【黙示録】ブルメル領救援

■イベントシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:22人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月01日〜04月01日

リプレイ公開日:2009年04月13日

●オープニング

 王都キエフからそう遠からぬ、ブルメル伯爵領。
 冒険者ギルドでは、ここ最近デビルの動きが活発な地域として認知されている。またシャドウドラゴンが近隣地域に棲んでおり、その山にはデビルが付け狙っていた剣が隠されていた。
 この剣は冒険者が、ブルメル領と懇意のガルシン伯爵領からの依頼で、ガルシン伯爵子息と共に入手したが、いまだ扱いが明朗ではない。もしかすると両伯爵間でなんらかの相談が行われたかもしれないが、それに関する報告も情報も届いていないのが現状だ。
 それもそのはず。
 ブルメル伯爵領は現在デビルの大群の侵攻を受け、急を知らせた使者はそのことを伝えるのがやっとの重傷でキエフに駆け込んだからだ。
 ブルメル伯爵からの書状には、キエフ内外の騎士団や教会に対する援軍の要請と‥‥


『領内村民の救助を願う』


 伯爵本人と夫人の署名入りで、そう記されていたという。

●今回の参加者

ローラン・グリム(ea0602)/ ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ ディアルト・ヘレス(ea2181)/ リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)/ ジークリンデ・ケリン(eb3225)/ フレイ・フォーゲル(eb3227)/ イリアス・ラミュウズ(eb4890)/ 日高 瑞雲(eb5295)/ エレイン・ラ・ファイエット(eb5299)/ セルゲイ・シュトロレイム(eb8543)/ セイル・ファースト(eb8642)/ エルディン・アトワイト(ec0290)/ ミシェル・サラン(ec2332)/ ラルフェン・シュスト(ec3546)/ ルースアン・テイルストン(ec4179)/ 齋部 玲瓏(ec4507)/ イクス・グランデール(ec5006)/ ヴィタリー・チャイカ(ec5023)/ リュシエンナ・シュスト(ec5115)/ ジルベール・ダリエ(ec5609)/ 楠田 富樫(ec6135)/ セシル・ミラー(ec6162

●リプレイ本文

 ブルメル領の城からは離れた山の中。
 現在デビルの猛攻を受けている領地の中の、二つの村を避難させるのに選ばれた場所は片方の村に近い山中だった。人跡未踏の場所ではないから、山裾は人が頻繁に出入りするための道があり、上のほうも道そのものは大分細く、木々も密集しているが、村人にはまったく不案内な場所ではないようだ。
 難点は、中腹より少し上の拓けた場所。避難場所とする、様子からして一度は誰かが入植した気配があるそこにも若木が茂っていて、見通しが万全ではないことだ。
「どの木も実がなるものだから、誰かが植えたんだろう。切るのは後々を考えると得策ではないな」
 村人達を誘導して来てから、問題が発見されたのでは不安を煽ることになる。皆に先んじて様子を見に来たヴィタリー・チャイカ(ec5023)は、テントを張るならどこと目星をつけつつ、木々も見て回っていた。まったく見通せないのではないから、わざわざ切る必要はないだろう。
「切っても、すぐに薪にはならんしな。せやったら、俺は荷物持ちに行ってくるで」
 同行したジルベール・ダリエ(ec5609)は、自分とヴィタリーの馬二頭に積めるだけ積んできた荷物を下ろして、テント張りを幾つか手伝ってから、再び騎乗の人になった。これから山裾の村に様子を伝え、遠い村のほうまで走ってあちらの手伝いだ。
 ヴィタリーは、皆が来るまでの間に怪我人などを収容する準備をするつもりだった。

