開拓計画〜【黙示録】陣地構築準備

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:11〜lv

難易度:やや易

成功報酬:4 G 18 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月25日〜03月31日

リプレイ公開日:2009年03月31日

●オープニング

 キエフの冒険者ギルドに、開拓村の村長代理代官ユーリーがやってきたのは、かなり久し振りのことだった。村の開拓当初は度々やってきて、あれやこれやと仕事を依頼していたが、移住した村人が落ち着くにつれて冒険者を雇うほどの出来事はなくなっていたようだ。開拓村の発展度合いとしてはまことに喜ばしい。
 ところが今回、村人だけでは危険そうな仕事が舞い込んだので、冒険者の手を借りることにしたらしい。
 仕事は材木運搬。キエフから徒歩二日ほどの開拓村まで、近隣領地から供出された材木が馬そりで八両分ある。これをキエフ近郊の地獄への門入口まで運ぶのが仕事だ。材木用途はディーテ砦の修復や周辺陣地構築である。
 材木の量は馬そり八両とはいえ、加工材がかなり大量だ。長いものなら五メートル、短くて二メートル、幅四十センチの角材から、厚みは十五センチ、幅は一メートルの板まで色々揃ってもいる。崩れないように荷造りはしてあるが、運んでいく先が先だけにデビルの襲撃等も考慮する必要があり、デビルと戦う手段を持っている冒険者に来て欲しい。
「途中の道を凍らせてそりを動かすので、天候がうんといいと少し時間が掛かるかもしれません」
 凍らせる手段は、もちろん魔法。ウィザードとスクロール魔法使いが一人ずついるので、道の様子によってはこの二人に付き添って先行する必要があるかも知れない。そりが進みやすいように、道を凍らせるためだ。

 よって、仕事内容は大雑把に三つ。
・馬そりによる木材輸送
・輸送路安定のために先行する可能性が高い魔法使いの護衛
・その道中の襲撃への対処
 この中の一つに専従してもよし、交代で掛け持ちしても構わない。
 当然だが、木材輸送には開拓村から馬やそりの扱いに慣れた住人が十六名、ユーリーとは別に従事する。全員弓と短剣で武装はしているが、デビルとの戦闘経験は少ないうえ、半数しか魔力を帯びた武器を持っていない。ほぼ自衛に務めることになるだろう。
 それでも、冒険者側の作戦に沿って動くことは出来るから、指示があれば出発前にユーリーに伝えてくれればよいとのことだ。

 無事運搬されれば、彼の地での陣地構築に大きな進展が得られるだろう仕事だが、キエフ近郊はこのところ何かときな臭い。
 目的地到着までには一波乱、二波乱くらいは覚悟しておくべきだろう。

