●リプレイ本文
真冬のある日のことでした。
キエフを救うために立ち上がった十名の勇者さんがいたのです。
本当はキエフじゃなくて、冬の精霊さん達に脅かされた小さい村からの依頼なんですけど、カッコいいのでキエフを救う勇者さん。
そういうことにしておきましょう。
その十名とは!
●十名の勇者達
「いつものレヲなるどではまずいと思い、うめさんにしてみた」
もこもこのまるごと防寒具を着たゼファー・ハノーヴァー(ea0664)さん。もこもこだけどレンジャーさんです。
「決めた。後で雪の歌作ろう。滅多に見られる光景じゃないわ」
冬の精霊さんぞろぞろに感激しているリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)さん。楽器は持ってきていませんが、バードさんです。
「うちにもリュミィがいるせいか、精霊さんが困っていると聞くと力になりたいと思うのですよね」
その肝心のリュミィちゃんは連れて来ていない、フィニィ・フォルテン(ea9114)さん。鈴を持ってきて、こちらもバードさんです。
「スノーマンって、ハニー君に‥‥ちょっと似てるかも?」
小さい埴輪のハニー君と一緒なのは、カグラ・シンヨウ(eb0744)さん。雪だるまと心が通じ合っていそうですが、クレリックさんです。
「あんま雪の精霊って馴染みがないよな」
うっかり正直なことを言って、精霊さん達に睨まれているのは馬若飛(ec3237)さん。勇者さん達の中では大きめ、ファイターさんです。
「なんか最近、デビルと精霊ってよく見る組み合わせだね〜」
こちらもうっかり正直すぎて、雪玉をぶつけられたのはアクア・リンスノエル(ec4567)さん。まるごとウサギさんでもこもこしてますが、ナイトさんです。
「寒い‥‥? ロシアだから、仕方、ない‥‥」
お隣に話し掛けているのはジル・アイトソープ(eb3988)さん。寒いからお話しするのが遅いのではなくて、魔法詠唱以外はいつもこんな感じのウィザードさんです。
「御子が多いゆえ、私は前衛が良かろうな」
話しかけられたのは、妙道院孔宣(ec5511)さん。デビルと戦うのに、いるのは子供のような精霊さんばかりで仏心満ち満ちの僧兵さんです。
「単純に正面から戦っては、連携の概念がなさそうなので負けが見えています」
生真面目に分析しているのは、ディアルト・ヘレス(ea2181)さん。ぼこぼこにする勢いで雪玉が飛んできましたが、テンプルナイトさんです。
『1月12日
火水風土陽月と比べ氷の精霊は人との接点が少ない。
それはお互いの生きる環境が適合しないからである。
故にこの国の気候を差し引いても人へ助けを求める事は相当に稀なはず。
それだけ事態は良くないと推察される。
それなのに緊迫したものを感じ難い原因の一端は
彼らの言動と雰囲気にあるのだろう』
黙々と何かしていたのは、ハロルド・ブックマン(ec3272)さん。精霊さん達の姿を見てから、延々とこんなことを書いている無口なウィザードさんです。
こんな感じの人達でした!
●作戦会議でございます
「なんとなく暑苦しいのう。もっと離れろ」
フロストクイーン様には、追い払われています。呼ばれたから来たのに、なんとまあ冷たい扱いでしょう。
可哀想に思ったのか、雪だるまことスノーマン君達がにじり寄ってきましたが、それはそれで寒いのです。だって雪だるまだし。
そんな訳で、クイーン様にはお好きにしていただいて、フロストプリンセスちゃんとスノーエレメンタル君達に、フロストフェアリーちゃん達と雪だるまの群れを相手に、勇者さん達は話し合いを始めました。
「ばぁちゃ、早く数えなさいよ」
「キミ達が動かないでくれると、早く済むんだけど」
「おっさん、それ見せろよ、それ」
あっという間に、話し合いにならなくなりました。
勇者の皆さんは精霊さん達の使える魔法を確かめて、班分けして、デビルと戦えるようにしようと思っていたのです。それでリュシエンヌさんとディアルトさんが、精霊さんを集めて使える魔法を尋ねてみたら、皆さん口々に言うので分からなくなりました。動き回るから、数も良く分かりません。
