職人募集 〜矢の増産

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 99 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月08日〜06月11日

リプレイ公開日:2009年06月20日

●オープニング

 メイディアの冒険者ギルドに、武器商人のギルドからある要請が入った。
 依頼というより要請。
 武器商人のギルドが、心当たりに片端から同様の要請をしているのは、冒険者ギルドの職員達には知らされていた。
 あの、遊び人と名高いギルドマスターが、珍しく真面目に要請を果たすべく取り組んでいたので、自然と話題になったのだ。
 だが翌日には、
「武器商人ギルドの幹部に、最近美人さんが一人入ったろう」
 冒険者ギルドの護衛士が、種明かしをしたので一人残らず納得した。
 メイディアの冒険者ギルドマスターと言ったら、それはもう女性に対する博愛主義というか、単にだらしないというか、運命の恋人が日替わりで現われると当人が口走ったとの噂を誰も否定しないくらいに、女性にいい格好をしてみせる人である。
 これで冒険者ギルドのためにならない話なら、皆で蹴り飛ばしてやるところだが、今回はそうはならなかった。

『矢を作る職人を募集』

 武器商人のギルドから、あれやこれやの事情で不足しかけている矢が高騰しないうちに手を打ちたいと、職人を紹介して欲しいとの要請である。
 冒険者ギルドでは、ギルド員から心得がある者を向かわせると共に、これを依頼として掲示することにしたのだった。

●今回の参加者

 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ec5196 鷹栖 冴子(40歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec6598 マナミ・ナカヤマ(36歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

 冒険者ギルドは、時ならぬというか、あまりろくでもない理由で騒がしくなっていた。
「なんだろうね、あの兄さんは」
「‥‥‥‥」
 矢の作成等の依頼を受けた鷹栖冴子(ec5196)が同じく依頼参加のエヴァリィ・スゥ(ea8851)にぼやく。右手で首筋を掻いているが、多分『見ているだけで全身痒くなる』という錯覚のせいだ。『どちら』を見て痒いのかは、よく分からない。
 なにしろ、洒落者で通している冒険者ギルドマスターが『同じ男として許しがたい』と叱っているマスク・ド・フンドーシ(eb1259)は褌一丁に仮面を着けるという姿なのだ。怒られて不思議はない。が、怒っている方も、怒り方がちょっと子供みたい?
 最後はきちんとした格好で行きなさいと言われたものの、彼は服の持ち合わせがないのかどうか、エヴァリィも『仕事には真面目な人なので』なんて口添えしてしまったのもあって、結局そのまま。
 ごくごく普通の人達であろう依頼人側にも複数いたジャイアントの男性陣に『若い娘も子供も出入りする場所だ、その頭は飾りか』とどやされ、蹴られして、着衣を強制されていた。後程、警邏が寄ったとか寄らないとか。
 一緒に来た冴子とエヴァリィは『大変だったね』と同情されたが、平気だったとでも口にしていたら‥‥変な人扱いが確定していただろう。
 とりあえず、色々さておいて仕事である。