 今回の行き先は村が二つなので、集まった冒険者達も二手に分かれることにしていた。キエフから近い村に七人、遠いほうに八人だ。やることには大差はない。村人達に移動に支障がない、すぐに必要な荷物をまとめてもらって、避難場所に移動する間に敵襲があれば守る。
 キエフから近い、規模の大きな村とは、リュシエンナ・シュスト(ec5115)が縁があった。彼女はブルメル伯爵夫人からの依頼でこの村を以前に訪れたことがあり、村人もそのことを覚えている。そのおかげもあって避難するかどうかを悩んでいた村人達もすんなりと冒険者達の言うことに従った。
「避難に適した場所があると聞いていますが、どのあたりが良いでしょう。出来れば水源が近いところがありますか」
 ルースアン・テイルストン(ec4179)が尋ね、道順を聞いたヴィタリーとジルベールが先んじて向かい、その間に村人と残った冒険者で避難の準備をする。もっと偵察に出してもと考えていたが、日常的に村人が出入りしている山で熊ならともかくモンスターの心配はなく、避難人数が多い分準備が大変なので人手を要したのだ。
「春先だし、弓矢や斧も忘れないでね。鉈もあればお願い」
 リュシエンナも、あまり皆が警戒しすぎないように気を付けつつ、声を掛ける。
 ディアルト・ヘレス(ea2181)とヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は荷のない戦闘馬、軍馬を荷役に貸し出し、セイル・ファースト(eb8642)もほぼ同様の状態の軍馬を宥めつつ、普段は絶対乗せないような荷物を積む。
 エルディン・アトワイト(ec0290)の連れてきた戦闘馬と荷役馬は、荷物を積むのもいつもの事のような顔でいるが、戦闘馬にはミシェル・サラン(ec2332)が自分の居場所を確保していた。
「家畜もこれだけ色々いると、後で誰のか分かるのかしら」
 ミシェルが群れを成す羊や山羊に渋面を作ったが、村人達は混ざっても平気だから大丈夫なのだろう。シフールの彼女は皆の準備の間、それらの家畜達がはぐれてどこかに行かないかを見ていることになったが、
「こういう仕事は、非常に久し振りなのだ」
「子供の頃以来だろうか」
 二人のテンプルナイトは、村にペガサスでやってきた時の荘厳さはどこへやら。興奮して走り回る鶏を捕らえては、籠に押し込んでいる。案外手馴れて見えるのは、修行の折に鶏を追ったことでもあるのだろう。単純に、彼らくらいの手練れともなると鶏も遅く見えるのかもしれない。
 リュシエンナやルースアンは各家庭での荷物をまとめを手伝い、大きな鍋や瓶があれば持っていくようにと目配りをする。引越しではないので、持っていく荷物を絞らせることも重要だ。
 毛布は運んできたものがあるから、無理に持って行かなくてもいい。でも子供の上着は忘れずに、食料も出来るだけ多く、薪も忘れずに。荷物は出来るだけ箱に詰めるか、大きな布で包むかして、自分の物と分かるように目印も。自分で持つ分は背負って両手を空けること。
 そうやってまとめられた荷物を、近所同士で一つの荷車に積む。馬や驢馬がいればそれに牽かせるが、荷車によっては人が引くから荷物の配分は慣れていないと難しい。普通は誰かしらそういう人がいるが、手が足りないのでセイルが手伝っていた。
「ぼろ布ならあるぞ。それでよければ使ってくれ」
 持って来た荷物も必要に応じて配分して使ってもらう。依頼内容は避難の護衛だが、準備を疎かにしては達成が難しい。それに依頼期間を過ぎても、村人はしばらく避難生活を強いられるだろう。持っていける荷物は多いほうがいい。
 セイルが渡したぼろ布は、ひよこが入れられた木箱に敷かれている。その木箱も荷車の上に。
 その頃。
「ブルメル城では知り合いが戦っています。少しでも何かできることがないかと救援に志願しました」
 エルディンはデビルと聞いて不安がる人々の間を巡って、話を聞いていた。村はジーザス教黒だが、白のクレリックの言葉でも励ましてくれると元気が出るものらしい。ブルメル城に応援に行っている仲間がいると聞けば、余計に親近感があるものだろう。
 そのエルディンが見たところ、魔法が必要なほど混乱している者はいない。ただ年配者は村から離れ難いようで、エルディンの『少しの辛抱ですよ』という言葉に涙ぐんでいたりする。
 それでも準備が整い次第に、村人と冒険者達は村を出発した。
 ルースアンやリュシエンヌ、エルディンが村人や家畜がはぐれないように、主に後方に着く。上空にはミシェル、ペガサスに乗ったヤングヴラドとディアルトが警戒と偵察に当たる。地上はセイルが担当だ。
 行く先が村人の何人かは知っている場所というだけあって、多少の緊張はあるが、道行きは順調だ。

