【黙示録】地の底から湧き出すモノ

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月24日〜11月29日

リプレイ公開日:2008年11月30日

●オープニング

 メイディアから歩くと三日ほどの場所に、鉄鉱山がある。産出量は目立って多いわけではないが、王都から近く質が安定しているので、ゴーレム工房にも鉄を納入している鉱山だ。
 もちろん、作業に従事するのはドワーフ族。彼らは地の精霊への祈りと感謝を忘れず、勤勉かつ豪快に鉱石を掘り続けていたのだが。
 ある日、その坑道の奥からカオスの魔物が湧いて出たのである。

 メイディアの冒険者ギルドに依頼されたのは、まずはこの魔物退治だ。
 目撃情報からして、魔物は小型のものばかり。冒険者ギルドの報告書では、強い魔物の下働きをさせられていることが多い下級と称される魔物だけらしい。
 けれども相手の数は多く、坑道と外を出入りするので正確な数は掴めていない。挙げ句に時期を同じくして鉱山近辺でカオスニアンの集団が近隣村落を襲撃する事件が相次ぎ、鉱山へ向かおうとする者がいると襲ってくる。恐獣は連れているのか分からないが、その警戒も必要な地元は何事にも対処する人手が足りない状況である。
 よって、鉱山から湧いて出る魔物退治の前には、カオスニアン討伐が必要となるのかもしれない。
 そして、このカオスニアン達は魔法援護を受けることがあり、ウィザードに率いられているのではとの証言もあった。

 依頼主側は、鉱山に被害が出ることも已む無し。ともかくもカオスの魔物の出現を止め、すべて平らげ、可能ならカオスニアン達も倒して欲しいとの要望である。
 恐獣への警戒から、モナルコス二機とアルメリア一機、ゴーレムグライダー二機の使用も可能となっている。

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec4873 サイクザエラ・マイ(42歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

