【黙示録】輸送隊護衛
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 85 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月20日〜02月28日
リプレイ公開日:2009年02月28日
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●オープニング
ロシア王国は八つの公国で構成されている。
これらは王国発祥の頃より複雑に分岐し、時に交じり合いつつ親戚・縁戚関係にあるが、その中でキエフ公国とチェルニゴフ公国とは、ロシア国王でもあるウラジミール一世とヤコヴ大公とが近い血縁で、かつ関係も良好なことから、双方貴族間にも姻戚、親戚は少なくない。
そしてチェルニゴフはキエフに地理的にも近く、ここにデビルの橋頭堡など築かれてはたまらない。
多数のデビルがロシアに侵略の手を伸ばしていると思しき現在、キエフ公国とて大量の軍勢をチェルニヒウに送ることは叶わないが、チェルニゴフと関係がある貴族達が手勢を援軍として送ることには許可を与えた。ヤコヴ大公やチェルニゴフの商人ギルドからの積極的な働き掛けもあったようだが、彼我の利害は一致しているので、キエフ公国でも反対の声はなかったようだ。
ゆえに、すでに援軍である騎士、兵士らは出発している。
けれども戦とは、ただ戦う人々のみがいれば成り立つものではない。
物資がなけれは人は動けぬし、負傷すれば手当てが必要だ。そうした物と人とは、集めるのにも時間が掛かり、援軍は最小限の装備で出発した。
これから出発するのは、同行する戦闘員がほとんどいなくなってしまった輸送隊である。
輸送隊の内訳は、馬車二十両、馬四十頭、御者三十名、同行するジーザス教黒と白のクレリックが十五名、鍛冶師が二人、護衛を兼ねた神聖騎士が十名。
物資は大半が食料で、他に治療薬や馬はじめ騎乗動物用の装備、予備の武器などだ。
これが到着しなければ、援軍だけ行ったところでチェルニヒウの備蓄を圧迫するだけである。
護衛はもう少し追加される予定だが、思うように人が集まらないのか、冒険者ギルドにも募集が張り出されたのだった。
●リプレイ本文
冒険者が六、傭兵が六、ジーザス教白黒合わせて神聖騎士が十で合計二十二名。馬車二十両の護衛を努める実質的な人数は、実は多くはない。
馬車は二十両、御者だけで三十人、鍛冶師が二人に、馬車に分散して乗るつもりのクレリックが十五人と、一部が防御魔法を使うが自身への直接的攻撃には弱い人々が四十七人もいる。
そして冒険者に二人、傭兵に一人、神聖騎士に三人、クレリックに七人のハーフエルフがいる。同族の馬若飛(ec3237)が尋ねたところ、クレリックが二人ほど暗闇で狂化するとの返答があった。どちらもホーリーライトが使えるそうだから、対策は出来ているのだろう。
「念のため、危険は散らしとこうぜ」
同族の彼が言ったのでなければ反発する者が出たかもしれないが、狂化すれば隙が増えることくらいは誰もが承知している。馬と一緒に戦い慣れているだろうハロルド・ブックマン(ec3272)が、一言も異論なく別行動を取ることを了解したので、狂化の話を持ち出された最初はロシアのハーフエルフの矜持の高さを見せた一部もすんなりと配置の相談に加わった。
ハロルドと何度か仕事をしていれば、彼が無類の無口だと知っているのだが、まあ話が手早くまとまるに越したことはない。なにしろ道行きを急ぐのだから。
相談の際にはアリスティド・メシアン(eb3084)が、馬車が走行不能になった時の対策で馬そりへの転用は出来ないかと鍛冶師に尋ねたが、あいにくと同行するのは金属鍛冶のドワーフ達だ。他に手が揃っているわけではないし、手間を掛けるよりは積荷を移し変えるほうが早いだろうと返された。それも間に合わないなら、その馬車は捨てるしかない。
