素敵?なお茶会への招待〜お茶をどうぞ
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■イベントシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:12人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月30日〜12月30日
リプレイ公開日:2009年01月09日
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●オープニング
パリの街には、色々な人達がいる。
例えば今道を歩いているのは、ちびっ子プランシュ騎士団ことちびブラ団の四人組。本当はもっと人数がいるのだが、中心はこの四人である。
少年アウスト、ベリムート、クヌットと少女コリルの四人は、揃って聖夜祭の街をそぞろ歩いていたのだが‥‥
「あらまあ、面白いお顔」
「悪かっただワン、僕が拾うだワン」
彼らの行く方向で、二十代半ばくらいと思われる女性が、奇妙な生き物と向かい合っている。もちろん本当に奇妙な生き物ではなく、冒険者達が良く持っているまるごと防寒着のようなものを、顔が隠れるほどすっぽりと‥‥正確には、頭をすっぽりと覆う犬の仮面を付けて、身体にまるごと防寒着を着けている様な小柄な人だった。パラかもしれない。
聖夜祭なので、変わった格好をしている人もいるのだろう。四人は、視線でそう会話した。人様のことを変だのおかしいだの、奇妙な生き物だとと言ってはならないと、ちゃんと分かっているのだ。
まあ、その不思議な扮装以外は、二人がぶつかって、女性が持っていた籠からたくさんの軽そうな布包みが落ちて散らばっていたところだから、小さくとも騎士団を名乗る彼らも率先してお手伝いに加わった。
「これ、薬草?」
「お茶ですのよ。お仕事前に飲むと、頭がすっきりしますの」
変わった匂いのする包みに、コリルが問い掛けたら、そう返ってきた。
これがちびブラ団と、冒険者ギルドと他一部で名を知られたお茶会ウィザード、アデラ・ラングドックと、ノルマン江戸村の奇怪な生き物わんドシ君の出会いだった。
それからしばらくして。
「そのころはちょうど、パリにいないのです〜」
「あらまあ残念ですわ。じゃあ、またの機会にいらしてくださいましね」
冒険者ギルドの受付嬢シーナが、常連客のアデラと楽しげに会話している。それはいい。彼女達はエテルネル村というところへ豚飼育を任せている出資仲間だ。それも村の復興のためという大義名分より、『美味しいお肉が食べたい』で意見の一致をみている、食いしん坊仲間。
だがしかし、だからといってアデラが突然思い立った企画に参加されては困る。冒険者ギルドが関与しているなどと思われては困る。本当に困る。
何も気付かない彼女達の背後では、シーナと親しいゾフィーが『止めなさい』と身振り手振りで合図しているのだが、シーナはまったく気付かない。でもちょうど予定が入っていて、企画に協力は出来ないのだった。
少なくとも、アデラの企画に冒険者ギルドの関係者が加わる心配はなくなったといっていいだろう。もちろん他の人々は、誘われたら全力でお断りする。
「でも本当に残念ですわぁ。さっき、わんドシさんとちびブラ団の皆さんとお友達になって、当日はご一緒しましょうねってお約束しましたのよ」
皆さんはきっとご存知ですわよねと微笑んだアデラの言葉に、冒険者ギルドの多数の人々は衝撃のあまり身動きも出来なくなってしまっていた。
年末年始のアデラのお茶会、新作披露パーティー?
