきちゃきと用件を言え」
「‥‥おじちゃんがぁ、怒ぉったぁ」
係員のドワーフの男性は、ディアヌを良く知っていた。それで要領のなさを叱り飛ばしたが、かえって時間を食っている。
この泥沼状態から要点だけを的確、かつ簡潔に抜き出すとこうなる。
『竜騎亭』は港の中でもドラゴンに襲撃された倉庫のある辺りに近い。そのドラゴン騒動が収まった途端に今度は怪しげな連中が現れたのだ。どうも、開港祭前に討伐された海賊の残党ではないかと思われる。
なぜかと言えば、そいつらは海賊船から押収された積荷の収められた倉庫を探している様子で、『竜騎亭』に現れたからだ。ディアヌの旦那はダカンと言い、騎士団の船の乗組員である。
そのダカンはちょうどパリに出向いていて、まだ六日ほど帰らない。それを聞いて、連中は出直してくると立ち去ったが‥‥
「その時にぃ、『領主が留守なんだから、あれはこの港から動いてないはずだ。略奪品の品定めをしないはずはねぇ』ってぇ、話してぇたぁのぅ」
ドレスタット領主は、現在海賊討伐の後始末で街を留守にしていた。押収品の確認は、おそらく多忙でまだだろう。
その押収品を狙っているとしか思えない連中の言葉に、話し振りがとろくさくても頭の回転は悪くないディアヌは、慌てて冒険者ギルドに飛び込んだのだ。
依頼内容は、五日後からその連中が現れるまでの間、店の用心棒をしてほしいというものだった。自分が人質にでも取られたら困るとか、色々考えたらしい。
ちなみに。
「それなら、騎士団に連絡せにゃならんだろう!」
と、至極まっとうなことを口にした係員に、ディアヌはこう言ったそうだ。
「でぇもぉ、騎士様がぁ来たぁらぁ、目ぇ立つぅのよぉ」
確かに港の酒場に騎士がいると、非常に目立つだろう。ダカンの仲間は騎士団の騎士の顔を見知っているから、店の中がギクシャクしても相手に待ち伏せを気取られる可能性がある。
「ご領主様ならぁ、とぉっても歓迎しちゃぁうけぇどぉ。うふ、鑑賞よぉうのイイ男ぉねぇ」
「金を置いたら、とっとと帰れ。旦那に言いつけるぞ」
この後、係員は延々とのろけ話を聞かされる羽目になったという。
しかも。
「誰だっ、掲示板に酒場の宣伝なんぞ張られて気付かない奴は! しかもこれ、綴りが四箇所も違うぞ!」
店の名前を伏せての用心棒募集の羊皮紙を張った横に、『竜騎亭』の宣伝が書かれた布を張られたことに気付かず、これまた延々と説教される羽目に陥っていた。
●リプレイ本文
●ドレスタットの騎士団は
依頼人の竜騎亭店主のディアヌが頷いたので、ブノワ・ブーランジェ(ea6505)は騎士団詰め所まで出向いていた。竜騎亭に現れた海賊残党らしき連中の通報のためだ。が‥‥
「そっちが店、こっちが倉庫の警備といこう」
通報したのだから、海賊残党の狙う押収品の場所を教えてはもらえないかと持ちかけたのは、あっさりとはぐらかされた。わざわざ自主的に警備用の人員も準備したのだが。
ではせめてと、押収品の検分を早めるようにとブノワが申し出たところ。
「大将が、予定通りに帰ってこねぇから」
なぜか、深々と嘆息された。これには、連れと顔を見合わせるしかないブロワである。
●竜騎亭 作戦会議の図
ブノワの報告に、依頼を受けた大抵の冒険者は首をひねったり、不満気な顔をしたのだが、一応ディアヌが解説をしてくれた。
「エイリークさまがぁねぇ」
しばし後。
「つまり、押収品は警備の都合で部外者に教えられなくて、検分は領主のエイリークさんが戻らないと始められないんですね」
長い解説をリセット・マーベリック(ea7400)が短くまとめる。彼女は臨時雇いの接客係として、いつもの服の上にディアヌに借りた前掛け姿だ。同様に接客係に成り済ました空魔玲璽(ea0187)が、それを紅天華(ea0926)に華国語で伝えている。ディアヌを通すと長いので、空魔が通訳するのが早道だ。