荷物は現地での使用を考慮して、食料と回復薬は別の箱に入っている。詰め物などもされているから、悪路でも割れ物の心配はないだろう。スコップは多少積んであったが、数が少ないので急ぎ追加がされた。
念のために尋ねてみると、これから使用する街道は降雪が少ない地域や石畳で舗装された場所も少しある、十分に拓けた場所だ。ただ道幅は様々で、馬車三台が通れるところはあまりない。向かいから進んでくる馬車があればすれ違う必要があるので、常に二台横並びはいささか難しいとのこと。並べるところはそうして急ぐが、どうしたって長い隊列になるのは仕方がないようだ。
下手をすると最後尾から最前列は見えない、その逆も当然あることなので、ハーフエルフ達が狂化した場合にメロディーで対処しようとしていたリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)は、傭兵達から断りを入れられた。範囲内の他の者までつられて、戦意が萎えたら護衛にならないと言うのだ。一理あるが『殴って止めたほうがいい』と言われると、それも危険ではないかと意見が出る。
これはクレリック達にメンタルリカバーの使い手が複数いるので、馬車隊列の中に分散してもらい、仲間に危険が及ぶ者は魔法で拘束してそこに預けることになった。そこまで行かなければ放置するか、それとも普通に捕まえて馬車に放り込めばいい。リュシエンヌには、その間の敵の目晦ましが託された。当然、その場に近い者が皆で協力することにもなるのだが。
大所帯ながら偵察要員が確保しきれないので、進路の確認はペガサス・アテナを操るディアルト・ヘレス(ea2181)とハロルドのスモールホルス・インテル、アリスティドの鷲ルガール、リュシエンヌのシルフ・スズナに託すことになる。そもそもこんな組み合わせが空を飛んでいれば、見た瞬間にも特殊な団体がいると分かるのだから、後はどちらが先に気付くかかもしれないが。
隊列前方は万が一に罠があってはいけないので、妙道院孔宣(ec5511)と馬、それから傭兵で心得のある者が三人、前方の魔法支援はアリスティドと神聖騎士が加わり、馬車の馬も出来るだけ肝が座っていて丈夫そうな若い馬、御者も身の軽そうなパラの青年で固める。リュシエンヌとハロルドは中程、後方は神聖騎士でも目や耳の良い者と振り分けて、上空にはペガサスに騎乗したディアルト。
見るからに目立つ、人の記憶にも残る一団は、それでも整然と出発したのだった。
途中、馬は良いものを連れているが長時間騎乗は後々魔法の精度に関わりそうなので、リュシエンヌとアリスティドはそれぞれ違う馬車に乗り込み、セブンリーグブーツで馬車の間を歩いていたハロルドも、道が悪いところでは馬車に。
荷役馬だから特別足が速いわけではないが、昼前と夕方近くに事前に連絡していたと見えて通り道の宿場町で替え馬と交代する。よって、冒険者達が想像していたよりも速い。
「この速度なら、罠の心配は少なそうですが」
一日目の日もとっぷりと暮れた頃。ようやく止まった隊列でまずは自分の馬の様子を確かめつつ、妙道院がそう漏らした。なにしろこの隊列を止める罠を仕掛けようとしたら、時間が掛かる。直前に仕込むには速度が速すぎて難しいし、それを見越して早めに仕掛ければ他の通行者が罠に掛からないとも限らない。デビルがそれほど効果の薄いことをするとは考えにくいからだ。
「代わりに、いきなり突っ込んできて馬車の前に大穴空けられたら、今度は止まれないぜ」
馬は一日先頭にいて、その速度から出た実感を口にする。だからといって、目的上速度は落とせないから、自身より更に耳目が良い者を先頭の配置に加えたり、交代時間を考えたりする必要性を指摘した。
後は上空からの確認が大事になるため、ディアルトの位置も重要だが、これは上空にいる鷲や精霊とも関係するので、リュシエンヌとアリスティド、ハロルドと調整となった。
「あんまり難しいことは言えないのよね」