 もう一つの村には、フライングブルームで向かったジークリンデ・ケリン(eb3225)が先触れとなった。見慣れないものでやってきた相手に村人は最初驚いていたが、
「そんな珍しいものを使うのなら、冒険者の方ですか?」
 ブルメル伯爵夫人の侍女が、危険を避けるようにと里下がりを許された帰り道の途中で村に留まっていて、村長に依頼のことを伝えてくれた。彼女、アーニャの説明がなかったら、デビルの襲来を聞いて神経がささくれ立っていた村人達は、ジークリンデの言うことをすぐには信じなかっただろう。冒険者への村人の印象とは、彼女も、後から来る人々の半数くらいもあっていない。
 村人が警戒するのも当然で、村からは遠くに空を飛ぶデビルの姿が時折目撃される。こちらに向かってきたことはまだないが、そちらの方向には城があり、一体どうなるのかと戦々恐々としていたのだ。
 だから、後からやってきたリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)とラルフェン・シュスト(ec3546)が理路整然と、だが誰にでも分かりやすく、依頼の内容と避難場所を説明して、誰からとは言わなかったが全員に行き渡るだけの保存食を示したのに安堵の表情を浮かべた。なにしろ逃げようとは思っていたが、どこに逃げたらいいものか、村の中でも意見が割れてまとまらずにいたらしい。
「頼まれたからには、出かける準備から手伝うぜ。なんでも言ってくれよ」
 なんだったら、目的地まで背負ってやると日高瑞雲(eb5295)の弾けるような声に、村人は慌てて避難をするための準備を再開し始めた。何を持っていけばいいのかという問いには、リュシエンヌが指示を出し、年寄りや病人、乳飲み子がいる家には齋部玲瓏(ec4507)が手伝いを申し出た。エレイン・ラ・ファイエット(eb5299)やフレイ・フォーゲル(eb3227)も、まずは荷造りの手伝いだ。
 デビルが遠目にも目撃されるというから、念のために村の周囲に見張りも立てる。目が利いて遠距離の魔法攻撃が出来るジークリンデや、テレスコープで遠方まで確認が出来る玲瓏が交代で見張るので、女性に任せて大丈夫か、申し訳ないのではと思う村人も多数いたが、適材適所である。
「早く移動出来るようにするのが、皆さんの仕事ですよ」
 フレイが言うように、こちらの村では移動距離がある。早く準備して出なくてはいけないし、人が乗るための荷馬車も必要だ。荷物は小分けして、日高やラルフェン、玲瓏の戦闘馬に載せる。後から追いついたジルベールの二頭の戦闘馬も、もちろん今回は荷物積み。フレイの蒙古馬やリュシエンヌの荷役馬は村の馬と一緒に、人が乗る荷馬車を引くことになった。
 行った先で雨露が凌げるのかと心配する向きもあったが、そこはちゃんとテントが人数分用意されている。家畜を囲う柵代わりにロープも使えるだろう。そのあたりは手馴れた者がいるから大丈夫と言い聞かせ、あまり慌てないように注意を払う。
 準備が出来たら出発だが、人数が人数だから長い列になる。
「子供の手は離さないようにな。家畜がはぐれたら、まず周りに声を掛けて」
 エレインが家畜の群れを先導する人々に、慌てて追いかけてはぐれないようにと注意する。ちょっとだけだと一人離れられたときに何かあると、対応が難しいからだが、そうは言わない。
「君の村には、妹が出向いているな。顔を見たら喜ぶだろう」
 ラルフェンはアーニャが妹のリュシエンナと面識があると知って、笑顔になった。アーニャも自分の村も避難していると知って安心したようで、そうした様子を見て、周りも少しは緊張がほぐれてきたようだ。
「うちもね、旦那が今山の方の防衛に出ててね」
 リュシエンヌもあれこれと皆に話し掛け、子供や年寄りの様子見も欠かさない。幸いにして長い距離を歩くのは厳しそうな者は皆に馬車に乗れたから、移動速度は思っていたより速い。村の子供達も結構な健脚だった。
 一番の難物は家畜で、最初は飼い主に指図されるままに歩いていたが、途中から寄り道を食い始めた。まさに、萌え始めた若草を見付けては、もぐもぐもとやり始めるのだ。
 玲瓏が行って、聞き耳頭巾で鳴き声を聞くと『さあ食べよう』と威勢が良い。邪魔をしたら蹴り飛ばされそうな勢いである。このあたりは飼い主が急かすが、時々列の進みが悪くなる。
 人のほうも歩き続けるのは辛いから、家畜がどうしても止まる時には休憩を入れて、地道に進んだ結果、デビルの襲撃は受けずに避難場所までは辿り着いた。