●今回の参加者

 ea9311 エルマ・リジア(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3227 フレイ・フォーゲル(31歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ec1051 ウォルター・ガーラント(34歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec3237 馬 若飛(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec3272 ハロルド・ブックマン(34歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 先頭から最後尾まで、実に五十メートル。進み具合もゆっくりとした馬そりの隊列は、特段の問題もなく順調に進んでいた。この時点で冒険者達と合流した開拓村を出発して二日、まもなく本日の野営予定地に到着して、明日の昼前には目的地まで着こうかという状況だ。先行隊とは、野営地で落ち合うことになっている。
 けれど。
「妖精が来た!」
「や、やえーち?」
 先んじているエルマ・リジア(ea9311)の連れていた陽精霊ミスラのファルファリーナが、その姿を見付けた先頭馬車の御者が叫んだ時には目の前に飛んできている。片言しか操ることはないが、戻ってくるのは危急の事態のみ。
 今回の依頼では、それはデビルの襲撃を意味している。
 御者の傍らにいた弓手が、かねてより用意の矢を空に向けて放つ。五十メートル、馬車八両。後ろまで連絡を回すのは人の声ではまだるっこしい。御者や弓手を担当しているエルフ達が森の中で連絡を取る際に使用している特殊な造りの、音を鳴らして飛んでいく矢が放たれたら敵襲に備えろと、これは事前の打ち合わせで決まっていた。村を出る前に、ハロルド・ブックマン(ec3272)とフレイ・フォーゲル(eb3227)が備えておかねばとユーリーに伝えたので、そういうことならと出てきた代物だ。時折使っているエルフ達が、この音を聞き逃すことはまずない。
 この音に反応したのはもちろん依頼人側だけではなく、最後尾についていたフレイも中程に位置していたウォルター・ガーラント(ec1051)も、ほぼ同時に前方の空を見上げている。最初に異変を感じ取った馬車から矢が上がることになっていて、それが最前列なら敵は前にいる。
 そうして最後尾で遮るものが多いフレイはともかく、レンジャーで目の利くウォルターは、予想通りに前方から飛んでくる大量のデビルの姿を見付けた。
「一見さほどの仕事でもないが、デビルはしっかり潰しに来る。重要さを理解するモノがいるということでしょうか」
 多少ゆっくりでもそり、歩いて移動するデビルが襲ってくるのは向こうの分が悪い。かといって、騎馬隊のようなデビルともなると、数が限られるのか集団で見るのは地獄の中がほとんどだ。となれば機動力に優れる羽のある輩が来るだろうと、その読みは当たっていたが、そこから先はどう転ぶかわからない。
 それでも自分の馬に乗って隊列の間を移動するユーリーの指示に従って、馬そりは周辺地理が許す限りにおいての密着態勢を作った。その間に、デビルの先陣はもう先頭に辿り着いている。
「ハロルド、頼むぜ!」
 もっとも最初に馬そり隊に合流したのは、先行していたはずの人々だった。エルマのヒポカンプスにウィザードも相乗りして、エルマ共々その首にしがみついている。手綱はすぐ脇を卓越した技量で併走する馬若飛(ec3237)が取っていて、ここまで走らせてきていた。ヒポカンプスは陸上での戦闘に向く生き物ではないから、馬車の手前で馬は今度はエルマを抱え上げ、ウィザードとヒポカンプス・バーシトレイバーはユーリーに委ねられた。そのまま、他の馬車から外された馬達と共に確保されている。
 そうしている間に、呼ばれたハロルドの低い詠唱は完了していて、彼の最高効果で放たれたアイスブリザードが飛んできていたデビル達に相当の傷を負わせた。中にはそのまま塵と変わるものもいる。
 けれども、下級と呼ばれるデビルとてまったく知恵がないわけではなく、飛んできていたデビルの半数はその前に周辺に拡散していた。当然のように、地に下りたエルマやその傍らの馬と軍馬にも群がってこようとする。それ以外は、後方に向かっていた。
 群がり来るデビルに対して、もう一度アイスブリザードが放たれた。今度はハロルドではなく、効果を絞って確実に発動させることを狙ったエルマの魔法だ。その分効果は薄いが、彼女に近付いてくることは叶わない。
 なにしろハロルドのアイスブリザードも重なり、それを掻い潜れても今度は馬が待ち構えている。この二人の連携は古馴染みだけあって絶妙で、エルマもここまでの道行きでその関係はだいたい察している。人を巻き込まないために前列に出ても、きちんと対応してくれるファイターがいるのは心強い。
 同じことは馬も思っているが、流石に敵が多数だと前線を一人で維持するのは困難だ。かといって、人数からして他の誰かが駆けつけてくれることはなく、冒険者以外は自分達と荷役馬を守ってくれればそれでいい。特にユーリーは全体指揮の役目もあるし、狂化で弓手達の士気が落ちることが怖いので、前線には出るなとよく言い含めてある。
 よって助けは来ないから、これはなかなか厄介だぞと腹の中では考えているのだが、もちろん顔には出さない。相手が数で押してくるしか能がない連中で助かったと思っているあたりは、多分苦笑にでもなって唇の辺りに滲んでいるだろうが。