挙げ句に、親しみを込めてリュシエンヌさんが自分のことを『おばさんが』と言ったらば、偉そうなプリンセスちゃんややんちゃなエレメンタル君達は『ばぁちゃ』とか『おっさん』とか『おばば』とか『おじぃ』とか言い出してしまったのです。真似をして、フェアリーちゃん達も『ばば』とか『じじ』と言い出してます。
「ええい、話を聞け、話を。時間が勿体無いだろうがっ」
ぴたり。
と、その騒ぎが静かになったのは、馬さんがぷちっとなったからでした。お子ちゃま達が雪だるまの向こうからどきどき顔で様子を見ています。
すると今度は、
「さあさあ、使える魔法を確認しますから、ちゃんと答えてください」
ぱんぱんと両手を打ち鳴らして、ディアルトさんが言いました。先生です。
ディアルト先生の言う通りに、精霊さん達は使える魔法別で分かれていきます。皆さん、水魔法です。だいたい寒い系。
「攻撃する魔法が使えない人は、私と一緒ですよ」
フィニィさんが、分かれた精霊さん達の中で、攻撃魔法が使えないお子ちゃま達に色々言い聞かせています。
「スノーマン達はボクと一緒だからね」
アクアさんも、集めた雪だるまに作戦を伝授しているのです。ちゃんと聞いているのか分かりにくいけど、ともかく一緒に戦うぞって分かってもらわないと。
ちなみにアクアさんと妙道院さん、雪だるまとプリンセスちゃんとエレメンタル君、フェアリーちゃん達はだいたいアンデッドと戦うのです。デビルは火を噴くし、悪い奴らは松明を持っていたりするので、他にお任せです。
カグラさんは皆さんに色々魔法をかけてあげるのが仕事。ハニー君は雪だるまに混じってお仕事です。
それ以外のゼファーさん、ハロルドさん、馬さん、リュシエンヌさん、ジルさん、ディアルトさん、フィニィさんは、だいたいデビルや悪い奴らが担当です。戦うところが前だったり、後ろだったりするのは、使う道具や魔法の都合。
雪の中で滑らないように、ゼファーさんと妙道院さんが雪の上でも上手に歩ける仕掛けを作っておいてくれましたけど、なんとなく出来上がりが今ひとつ。あんまり雪道に詳しくないので、ちょっとうまく行かなかったみたい。
でも、靴の上からロープを巻いておけば、だいたい平気です。後は新雪に踏み込んで、埋もれないように気をつけましょう。
『空中にいる敵には、アイスブリザードで攻撃』
『ふいごを持っている敵からは、素早く逃げる』
ハロルドさんとジルさんが、わざわざ板に戦うときの注意事項を書いてくれましたが、精霊さん達には字が読める人がいないので、誰かが読んであげましょう。ついでにふいごの説明も。
そうやって準備をしていたら、悪い奴らがやって来たようです。
●戦いの前なのです
悪い奴らは、最初はこそこそっとやって来ました。
でも妙道院さんの魔法で分かります。ぞろぞろ来たので、余計に分かります。
カグラさんが忙しく、他の人達に魔法を掛けてあげます。雪だるまもかけて欲しいようですが、
「これ‥‥アンデッドより、デビルと戦う人向け」
説明したら、分かったようです。ゲルマン語、ちゃんと分かっているのですね。
でも、一緒に行くはずのアクアさんの合図を待たずに駆け出すのはいけません。まるごとウサギさんが耳をぴょこんぴょこんさせながら、皆さんを集めなおしています。
ディアルトさんは、空を飛んでいるデビルがいるのを確認して、ペガサスさんでお空に向かいました。何人かフェアリーさんがついてきましたが、火を使うデビルがいるようなので慌てて仲間のところに帰ります。
リュシエンヌさんは、元気が有り余っているエレメンタル君達を従えて、悪い奴らを退治に向かうことになりました。目を離すと、こっちに冷たい攻撃が来そうなので半分見張りです。
悪い奴らが来たと、うろうろ隠れようとしている精霊さん達は、フィニィさんと一緒に後ろのほうから応援です。応援と言ったって、ちゃんとお役に立ちますとも。
馬さんは、デビルの偉そうなのと正面切って戦う振り。とりあえず目立って、精霊さん達に熱い攻撃が行かないようにしなくてはいけません。魔法の攻撃は、なんとかなるといいな。
ゼファーさんも、悪い奴らに向かうのです。まるごとうめさんで寒くない、魔法で気合もばっちり。怖いのは、足元だけですとも。
「左方向からも、デビルが近付いているようです」
妙道院さんが、姿を消してやってくるずるいデビルのことも教えてくれました。
そのずるい奴らに、ジルさんがどーんを魔法を撃って、戦いは始まったのです!
