【黙示録】湖に漂う悪意
|
■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 92 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月28日〜12月06日
リプレイ公開日:2008年12月09日
|
●オープニング
キエフから歩いて四日くらいの、ドニエプル川沿いに湖がある。より大きな湖なら幾らでもあろうが、近隣の人々がこの湖を特別なものだとしているのは精霊が住んでいると伝えられていたからだ。
今年の初めに、実際に水の精霊フィディエルがいることがある事件で分かり、以来近隣の村では今までに増して湖と精霊を大事にしてきたが、最近はそれを付け狙う者達がいる。
人数は二十名前後。人間がほとんどだが、エルフとパラも混じった悪魔崇拝の徒が、湖周辺の村々を襲撃するようになったのだ。村人と比べて格別強いわけでもない徒党だが、時折デビルの加勢があり、もっとも規模の小さい村が占拠された。
現在はその二十名前後が、村を乗っ取っている。
ただし村人は大半が事前に逃げ出しており、残っているのは老齢の村長の他、老人ばかりが合わせて六名ほど。いずれも村の重鎮だが、足が弱っていて逃げるに足手まといと自ら残留を決めた人々だ。
数名でも村のことが分かる者がいれば、建物が不要に壊されることもなく、逃げた村人を追う可能性も低くなろうと願っての行動でもある。六人とも殺される覚悟で残っているが、人質として捕らわれているようだった。
もちろん逃げた村人は近くの村に女子供を預け、近隣の村々の応援も得て、この悪魔崇拝者達と戦うつもりでいた。
しかし、ここに加わったのが精霊の一団である。湖にいるのはフィディエル一人だが、周辺の森に子供と雪だるまの集団が現われて、件の村を包囲し始めた。フィディエルと共に、彼らは悪魔崇拝者とにらみ合い、時折小競り合いを繰り返しているようだ。
ようだとなるのは、村人が近付こうとしても子供と雪だるまの集団に阻止されるからで、詳しい状態がわからないためである。それでも人質の様子だけはフィディエルが教えに来てくれたので、なんとか助けに行きたいと願ったところ、冒険者を連れて来いと言われたそうだ。
「デビルが来るの。だから来てって言って」
人と交わるようになって、大分会話が滑らかになったフィディエルだが、冒険者がただ呼べば来るものではないことまでは知らない。
けれども村々も自分達の土地と命が掛かっているため、有り金抱えた代表者を冒険者ギルドまで寄越したのである。
●リプレイ本文
若い娘の姿をした精霊フィディエルだが、他の二人に先行したウォルター・ガーラント(ec1051)が接触を持てた時には不機嫌も露わな態度だった。聞けば、数時間前に子供と雪だるまの精霊達、前者がアースソウル、後者はスノーマンが問題の村に突撃したのだが、相変わらず炎で追い散らされてしまったのだ。
アースソウルは森を守る大地の、スノーマンは冬に現われる雪の精霊だから、どちらも炎と相性が悪い。スノーマンの相当数は体を溶かされて、アースソウルの看護を受けているそうだ。それは多分、ウォルターの背後で子供達が半分溶けた雪だるまを作り直している光景のことだろう。
「作り直せば、まだ万全に動けるようになりますか?」
『ちょっと鈍くなるかしら? 魔法は使えるわよ』
占拠された村から悪魔崇拝者達が出られないのは、アースソウル達が交代でフォレストラビリンスを仕掛けているからだ。そこだけは何とか保っているが、それ以外の魔法攻撃がどう聞いてもちぐはぐで決定打を与えられないでいる。魔法が使えるのはフィディエルも同じだが、戦闘の指揮など出来ないので、アースソウルやスノーマンとの協力が出来ていない。だから一時的に数名の敵を前後不覚にしたりは出来るのだが、それを捕まえてどうこうするとまではいっていないようだ。