残るノルマン出身のシフール、ダージ・フレール(ea4791)はもちろん、それぞれフランクとイスパニア出身の人間ジン・クロイツ(ea1579)とシエロ・エテルノ(ea8221)もゲルマン語は話せるので話の通りは良い。シエロなど、ディアヌからの情報収集は早々に諦めて、常連客から店に現れた際の不審者の様相を尋ねていたくらいだ。
この案は非常によろしかったので、天華も含めた全員が常連客との会話で色々と聞き込んでいた。常連は船乗りばかりとなれば、各国語に通じた者もいなくはない。
ただ、笑ってしまうほどに簡単に。
「見るからに荒っぽい風体の奴ら」
と言われて、ダージが呟いた。
「分かり易くていいですけど、そんなにむさくるしいなんてサイアク〜っ」
いかにも育ちの良さそうなシフールが言うと、こんな台詞でも妙に華やぎがある。更に彼は美容の話題も好きなのだが、ディアヌのあのしゃべり方は、付き合うだけ疲れる。よって、こちらも早々に別の話題に移った。
ちょうど、ドラゴンの話を皆がしていたことでもあるし。
『ドラゴンが探しているものとは、いったいなんであろうな』
『なんだ、知らないのか。契約の宝物だぞ』
天華が振った話題に、常連客の一人が答える。今回はイギリス語だ。それを耳にした空魔が、ちょっとむっとした顔になる。
ドラゴンに殺されかけた身としては、当然の反応だろう。だが他の者には言葉からしてよく分からないので、冒険者の何人かが何事かという顔をした。ついでにリセットは、やたらと大量の料理が盛られた皿を運んでくれないかなと目で訴えてもいる。
「で、結局はなんだって?」
「ドラゴンの捜し物が、なにか契約の宝だそうだ。酒場でも誰かがそんな話をしてたかな」
肴をつまみながら、酔わない程度の酒を口に運んでいるジンの問いかけに、シエロが答えている。ドラゴンが大量にドレスタット周辺に現れた時期の依頼で、ドラゴンから直接そう聞いた冒険者がいるらしい。もちろん魔法を介しての会話だが。
では『卵ではない』との会話も、それに関したことだったかとジンが思い返していると、ごく普通の船乗り風の服を着たブノワが嘆かわしいと声にした。
「誰がどうやってかは別として、ドラゴン族の宝を奪う輩がいるとは。騎士団も、もっと動いてくれても良さそうなものですが」
押収品とやらにその『宝』が入っている可能性があるのなら、速やかにそれを見つけ出してほしいものだ。との意見に頷く者は冒険者に限らなかったが‥‥
ディアヌが例の調子で口を挟んだ。
「だぁめよぉ。だあってぇ、エイリークさまぁがぁいなぁいんだぁもぉのぉ」
聞いているうちに、慣れない冒険者一行の中には言われていることがなんだか分からなくなってきた者もいる。
「もーちょっと、ちゃっちゃっと話さんかいっ!!」
空魔の言葉は、店の全員から賛同の頷きを得たが‥‥肝心の本人はまるで心外なことを言われたようにぷーっと膨れている。あげくに、空魔が運ぼうとしていた大きな皿の上に、酒の入った杯を乗せた。
接客業の経験などない相手に、無体な仕打ちである。それでもリセットが、彼の通る通路から素早く卓の間に飛び離れてくれたから、なんとか運びきれたが。
「そんなに膨れるとお客が逃げますよ〜」
ダージがふわふわと飛びながら、ディアヌの頬を突いている。まだ面白くなさそうな顔をしているが、注文が増えたので空魔を苛める暇はなくなったらしい。
その注文の大半は、見兼ねた常連客達とジンやシエロが頼んだものだ。一人、天華だけはごく素直な自分の欲求に従って、食べたいものを頼んでいたようだが。
『平和なうちに、色々と食しておかねば』
言葉が通じる相手の限られる彼女は、そのために空いてしまう時間を今回の報酬であるところの食事に費やしていた。もちろん接客の手伝いをしている空魔とリセットも時間はずれるが食事に不自由はしないし、ブノワの連れもご相伴に預かっている。
この連れは日中、どうも倉庫街をふらふらと飛び回っていたようなのだが。
常連客も、また冒険者達も警戒する相手がダカンが戻らないうちは出てくるまいと思っていたので、依頼内容からすれば珍しくも落ち着いた一日が過ぎていく。
