素敵? なお茶会への招待 利き茶会です

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月17日〜12月22日

リプレイ公開日:2004年12月20日

●オープニング

「聖夜祭の前に、仕事場の皆さんと食事をすることになったんですの」
 久し振りに顔を出した、冒険者ギルドの受付には名の知れた女性の一言に、自称『若手一番の将来有望』の男は、行儀良く頷いた。年中無休、本当に朝から晩までどころか一日中開いている冒険者ギルドの受付には、そういう行事はない。
 かといって、依頼人(予定)のお騒がせウィザード、アデラの職場が全員揃って食事会をするとも思えない。要するに親しい何人かで集まることになったのだろう。
 なにはともあれ、あまり突拍子もない依頼でなければ、受付は基本的になんでも来いの気分である。飯の種を嫌う輩は滅多にいない。
「食事会とは優雅でよろしいじゃないですか。聖夜祭も近いし」
「そうなんですの。そんな豪勢には出来ませんけれど、皆で自慢の料理を持ち寄ったりしましてね、賑やかになると思いますわ。それで」
「それで?」
「その日に持って行こうと思って、お茶を色々合わせてみましたの」
 アデラと受付の間に、色に例えるなら白々とした沈黙が落ちた。アデラはにこにこと受付の次の言葉を待っているが、言われた男のほうは愛想笑いが引きつっている。
 ようやっと声を発したのは、たっぷり二十は数えられる時間が過ぎてからのことだ。
「今回のご依頼は?」
「いろんな香草を合わせて、たくさんお茶を作りましたの。そうしたら、一人では味見をするのが大変で、またお茶会をしたいと思いまして」
 男が傍らに置いていた羊皮紙を勝手に取り上げようとしたアデラの手から、彼は素早く羊皮紙を奪い取った。絶妙の、ぎりぎり失礼にならない動作だ。
 どうも最近、依頼人に読み書きの達者な常連が散見されるようになり、彼らは勝手に依頼書を書いたりする。仮にも冒険者に仕事を斡旋する立場のギルドとしては、最低限記しておくべき内容などがあるわけで、それを部外者の手には委ねられないのだ。というのが、彼の持論だった。
 そもそもが、依頼書を書けるほど読み書きが達者な依頼人は、滅多にいない。大抵は依頼書を作成し、『こういう内容で間違いないですか』と確認しても、自分の名前も読めないような依頼人ばかりなのだ。かといって、依頼人をだましたりすればギルドの信用は地に落ちる。よって、受付は依頼書をきちんと書いて、その通りを依頼人に説明した。
 それはそれとして。
 アデラに勝手をさせると『来てくださいね』などという、招待状のような依頼書を書くらしいので、受付の男は羊皮紙を自分の前に広げて、ペンを取り上げた。
「お茶会開催のお知らせですね。報酬はどうします?」
「仲介手数料は、銀貨で持ってきましたの。銀貨で足りますかしら? それでお客様にはお茶をたくさんと」
 この瞬間、彼は受付にあるまじき感想を漏らしそうになった。依頼人が報酬としてあげたものを『そりゃいらねぇ』と言っては、やはり角が立つだろう。
 幸いなことに、アデラはそんな様子には気付かなかったようだ。
「後は料理を作っておきますわ。鶏が増えましたから、それを香草焼きにでも」
 さらさらと依頼書を書き上げ、その内容の確認をもらった後に、男はアデラの顔を見た途端に思い出した話を尋ねてみた。普通は依頼人の私生活に踏み込まないが、あまりに衝撃的だったので、友人と気にしていたのだ。
「ところで噂に聞きましたけど、縁談があったそうじゃないですか。どこかの騎士の三男坊。その後いかがな進展具合で?」
「まあ、お恥ずかしい。どこからお耳に入りましたの? 更にお恥ずかしいことに、どうもご縁がないみたいですの」
「ほほう。先方から、結構熱心に口説かれたってお話も届いてますが?」
 いったい誰がそんな噂をしていたのかと、アデラは周囲を見渡しているが、噂の発信者はここにはいない。そもそも噂と言うより、愚痴として受付の男のところに届いた話だ。
 職業ウィザード、収入よし。土地家屋持ちで、なかなかのお洒落。顔は目立って美人ではないが、少なくとも情は深い。難点を上げるなら、一番は『その辺の草木をむしって乾燥させて、お茶と称して他人に飲ませること。しかもたまに毒性がある』ことだが‥‥
「お茶の趣味でも合わなかったんですか」
 騎士の三男坊なら、土地付のアデラは悪くない相手のはずだが、やはり『お茶』にやられたのだろうか。そんなことを勝手に思っている男の前で、アデラが笑った。
 それはもう、鬼気迫る表情で。
「いえ、お茶の前に‥‥うちの可愛い子に修道院を紹介しようって言われましたの。もうお師匠様も見付けてお願いして、来年から弟子入りも決まってますのに修道院ですって」
「‥‥自分の子供じゃないから厄介払いしようなんて輩は、とっとと断っちまいな。なるほど、そりゃあ、駄目だ」
「ええ、もう見え見えでしたから、上司にお願いしてお断りしてますの。あら、つい余計なことを」
 今のお話は内密にと念押しされて、受付はもちろんと請け負った。
 でも、受付のカウンターで話をしていれば、それはもう周囲に丸聞こえなんである。当人達が気付かず、普通の笑顔で『ごきげんよう』などと言い交わしていたが。
 ついでに、その依頼書は掲示板の結構目立つ位置に張られたりしていた。