●今、戦っているのですよ
デビルやアンデッド、悪い奴らの集まりと、精霊さんと十名の勇者さんの戦いです。
「こらぁ、一人で前に出たら駄目って言っているでしょう! 攻撃するのは、この方向よ!」
リュシエンヌさん、今にも暴走しそうな精霊さん達を引率するのに忙しいようです。でもちゃんと、アンデッドの氷漬けがいっぱい出来てます。半分雪に埋もれたアンデッドは、後でなんとかしましょう。
ジルさん、最初は大きい魔法を撃ちましたけれど、仲間に当たったらいけないので、後は精霊さん達にどの魔法を撃つのか指示してます。
「寒いのは‥‥ロシア、だから‥‥」
吹雪をぶつけられた悪い奴らは、きっと違う意見があったに違いありません。でももう凍らせちゃったから、何にも言えないのです。
「誰が吹雪で消せって言ったよ! 俺まで凍るだろうがっ」
「その程度で凍るな、おっさん!」
馬さんは、ハロルドさんに応援してもらいながら、火を噴くデビルと戦っていたら、後ろから吹雪がやって来ました。今にも巻き込まれそうだったので文句を言っています。言い返されました。
『効率的ではある』
ハロルドさん、こんなときにも冷静に筆談です。べつに火を消す魔法が面倒になったからではないでしょう。それにこの人、横を吹雪が通っても、全然びっくりしていないみたい。
でも別の場所では、悲鳴が上がっています。
「ゆっきーが食われる!」
「ゆっきーって、あの雪だるまだったっけ? 別のじゃなかった?」
雪だるまがアンデッドに食い付かれている周りで、アクアさんがエレメンタル君の一人とのんびりっぽい会話の最中です。するとプリンセスちゃんがやってきて言いました。
「自分に構わず、早くこいつを倒せって‥‥ちょっと、いやいやしないでよ、ここはそういうところでしょぉ?」
アクアさん、今度はお返事せずに雪だるまを助けに向かいます。
うんと後ろのほうでは、カグラさんが逃げてきた精霊さん達を治しているところ。魔法を使ったり、雪だるまは欠けちゃった頭のところに新しい雪を足してあげたり。これで治るのかはよく分かりませんが、またとことこ歩き出したので多少は効果があるのでしょう。
その上空では、ディアルトさんが飛んでくるデビルと戦っています。ついでに下のほうから飛んでくる、精霊さんの攻撃を避けるのも大変です。あんまり戦ったことがない精霊さん達は、たびたび方向を間違えてしまうのです。
「少し演習が出来れば違ったでしょうに」
先生は、こんなときも先生です。
地上でデビルと戦っているのは、妙道院さんとゼファーさんです。
「この先には通さん」
すぱすぱすぱっと、向かってきた悪い奴を切り捨てたゼファーさんはカッコいいはずですが、返り血を浴びるうめさんは怖いです。でも、松明は消えたからいいことにしましょう。
早く片付けないと、うめさんですらも凍えてきそうですが‥‥なにしろ、局地的猛吹雪があっちもこっちも。
そういう点では、普通の防寒具の妙道院さんなどそろそろ凍えて不思議はありませんが、
「鏡月!」
気合一閃、頑張っています。妙道院さんが通る後には、デビルの死体代わりの塵と悪い怪我人がゴロゴロです。時々逃げ遅れた雪だるまが蹴られているのは、ちょっと戦う気持ちが湧き立ち過ぎかも知れません。誰かが水を降らせたような気もしますが、それはきっと不幸な事故。妙道院さん、まだ頑張ってますよ。
やがて、雪原と森には、ばらばらになったアンデッドと、塵になったデビルと、氷漬けの色々と、捕まってふてくされている悪い奴らがいるのでした。
「捕まったからって、仲間のことなんか喋らないぞ」
「じゃあ、後で聞きますねぇ」
悪い奴らはフィニィさんの魔法でおねんねです。起きて騒がれても面倒なので、氷漬けと一緒に後で役人さんに渡してしまいましょう。フィニィさん、戦いの最中は他の皆さんが頑張ったのであんまり出番がなくて、ただ今頑張り中です。
さあ、これから後始末が待っているのです。
「えー、やだぁ」
そんなことを言う精霊さんは、誰かにお尻ぺんぺんされてしまいます。
だって、最後のお片付けまでするのが、お約束ではありませんか。アンデッドになっちゃった人達へお祈りしたり、埋めるところを探したり、穴を掘ったり、忙しいのです。
だいたい、主には勇者様の男の人達が。
それが済んだら、もう一回デビルやアンデッドや悪い奴らが隠れていないか、よく探します。
もう何にもいなかったら、それで終わりだけど‥‥
「いいもん見付けた」
「悪い奴らのは貰っていいでしょ?」
「でしょ?」
「‥‥」
悪い奴らの荷物を発見したので、山分けらしいです。食べ物と魔力回復のお薬がもらえて嬉しいかも、困っちゃうかも。
山分けが終わったら、今度こそおしまい。
さあ、雪だるまを綺麗に治してあげましょう。
お暇だったら、雪合戦もね。
●ところで女王様はどこにいらしたの? それは訊かないお約束
幾ら勇者様といえど、百以上の精霊さん達相手に雪合戦したら、疲れるのです。中には途中で雪の中で気絶してしまい、テントまで雪だるまに運んでもらった人もいます。寒くなりすぎて、テントの中でがちがち震えている人も。
とりあえず夜は精霊さん達にお帰りいただいて、焚き火をして暖まり、あったかいご飯を作って食べた朝。
フロストクイーン様がお出ましになりました。他の精霊さん達も一緒です。
「よく働いたので、褒美をやろう」
お付きの雪だるま達がえっちらおっちら運んできた大きな袋から、雪の上にいっぱいキラキラが出てきました。たくさんの宝石が、雪だるまひとつ分くらいの山になっています。
これって、十人で分けても一人百個くらいあるかも?
でも。
「「「「「わーい」」」」」
精霊さん達がわあっとやってきて、手に手に宝石を持って行きます。精霊さん達もよく働いたので、昨日と一緒で『皆で山分け』なのでしょう。雪だるま達は胸のところに宝石を埋めて、ちょっと得意そう。
残ったのは、女の人の両手の平に乗るくらいの分の宝石でした。
では、これを皆で分けましょう。一人が二つから三つは貰えそうですよ。