村人も度々精霊の後ろから村まで戻ろうとしているのだが、フォレストラビリンスで元の位置に戻らされたりして、事態は見事に膠着している。
「デビルは?」
『昨日いたから、あさってに来るわよ』
ウォルターと、現在こちらに向かっている陽小明(ec3096)、ウェンディ・リンスノエル(ec4531)の三人が最も気に掛けているのは、デビルの動きだった。これはおおむね三日ごとおきに姿を見せ、悪魔崇拝者達を叱り飛ばし、精霊達と小競り合いをして、また姿を消すらしい。多くはこのところあちこちで姿を見せるインプのようだが、中に炎を操るデビルが混じっていて、これが出てくると精霊達は分が悪い。一度フィディエルが水攻めにしたのだが、もう少しのところで振り切って逃げてしまったそうだ。
「あさってですか。では、明日は情報収集に費やすとしましょう」
三人の冒険者が出発前に相談したのは、方法については幾つか案があるものの、二十数名の悪魔崇拝者達を分断の上で撃破して総数を減らし、可能なら一人二人は捕らえて情報を引き出しておくというものだ。デビルが居座っていれば通用するか危ぶまれる計画だったが、現われる日が分かっているのなら対処もしやすい。
ウォルターに遅れること半日あまり、日が暮れる頃合になって村に着いた小明とウェンディは事情を聞いて、村人が描いてくれたおおまかな地図を前に計画を煮詰め始めた。なにしろ少数ずつ撃破するなら、悪魔崇拝者達に村から出てきてもらわねばならないのだ。ただし相手の細かい特徴などは、精霊に尋ねても無駄。それでもスノーマン達が大分やられたことで、いずれも話を聞く姿勢を持っていたことはありがたい。
後は翌日になってのことだったが、意気盛んな一部の村人を小明とウェンディが『デビルとはいかに危険か。また倒しにくいか』を説明し、戦線に立つのを諦めさせる説得を繰り広げた。それでも悪魔崇拝者の誘き出しの役割を一つ割り振ったので、村人達は直接力になれずともと意気盛んである。
「最近のデビルの行動に対して、何か伝えたいことがあるのですか?」
そこまでの仕事を済ませて、フィディエルに誤って攻撃されないようにと顔合わせをした際に、小明が問い掛けたが、語彙が不足しているらしい相手は簡潔にこう述べた。
『うんと悪い奴が出てきたから倒して』
名前は『アラなんとか』。細かいことは不明だが、フィディエルもアースソウル達もやってきたではなく『出てきた』と口を揃える。何度か尋ねているうちに、小明にも『封印から解放された』と通じてきた。悪魔崇拝者がそれの意向で動いているかは分からないが、切っ掛けの一つではあるのだろう。
「デビルに訊く方法もありますが、あやつらの言うことは信用なりませんし、耳を傾けて隙を作るわけにも参りませんね」
ウェンディはうんと悪い奴こと高位のデビルの動向を探るより、目の前の出来事を解決するほうに注力すべきだと言い、他の二人も異論はない。人数もおらず、また人質の存在もあるのだから、あれこれ欲張るものではなかった。
村人にはウォルターと小明が一度偵察に向かい、選んだ地点で複数の火を焚いてもらう。更に精霊達に件の村へ襲撃をかけてもらい、出てきた悪魔崇拝者を片端からのしていくのが作戦だ。可能なら捕らえて、人質の様子や村の中のどこにどういう配置で人がいるのかを白状させ、最終的な戦闘に備える。デビルは相手の数により、退治するか追い払うか流動的になるだろう。基本は、出来るだけ退治。
作戦の周知までに大分時間が掛かったが、午後には最初の襲撃が行われた。
件の村が見える位置に、付いてきた若者達が盛大な篝火を起こす。まだ日中のこととて、目立つように大量の煙を上げていた。それが幾筋も昇っていくのは、人手が多いように見えなくもない。