 仕事の内容は、矢を作るか、弓を補修するか。
 マスクが金属鍛冶、エヴァリィが革細工、冴子が木工が出来ると申告したところ、それぞれ鏃の作成、弓、矢筒の補修、矢柄の作成と振り分けられた。エヴァリィは矢の修理かと思っていたようだが、革細工の腕では矢そのものの修理は出来ないので、弓などに回されている。
 なにしても、ここで三人それぞれに作業場に連れて行かれることになる。
「んんぶるわああッ!」
 どかっ。
 マスクは鍛冶工房で彼なりに挨拶しようとしたところ、最初の一声で背後から蹴りを入れられた。最初の挨拶にはこだわりがあるのだが、彼のこだわりは鍛冶師達には理解されなかったようだ。忙しいから人手を募ったのであって、長口上など聞いている暇はないというところか。
 もちろん、最初の格好の奇抜さとか色々あるかも知れない。挨拶のはずなのに、それらしく聞こえなかったところとかも。
「殺伐としておるのう。我輩は肉弾戦しかせんから、矢が不足していると言われてもピンと来なかったが」
 これは大変と流石に理解して、マスクはまず見本の鏃を確かめるところから始めた。最初は細かい作業は出来ないだろうが、腕には自信がある。とてもある。はっきり言って、専門職の鍛冶師にもそう負けないと自負している。よって見本があれば、いずれはシルバーアローも作れるに違いないと思っていた。修行中の職人が聞いたら、嫌がらせの一つもされそうな自信の程だ。
 でも鏃や道具を吟味する姿は明らかに手馴れた鍛冶師のもので、ここでようやく彼は最初の印象が今ひとつだったのを改善している。
 エヴァリィは耳の特徴隠しのためだが、顔の上半分が陰になるようなフードの被り方をしていて、こちらもまた別の意味で作業場ではひどく浮いていた。作業の説明をしようにも、顔が見えないのはやりにくいと思われたのだろう。見るからに姐御といった風情の女性が顔を覗いてきて、エヴァリィがその分フードを下げるので何か隠しているのは察したらしい。
「傷跡でもあるのかい」
「‥‥まあ、はい」
 具体的なところは説明出来ないので言葉を濁したところ、布を持ってきて自分の頭に巻いて見せてくれた。これで隠れるものなら、フードはないほうが安全だしはかどると言う見本な訳だ。
 いきなりこれにしろと言われないだけありがたいが、結構押し付けがましい。この調子で構われ続けるよりは、素直に言われたとおりにしようと考えて、エヴァリィは眉毛が隠れる位置まで布を下げて、もちろん一番大事な耳の辺りはしっかりと二重に布を巻いてずれないことを確かめた上で、作業場に合流する。
 おでこに傷があると勘違いされているが、それは訂正しない。
 他の二人に比べて、冴子はすんなりと作業に合流していた。天界人ならそれなりのやりようがあるだろうが、どうやるんだと訊いてくれたおかげもある。多分持ち込んだ工具箱が珍しくて、中身を見てやろうと思っているのだろうが。
 これ幸いとばかりに自分が分かっていると作業が楽な寸法計測から入らせてもらう。
「同じ品質の物を作るなら、寸法だって同じがいいだろう。って、なんでこんなに種類があるんだい?」
 弓の寸法に合わせて幾つか矢にも種類があるんだと言われれば納得だが、弓術の心得はないなと看破された。それならと木工の腕を見るのに合わせて、今測った寸法で矢柄にする木を切断するように言われる。
 よく乾燥して、節など入っていない枝を六種類ばかりの寸法で五本ずつ切り分けて、そりがないことも確認して渡したら、もうちょっと手強い仕事も任せてもらえそうだった。
 三人それぞれに最初の様子は違ったが、一日目の夕方には腕前のほうに問題はないと認められている。
 ただ宿泊施設がないからと寝袋持参で来ていたのに、『夜はなれてないと仕事にならないから、家に帰って通ってくれればいいんだが』と言われたのには参ったが。深夜も作業場では色々音がするし、エヴァリィなどは人が気になって熟睡できないから、ここは遠慮なく帰らせてもらうことにする。

