素敵?なお茶会への招待〜畑の人になりたい

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月21日〜05月24日

リプレイ公開日:2009年06月02日

●オープニング

 五月上旬のある日のこと。
 パリの一角に店を構える『四葉のクローバー』では、大切な話し合いが行われていた。
 もともとこの店はパリから馬車で二日離れたエテルネル村で作られた農作物や工芸品などを売るための店だ。他にパリ近郊の畑から仕入れた農作物なども販売されている。
 遠い村から運んできた農作物などと思う人もいるだろうが、エテルネル村にはウィザードがいて、収穫物は新鮮なままで運んで来ることが出来る。季節によっては、パリ郊外の畑から運んでくるより瑞々しい野菜があったりもするほどだ。
 工芸品は木工品が多いが、この日に売買の相談がされていたのは馬車だった。
 エテルネル村の村長の弟が持てる技術の限りを尽くして作った、正直なところ店の規模と他の売り物とはかなりつりあわない豪華なものである。あまりに豪華すぎて買い手がつかず、店の裏で長らく保管されていたのだが、今回欲しいと言うお客が現われて、店長はそのお客と細々した打ち合わせをしているのだった。
 そうして、その間に店はどうなっているかと言うと。
「それは今日の朝に収穫したばっかり。生でかじってもおいしいのよ。でも茎の辺りは、油でいためたほうが甘みが出るけど」
「あら、お料理もするの?」
「おばあちゃんに習ってるの。油いためなら、このソーセージも入れると元気が出るけど」
「‥‥それはちょっとお高いから買えないね」
「こっちの塩漬け肉は、お値段このくらいから。もうちょっと小さく切り分けて、お安く出来まーす。塩を足さなくても味がつくから、お得なのよ」
 店員の女性が品物を並べ、臨時雇いの女の子が年配の女性と話している。どう見ても農家の子にも、この店の子供にも見えないいい服を着ているのだが、女の子の説明は確かだし、どの客が相手でも慌ててはいない。
 お客がいないときには、葉物野菜の傷んだ葉を千切ったり、非常に熱心だ。
 『四葉のクローバー』でなかなかに小難しい商談が行われている間と言う条件で雇われた女の子は、アンナ・ラングドッグと言う。

 アンナは、四人姉妹の四女である。三女とは双子。
 両親を早くに亡くし、その後養育してくれた祖父母も相次いで他界して、年若い叔母に姉妹ともども育てられた。
 こう話すと大抵の人は苦労していると同情的になってくれるが、アンナも彼女の姉妹達も両親と祖父母が遺した家と土地と人脈と金銭で、結構裕福で平穏無事な生活を送ってきていた。
 それにご近所の人々は皆知っているが、アンナの叔母アデラは天真爛漫と言うか、頭の中にちょっとお花畑があるというか、見事に変わり者で何が起きても苦労しているようには見えなかったから、アンナ達ものほほんと育ったのである。
 そんなアンナも、今はウィザード。ほとんど見習いだが、幾つか使える魔法も出来て、毎日を魔法の習得や知識の探求に勤しむべき修行期間である。同様に修行している双子の姉のマリアは、実際に毎日小難しい文章を読んで、理解すべく努めていた。
 ところが。
「おばちゃん、おじちゃん。あたしね、畑の人になりたいの」
 アンナは、いつの頃からは自分の天性は農業にあると思い始めていたのだった。
 確かにマリアと比べると、ちょっと字を読むのが苦手で、魔法の修得も遅い。だが才能がないわけでもなく、なにしろ両親も祖父母もウィザードだった家系なので、本人もそういうものだと思ってウィザード修行をしていたのだが、段々と違うことを考える年齢になったらしい。
 そうして、自分の天職と思い定めたのが農業。叔母のアデラがパリ郊外に畑を持っていて、家の庭にも畑を作っている人だから、影響はそのあたりから受けたのだろう。
 なにより、アンナは家の中では一番畑の世話が上手だった。

