収穫祭を迎えるために
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月02日〜10月07日
リプレイ公開日:2008年10月12日
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●オープニング
ある日のこと。
「あらぁ、どういうのかと思えば、なんだかお皿もみすぼらしいわねぇ」
「これじゃあ、味も期待できないわよ。やっぱりこの程度のお店ですものね」
これが、始まりだった。
その翌日。
「だからやっぱり、お菓子は専門のお店でなくちゃ駄目よ」
「そうね。この焼き菓子、香りもあまりしないし」
更に三日目。
「この辺りで一番美味しいのは、お向かいのお店だわねぇ」
「本当にねぇ」
四日目。
「こんなにくどい匂いがするところで甘いものを食べても、美味しくないわね」
「焼き色がいまひとつだわ」
五日目。
「このお菓子を食べるなら、あのお店なのよ」
「店内で食べられるところがないのが残念よねぇ」
六日目。
「収穫祭も近いし、お菓子はあの店に頼まなきゃね」
「他に頼むなんて、舌がおかしいわ」
七日目。
「お前がやらせてるんじゃないんだな!」
「そ、そんなことしてません〜」
冒険者ギルドにその一団がやってきた時、ギルド内には色々な匂いが充満した。見れば年齢や種族はまちまちだが、いずれも飲食店の者らしい服装だ。料理の匂いが染み付いた仕事着のままやってきて、辺りに色々混じり合ってくどくなった匂いを撒き散らしているらしい。
そして、その真ん中に挟みこまれている青年以外は、皆、顔付きが険しい。
はっきり言って、かなり怖い。
だがしかし、その程度ではギルドの受付はひるまなかった。にこやかにその一団をカウンターまで招いて、ご用件はと尋ねる。
その途端に始まった、関係者が口々に主張と事情と嘆願を述べまくる様子に一瞬だけ顔が強張ったが、少し後には身振りでそれを静めている。表情は相変わらず笑顔。
「細かいところはもう一度うかがいますが、ご用件は結構露骨に営業妨害をしている模様のご婦人とご令嬢達の行動を止めさせたいという事でよろしいですか?」
「まあ、そうだ」
彼らの事情は、こうである。
一行は王都内のある通りに軒を並べる飲食店主達だ。居酒屋もあれば、特定食材にこだわった料理屋もあり、持ち帰り専門の料理屋も菓子屋も、それらに材料を卸しつつ一般客にも売る食料品店と酒屋もある。何軒も飲食店が並んでいると客の取り合いになりそうだが、たくさんある故に『あそこに行けば色々食べられる』と思って来る客もいるから、それぞれが腕を競いつつ、互いに盛り立てていたのだ。
今までは、それでうまく行っていた。是非にと頼む客が来れば、隣の店の料理を持ち込む事だって許しあうくらいに、それぞれの店は仲が良かった。その影で『今度は負けねえ』とよりいっそう仕事に励んだりしつつ。
ところが、三ヶ月ほど前に菓子屋の店主が変わった。前の店主は高齢になったので隠居して、六年前から修行していた青年が店主になったのだ。青年は今までは接客はしていなかったが、担当していた店主の奥さんも一緒に隠居してしまったので、表に出てきた。
これがまた、近所の誰もが認める美形で、今までは単なる美味しいお菓子の店だったその菓子屋は、今では女性達が日々通ってくる店になりかけている。店主の青年は近所の子供が通ってくるのを喜ぶような穏やかな性格なので、そうした状況に途惑っていた。
そして、問題はここから。
菓子屋の常連であるはずの、多分生活とお金に余裕があるだろうご婦人とご令嬢達が、なぜか毎日交代で近所の店の混雑する頃合にやってきて、その店の菓子や甘味を食べては『あの店のほうが美味しい、素敵』と声高に喋るのだ。そりゃあ居酒屋の親父が作った菓子より、菓子職人が作った菓子が見栄えがいいとは、親父も認める。
「だけどな、それなら真ん前のうちの店で菓子を食わずに、こいつの店で買えばいいんだよ」
