【地獄伯の宴】 戦いの舞
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■イベントシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 91 C
参加人数:47人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月25日〜05月25日
リプレイ公開日:2009年06月06日
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●オープニング
●魔城――シュバルツ
パリの西にある小高い丘にそびえる古城。その暗く不気味な様子に違わぬ無骨な造りの城の名は――シュバルツ城という。黒き城の名に相応しく、荘厳な構えを見せている重厚な城壁は、今また王国の騎士と冒険者を阻む魔城の主の防壁となっていた。
魔城の主の名は、カルロス。
かつて王国に名を連ねていた頃は、ヴァン・カルロス伯爵(ez0084)と呼ばれていた。
男の悪しき野心は悪魔達をノルマン王国へ呼び込み、いつしかマント領とシュバルツ城、パリだけではなく王国全土を巻き込む形で、地獄の住人達の跋扈を許す事となった。
1度目は、オーガやアンデッド、デビルを含む軍勢をもって、パリに侵攻を開始した反乱軍の拠点として、冒険者が攻めた。
2度目は、秘密裏に守られていた聖櫃を奪うために襲い掛かってきたデビル達から守るため先の戦乱とは攻守を逆にしての戦い。
3度目は、カルロスと契約を結び、力を与えたデビル・アンドラスと「破滅の魔法陣」を巡って。
それでも、冒険者と王国の騎士達により、カルロスとその主たるデビルの野望は打ち砕かれたはずだった。
だが、王国の管理下におかれていたシュバルツ城は、ノストラダムスの予言騒ぎや北海の悪夢などで揺れる世情を隠れ蓑に、デビル同然に果てた男の手に落ちていたのだ。
それ程長く無い年月のうちに、過去3度にも渡って戦場となったその城を舞台に4度目の戦の幕が上がろうとしていた。
●パリ――コンコルド城
直接剣を交える事は無かったために、カルロスの能力は未知数。
契約主たるアンドラスは討たれている事から、別のデビルの傘下に入ったか、あるいは‥‥。
「シュバルツ城の戦力は、かつてと同様‥‥カルロス配下の部隊、こちらは騎士ではなく傭兵部隊と思われますが。悪魔崇拝者と下級デビル、また中級デビルの存在も疑わしいと報告が」
完全に人がいないわけではないが、人ではない存在も多い。
下級デビルが使役する小鬼達や、アンデッドの存在も懸念すべきだろうと藍分隊長オベル(ez0204)が赤分隊長ギュスターヴ(ez0128)へ告げる。
シュバルツ城はそれなりの規模の城。かつて反乱軍が出撃した際と同様規模の戦力は見込んでおくべきか。
「私が見たカルロスがかつての伯爵と同一人物であったとしても、既にその存在はデビルと同様のようです」
視察の際に部下が神聖魔法でもって確認した事も加える。
「過去に下した敵といえど、彼我の勢力からすれば、今回の戦は厳しそうだな」
作戦卓に広げられた周辺地図を眺め、ギュスターブは渋面を作った。団長であるヨシュアス(ez0013)が小さく頷く。
冒険者達とて騎士達と同じく地獄で激しい攻防を繰り広げている。どれ程の戦力をシュバルツ城へ充てられるかは、読めない。
「時間を掛けるつもりは毛頭ないが、後方支援の備えにしても手勢を割かなければならない。それにパリの守りを手薄にする訳にはいかない」
人間であれば飲まず食わずで戦い続ける事はできない。黒分隊と橙分隊は其々に地獄の方へ赴いており。紫分隊や灰分隊・緑分隊も各々得手とする方面に飛び回っている。
「‥‥最初に請け負ったは我が隊。カルロスを討つまでは」
かつて復興戦争時のような激情は見えなかったが、譲らぬ色の瞳でヨシュアスを見つめるオベルに、ギュスターヴは団長と視線を交す。
