おおかみがでたっ!
|
■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月14日〜06月20日
リプレイ公開日:2004年06月22日
|
●オープニング
その村は、昨日までとっても平和でした。
でも今日になって、とっても大変なことになっています。
「狼が出たらしいぞ」
「放牧している羊が食べられてしまう」
「早く集めに行って、狼から守らないと」
「でも、もし俺らが狼に遭ったら‥‥」
「「「「大変だー!」」」」
とっても平和な村だったこの村は、羊やヤギをたくさん飼っていて、乳やその加工品、羊毛に時々お肉を行商人さんに買ってもらって生活しています。他に、畑も作っています。麦とか野菜、ちょっと果物なんか。
今の時期は、羊は歩いて一日掛かる放牧地で、のんびり草を食べているところ。ところが、困ったことに村の近くに狼が出るようなのです。早く羊を集めて安全なところに移さないと、みーんな食べられてしまうかもしれません。
なんて大変なことでしょう!
村の人たちは、とっても困ってしまいました。羊を集めに行かないといけません。でも狼に遭ったら、自分たちが危ないのです。
あんまり困ってしまって、みんなで村の中をうろうろ、うーろうろ。先の戦争が終わって、みんなでここに村を作ってから、こんなに危険なことははじめてです。
「と、とりあえず武器を持って行ってだな。みんな、家に何かあるだろう」
「ええと、牧草刈りの大鎌なら」
「薪割り用の斧でも大丈夫かな」
「それだと、狼に近寄らないとダメだろ?」
「「「「うわー、どうしようーっ」」」」
でもでも、困っているばかりではいけません。早くしないと大事な羊が狼に食べられてしまいます。
ああ、いったいどうしたらいいのでしょう。セーラ様、おしえて。
悩んでしまった村の人たちは、教会の白クレリックさまに相談に行くことにしました。白クレリックさまは物知りなので、きっといい案があるに違いありません。
「こういうときは、いわゆる冒険者に頼んでみるのがいいでしょう。でも、お礼をしないといけませんよ」
さすがは白クレリックさまです。村の人たちが考え付かなかったことを、すぐに教えてくれました。
さっそく、村の若い人が冒険者の皆さんが集まる酒場に出掛けました。すぐに来てくれる人が、集まるといいのですけれど。
そうして村では、いろんな準備が始まります。
「向こうの丘まで行くのに一日掛かるから、弁当はぁ」
「冒険者の人が来たら、まずはご馳走してあげなきゃ悪いだろ」
「酒、酒、酒、酒が飲めるなー」
「よその国の話が聞けるかなぁ。果物あげたら、聞かせてくれるかな?」
「「「「うわー、いそがしいー!」」」」
きゃわきゃわ、うろうろ。
わいわい、とっとことっとこ。
とっても大変なことになっている村は、とっても忙しくなっています。
早く羊を安全なところに集めて、狼を倒して、村を元の平和なところに戻して欲しいのです。
「冒険者の人に、急いで来て欲しいんだよー」
おねがい、誰か助けて。
●リプレイ本文
狼が出て困っている村に行ってくれる冒険者の人は、全部で九人いました。冒険者ギルドにやってきた村のドワーフの人は大喜びです。でも一つだけ、困ってしまいました。
ナイトのオフィーリア・ルーベン(ea1845)さんとバードのアスティナ・クロスハート(ea1785)さんはノルマンの人なので問題ありません。
でも、ファイターのキアラ・アレクサンデル(ea2083)さんはイスパニアの人だし、そのお連れのエル・サーディミスト(ea1743)さんとギルツ・ペルグリン(ea1754)さんはビザンチンの人なのです。キアラさんのお連れでも、シフールさんだからエルさんの親戚でもないけど名前の似てるエル・カムラス(ea1559)さんもビザンチンから来たと言っています。
こちらはキアラさんたちのお連れのラマ・ダーナ(ea2082)さんは、インドゥーラのジャイアントさんです。更にフランクの人のマリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)さんはエルフの人でした。ほかの人たちは、みんな人間さんなのですが。
「よその国の言葉なんか、わかんねえよお」
「心配なさらないでください。ちゃんと言葉のわかる方もいますから」
にっこり優しい笑顔の白クレリックさまのウェルス・サルヴィウス(ea1787)さんがこう言ってくれたので、村の人は安心しました。なんとアスティナさんとエルさんは、いろんな国の言葉がいっぱい話せるんだそうです。
「簡単にですけれど」
「今回の仕事には困らないはずだよ」
なんて、素敵なことでしょう。ちなみにこのエルさんは、エル・カムラスさんではありません。
「僕はラスって呼んでよね」
分かり易くていいことです。
さあ、村に向かって出発しましょう!