いつものようにお茶会参加者を募り、その人々に手伝わせて、なぜか冒険者ギルドや酒場の周りで人々に勧めて回ろうという企画。
なお、当日のお手伝いにはちびブラ団とわんドシ君がすでに決定し、他にも巻き込まれる謎の人々がいるのかもしれない。
当日、冒険者達の元に『迷茶』が届くようだ。
●リプレイ本文
神聖暦の一〇〇四年までもうちょっとのパリのある場所で、結構な人数の大人と子供が大きな卓と椅子を並べていた。上に乗せるためのお菓子や軽食も取り揃っているようで、子供達がつまみ食いを狙ったり、それを阻止しようとしたりしている。
年末の街中は様々な用件で歩いている人々がいたが、この一団の目的はそうした人々にお茶を振る舞うことだ。お金を取る目的ではなく、単純にお茶を振る舞うだけ。
一見だと茶器も色々取り揃い、お茶請けも沢山で、中には色々加味したワインも少し用意されていて、申し分のないお茶会の準備である。
でも、最初に足を止めた人物は、その破壊力を嫌と言うほど知っていた。それなら通り過ぎてしまえばいいのだが、一団の中にちびブラ団をセレスト・グラン・クリュ(eb3537)にそんな真似は出来なかったらしい。
「どうしてこんな気力と体力が必要なお茶会のお手伝いをしているの。身体を壊したら、剣の練習はストップよ?」
この台詞はかなりの部分が事実だが、天下の往来で言うことではない。かえって何事かと足を止めた者が数名いるほどだ。
「大丈夫よ。味見させてもらったもの」
「平気だワン。さ、飲むだワン」
これは一部で著名なお茶会ウィザード、アデラの新作お茶の発表会だ。無作為に街行く人にと言うあたりが大問題を引き起こしそうだが、そのあたりは常連達が『被害は最小限』を合言葉に準備している。
あくまで『最小限』を目指したので、味に対する保証は実は欠片もない。ついでにちびブラ団が飲んだのは、新作とは程遠いアデラのお客様用とっときの香草茶だが‥‥あいにくとちびブラ団はそんなこととは知らなかった。
普通のお茶だと信じている子供達がしきりと勧めるので、セレストはアデラが淹れたお茶を受け取ったが‥‥予想に反して、見た目は悪くない。アデラの配合するお茶は見た目から駄目なことが度々あるが、幸いにしてこの新作はその点は問題ない。
で、一口。
「‥‥」
ちびブラ団の『どうしたのかな?』という疑問の視線をかわしつつ、無難な挨拶の後によろよろしながらどこかに立ち去るセレストの姿があった。見送る人々の大半、具体的にはちびブラ団とアデラ以外は理由も察しているが、当人が飲んだ結果なので気にしていない。子供達の前で無作法をしない根性に感心はしていただろう。
アデラのお茶会は、ことさら宣伝に努めたわけではないが、冒険者ギルドの人々を誘ったり、ちびブラ団やわんドシ君が協力していたこともあり、幾らか噂は広まっていたらしい。
最初の生贄セレストに続く客人があったので、アデラとおもてなし役を勤めるちびブラ団は大喜びだ。特に度々世話にもなっているサーシャ・トール(ec2830)が来た時は、椅子を引いて座らせてやっている。まあ、あちこちから促されたので、以後は女性に対しては男の子が交代で椅子を引くことにもなっていた。
「お茶を振舞ってくれるというので、寄ってみたよ」
「じゃあ俺様がお茶を淹れるからな」
サーシャがにこにことそう言うので、今度のお茶はちびブラ団が協力して淹れることになった。茶葉だけはアデラが用意したものだが、淹れ方はすでに習っていたらしい。ちょっと危なっかしいが、ちゃんと手順は守られているようだ。
色々学んで頑張っているのだなあとサーシャが感心していたら、ちょっと茶色が強いお茶が出てきた。量が少ないが、まあ四人が頑張ったので気にしない。
「このお茶はどういうお茶?」
わんドシ君とちびブラ団ではない子供が、にまにまと様子を見ているので、なんとはなしに聞いてみたが、これにはアデラが『自信作ですのよ』と返答。念のため銀無垢のスプーンで蜂蜜を混ぜたが、別におかしな様子はない。
でもものすごく変わった香りで、どちらかと言えば薬湯のようで、周囲の人々の観察するような様子も気になる。というわけで、まずは一口。
お茶にむせたのか、ものすごい咳が止まらないサーシャに、ちびブラ団が背中を擦ったり、水を持ってきたり、甲斐甲斐しく世話を焼いている。
「申し訳ないけど、今ので喉の調子がよくないから」
残りは遠慮すると言われたお茶は、誰かの『そういうことにもなりますわね』とか言う呟きと共に下げられていった。
「なかなか‥‥他では味わえないものを飲ませてもらった」
ものすごい自制心でそう礼を述べたサーシャは、ちびブラ団から差し出された甘いお菓子に、珍しくも涙ぐみそうである。不思議なものは好きだが、アデラのお茶はそういうモノではなかったようだ。
ちなみにこの次に現われた明王院月与(eb3600)は、ちびブラ団と仲がよいわけではないが、アデラのことはよく承知していた。おかげで緊張のあまり、椅子の背がぶつかったかもしれないことにも気付いていない。椅子を引いたほうも失敗に気付かなかったので、まあお互い様。
なにしろあのアデラのお茶である。月与が何度も世話になったアストレイアお姉ちゃん、今は領主なのでそう人前で呼ぶ訳にも行かないが、ともかくもアストレイアお姉ちゃんは『飲んだら失神するお茶』を作り出したのだ。そのお師匠さんなど、何を飲ませてくれるか分からない。
月与はちびブラ団を心配していたが、実は彼らはおもてなし役。本人達がこの場でお茶を飲むわけではない。先生役の一部の冒険者や月与のようにやってきた人達に、アデラと一緒になってお茶を淹れているのだ。
他の人達が飲んでいるなら、そんなに心配いらないかも。と月与は考えたが、実は他の人々が飲んでいるのはアデラが配合したものではない。でもちょっとばかり心配なので、持参した蜂蜜やミルクを出そうとしたら、ちゃんと用意されていた。お菓子と軽食も、いっぱいだ。
「豪勢なお茶会だねぇ。あ、これは美味しい。盛り付けも綺麗だね」
「それ、盛り付けたの、ぼくだよ」
お茶が入るまでの間に、勧められるままにお菓子や軽食に手をつけていた月与は、並んでいる料理の美味しさに夢中になっている。材料や作り方を尋ねたり、他の料理の話になったり、ノルマンとジャパンの比較をしたりしていたが、そうこうしている内にお茶が淹れられてきた。サーシャが何か言おうとしたが、わんドシ君が先に。
「さ、どうぞだワン」
勧めたものだから、月与はほんのちょっぴり味わって、表情を凍りつかせ‥‥ちびブラ団の期待に満ちた目に負けて、お茶を一気に飲み干した!