●今回の参加者

 ea0294 ヴィグ・カノス(30歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2446 ニミュエ・ユーノ(24歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea4582 ヴィーヴィル・アイゼン(25歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ea4817 ヴェリタス・ディエクエス(39歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea6648 キャシー・バーンスレイ(29歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●冒険者ギルドにて
 ヴェリタス・ディエクエス(ea4817)は、冒険者ギルドの受付で同年代の青年にきっぱりと言い切られていた。
「依頼内容に関しない、依頼人の私生活は話せないよ。今回は依頼に関係しそうだけど、あいにくとそこまで親しくはないな」
 アデラのお茶会に手土産を持っていくなら、どんなものが良いか。律儀にもそんな相談をしたヴェリタスだが、さすがのギルドもそこまで依頼人に通じてはいなかったようだ。
 おかげで、ヴェリタスは非常に悩んだ末、少し早めに先方に出向いて、希望の品を尋ねることにした。誰かも先に行っていると話していたので。

●すでに戦い(?)は始まっていた
「アデラねえちゃん、久し振りーっ、お茶会楽しみにしてたよー。今日はなに食べれる?」
 パラのレンジャー、かわいい少年風のマート・セレスティア(ea3852)がお茶会主催者アデラの家に到着したのは、約束の時間よりずいぶんと早い頃合いだった。別に時間を間違えたわけではない。
「あ、みんなも来てたんだ。なに作ってるの? 味見させてよ」
 これが目的だ。マーちゃんとは以前にもお茶会で同席したことのあるサラフィル・ローズィット(ea3776)がいなかったら、やたらと失礼な子供扱いされたかも知れない。
 ちなみに、本日はサラのほかにキャシー・バーンスレイ(ea6648)とルクス・シュラウヴェル(ea5001)の二人が、料理の腕を披露しようとやってきていた。アデラが野菜の煮つけや鶏の香草焼きは準備していたから、魚料理とお菓子を作る相談をしたところだ。
 ただ、サラとルクスが期待した砂糖は、もう使ったり贈ったりする先が決まっていて、余裕がないのだという。おかげでキャシーのお菓子作りは、はちみつで作れるものになってしまった。ごく普通の菓子だと言ってしまえば、その通りではあるが。
「残念です〜」
 はちみつたっぷりの焼き菓子に興味津々のマーちゃんを横に、キャシーは非常に残念がっていたが、菓子の材料だってアデラが出してくれるのだから嘆いてばかりはいられない。いつかはクリームの乗ったケーキを作ってみたいと思いつつ、卵を使っていいと言われて機嫌を直した。クリームなど一度もお目にかかったことのない贅沢品だが、新鮮な卵も滅多に手に入らないものだ。
 だが、その貴重品をマーちゃんが、上向いて開いた口の中に、器用に割って落とし込んでいる。
「うっまーい!」
 あまりの出来事に、鉄鍋に油を多めに入れていたルクスが立ち尽くし、危うく火が出そうになった。
「そういう真似はするものではない」
 その後、とてもそっけなく怒られたマーちゃんだが、それで反省する彼ではなかった。
 そうしてこの間に、香草茶のチェックをしていたサラは‥‥
「今回は明らかに害のあるものも入ってませんし、このままにしておきましょう」
 いかにも乾燥方法を間違えたような枯れ葉から、苦みの強い草が大量に入っている袋から、全部をそのままにして、彼女はこう続けたのだ。
「お茶の確認はしておきましたわ」
 今回の敵は、アデラ一人ではないらしい。
 早く着いたヴェリタスは、マーちゃんにせがまれて果物を買いに行く羽目に陥っていた。

