お子さま自警団暴走中
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや易
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月21日〜12月26日
リプレイ公開日:2004年12月29日
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●オープニング
『聖夜祭』。年末年始の二週間続くジーザス教の行事であると同時に、冬の貴重な祭りであるそれが直前まで迫ったこの日、冒険者ギルドに結構身なりのいい男がやってきた。
「子守り?」
係員が怪訝な顔をしたのも道理。冒険者に子守りを頼まなくても、それ専門の人材は他所で紹介してもらえる。それとも、普通の子守りでは手がつけられないような暴れん坊でもいるのだろうか。
「歳は五歳くらいから、せいぜいが十歳になるかどうかだ。ああ、人間の感覚でな。人数は良くわからねぇ。なにしろちょこまかちょこまか逃げやがるもんでよ」
「人数が分からない? ということは、それは子守りではないんじゃ」
ここにくるからには、それは当然と男に頷かれて、係員は納得した。
男の依頼は、こうである。
彼は港近くの倉庫の幾つかを管理する仕事をしているのだが、先日のドラゴン騒動でうち二つが壊されてしまった。他に一つ、尾で屋根を叩かれて、一部が崩れそうな建物もある。
なんとか聖夜祭までに、その倉庫の荷物を綺麗に整理し、しかるべきところに引き渡したり、他所の倉庫に片付けたりしたいのだが、なにより崩れた倉庫の後片付けで忙しいところだ。
ところが。
「そこに子供らが入り込んで、いたずらをするっつうわけですか」
「いたずらと言うかな。最初に見つけたガキに話を聞いたら、倉庫に来る悪い奴を待ち伏せてると言いやがる。どっかで、宝物を狙う悪党の物語でも聞いたんだろ」
「ははあ、自警団気取り」
まさに係員が言うとおり。
子供達はどこかで聞いてきた噂話を元に、崩れた倉庫周辺に悪党が来ると信じ込み、それを捕らえてみせようと張り込みをしているようなのだ。もちろん管理者である男も、その下で働く人々も、危ないので自警団ごっこは他所でやって欲しいと思っている。
だが、子供達にそう言うと。
「こっちが悪党呼ばわりされて、中には石を投げられた奴までいる。そりゃあこっちも頑丈に出来てるが、万一ってこともあるしな」
そしてなにより、倉庫が崩れてからこっち、中に入った荷物を盗み出そうとする出来心の奴から本職らしい盗人までが、時折倉庫近くに現れるのだ。子供達がそれに出会ってしまったら、何が起きるか分からない。
もちろん警備の人手は手配している男だが、専門で子供達を捕まえて、説教してくれる人材の手配にやってきたのだ。要求はとにかく素早く、そして完璧に、問題なく子供達が倉庫近辺に近寄らないようにして欲しい。
至極まっとうな話であった。ただし。
「こっちは素早くって言うんだから、報酬は歩合で行こうぜ」
「それは条件によりますね。あんまりケチると人が集まらないから」
「一日目で問題を無事に解決したら、冒険者一人当たりに金貨一枚と銀貨二枚。代わりに一日過ぎる毎に銀貨二枚ずつ減らす。なにしろぐずぐずしてると聖夜祭だ。ガキどもを大事な祭りの時にまで、ごっこ遊びさせるわけには行かないからな。ちゃんと教会に行かせなゃなるまい?」
この依頼人、金に渋いが、案外信心深いようだ。
更に付け加えて言うには。
「もしも、冒険者の手抜かりでガキどもが怪我した場合には、そいつは顔の形が変わる覚悟をしてもらおう」
「盗人に行きあったら、どっちの責任で?」
「その時はガキを無事に助けるのが優先だから、後で相談するさ。こっちの手抜かりなら殴られて当然だろ」
警備の人手は増やしておくよと言い置いて、依頼人は足早に帰っていった。
ちなみに子供達は最低でも八人以上、ドワーフやパラの子供が複数とシフールの子供が最低一人混じっているそうだ。
「それはまあ、面倒な鬼ごっこだな」
確かに、係員の言うとおりかもしれなかった。
●リプレイ本文
●襲撃は三日目のこと