そしてそれは、作戦会議には十分だった。
●故に今更のこと
ところがその翌日、ディアヌには大事件が起きた。
「おい、注文が来てる。おーい」
「仕方ありません。お手伝いしますから、ほら、泣かないでください」
この日の夕暮れには戻るはずのダカンの乗った船が、どうやら二日ほど遅れるようだと連絡があったのだ。同じくパリ方面からの船が、途中の入り江で停泊しているダカン達の船から伝言を預かって来たから間違いはない。
おかげでディアヌは開店から泣き通し、ブノワが酒や肴の切り盛りをしていた。空魔とリセットは昨日に増して働いている。
そんな中、実はイギリスの魔法学校でドラゴンの勉強をしているのだと言う天華が、イギリス語で布きれに前日聞き集めたドラゴンの情報を書き付け終わる頃に、問題の五人組がやってきた。
出入り口に一番近い、寒いので人気のない席に陣取っていたジンとシエロが、鎧戸の向こうに人の気配を感じたのが最初。どやどやと入ってきた五人は、時間が遅いのに店の客が九分通り入っているのを見て、少々顔をしかめた。それだけで、冒険者にもこの一団が問題の奴らだと分かる。
一応、昨日はディアヌと『奴らが現れたときの合図』など決めていたのだが、本日は何の役にも立たない。ディアヌは夕方からまったくの役立たずだからだ。彼女の脇に着いているダージが表情を伺ったが、ディアヌはやはり自分のことに忙しいらしい。
とはいえ、相手はそんな様子に頓着せず。それがまた、常連ではないことを伺わせた。
空魔が一つだけ空いた卓を指したが、座ったのは三人だけだ。残る二人はディアヌがいる店の奥に入ろうとして、わざとうろうろしている空魔とリセット、椅子が通路に迫り出した天華が邪魔で果たせない。
そして、室内だが羊の毛を編んだ帽子を被ったままのブノワが、穏やかに注文を問う。カウンターの中に入っているので、怪しげな一団には彼がダカンに見えたものらしい。
背は高いが細身で、腕も細い彼を船乗りのダカンと間違えるとは目が腐っていると、これは後で常連が零した言葉だ。
「あんたにお願いがあってきたんだがね」
確かに所々に聞き取りにくい発音が混じった話し方で、男の一人が愛想笑いを浮かべた。名前ではなく『あんた』と呼ばれたので、ブロワもそうですかと応じている。
興味津々といった感じで、ディアヌの横から男達の様子を眺めているダージを横目に、愛想笑いを浮かべたままの男が用件を切り出した。やはり騎士団の船か、関係するところでの下働きでも出来るように、仕事を紹介してほしいというものだ。
適当に答えて、出来れば穏便に外に連れ出してくれよと、乱闘要員の空魔もシエロもジンも思い、リセットはカウンターの中に隠した弓矢を取り出せる位置に移動した。
天華が何事か呟いているのは、男達が華国語とイギリス語に反応するかどうかを試しているのだが、どちらにもすぐの反応はないようだ。船乗りは挨拶程度ならあちこちの言葉を理解する者も多いが、『ドラゴンが云々』は通じなかったらしい。
そこまでのことを、皆が悟ったのは良かったが‥‥
「明日か明後日か、ちょっとばかり付き合ってもらえるとありがたい」
「やーっ!」
これは、ディアヌである。
「‥‥いや、姐さんじゃなくて旦那にだよ」
「このお人が船乗りに見えるか、ど阿呆! 盗人に売る酒なんかねえからな!」
聞いてないと呟いたのは、冒険者の誰だったか。常連客達が揃って『爆発した』と口にしたところを見ると、ディアヌもたまには素早く話せるらしい。
どちらにせよ、接客業の人間の口調ではない。性格も変わっている。肉きり包丁を取り上げたので、ブロワが手を押さえた程度に。
まあ、ここまでされれば元海賊であろう連中が黙っているはずもないのだが、彼らが来たときからうずうずしていた空魔もじっとしてはいなかった。問答無用で、目の前にいた一人を殴り倒している。
『店の中を荒らすのは良くないだろう』
