デスハートンの白い玉〜メイディア発
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月01日〜06月08日
リプレイ公開日:2009年06月12日
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●オープニング
デスハートン。
カオスの魔物が使う魔法で、主に主従の契約を望む者から魂を奪うのに使うものと言われる。
また言葉巧みに人を騙し、その望みを叶えてやるとそそのかして、代わりに魂の一部を得るためにも使う。
主従の契約を望む者は進んで魂を差し出すから、魔法を掛ければ必ず魂の一部が手に入る。
けれども多くは魔物との契約など望まない。それで相手を騙して、魂を得ていく。または差し出すしかない状況に追い込んでいく。
魔物の群れに村が襲われて命も危うい時に、『お前の家族の命を助けてやろうか』と言えば、多くの人はそれにすがってしまうだろう。ここで『助けてくれ』と言えば、魔物の側からは契約完了だ。
そうやって集められたのだろう多くの魂が、地獄のゲヘナの丘で捧げ物とされて、消滅した。
けれどもそうされるはずだった魂の一部は、ディーテ城砦から冒険者達によって奪還されたのである。
その魂が最初に持ち込まれたのは、メイディアの教会だった。
けれどもどのデビルが集めたかも定かではなく、当然魂の持ち主の所在も生死も不明。
この魂の凝った白い玉を、それでも教会は持ち主に返すべく努力することに決めた。
つまり、過去に魔物の被害を受けた地域、人のところに白い玉を多数抱えていって、本人の魂がないのか一つずつ確かめる。
これはその協力の依頼である。
●リプレイ本文
カオスの魔物達とデビルが地獄に集めたろう人の魂を元に戻す。
その依頼を受けた冒険者は当初の予定より一人減ったが、四名。うち一人の木村美月(ec1847)がゴーレムグライダーを使えたので、美芳野ひなた(ea1856)と一緒に先に目的地に向かうことになった。時間も限られているから、この二人が先に出向いて被害者の様子を確認したりする予定だ。
当初はひなたが色々持って行こうと計画していたが、そもそもグライダーは一人乗り機体で、荷物運搬を用途に想定していない。二人乗りでは荷物を載せる余地などないので、荷物の大半は後から来るエヴァリィ・スゥ(ea8851)とトンプソン・コンテンダー(ec4986)に馬車で運んでもらうことになった。歩いて二日半、馬車でも出発した翌日午前の到着になりそうだから、食材の買出しも新鮮なものとなると余り現実的ではない。
聞けば目的地もそこそこ物流がありそうなので、買い物の多くはそこですることにして、まずは二手に分かれての出発となった。
目的地は周辺では大きな街だというが、メイディアに比べたら四分の一あるかどうか。それでも畑や丘陵の中、迷うことなく辿り着けるくらいには大きな街だった。美月が思っていた教会らしい建物はないが、そもそもメイ全域でも教会がある街は稀だ。街の広場は人が出てきて、見慣れないグライダーを見上げているので、城砦の外、人通りが多い門にあたりを付けて降りることにする。
メイディアの冒険者ギルドから来たと告げると、話はすんなりと町長か街を治めている代官だかに伝わった。領主はこの街には住んでいないようだが、彼女達が来ることはちゃんと門衛に周知されていて、街の様子は落ち着いていた。
「これならお買い物も大丈夫そうですね。怪我人さんはどこでしょう」
道中と言うか飛行中、『魂は河童の尻子玉じゃないのに』とぷんぷんしていたひなたが、街の様子に顔をほころばせた。魂を取られた半死半生の人々が多数いると思っていたようだが、大半は自力で移動出来るから一見して街に傷病者がたくさんいるわけではない。それに魂が地獄から回収されてからも相当日数が経っていて、大半の人は今の体調と折り合いをつけつつ生活する方法を見出しているのだろう。
美月が『尻子玉を抜かれたら、まったく力が出ないんでしたか』と思ったかどうかは不明だが、まずは街の側から出てきた責任者達に自分達が先行してきた理由を説明する。その間、ひなたも買い物に行くわけにはいかず一緒。