野菜料理に定評がある店で、そこの看板娘が菓子屋の店主の青年に習いながら作った菓子の焼き色がいまひとつだったのも、事実ではある。
「でも、うちの娘の菓子はこいつが味見して、客に出しても大丈夫だって言ってくれたんだぜ」
肉料理の店では、料理は見た目も大事なのは認めるけれど。
「うちの菓子は、こいつのところから仕入れているのに、皿がみすぼらしいとよ。皿もこいつが見立ててくれたんだがな」
一様に『なぜ、わざわざうちの店で菓子を食べなくてはならないのか』と不審に思う状態なのだ。おかげで菓子屋の青年は『まさか宣伝のために他の店であんなことを言わせているのか』とご近所総出で詰め寄られ、まだ小さくなっている。さすがに長い付き合いでそんな奴ではないと分かっていたから、店主達も落ち着いたら『あのお客達が勝手にやっている』と思い至った。
相手は客だが、他の客からも苦情がきていて、なによりも肝心の菓子屋の青年は非常に居心地が悪い。このままでは店も存続の危機である。
よって、依頼に来た。
「うちのお菓子を買う人は、ほとんどが周りの店で食事をしたり、買い物をしたりする人なんです。先代の時からのお付き合いのお客さんも、皆そう。それなのにこんなことが続いたら、通り全体の雰囲気が悪くなって、最初に潰れるのはうちの店です。よそのお店とうまくやるのが大事だって、うまく伝えてもらって、変なことは止めてくれるようにしてもらえませんか」
ちなみに見兼ねた肉屋の店主がご令嬢達に注意したところ、『客に対して失礼な』と皿を投げられたそうだ。
●リプレイ本文
問題の菓子店がある通りは、事前情報に違わず様々な飲食店があった。
「あら、あの料理はおいしそうね。持ち帰れるかしら」
初っ端からミーティア・サラト(ec5004)の意識がよそに向いているが、実はギエーリ・タンデ(ec4600)も依頼とはずれた事を考えている。
「いやぁなんとも活気のある様ではありませんか。こういうところは貴重なのですよ。我々吟遊詩人たるもの、賑やかな場所でその腕を披露することも生き甲斐の一つなのです」
生き甲斐が多そうなギエーリの語りはなかなか止まらないが、ここで目立って、問題の女性達の眼に留まっては困る。慌てて加藤瑠璃(eb4288)が止めて、菓子店に向かった。
「いらっしゃいませ。初めてのお客様ですね」
なかなかの美男だと言われていた店主は、好みもあろうが確かに小奇麗にしていて、優しげな顔立ちをしていた。けれども、依頼を受けた冒険者三人が思ったことは別だ。
瑠璃は店主の手を見て、これはよく働く人だと思った。ミーティアは一瞥で初対面だと気付く記憶力に感心する。ギエーリは、
「ふむ、店主のお顔を表現するなら」
長くなるので、今度は二人掛かりで止められた。
そうして自己紹介をし、相手の女性陣のことを尋ねたところで‥‥ひどく困ったように、しゃっきりしない態度になった店主を見て、三人とも『これは押しも弱ければ、演技も出来ない正直者だ』と理解したのである。
さて、今回この菓子店を中心として、問題に見舞われている通りの混雑時間は朝と昼、それから夕方だ。問題の二組のうちご婦人方は昼下がりに来ることが多い。午前中に来たことは一度もないそうだ。もう一方のご令嬢達は時折午前中に顔を見せるが、だいたい夕方が多い。よって二組が顔を合わせることは滅多にないのだが、昼頃にばったり出会ったことが数回あって、その際には埒もないことでつんけんと嫌味を言い合っていたらしい。
そして、菓子店以外の各店での様は、冒険者ギルドで店主達が訴えたとおりだ。菓子店の店主はおっとりした性格なので、彼女達がそんなことをしているなど指摘されるまで気付かなかったという。
ここまでのところを、皆から聞きだした三人は、それぞれの作戦をすり合せ、更に関係する人々の様子から手直しを始めた。菓子店の店主ははったりがきかなさそうだから、女性陣を騙すなど多分無理だ。
なにしろ。