 鉱山の入口に繋がる、鉱石を運び出す馬車が通るために幅広く切り拓かれた道はゴーレムが通るにも容易かった。もちろんそれは接近を待ち構えている敵に知らせるものだが、カオスニアンがいれば恐獣への警戒もあり、ゴーレム使用には誰からも異論はない。
 依頼主とゴーレム工房の側から出向いてきた鎧騎士三人と鉱山に詳しいドワーフを二人加えた合計十三名のうち、ゴーレムに搭乗しているのはフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)とベアトリーセ・メーベルト(ec1201)、工房から派遣された鎧騎士の三人だ。冒険者ではもう一人サイクザエラ・マイ(ec4873)がゴーレムを操縦できるが、途中カオスニアンの襲撃が予測されるので他の人々と移動している。こちらは適性の問題だ。
 ドワーフ二人は防具だけはちゃんと身につけているが、戦うことはからきしだそうなので進む隊列の真ん中だ。ウィザードのクライフ・デニーロ(ea2606)とサイクザエラもこの位置。周囲はレインフォルス・フォルナード(ea7641)、深螺藤咲(ea8218)、巴渓(ea0167)、風烈(ea1587)と鎧騎士二人が囲んでいる。
 これでカオスニアンと恐獣が出れば、ゴーレムが恐獣を引き受けることになるだろう。矢と魔法は最初の一撃さえ凌げば、対応可能な魔法と技を持つ者は複数いる。後は奇襲を食わなければいいのだが。
 最初に異変に気付いたのは、レインフォルスだった。道の先を透かし見て、皆の歩みを身振りで止める。
「霧が出ている」
 昼に近い時分のこと、天候も霧になるようなものではなくドワーフ二人がそんな訳があるかと声を揃えたが、烈と藤咲も続いて頷いた。視点が高いゴーレムの三人からは、遅れて『木々の上辺りで半端に霧が消えている』と伝えられた。
 相手方にウィザードがいるのは情報にあったから、ここは当然怪しむべきところだ。
「水の精霊魔法だね。ウォーターボムやアイスブリザードを警戒しないと」
「しないとったって、突破しなきゃ話にならないんだろ」
 クライフの警告に巴が畳み掛けたが、流石にそのまま突っ込んではいかない。あいにくと偵察に優れた者もいないので、中で何者かが待ち伏せているのか、それとも目くらましかの判断をする材料を得るのも困難だったが、答えは相手が先に晒してくれた。
『また意外に小振りな』
 霧の中から飛び出してきたのは、恐獣が一頭。口から泡を吹いた姿は薬が使われているのが一目瞭然だが、フィオレンティナが零した通りに頭の位置が二メートル程度と恐獣の中では小さい。この程度の大きさは、ものによりやたらとすばしっこいことがあるが、これは少し違うようだ。
 一目でそれが何かを見分ける者はいなかったが、モナルコスのベアトリーセ機が向かってくる方向に盾を構え、ドワーフ達を守る体勢を整えた。フィオレンティナ機共々、とうに抜剣済み。アルメリアは弓を手に、霧の向こう側から更に何か来ないかを警戒する姿勢になった。
 どんっと、体の大きさの割に大きな音で猛進した恐獣がベアトリーセ機の盾にぶつかり、フィオレンティナ機が間髪入れずに剣を振るう。
 その時、ゴーレム二機の背後に当たる位置の一団は、アルメリアの足元にドワーフ二人を置いて、藤咲と鎧騎士二人が半円を描くように盾を構えたところ。あまり狙いの精度は高くない矢がぱらぱらと飛んできたからだ。よほど巧妙に隠れたか、ゴーレムの足音に紛れて素早く広がったか、矢の飛んできた方向はかなり広く、遠い。ニ、三本が彼らのところまで届かずに落ちていた。
「隠れて姿を見せないとは、たいした連中だ」
 サイクザエラが魔法を放つ機会を伺いながら吐き捨てたが、新たな恐獣もカオスニアン達も出てくる気配はない。恐獣は、あっという間にフィオレンティナとベアトリーセに平らげられている。
「霧が晴れたな」
 烈が前方の霧が晴れてきたのを見て取る。そこに何もないから恐獣は打ち止めだろう。だがカオスニアンもウィザードの姿も見えない。道を外れれば木々があり、均されていない地面には障害物も多く、どこにいるのかも分からない敵を探して入るのは無謀に過ぎる。それでも飛び出した渓に、何人かが危惧した矢の第二波は襲ってこなかった。
 と、笛の音が鳴る。同時に敵の複数が気配も隠さずに動き出し、盾を構えた三人の背後から他の前衛担当も飛び出そうとしたが‥‥
「逃げていますね。追ってくるのを待ち構えている可能性が高いでしょう」
 気配を探った藤咲が、足音が遠ざかっていくことに最初に気付いた。目が良ければ、一人二人のカオスニアンが振り返りもせずに一心不乱に逃げていくのが見えただろう。何かの合図だろう短い叫びが幾度か交わされたが、いずれもが全力でこの場を後にしていると思しき速度で離れていった。
『鉱山に向かってはいないようですが、警戒を怠るわけにはいきませんね』
 ここでカオスニアンを撃退しておければ、後背から襲われる警戒は不要になったので、ベアトリーセの声は少しばかり沈んでいた。カオスニアン討伐より魔物退治が優先だから追う事は出来ないが、カオスニアン達とカオスの魔物に挟撃される想像は誰にも楽しくない。
 霧が張られていたあたりを確かめ、恐獣を繋いでいたと思しき綱を一本だけ発見し、一行は鉱山の入り口を目指してまた進み始めた。

