海原でのゴーレム運用

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月03日〜10月10日

リプレイ公開日:2008年10月13日

●オープニング

 依頼内容としては、多分単純だ。
 ルラの海のメイとジェドの合間の辺りに、魚竜が確認されたので討伐する。被害はまだ出ていないが、ものが魚竜ゆえに、背後にバの国の軍勢が控えているようなことがないか、周辺海域の調査も含まれる。
 問題海域に向かうのは、ゴーレムシップが二隻。魚竜の種類はモササウルスと呼ばれるものらしいが、一匹のみだ。体長十メートルで、凶暴とは言われるが、ゴーレムシップには精霊砲が側面に二門ずつ、合計四門据え付けられている。二隻だから実数八門。それに弓手や魔法使いなどがいれば、普通は片が付くだろう。

 けれども、ゴーレムシップにはなぜかゴーレムも載せられることになっていた。
 もちろん載せるからには飾りではなく、近くに陸地もない海上で使えないのかの実験をしたいと、依頼してきた者がいるのだ。
「人型ゴーレムが載れる筏に、直線移動可能な機動力は付与したわ。それで目標まで辿り着いたら、攻撃してくれればいいのよ。ゴーレムと筏それぞれに鎧騎士がいるから、最低四人は欲しいところかしら。退治してくれたら、後はちゃんとシップで回収してあげるから」
「‥‥はあ」
 冒険者ギルドの受付係も反応に窮していたが、相手はゴーレム工房のゴーレムニストである。度々ギルドに足を運ぶゴーレムニストのユリディスとは違い、人間で三十代ではないかと思うが年齢の掴みにくい女性。天界人が持ち込んで、工房の人々が時に着ている白衣なる作業着を羽織って、なぜだか黒猫を抱いている。赤茶の髪に金茶の瞳に白い肌で、真っ赤なドレスの上に白い白衣という、不思議な格好だ。
 姿とペットはさておき、きちんと身分証明も持ってきているのだが、依頼内容はどうにも不自然だ。海洋で人型ゴーレムを筏に乗せて動かそうだなど、普通は考えないだろう。まあ、ゴーレムニストは時に突飛な発想をするのも能力のうちらしいのだけれど。
 そんな受付係の困惑が如実に伝わったようで、同行していた鎧騎士のプロコピウス・アステールが口を挟んだ。
「ゴーレムでの討伐は挑戦してくれる者がいればだ。一人もいなければ、グライダーを載せる手筈は整っている。仮に鎧騎士が一人もいなくても、魚竜を攻撃出来る者が来てくれれば、それでいい」
「つまらないわね。せっかく実験が出来るというのに」
 依頼人側の立場では、ゴーレムニストの女性エリカの方が立場が強いようだが、アステールはてきぱきと『変な実験に付き合わなくてもいいから』と態度に滲ませて依頼を出している。
 受付係も、その態度には非常に賛同するところがあったので、エリカの方は見ないように依頼書を書いていく。
「別にいいでしょうに。モナルコスは沈まなくてよ」
「それでも、制御胞内に浸水する可能性があると申し上げたはずです。鎧騎士が溺死しますよ」
「それが?」
 本気でそう思っている様子なので、受付係はなおいっそう、依頼書に顔を近付けた。
 カウンター前では、アステールがエリカを睨みつけている気配がする。
「鎧騎士たるもの、国のために死ぬ覚悟はいつでもあるのではなくて?」
「国のためになら命を賭すのは当然ですが、あなたの実験には付き合えません。確実に魚竜を仕留められる保証もない」
「そうそう。そう正直に言えばいいのよ。では希望者がいたら、実験させてもらうわ」
 それで万が一の事があったらどうするのか、その保障も念のために話し合っておかねばと、受付係は心の底から思っていた。
「彼女は研究と実験以外のことがどうでもいい女性だが、私が依頼中に無駄に危険なことはさせないので、特に心配せずに来て欲しいと伝えてくれ」
 アステールは、そう言い置いている。こちらは信用しても良さそうだ。

●今回の参加者

 ec4205 アルトリア・ペンドラゴン(23歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 ec4873 サイクザエラ・マイ(42歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5433 ロイ・アズル(20歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)
 ec5434 ハヤト・タガミ(27歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