けれども実際は、それを遠巻きにした雪だるまと子供の集団に水辺にはずぶ濡れの娘という、一見すると襲撃とは思えない状況だ。
「デビルがいたら、すぐに知らせるように。また合図があったら、迷わず戻ること。いいですね!」
生来の性格が人前で話すほうではない小明とウォルターは指揮に向かず、多分の心得があるわけでもないがナイトのウェンディがその奇妙な集団を率いている。当人も子供と雪だるまに了解の合図で拳を突き上げられるのは変な気分だろうが、そこはそれ、切り替えが必要だ。精霊達の統制が失われた結果、皆が危険な状況に陥ることだけは避けなくてはならないのだから。
「よし、進め!」
ウェンディの号令で、アースソウル達が二人で一体の割合でスノーマンを持ち上げる。両者の移動速度が合わないので、いつの間にかそういう移動を憶えたようだ。
ウェンディの表情が少しばかり引き攣っていたとしても、誰も不思議には思わなかっただろう。けれども別の道から村に近付いているウォルターと小明は、それを目にすることはなかった。
やがて。
村からは異常を察知したのだろう男達が、数名道をやってきた。相手が火を怖がることを知っているから、明るい時間なのに松明を持っている。今まではここに子供と雪だるまが各個で体当たりをしたり、魔法で驚かせたりしていたのだが、今日は集団戦を指示してある。それも、魔法中心だ。
いつもと違う様子に敵がひるんだところに、ウェンディのソニックブームとスマッシュEXの合わせ技が飛ぶ。きちんと数えれば五人いた相手のうち、直撃した一人は倒れて動かなくなった。当たり所が悪くて、失神したようだ。
他の四人はこれまでとの違いにとっさに対応出来ずにいたところを、一人はウォルターの矢で射すくめられ、もう一人は小明に叩きのめされた。残る二人は、集団で襲い掛かってきた雪だるまと子供に踏み潰されている。
「ま、目的は達成されましたからよいでしょう」
ウォルターは慌てるでもなく言い切ったけれど、素直にそれを受けるにはやはり変な光景である。
その後、似たような方法でもう二回悪魔崇拝者を誘き出すことには成功したが、流石に全員捕らえたのは先の一回のみ。最後の三回目は異常に気付いたと見え、武装からして違っていた。流石に寄せ集めの精霊では太刀打ちできず、大半が逃げおおせてしまう。
この三回で捕らえたのは、総勢十名。フィディエルがその才能でもって尋問してくれたところによれば、悪魔崇拝者は二十一名。約半数を捕らえたことになる。
人質になっている老人達は、敬老精神の欠けた悪魔崇拝者達の食事作りや雑用で扱き使われているが、それがために一人も欠けることなく村の中にいるという。そこまで白状したので、捕らえられた十名は村人に縛り上げられて見張られることになった。
「向こうも警戒しているだろうから、さてどうしたものか」
流石に体力に自信があろうと、一日掛かりの待ち伏せと捕り物は気力と体力を消耗する。それでも夜には少し強い小明が二人に尋ねた。どちらも魔法を使うわけではないから、このまま村に攻め入ることも出来るが‥‥
「どうせ警戒しているのでしょうから、疲れるまでやらせておきましょう」
それで明け方に強襲して、デビル共々退治できれば一番だ。デビルが来る前に悪魔崇拝者を倒して、別個に迎え撃てればもっと良い。ウェンディが言うのに反対する理由は、冒険者の二人にはない。
この日、ほとんど出番がなかったフィディエルは不満そうだったので、深夜にアースソウル達と一緒に度々咆哮をあげて、悪魔崇拝者達を牽制してもらうことにした。スノーマンは寒さをものともしないので、周辺で見張りである。
そうして、翌早朝。まだ空が白むには少しばかり時間がある頃。