さて、一日と半分歩いて村に到着しました。
村の白クレリックさまと村長さんにご挨拶します。狼の話も聞かなくてはいけません。でもなんたって、ご挨拶は基本なのです。知らない人に会ったらこんにちわ。これが言えないと、怪しい人になってしまいます。
冒険者の人たちはもちろん怪しくないのですが、全員で押しかけるとびっくりされるので、ナイトのオフィーリアさんとギルツさんが、代表でご挨拶に行きました。
「狼が五頭か。これだけの人数なら、十分対応できるだろう」
「おおっ、なんてありがたいことだっ」
「しかしながら、護衛も皆さんのご協力があってのことですから」
「村の皆さんに、よく言っておきましょう」
ナイトのお二人が、慌てず騒がず冷静に、礼儀正しく、ちょっと偉そうにお話したものですから、村長さんと村の白クレリックさまは安心しています。最初は若い人ばかりで心配そうだったのですけれど、今はにこにこ顔になりました。
その間に、ほかの人たちは村の皆さんにいろいろ話しかけられていました。言葉が分からない人もいるのですが、たいていは子供たちなので気にしません。
特にラマさんはむっつりと黙っていても、子供たちが寄ってきては背中に張り付いたり、腕にぶら下がったりとじゃれつきます。ラマさんが怒らないので、もしかしたら村中の子供たちが集まってきたかもしれません。
「‥‥」
さすがにラマさんも困っているのですが、冒険者の人たちは誰も気が付きませんでした。
だって、みぃんな忙しかったんですもの。
「東に一日歩いて、そこが羊の放牧地なのね。集める羊は何頭くらいいるのかしら?」
マリトゥエルさんは、村のエルフの少年たちとお仕事の話をしています。村のエルフの少年たちは、みんな大人一歩手前の男の子。村の広場に椅子を出して、それに座ったマリトゥエルさんの回りにいるのです。
「あのね、何頭集めたらいいのかしら?」
「えっと、この丘には百頭くらいかな。な?」
「そ、そうだな。こっちの丘は百五十頭」
エルフの少年たちは、もしかするとマリトゥエルさんを眺めて喜んでいるのかもしれません。みんなで押し合いへしあい、誰が一番近くに陣取るかでこっそり喧嘩をしています。
でも、そんなことに気付いていないマリトゥエルさんを、エルさんとキアラさんが眺めています。二人は羊の居所を確かめるのはマリトゥエルさんにお任せして、お夕飯の準備を手伝っているところでした。
「狼って、退治しなくても追い払えばいいんだよね? すぐに済むといいなぁ」
「えー、狼飼いたいよー」
まだ悪いことしてないんだから、殺さなくてもいいじゃない。エルさんとキアラさんは、小さい声でそんなお話の最中です。あんまり大きな声で言うのは、村の人たちが驚いてしまうといけないから。
ところで、エルさんの前の野菜の煮つけはさっきから煮えているのに、塩が上手に計れなくて味付けが出来ません。摺り切り一杯が、きれいにいかないんだそうです。
「そんなの、ひとつかみでいいんだよ」
「あーっ!」
キアラさんがぽいと塩を入れてしまったので、エルさんは固まってしまいました。
そんなエルさんの後ろを、なんだかとってもいい気分なラスさんが、ふらふらと飛んでいきます。途中でかっくんと落ちそうになったのは、もしかするとお酒を飲んでいるからかもしれません。まだ十三歳なのに、なんていけないことでしょう。
だけど、そんなこんながあっても、お夕飯は普通に始まったのでした。明日は朝早くにおでかけなので、今日はごちそうではありません。村長さんは、とっても申し訳なさそうです。
「パリでは、これほど新鮮な果物はとても口に出来ません。それだけで、ありがたいことです」
「わたくしもそう思いますわ。それにここまでの食事もお世話になってますし」
ウェルスさんが穏やかに言えば、アスティナさんはとっても嬉しそうです。保存食を食べずに済んで、よく話に出てくるお姉さんにおみやげを買うお金が貯まると思っているのでしょうか。ほかの冒険者の人も、お夕飯に文句のある人はいませんでした。
なにしろパンと野菜の煮つけ、ほんのちょっぴりだけど塩漬け肉を焼いたもの、山羊の乳と麦のお酒、さっきもいだばかりの果物があるのです。これで文句を言ったら‥‥