「おっと、お疲れのようだワン」
それは絶対に違うだろうってことを平然と言いながら、白目をむいた月与にわんドシ君が毛布を掛けている。お疲れの一言で済ませていいものかどうか。
このあと、わんドシ君に言葉巧みに連れて来られたらしいレリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)は、隣の椅子の毛布の山を不思議そうに見遣ったが、他の人々が案外平然としているので優雅な身のこなしで椅子に座ろうとした。座ろうとして、椅子を引く係と全然息が合わず、危うく転がり落ちるところだったのは誰も見ていない。そういうことにしておこう。
もちろんレリアンナ本人は、そんなことなどなかったかのような尊大な態度でちんまりと座っている。年齢の割に小柄なので、ちょっと椅子が低いようだ。
「この度はお茶会に参加する機会をいただき、ありがとうございますわ」
それでも平然とアデラに挨拶をして、他の人々にも会釈し、ちびブラ団がせっせと入れているお茶を待つ風情だ。
これで実は頭の中で『お茶会といったら、確か飲んだらよいお手前でというのでしたわね』とか、ちびブラ団がどういう人達かさっぱり分からなくてどういう対応をすればいいのか迷っているとか、すっかり物慣れた周囲の人々にちょっと気圧され気味だなんてことは、おくびにも出さない。当人はそのつもりだが、勘のいい人達は気付いたかもしれなかった。でも年少者に優しいのは、今回のお茶会のルール。
ましてや綺麗に着飾っている女性に恥などかかせたらいけない。当人も頑張っているのだし。
なんてことをごく少数に思われているとは気付かず、レリアンナがアデラに供されたお茶を口に運んで‥‥
『人様の前で口に入れて物を出すなどっ!』
口を押さえた。なんだか顔色が一気に悪くなったが、当人は必死である。礼儀として、人前で口に入れたものを吐き出すなんてしてはならないし、レリアンナの美学にも反する。でも流石に周囲がちょっと心配になってきた頃。
「よ、よいお手前ですわ」
「まあ、ありがとうございます」
素晴らしい気合の入った一言に、アデラはにっこりとし、ちびブラ団はちょっと不思議そうだがお菓子などを差し出して、他の人々はそっと拍手した。彼女達は全部飲まなくていいのにと思っているのだが、レリアンナの美学は『全部飲む』だ。
かろうじて毛布の山にはならないで済んでいるが、せっかくのお菓子も食べられないレリアンナが椅子の上で放心している。隣の毛布の山は、まだ動かない。
その後にやってきたのは、エジプト人の二人組だ。仲のよい友人というわけではなく、たまたま道行きが一緒になったらしい。会話からすると、片方がアトランティス帰りで、もう片方に向こうの様子を説明していたようだ。アハメス・パミ(ea3641)がアトランティスのことを、シェセル・シェヌウ(ec0170)は故郷エジプトのことを知らせて、情報交換というところ。
だがしかし、なぜだが二人はお茶会の場所で足を止めてしまったのだった。注意深く見れば、椅子の上に毛布が山を作っていたり、なんとなく顔色が悪い人が混じっているのだが、なにしろそれに倍するアデラのお茶会常連達が居座っている。
そして、月道管理塔のウィザードであるアデラは、意外なことに他国の風俗にも結構明るかった。シェセルの服装から、アラビア教徒だったらお酒は飲めないと片付けている。
「いや、確かに酒は嗜まないが、信仰ゆえではないのでそのままで構わない」
「私も酒は遠慮しますが、お茶会なら‥‥わざわざ他人まで招いて振る舞ってくださるとは、よいお心掛けですね」
違うよ、生贄探しだよと誰かが口にしたかもしれないが、お茶の不味さにかすれた喉では声が届かなかったようだ。