「マント領主殿からも冒険者ギルドへ助力を仰ぐ要請がきているとフロランス殿からも報せがあったな」
「それでは藍分隊には出てもらおう。他編成については調整付き次第シュバルツ城攻略に当たるように」
オベルは団長の命に礼を返す。
迅速さを尊び、行動に移すべく王宮内で白い騎士達は動き始めた。
●パリ 冒険者ギルド
たまに口さがない宮廷人から、『色がいささか地味でいらっしゃる』と言われる色合いが多いブランシュ騎士団の中で、一般的にはもっとも華やかな色であろう赤分隊の人々は、この二日ばかり各所に走り回っていた。かろうじて寝る間だけ確保しての働きだが、いずれも表情は明るい。
そのうちの一人が冒険者ギルドにやってきていた。
「依頼はシュバルツ城周辺の警戒と、首謀者他の逃走阻止ですか」
「抜け道が多いといわれておりますので、念のため。ほとんどは城内の知恵の足りぬ敵を引きずり出すことになりましょうな」
ギルドマスターと場違いなほど笑顔で談笑しているのは、赤分隊の古株の騎士だ。
冒険者ギルドへの依頼は、シュバルツ城に潜入する人々とは別に、城外での敵殲滅と逃亡阻止だった。城内にいかほどの敵がいるか分からないが、それを少しでも引きずり出して中の行動を助けようというものである。
よって、実力も大切だがまずは人数。それと、
「出来るだけ目立つなりの者がありがたいですな。色々おりましょう、冒険者には」
「そういう認識も改めていただきたいものですけれど」
ともかくも、目立つこと。
そうして、ひたすらに戦い続けられることだ。なにしろ城内に向かう隊の行動は、いつ終わるのか良く分からないのだから。
行動開始の指揮はブランシュ騎士団赤分隊が取るが、終了は城内の状況により。無事にカルロスを討ち取って、意気揚々と凱旋したいものである。
それにしてもと、フロランスが思ったのが。
「どうやって黄分隊を押し退けての出陣を得たのか、不思議ですわね」
赤分隊はどちらかと言えば年配の者が多い。半数以上が壮年のものだろう。若者が多い黄分隊のほうが適任とされてもおかしくはないのだが、騎士団長がパリを離れるのがよしとされなかったかと思えば。
「なに、簡単なこと。隊長殿がヨシュアス団長に『跡継ぎがいない奴は引っ込んでおれ』と一喝しましてな。藍分隊がこれまでの経緯で先陣を務めるとはいえ、他と我らを比べれば、跡継ぎの憂いがない者の多さで、赤分隊に勝るところはありませんよ」
こう出られたら、国王とて他の分隊に行けとは言えなかっただろう。
からからと笑った騎士はご機嫌に、
「此度のことで、うちの婿に適した者がいると更にありがたいですが」
と言いおいて帰って行った。また出撃の準備で忙しく飛び回るのだろう。
そんな騎士が得た子供が娘ばかりで、一番年長が十三歳なのをフロランスは知っていたので、『少しばかり気が早いですよ』と送り出したのだった。
●リプレイ本文
シュバルツ城。
過去何度となく激戦の地となった城に、今また十二分に軍勢と言えるだけの人数が向かっていた。これでもかとばかりに所属を示す旗を掲げていたり、威勢のよい鬨の声が上がったり、ノルマンでなら大抵が憧れる白いマントをなびかせていたり。
そうした中でも、四十名を越える冒険者達の姿はとても、ある意味奇異で、または華々しく、人の目を奪うものが多かった。ペガサスやグリフォンが群れ飛ぶことなど、なかなか滅多にあることではない。更にドラゴンや精霊、妖精の類も多数付き従っていた。
しかし相手側も異様さでは負けていない。地獄の光景をそこだけ切り取って来たかのように、城の上には羽をはためかせたデビルの斥候達の姿が見える。そんなモノが当然のごとく上を飛んでいる城は、やはり人の世界のものには見えなかった。
そこだけが異質な空気に彩られているような、城の姿がそこにはある。
戦いの開始を知らせたのは、最初知らされていたブランシュ騎士団赤分隊長ギュスターヴ・オーレリーの声ではなく。
