【黙示録】地獄への入口

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 70 C

参加人数:3人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月07日〜02月17日

リプレイ公開日:2009年02月18日

●オープニング

 その依頼は、キエフ大公家家臣のうちでは若輩に分類される、軽んじられるほどの家柄と身分ではないが、重鎮でもない人々からだった。
 彼らの家柄や役職は文官、武官、魔法使いと多岐に渡る。共通していたのは、当主が全員ハーフエルフということくらいだ。

 必要なのは、武人よりも諜報活動員。
 その腕が当人の身に染み付いたものであろうと、魔法によるものでも構わないが、敵地に潜入し、現地の情報を抱えて持ってこられる者であること。
 調べるのは、地獄へ通じる入口だ。
 以前から知られているそれではなく、まだ悪魔達も気付いていないと思しき空間を繋ぐ『穴』が、ある草原で複数確認されたのである。

 この依頼に際し、冒険者ギルドマスターのウルスラ・マクシモアが依頼人の一人である自分の息子に『穴』の発見者を尋ねた。
 息子でマクシモア家の現在の当主であるパーヴェルは、自分の妹の名前を挙げた。つまりはウルスラの娘である。
「遠駆けの最中に、草原でそこだけ景色が歪んで見えるのに気付いたそうですよ」
「昔から、目は良かったものね。それで、これは不思議と思って飛び込んだら先は地獄だったというわけかしら」
「それこそ、昔からでしょうに。それでざっと調べてみたところ、その地域には他にも同様の『穴』とその予兆らしい歪んで見える景色が幾つも出てきたので、少しこちらの手も借りようと考えた次第です」
 もちろん依頼人たる各家の家人や家臣、集めた傭兵などもこの調査には参加する。国の兵士も加わるが、各所で事件が起こり、ラスプーチンがドニエプル川沿いで暗躍している最中では、いずれもこの調査ばかりに人手は割けない。
 ゆえに、この依頼である。

「これであちらに知られていない入口が確保できれば、デビルどもに奇襲を食らわせてやれるでしょう。今回は突っ込んで暴れるとは行きませんが、橋頭堡を確保するために働いてくれる冒険者をよしなに」

●今回の参加者

 ea0664 ゼファー・ハノーヴァー(35歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5886 リースス・レーニス(35歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 ec2726 レオナール・ミドゥ(32歳・♂・志士・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

サキ・ランカスター(ea7124)/ メアリ・テューダー(eb2205

●リプレイ本文

 地獄への入口と思しき『穴』とその周辺地域を調査する。その担当地域の広さを考えるといささか心許ない人数の冒険者一行だが、気概は十分だった。
 行く先が雪原のため、騎乗動物も目立つ。更に捜索中に放置していては大変なことだ。
 ならばとゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が持ち込んだセブンリーグブーツを本人とレオナール・ミドゥ(ec2726)が、フライングブルームをリースス・レーニス(ea5886)が使用して移動時間の短縮を図っていた。人数が少ないなら、現地で行動できる時間を増やせばいいのだ。支給の食料・燃料と貸与される大型テントも向こうでの合流時間が惜しいので、すでに受け取っていた。
 あとは現地までの目印を記した地図と、捜索範囲を書き記しているはずのほとんど白い地図とを受け取って、まずはゼファーが自分の荷物からスクロールを一つ取り出した。簡単に写しを取った現地までの地図を手に、バーニングマップの魔法を使う。
「どうやって行ったらい〜い?」
 リーススがさっそく箒で飛び上がり、示された目印目掛けて低空飛行していく。そのすぐ後をセブンリーグブーツの二人が追う。荷物は分担して背負ったが、リーススが一番大量に運べるのでテントは箒に括ってある。
 初日は移動に専念して、担当地域の真ん中の『穴』近くにテントを設営するところまで済ませた。預けられたテントは、冬季設営用で色は灰色。
「ものの見事に遮るものがないから、黒だったりしたら大変だったな」
「リースス殿、上空からの見え具合を確かめてくれ」
 三人ともそれなりにこうした調査向けの技能は持っているが、テントの偽装がすごく得意な訳ではない。天候を読んだり、雪上での行動が得手な者もいないので、テントの設営には場所決めも含めて少しばかり時間が掛かったが、この時点で一日は探索に時間を追加できる。
 翌日は明るくなったら、まずは『穴』の周辺調査。それから、またセブンリーグブーツなどで移動距離を稼ぎつつ、テレスコープのスクロールを併用することで、この『穴』以外の異常を探し始めることにした。
 それでも『穴』には常に注意を払っていたので、日暮れ時に一度向こう側が見えたことは確かめられた。けれども、この時間が固定かどうかも、今のところは分からない。この出入り口が一日に何度開くのか、それを確かめねば不用意には飛び込めないことに三人共に気付いたのだ。
 『穴』の中の探索がどれほど掛かるかで他の調査に掛けられる時間も変わるが、三人共にまずはデビルに気配を悟られないことを第一とした。せっかくこちらから討って入れる門と出来るかもしれないのに、デビルに知られてはおしまいだからだ。けれども見付かってしまった時の対応は殲滅主張のゼファーと基本が撤退のレオナールで意見が対立したのだが‥‥
「この三人で倒せるかどうかくらい、見れば分かるよな」
「相手が姿をきちんと現していればだぞ」
「強そうだったら、見付からないうちに逃げようね〜」
 結局人数が決め手で、相手とその数で臨機応変となった。なにより気付かれないことが大事なのである。
 見張りも一人ずつで心許ないが、リーススから始めて、レオナール、ゼファーと移り変わる間、特に何の異常も起きなかった。『門』も開いた気配はない。