鷲とスモールホルスは人語を話さず、多少喋れるシルフも片言に近い。リュシエンヌの悩みはそこのところで、異変を見付けたらともかく『変なことがあった』と伝えろと指示してあるくらいだ。アリスティドのテレパシーも繋ぎっぱなしでは緊急時に魔法が使えない。
「合図を決めておけばどうだろう。下から見ても分かるようなものにすれば、気が付きやすいしね」
特にスモールなどといっても八メートルの大きな身体を持つスモールホルスなら、絶対に即座に気付ける。アリスティドがハロルドに提案して、彼が頷いたので、テレパシーでホルスのインテルに依頼する。後は全員にこれを周知して、馬車に乗っている者には交代で様子を確かめてもらえばいいだろう。
「ちゃんと知らせに下りてくるのよ」
シルフ・スズナには、細かい情報が聞けるかもしれないから、リュシエンヌが繰り返し言い聞かせている。今日は何事もなかったせいか、夕方には飽きてしまって呼んでもいないのにふらふらと馬車のところに戻ってきたから、念入りに。鷲のルガールは日没と共に、餌を貰って速やかに休息中だ。
「上から見ていて気付いたが、七台目の両脇にいた二人は利き腕が異なるだろう。位置があれで問題ないのか、確かめたろうか」
ディアルトは上から細かいところに気付いたようで、馬に尋ねている。上空からだと装備が似ている者の顔形は見極めにくいので、神聖騎士とは分かっても誰だか分からないのだ。神聖騎士達の年長者が入って、小さい配置変更も行われる。
警戒を要する道行きのため、長時間の仕事で集中が途切れないようにと馬車の五割増しいる御者達は、必死に荷役馬の世話をしていた。更に幾つかの馬車から荷物が少量運び出されて、ディアルトとアリスティドの戦闘馬に積み替える準備がされた。荷物を分散させて、少しでも被害を防ぐためだ。他に騎乗している者の持参した保存食など、要する時と場が決まっている品物も預かっておく。
煌々と灯りを灯して、平原の一角に野営する一団は遠目にもさぞかし目立ったことだろうが、この晩はデビルの襲撃なく朝を迎えた。
襲撃があったのは、二日目の夕暮れのこと。もう少しで本日の野営予定地に到着すると、上空からの確認を頼まれたディアルトがほんの僅かに隊列より先に進んだ時だ。
上空で、ディアルトがこちらに向かってくる雲霞のようなデビルの群れを見つけた時には、地上でも馬や目のよさで最前列に配置された傭兵が同じものを見て取っている。
「敵さんだぜ!」
この声が聞こえると同時に、リュシエンヌは馬車の荷台から御者席に移り、同乗者達に転げ落ちないように支えられつつ、前方を透かし見る。
「インプ、グレムリン‥‥ネルガルとリリスも混じっているわね」
知識と経験に裏打ちされた観察で、リュシエンヌが向かってくるデビルの名前を叫ぶ。後はクレリックや神聖騎士にも詳しい者がいるのは分かっているから、その人々が相手の特性を周囲に伝えてくれる手筈だ。
この間にアリスティドは自分の鷲を呼び戻し、スズナも馬車の近くに待機するようにテレパシーで伝える。スモールホルスのインテルは、自分の判断ですでに動き始めているようだ。
もちろん側面、後方からの攻撃に対しても警戒するが、地上にはデビルの姿がない。相手は小物だが、飛行可能な連中ばかり。
馬車の列が一気に加速した。野営予定地なら、馬車が三列に並んでも、また周辺に馬が走れる平原がある。そこに罠があってはならじと妙道院が先行する。本当は持っている盾の効果で身代わりを先に行かせたいが、その時間の余裕はなかった。となれば、誰かが行かなくてはならない。他の時間なら限界まで走らせるのだが、もうすぐ宵闇に沈んだ道など進めなくなるだろう。その前に、少しでも有利な場所に展開する必要があった。
一騎先行した妙道院に向け、デビルの群れが降りようとした。そこに打ち込まれたのが、ハロルドのアイスブリザードだ。ハロルド以外は範囲攻撃魔法がないので、可能な限り早く、数を撃つ。負傷して落ちてくるものは、妙道院や追いついた馬達が平らげるか、アリスティドとリュシエンナの魔法攻撃で塵になっていく。一部、うまくかわして逃げようとすれば、ディアルトとペガサス、スモールホルスに追いかけられる羽目になる。