いかにも怪しげな女が倉庫街に現れたため、おこさま自警団はもちろん後を追いかけ始めた。一緒に行動する許可を得たエルフのおじいちゃんとシフールのお兄ちゃんも同行する。
追いかけられている『怪しい女』も、それを追っている『依頼を受けた冒険者』も、わさわさ歩いている子供達の気配など丸分かりだが‥‥ここで笑ってはいけない。当人達は大真面目だ。
他にすでに振られてしまった宝の地図作成者とその協力者、仲間に入れてもらえなかったお姉さん達が尾行しているが、これまた子供達には気付かれていない。前を見るのに一生懸命の彼らは、後ろなど見ていないからだ。
そんな彼らの前を、怪しい女が壊れかけた倉庫の角を曲がった脇道に曲がっていって‥‥次の瞬間に飛び出してきた。子供達の幾人かが、制止を振り切って角を覗こうとした途端のことだ。
「賊ですわ。逃げなさい!」
きょとんと立ち尽くした子供達の前に、怪しい女とはまったく別の男が数人、後を追うように姿を見せた。彼らも追跡者には気付かなかったようで、物も言わずにナイフを抜いて‥‥
●手強い子供達
倉庫の管理人から依頼を受けた冒険者達は、まず何人かが現場の確認に出向いていた。自分達が盗賊に間違えられては困るので、現場の警備をしている一人に付き添ってもらった上でだ。
しかし『其処比処が侵入しやすそう』と実演付きでゾナハ・ゾナカーセ(ea8210)が指摘してやったり、『これがなかなか動かせなくて』と言う大きな土台石の崩れたものを御影紗江香(ea6137)が道端に押しやったり、不意に『ああ、早くしないとあれが』と嘆くダージ・フレール(ea4791)が口走るものだから、付き添いは終始顔が強張っている。もう一人のシルフィーナ・ベルンシュタイン(ea8216)がナイトでなかったら、彼らこそが怪しい輩に思われたことは間違いないだろう。シフールのダージに至っては、時々酔っ払っているかのようにふらついた飛び方をするし。
まあ、その直前に警備の人々が姿を見付けて追い返したという子供達が走り回る範囲を確認して、四人は共通した認識を持つに至った。
「そんなに面倒な場所なのかな。やっぱり危なそう?」
ぼろ布などを詰め込んだ袋を抱えた和紗彼方(ea3892)が、裁縫の最中のマグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)に、選んだ端切れを渡してやりながら首を傾げていた。四人に頷かれて、マグダレンに服の肘に継ぎをあててもらっている最中のアムルタート・マルファス(ea7893)と渋い顔付きだ。その傍らでは、メロディ・ブルー(ea8936)が別の服を手に、こちらはわざと鉤裂を大きくしているらしい。
総勢八名の冒険者は、ゾナハとダージ以外が女性だった。それが理由ではないだろうが、まずは子供達に接触しようとする面子の服装を整える様子がめまぐるしい。
アムルタートが管理人から子供の服を借り受けて、マグダレンが寸法直しをしている。彼方が荷物持ちをしたので大量に買い込めたらしい布地を手に、肘と膝に継ぎをあてる念入りさだ。ついでに、次の作戦になる紗江香の変装用衣装にも派手で怪しげな縫い取りをしてくれた。メロディが作った鉤裂と合わせて、見るからに怪しげ。
一同の認識は、『言っても聞かないだろう』で一致している。それが有効なら、こうして依頼など来ないのだし。それで皆が持ち寄った案を突き合わせて、まずは子供達の興味を別のものに反らせないか試してみることになった。そのために彼方とマグダレンが買ってきたのが、『宝物』の材料である。布製の人や動物、ドラゴンも象った玩具が、見る見るうちに出来上がっていく。この間に、彼方が『宝の地図』をぼろ布に書き終えていた。
準備が終われば、それを上手に子供達に見せつけて、興味を反らさねばならないのだが‥‥
色々と準備していた一日目の夕方のこと。
「せっかく、魔法が使えるって売り込みましたのに」
アムルタートが継ぎのたくさんあたった服のまま、シルフィーナに嘆いている。彼女は子供のふりをして、自警団ごっこに潜り込もうとしたのだが、かえって怪しい奴として追い返されてしまった。魔法使いだって仲間には出来ないと、子供達は考えられているらしい。
なぜだろうとシルフィーナが依頼人に尋ねてみたが、これは依頼人にもよく分からなかったようだ。
