いままさに、ぼくらはなだれているのです

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月20日〜04月25日

リプレイ公開日:2009年04月28日

●オープニング

 その日、冒険者の人達は山道を歩いていたのです。
 お仕事は順調に終わって、後はキエフに帰るだけ。それだって、もう一日くらいで到着です。
 そんなに難しいお仕事ではないから、貰える報酬はちょっと少なめです。でも人助けをした後はとっても気分がすがすがしい。
 まだ雪が残っている山道で、春も間近のこの時期は泥だらけで歩きにくいけれど、雪の中を進む冬と比べたらなんと歩きやすいことでしょう。
 山道だけど、あたりはまだ残雪がいっぱいだけど、山肌に比べたら道の雪はほとんどありません。
 だから泥だらけなんですけれどね。
 陽気はぽかぽか、お空は真っ青、風は生暖かく‥‥


                どどどどぉぉぉぉん

 今、遠くで何か音がしました。


        どどどどぉぉぉぉん

 なんだか近付いてきたみたい?


   どどどどぉぉぉぉぉん

「うっわー、雪崩だーっ!」


 冒険者の人達は、ただ今雪崩に飲み込まれているのです。

●今回の参加者

 ea5886 リースス・レーニス(35歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 ec6371 グスタフ・フロックス(33歳・♂・ファイター・ジャイアント・エジプト)
 ec6399 アーチェ・ハーン(29歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ec6421 アーチェ(32歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588

●リプレイ本文

 溶け残った雪が目立つ山道を、二人の人が歩いていました。
 いえいえ一人はシフールさんなので、正しくは飛んでいます。お名前をシャリン・シャラン(eb3232)さん。お連れは火の精霊のフレアさんです。
 フレアさんのほうが大きいからお姉さんに見えるとか、そんなことは言ってはいけません。しーっ。
 もう一人はパラさんのリースス・レーニス(ea5886)さん。ろばさんのかぽさんと一緒です。
 シフールさんとパラさんだから、お子ちゃまのお出掛けに見えるなんて言ってはいけません。しーっ。しっー。
 ま、どう見ても冒険者さんには見えないお二人連れが、歩いていたのでした。吟遊詩人さんのリーススさんと、踊り手のシャリンさんだから、冒険者さんに見えなくても不思議はない人達なのですけれど。
 そんな二人と一頭と一体を、

 どどどどどぉぉぉぉぉぉんんんんっ!

 雪崩が襲ったのでした。


 雪崩というのは、とっても速いのです。
 あっと思ったときには、もうよっぽど運がよくないと逃げられません。
 そして、リーススさんとシャリンさんの二人は、あんまり運が良くなかったのでした。
「か〜ぽ〜」
 リーススさんは、お出掛け前にお友達と『雪崩の時には板の上に乗っていると、雪崩の上を滑って逃げられる』とかなんとか、かーなーりー眉に唾付けて聞かないといけなさそうなお話をしていたようです。信じてはいけません。そんなことは出来ないのです。
 そりに乗って、雪の積もった坂を滑り降りるのは、それはそれは楽しいんですけれどね。雪崩にのまれるのは、とっても大変です。
 いえ、もうのまれちゃって、どこに行っちゃったか分からないんですけれどね。リーススさんは、お荷物共々行方不明になっちゃっているのですが。
 かぽさんは、リーススさんが『逃げて〜』と叫んだのでとことこ走ったおかげで、雪崩ちゃったところとそうでないところの境目にいます。元々お荷物もないので、自分だけ元気。
 くっしょいっ。
 でも流石に寒かったみたいで、くしゃみをしています。なんたって、雪がいっぱい雪崩れていきましたからね。
 ところで、リーススさんはどこ?