 夜明けに次々と起き出して来て勢揃いした三人の前で、『穴』は大きく口を開いた。雪原のこちらとは誓う、荒涼とした乾いた風の吹き通ってくる世界が見える。
「ギルドマスターの娘さんって、こういうとこにえいやって入っちゃうんだね〜」
 リーススが感嘆の声を上げたが、しっかりとレオナールの背後に隠れている。ゼファーの友人のメアリが、出発前にウルスラの娘の見た光景を尋ねて教えてくれていたが、今三人が見ている物と同様だ。
「ここに一緒に突っ込んだ馬がたいしたもんだ」
 並みの馬では二の足を踏んで言う事を聞いてくれないだろう光景と、なによりも漂ってくる気配とに、レオナールも苦笑を禁じえないといったところ。見える範囲には動くものの影一つ見出せないが、どこから来てどこへ向かうのか分からない風が肌をちりちりとさせた。動物がいないのは、ここが危険だと知っていて入り込まないからだと猟師の腕を持つゼファーには分かる。
「休憩時間を少しずつずらして、この『穴』の開く時間を確かめようか」
 元は人数の少なさを移動力で補って、三方に分かれれば調査も早く進むと考えていたゼファーだが、もしこの『穴』が夜明けと日没頃にしか開かないのだとしたら、一度入れば半日は出られないことになる。ウルスラの娘に胆力で劣るものではないが、強運まで同じかどうかは自信がないので、合間にもう一度開いて欲しいものだ。見ていた限りでは、この『穴』が間違いなく開いている時間は、五分程度。それ以外も明朗にそこにあると見えるが、向こう側の景色の見え方が不明瞭で、飛び込んでちゃんと向こう側に抜けられるのかは危ぶまれる。レオナールが投げ込んだ雪玉は、異様に潰れていたし。
 日中の見張りと調査の割り振りを決め直して、三人がそれに従って動き始めたのは夜明けから一時間ほど経ってからだ。
 この日の確認で、『穴』が『門』となるのは一日三回。もう一度は正午頃と判明した。そしてレオナールが決めたほかの地域の調査方法で調べ終えた担当地域の半分には、歪みもそれ以外の異常もないことが判明した。
 翌日、残るもう半分も異常なしとの確認を終え、時間による見落としはまた別の日に確かめることとして、『穴』の向こう側の調査は四日目に行うことになった。