 この姪っ子の突然の告白を聞いたアデラは、
「あらまあ、農家の人は大変ですわよ。力仕事ですし、お勤めと違って毎月お給金が出るわけでもありませんし、お天気で収穫も全然違いますし、租税は月道とは違ってお高いときもあるでしょう。大丈夫ですかしら?」
 彼女にしては真っ当な意見を述べた。はっきり言って、アデラの夫のジョリオも、姪でアンナの姉のルイザもシルヴィもマリアも、かなり驚いた。アデラが言う意見とは思えなかったからだ。
「全然心配ないわ! 頑張るから!」
「じゃあ、大丈夫ですわね」
 でも、あっさりと自分が言ったことを忘れて、相手の言うことを信用している。アデラはこういう人だった。

 アデラはそれでいいかもしれないが、流石に叔父と姉達は心配になって、冒険者ギルドに『農業指南を求む』と依頼を出したのだった。

●今回の参加者

 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea9960 リュヴィア・グラナート(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb4840 十野間 修(21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec6164 文月 太一(24歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

アルミューレ・リュミエール(eb8344

●リプレイ本文

 お茶会ウィザードアデラの姪、アンナが畑の人修行をするという初日の朝。
 ラングドック家の庭では、出発前に一騒動が起きていた。
 なんとサラフィル・ローズィット(ea3776)がコアギュレイトを、リュヴィア・グラナート(ea9960)がプラントコントロールを、十野間修(eb4840)がシャドウバインディングを立て続いて使用したのだ。常日頃からウィザードやバードやナイトと魔法を使える人々が住んでいる家だが、実際に使用されるのは滅多にないこと。
 理由は、マート・セレスティア(ea3852)と文月太一(ec6164)にあった。
「畑に行く前に、少々お話がございます」
「流石にこれは捨て置けないな」
 出かける前のアデラやシルヴィ、アンナ、マリアが物珍しげに覗き込んでいるのは、彼女達よりよほど大きなライオンとフロストベア。正体を正しく理解しているかどうかは不明だが、普通はパリの街中でうろうろしているものではない。
 これがマーちゃんと太一の後をついてきて、アデラの家の庭でかち合ってしまったのだ。猛獣が二頭、辺りには馬やら鶏やら‥‥
 二頭が威嚇の唸り声を上げ、咆哮を轟かせて『どっちが強いか決めるぜ』と気合を入れたその時に、家の中から飛び出してきたサラとリュヴィアと修に魔法で束縛されたのである。ついでに飼い主と目された二人も。
 そうしてジョリオが夜勤で留守のため、修が一人で二頭の首に固く縄を掛け、引き剥がして互いの姿が見えないところに括りつけている間に、マーちゃんと太一はサラとリュヴィアに滔々とお説教を喰らうことになった。今回ばかりはコアギュレイトで束縛されているから、嫌でもご拝聴せねばならない。当人達がうかつに連れてきたものかも怪しいが、そうでなくとも『こんなのに気付かなかったならなお駄目』と結局怒られるのだろう。
 ちなみに猛獣達も修からテレパシーでガツンと怒られたのだが、魔法で取り押さえられたのが気味が悪かったらしい。意気消沈していたところに、ルイザが鶏の骨をくれたので、それを齧って過ごすことにしたようだ。
「こんなのにくれるなら、おいらにスープを作ってくれたらいいのに」
「えーと、この人がアンナさん?」
 叱られても結局食い意地が優先するマーちゃんはお説教再び。四人もいると名前が覚えきれない太一は、姪っ子達からぶうぶう言われつつ、顔と名前を一致させようとしていたが‥‥アンナとマリアは双子なのでやっぱり良く分かっていない。
「別行動ですから、そんなに悩むことはないと思いますが」
 後ろ姿だと見分けにくいなあと修も思っていたのは、この場では内緒だ。