 雪崩というのは、とっても速いのです。
 あっと思ったときには、もうよっぽど運がよくないと逃げられません。
 そして、シャリンさんとリーススさんの二人は、あんまり運が良くなかったのでした。
「フレア〜」
 シャリンさんは、相棒の火の精霊さんのフレアさんを呼びました。楽しくおしゃべりしていたので、すぐ近くにいるはずです。預けてある風の精霊さんのヒューリアさんを呼び出すためのランプを渡してもらわなくっちゃいけません。
 それでランプをこすって、念じて、十秒経ったらヒューリアさんがぼんっと出てきてくれるはずなのです。いつもだったらそうなのだけれど。
 フレアさんは火の精霊さんなので、雪崩の気配がすぐに分かったみたいです。様子を見ようと思ったのでしょう。一人だけ逃げちゃえと思ったはずはありません。でもシャリンさんが呼んだ時、ちょっと離れて上のほうを飛んでいたのでした。
 きょろきょろ。
 フレアさんが周りを見たとき、シャリンさんの姿はもう見えなくなっていました。シフールさんですから、雪崩にのまれたらもうなにがなにやら、どこに行っちゃったものか。
 シャリンさーん、どこですかー?

 今回のお仕事は、人助けでした。
 二人ともとっても頑張って、他の人と一緒にお仕事をちゃっちゃと済ませたのです。もちろん依頼人さん達は喜んでくれましたとも。
 リーススさんとシャリンさんは、ついでに歌や踊りで依頼人さん達を更に喜ばせて、他の人達よりちょっと遅れてキエフに戻るところだったのです。
 それがまさか、こんなことになってしまうなんて。
 よもや、雪崩にのみ込まれることになろうとは。
 フレアさんだって、かぽさんだって、予想もしませんでしたとも。
『困ったわね〜、探しに行かないと駄目よね〜』
『誰か呼んで来る? それとも降りて行って探す?』
『あたしはいいけど、あーたは難しそうね。どうしようか』
『見付けたら引っ張ってあげるけど』
『『‥‥とにかく、困ったね〜』』
 そんなお話をしているかもしれません。かぽさんとフレアさんは、雪崩の跡を見ながら佇んじゃっているのでした。

 さて、その頃のシャリンさんとリーススさんです。
 当然ながら、二人とも別々です。一緒に埋まっていたらいいのですけれど、全然そんなことはありません。だから、もう一人とペット達がどうなったのか、まーったく分からないのでした。
 一人ぼっちは寂しいので、色々考えてしまいます。
 そんな暇があったら、じたばたして脱出すればいいって話もありますが、なにしろパラさんとシフールさん。力が足りないので、埋もれてしまうとなかなか動けません。
 埋もれていても、顔の周りが空洞で、息が出来るだけ『神様ありがとう』なのです。空気が冷たくて、頭がぐらぐらしますけどね。
 それになんだかぜえはあしてきて、動かなきゃとか、助けを呼ぼうとか、そういうことが思い付かないのです。
 お二人とも、頭が下を向いているのがいけないかもしれません。足はちょっとだけ雪の上ですけれど、じたばた出来ないくらいちょっとだけ。
 雪の中だから冷たいはずなのに、なんだかあったかい気がするのは、やっぱり春が近いからでしょうか。

 それからしばらくして。
 シャリンさんは、思っていました。まさか、雪崩にのみ込まれるなんてって。
 でもシャリンさんは踊り手さんです。こんな珍しい体験をしたら、
「踊りに取り込まなくっちゃ。それに珍しい話でお披露目できるわね」
 こんな風に考えます。ただびっくりしただけでは終わりません。
 そんなことを言えるのも、もちろん無事に脱出できたからです。フレアさんがヒューリアさんを呼び出して、二人の魔法でえいやっと雪崩の雪をあっちにやったり、こっちで溶かしたりしてくれたから、シャリンさんも無事なのでした。
「あ、他の人も探してあげてね」
『は〜い』
『あっちにいるみたい。引っ張ってあげましょ』
 フレアさんとシャーリアさんが頑張ってくれるので、シャリンさんは休憩です。疲れてしまって、体が動きません。シフールさんのシャリンさんより、大きい精霊さんが火を吹いたり、風を呼んだりしてくれたほうが早いでしょう。
 ほら、もう一人、二人、三人と続々助けてくれています。もう安心。
「‥‥う〜ん」
 だけどシャリンさんは、段々苦しくなってきていました。やっぱり雪の中に埋まっていたのがよくなかったのでしょうか。風邪でも引いてしまったかも?
 それになんだか、体が冷たくなってきたような‥‥ここはやっぱり、早くキエフに帰って、ゆっくりするべきなのでしょう。自分で飛ぶより、ヒューリアさんに連れて行ってもらうほうがいいかしら。
「う〜ん、ヒューリア〜」
 ずぼっ。
「ん?」
 シャリンさんが気が付くと、そこは雪の上でした。

