【天使の祈り】自らの信じる心を

■イベントシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:63人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月01日〜07月01日

リプレイ公開日:2009年07月12日

●オープニング

 その話は、突然出て来たものではない。
 少し前には、誰が言い出したものか『賑やかに歌い騒ぐのも祈りに通じる』とキエフの街の一角で集まりが開かれたし、そうでなくとも日々あらゆる場所で祈りを捧げている者は多い。

 だが今回の話がこれまでといささか異なるのは、やんごとなきお方が手配を命じたと噂されるからだ。流石に敬虔なジーザス黒の信徒たる国王は、頭ごなしに教会にものを命じることはしなかったらしい。
 ただ、デビルとの度重なる戦いの終わりが見えるようにと祈る場を設けると、そんな話があちこちの教会から街の人々に知らされた。
 黒の教会ばかりではなく、白の教会も、はたまた数えるほどしかいないだろうに仏教、それ以外の信仰の人々のための祈りの場も設けられるという。これには各国と繋がりが深い商人ギルドと、様々な国の出身者を抱える冒険者ギルドが骨折りをしたようだ。

 後は自らの信仰に従い、教会などで祈ればよい。
 ぜひにと街の通りで、皆に声を掛けて歩いている聖職者達が勧めるとおりに。

●今回の参加者

ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ ディーネ・ノート(ea1542)/ 限間 時雨(ea1968)/ イフェリア・アイランズ(ea2890)/ ユーリユーラス・リグリット(ea3071)/ 七神 斗織(ea3225)/ アデリーナ・ホワイト(ea5635)/ 田原 右之助(ea6144)/ ティアラ・フォーリスト(ea7222)/ 七神 蒼汰(ea7244)/ ファング・ダイモス(ea7482)/ クル・リリン(ea8121)/ エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)/ ユキ・ヤツシロ(ea9342)/ リリー・ストーム(ea9927)/ デフィル・ノチセフ(eb0072)/ セバスチャン・バトラー(eb1218)/ サラン・ヘリオドール(eb2357)/ ジークリンデ・ケリン(eb3225)/ 火射 半十郎(eb3241)/ 藤村 凪(eb3310)/ アレーナ・オレアリス(eb3532)/ シルヴィア・クロスロード(eb3671)/ 鳳 令明(eb3759)/ 鬼切 七十郎(eb3773)/ クリステル・シャルダン(eb3862)/ セシリア・ティレット(eb4721)/ リディエール・アンティロープ(eb5977)/ アーシャ・イクティノス(eb6702)/ レオニード・ダリン・アドロフ(eb7728)/ 峰 春莱(eb7959)/ レイア・アローネ(eb8106)/ レア・クラウス(eb8226)/ サクラ・フリューゲル(eb8317)/ セイル・ファースト(eb8642)/ リスティア・レノン(eb9226)/ アニェス・ジュイエ(eb9449)/ 瀬崎 鐶(ec0097)/ アンドリー・フィルス(ec0129)/ セルシウス・エルダー(ec0222)/ エルディン・アトワイト(ec0290)/ ルザリア・レイバーン(ec1621)/ カメリア・リード(ec2307)/ ミシェル・サラン(ec2332)/ 呂 白龍(ec2900)/ クラス・アルフェス(ec3490)/ ラルフェン・シュスト(ec3546)/ アイリス・リード(ec3876)/ ルネ・クライン(ec4004)/ ミリア・タッフタート(ec4163)/ ミルファ・エルネージュ(ec4467)/ エレェナ・ヴルーベリ(ec4924)/ 緋村 櫻(ec4935)/ 竹中 かぐや(ec5068)/ リュシエンナ・シュスト(ec5115)/ エルシー・ケイ(ec5174)/ レオ・シュタイネル(ec5382)/ ジルベール・ダリエ(ec5609)/ ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)/ ユクセル・デニズ(ec5876)/ ザッカリア・ブランドン(ec5933)/ 桂木 涼花(ec6207)/ タチアナ・ルイシコフ(ec6513