 さて、今回の依頼はアンナの『畑の人になりたい』という希望がいい加減なものでないかどうかを確かめることだ。とはいえ、実は集まった五人の誰もが畑仕事に従事したことはあまりない。
 リュヴィアは知識があるのだが、技術者だと主張するとおりに実践の経験は少ない。それでもこの中では飛び抜けて経験豊富だから、v日頃畑の世話をしている夫婦からの指示をアンナも入れた六人に割り振りする。もちろんそういう時は力仕事は男性に回るのだが‥‥
「おいらも、収穫したーい」
 勝手に野菜を摘んでいて、プラントコントロールで捕まえられたマーちゃんが叫んでいる。その両手には摘み取った野菜がいっぱいだが、そうやって勝手に収穫していいものではない。持ち主のラングドック家は生活に余裕があるから、店に出荷して金銭を得たり、もう少し大きくしたりと考えながら育てているのである。なんてことを説明しても聞く耳持たない相手だが、流石にアデラたちの生活に大打撃を与えるわけにはいかない。
「他のものに手を出したら、その辺りに吊るすからな」
 リュヴィアの本気の宣言が功を奏したのか、マーちゃんはアンナに交代してもらった収穫作業をこなしていた。野菜を採っては、四つに一つくらい食べているが、その辺りはジョリオが予想していたらしい。世話人の夫婦も良く食べると感心するだけで、怒ってはいない。でも、あまりに食べることに熱中していると、サラから怒られたりする。
 一人がそういう状態だと、太一も気もそぞろになるようで、言われた畝の野菜を摘みながら無闇と土をほじくったりしている。元々やる気はあるのだが、似たような畝が並ぶとどれが収穫する野菜か分からなくなるようで、右往左往もしていた。そもそも収穫作業に日本刀を取り出して、皆の度肝も抜いたことだし。
 といった二人からすると、アンナの仕事振りは手馴れていた。鍬などは体の大きさと合わなくて少々使いにくそうだが、修と二人で畦を直したり、水路を見回ったり、そこから水を汲んだりと良く働いている。
 野菜についても思いのほか詳しく、修は植えられているものの説明をしてもらいながら作業をしていた。たまに回りくどいが、説明もなかなか分かりやすい。畦を作るなどの作業もよくこなすが、修が彼女にも縁があるエテルネル村での灌漑工事について話し始めたら、きょとんとしてしまった。開墾済みの畑しか知らないので、灌漑も開墾もよく分からないのだろう。
「前におばちゃんが、この辺りも原っぱだったのよーって言ってたけど」
「それがこうして畑になるためには、ただ耕すだけではなく、色々知識がある人が集まって協力し合うことが重要なのですよ。よりたくさん収穫出来るようにするためにも、よその地域から情報を仕入れたりする方法を持っているといいでしょう」
 ちょうどリュヴィアが自分を『農業技術者』だと言ったが、読み書きや計算の基礎が十分に出来ているアンナもその道を選ぶことが可能であると、修は説いた。当人は畑を耕すのが好きなようだが、ならばよりたくさんの作物を育て、収穫するための努力も惜しむべきではない。
 なぜと言って、アンナは地方の農家の子供では叶わない学ぶ時間や方法が確保されているからだ。本人の夢とどこまで噛みあうか分からないが、そういう人物が増えれば、災害などで苦しむ人も減るだろう。そんな希望がなくもない。
 でも、合間に本人の夢を尋ねてみたら。
「やっぱり人はパンもないと生きていけないんだから、あたしは畑の人になって、たくさんの人が美味しいものを食べられるようにしたい!」
 握り拳を振り上げて力説された。修にはとっさに分からなかったが、聖書の文言を念頭に置いた発言ではある。非常に世俗的な方向に視点が向いているけれど。
 まあ、趣味が嵩じたとか、ウィザードの勉強が嫌だとか、そんなことではないらしいと分かって、修もちょっと安心した。