●お茶会は笑顔と共に?
 残るお茶会参加者のヴィーヴィル・アイゼン(ea4582)、ニミュエ・ユーノ(ea2446)、ヴィグ・カノス(ea0294)は、約束の時間に遅れることなく到着した。アデラの他、ルクスとキャシーとサラが作った料理やお菓子がテーブルに広げられたところだ。
 マーちゃんは、ヴェリタスに引っ掴まれてじたばたしている。それを目にして、いったい何事かとヴィーは目を見張ったが、他の二人は一見平然としていた。
 すぐにヴィーも、マーちゃんを解き放つ危険性に気付かざる得なかったが。隙があると、まだお茶会が始まらないのに料理に手を出すのだ。
『利き茶というのは、もっと優雅だと聞いてましたのに』
『本当は洗練されたものだと思うけど‥‥』
『噂からして、主催者がそんな高尚な趣向で開いた茶会とは考えにくいが』
 ちなみにニミュエはイギリス語しか話せない。三人が連れ立ってきたのは、ヴィーとヴィグがイギリス語を解するからだ。ルクスも程々に話すので、三人の会話に上品に眉をひそめてみせた。失礼だと、言いたいようだ。
 とりあえず、代表して最年長に見えるヴェリタスがアデラに挨拶をして、お茶会は始まった。本当の最年長はつまみ食い大王だが。
 始まったと同時に、食べることに専念した者はとりあえずさておき。これはお茶会であるからして、まずはお茶が供される。サラが確認したからと、ちょっと安心していたルクスとキャシーが顔を引き釣らせる。香りとはとても言えない、青臭い臭いがした。
 おもむろに、ヴィグが口を開く。
「これは、何の葉を使ったものだ?」
「えーと、なんでしたかしら」
「今回は毒草はありませんでしたから、飲んでも大丈夫ですわ」
 不安をかき立てるアデラの返答に続いて、サラがにっこりと恐いことを補足する。
「雅びなお茶会は‥‥」
 ヴィーが悲しそうに呟いたが、残念ながら誰も相手をしてくれなかった。
 なお、このお茶会はお茶は全員一斉に、かけ声の後に口をつけるのだと聞いて、彼女は更に悲しくなったようだ。ニミュエには、ルクスが代わりに通訳してくれた。
『それはまた、変わった習慣ですのね』
 華国での作法はと色々言い出したニミュエの話に、ヴィーがすりすりと寄っていったが、ここで『かけ声』が掛かった。
「せーのっ!」
「‥‥なかなか、独特の味わいの、お茶ですね」
 食い気に走った一人以外が、仕方なさそうに口をつけた途端に咳き込んだお茶を、ヴェリタスがこう評した。彼とヴィーだけは咳もせず、じっと耐えている。同じ神聖騎士のルクスが耐えられなかったのだから、そこまで我慢しなくてもいいのではないかとキャシーは思ったが、言ってあげられない。
 と、食い気パラが何かを喉に詰まらせた。唸りながら自分の分のお茶を取り上げ、こともあろうに一気飲みする。
「アデラねえちゃん、これ、まずいよ」
 それ以前に、よくすぐに声が出たなあと、全員が思っただろう。アデラだって、咳をしているのだ。
 そんな彼女が水を汲んでくると席を外した途端に、ヴィーとヴェリタスが喉を押さえたが‥‥周囲はちょっと冷たかった。
「まずいものはまずいと指摘してやれ」
 ヴィグの失礼な言葉を、誰も止めなかったくらいだ。しかし。
『ノルマンのお茶は刺激的ですわ』
「あ、おいらも食べるー!」
 何か勘違いしたらしいニミュエは、用意された香草茶もどきを摘んで匂いを嗅いだり、口に放り込んでいる。利き茶の作法らしいが、あのお茶を飲んだ後でよくそんな挑戦が出来ると、サラまでもが思った。
 マーちゃんについては、誰もが『こういう人』と思ったので止めないけれど。
 と、しばらくして。
『これは良さそうですわ』
「これ、いい匂いでおいしいよー。次はこれ飲もう、これ」
 アデラが戻ってきた頃に、二人が探し当てたのは、並んだ中では見た目も良い香草茶だった。サラがこれこれと入った香草を説明すると、誰もが知っている香草ばかり。
 間にルクスも一通り用意されたものを見て、他にはこれとこれと、飲めそうなものを選んでいた。つまりは他のものは、飲物として適当ではないということだ。
「あら、このお茶会の醍醐味ですのに」
 アデラとマーちゃん以外に睨まれて、サラも全部の味見は諦めたらしい。そもそもアデラが用意したお茶も二十種類はあったから、全部を味見するのは困難だ。
 これでようやく、お茶会は普通のものになったのである。多分‥‥きっと‥‥