もやと化したアースソウルに付き添われたウォルターが、件の村の近くまで先行していた。村までの距離は相当あるが、明るくなければ彼には十分に見える位置に潜む。村人から人質の老人達の背格好や特徴は聞いているから、それ以外は全て射倒すつもりだ。同時に人質の保護に、やはりもやになったアースソウルが向かってくれていた。子供以外の姿が取れるのなら、この際は何でも活用しなくてはならない。
ある程度の戦力減がなったか人質が確保されたところで、時期を合わせて、小明とウェンディは村の中に突撃を図る。付き従うのは相変わらず雪だるまと子供の姿の集団だが、効果的に魔法を使う指示が出来れば十分に戦力だ。デビルが出たら、フィディエルが応戦に加わってくれる。これまでにも精霊を狙っていた節があるデビル達は、フィディエルを捨て置かないだろう。
空が白んできて、北国の遅い夜明けが近付いた頃、村の中から咆哮があがった。アースソウルの合図だ。それに驚いて、建物の中や村の各所に潜んでいたと思しき連中が出てくるのを、ウォルターは予定通りに射る。
数名がその餌食になったところで、村の周囲を囲んで鬨の声があがった。いずれもが無害なアースソウルの咆哮だが、全方位からだと実際の敵がどこから押し寄せるのか迷うだろう。その間に音を気にせず村までの道を走ったウェンディと小明と精霊達がそれぞれの技と魔法と、雪だるまは重量とで、目に付いた相手を片端から攻撃した。
「デビルはっ」
『いないよ』
『みえなーい』
ウェンディの問い掛けに、アースソウルが口々に答える。
「捕らえた人数を確認してください」
『しんだのはどうする?』
『まとめてかぞえる?』
小明の指示にも、次々と応えてくる。
合間に魔法を放ち、捕らえた悪魔崇拝者を身動き取れなくしたりと、結構な働きぶりだ。
スノーマンも被害を厭わず敵に向かい、村の制圧は予想以上に手早く終わった。なにしろウォルターが駆けつけたときには、捕らえた敵を縛り上げる仕事しかなかったほどだ。
人質達も多少衰弱していたが、いずれも命に関わるほどではないのを確認し、今日も村が見える位置で待機している村人達に引き渡せるかと思ったけれど、それはアースソウルとは違う咆哮が妨げた。
フィディエルがあげた、束縛の咆哮だ。デビル相手以外では、冒険者達が巻き込まれるので使ってくれるなと言っておいたのだが、
『おまえ達、うるさいーっ』
湖の上に現われた十数体のデビル相手にフィディエルが叫んでいる。それに声を掛けることもせず、ウォルターの弓弦が鳴り、ウェンディの技が放たれる。距離を置いた攻撃方法がない小明は、精霊達への指示担当だ。
魔力を帯びた武具から放たれる矢と衝撃波が群れ飛ぶデビル達の羽を痛め付け、アースソウルとスノーマンの魔法がデビルの固まっているところを狙って飛ぶ。精霊に攻撃魔法の使い手は少ないが、ウェンディとウォルターの攻撃に、フィディエルの魔法も入ると相応の威力だ。
『精霊のくせに生意気なっ』
『デビルが偉そーにっ』
言葉尻だけ耳にしたらひどく低俗な争いだが、冒険者三人は言葉を交わす暇もなく、攻撃を続けていた。ウォルターは村人が補充してくれた矢も使い切る勢いだし、ウェンディは行き着く暇もなく魔槍を振るっている。それらの攻撃で水面に落ちたデビルは、小明によって塵に戻された。他にも、水面には塵が降っていく。
相当数のアースソウルが悲鳴と共に姿を消したり、スノーマンが体を半ば以上崩されたりしたものの、不利を悟ったデビルは途中から逃げ出し始めた。それを追跡するには方法がなかったが、現われた半数以上は退治したようだった。
精霊達はなおも血気盛んだったが、冒険者達がいた期間にデビルの襲撃はなく、どうやら侵攻は一段落したものと考えて良さそうだった。
『次に来たら、数の力で叩いてやる』
フィディエルの勇ましい宣言には、三人共に色々と注意を促したが‥‥効果は薄そうだと、意見が一致している。
次がないに越したことはないと、その意見も三人とも同じだったが、何かの前触れのような気がしてならなかった。。