「時にご店主に結婚のご予定などは?」
常日頃から仲睦まじく店を切り盛りしていれば、こんな騒ぎも減るだろうとギエーリが問い掛けたら、真っ赤になった挙げ句にばっとある方向を振り返った。つられて見れば、そちらには野菜料理屋があって、看板娘が店の前を掃いていたりする。他の店主の色々入り混じった視線を見れば、片思いなのは明らかだ。
「周りの皆様がお世話してあげたらいかがでしょう」
それは、今回の騒動が無事に収まってからのことだろう。
「そちらもうまいこと行くように、まずはきちんとしなきゃ駄目ね。あなたが注意しても、お客だから遠慮していて可哀想って決め付けそうな、ちょっと思い込みの強い人達なのは分かったわ」
「今の態度が間違っているとご理解いただくのに、皆さんが仲良く通りのお店全体を盛り上げているを見せるのは大事よね」
瑠璃が力強く、菓子店店主に『ちょっと気合を入れて』と言い含めている傍らで、ミーティアは店構えの観察に余念がなかったりする。
「皆さん、新しい料理や商品は、どのくらいの間隔で作っているものかしら?」
段々質問内容も経営に踏み込んできたが、『新料理を一緒に考えて、よりいっそうの仲の良さを宣伝』と理由はちゃんとしていた。時々、何か微妙にずれたことを呟くのは、実は自分の家業の再建計画を練っているからだ。
瑠璃は整理した計画を皆に伝えて、口裏合わせを頼んでいる。ギエーリは菓子店店主の友人で、ミーティアは最近忙しい店主のためにギエーリが紹介してくれた知人、瑠璃は皆と面識がない最近来店し始めたお客である。
そうして、菓子店主にも気合を入れてもらい、迷惑な女性陣を穏便に撃退する作戦を開始した。
普段は店主が応対に出る店の中には、ミーティアがいささか所在無さ気に椅子を出して座っている。鍛冶師でゴーレムニストという、いかにも忙しそうな職人ゆえに、じっと座っているのも接客も実は不慣れだ。
でも、店員は商品の味を知らないと駄目だと八百屋の店主が気を利かせてくれたので、味見に貰った焼き菓子を食べている。お茶が欲しいとは思っても、勝手の分からない奥には入らない。他人の仕事場は、勝手に入ってはいけないものだろう。
とりあえず、今考えているのは『これも買って帰ろう』だ。
そこにようやく、聞いていた通りのお客様がやってきた。先程までは店主も馴染みの地元の方々ばかりだったが、こちらはあからさまに違う。目立つ宝石のついた装飾品を着けた若い女性の二人連れ、問題の女性陣の一組だ。
「あら、あなたはどなた?」
「手伝いの者です。お店の方は、あちらのお店で収穫祭向けのお料理とお菓子を考えるのに、お出掛けですよ」
「‥‥どうして、わざわざ別の店と一緒に考えるのかしら。ここのお菓子は文句なく美味しいのに」
「他の種類の料理を学ぶことがお菓子作りの参考になるって、意気揚々とお出掛けしましたよ。何を包みましょう?」
本当は店主から言わせたかったことだが、何度練習させても緊張のあまりに声が上擦るので、ミーティアが今のうちに後押ししておく。意気揚々と言えば言い過ぎかもしれないが、野菜料理店に店主が身なりを整えて、脇目も降らずに向かったのは間違いないのでまあ嘘にはならない。目的がちょっとずれているくらいはご愛嬌だ。
ミーティアは店主に関わる世間話の範囲で、『この通りでは収穫祭に合わせて、各店が足並みを揃えて新しい料理などを作っているところだ』と二人に吹き込んだ。彼女の仕事の第一弾は、無事完了だ。
それからしばらく後の、野菜料理店では。
「というわけでね、このままではお店を畳まなくちゃいけないかもって悩んでいるみたいなの。他のお店で美味しいものを食べた後に、お菓子を食べてもっといい気分になって欲しいって、常々言っているみたいなのに可哀想だわ」
申し訳程度に店の料理を頼み、厨房に一番近い席を占めた瑠璃と問題のご令嬢二人が、噂話に花を咲かせていた。昼の混雑時がちょうど過ぎた頃だから、瑠璃は結構大きな声で話している。