●リプレイ本文

 その日のキエフの街には、あちこちの教会に集まって祈りを捧げようとする人々と、この日のために特別に設けられた祈りの場に向かう人とがいたのだが。
「とりあえず一度街の外に出てもらおう」
 不機嫌な顔をした警邏の役人に言われたのは、未だ教化が全域に及ばないロシア王国には根強い精霊信仰の人々のための祈りの場に集まった冒険者達だった。冒険者街からは離れた広場にペガサスや精霊が集まっているのは壮観だが、飼い主の言うことを聞かない犬猫や通行人を威嚇したりする大きな生き物、悪戯をする精霊などが両手で数え切れないくらいにいては、街の安全を守る側は親切にはなれなかったのだろう。
 追い立てられて余計に興奮したペットもいて、飼い主の中には怪我をした者もいた。また走り、飛び回るのを制止出来ず、振り切られた飼い主もいて、これが実は精霊信仰だけの騒ぎではなかったりするのだが‥‥街の住人に怪我人を出さずに済んだのは幸運だった。
 中には、この機会にジーザス教の教えを伝えようと待ち構えていた聖職者に捕まって、懇々とお説教を食らった者もいたようだ。
 祈りの場を設けた国王には予想外だったろうが、そうやってこの日は始まったのである。

 ジーザス教黒派が国教のロシアでは、当然立派な教会も黒派のものがほとんどだ。
 精霊信仰というにはジーザス教にも近しく、神も御使いも当然のものとして受け入れているアデリーナ・ホワイト(ea5635)だが、流石に信者が多い黒の教会で信者ではないと名乗るのははばかられた。歩き回っているうちに白派の教会に辿り着いて、前で佇んでいたら、扉を開けた神父と目が合った。どうぞと促されて、でも一応は断りを入れる。それでも、どうぞと扉は開かれたまま。
「一日も早く、この世界が美しさを取り戻しますよう祈念致します」
 その場を設けてもらったことに感謝すると、それもすべて祈りに込めなさいと促された。
 特定の何かを信仰してはいないと考える者は他にもいた。
 ミリア・タッフタート(ec4163)は、たった今見上げていた空から足元の犬達に視線を落とした。空に向かって祈っていたのは一分もない。犬達は『何をしていたの?』とでも言いたげに、足元でちょこんと座り込んでいる。
 確たる信仰を持つ者と違って、ミリアは何に祈るのかはよく分からない。でも何のために祈るのかは知っているつもりだ。
「大好きな人達がずーっと幸せでいますようにってお願いしたの。コルとケルもね」
 それが叶うといいなあと、また空を見上げている。
 似たような姿勢でいたのは緋村櫻(ec4935)だった。どこを見ればいいのか迷った挙げ句に、なんとなく空を見た。死者が行く天国、極楽の方向が分かればそちらを向くべきだろうが、あいにくと知らない。となれば、空だろう。
「そこでのんびりしているのならば少しは力を貸しなさい」
 こちらは地獄に出向いて戦い、また赴こうとしている。すでに他界した者に言うのも筋違いかもしれないが、しつこく諦めずに戦っている者に励ましの一つくらいはあってもよかろう。そのしつこさだけが、デビルに勝るものなのかもしれないけれど。
 祈る対象がない時にでも、こうして思い返す人々がいるのも強みなのかも知れないと、櫻は考えていたりする。