 翌日から。
「フォオオオオ!!」
 金属鍛冶場は、非常に賑やかになった。騒々しいとも言う。もともと静かな場所ではないが、フレイムエリベイションを使用したマスクが激しく盛り上がっているからだ。すでに『この男は何を言ってもこういう男なんだ』と皆に認知されてしまい、『騒がしいのが来た』程度の扱いになっている。
「 んんん〜〜〜ぶるわあぁぁぁぁっ!!!」
「うるせえよっ!」
 ついでに多少のことでは小揺るぎもしないから、うるさい時は躊躇いなく突っ込めるので周りも鬱屈が溜まらない。それがよかったのだろう。
 あとは文句なしに腕がよかったので、やはり受け入れられやすかったのはある。
「ん〜、厚みが違うのだ。これは不思議」
「そりゃお前、さっき見てた見本と種類が違うからだろ」
「なんとぉっ! おぉ、正しいものと比べれば、なんと素晴らしい出来であることか」
 事実とはいえこんなことを臆面もなく言い放つので、腕前は少し差っ引いて評価されているが、たいした休憩もなしに鏃を作るので仕事ははかどっている。
 冴子も時々鍛冶場にやってきて、出来上がった鏃と自分の矢柄がきちんと合うのかどうかを確かめつつ、出来る品の射程が落ちたりしないようにと先達の意見も仰いでいた。
 だが。
「あれ、そのサイズはあたいは作ってないねえ。全部に手を出すとぶれが出そうだから、この二つに絞ってるんだよ」
 冒険者同士で作った鏃と矢柄で一本の矢を組むとは、なかなかいかないでいる。なにしろ足りないところを補うように言われているから、双方の作業があうとは限らないのだ。
 それでも今まではあちらが足りるとこちらが足らずとなっていたのが、なんとか釣り合いが取れてきて、全体の生産はかなり上向いていた。二人とも作業が楽しくて仕方がない。
 ところでエヴァリィはといえば。
「なんだ、声が出ないわけじゃないんだねぇ。いい声じゃないか」
「おひねりあげないといけないな。菓子でも買ってやろう」
 矢筒作りの職人達のところで、妙に可愛がられていた。口数の少なく、取っ付きが悪いところがなくもないが、説明したことをちゃんと守る素直で丁寧な作業ぶりが評価されている。弓の持ち手に巻く場合がある革の加工だけでは勿体無い腕だが、細かい細工は慣れが必要だから、弓を提げたり、矢筒を担ぐための革帯を主に担当している。作業は少しゆっくりでも、端々にも気を配った品物が出来上がっていた。
 更に革細工の作業場では限られた火しか使わないので、妖精の竪琴を持ち込んでいて、休憩時に披露したのが一番効果的だったようだ。本職は吟遊詩人だから、当然素人の歌や演奏とは違う。自他共に気分転換になるだろうと、その時々で気持ちが弾んだり安らいだりする曲を選んでいたから、尚更耳に心地よい。
 後程、他の作業をしていた人々から『お前らだけずるい』と話が出て、あちこち引き回されることになったのだが‥‥マスクや冴子がいるところだから、いらぬ緊張を背負わなくても良かった。
 四日目は、マスクがシルバーアローの鍛冶に携わり、冴子もその矢柄を作って、三本だけだが確実に二人が作った矢を完成させて、エヴァリィが直した矢筒に入れている。他にも部品はたくさん作ったが、それらを全部合わせて仕上げをするのにも専門の職人がいるから、まあ三本だけ。これは土産として貰って帰れることになっている。
 貰っても、実は誰一人として使えなかったりするのだが‥‥『お仲間がいるだろう。ゆずってやればいいさ』と勧められたので、ありがたく貰っておくことにした。
 後はひたすらに、それぞれに使える作業を進めていく。
 ただ。
「無理は‥‥駄目ですよ」
 依頼の最終日の朝になって、『仕事に慣れてくると楽しい』と頑張りすぎて、ちょっとばかり疲れた冴子にエヴァリィが苦言を呈していた。マスクはこの程度では、全然堪えないようだ。毎日のフレイムエリベイションがいいのかもしれない。
「今日までだから、気合で頑張るさ」
「そう、気合は大切であるな!」
 それだけで乗り切れるなら、誰も苦労はしないのだと言いはしなかったが、エヴァリィは少し元気が出るように一曲奏でてあげることにした。
 メロディの魔法が加味されているなんて知らない人々も一緒になって聞いていたから、この日の作業は一際はかどったような気がする。
 この日に出来上がった矢は、いずれギルドから商店や軍に納められて、冒険者達が手にすることもあるのだろう。