『天のご加護が現れたぞ!』
この一言だ。
冒険者達の何人かは、その正体に気付かないでもない白い戦装束の、空を駆ける戦乙女。なぜかグリフォンと、遠目には精霊か何かに見えるといえばそれっぽい女性と思しき誰かを従えている。ブランシュ騎士団も大抵は誰か察しているようだが、声を上げたのも騎士団の一人。
城内の敵を少しでも外に導くための戦いの幕は、吉兆と信じた出来事を持って開かれた。
それより幾らか時間が遡って。
シュバルツ城近辺には、幾人もの斥候が展開していた。その中には冒険者の姿もある。
依頼は敵との交戦が主だが、それを有利に進めるには当然現地の情報が必要かつ重要で、心得がある者達はそれを他者の手にだけ委ねることをよしとはしていなかった。こういうとき、人手は多いに越したことはないからだ。
城の偵察に向かったのはディーネ・ノート(ea1542)とフォーレ・ネーヴ(eb2093)、ジェイラン・マルフィー(ea3000)と月下樹(eb0807)の二組。周辺地域はシェセル・シェヌウ(ec0170)とシルフィリア・ユピオーク(eb3525)が個々に警戒を兼ねて見回っていた。もう一人、鳳令明(eb3759)もここに加わっているはずだったが、あまりに大量の荷物の移送手配などしていられるかと、ギュスターヴにばっさりと置き去りを宣言されたので姿はない。
よって六人で、後方の警戒はシルフィリアとシェセルに任せ、ディーネとフォーレ、ジェイランと月下の四人はまず城の周辺の地理把握に努めた。以前の戦闘でやはり偵察の任についていたレンジャーなどもいて、大きな変化については情報がもらえたものの、正確なところは近付いてみないと分からない。
月下とジェイランは主に城内からの抜け道を探すと、早いうちに建物に近付いていった。自分達が進む場所だけ確認しての行動だから、それ以外の場所に何があるかはフォーレとディーネが調べることになる。罠の有無を警戒したものの、彼女達が調べた場所にはそうしたものは見付けられず、その情報はすぐに味方に知らされた。
同時にシェセルが以前確認されている抜け道から、城外勢力との連絡を行っていないか、人が移動に用いそうな場所を確かめていったが、こちらもそれらしいものは見付けられず。彼が予想したとおりに魔法的な手段で連絡を取っているのか、それとも空を飛ばすか‥‥
彼が振り仰いだ空には、多数の騎獣が城を見下ろす位置に陣取ったところだった。
同じ頃、ジェイランと月下は最近オーガが出入りした形跡がある抜け道を見付け、ここを塞ぐ戦力到着までの見張りを行う旨を伝えるべく、伝令からのテレパシーを待っていた。
城内の目を外にひきつける。最初にその役目を果たしたのは、天駆ける騎獣を操る者達だった。制空権を押さえれば、デビルに多い空飛ぶモノの優位さは失われる。自らに有利な展開を望みやすくなれば、相手の焦燥を煽ることも可能だと、多くの冒険者が力のある騎獣を連れてきていた。同行する騎士のほとんどが戦闘馬、軍馬での参戦なので、空にいるのはほぼ冒険者だ。
中にはリーディア・カンツォーネ(ea1225)のように、前線に立つことは滅多にない者までがペガサスと共に空にいることもある。いずれは下がって救護に務めることになろうが、味方の数で敵を圧迫するためにはしばらく皆と共にいたほうがよい。なにしろ遠目にも見えるから、敵の見張りも注目してくれるだろう。
そうして、地上からも『天のご加護』を目撃した鬨の声に合わせて、ディアルト・ヘレス(ea2181)が戦神の角笛を吹き鳴らした。全員がそれに従って動くものではないが、敵に総攻撃の意思を知らしめる役には立つ。思った通りに、建物の窓から飛び出してきた羽のあるデビル達は、空を飛ぶペガサスやグリフォン、ドラゴン達を見て好戦的な気分になったようだ。