 サイクザエラ・マイ(ec4873)の今回の依頼は、依頼側のゴーレムニスト・エリカの平手打ちを避けるところから始まった。
「逃げるな、生意気な!」
「日時を守ってきた私が、なぜ殴られてやらねばならんのだ」
「あたしの気が済むからよ」
 冒険者ギルドから四人が依頼に参加すると聞いていたのに、実験が可能か確認をしたかったエリカが、サイクザエラ一人しか現われなかったことに立腹しても仕方ない。けれどもサイクザエラはそれを代わりに謝罪するほど、殊勝な性格は持ち合わせていない。
 それでもプロコピウス・アステールの取り成しもあり、グライダーをゴーレムシップに搭載して現地に向かうことになった。
「他にグライダーに乗れる人員の手配はつかなかった。だから、航空戦ないし偵察のやり方で希望があれば言うといい」
「魔法使いか弓手がいれば、攻撃のために後ろに乗ってもらうのがパターンだが‥‥そもそも相手に通用するだけの腕がないと無駄か」
 二隻のゴーレムシップで合計七名ほどの魔法使いがいるのだが、サイクザエラが挙げた条件は高速詠唱が可能で、ゴーレムグライダー上でも目測を誤らないこと。これに合致し、グライダー後部座席に乗る度胸の持ち主がいるかどうかは、アステールが確認することになった。

 メイディアを出発して、一日から二日。かなり幅広い海域が魚竜・モササウルスの目撃情報があった場所だ。今のところ、それを操るような船舶は見かけられていないが、アステールや船長は渋い表情である。
「カオスニアンが手懐けている恐獣は、多少の怪我だと興奮して向かってきて、なかなか倒れないから始末が悪い。そうでない恐獣は手早く仕留めないと逃げることを優先することも多く、確実に成果を出すのが難しい」
 向かってこられると危険な相手だが、潜って逃げられると追うのは困難だ。それを考慮しつつ攻撃する必要があった。
 つまり、まずは魚竜の周辺に敵勢力がいないかを確かめ、それによって次の行動が決まってくるわけだ。
「ならば、グライダーは偵察中心が適当か。それでもまったく攻撃方法がないのは敵遭遇時に不利になる。どういう装備が可能かは‥‥あの女に聞いたほうがいいのか?」
「同乗者を乗せないことを前提とすれば、砲丸投下は可能にしてある。それ以外の細かいことは、エリカ殿に聞いたほうが良いな」
 移動時間を使用しての作戦会議に現われないのでは、あまり戦闘向きの知識は持ち合わせていなさそうだが、ゴーレム機器のことはゴーレムニストに尋ねるのが常道だ。サイクザエラが他の用もあって、エリカを探してみたら、ゴーレムグライダーに張り付いて連れてきた職人達にあれこれと指示を出している。
 何をしているものやらサイクザエラにはあまり分からないのだが、エリカも彼に用があったようだ。
「機体の座席の調整中なのよ。ちょうどいいわ、協力しなさい」
「調整?」
「ここではたいしたことは出来ないけど、鞍の幅を少しいじって、あぶみの位置を直したりしたいわ。乗って安定しなければ、危ないでしょう」
 言うことだけ聞いていると、乗る者のために何かしてくれているような言葉だが、どうも雰囲気が違う。そもそもグライダーの微調整と簡単に言うが、ここは工房でもない。
「機体の心配か? ならばここで実験するのを止めておけば良かろう」
 別に自分の心配は必要ないとサイクザエラが言えば、『はなからしていない』と返された。
「天界人は世界を救うためにいるのだから、心配などしては失礼でしょうよ。ともかく一度試してみて、具合が悪いなら元に戻してあげてよ」
 鞍の幅がもう少し欲しいといえば、何かで盛り上げそうだし、あぶみは削ったり足したりしそうだ。職人達は少しでもいいようにしようと頑張っているのが分かるが、エリカはそれで結果に違いがあるかのデータが欲しいだけだろう。サイクザエラに協力する義理もないわけだが、ゴーレムニストとここで喧嘩しても自身の実績になんら得るものはないとの判断で、少しばかり付き合ってみた。今回は下手にいじられる事も心配なので、工房から持ってきたままにしてもらう。
 当然エリカの機嫌は麗しくないが、サイクザエラが今回載せるはずだったゴーレム用の筏の話を振ったら、図面を広げて説明し始める。天界・地球の書き方ではないから、サイクザエラには読み方も良く分からないのだが。
「素人意見で申し訳ないんだが」
「あら、偉そうでない態度も出来るのね」
「エリカよりは、余程な。で、モナルコスを海上で運営するなら筏でなくて、ゴーレムを乗せられるようなチャリオットを開発して乗せた方が、安全面ではよくないか?」
「その場合はチャリオットの形のゴーレムシップね。それは当然だけれど、偉い人にはそれが分からないのよ」
 自分より偉い人など認めなさそうな態度は二人の似通ったところだが、どちらも身分制度や雇用関係、その他諸々のしがらみは承知している。この日は真っ青なドレスに白衣のエリカが、机に腰掛けて文句を言えば、サイクザエラもだいたい理由は分かる。
「まあ、コストがかかりすぎるという欠点はあるけどな」
「それに、開発の費用と時間と人手を前線に送るためのゴーレム作りに回したいのよ。開発を怠れば、相手の新型に負けるのに」
 サイクザエラはこの後、エリカにこう言われた。
「今の意見、アステールに繰り返してきてちょうだい。天界人も出したアイデアなら、もう一度上に掛け合う材料になるわ。ユリディスで認められるなら、こちらも認めてもらわなくてはね」
 嫌だと言えば、かかとの高い靴で蹴り飛ばされそうだったのと、周囲の職人の期待に満ちた視線がしつこいので、サイクザエラは一言アステールに伝えてやることにした。船にいる間、男どもに熱っぽく見られるのは楽しくない。
 こうした間にも、適時グライダーでの偵察が行われ、戦場では常の航海の倍の見張りが立ち、魚竜の姿を探していた。
 異変が察知されたのは、メイディアを出航して四日目の午前中のことだ。

