【黙示録】敵後背を突け

■イベントシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 49 C

参加人数:11人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月28日〜02月28日

リプレイ公開日:2009年03月11日

●オープニング

 地獄へ繋がる『門』は幾つかあるが、その中に一つデビル達が存在を知らないものがある。
 偶然ロシアの雪原で発見された『穴』は、夜明け頃、正午頃、夕暮れ時の三回、『門』へと変化する。
 その先にあるのは、一見すると果てがない無人の荒野だが、実際は小さな閉じられた世界。
 そして、この小さな世界の一角に、デビル・モレク達が砦を構える地獄へ繋がる『門』がある。
 ただしこれらの門は、正確な計測でそれぞれ六分しか開かず、いずれもが騎馬だと同時に二騎しか通れない大きさだ。大規模な軍勢を移動させることは出来ない。
 故に、戦場となっている地獄に向かうなら、まずは無人の世界に入り、そこから地獄へと向かう必要がある。掛かる所要時間は最初の『門』を潜ってから、地獄までが半日。
 更にそこから実際の戦場までは、目測でざっと二十キロ。素早く移動し、デビルに見付からなければ、後背から敵陣を突けるかもしれない。
 最初の『穴』を発見したのはキエフの貴族だが、地獄の戦場に繋がる『門』は調査を依頼された冒険者達の発見だ。細かい調査は、その後派遣された軍の手勢による。
 これらの結果、王国の軍を向かわせるより、様々な技能の持ち主が一度に行動することに慣れている冒険者達にこの門を託すことにしようとなったのである。

●今回の参加者

ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ 以心 伝助(ea4744)/ リースス・レーニス(ea5886)/ レティシア・シャンテヒルト(ea6215)/ リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)/ ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)/ リリー・ストーム(ea9927)/ ラザフォード・サークレット(eb0655)/ セシリア・ティレット(eb4721)/ 黄桜 喜八(eb5347)/ サクラ・フリューゲル(eb8317