 鉱山では、四箇所ある出入り口のうち、扉で閉じてある三箇所を更に岩などで塞いでデビルの出入り可能な場所を減らす予定だった。だが相手もただ黙ってそれを見ているはずはなく、
「ゴーレムの武器は効きませんが、殴れば倒れます。まずは盾役を」
 デビルを感知する魔法の使い手はおらず、感知可能なアイテムを持っているのは烈とサイクザエラとベアトリーセの三人だ。稼働時間の限界まで操縦していては後に差し障るので、入口がまだ見えないあたりでフィオレンティナとベアトリーセは鎧騎士二人と入れ替わる。もう一人はサイクザエラが魔法で鉱山入口付近の露払いをしてから交代の予定だ。ベアトリーセの念押しに、鎧騎士達は了解の意を返した。
 そうやって、再度陣形を整えてから坑道入口近くに入り込んだ一行だが、予想通りにカオスの魔物が待ち構えていた。
「インプ、グリムリン‥‥グザファンだな。クルードは見えない」
 事前に目撃情報と自らの知識に山海経も照らし合わせて調べていた烈が、現場で見たカオスの魔物の名を上げた。ジ・アースのデビルの呼び名だが、出身に関わらず全員にちゃんと伝わっている。カオスの魔物なら邪気を振りまく者、酒に浸る者、炎を預かる者といったところ。問題は酒に浸る者は姿を消すことが出来て、見える以外にも数がいるかもしれないことだ。違うものに変身している可能性もある。
 クルードこと霧吐く鼠の名前が挙がったのは、これが霧を作る魔法と同じ効果を生み出すことが出来るから。ウィザードの魔法の可能性は高いが、念のために警戒しておくに越したことはないだろう。
 なにしろ、三つの石の中の蝶は壊れそうなほどに羽ばたきっぱなしだ。
『十三人、揃って来た、揃って来た』
『隠れもしないで、真っ正直』
 坑道から次々と出てくる魔物が、先頭にいた二体の言葉にげらげらと笑う。身構えている一行とゴーレムの姿に臆した様子はない。
『この山、俺達のもの』
「そうはさせるかよっ」
 最初に口火を切ったのは渓で、レミエラの効果で変化したオーラショットが魔物の只中を坑道の入口に向けて走っていく。
 続いてサイクザエラが先程使えなかったファイヤーボムを中空に飛ぶ魔物に目掛け、クライフも同じ魔法を別方向に放った。その横では、クライフのフロストウルフ・ライケスも魔物の群れに吹雪の息を吐いた。これらのいずれかに巻き込まれた魔物は多いが、坑道からはまだ出てくる影がある。中に戻る魔物もいて、正確な数は掴めないがまだ多数いるのだけは間違いがない。
「露払いというには、ちょっと多すぎるな」
 効果範囲が広いと巻き添えの心配があるから、そう無遠慮に魔法を放つわけにもいかない。サイクザエラはその点を嘆いているのか、魔物が湧く様に出るのが嫌なのか。
「まだ突っ込んだら駄目だろう!」
 渓が魔法に巻き込まれてふらふらと低空を漂う魔物を殴りに前に出てしまい、クライフが制止の声を上げたが戻ってこない。なにしろ魔物はこれ幸いと、一人飛び出した渓に群がろうとしているのだ。
 これには烈とレインフォルス、藤咲が前に出て対処し始め、魔物を追い散らした。正確には、それと同時に魔物達が坑道の中に退避してしまったのだ。石の中の蝶の羽ばたきも徐々に弱くなるところを見ると、奥まで逃げているらしい。数では相手が勝り、少なくとも一人は血祭り寸前だった故に不可解な行動だが、この間にやるべきことは幾つもある。
 見張りを残して、ドワーフ達の案内で他の入り口を塞ぎ、アイスコフィンなどで固定する。更に入ってすぐの坑道の道筋と広さを再確認して、魔物達がたむろうならどのあたりか目処を付ける。くまなく坑道全部を巡り、異変がないかも調べたいところだが、それは一日では無理だとドワーフ達に言われたので魔物退治が先となる。
 ならばせいぜい向こうから襲いに来て貰わねばならないので、目処を付けて奥にある広場までは隊列の前の担当をする者達が派手に動くことになりそうだった。
「それでも一体は捕まえたいよね。他所から目的を持って入り込んだのか、中から発生したのか、目的の有無なんかも‥‥白状させても信用ならないのが魔物だけど」
 フィオレンティナの言う通りでもあるが、捕まえるほど余裕があるかどうかは分からない。それをするなら目撃された下級の魔物の中では炎を預かる者だろうと烈が告げた。他と違って地上を歩いているので区別が付きやすいが、炎を使うので無闇な接近戦は難しい。
 ドワーフ達は、デビルの坑道を妨げるレミエラを持っているベアトリーセが近くにいることにし、藤咲が用意していたランタンを持ってもらう。坑道内にもランタンは幾らか設置されているそうで、壊れておらず余裕があれば、順次点灯してもらうことにする。
 先程の派手な出迎えがそのように静まり返っていたが、烈とベアトリーセ、サイクザエラが自分の手に視線を落とした。間髪いれず、フィオレンティナと藤咲が、何もないように見える場所に刃を振り下ろす。姿を消して忍び寄っていた酒に浸る者二体が切りつけられた衝撃で姿を見せて、レインフォルスも加わり止めを刺した。
「こんなに大量に出てくる理由も知りたいところだな」
 レインフォルスの言葉は、皆の思うところだ。
 そうして、外の警戒に当たるサイクザエラと鎧騎士の四人を残して、九名が坑道の入り口をくぐった。