●お茶会は笑顔と共に
 キャシーの作ったお菓子は、程よく焦げ目がついていて絶品だった。ルクスの魚料理も、油を大量に使った割には口当たりが良くておいしい。サラの台詞はともかく、差し入れのお茶請けは聖夜祭に付き物のお菓子なので、話題になった。ヴェリダスがマーちゃんに強請られた果物は、とても新鮮だ。
 そんなわけで、ヴィーは最初のお茶の味は忘れて、優雅なお茶会の雰囲気を楽しんでいた。ニミュエが得意気に華国の作法を口にするので、勉強もしているようだ。それが正しいのか、他の誰にも分からないのだが。
 そうして、ヴィグはアデラに向かって。
「今回は毒草は入ってないと言うが、今までどこで入手したんだ?」
 こんなことを尋ねている。彼が冒険者と猟師を兼業していると聞いていなかったら、ものすごく危険な人物になっただろう。
 これに対してアデラは。
「あら、今までだって毒草は入れたことはありませんのよ。単にちょっと量を間違えて、お腹を下したくらいのことですもの」
「それはそれで、何の量を間違えたかが問題だろう」
 あまりにしれっとした物言いに、植物全般に一家言を持つルクスが、深々と嘆息した。サラは経験の差か、その程度ではびくともしなかった。
「アデラ様は、お茶の淹れ方は完璧なんですから、もう少しですわ」
 この時、ヴィグとルクスが表情を変えなかったのは、単に彼らが単に表情を露にしない性格だったからだ。サラの言葉に心から賛同しているのでは、もちろんない。
 その証拠に、ヴィーとヴェリタスとキャシーは、『もう少しなのか?』と言いたげな顔付きになっていた。作法については、この三人も文句はなかったが、味についてはやはりこう、幾つか注文がある。
 会話が分からないニミュエは、相変わらず茶葉を勝手に摘んで食べるし、マーちゃんはもう誰からも何も言われない立場を確立していた。ただ、他人の皿に手を出すとアデラとサラとキャシー以外の参加者からは、注意の実力行使を受けてしまう。
 それでも料理が取り戻せることは、一度としてなかったが。その様子に、ヴィグが『弓があれば』と思ったのは、彼だけの秘密だ。
 そんなこんなで、お茶はルクスが差し入れたものと選んだものを中心に、料理は誰が作ったものでも満遍なく、鶏の香草焼きに至ってはマーちゃんが骨までをしゃぶろうとして、『優雅なお茶会』を夢見るヴィーに手を叩かれる一幕があった程に綺麗になくなった。
 一応、アデラの依頼にあったお茶の味の確認も果たせて、当人も満足顔だ。一つ、やたらと刺激的な香りのするお茶が混じっているが、とにかく聖夜祭での仲間内の集まりに持っていくお茶は決まったらしい。
 一部の参加者が心配した、毒にあたるような事態もなく、お茶会は平和に終わりそうだったのだが‥‥
「毒草が手に入ると思ったんだが」
 あれば幾らでも使いでがあるのにと、まったく悪気なく口にしたヴィグに対して、ヴェリタスとルクスが眉をひそめてたしなめた。不用意な発言で冒険者全体の貶めないようにと、なかなか礼儀にうるさい言いっぷりだ。
 だが、そういう気遣いを全く無にする行ないを散々繰り返してきた者がいるわけで。
「アデラねえちゃん、この果物、残ったのは全部もらっていい? あれ、いないや」
「全部って、それは失礼だよ」
 マーちゃんの遠慮のない言い様に、今度はヴィーが声を上げたが、すでにマーちゃんは果物を抱え込んでいる。
『あら、まだ食べたいのねぇ』
 こういうときには都合の良い言葉が通じないニミュエは、ヴィーを赤面させると、マーちゃんの頭を撫でた。まさに子供扱いで、歌まで歌ってくれたので、ヴィーはますます赤面する。
 挙げ句にマーちゃんが。
「そんなに欲しいなら、半分こだよ?」
 渋々と半分差し出してきた時には、めまいがしたことだろう。隣のキャシーが取り成してくれるのだが、マーちゃんはニミュエの歌に夢中になっていて、聞いちゃいない。
「依頼人がくれると言ったら、貰えば」
 ヴィグが言うのに、キャシーも『その時は仲間に入れてください』と続いたので、多少はめまいも回復したろうが‥‥
 いつもこんな調子だとは知らない初参加者達は、遠慮のない食いしん坊にほとほと呆れることで意見の一致を見たのだった。