 それからちょっとして。
 リーススさんは、前に溺れてしまった時のことを思い出していました。あの時には、小さなお友達が一緒でした。今回は一緒でなくて一安心です。だって、雪崩だと岸がないからどこに泳いでいけばいいか分かりません。
 今のリーススさんは、さっきかぽさんの声がした方向に、雪の中を泳いでいるところです。板でしゃしゃしゃ〜っと雪崩乗りは出来ませんでしたけど、泳ぐのは大丈夫。
 そうそう。お友達にも、この楽しいお話を教えてあげなくてはいけません。
「そうだ、お手紙書こうっと。他にもいっぱい面白いお話書いてあげなきゃ」
 雪の中を泳ぐのはちょっと大変だけど、わざと埋もれて遊ぶのは楽しいのです。他にもいっぱい楽しいお話をお手紙にして、送ってあげなくてはいけません。
 美味しいお菓子も持って帰ってあげたいし、光のカーテンの話はもう絶対にお手紙には書けません。直接お話しなくては。
 だけどその前に、おなかがすいてきたので美味しいものが食べたいです。あったかいともっといいでしょう。だって、なんだか寒くなってきたし‥‥
 なんといっても、泳いでも泳いでも、ちっともどこにも辿り着かないんですもの! かぽさんはどこ?
 疲れちゃったし、寒くなってきたし、おなかもすいたし、眠くなってきちゃったし、お手紙に何を書こうか考えちゃうし、考えていたら頭が痛くなってきちゃうし、
「かぽ〜、どこ〜」
 がじがじがじ。
 リーススさんが気が付いたら、そこは雪の上でした。

 シャリンさんが気が付くと、そこは雪の上でした。頭の上には、変な穴が‥‥これってもしかして、シャリンさんが埋まっていた穴でしょうか。そんなものが上に見えるのは、シャリンさんが空中にぶら〜んとぶら下がっているからです。
 上の方では、シャリンさんを雪の中から引っ張り出したフレアさんが、『なんであたしじゃない名前を呼んでるのよぅっ』という顔で、シャリンさんを見ています。
 あらら?

 リーススさんが気が付くと、そこに雪の上でした。目の前には変な穴があって‥‥なんだかとっても大きいけど、リーススさんがはまっていた穴みたい? そんなものが目の前に見えるのは、リーススさんが雪の上に転がっているからです。
 足元を見ると、リーススさんを引きずり出したっぽいかぽさんが、リーススさんのくつをがじがじ噛んでいるところでした。
 おやおや?

 その日の夕方のことです。
 リーススさんとシャリンさんは、かぽさんに抱きついて暖まっていました。毛布もすっぽりで、焚き火もフレアさんにいっぱいいっぱいお願いして見てもらっています。ヒューリアさんは、フレアさんがまだむっす〜という顔になるのでランプの中。
「まさか雪崩に巻き込まれるとはねぇ‥‥」
「かぽには、帰ったら美味しいまぐさをあげるからね」
 二人とも、雪の中で変な夢を見てしまいました。とりあえずフレアさんとかぽさんに助けてもらったので、今はとっときの紅茶とお菓子を食べて、元気をつけています。
「ああもう、キエフに帰ったら酒場でこれをネタにして盛り上がりましょ」
「あ、いいねぇ。わたし、歌を作ってみる〜」
 もうちょっと暖まったら、テントを出して、今夜はここでおねんねです。疲れてしまって、もう歩きたくありません。
 明日になったら、元気にキエフに帰って、それから冒険者酒場でこの珍しい体験を歌って踊って、楽しいことに変えなくては。
 シャリンさんもリーススさんも、だんだん元気が出てきたようです。
 明日はきっといい日でしょう。
 多分、きっと‥‥そうだったらいいなっ!