そんな訳で、新たな生贄達には常連組が『これも味わいだし』とか『当人が飲むかどうか決めるのだから』とか『まあ冒険者ならばこのお茶のことは知っているでしょう』とか『面白いからどんどん飲ませちゃえ』など色々考えている事は露知らず、アデラとちびブラ団、さらにわんドシ君の合同作業で淹れられたお茶を差し出されていた。アハメスもシェセルも礼を言って、おもむろに香りを楽しみ‥‥どちらかといえば薬湯の香りだが、ほとんど同時に口をつけた。
当然これまでの生贄の皆さんは、ようやっと毛布の下から這い出してきた月与も含めて、自分達のような反応だろうと見守っていたのだが‥‥なぜか違う。
「こちらでは薬湯もお茶として楽しまれるのですか」
「少々刺激が強いな」
いや、少々ではないでしょうとの心の声は届かず、アハメスもシェセルも結構平然としていた。確かに刺激物三昧の味わいだから、その点からさほど美味しくはなかったようだが、薬だと思って飲んでいる風だ。
どちらもエジプト出身、もしかするとエジプトでは毎日こんな感じのものを飲んでいるのかと、ちびブラ団は感心し、それ以外の人々は『この二人、侮れない』とか意味もなく思ったが、実際はたまたまであろう。生まれた国の違いで、少しだけ耐性がある味わいだったようだ。
その証拠に、二人共にお代わりの勧めはやんわりと断っている。よくよく見れば、褐色の肌が結構蒼褪めていたことも分かるはずだ。単に、他の人達より幾らか耐えられたので、必死に表情に出さなかっただけである。普段表情が動かないと知人に言われるシェセルが、心中相当慌てていたのだから相当だ。二人とも、ここで酒でも飲んだかのようにふらふらした様子など見せられないと、似たようなことを考えていたらしい。薬は薬でも、劇薬扱い。
そして、別のお茶を飲むかと勧められたのには頷いていた。それはもう、大きく。
でも。
「ミハイル研究所には、別のお茶を送っているのですか。そちらのお茶は飲んでみたいものですね」
話の弾みでアハメスが知っているところが出て来て、彼女はそちらの人々が飲んでいるお茶なら再挑戦してもよいと考えた。でも彼女はもちろん、それが『迷茶』と呼ばれる、劇的な不味さと苦さで徹夜の供にぴったりと言われる雑草茶だとは知らない。きっと薬草茶の一種だと考えていることだろう。
すっかり感心しきりのちびブラ団と同様だ。でも流石にこちらは、そろそろアデラのお茶の効能に本格的に気付き始めている様子。
シェセルはノルマンでよく飲む香草茶の美味しい配合を楽しみつつ、集まっている人々の話題を聞いている。人にもよるが、貴族と交流があったり、国仕えだったり、別の国の教育機関に籍があったりと多彩な人々が揃っているので、常にエジプトのことを考えている彼にも学ぶところと、覚えているべきところは多いのだろう。ただ単に、先程のお茶の味を別のお茶で忘れている最中かもしれないが。
そうやって、ようやく普通のお茶会といわれるものらしい雰囲気に、アデラの新作茶ではないものでなってきた場だったが、もう一人客人がやってきた。最初からいた人々がどこかで見たようなと思いつつ、やっぱりアデラが新作茶を供したところ悶絶し‥‥
「一瞬天国の夫の姿が見えたわ」
と、男性なのに口にした。
「わざわざ二度も飲んだ人は、初めてだワン」
後になって、わざわざ魔法の指輪で性別を変えて再挑戦したセレストだと判明したが、一度あれを飲んでもう一度飲もうとは‥‥とアデラ以外が驚いていた。性別が変わったって、不味いものはきっと不味い。わんドシ君が言う通りに、誰一人二度飲んだ人はいないのだ。
ついでにお茶会手伝いの人達には、ほとんど味見をした人がいなかった。ちびブラ団は、まだ子供なので刺激物が多い今回のお茶は飲ませてもらえていない。
でも、セレストが二度も飲んだし、人によっては普通そうに見えたので‥‥
「ちょっと飲んでみたいな」
と言い出したのを、ようやくお茶の衝撃から立ち直ったサーシャはじめ、良心的な人々が懸命に留めていた。
アデラが『刺激が強いから駄目ですのよ』と言ってくれて、皆、ほっとしている。