もちろん内容は店主達に聞いたご婦人方とご令嬢方の迷惑行為を取り混ぜた内容で、相手のことは知らないことになっている瑠璃は『本当に困ったわ』と憂い顔である。
同じ卓の二人は、当然心当たりがあるものもあり、ないものもあり、むっつりと黙り込んでいる。店先で偶然を装った瑠璃が声を掛け、店のことを褒めちぎったからこそ同行してくれたのだが、まさかこういう話になるとは思ってもみなかったようだ。
居心地が悪そうな二人のことなど気付かないフリで、瑠璃は彼女達が姉妹であることや、結構離れたところからやって来ていることを聞き出している。わざわざ通ってくるのだから、菓子の味がよほど気に入っていることは間違いがない。それが嵩じての行動が、いまひとつ世間知らずで迷惑で、
「あ、あの人達が、今のお話の困ったお客さんらしいのよ」
ついでに、瑠璃が『あの人達』と指し示した一団を見た時に、睨みつけるような淑女にあるまじき目付きになった辺り、相当の負けん気も持ち合わせているようだ。
双方の仲の悪さを利用して、二虎競食の策を提案した瑠璃だったが、この様子で『止め時を間違ったら、自分が食いつかれるかも』とちょっとどきどきし始めた。
さて、そんな瑠璃に指し示されたご婦人方には、ギエーリが接触している。こちらは予定通りに店主の友人になりきり、ご婦人方に『いつもごひいきに預かり、まことにありがとうございます』と慣れた様子で持ち上げる。元々そういうことが得意なので、付け焼刃とは思えない友人ぶりだ。
「一人で大変そうだったのよ。店番をしてくれる人がいたら、きっと助かるわね」
「本当よ。一人で何でもこなしていたら、体が幾つあっても足りないもの」
「あら、でも奥にいる様子でもないじゃないの。どうかしたのかしら?」
「そういえば一昨日来た時に元気がなかったわよ。季節の変わり目だから、風邪かしらね」
しかし、ギエーリが話さなくても、四人もいれば彼女達だけで会話はどんどん進む。予定の方向に話を向けるのが一苦労だが、店主の行き先に話題が向いたのをこれ幸いと、ギエーリは瑠璃が姉妹に話したのと同じことを説明した。他の店と協力しなくたって、この店はどこより一番だとご婦人方は口を揃えてくれるのだが、菓子店の立地や店構えには少しばかり不満もあるようだ。いずれ劣らぬ上流好みのようで、もっと立派なお店でいいのにと思っている様子。
故に、それどころか店を畳む危機だと聞けば『なんてこと』ともちろん言うけれど、やはり内容に心当たりがあるようで続く言葉がない。
「ごひいきも過ぎると、他のお店とうまくやっていけなくて、彼など世渡りが上手なわけでもないものですから、ほとほと弱っているようなのですよ」
よよと涙が浮かんだ振りなどして、ギエーリがご婦人方の様子を伺うと、微妙に反応には困っているが、自分達はそこまでひどいことはしていないと思っている。ギエーリが大げさに話したので、多少心当たりはあるが、更に上手がいると思い込んだようだ。
となれば、ギエーリが嘆く原因になっているのは、以前に何度か嫌味の応酬になった姉妹だと合点して、
「そういうことなら、もちろん協力させていただくわ」
無闇とやる気になってしまったので、ギエーリもちょっとの間口を噤んでしまった。これは彼の場合、最大級の困惑を示している。
そして、翌日のこと。
件の通りでは、全ての店と家から人が出てくる騒動が繰り広げられた。
「ああ、瑠璃さん、一人で行っては危険ですよ」
「ええと、誰かこちらに手を貸してくれるかしら」
「注意してくれと、掴みあいをしてくれでは、全然違うでしょ。‥‥いい加減にしてちょうだいっ!」
姉妹は予想通り二人とも、ご婦人方は半数が、相当鉄火な性格だった。この日は双方相手に一言言ってやると思って早くから出てきて、ばったりと店の前で出会ったと同時に苛烈な嫌味の応酬が始まった。かろうじてギエーリが取り成しに入れたが、瑠璃とミーティアはしばしあ然。