「これほどお世話になって、かえって申し訳ありません。全力で仕事を努めさせていただきましょう」
難しいご挨拶の好きらしいオフィーリアさんに、怒られてしまいます。
さあ、お夕飯を食べたら、明日に備えて早く寝るのです。バードの皆さんはちょっとくらい歌いたかったのですが、それはお仕事が終わってから。
「最近、西の最果ての島から世界中に旗を立てて、領地だって言い張ろうとしてる人たちがいるんだって、お話したかったのにー」
ラスさんが泣いても、もう寝るのです。
では、おやすみなさい。
おはよーございますのご挨拶をしたら、もうおでかけの時間です。お弁当は、昨日作ったお料理から、傷みにくいものを持っていくのでした。
「お弁当作りたかったなぁ」
「お手伝いしたかったなぁ」
キアラさんとエルさんは、人差指をくわえて残念がっています。だけどとっとこ歩かなくてはいけません。なぜって、村の人は歩くのが早いんです。一生懸命歩かないと、置いていかれてしまいます。
冒険者の人たちも、歩くのが嫌な人はいません。ラスさんみたいに、飛ぶほうが得意な人もいます。とにかく移動するのに、文句を言う人はいないのでした。なにしろ、そういう今回はお仕事です。
「こ〜の〜広〜い世界の〜」
アスティナさんは、陽気に歌い始めました。ラスさんが口笛で、マリトゥエルさんがハミングで調子を合わせています。
そんな楽しそうな歌を聞いていると、みんなも元気になってきて、ずんずんずんずん歩いていきます。
そうして夕方より少し早くに、羊さんたちのいる丘に着いたのでした。ここまでは狼も出なくて、とっても良い感じです。
「聞いた話では、狼は大きな一頭とほかに四頭だそうよ」
「狼って夜行性なんでしょ? 今のうちに羊を集めて、明日の朝早くに移動開始が襲撃を避けるにはいいんじゃない?」
マリトゥエルさんとエルさんの話を聞いて、村の人たちも冒険者の人たちも、こっくりしました。夜に歩き回るのは危険です。それに狼も恐いのです。
そういうわけで、明るいうちに羊さんを集めることにしました。こっちの丘とあっちの丘に別れた羊さんを集めるのに、村の人たちも冒険者の人たちも二手に別れることにしました。
こっちの丘は羊さんが多いので、オフィーリアさんとマリトゥエルさん、ウェルスさんにアスティナさん、ラスさんの五人と村の人たちが三人でお仕事します。バードの人が多いですけれど‥‥
「私以外は魔法が使えるし、遠目も利く。白クレリック殿もいれば、私も戦うのに不安がない。万が一にもそちらに危険はないから」
オフィーリアさんが平然としているから、村の人たちは安心して羊さんを集めています。ウェルスとんラスさんは率先してそれをお手伝いしていて、アスティナさんは歌いながら羊さんを追いかけています。
だけど周りを見張っているマリトゥエルさんは、ちょっとドキドキしていました。だって見張りなんて、責任重大です。
「大きな狼なんて、恐いわよねぇ」
「大きな犬だと思えば恐くない。出てきたら、下がっていていいから」
「でも、オフィーリアさんにだけ任せるわけにはいかないわよ」
オフィーリアさんと二人、ドキドキの見張りは続きます。
その頃、村の人たち二人とエルさん、ギルツさん、ラマさん、キアラさんは、別の丘にたどり着きました。
「ねえねえ、これが終わったら薬草採集してもいいかなぁ。村長さん、ちょっとなら摘んでもいいよって言ってくれたんだよ」
白くてふわふわでもこもこの羊さんたちを見ただけで、エルさんは上機嫌です。今、羊さんたちの近くに狼がいなければ、ラマさんとキアラさんが上手に追い払ってくれるに決まっています。いくら狼だって、羊さんを襲ってもないのに殺されちゃったらかわいそう。
でも、キアラさんは追い払う気なんかありません。狼を見付けたら、絶対自分が飼いたいのです。村の人たちをびっくりさせないように、大きな声では言いませんけれど。
「いい加減にしておけ」
あんまりわくわくしているので、ギルツさんに怒られてしまったのでした。
と、その時です!