 なお、この発言を耳にして安堵したのは、もう二人いる。サラとリュヴィアだ。
「月日がたつのは早いものだ」
「そうですわね。アンナちゃんがああもしっかりと自分の意見を言うなんて」
 二人とも、親の仕事を継いで当然とはまったく思っていないが、農業とは雨風はじめどんな悪天候でも畑を見守りに出ることもある、決して身体的に楽ではない仕事だ。だからウィザードの修行の逃げ道にはならないし、趣味でやるものでもなく、一度始めたら途中で休むこともままならない。その全部が分かっていなくとも、楽しいことだと思うばかりでいたらいけないと、アデラ以上に心配していたのだが‥‥まあ、年齢を考慮したらかなり考えているだろう。
 ちなみにリュヴィアは、色々ある仕事のうち、収穫などの農業と縁のない人がすぐに思い浮かべる類の、達成感がある仕事はわざとアンナに回していない。畦の修理や水汲み、草むしりなど、楽ではない仕事をさせて、体力が持つかを見守っている。こういう仕事が積み重なっての農業だから、ここで音を上げるようでは失格だ。
 幸いにして、アンナは一緒に仕事をしている修より力はないものの手際はよいし、草むしりならサラがやるより進み具合も早い。流石に昼過ぎには疲れていたが、昼食を食べて休憩したら、今度は率先して畝作りを始めている。
 はっきり言って、予想外に頑張っている。楽しそうでもある。
「あの調子でしたら、心配はないと思いますわね」
「しかし、この辺りで農業をするなら商業も関係するだろう。やはり勉強も続けたほうがいいと思うのだが」
 アンナの長姉のルイザもウィザード家系を継ぐことはせず、刺繍職人の道を歩んでいる。読み書きと計算以外はあまり勉強らしいものをしていた様子はないが、最近になって外国語を学び始めたそうだ。染色工房の息子との付き合い始めて、よその国の商人と会う機会があってからだから、将来について色々と思うところがあるのだろう。
 そういうことを思い出しては、サラもリュヴィアもしんみりしていたりする。アデラとの付き合いも長くなって、すっかりと親戚のような心持ちになっている二人だった。
 故に、甘くもないのだが。
「わたくしは林檎の実を摘んでおきますね」
 サラは畑の境に植わっている林檎の木の、花びらが落ちて爪先程の実がわさわさとついた枝から、良いものだけを選んで他を摘み始めた。大きくて美味しい実を作るためには、咲いた花を全部実には出来ないからだ。これも首と肩が痛くなる作業だが、アンナの背丈でははかどらないのでサラと、途中からは太一とマーちゃんが入って摘果する。
「サラねーちゃん、これでジャム〜」
「え、そんなの出来るの? 俺も食べてみたいな」
「流石に無理です。でも家に林檎の蜂蜜漬けがあったので、あれはお茶会で使いましょうね」
 サラ、ご褒美を約束して、二人を働かせている。相変わらずマーちゃんは野菜を食べているが、今回は最初のコアギュレイトやプラントコントロールでぐるぐる巻きが効いたのか、いつもよりは働いている。太一は最終日のお茶会のご馳走を想像して、時々手が止まるが、動いている時は生真面目に作業に勤しんでいた。
 そうして二日間、大体全員がみっちりと働いたのだった。
 ライオンとフロストベアは、アデラの家の庭で餌を貰い、ペガサスに見張られつつ、ごろごろと怠惰な日々を過ごしていたようだ。迷惑なのは、庭で飼われていた鶏達だろう。
 でっかい二本足で走るトカゲもいるが、隅っこでおとなしいので、繋がれることもなく見逃されている。

