開拓計画 〜ドラゴン捕獲

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 21 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月17日〜12月25日

リプレイ公開日:2008年12月28日

●オープニング

 キエフから歩くと二日ほどの森の中に、開拓中の村がある。
 統治者のアルドスキー家の主たる領地からは飛び地の上、当初予定していた入植者とは別のエルフたちが住みついたりと色々問題は多いが、なんとか冬越しに心配はない程度の生活が出来るようにはなっていた。
 ところが、外に置いていた桶の水が朝には凍るこの季節になって、村の近くに珍しいものが現われたのである。
 フィールドドラゴンだった。

 この開拓村は、村人の大半がデビルなどの活動でもといた村を滅ぼされたエルフ達だ。それにアルドスキー家から派遣された代官達と、教会を預かる修道女がいて、一応代官の一人が村長代理である。
 けして規模が大きいとはいえない開拓村では、通常はフィールドドラゴンは退治すべきものだ。そうでなければ、追い払うだろう。
 しかし、アルドスキー家ではここ数十年フィールドドラゴンを所有しており、当主かその息子が乗りこなしていた。戦闘馬に比べても飼うのに費用がかかるし、乗りこなすまでの苦労が大きい生き物だが、貴族とは見栄を張るのも家業のうち。飼育する財力があり、乗りこなす騎士がいるのはそれなりに自慢の種なのである。
 つまり、開拓村の人々がフィールドドラゴンを捕らえ、領主に上納すれば、来年の租税減免が受けられるくらいに貴重だ。うまくすれば、再来年の税も免除してもらえるだろう。そうしたら村の生活に余裕が出来る。
 こうした判断は代官達のものだが、村人は話を聞いて、さっそく捕らえに向かった。
 そして、一日足らずで蹴散らかされて帰ってきたのだった。
「三頭もいるなんて、聞いてない!」
 そう。
 フィールドドラゴンは三頭もいたのである。
「冒険者の皆さんをお願いしましょう」
 村長代理の決断は、素晴らしく早かった。

●今回の参加者

 ea4104 リュンヌ・シャンス(36歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5886 リースス・レーニス(35歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 ec1051 ウォルター・ガーラント(34歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec1983 コンスタンツェ・フォン・ヴィルケ(24歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ec5023 ヴィタリー・チャイカ(36歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

フランシア・ド・フルール(ea3047)/ エリーシャ・メロウ(eb4333)/ ジルベール・ダリエ(ec5609

●リプレイ本文

 フィールドドラゴンを捕らえて税を軽くしたいと計画している開拓村までは、キエフから徒歩二日。集まった冒険者五人は、馬やアイテムを融通しあうともっと早く開拓村まで到着出来る算段が出来たが、その前に寄った場所がある。開拓村の領主アルドスキー家の別邸が、キエフ近郊にあるのだ。
 以前にリュンヌ・シャンス(ea4104)がまさにフィールドドラゴン絡みの依頼で出向いた事のある別邸には、以前はなかった建物が一つあった。
「多分‥‥あれが厩舎よ」
 馬などとは別にフィールドドラゴン専用の厩舎の基礎を作るための依頼で、その時に土台を作った場所にあるのだから間違いはない。彼女の案内で五人全員で近くまで行ったものの、約束もないのに多数で押しかけては礼儀に反する。よって、黒のジーザス教聖職者のヴィタリー・チャイカ(ec5023)が、リュンヌの案内で訪ねることになった。他の三人は、別邸に繋がる道の近くにウォルター・ガーラント(ec1051)の遊牧民のテントを張って待つことにした。
 出向く用件は、フィールドドラゴンについて教えを乞うのもあるが、受け入れが可能か、出来れば捕獲に要する費用、物品を開拓村に先に支給してくれないかなどの交渉だ。ウォルターがこの開拓村には詳しいが、話を聞けば聞くほど何日もフィールドドラゴンを養う余力があるとは考えられなかった。
 ついでに、出来ればだが、
「フィールドドラゴン、来てくれるかな。乗せてほしーなー」
 リースス・レーニス(ea5886)がテントの中で膝を抱えて揺れながら繰り返しているように、同族が来てくれれば説得が容易ではないかとか、ドラゴンライダーがいれば捕獲が容易であろうとか、一応見せてもらうだけでもありがたいとか、とりあえず乗りたいとか。
「父の友人に飼っておられた方がいらして、子供の頃に一度遠くから見せていただいた事がありますわ」
 でもコンスタンツェ・フォン・ヴィルケ(ec1983)がとうとうと昔見たフィールドドラゴンの雄姿を語り始めた辺りから、テントの中では『ドラゴン素敵』話に花が咲いている。ウォルターは率先して口を開く性格ではないので、女二人がかしましい。
 しばらくそんなこんなで語り明かしていたら、別宅からお迎えが来た。ヴィタリーの話がうまく行ったのか、仲間がいるなら屋敷の中で暖まって行けとお許しが出たのだそうだ。
 もちろんリーススが跳ねるようにして、先に立って歩いていく。