ともかくも、一日目は『宝物』を用意して埋めたり、子供達に当たって砕けて終わってしまった。
「飯代はツケていいが、報酬は削るぞ」
依頼人の言葉に、ダージが瞳をうるうるさせたが、そういう約束だから仕方がない。
●ともかくも潜入
二日目。それは悲鳴で始まった。
「おじさん、どこから来たの?」
網を被せられ、同族の子供に尋問されているのはダージだった。網を持っているのはジャイアントの子供で、ダージは逃げようがない。大人と子供のはずだが、種族の差はいかんともしがたかったようだ。
「こんなことしてると、家族の人が心配するよ。やめなさい」
網の中から言ってはみるが、子供達は捕まえた『悪い奴』をどうしようか話し合っている。小さな子供までが真面目な顔をしているのは微笑ましいが、昨日のアムルタートといい、片端から怪しい奴と言われては依頼が果たせない。
「うぅ、アレの手付け金が‥‥」
網の中でダージも嘆いていると、不意に位置が高くなった。振り回されては大変と身構えたが、降ってきた声は知っているものだ。
「いくらなんでも、こういうことはよくないな。ほら、手を離しなさい」
いつのまにやら近付いてきたゾナハが、ダージの入った網を取り上げようとしていたのだ。子供達も気付いていなかったから、何人かは驚いて泣き出した。年長の子供が、そうした子達の手を掴んでいるのは、なかなか感心な光景だが。
「この人は、私の知り合いだよ。私達はほら、警備のお手伝いだ」
さすがにこれは問題があると、子供達も顔のわかる警備の担当者をつれてきたゾナハは、ダージを網ごと子供達から救い出した。挙げ句に、誰もが予想をしなかったことを言う。
「ここの管理人に頼まれてね、君達を訓練してあげることになったんだ」
後ほど、ダージに聞いてないと言われたゾナハは『そう言えば、素直に後を付いてくるだろう?』と口にしたものだ。アムルタートが突っぱねられたことで、彼方とマグダレンが仕込んだ『宝の地図』か、紗江香とメロディが準備した『偽の悪役退治』のいずれかに話を持っていくにも、子供達の警戒心を解く必要があると考えたのだ。この辺は年の功だよと、ゾナハは笑って語ったものだ。
ついでに、彼らが自警団ごっこを始めた理由も、ゾナハが聞いてきてくれた。
●解決前に無理難題
子供達が自警団ごっこを始めた理由は、案外と真面目なものだった。全員で十四人いた子供達を揃えて依頼人の前に連れ出すと、依頼人もすぐに理解したようだ。
「父親の代わり? へえ‥‥」
メロディがなんとも言い難い表情になったその理由は、子供達の親にある。基本的に近所の仲良し集団だが、その内何人かの父親は依頼人の下で働いているのだ。
ただし、先達てのドラゴンの襲撃の際に怪我をして、まだ仕事に戻れていない。おかげで警備の手が足りないとどこかで聞きつけた子供達が、自警団の真似事を始めたようだ。
「それじゃ説得なんか聞くはずないね。宝の地図も‥‥」
「厳しいかな、やっぱり」
この倉庫街を『仕事場』と定めている彼らに、よそへ行けと言っても聞き入れまい。それはシルフィーナが指摘するまでもなく、マグダレンと彼方にも分かった。
依頼人を含めた七対の視線を受けて、紗江香が軽く肩をすくめる。
「では、メロディ様にお願いしましょう」
メロディとマグダレンにあからさまに怪しげで、依頼人に『見た目が悪くなるってどうなんだ』と溜め息を吐かせた化粧をしてもらい、紗江香は黒っぽいマントを被った。どこから見ても怪しい女の出来上がりだ。
後は子供達をつれて見回りの訓練をするゾナハとダージが、皆の待ち伏せている道に子供達を誘導して、紗江香を追いかけさせ‥‥
●未来へのきざはし
いかにも怪しく見えるように、忍者刀を持参して良かったと、紗江香はナイフを跳ね上げながら思った。海賊残党か盗賊か、なんにせよいきなり刃物に訴えるあたり、相手は真っ当な職業ではあるまい。
初撃を紗江香が防いだことで、子供達も我に返ったらしい。ここでも年長者が小さな子供の手を引いたり、抱え上げたりしている。逃げるまで至らないのは、やはり混乱しているからだろう。ともかくゾナハの側にはいる。
この間に、シルフィーナと彼方が前に出た。シフールのマグダレンとダージは上空から、賊に接近する。相手の数が六人と数え上げたのはマグダレンの方だ。