街の説明だと、ここの住人にはほとんど被害者はいない。周りの城壁などがない町村がカオスの魔物の襲撃を受け、それも半年は以前のことだ。死者は全部合わせても十人に届くかどうかだが、家屋に火を放たれ、持ち出した鍬や斧で傷付かない魔物に散々威嚇された人々が、なんらかの会話の合間に魔物の言い分に頷いてしまった時に魂を奪われたのがほとんどらしい。多くはまだ幼い子供がいる親が、子供の命を助ける代わりにと持ちかけられている。
その話だけでも腹が立つことこの上ないが、不幸中の幸いで魔物達が再度現われる事はなく、体力が減じたと自覚した人々もなんとか生活していた。そこに届いたのが魂奪還の報だ。知らせを持って来たジ・アースの聖職者は点在している被害者をすべて回るのは困難だと言い、納得した領主の命で心当たりがある者が街に集まっている。
よって一刻を争う怪我人もいないし、人々は難民化しているわけでもない。慣れない街に出てきての間借り生活で多少の疲れはあるが、中には畑仕事がないと落ち着かないと気疲れしているような人もいるという。ただ歩けない十人とその家族は疲労が濃いようだと、これは街の薬草師の見立てだ。
思っていたよりも被害者の置かれている状況が良く、状況確認もしっかり出来ていたので、美月は街のあちこちに間借りしている被害者を訪ねて、顔合わせと魂の戻し方、それから今回全員分の魂があるとは限らないことを説明することにした。全員が一箇所にいるなら演説よろしく説明となるところだが、様子を聞く限りでは少人数としっかり顔を合わせて話した方が良さそうだ。
ひなたは差し入れのスープを作りたいと申し入れ、買い物したいものをあげた。予算は金貨十枚余と言ったところで、『市場ごと買い占めますか』と苦笑されている。集められた人々の食事は、出身町村ごとに集まって作っているし、食材も持ち込みと街からの差し入れとで大体賄っている。追加がありすぎても扱いに困るからと、それぞれの食事の様子を見て足りない物があれば少しずつ買ってくれと頼まれた。
結局、ひなたは一通りの食事箇所を回って、いかにも農村のおかみさんといった人々が作っている素朴な味付けの料理に一手間加えて、味に深みを出したりする方法を教えていた。美月はその間に、魂を抜かれた被害者達に会って、実際の様子を見たり、魂の戻し方などを説明している。
それをするだけでどちらも一日がかりだ。
かたや馬車組のエヴァリィとトンプソンは、ひなたに頼まれた品物を幾らかとメイの鎧騎士であるトンプソンが用意した保存食などと一緒に、五つの木箱に納められた白い玉を運んでいた。こちらも二人きりという少人数だが、色々手配した教会が馬車を借りる算段もしてくれたし、運ぶことそのものは問題ではない。幸いにして魔物が奪還に襲ってくることもなく、道のりは平穏だ。
陽気も悪くないが、エヴァリィは赤い頭巾を被ってハーフエルフであると悟られないようにしている。こればかりは外すと騒ぎになるので、目的地でも注意を引かないように注意する必要はあるだろう。
それでも目的地が慌しければ誰も気に留めないかもと二人はつれづれに話していたのだが、予想と状況が大分違うことに気付くのは到着してから。
その到着は、二日目の昼前のことだった。
さっそく使って欲しいと差し入れられた保存食と毛布を貰った街の代表は、ちょっと困ったようにまた何かあった時のために保管しておくとしていた。魔物の被害にあったのは不運だし、苦労が多いことなのだが、あまり目立って優遇されているとやっかまれたり、それに反発したりと揉め事の種になりかねないのでと言われれば、トンプソンも納得するところだ。また全員に行き渡らないので、それも取り扱いに困ったらしい。
「次などないほうがよいが、そういうことならご領主と相談してよいようにしてくだされ」
美月の説明からも、今緊急で手を打つべきは魂を戻すことだけだと聞いて、トンプソンもエヴァリィも一安心したし、人々の調和が優先されたほうが目的が達しやすいので地元の判断は優先してしかるべきだろう。
二人が一休みしたら、いよいよ魂を戻す作業の開始である。
さて、デスハートンで抜かれた魂が凝った白い玉は、おおよそ千個ある。木箱五つに分かれていて、どれを見ても同じ白い玉だ。目印になるようなものはない。
すでに美月がどうやったら魂が戻るかは説明してあるが、実際に千個の現物を見ると、被害者の心情は期待と不安が半々に見える。これだけあれば自分のものがあるかもと思うのと、全部試してもなかったらどうしようと落ち着かないのだろう。