●リプレイ本文

 地獄への門を使って、敵陣の後背から奇襲を掛けてくれという依頼には、十一人の冒険者が集まった。通常馬や戦闘馬の他にペガサス四頭というのは、精霊二体より目立つ連れだが、今回は門の調査が主目的だった前回の依頼とは違う。移動中にいかほど目立っても、結果が出れば良いという事のようだ。
 これにセブンリーグブーツや空飛ぶ絨毯などを使用して、まずは異世界への一つ目の門を潜る。何にもない世界なので、ここで次の門が開くまでの間にヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)の提案で、じっくりと装備の点検を行った。ポーションは余力がある者、すぐに使う者が持つ。すでに幾らかは地獄へ向かうキエフ近くの門に向かう人々に託してもいる。後はセシリア・ティレット(eb4721)が持参した保存食を焼いて、アッシュエージェンシー用の灰を作れば、準備は完了だ。
 後は時間の分かりにくいところだが、ひたすらに次の門が開くのを待って、ディーテ城砦が彼方に見える地獄の地へと入り込むだけ。偵察担当の以心伝助(ea4744)や黄桜喜八(eb5347)、攻撃を避ける身のこなしに自信があるレティシア・シャンテヒルト(ea6215)などは先、基本移動をセブンリーグブーツに頼るリースス・レーニス(ea5886)、リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)、ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)、ラザフォード・サークレット(eb0655)は、セシリアやヤングヴラドが背後を守る形。リリー・ストーム(ea9927)とサクラ・フリューゲル(eb8317)がやや方向は違う位置で殿を務めている。
 とはいえ、門を潜ってすぐは戦場ではなく、ディーテ城砦は二十キロ先の彼方だ。更にその先に、城砦目掛けて進軍しようとしている各地の人々がいるだろう。
 この一行には常人では想像もつかない遠くまで見える者が複数いるのだが、流石にこれだけ離れれば『いる』ことは分かっても、それが『誰なのか』までは分からない。
「この方向には飛んでいるデビルがいるようだ」
「城砦の門の上にもいるみたいだね」
 ラザフォードとレティシアが『あちら』と指した方向を見ても、目が良くても点が飛んで見え、普通は何も見えないが、誰一人としてその発言を疑う者はない。飛んでいるものは目立ちやすいなと、自分の行動を注意せねばと考えるくらいだ。
 ゆえに、ペガサスは超低空を飛び、他の者も気分的に身を低くして城砦のある方向へと急ぐ。足を止めたのは約一時間後、これ以上近付くと、多少目が良い者には見咎められようかという位置だ。この時点でも、普通の視力では城砦の上を飛ぶデビルは点にしか見えないが、人によってはその種類まで明確に判別できる。
 後は喜八と伝助が、喜八のババ・ヤガーの空飛ぶ木臼に上手にロープを掛けて、伝助を吊るようにして地面すれすれを飛びながら先行していった。偵察の二人は敵の陣形と戦力を確かめて、最も効果的な突撃地点を探すことになっている。もちろんただ飛んでいけば敵に見付かるが、後方で身を伏せて見守っている者達からは途中で木臼から飛び降りた二人の姿が文字通り消えたところまでしか分からない。持てる魔法の道具の能力は全部使って、そこに技術を乗せての偵察行だ。
 連絡には五百メートルはカバーできるレティシアのテレパシーの魔法があるのだが、あいにくと二人ともすぐにその効果範囲から外れてしまった。あまりに遮蔽物がなくて、不用意に近づけなかったのが痛い。
 とはいえ他人と区別するための合言葉も決めているから、定期的に話しかければ、戻ってきた時には返事があるだろう。小まめに話しかけねばならないと聞いて、待っている人々の表情も自然と厳しいものになる。
 この時、二人は城砦の壁の近くまで別々に辿り着いていた。川や仲間の陣の位置からして、右門と中央門の間くらいだろう。右門に近いのが伝助で、中央門に近いのが喜八だが、この時点で二人とも互いの姿は見えていない。喜八は神隠しのマントで、伝助はインビジビリティリングで、必要に応じて姿を消すからだ。だが行動は、壁の中の音を聞きとろうとしていて、ほぼ同じ。
 その際により重い蹄の音を聞き取ったのが喜八で、伝助はざわめく声を耳にした。何事か指示している者がいるだろう声はどちらも聞いたが、喜八が聞いたのは男性で、伝助は女性の声だ。内容までは、はっきりしない。
 その頃から、徐々に各陣への偵察だろう下級デビルが飛び交い始め、二人はあまり時間をおかずに撤退している。木臼のところには伝助が先に戻ったが、レティシアのテレパシーは先に喜八が受けて、両者は無事一緒に仲間と合流した。
 その報告を受けながら、セシリアがスクロールでアッシュエージェンシーの身代わりを作成し始める。スクロールだから矢継ぎ早とは行かず、おおよそ二分で七体を作ったところで魔力が枯渇。効果時間と敵の尖兵の活性化を考慮して、魔力の回復薬を使う前にその七体の身代わりがセシリアの合図で城砦へと走り出した。
 まっすぐ、身を隠す努力もせずに走っていく一団にデビルの尖兵が気付くより少し早く、一行は少しでも地面に高低がある場所を選んで移動を始めた。セブンリーグブーツと騎馬で速度は合わせるが、セブンリーグブーツはその能力を活用している時は無防備だ。
 レティシアが魔力回復薬を使用してから、ペガサスの上から敵陣との距離を測る。丁度相手も門を開いて飛び出してこようというところ、その機会に城の中へと狙っていた遠くの陣の冒険者もいようが、門から溢れ出たデビルの群れにはその隙間はない。
 そうして、遠くの人の陣からの魔法攻撃が始まった。
「見っけって言うこともないねー」