 四日目、『穴』の向こう側、おそらく地獄の内部の調査の日。
「よし」
 ゼファーの持参した石の中の蝶には反応なし。
「ほい」
 リーススが拾っておいた石を焼いて、保存食と一緒に布包みにして全員の懐に。
「行くか」
 レオナールは雪玉を投擲しても反応がないことを確かめた。
 それから、三人は地獄へと足を踏み入れる。入ってしまえば『門』の目印になりそうな岩一つないが、ゼファーの懐にはバーニングマップとテレスコープのスクロールがある。方向を見失うことはないはずだ。
 流石にここでは三人揃って行動するが、見渡す限りの荒野。果ては霞んで、よく分からない。
「時々地面に何か書いておく〜?」
「ここまで何もないと、そのくらいしてもいいか」
 こうなると視力の争いで、敵がいるならどちらが先に相手の姿を見付けるかだ。気配は残さないに越したことはないが、目標物もなく歩いているうちにぐるぐる回っているなんて事だけは避けたい。
 とりあえず、『門』を出て右にひたすらまっすぐ歩く。順番に歩数を数えて、キリがいいところで地面に小さい絵を書く。
 その絵が五つ目、感覚的に二時間程度歩いたところで、最初の異変があった。
「これ、さっき描いた絵」
 リーススの足元に、ついさっき描いたばかりの絵が現われたのだ。それでも敵の姿も気配もない。
 レオナールが足元に転がっている石を手に取り、雪玉同様に投げてみる。するとそれはさほど行かないうちに、不自然に地面に落ちて転がった。
「魔法みたいなものか?」
 試しに左右にも石を投げると、こちらは普通に飛んで落ちる。前方にだけ、何かがあるようだ。
 方向を変えて、出てきた『門』から見ると後方になる方向に曲がって歩き、数百メートル移動したところで目印を描いて、また先程不自然に石が落ちた方向に向かう。すると、目印はすぐに足元に現われた。
 果てが霞んでいるのではなく、どうやら魔法的な行き止まりらしいと察して、三人はその行き止まりを確かめつつ、ぐるりと『世界』の壁際を回る。時折バーニングマップで『門』との位置を確かめて、おおまかにこの世界の形を確かめるのも忘れない。
 最初は半日で戻る予定だったが、なにしろ敵の姿一つない。石の中の蝶も無反応だ。日暮れ時の『門』の開放まで時間を延ばして調査をすることにした。
「何にもないね」
「景気付けに一口飲んでおけ」
「ここはどういう世界だろうな」
 流石に飲まず食わずでは意気も上がらないので、すっかりぬくもりを失った懐の石を捨てて、少し柔らかくなった保存食を水と一緒に腹に収める。酒は景気付けに、一口、二口程度。あまり寒くはないのだが、ひたすらに見える景色が同じだと気が滅入るのであったほうがいい。
 強い酒だがゼファーとレオナールは平然と飲み、リーススは飲んでから顔をしかめていた。
 後もただひたすらに歩き、ゼファーの使える最後のバーニングマップで『門』の方向を確かめると、
「‥‥どうする、これ」
「あれだぜ、あれ」
「‥‥どうするぅ?」
 『門』が二つ示されたのだ。片方は、三人の感覚と合致する、入ってきた『門』。もう一つはその方向に目をやると先程まではなかった揺らめきの向こうに荒涼とした大地と丘と、その上の城塞らしきものが見える。 ただし常人より目がよい三人にでも、はるか彼方の光景と見えており、丘の手前には門も川もない。
 その光景はほんの僅か、やはり五分かそこらで消えてしまったが、三人とも立ち入る気にはならなかった。その方向からは、こちら側にはない腐臭が漂ってきていたからだ。この人数装備で入り込んだところで、それこそデビルに見付けられたら戻ってこられまい。
 ここで一致したのは、『戻る』こと。
 自分達は偵察で調査が目的なのだから、情報を持ち帰ることがまずは第一だ。
 日暮れ時の『門』の開閉に合わせて、ロシアの雪原に戻った三人は、ゼファーが地図を、レオナールとリーススが内部の報告を書き、すっかりと気力・体力共に使い果たしつつ、なんとかそれぞれの見張りの順番だけはこなしていた。

 五日目は、正午の開閉で『門』の中に入り、昨日別の『門』が確認されたあたりにへばりついたが、向こう側が見えたのは一度だけ。
 六日目に時間を変えて午前中に張り付いたが、開かなかった。
 七日目、八日目も、担当地域内には他の歪みは見出せず、唯一の『穴』の開閉は三度で固定されている。向こう側の光景も、相変わらず何もない荒野のままだ。
 更にその向こう側は、時折何か蠢くものが見え、一度はゼファーの石の中の蝶が反応したが、別の場所に繋がる『穴』があるとは知られていないらしい。人が四、五人、人馬は二騎が同時に潜るのが精一杯の穴だが、知られてデビルがロシアに溢れてきては大災害なので、今のところはいいことだ。
「だが、ここに軍が陣を設営したとして‥‥出入り口が自由に開かない上に、大軍が投入できないのは辛いな」
 問題点は、レオナールが見て取ったとおりの事だ。
「ま、何か考えるさ」
「デビルの後ろから、『わっ』て出来たらびっくりさせられるもんね」
 三人が、他の『穴』や歪みを調査していた人々が行った先でデビルと交戦し、負傷したりしていたのを知るのは、キエフに帰ってからのことだった。