いかに冒険者達が複数で空を飛べる騎獣を揃えていようと、中には冒険者を乗せずともその意を叶えるべく単身飛び回るドラゴンもいたが、その数は二十を越えることはない。当然敵の半分どころか五分の一もないかもしれなかった。よって功を焦る下級のデビル達は、群れを作って邪魔な連中を叩き落してやろうと向かってきた。
そこに放たれたのが大宗院鳴(ea1569)のライトニングサンダーボルト。乱戦になったら使いにくいが、先触れとして敵戦力を削るにはそれなりに効果的だ。あいにくと彼女のイーグルドラゴンパピーは素早く飛び回れないので、近接戦闘は避けろと大宗院透(ea0050)に言われていたから、以降は地上に下りるしかないのだが。
後のことは心配ないとばかりに、魔法を逃れたデビル達には矢が放たれる。地上から上がるものもあれば、より上空から降り注ぐものあり、透やアーシャ・イクティノス(eb6702)が狙い済ました矢は、過たず敵を射落としていた。それで絶命しなくとも、地上に落ちれば一撃で塵に還してくれる仲間には事欠かない。
だがアーシャや透の狙いは、すぐに城内、城壁からこちらを狙う射手に移った。魔法を使うならともかく、ただ爪やささやかな武器で向かってくるデビルなら、他の者に任せても自分達が危険になることは少なかろう。ならば、姿をほとんど見せぬままにこちらを狙う敵を優先して退治すべきだが‥‥なまじ向こうが遮蔽物に隠れていたりすると、しばし撃ち合いに時間を費やすことになった。魔法を警戒しているのだろう、魔法の使い手が多い地上からは見えない場所に陣取っているのだから始末が悪い。
射手同士の睨み合いは、もうしばらく続く。
同時に地上では、城門を打ち破る作戦が実行されていた。外に敵を引きずり出すことが目的とはいえ、ただ城外にいるだけでは篭城されかねない。ならば嫌でも門まで出てきてもらって、引きずり出そうというわけだ。それ以前に、敵を嘲弄、挑発することで戦闘開始を狙った者もいるが、未だカルロスと手を結ぶような者達は自分の悪行を指摘されたくらいでは逆上もしなかった。よって、出てくる者はない。
故に城門破壊が行われることになったが、それとて中に入り込んだ藍分隊他の面々がこちらに向かう増援とかち合っては意味がない。ブランシュ騎士団の持つ内部の地図も今となっては信頼度は低いが、内部との連絡はユリゼ・ファルアート(ea3502)がテレパシーで担っていた。大体の場所を知らせてもらって、こちらも内部の安全を配慮した頃合を見計らいたいのだが、テレパシーに集中しているユリゼが前線に立つことはない。となると、城からどうしても多少の距離を取ることになって、テレパシーで繋がる距離を越えてしまう。
そこまで奥に行ったのなら、城門周辺に向かう者とかち合うとしても数は少なかろうと思い切った最初はラザフォード・サークレット(eb0655)だ。味方が門に殺到しないうちに、城門目掛けてグラビティーキャノンを打ち放つ。その直前にはブラックボールを使用しているから、こと魔法については防御の必要もない。この状態で敵を嘲弄することまでしてのけるのだから、おそらくはしばらくの間、敵の殺意を一身に受けたことだろう。
けれどもそんなありがたくない気持ちの独り占めは、もちろん長くは続かない。当然魔法に対する備えもされていただろうが、城門の周辺が大きくひび割れた頃には、魔法付与をする者達もすっかりと準備を終え、すでに準備万端で控えていた者達は先んじて、城門を押し開くべく殺到していたからだ。
地上に降りた鳴と大宗院亞莉子(ea8484)とは別行動を取りつつ、射手を狙って動いた。鳴が周辺の人目をライトニングアーマーで引いた一瞬に、亞莉子が疾走の術で城内に走り込む。風向きはすでに確認済み、高さの問題はあるがそこはレミエラの効果で春花の術の発動場所を上げていく。城壁の上だろうが、建物の二階だろうが、これで届かなければ壁を這い登っても効果範囲に巻き込むだけだ。その前に射倒される可能性も高いが、術の効果はかろうじて狙った相手に辿り着いたようだ。