 さて、実際のところは要求の全てが通ったわけではない。
「弟は所用で出払っている。それがなければ自分も行きたいと言い出したろうがね」
 ドラゴンライダーはアルドスキー家当主の三男だが、あいにくと留守だった。後にリュンヌが説明してくれたところでは、応対してくれた長男はエルフだが、三男は人間、跡取りはハーフエルフの次男だ。ロシアでは時に見られる家族だが、リーススは頭を抱えていた。
 まあ、幸いなことにヴィタリーがリュンヌに示された庭の薬草園を褒めちぎり、その持ち主である長男の機嫌を著しく上向かせたのと、ウォルターはじめアルドスキー家に縁がある者が複数いたのとで、餌の鶏の提供は受けられた。開拓村の代官の一人にはアルドスキー家末娘が嫁入っており、そちらからも援助の依頼があったことで用意も済んでいたようだ。
 フィールドドラゴンの厩舎も見せてもらえたが、当のドラゴンは暖炉の前で寛いでいて、一行のほうを見もしなかった。
「寒いのが苦手なら、早朝に捕らえに行けば抵抗が少ないだろうか」
「そうでなければ、腹が膨れたところで話しかけるかだろう。だが、人食いなら殺してくれ」
 一度でも人を食っていると、危険で仕方がない。その場合には開拓村の安全のために退治してくれと言われたものだから、ヴィタリーは少し考え、ウォルターはさもありなんと思い、リーススとリュンヌは勿体無いと口にしたりしなかったりしたが、
「殺すなど考えてはいけませんわ。統べるには愛が必要です。主が我らの祖に『地に這うものを統べよ』とお命じになり、待降節にドラゴンをお遣わしになったのは、従えよと村の人々に仰せなのです。なんと素晴らしい出会いでしょう」
 コンスタンツェは朗々と神の慈愛と、その意向であるフィールドドラゴンの出現について語っている。アルドスキー家はロシアの貴族らしく黒のジーザス教を信仰しているものの、白の聖職者であるコンスタンツェにも態度は丁寧だったが、この後に晴れ晴れとした顔で見送られたのは、聞き疲れたのに違いない。
 それでも、鶏の入った籠を四頭の馬や驢馬に積み、融通したアイテムなども駆使して、翌日の昼頃には五人は目的地に到着していた。
 挨拶も長々と続いたのだが、まあ良かろう。