挙げ句にギエーリにはどちらも興奮して泣き出しつつ、相手が悪いと訴えるし、そこまでしていない二人のご婦人は右往左往するし、皆が飛び出してくることになったのだ。
姉妹の姉が、相手の一人の髪を引っ張るに及んで引き離しが決行されたが、ギエーリは相手が女性なので全力とはいかない。他の男性陣も微妙に及び腰だ。
瑠璃が果敢に割って入って、間違って双方から叩かれたりしながら一喝したのだが、彼女一人では収めきれない。
確かに疲れるまで注意しあってもらったところで和解に持って行こうとは考えていたが、ここまで見境を失くすとは思っていなかったから、瑠璃も慌てていたのだけれど。
ものすごい、強烈に腹に響く鉄の音。
もの凄まじい音がしたので、通りにいた人々が皆耳を押さえた。それを発生させたミーティアと野菜料理屋の娘が、あまりの音に巨大鉄鍋を取り落としたので、またすごい音がする。
「水を掛けようと思ったのよ」
「それは着替えがなくて大変だし、こちらの鍋はいい音がしそうだったから」
しばらくして、この二人が口々にそう言い、足元には水の入った桶がまだ置いてあったので、騒動の原因である六人のうちの四人も押し黙った。さすがに野菜料理屋の娘の本気は伝わったらしい。
それと気付いてみたら、菓子店の店主が皆を止めようと店から出て、瑠璃と同じく割って入っていたようだった。誰かに突き飛ばされたのか転んで、地面に伏している姿に皆が気付いたのだ。挙げ句に背中には女物の靴跡がくっきりとついている。
「皆さんに怪我がなければいいです。うちのお菓子のことで怪我人が出たりしたら、師匠と通りの皆さんに顔向けできませんから」
顔に擦り傷が幾つも出来た店主は、手が無事だったのを確かめて、皆には足も平気か、他はどうだと心配されながら助け起こされた。他に怪我人がいないので、本人はほっとしている。
「職人の世界は、横の繋がりも強いのね。だから、一軒傾くと、他も危なくなってしまうことがあるの」
「天界だと笑顔は最高のスパイスって言葉もあるのよ。美味しい物だって、つまらない顔で食べたらいつもの味がしないでしょ」
よほどここの菓子が気に入っているのは理解できたけれど、他の人に迷惑を掛けて、肝心の店主に怪我でもさせたら取り返しがつかないとミーティアと瑠璃二人掛かりに通りの女将さん達のお叱りやらとりなしやらが入り、計六名の女性陣はばつが悪い思いであちらこちらを向いている。
この間にギエーリが野次馬には色々言い含め、なにやら適当な脚色をして笑いまで誘い、御用を済ませるように促していく。一緒に店主が詫びて回っているのを目にして、女性陣は肩身が狭い。
更に。
「この度は、僕がしっかりしないせいでご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
どういう考えでその境地に至ったのか分からないが、店主が女性陣にも詫びたものだから、六名共に驚く、慌てる、困惑するとひとしきりやった後、やっと各店の店主に悪いことをしたときちんと頭を下げた。双方間では、まだ和解は成立しないが休戦にはなったようだ。
「このお店の前で美味しいってお菓子を食べているほうが、よそのお店で声高に宣伝しようとするよりよほど効果があるわよ」
ようやっと収束したかと瑠璃が溜息混じりに念押ししたら、六人ともが『立ったまま食べるなんて出来ません』と返して来たのは、まあ、普段の生活の違いだろう。
「じゃあ、他のお店で食べられるようにするか、このお店でお茶を飲めるようにもするか、皆さんと相談したらいいわね」
ミーティアの発案に皆が納得して、女性陣はぜひとも店で一服したいと願いつつ、そそくさと帰っていった。
その後数日、事態を収めた三人は通りで収穫祭用料理の試食に努めたが、さすがに気まずいのか女性陣は姿を見せず‥‥
「お店の改装には、一緒に働いてくれる方が不可欠ですのに」
ギエーリが嘆息するほどに、店主と野菜料理屋の娘の仲も進展していない。
でもこれが、菓子店の今までの日常である。