だが、なにしろ相手の数は多いから、最初にハロルドの魔力が尽きた。それでも彼は鞭を振るえるので、戦線に加わっている。スモールホルスも途中から魔法ではなく、デビルを食いちぎるような動きになったのは、同じ理由だろう。
上空のディアルトは、一時に数体のデビルと向かい合うこともあるが、ペガサスはもちろん、ホルスの支援もあるのでかろうじて持ちこたえている。自分がこの場を保てば、地上に向かうデビルの数が少しでも減ると思うから、そう簡単には地上近くにはいかない。レジストデビルはペガサスに任せきりだ。
地上ではあちこちで馬車や馬に取り付こうとするデビル達を切り捨てているが、なにしろ相手の数は多い。ようやく平原に着いて、クレリック達が暴れると危険な馬をホーリーフィールドに押し込めた時には、御者が二人ほど馬を制しようとして蹴り上げられていた。これもホーリーフィールドに押し込むまでが一苦労だ。デビルは弱いものから狙って来る。
それでも順次馬車の荷台もホーリーフィールドの範囲に収まり、たいした攻撃力を持たない下級デビル達では簡単には壊せないとなったところで、
「さぁ、気合入れていきましょーか」
これまでの奮戦が前哨戦だといわんばかりに、リュシエンヌが紅唇を開いた。これを聞いて、それまで右往左往していたシルフが拳を振り上げて同調している。
シルフが放つのはストーム、リュシエンヌは透明化しても逃がさぬとばかりにムーンアロー。
アリスティドも自分とディアルトの馬が傷一つなく、周囲に荷役馬を従わせるように佇んでいるのを確かめてから、ムーンアローでホーリーフィールドを狙うデビルを撃退していく。目の端に、明らかに動きが変な者がいるが、周囲が慌てていないので対応は後ほどだ。ともかくも、デビルを追い込んでいく。
馬と妙道院は、傭兵と神聖騎士と一人ずつ狂化したのに気付いたが、傭兵は前に出なければ大丈夫だと仲間が言い、神聖騎士は重傷を追っても戻ってこないと聞いていたので、今のところは手を出さない。下手に手を出し、視界に入ると敵と思われて攻撃されるからだ。装備に問題はないので、デビルを退治はしているし、
「いざとなったら、魔法で拘束しますから」
気にしすぎると自分も引き摺られると馬が言ったので、妙道院がその二人の背後を守る形になった。デビルは四方八方から押し寄せてくるから、背後が前に転じる可能性もあるのだが。
馬は馬首を頻繁に巡らせて、デビルが多いところに駆けつけては、槍を振るっていた。彼をはじめ、他には狂化の兆候はない。
けれども、百体くらいはいただろうデビルが一部撤退し、大半を塵にした頃には、十数名の怪我人が出ていた。中にはディアルトや馬、妙道院のように、回復魔法が間に合わないので戦いの最中にポーションをあおった者もいる。そうしなかった者は、狂化していて負傷で失神した二人と、最初に馬に蹴り上げられた二人を含めて、かなりの重傷だ。
またリュシエンヌのように、持参した魔力回復アイテムを使用した者も少なくはない。
これに軽傷だが馬の治療も加わり、その晩は休息をとるまでに時間が掛かった。魔力回復の都合と馬を落ち着かせるのに、翌日の出発が遅れたけれど、幸いにして夜間の襲撃はなく。
朝型には、馬のためにリュシエンヌとアリスティドがメロディーを使ったが、その恩恵に預かったのは動物ばかりではないようだ。
三日目は更に警戒を強めたものの、デビルの襲撃はなく。途中の宿場町で替えた馬もよく働いて、一行は予定より二時間ほど遅れたものの、なんとか目的地に到着した。
荷物はすべて無事、馬車の車軸が一本折れかけていたが、判明したのは到着してからだ。目的は達成したといえるだろう。
となれば、
「戻る期日までまだある。戦力が足りないところがあれば、向かいたい」
「あ、俺も行くぜ」
戦地に赴くことを申し出る者と、運んできた荷物の配分を手伝う者とに分かれて、もうしばらく働いていくことになった。