「ふふっ、強制排除だ」
言ったダージが何もしないうちに、シルフィーナが鞭を振るった。彼方はナイフをかざして賊を牽制している。
彼らはもちろん、この隙にゾナハが子供達をつれて逃げてくれるよう願っていたが、なにしろ全部で十四人だ。ゾナハと傍らに駆けつけたアムルタートに年長の子供が頑張っても、どうにも小さな子供を抱えきれない。すると手足にしがみつかれて、結局逃げ出せないでいた。
それでもなんとか一人を背負い、もう一人を抱きかかえたジャイアントの子供が、賊を睨み付けたままに立ち尽くしたメロディに目を留めた。
「お姉ちゃん、こいつ、抱っこして!」
子供達は、彼女の目が赤く変わっていきかけたことなど、まったく気付かなかったようだ。『こいつ』とメロディに押しつけられた子供は、そのまま力一杯彼女の首にしがみついた。下手をすると息が詰まるが、それはアムルタートやゾナハも同様で。
三人が子供達と共にその場を離れたときには、六人いた賊の内の一人は、完璧に行動不能に陥っていた。ダージがアイスコフィンで見事に固めてみせたからだ。当人は空中で得意顔である。
残る五人を前と横に置いて、紗江香が仲間に離れろと身振りで示す。事前の打ち合わせが功を奏して、賊以外の全員が素早く飛び離れた。風上に向けて。
ジャパンの忍者の春花の術、これを初めて見た者は冒険者にもいたかも知れないが、子供達はもっと目敏かった。わーきゃーうぎゃーと、何を言いたいのか分からない叫び声がザナハとアムルタートとメロディの耳元でする。
その間に、マグダレンが寝入らなかった賊にダーツを突き立てて、降伏勧告をしていた。実はちょっと狙いが外れたが、この際相手が降参すればいいのである。
「もっと、見た目がよろしい服装を心がけるべきよ」
「醜いのってサイテー」
一目で怪しい奴と分かるぞと、マグダレンとダージに断言された賊六人より怪しげな姿だった紗江香は、シルフィーナと彼方に引き摺られるようにしてそこから退場した。子供達は、彼女も賊だと思ったようだが‥‥後で顔を合わせても訝しむ様子もなかったので、化けた甲斐があったと言うものである。
メロディは、この時もしがみつかれた子供に首を絞められかけて、今にも泣きそうな顔をしていた。
こうして、子供達は三日目にして『悪い奴らが捕まるところ』を目撃した。よって依頼人からの『もう見張りはいらないから』との言葉にも頷いたけれど‥‥もちろん不完全燃焼だ。結局は怪しい奴を見付けたけれど、いいところは全部警備の人達に取られてしまったと思っているのだから仕方がない。
と、彼らの前に差し出されたのは、なにやら書かれた布きれが一枚。受け取った子供達の中に読み書きが達者な子がいて、訳の分からない文面を皆に読んで聞かせている。
「大きくなって、お父さんみたいに働きたいなら、今から訓練だよ。それ、宝の地図ね」
彼方が横から皆の顔を覗き込んで、にこっと笑う。『本物?』と尋ねられて、てへっと舌を出したので、子供達は唇を尖らせた。と、マグダレンが一人の額をつつく。
「宝物はちゃんとあるのよ。お父さん達が喜びそうなもの。頑張って探してみてね」
皆の分もあるからねと言われた途端に、なんだろうと地図の上に頭を寄せあった子供達を眺めて、シルフィーナがちょっと首を傾げた。確か『宝物』は玩具とお菓子だったはずと、二人に視線を向けると‥‥
「依頼人が何か追加してくれたらしいな」
ゾナハが、そう教えてくれる。
ちなみに隠し場所もちょっと変更、近くの教会に箱を預けた。何がなんでも、依頼人は子供達を教会に行かせたいらしい。
「よし、じゃあ、一緒に捜しに行こう!」
やたらと威勢の良い声に皆が振り返ると、ダージが拳を振り上げている。子供達もそれに倣って、当てずっぽうに走り出していく。あの調子では、教会までたどり着くには少し掛かりそうだ。
そうして、残った面々は。
「この先の店に、この時期だけのお菓子があるんだって。行かない?」
彼方が満面の笑みで提案したので、揃って出掛けることにした。
聖夜祭の夜。
聖ニコラウスを待つほどには子供ではない人々は、子供達が『宝物』を捜し当てたとの吉報を耳にした。
その後に口にしたものは、いつもよりおいしい気がしたかもしれない‥‥