 結局活動は三日目の早朝、フィールドドラゴンが陣取っている場所を空から確かめることで始まった。
 フライングブルーム持ち主のヴィタリーが、移動の際にすっかり味を占めたリーススからようやく返して貰った箒で上空から観察する。案内は村人のシフール達だ。同じ頃合に、ウォルターがエルフの村人の案内で地上からも近付いているが、それを気取らせないようにヴィタリーがドラゴン達の気を引くのだ。
「リーススだと、うっかり食いつかれそうだし」
 当人とコンスタンツェ以外の三人が思ったことを口にして、ヴィタリーはまだ朝靄が残る中を、空から目的の岩場まで近付いた。聞いた通りに寒さの苦手なフィールドドラゴン達は、警戒も露わな態度だが威嚇などはしてこない。
「あの様子だと、相当弱っています。色艶が違いますから」
 地上から観察したウォルターも同じことに気付いたが、アルドスキー家で所有しているドラゴンと違い、こちらの三頭は痩せて、鱗にも張りがなかった。数で押せばすぐにでも捕まえられそうだが、それは避けて欲しいというのが依頼である。
 となると、バードのリーススの出番だ。彼女にテレパシーで通訳をしてもらう。ヴィタリーもインタプリティリングがあるので、二人で説得すれば、好条件が揃っているのだし受け入れてもらえる余地は大きいと、皆が考えていた。魔法に馴染みがある代官達はもちろん、説明を聞いた村人も穏便に連れて行けるならそれに越したことはないと頷いている。
 だがしかし。
「全然聞いてくれなーい」
「警戒しているというより、空腹で苛立ちが募りすぎた様子だな」
 冒険者達の意見は、おおむね一致している。少し餌をやって美味しいものの味を覚えさせ、それが不自由なく食べられる生活が出来ると説明して、フィールドドラゴン達が飼われてもいいと思うように話を持っていくことだ。
 けれどもドラゴン達は苛々も最高潮。刺激しないように少人数で近付いても、地上からだと食い殺してやるという勢いで向かってこようとする。下手に肉を出そうものなら、次から『美味い物を持っている』と襲ってきそうだ。人の姿が餌と結びつかないようにと重々注意も受けているので、穏便な話し合いを試みたが聞く耳がない。
 本当は餌をくれるのは人間、よって言うことを聞くといいことがあると思わせたいが、まずはある程度空腹を満たしてやらないとならないようだ。となって、しばらくはウォルターとリュンヌの出番である。村人にも手伝ってもらい、岩場近くでドラゴン達が向かって来そうな場所に、体格に合わせた罠を仕掛ける。熊用の罠を強化したが、足を止める目的だから、殺傷力は高くない。
 これは村人が熱心に作り方を確かめていて、少しばかり時間を要した。口数の少ないリュンヌも随分と説明のために口を開いたし、普段は聞き手に回るウォルターが皆を指導する立場になって作成を進める。
 この間、フィールドドラゴン達のところにも人の気配は届いていたはずだが、追いかけてくることはなかった。直接見えないものを追うほどの体力は残っていないのだろう。時々リーススがフライングブルームで様子を見に行くが、反応も鈍くなってきている。
「にわとり、あげてきていーい?」
「さすがにこれ以上弱ってもいけないしな。凍らない時間を見計らったほうがいいだろう」
 肉が凍って食べにくいのでは、なかなか腹が膨れない。ヴィタリーがドラゴン飼育のための餌のやり方を、アルドスキー家末娘のタチアナと相談して、鶏の形がわからないような肉の塊を作った。撒きに行くのはウォルターとリュンヌと村人数名、それからコアギュレイトが使えるコンスタンツェが後方から。
 フィールドドラゴン達の動きが鈍い明け方に出掛けて、昼前にリーススが箒で様子を見に行ったら、肉はなくなっていた。これを確認して、彼女は持っていた肉を投げ落とす。次はヴィタリーが出向いて、夕方に同様にしたところ、三頭共に幾らか動きが早くなっていた。
 ではと言うことで、翌日は餌を持って行ったのだが。
「いやあ、コンスタンツェさんがいてくれて良かったですねー」
 ちょっと元気が出たら、やっぱり襲い掛かってきたので、コンスタンツェがコアギュレイトで動きを止めた。三頭共に弱っていたのか次々と魔法が掛かったのでよかったが、襲われかけた代官のユーリーは緊迫感なく鶏肉を出している。
 ドラゴン達の首に村人達が手早く縄を掛け、近くの木に繋いで、その鼻先に鶏肉を置く。拘束が解けて、鶏肉をがぶりとやったところで、リーススとヴィタリーがテレパシーで話しかけた。