代償に、肩口に一矢を喰らった亞莉子だが、かろうじて自力で門まで辿り着いて、後方のエリー・エル(ea5970)やリーディア、エルディン・アトワイト(ec0290)がこしらえている救護場所に引き渡された。
そして、射手が短時間でも行動不能になった上空では、旗を掲げペガサスに騎乗するディアルトに一矢報いてやらんとするデビル達が、次々とウリエル・セグンド(ea1662)の剣やティズ・ティン(ea7694)のランスに串刺しにされていた。ティズは空中戦ゆえにいささか攻撃の精度が悪いが、騎乗しているのがドラゴンなので他の者のドラゴン達が周辺にいて、攻撃が外れても互いに補い合っている。
ウリエルのドラゴンはまだあまり力がないせいで素早さに欠けるものの、ウリエルの卓越した技量もあって、今のところは戦線を維持していた。疲労が激しいようなので、そろそろ地上に降りるべきだろうが、空からの圧力を減じるのは敵をもう少し平らげてからというウリエルの気持ちに良く応えている。
それでも流石に無理が他にも見えてきて、オラース・カノーヴァ(ea3486)が下りろと身振りで示した。城門破りに上空からも応援すると伝えろと言われれば、こちらからはテレパシーを飛ばす術のない人々ばかり故に、ウリエルが一時的な伝令にやるのも止むを得ない。
地上の動きが、なかなか破りきれない城門の破壊のために、陣形を変えるのを見て取って、オラースとアンドリー・フィルス(ec0129)が騎獣の頭を下に向ける。他の者まで全部が向かうと背中を狙われるから、膂力の高い者優先で地上を目指す。
地上の者達が城門を突き崩そうとする頭上から、騎獣の鳴き声と自身の雄叫びと共に突き込んでいくのは、それだけで力ないデビルには脅威と映ったらしい。慌てて避けようとして、他の者に背後を取られて塵にされるモノが幾体も出た。
上空では、飛行能力があっても城門の防衛に向かうデビルが増えたせいで、敵の数が少なくなって、地上への応援に向かう前に後方を振り返る余裕が僅かながら出来た。
その際に、怪我人を魔法で治癒した次の瞬間に、さあもう一度と出陣を迫るエルディンを目に留めて苦笑した者、男相手の態度に納得した者とがいる。それと更に後方にて、変わらず敵援軍の気配を探っているシルフィリアが異常なしを知らせてくるのに、少しばかり安堵もした。
上空からの奇襲とまではいかないが、オラースやアンドリーの技で切り込まれた敵兵が、門を守っていた陣形を少しばかり崩した。オラースのソードボンバーで弾き飛ばされた者はまだよい。アンドリーは、相手の首から肩を切り落とし、肩の一部を引き連れた頭がごろりと転がっている。
これで逃げ腰になったのは敵ばかりだが、アラン・バーネル(ec5786)も少し浮き足立った。ハーフエルフは他にもいるが、目の前で突然血飛沫が上がった時に平常心を保てるかは、持って生まれた性質の他に経験が関係する。押し上げていた戦線が一旦下がった際に、集団戦の経験のなさで最前列に入ってしまったアランだったから、余計にきつかったろう。
その身体の前に戦闘馬を入れて庇う姿勢をとったのは、アラン・ハリファックス(ea4295)だ。名前が同じよしみというわけでもなかろうが、元々は魔法の使い手の護衛などをしていたが、戦線が一時的に乱れたので応援に来て、危ない仲間は庇ったまで。少しして助けられた側のアランが平常心を取り戻して、今度は術師達の護衛に回った。二人が立つ場所を入れ替えたところで、また幾つかの魔法が城門へと向かう。
わざと門とその周辺に目的がずれているのは、敵を慌てさせるためのもの。完全に壊れてしまうと浮き足立って城内に逃げるかも知れず、あまり被害がないと篭城を選んで城内の騒ぎに気付くだろう。元は術師の護衛をしていたアランのほうは、そうした狙いを前線に伝えることもしている。後方に下がったアランは、負傷した騎士を一人、リーディアのところに担ぎこんでいた。