 リーススが場違いにのんびりした声を上げてしまったが、溢れたデビルの一部はアーッシュエージェンシーの身代わりに向かっている。こちらから見れば側面が攻撃できるが、なにより前方の敵はまだこちらに気付いていない。多数の敵に大打撃を加えるほうが目的に沿う。
 魔法の射程を体感でも知っているレティシアが距離を測り、伝助と喜八が少しでも遮蔽になる地形を選ぶ。サクラのペガサス・シルフィードが、乗り手の希望に応じて魔法の使い手達にレジストデビルを付与した。
 派手に魔法が飛び交う最前線に向けて、ごく少数の奇襲が魔法の連打で始まった。
「背後よりの強襲こそ、騎乗兵の醍醐味なのだかな」
「背後からより、正面からではなくて? 今回は、このデビルどもをどう蹴散らすのかが醍醐味でしょうけれど」
 ヤングヴラドの少し変わった意見に、リリーが自分の思うところを返した。いずれにせよ、奇襲への参加を選んだ時点で正面衝突と敵陣分断突破も誰も望んではいない。短時間で敵に打撃を与えて、その後はまだ遠い仲間の陣に合流するのだ。
 流石に魔法の攻撃があれば、そちらに誰かがいることは判明する。それでもいるはずがない敵からの攻撃だから、身代わりの七体に向かっていたデビル達すら右往左往して、すぐにこちらには来なかった。
 その間にリュシエンヌのシャドウボムが敵陣の前線で弾け、ラザフォードのグラビティキャノンが別の位置で敵を舞い上げ、叩き付ける。こちらへの魔法も散発で向かってくるが、多くはヴィクトルのホーリーフィールドで防がれた。仮にそれを崩されても、魔法の使い手達の前には喜八の呼び出した大蝦蟇がいて、盾の代わりを務めている。
 この頃になって、慌てて飛んで駆けつけたデビル達には、リーススのムーンアローが放たれた。更にリリーとサクラがペガサスを操って背後を取られぬよう連携を図りつつ、それぞれの武器を振るう。地上では、伝助と喜八が魔法の使い手を背後に庇っていた。
 最初の一撃で敵の集中を崩してからは、魔法は敵騎兵を中心に狙っている。リュシエンヌはシャドウボムで騎馬の足を乱したその近くに、今度はシャドウフィールドを作り、鞍上の騎手を落としている。落ちた相手が起きぬうちに、ヴィクトルがブラックホーリーを放つこともある。
 レティシアが敵の様子を細かく観察して、テレパシーで皆に伝える。門の近くでは双方入り乱れての戦いになっており、そろそろ遠距離魔法も味方を巻き込む危険がある。
「そろそろ我々だけでは厳しいようだな。場所を変えるか」
 ラザフォードが、魔法の攻撃を潜り抜けてきた敵へアグラベイションを放って、魔法の使い手に声を掛ける。撤退するとは言わない。あくまでも移動だ。上空に届かない声はレティシアが中継して、サクラとリリーが声の届く範囲まで下りてくる。
 上空からと地上からの敵味方の位置確認で、おおまかに移動経路が導き出される。ここは敵も迫って来たので速度優先、喜八が提供した空飛ぶ絨毯に、これまで歩いていた四人と偵察担当だった二人が二手に分かれて乗り込む。上で魔法を使うことは、移動中は基本的に考えない。味方と合流したら、また使えるようにとまずは魔力回復に勤しんでいた。
「では、地上の露払いは私の役目ですね」
 残る五人のうち、唯一戦闘馬のセシリアがスクロールを懐に押し込んで、皆の前に馬を進めた。手持ちスクロールでは魔法の効果範囲が狭く、他に持ち変えても詠唱時間が短縮できないのでは移動しながらは使えない。となれば、神聖騎士の本分でデビルを切り払うのみだろう。ケルベロスの遺骸を被る彼女に正面から向かってくるデビルがいかほどいるかは別として。
 ペガサスを操る四人は、地上が移動に専念できるように、かなり上空に向かった。デビル相手ならペガサスも対抗する魔法を使うこともあるし、素早く移動も出来る。案の定、目立つ四騎に多くの敵が視線を奪われた合間に、空飛ぶ絨毯は結構な距離を稼ぐことが出来た。こうなるとセシリアも疾走で敵を振り切ることになる。
 上空では、ヤングヴラドが高笑いを響かせていた。おそらくデビルを引きつける目的だろうが、演技ではなく素の笑い声にも聞こえる。それでも他の三騎が皆女性ということもあり、デビルの群れが来る方向に陣取って、先陣を務めていた。同じ騎士位をいただく者同士でも、何かと女性には気配りを欠かさなかったが、徹底している。
 だがそれでデビルがすべて倒されることはなく、サクラもリリーも獅子奮迅といってよい戦いぶりだ。斬られたデビルは、地上に落ちてくる前に塵に変わる。時に姿を消している敵がいても、サクラのディテクトアンデットで致命的な攻撃をされる前に居場所を露わにされている。
「数が多いですけれど‥‥それならかえって迷いませんわ!」
 迷うより先に剣を振るったサクラの鼻先で、ムーンアローの光が二条弾けた。そこにもデビルがいたらしい。
「こちらは移動完了よ。合流はどうする?」
 リュシエンヌのテレパシーがレティシアに向かって、双方で位置を確かめる。地上組は他の仲間と合流して、最前線より少しばかり後方に。上空組も辺りにちらほらとデビル以外の者を見るようになっていた。この四騎は相棒がペガサスだから、敵と間違われることはまずない。
 示し合わせて一旦地上で合流し、今度は右門か中央門のどちらかの味方と共に行動することにしようとなった。より近い右か、それとも騎馬隊が多い中央か。戦線からして右がいささか不利と見た一同がそちらに踵を返すのを、少し待てと止めたのがヴィクトルだ。
「ペガサスの回復も必要だろう。怪我は自分達で治したようだが」
 これで皆で融通しあった回復薬は最後と、ペガサスのために魔力の回復薬が使われた。幸いにして重傷者はおらず、後は再び戦線に向かうだけだ。

 今度は、もう足並みを揃えない。
 騎乗兵は敵陣と切り結ぶ只中に駆けて行き、魔法の使い手達は多くの同業者達と共に後方からその援護を。
 敵背後からの奇襲を成功させ、味方の陣に合流した十一人が、それぞれの居場所に帰るまではまだ相当の時間が必要だった。