●ところで、その頃
 サラは、お茶会をしている前庭から台所を抜けて、家の奥の裏庭にやってきていた。今まで入れてもらえなかった場所だが、春には香草を植えてあげようかと思ったのだ。
 そうして、裏庭を一瞥して、ものすごい勢いで追いかけてきたアデラに向き直った。
「アデラ様、素敵な畑がありますわ!」
「毒草は植えてませんのよ〜」
「ええ、普通のお野菜と普通の香草ですわ!」
 サラの目の前には、かなり広い畑が季節の野菜を実らせている。周囲には鶏がうろうろしていて、鶏小屋も小さくはない。
「アデラ様ったら、こんなに素敵な畑があるのですから、次のお茶は香草を摘むところから始めましょう!」
 あまりにも理想的な畑を前に、サラはアデラを無理矢理に頷かせている。次は来月末と約束まで取り付けたようだ。
 だが彼女は、こんな畑の持ち主のお茶の配合の腕がからきしなことに、何の不思議も覚えなかった。

 結局、マーちゃんのみならず、参加者全員がその日の夕飯も困らないくらいのパンや果物、ゆでた卵を貰って帰ることになった。
 サラが見たものを知らない一行は、一人を除いて訝しんだが‥‥くれると言うものを断る失礼はせずに、持ち帰った。
 幸い、いずれも腹痛などの種にはならなかったようだ。