 幸いにして、魔力のある矢の応援がようやく始まって、最前列に向かっていたデビルの大半は戦況不利を悟らざるを得ないようだ。
 反面、中間地点は明らかにデビル側有利だった。こちらの戦力はウォルターとエルフの弓手が三人。魔力を帯びた短剣を持っている一人も近くにいるが、こちらは荷役馬やウォルターの驢馬などを守るのに精一杯だ。デビルに有効な武器を持たない面々には、ユーリーがオーラパワーを付与しているが、魔法の発動光を目印に襲われるので遅々として進まない。
 不幸中の幸いは、ウォルターがこれまでに何度も彼らの開拓村からの依頼を受けていたことだろう。一部初対面もいたが、村から来たエルフの大半は顔見知りだ。ユーリーが魔法付与に集中している間、弓手達はウォルターの指示を良く聞いてくれる。敵が飛行するものばかりとはいえ、こちらもウォルターを含めて弓手ばかり。近くに飛び込まれると危険な中で、かろうじて人的被害は出さずに持ちこたえていた。
 荷役馬を外して時に盾代わりに使われている荷馬車の一部にはデビルが取り付いて、ロープと幌で厳重に括りつけられた木材を荷台から落としてやろうと画策中だ。一両分の木材を犠牲にしても止むなしかと考え、次の瞬間ウォルターと弓手の一人が相手の目的に気付いた。
「ユーリー、招集!」
 ウォルターが、ユーリーに他の手勢を集めるように叫ぶ。弓手達は馬車に取り付いたグレムリンやインプ目掛けての攻撃に切り替えるが、そうすると近接戦闘能力のなさで自分達が襲われる。
 最後尾で前方、中間の仲間に合流できないでいたフレイと御者、弓手達は、それでもここまでの攻撃を避けて襲ってくるデビルの少なさに、荷役馬も含めて無傷の状態だった。下手に大量に近付かれると、攻撃可能なのは弓手が一人、フレイはファイヤーボムしか攻撃手段がないので非常に危険だが、今まではなんとか凌いでいる。馬車に当たって荷崩れしたら、自分達が下敷きだ。
 特徴的な、鳥が長く叫ぶのに似た音がする矢が再度放たれたのはこの時。先程と同じく、緊急事態を知らせる音だ。もう一つの矢なら、総員荷物を捨てて撤退だが、それではない。
「このレミエラは索敵には便利だが、こう乱戦だと目立つばかりだな」
 手にした杖に着けたレミエラの効果で、フレイの胸の辺りに光点がめまぐるしく点滅している。先程までは点滅したりしなかったりだから、彼らの居場所近くまでデビル達が進んできたという印だ。レミエラの効果範囲が十メートル、荷馬車の間隔を詰めても先頭部分は範囲に入らないから、中間あたりにデビルが集まっているのは分かる。
 念のためインフラビジョンを使用してから、フレイと弓手がそちらに向かって走り出した。他の人と荷役馬を置き去りにする形だが、先程の合図は戦闘可能な者への緊急招集だから致し方ない。見れば、一両の馬車に多数のデビルが取り付いて、特定方向に通そうとしているのが分かった。
 その方向にいるのは、御者と荷役馬の大半で。当然避難しようとしているが、デビル側もこのあたりは秩序だって攻撃を仕掛けてくるので囲い込まれている状況だ。
「ディーテ城砦を人が占拠するのも苦労多く実り少ないと思いきや、あちらにも占拠されたくない理由がありそうですな」
 ただ見える範囲には、そうした行動の理由まで知っていそうなデビルは見当たらない。なにより日が暮れてきて、見通しが悪くなっているのが実情だ。フレイのインフラビジョンも、人や荷役馬なら捉えられるが、デビルは辺りの冷えた風と変わらぬ温度のようで、あまり見えない。
 それでも上空に何体かが集まっているのは分かったので、フレイはそこ目掛けて魔法を放った。弓手は馬車に取り付くデビルを一体ずつ狙う。フレイよりは夜目が利くが、それでも的中率は下がっているだろうか。
「ファル! ライトの魔法っ、早く!」
 明かりを灯す余裕がない中、前方から駆けつけたエルマが息を弾ませて叫んだ。きゃーとか場違いに明るい悲鳴がしたが、ややあってライトの魔法が灯った。陽精霊のおかげで、辺りが照らし出される。
 陽精霊とは正反対に野太い気合の声と共に、馬車の荷台目掛けて槍を振り上げたのは馬だった。材木に幾らか傷が付いたかも知れないが、ロープの結び目に爪を立てていたインプは消し飛んだ。
 他にも複数いたデビルは、ごろごろと氷漬けになって転がり落ちたのが二体。ウォルターや弓手達に矢衾にされたのが数体。空に逃げれば、フレイのファイヤーボムで狙われる。中にはそうした合間を縫って誰かしらに飛び掛るのもいるが、大半は攻撃範囲から逃れればすかさず逃げていった。仲間同士で助け合うといった事は、まるでない。
 時間にすれば半時間足らず。攻めて来た数も良く分からないし、倒した数は死体が残らない。逃げ延びた奴がいるのは間違いないが、
「ウォルター、これ飲んどけよ。他の怪我人はどうだ」
 追いかけて殲滅するのは今回の依頼ではない。また人手もないので、材木を運ぶことが優先される。ウォルターが相当の傷を負い、二番目にひどいのが狙われたユーリーだったが、馬から回復薬の提供を受けて身動き出来ないといったことにはならずに済んだ。馬はさりげなくユーリーから補填の約束を取り付けている。
 デビル達が野営地辺りで集まっていたところにエルマや馬が出くわしたのが最初なので、偵察は一休みしたウォルターが中心になって念入りに行ったが、罠もデビルの気配もなく、なんとか予定の場所で野営をしたのは空が暗くなって大分経ってからのことだった。