 避難場所に辿り着いても、仕事は終わらない。
 持って来た支援の品物を分類して、数も数えなおした上で、両村の主だった人々に引き渡す。人数を考えて持ってきたものだから、人数割りで分けることにはなったが、一人ずつに配ると管理が大変だから、一箇所に纏めて必要に応じて使ってもらう。そうした約束はお互いに困っていることもあり、伯爵からの依頼で来てくれた冒険者達の心遣いだからと順調に決まった。まあ、ジーザス教黒のクレリックヴィタリーが同席しては、どちらも勝手なことなど言い出せる雰囲気でもなかったが。
 家畜は屋外の手仕事が得意な者が村人と共に、ロープで仮囲いを造って、齧られないように細工もして、村別に何箇所かに分けて入れた。テントの周りに仮囲いを置けば、ちょっとの物音でも家畜のほうが先に騒ぐから、村人を起こして回る必要はないだろう。
 村人のテントの割り振りも、両村の話し合いと元々近いもの同士を優先で決めてもらい、張るのは皆でやる。両親と子供が四人くらいだときついことこの上ないが、当人達が良いならそれで利用してもらう。余ったテントは疲れで伏せった者にゆったりと寝てもらい、一部は家畜の子供を入れて保温した。
 そう進める間も、もちろん周囲への警戒は怠らない。最初に異変に気付いたのは、率先して見張りに立っていたジークリンデだった。
「アクババです。巨体ですから、家畜が暴れないようにさせてください」
 遠目にも目立つ巨体を正確に捉え、他の冒険者に知らせる。どうやら近くの村の襲撃を試みて、誰もいないので山の上を通ろうとして、人影があるのに気付いたらしい。数は三体。
 ディアルトとヤングヴラドがペガサスで飛び出し、ジルベール、リュシエンナが弓を構える。ジークリンデは魔法詠唱の準備をしつつ、周りの味方の配置を確かめる。
 フレイはレミエラを発動させて、十メートル以内にデビルがいないことを皆に知らせた。エレインはブレスセンサーで、ミシェルはスクロールのリーヴィルエネミーで、敵の接近を知ろうとする。
 エルディンはホーリーフィールドを幾つも巡らし、ヴィタリー、ルースアン、玲瓏、リュシエンヌは村人の近くで護衛だ。
 中空でアクババと戦闘に入った二人と、そちらを無視して人が沢山いるほうに向かってくるデビルの姿に、けたたましい鳴き声や複数の悲鳴が上がったが、日高とセイルのソードボンバー、ラルフェンのレミエラ効果のソニックブームが迎え撃つ。攻撃魔法もあるけれど、使い手の大半はより村人の近いところにいるから注意を引くのは前衛の役割だ。
 一体は中空で、二体が地上の冒険者を排除しようと、その大きな爪を繰り出すが、多くはそうそう簡単にやられるほど装甲が薄くもなければ、動きが遅いわけでもない。ペガサスはホーリーフィールドで避けたりと、指示されなくてもデビルに容赦ない行動を取った。
 地上は地上で、攻撃最大の防御とばかりにソードボンバーやソニックブームを放っていたが、デビルが空に逃げようとすれば今度は魔法が飛ぶ。空なら方角さえ間違えなければ、テンプルナイト二人を巻き込む心配もないので、防御専門の者に村人の混乱を抑えてもらう間に、打ち放つ。
 最初はアクババの異様な姿に怯えていた人々は、状況有利と察すると物珍しそうに魔法の軌跡を目で追ったりしている。家畜はそうも行かず、徐々に興奮が募って暴れ始めていたが、アクババ三体が塵になったのは最初の山羊が囲いを突破するのと同時だった。
 うろたえ騒ぐ家畜を宥め、逃げた一頭を探して連れ戻し、ついでに周辺地域にデビルの反応がないかも確かめる。合間に緊張で疲れ果ててしまった人々にとりあえず白湯を飲ませ、甘いものを一口ずつ配り、元気が出た人達には食事の支度をしてもらう。
 そうしている間に、城の方角で火の手が上がって皆を不安にさせたが、デビルの集団は城の付近から消え‥‥
 城が燃えたものの、デビルの進軍は食い止め、ドラゴンの援軍まで得られたのだと知らせるシフール伝令がやってきたのを確かめて、皆はキエフに戻ることになった。
 村人達から、今回貰ったものはどうやって返そうかと別れ際に言われて、返してもらうつもりなどないから答えに迷った者も多かったけれど、
『ではいずれ、伯爵から冒険者ギルドに』
 貰うのではなく返すといえる気持ちの張りがあることを喜ぶべきだと、そう思いながらの帰路となった。
 避難場所にいる間、ほとんどずっと水を出すのに魔法を使っていたミシェルだけは、空いた馬の上ですやすやと寝入っている。