そうやって、城門周辺での戦いが激化している中、ケイ・ロードライト(ea2499)とレリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)は装備が目立たぬ騎士数名と、十野間空(eb2456)がテレパシーで知らせてくる場所に向かっていた。先に偵察に出た人々が、抜け道を見付けて見張っていた場所だ。中から甲冑のものだろう鉄の擦れる音がすると報告があって、最初からそうした際に駆けつけることになっていた勢力がケイ達だった。
ここと示された場所に着くと、すでにむっとするほどの血の臭いが奥から漂ってくる。デビルの儀式でも行われていたかと思いきや、出てきたのはオーガ族だ。身体が血塗れているのは、飢えて共食いをしていたかららしい。
そんな相手は平常心を失っているから攻撃されても大抵が当たらないが、感覚が鈍化しているのか、飢えが上回るのか、多少の痛い思いでは怯むこともない。ケイもレリアンナも、月下やジェイラン、他の騎士達も着実に攻撃を当てているものの、ミノタウロスが混じっているとなかなか斃れてはくれない。
挙げ句に、奥からは他にもまだ気配がして、それを知らされた十野間から、すでに戦闘が再開している城門前ではなく、後方の救護場所などを守っていた人々に連絡が回る。こんな時でも合言葉を確かめ合うのはまだるっこしいが、なにしろ他に本人を証明する方法もないので致し方ない。それから、人数のやりくりをつけた応援が駆けつけるまで、せいぜい三分か四分。だがなかなかに長い時間だ。
アハメス・パミ(ea3641)やエミリア・メルサール(ec0193)、シャルロット・スパイラル(ea7465)が駆けつけた時には、オーガ族は仲間の三倍ほどいた。どこかに閉じ込められていたのだろうが、同情する者はない。ましてや姿こそ見えぬが、エミリアが抜け道の奥にデビルの存在を感知すればなおのことだ。先んじて抜け道に気付いていなければ、この飢えた連中が皆の背後をついていた可能性がある。デビルはそれを狙っているのかもしれない。
シャルロットが炎を操ってオーガ達の足を止め、炎を退けるに合わせて、アハメスが切り込む。エミリアは先に駆けつけた者たちにレジストデビルを掛けている。だがその手が止まったのは、奥から出てくるモノがオーガのズゥンビになったからだ。
視線をかわして、この場の対応を相談した冒険者達は、同行している騎士達と共に少し下がった。シャルロットがこんなときも抱えていたランプを擦る。少しして、オーガ族が啼き騒ぐほどの煙が出て、イフリーテが現われる。
ズゥンビを作るデビルがいるのか、カルロスがそうした力を手に入れたのか分からないが、出口が定まっているのなら潰して排出はとめてしまおう。もとより抜け道は事と次第によっては潰してしまおうと話もしてあったので、シャルロット共々ファイヤーボムを打ち込む。未だ中の人々とは連絡が取れないことは確かめたから、これが悪い影響を及ぼすこともないだろう。
こちらに出てきてしまったモノどもを平らげるには、それから少しばかり掛かったのだった。
城門の周辺では、二度目の魔法攻撃の後に少しずつ門や城壁が壊され始めていた。デビルの妨害は激しいが、人の身ではノルマンに名立たるブランシュ騎士団や多数の精霊、ドラゴン、ペガサスなどと行動を共にする冒険者との戦いが有利に運ぶことなどないといかほどの狂信者でも分かってきたのだろう。
ラシュディア・バルトン(ea4107)はカルロスを不屈と言ったが、部下までがそうだとは限らない。中には傭兵、そうはいってもデビルと行動を共にするのだから何かしら傭兵稼業以外の罪があるような連中だろうが、そういった輩はそろそろ逃げ時を探しているらしい。冒険者達の名前は知らずとも、ブランシュ騎士団の白いマントは見間違えようもない。
そうしてラシュディアの適所をわきまえた魔法攻撃は、ものの道理など知らなさそうなデビル達も多少なりと自分達の不利を悟ってきたようだ。居合わせる全員が十全の力を発揮しての結果とはいえ、途切れることなくあちらこちらから寄せられる魔法攻撃に加えて、相手を見て魔法を変えるラシュディアなどはうかつに近付くことも出来ない相手だ。