「これを被害にあった方に渡して、自分のものか確かめてもらわないといけません。その選別のお手伝いをご家族はじめ、街の皆様にもお願いしたいのですが」
昨日説明をして回ったこともあり、街で一番大きな建物に集められた人々を前に美月が声を張り上げた。声の調子は高圧的にならないように気を配っているが、呼び掛けられた人々の反応は鈍い。端で見守っていたエヴァリィやトンプソン、ひなたがどうしたのかと思ってよく見ると、どの人も困惑した表情でいる。
「なんぞ不都合でもあるかな?」
トンプソンが尋ねると、数人が顔を見合わせてから、年嵩の一人が口を開いた。
いわく、選別と言われても具体的にどうしたらいいのか分からない。本人が口元に運ぶ以外に、誰のものか分かる方法があれば手伝えるが‥‥
「‥‥本人のところに‥‥運んでもらう‥‥?」
エヴァリィが小声で他の三人に問うたが、他に方法はない。選別と言ったので作業を早く進める方法があると期待をさせたようだと気付いて、すでに顔見知りが増えたひなたが美月と一緒にまた説明をし直している。
全体に皆の気分が沈んでいると察して、エヴァリィがそっとメロディーの魔法を乗せた歌と演奏を加えて、少し明るい気分になれるようにした。気分が暗いままでは作業がはかどらないことを考慮してだが、皆の気分が持ち直しても、今度は全員同じ場所だと混乱しそうなのでどう分かれるかとか、千個をどう確かめていけば早く進むのかと相談するのに二時間ばかり掛かり、実際の確認が始まったのは夕方が近くなってからだった。
作業は、まず千個の魂を五十くらいずつ、小さな箱や篭に移すところから始まった。万が一に魔物が来ても対応出来るように、動ける被害者には四箇所に別れてもらい、冒険者四人が一人ずつ付き添う。後はひたすらに、目の前の篭などから魂を取って、自分の物かどうかを確かめてもらうだけだ。篭ごとに作業して、一度確かめたものが分からなくならないように印をつける。
被害者本人は単調な作業で集中力がそがれてくるので、家族などに篭の中身に注意を払ってもらう。場所ごとの運搬は街の人々が交代で手伝ってくれた。
始めて二時間、初日の作業はそろそろ終わりという頃に男性一人の魂が見付かって、他の人々も不安が少し払拭されている。エヴァリィが皆の宿泊場所を巡って、良く眠れるようにとメロディーを使ったのもあって、翌日の朝は家族も含めた人々が前日より血色のよい顔で集まってきたのだった。
よく寝たところに、早朝からひなたが他の三人に手伝わせて大量に作ったスープの滋養が染み渡ったのもあるだろう。手伝いに来た街の人々にも振る舞われたスープは、非常に好評だった。
作業を始めて二日目。
ようやく動ける人々の間を一巡りした白い玉の入った籠が出来て、動けない被害者のところにトンプソンが出向いた。衰弱度合いが激しいのは男性が多いので、まずはそちらを優先して彼が運んだのだ。男同士のほうが気安いかもという気遣いだが、種族がエルフの高齢男性ではなかなか話も噛みあわなくて、どちらからともなく苦笑を交わしてしまった。
次々と持ってくるので、大変でも一つずつ試して欲しいと願って、トンプソンはその日に六人の男性のところに篭を運んだ。他の四人の女性には、やはり同性の三人が交代で向かっている。
白い玉の回す順番の管理が人手を多く頼んだ分怪しくなったことがあり、一箇所に大量に篭が集まって混乱もしたが、その時々でなんとか乗り切って進めていた。
そうやって日程ぎりぎりまで探したところで、魂が戻ったのは十二人ほど。すべて確かめたが該当するものがなかった者が残りだ。
ひなたは魂がなかった人々に滋養をと考え腕をふるい、エヴァリィは度々メロディーを使用し、美月は魂が回収されたいきさつなどを問われれば説明して歩いたが、喪失感は簡単には払えない。問われた弾みでトンプソンが、他の地域にも多数の魂が回っている最中だと告げて、『ここにも持ってきてくれるのだろうか』と尋ねられてどう返事をしたものかしばし悩んだが‥‥
「戻ったら、お願いしてみます」
確約する形ではないものの、美月が助け舟を出したことで、被害者達は幾らかでも落ち着きを取り戻した。
また来てねと繰り返し声を掛けられたのが、期待の大きさを示していて、四人は何度も振り返りつつメイディアへの道を戻っていった。