 二人が説得している間、周りの人々は緊急時に二人を引き摺って逃げる担当と、ドラゴンに適宜餌をやる役と、動きに警戒する係に分かれて、身を潜めたり、身構えている。
 だが説得は、一時間ほど経ってもまとまらず。
「なるほど。野生動物に飼われるとはどういうことか分からないわけですね」
「それは困りましたわね。いまだ主の教えも知らないのでは、従う喜びもよく分からないでしょうし」
 騎乗動物として飼われて働くというのが、厳しい自然の中で本能優先のある種気ままな生活のドラゴン達には通じない。ヴィタリーとリーススは色々言葉を選んだが、元々人と会話などしたことがないドラゴン達の理解度は低いのだ。
「‥‥人を乗せて走れば、美味しいものを食べられる‥‥ではいけないの?」
 他の細かいことは、飼う人が教えればいいのよとリュンヌが言った。確かに依頼は捕まえる事で、先々の調教の下準備までは入っていない。出来るだけ物分りがよくと思うのは、ドラゴン側も幸せだといいと考えるからだ。
 でも、腹が満ちたドラゴン達は昨日までの警戒心も露わな様子がすっかりと薄れている。流石にあまり近寄ると吠えるが、逃げたり襲ってこようとはしない。
「空腹になったらすぐ暴れるようでは困りますが、その点はどうでしょうね」
 ウォルターが確かめたところ、リーススとヴィタリーの感触では人を見れば襲うほどの凶暴さはなさそうとのことだった。その程度で折り合いを付けてよいかと問われた開拓村の人々が頷いたので、今度はドラゴン達を村に用意した囲いまで連れて行くことになったが‥‥
「あるいてよー」
「走らなくてもいい、一人で先に行くなっ」
 動かない、先走る、迷走すると三匹三様の反応を示し、
「きちんとなさいませ、きちんと!」
 珍しくも大きい声を出したコンスタンツェが、木の枝でぴしぴしとドラゴン達を叩いた。修道院時代にそうやって叱られた経験があるのかどうか、予想外の迫力である。一匹が威嚇の様相を見せたが、またぴしり。
「時には厳しく叱ることも必要ですけれど、愛があればこそですのよ。ええ、愛なくして、心は通いませんもの」
 後程彼女はそう語ったが、村人達が彼女を見る目が少し変わっていた。でもこれでドラゴンは村まで引率されたのだった。
 ちなみに、リーススがヴィタリーにねだって借りたリングで、交代で色々話しかけてみた結果、この三頭は大中が雌、小さいのが雄だと判明した。群れではあるが、血縁はないらしい。コンスタンツェにかかると、これが『仲間同士で助け合う絆の強さが云々』と語られるわけだが、それはさておき。
 囲いに入れて、近くで焚き火をして温めたら尻尾を突っ込んでやけどをしたのが一匹。驢馬を見て、囲いの上に伸び上がろうとして囲いを蹴倒したのが一匹。腹が減ったと早朝に鳴きまくったのが一匹。フィールドドラゴン達は性格の違いを示して、色々やらかした。
 やけどはコンスタンツェに懇々とお説教してもらいつつ、リカバーで治してもらった。囲いはウォルターとリュンヌが村人と補強して、リーススが『かぽは食べ物じゃない』と必死に言い聞かせている。ヴィタリーは代官達と一緒に、アルドスキー家に届けるまでの餌の配分を考えていた。
 だがドラゴン達を三頭も引き取るには別邸だと場所がなく、本家に送らなければならない。そちらはキエフと反対方向で、依頼期間に行って帰るのは無理だから、アルドスキー家からの応援を待って村人が連れて行くことになっていた。
「名前はいいものをつけてもらうのですよ。それで呼ばれたら、きちんと返事をなさいませ」
 コンスタンツェが指輪を借りて、別れ際まで色々な『心得』を説いていたが、フィールドドラゴン達は焚き火の近くで折り重なるようにして、あまり聞いている様子ではない。
 ただその姿は岩場で苛々していたときとは別のドラゴンのように満ち足りていたので、皆、一安心である。これでもう、驢馬を見ても『おいしそう』と言わないといいのだが。別れ際に様子を覗きに行ったら、やっぱり驢馬の姿に反応したので、この先の生活と調教で色々と覚えてもらわねばならないのだろう。
 開拓村は、この三頭を納めることで、来年の租税は免除、その後二年間も半減が決まっていて、その分を村のために使うことが出来る。
「それでも村の発展のための苦労があろうが、それは辛いものではないだろうからな」
 ヴィタリーの言う通りに、来年はきっと村が発展するよい年になるだろう。