 夜が明けて、改めて自分達が通ってきた道を地面に適当な地図を描いて確かめていた者が数名いたが、幾つか道順はあっても最終的にこの野営地にした場所を通る必要がある。それを知っていて待ち構えていたのなら、地理に詳しいデビルか内通者がいることになるが、そこまで調べる方法もない。
 まずは再度の襲撃を警戒していたが、無事に夜が明けたので、
「こんなに美味しいものが作れるなんて、きっと努力の賜物ですね」
『食い意地の賜物』
「ハロルド、食いたくないか?」
 魔力の回復も果たしたエルマが、馬が作った食事を誉めていた。わざわざ地面に字を書いてまぜっかえしているのはハロルドだ。ウォルターがそれを見て、こういうこともたまにはするのかと思っているが、気持ちは分からなくもない。
「仕事に励むには、こういうささやかな楽しみがあるのも重要なことですな」
 フレイも誉めるくらいに、料理がうまかったからだ。最初、『作ってやる』と言われた時にはさぞかし男らしいというか、豪快なごった煮でも出てくるかと思った者が多いが、予想を覆して色々と素晴らしかったのである。フレイなど上品な態度は崩さず、でもおかわりを繰り返していた。時折そういうことをすると断りはあったが、よもやつけている指輪のせいだと思わない開拓村の人々は、狂化みたいなものかと変な納得をしているようだ。
 そうして皆が人心地着いたところで、荷馬車の様子をよく確かめる。残りの道程は僅かだが、途中で荷崩れが起きたら道を塞ぐことになりかねない。
 その間に道の様子はスクロールの使い手にウォルターとハロルド、念のためフレイも加わって、確認しながら凍らせておく。この時期は早く溶けてくれと考えるのがロシアの人々の常だが、荷が重い時はそりのほうが楽なのでこういう無理をしている。残りもあと僅かのことだが、他に通る人がいれば迷惑なことだろう。普通は誰もが春を待ち望む時期だ。
 けれど。
『溶ければ、本格的な侵攻があるだろう』
 どういう会話の流れだったか、ハロルドがふと書き記した一文が皆の依頼達成の明るい気持ちを引き締めた。
 現在でさえ情勢穏やかならぬキエフでは、確かに雪解けを心待ちにしている人はいつもより少ないのかもしれない。