 武装を目掛けて忍び寄ってくる気配に、石の中の蝶の動きと殺気から動きを察して斬り付ける。
 やがて石の中の蝶が役立たないくらいに敵が姿を見せたら、最初はフロストウルフに吹雪の息でまとめて攻撃してもらう。多少足場に不安が出るが、相手に炎の使い手がいるなら有効だからだ。それから後は、入れ替わり立ち替わりで一行が戦うことになる。
 ベアトリーセの持つレミエラの効果があるはずだが、あまりの数の多さはそれを感じさせない。それでもドワーフ二人は取り乱さず、時に二手に分かれることがあってもきちんと道を示してくれた。
「その先が広い。代わりにこの灯りでは端まで見えないぞ」
 元がドワーフ達の動く場所なので、時に冒険者達には狭い箇所もあったが、それは魔物の側も力押しが効かない戦いにくい場所だ。そのせいか、坑道内唯一という話の広場が近付くと次々とそちらに向かって戻っていく。ばさばさと音が反響しているから、相当数の魔物が中で待ち構えているのだろう。
 実に直径が三十メートル、高さが五メートルはあるという、互いにおあつらえ向きの場所だ。あちらは空を飛ぶものが多いため、こちらは、
「先陣は私が」
 相手がこちらの出てくるのを待ち構えている気配の中、十分に詠唱時間を得られた藤咲が、ファイヤーバードで先に突っ込む。その炎で僅かに照らし出された魔物の多数の影に怯むことなく、続々と広場に駆け込んだ一同がほとんど視線だけで相談を交わしたとは思えないほど各方角を網羅して、魔法やコンバットオプション、レミエラやアイテムの能力を解放する。魔法は場所と確実性を考慮して、効果を絞ったものが多いが、コンバットオプションはいずれも全力で、レミエラの効果はここで出せるだけ。
 数え切れない悲鳴の中でも、皆に向かってきた魔物はフィオレンティナとレインフォルスが迎え撃つ。ドワーフ達は壁際で小さくなって、彼らの邪魔にならないようにしていた。
 後はもう、ひたすらに斬り、殴り、塵にし、時に凍らせ。
「どうして、ここに現われたの」
「この中から出てきたのか!」
『そうそう。ここは俺達のもの』
『我々、どこからでも出る、出られる』
 灯りが少ない中で、姿を隠して逃げている存在がいるかもしれないことは皆の頭にあったが、それを気にしていては目の前の敵がおろそかになる。時間にすれば一時間もなかったろうが、随分と長く感じられた時間の後に、襲い来る者がいなくなって‥‥
「お二人とも、お怪我はありませんか?」
「あんたがたの方が心配だよ」
 ベアトリーセが落ち着き払って確かめに来たのに、ドワーフ達は顔を強張らせたままで返事をしたが、敵がいなくなったのが分かると俄然様子が変わった。坑道の中でも、最近採掘が行なわれていた道の様子を確かめねばと、先に立って走り出しそうな勢いだ。これを皆で留めて、また注意深く進んで、目的地に異変の痕跡がないことを確かめた。
 もちろん他のところは分からないので一概に安全になったとも言い難いが、ドワーフ達の安堵の表情は見ている方の気分も和らげる。
 だが。
「姿を消して逃げようとしたのがいたから、それは全部倒したと思うが‥‥確約は出来ないな」
 外に出た一行を迎えたサイクザエラの弁が、まだ不安を少し残していることを示した。
 魔物達は言葉も、ある。

 念のために期間いっぱいに留まってみたものの魔物の再来はなく、またカオスニアンが戻ってきた様子も見えず、一行は迎えのフロートシップに乗り込んだのだった。
 同行していた鎧騎士達によれば、鉱山管理者の貴族が更に念入りにカオスニアンの動向は調べるつもりであるという。
 魔物が出たら、その時はまた依頼が出ることになる。