 さて、三日目はお茶会という名の慰労会兼報告会だ。下手に食べ物を庭に出すと、ライオンとフロストベアが騒ぎそうなので、今回は季節はいいものの家の中で。
 リュヴィアは相変わらずアデラがあちこちから毟り集めてきた葉っぱを見て、毒があるものはないかと確かめていたが、アデラも流石に学んできたらしい。変なものはたくさんあるが、毒があるものや刺激物は見られなかった。
 そこで成長したと思う辺り、世間一般の感想とは多少ずれているが、アデラのお茶会はそういうものである。と、リュヴィアは考えていた。
 お茶の葉確認が終わった台所では、サラが食欲魔人二人を庭に出して、せっせと料理を作っていた。アデラはアンナが収穫してきた野菜を、サラに言われたとおりに下ごしらえしている。
 今回は野菜をたくさん使って、あまり脂っこくならないようにした料理を中心に、でも肉と魚の料理も外すことなく、サラが手際よく作っている。
 リュヴィアは裏庭の畑をアンナと見回り、こちらの世話に掛かりきりだ。その際に毟った雑草は、修が刻んで鶏小屋に。二人が収穫したものを、台所に運ぶのも彼の仕事になっている。まあ、畑に屈んで草をとるのと、野菜を運ぶのと、どちらが大変かと比べるのは愚問であろう。どちらも大変に決まっている。
 太一とマーちゃんは、自分の後を付いてくる割にちっとも馴れないライオンやフロストベアから逃れて、林檎やさくらんぼの木によじ登っていた。上の方にマーちゃん、下の大きな枝に太一で、林檎は摘果、さくらんぼは実への日当たりを悪くする葉を取って、二人とも同じ事を考えている。
「「もうすぐ食べられるな〜」」
 アデラがその頃にお茶会をするつもりがあるのか分からないが、畑の野菜が美味しいから、さくらんぼもきっと甘いに違いないと、二人はうっとりと想像している。試しに食べてみたら、不味かったけれど。
 そうやって、夕方になって、ご飯だかお茶会だか分からない時間にようやく他の人々が帰って来たので、お茶会の開始だ。
 最初の話題は、もちろんアンナの働きぶり。初対面の修も、良く知っているサラとリュヴィアも良く働いていたと誉め、でも勉強も続けたほうがいいと思うと口を揃えた。マーちゃんは、
「大丈夫だと思うよ。アデラ姉ちゃんと良く似ていたもの」
 と作業振りを見ていたことを証言し、後は食べることに気持ちが移っている。
 太一も魔法が使えると便利でいいと思うと言いつつ、にこにこと、
「つまみ食いがばれて閉じ込められたの開錠の術で抜け出したりといろんな役に立ってるし」
 駄目な例を挙げてくれた。先の三人が額やこめかみを押さえたのも当然であろう。そういうことに使うために憶えてほしいわけではない。
「魔法が使えたら、デュカスさん? その人のところみたいに鮮度を保つお手伝いも出来るし、切り株を動かせたら楽じゃない?」
 そんな楽が出来るばかりでもないが、まだこちらのほうが建設的だと、三人はやれやれと思っている。
「本人の覚悟があるのならいいのではないかな。私も頼まれればいつでも手を貸そう」
 リュヴィアが報告をまとめたところ、アンナの姉達は『そんなにやりたかったのね』と感心している。アデラは反対する様子ははなからないし、ジョリオも幾らか安心したようだ。ウィザードの勉強に、双子のマリアとの間でくっきりと差が出てきたものだから、それで勉強が嫌になったのではないかと心配していたらしい。
 まあ、一緒に作業していた大人達が見たところ、単にそちらより畑仕事に興味があって、集中していなかった気配が濃厚だ。でも修から『収量をあげたりするのには勉強が大切』と説かれ、リュヴィアにも『ただ畑を耕せばいいものではない』と言われたので、本人もちょっと考え方が変わっている。
「畑で使える魔法を覚えて、難しい本も読めるように勉強する」
「よその国の言葉だったら、あたしが手伝ってあげる」
 何を指して『畑で使える魔法』なのか不明だが、アンナは高らかに宣言し、外国語に興味があるらしいマリアは協力を約束していた。姉妹仲にも心配はないが、
「畑で役立つ魔法って何だ?」
 ジョリオが尋ねた時に、『畑に来る猛獣を捕まえるの!』と断言されて、視線が宙を泳いだ人が三人ばかりいる。
「ねーちゃん、おかわりっ! このお茶と一緒だと、何を食べてももっと美味しいねっ」
 お茶会兼お食事会は、いつもと変わらず賑やかに、マーちゃんと太一が互いに負けじと食べて飲んで、姉妹達に文句を言われて賑やかだ。
 次の機会には、アンナが作った野菜がもっとたくさん食卓に乗るかもしれないと、大人達は期待している。