天華が足下に転がった男を、外に向けて足で押し退けている。隣の席の常連も付き合ってくれたが、それより先に相手が起き上がろうと彼女の足に手を伸ばしかけて‥‥
『おや、悪心なき者には効果のない魔法だが』
常連客に顔を蹴られた上、天華の『ブラックホーリー』を浴びて失神した。結構むごい真似をした天華が、そううそぶいたときには残る男の数がもう一人減っている。
「全員封印して、港に沈めてもいいんだよ?」
常連客の驚愕の視線を一身に浴びて、ダージが微笑んでいる。男達の一人が氷漬けになっている光景とあわせると、昨日の可愛らしいシフールの印象は消し飛んだことだろう。
この間に、気を抜かれた体の残り三人を、シエロとジンと空魔の三人が引き摺りだし‥‥かなり一方的な展開になっていた。ジンは迷わずにダガーを抜いて威嚇したし、空魔はいつのまにやらナックルを両手に装着していた。シエロも縄ひょうを取り出して、オーラまで使っての攻撃っぷりだ。
相手の一人がジンに釣られてダガーを抜いたが、リセットは加勢の必要なしと、矢をつがえなかった。それほど一方的である。
縛り上げた後の、彼らの行動も早かった。
「一人港に沈めたら、話してくれるかも」
『呪文ならまだ使えるが』
「矢の準備は完璧です!」
口々に物騒なことを言う冒険者に囲まれて、失神と氷漬け以外の三人は縛り上げられて尋問されていた。
「ドラゴンとやり合うのに経験が必要だから、もうちょっと殴ってみるか」
それ以上、まだ殴りたいのかとシエロに視線で咎められた空魔の台詞で、元海賊の口が割れた。もしかすると、ジンも驚いたブロワのナイフ所持が利いたのかもしれない。
結局のところ、この元海賊達は収穫祭前に退治された連中の残党に間違いなかった。たまたま別行動で陸にいたため捕縛されずに済み、だ捕された船に積まれていた物品がドレスタットに運び込まれるのを目撃したらしい。
「あの中に、お頭達が目の色を変えてた宝があったんで、それを狙ってた。本当はうちのお頭の物じゃなかったんだが」
ちなみにこいつらは、その『お宝』がどのようなものかは知らない。ただひときわ頑丈な、装飾のある箱に入れられていたのは確かなので、まずは押収品の入れられた倉庫を探していたらしい。ダカンに目を付けたのは、単なる偶然のようだ。とりあえず、そういう話である。
その『お宝』を手に入れたら、どこかに高飛びする予定だったと言うが‥‥まあ、こんなにあっさり捕まる連中がそれほどのことを実行できたとは、誰も思わなかった。
と、そこまで聞き出したところで、騒ぎを嗅ぎつけた騎士団が駆けつけたので、尋問はおしまいだ。ブロワの連れ曰く、騎士達は周囲の店から飛び出してきたそうだ。一応、見張っていたのかどうか。
●その翌々日
騎士団はもちろん捕まえた元海賊のことを連絡などしてくれないので、その後何を白状したか分からないでいる冒険者一行だが、帰ってきたダカンには会うことが出来た。ついでに噂の熱烈な挨拶その他も見学した。
「やれやれ、目の毒だよ」
「良き家庭を持つのも我らが貴婦人の教えです。辛口がお好みでしたね」
すっかり酒蔵管理の代行になったブノワが、シエロの杯にワインを注いでいる。自分には産地も限定の一杯を。今日はお客の空魔とリセットも、それぞれに好きな飲物を手にしていた。ジンはダージとブノワの連れに混ざって、シフール語会話に磨きをかけ、天華は今日は料理の作り方を書き取っている。
そんな彼らに、ダカンは現金報酬を出してくれた上で、でもつれないことを言った。
「騎士団の話は言えねぇよ。そんなことしたら、エイリーク様に顔向けできねぇからな」
『エイリーク殿は、海賊にも有名なのか』
固有名詞に反応した天華の問いかけに、夫婦はゲルマン語と華国語で答えた。
「有名だろ。もとはあの方も海賊だし」
『前はぁ、海ぃ賊だぁったのぉう』
それを聞いて、ああそうかと思い出した者と、初耳だと思った者とで、それはもう顔付きが違っていたらしい。
でも大半の者が、この日は気持ち良く祝杯を上げていたようだ。