 この時までに魔法使いから二人ほど志願者が出たので、グライダーに同乗させていたサイクザエラだが、彼らは乗馬の経験が少しあるだけで、急な方向転換に体がついていけない。弓手も似たようなものだ。これではいざという時に役に立たないので、彼は砲丸投下による魚竜への攻撃と誘導を行うことにした。代わりに精霊砲での攻撃は、腕が立つ者を選りすぐってもらう。間違って巻き込まれでもしたら、それこそ魚竜の餌だ。
 発見された魚竜の周辺に、船舶の姿はなし。あまりに離れてはいかに恐獣を操る術に長けた輩がいたとしても、海では思うままに操る事など多分無理だ。それに、解き放ったがために、もう一度手元に回収するのに捜索するなど時間の無駄でもあろう。
 もちろん各所におけるバの進軍具合を見れば、いつ何時大艦隊が来ても不自然ではないので用心はするが、アステールは魚竜退治を中心とした作戦を行うと決定した。サイクザエラは、その囮ともなる。
「背後を振り返らなくてもいいわけだな」
『それはこちらからお知らせします。ご武運をお祈りいたします』
 見習い騎士が通信兵として、サイクザエラに魚理由の動きを逐一知らせてくれることになっている。彼は魚竜をおびき寄せ、適度に興奮させて、二隻のゴーレムシップが待つ狭間へと誘導するのが役目だ。当然ゴーレムシップ側もそのつもりで動くから、さほどの距離を飛ぶ必要はないはず。
「最近の餌事情が、一番の問題か」
 腹が満ちていれば、わざわざすばしっこい空中のものなど、魚竜が追うとは考えにくい。何か餌でも用意すればよかったかもしれないが、海域警備の任の最中に漁に勤しむことも出来ず、そんな心得がある者もおらずで、サイクザエラが『生餌』である。
「これで沈まれたら、何を報告されるか分からんな」
 彼のいささか物騒な独り言に返答はなく、グライダーは魚竜目掛けて海面近くへ高度を下げ始めた。

 魚竜・モササウルスが空を飛ぶものを狙うとしたら、恐獣と一くくりされる空を飛ぶ生き物達だ。あまり小さいと食べても腹の足しにならず、滅多に食指が動くことはない。
 そんな翼竜とはまったく違う動きだが、まるで自分を誘うように前を飛ばれれば、それに意図があるかどうかなどは考えなかった。
『そのまま前進を。こちらで動きが合わせられます。船の舳先と機体が重なる頃合を見計らって、上昇してください』
 海面をこすれば速度が落ちる。またそこまでの腕はないので、低空だが海面ぎりぎりとはいかない高度を保っていたサイクザエラの視界に、彼を挟むように進んでくるゴーレムシップ二隻が入る。速度を合わせて、挟み撃ちの体勢は万全である。
 精霊砲の砲手、魔法使い、弓手が甲板上で態勢を整えているのをざっと見て取り、指示された状況でサイクザエラはグライダーの機首を上げた。
 その数秒後、背後からの爆風で体勢を崩しかけたがなんとか持ち直し、上空旋回に入る。
 海面には魚竜の肉片、体液が散っているが、頭、胴体は見えない。精霊砲が二門は砲撃を当てたはずだが、その時点ではまだ息の根が止まっていなかったことは、目視で確認されている。その後、魔法攻撃を食らってから沈み始め、今のところは浮かんでこない。そこまでは携帯型風信器からの連絡が入る。
 やがて、彼の航空可能時間にはまだ間があったが、帰還命令が出た。
「一番大きな肉片は、一抱え以上あった。部位は分からないが、それが四つ、五つ認められたぞ」
「仕留めたとは思うんだが」
 はっきりしないものだから、それから二日ほど周辺海域での警戒が行われたが魚竜の目撃はなく、また所属不明船舶も発見されなかった。おそらくは砲撃で死んだろうと推測される。
 少々結果がはっきりしないものの、二隻のゴーレムシップは予定されていた期日にメイディアに帰り着いたのだった。