更に手当たり次第、当たるを幸いといった様子で周囲に現われた敵を次々と屠るのはディグニス・ヘリオドール(eb0828)とアンリ・フィルス(eb4667)の二人だ。小物なら一撃で塵になり、人でも身体が二つに分かれるような攻撃を、長いこと続けられれば敵対する気力も失われようというもの。だが逃げようとするあたりは、城門の中に入り込んだ西中島導仁(ea2741)と李雷龍(ea2756)、マミ・キスリング(ea7468)が塞いでしまった。
西中島達にはクレア・エルスハイマー(ea2884)が精霊魔法による上空警戒に努めている。李風龍(ea5808)の神聖魔法の援護もあるから、少人数で門の中に展開しても十分に戦果があげられる。その上、門の辺りもあらかたディグニスやアンリによって蹴散らされ、何とか向かってこようとする者がいても、ほんの僅かな攻撃の穴もないように構えているデニム・シュタインバーグ(eb0346)がいるから、それが叶うことはない。
徐々にクレアが魔法でデビルを落とすことも減り、西中島や雷龍が敵とぶつかることも少なくなった。途中で敵にアンデッドが混じったが、それも早々に姿を消している。
それでも風龍はアンデッドの増加がないかを注意していたが、そんな気配もなくなっていた。正しくは、城の中の気配そのものが静まってきている。デニムが切り伏せた敵を最後に、新しく駆けつける足元も羽ばたきも、気配すらなくなっていた。
マミやラシュディアがこれが最後とばかりに魔法で壊した壁の向こうにイフェリア・アイランズ(ea2890)がそうっと飛んでいき、他にも何人かが姿を隠して潜り込んだ。もしも中から助けを求めてきたら、更に奥の壁を破っても助けに行かねばと心構えをしていたライラ・マグニフィセント(eb9243)やデニム達だが、暗い中から飛び掛ってきた『何か』を思い切りよく叩き落した。それがイフェリアだったのだが、彼女の悪癖というか変な趣味を知っている友人知人はこんなときにまでと思ったのか、助けなかった。いきなり胸元に飛び込まれそうになったライラが相手を叩き落しても、切らなかっただけ運がよい。
イフェリアによれば、内部でズゥンビを見たものの、突然それが倒れて動かなくなったという。理由は分からないが同様の報告はテレパシーで安否の確認がてらに集められた中にもあって、内部で何かがあったのは間違いないだろうとの皆の意見の一致を見た。
けれども、あえて中に入る前にやるべきことがあった。
怪我人は、救護場所に送って、手当てを優先する。個人でポーションを干したものもいるし、出血を伴わない打撲などならその場で神聖魔法が使える者が癒してもいる。
元気が残っている者は、感知魔法やアイテムを持っているものを中心にして、周辺地域の警戒だ。また偵察に赴いた者が城とは反対側でオーガの足跡を見つけはしたが、途中で引き返した後を確かめて戻ってきた。細かい事情は分からないが、シュバルツ城への加勢に行くのは止めたのだろう。それを強制していたデビルに何事かがあったのかもしれない。
それでも感知魔法に掛かるデビルはごく少数残っていて、悪魔崇拝者だろう人も時に見付かった。デビルは当然退治し、人は捕らえて騎士団などに引き渡す。傭兵は相手によりけりで、あまり腕の立つものが抵抗するとろくな結果にはならないが大半が打撲だらけで取り押さえられた。
ようやく中に入った人々とまたテレパシーが繋がるようになって、皆に吉報がもたらされたのは大分経ってからだ。
この後は、『逃げたオーガどもを追って倒しておこう』とギュスターヴは言っている。
流石に二十体くらいのオーガを、ここにいる全員で追うのはいかがなものかと意見が出て、これから城内の人々に協力するために残る者と、オーガを追う者とに分かれることになるのだろう。