「うっきゃーっ」
村の人の悲鳴がして、冒険者のみなさんはそちらを見ました。するとなんてことでしょう。まだ明るいのに、狼らしい生き物がこちらにやってくるではありませんか。ギルツさんとラマさんは、素早く狼と村の人たちと羊さんたちの間に回り込みました。エルさんは魔法の準備をしているのかと思ったら。
「魔法は苦手なんだ‥‥えへ」
村の人が聞いたら泣いちゃいそうなことを呟いておりました。それで、となりのキアラさんの様子を確認中‥‥
「あった、昨日残しておいたお肉! えいっ」
キアラさんは全然戦う用意もしないで、バックパックからお弁当を取り出すと、狼に向けて投げ付けたのです。なんてこと!
わんわんっ、わんわんわんっ。
「なんだと?」
『わんと鳴くのだから』
「犬じゃないか、おい」
ギルツさんとラマさんが、てんでばらばらに話しています。でも言いたいことは同じみたい。
キアラさんが勢い余って、お肉以外も全部投げてしまったお弁当は、狼に見えた生き物たちの真ん中に落ちました。すると後ろの小さな四頭が、それを一生懸命食べ始めたのです。大きな一頭は、ラマさんとギルツさんに『わんわん』と吠えています。
「よく見たら、ぶちがあるよ。犬だねぇ」
「誰だ、狼と見間違えたのは」
村の人たちも、ギルツさんとラマさんの腰にへばりつきながら様子を伺って、うんうんと頷いています。
「やったー、薬草摘み出来るーっ!」
大きな一頭にも食べるものをあげて、それから五頭の首に紐を着け、村の連れて帰ることにしました。村では、番犬や羊を見張る犬などがいると、とても助かるからです。野良犬は困ります。
羊さんたちは、危なくないのがわかったから、そのまま放牧することになりました。白くてふわふわもこもこの羊さんたちは、のんびりと草を食べて過ごすのが一番ですから。
そうして。
「いいですか、せっかく家族揃って村に置いて貰えるようになったのですから、間違っても子供に食いついたりしてはいけませんよ」
きちんと餌を食べて元気になったら、番犬のお仕事をするように。ウェルスさんにありがたいお説教をしてもらった犬のお母さんは、洗ってもらってすっかり綺麗になりました。泥が落ちたら、灰色ではなくて白い犬だったのです。今朝も山羊さんの乳をいっぱいもらった犬のお母さんは、まだまだやせていますが、大分元気になりました。
犬の子供たちはもっと元気で、四頭で柵の中をぐるぐるしています。こちらも綺麗になって、ぶちや黒などいろんな模様になりました。
「早とちりで申し訳ない。気を悪くしないで、また寄ってください」
村長さんが恥ずかしそうに言っていますが、冒険者の人たちは文句なんかありません。だってお金ももらったし、薬草摘みも、釣りも、ご馳走作りも、果物狩りも、宴会だって出来たのですから。もちろんお酒も飲めました。
めでたし、めでたしなのです。
だけど。
「狼が欲しかったよぅ」
キアラさんだけ、ちょっぴり幸せが足りないのでした。