 そしてジーザス教黒派の教会には、多くの人々が集まっていた。庶民は日頃から通っている教会に足を向けるが、キエフに定住して長いか、自らが聖職者でもなければ移動が多い冒険者はなかなか通うに定まった教会を持たない。
 まして、
「この試練好きの頑固親父め」
 ぼそりとこんなことを言うユクセル・デニズ(ec5876)は、当然敬虔な信徒ではない。大きな声では言わないが、あまりに試練が大きいではないかと思っているくちだ。それでも祈りに来てしまうのは、習慣か、それともやはり信じているからか。
 自分が不出来な信徒であることは承知しているが、せめてゲヘナの丘に捕らわれた魂達が安らかな眠りに戻れるようにと願いに来たユニセルは、そのことを口に出して祈っていたようだ。ふと顔を上げたら、どちらも冒険者か軍に所属しているのだろうなと思わせる者が二人、呟きを耳にして振り返っていた。見れば、冒険者街に近いせいかそれらしい姿の者がただ混じってきている。
「出来ることは可能な限りやっておくべきだな」
 それが祈ることから始まろうと、疲弊した開拓村を助けに向かうことだろうと、魂を奪われた人々への働き掛けだろうと‥‥一つずつ出来ることから始めるべきだと言いたげに、だがそれ以上は口にすることなく手にした十字架を握りなおしたのがエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)。
「これは与えられた試練。だから乗り越えられるはずだ。そして乗り切った後も力強く生きていく力を得なければ‥‥自分が強くなることから、だな」
 レオニード・ダリン・アドロフ(eb7728)はじめ、冒険者の誰もが地獄の光景など、一々語らなかった。これまでの苦労を嘆いても仕方がない。大いなる父は人が乗り越えられぬ試練を与えることはないのだから‥‥自らがそれを乗り越える力を身につけるべく尽力せねばならない。
 そんなことを思い出させる祈りの時間だった。

 かたや白派の教会は、なかなか賑やかになっていた。
「やはり人は世につれ、世は歌につれ、人心を癒すのは歌であるぞ」
 テンプルナイトのヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)が自信満々に自作の聖歌を歌ってもらおうとしていたが、いきなり言われても歌い手も途惑うばかりで、実行にはいたらない様子だ。当人は色々考えてきたようだが、今回は祈りを捧げるのが主目的。まずは深く祈る姿を子供達にと言われては、断れるものではない。
 集まる者に冒険者の多い教会ではあったが、街の人々も混じっていて、時に冒険者達の豪華な服装に見とれている子供もいる。そうした中では、ジャイアントであってもセバスチャン・バトラー(eb1218)は目立たない存在だ。けれども、懸命に祈る姿は他の者と同様で。
 そうした中で、この教会の聖職者とは違うが正装で祈りを捧げていたのが、クリステル・シャルダン(eb3862)とセシリア・ティレット(eb4721)だった。すでに祈りに没頭していて、その豪華な衣装の裳裾も床に長く伸びて、おそらくは土埃にまみれている。そんなことを気にせず祈る姿に見惚れて、それから自分もと頭を垂れる者は少なくない。
 皆が無事に帰還出来るようにお守りください。
 デビルの力や誘惑に屈しない溺れない、強い勇気を与えてください。
 でも結局、服装は違っても祈る姿やその内容は大差があるものではない。それはキエフでもパリでも、やはり変わりはないのだとエルディン・アトワイト(ec0290)は思っていた。一つだけ違うとすれば、入口でやってくる人々を迎えてくれる聖職者がハーフエルフで、そうと分かっても誰も不審に感じていないことだ。もちろん教会内には、冒険者でなくともハーフエルフが時々混じっている。
 他国では決して見ることがない光景。人同士がいがみ合うことなど愚かしいと、示された気がする。
「私達は協力し合い、必ずデビルに打ち勝ちます」
 エルディンの唇から零れ落ちたのは、祈りというよりは誓いの言葉だ。
 同じように、
「わたくし達の、たくさんの大切なものを、護らせてくださいませ」
 種族の違いはもとより、宗派の違いも超えての祈りの機会に感謝しつつ、アイリス・リード(ec3876)も深く祈りを捧げていた。心の中には思う人が沢山いて、でも全てを護れる力量が自分にあるとは考えにくく、けれども誰一人失いたくない。だから祈る。
 ただひたすらに、大切なものを胸に‥‥
 例えば思い人、例えば主君、例えば同胞。平和が訪れれば、その全てが安らぎを得られるのではないだろうかと祈る者には、不思議と騎士が多かった。
 どうか私にどんな苦境にも屈しない勇気がありますように。
 大切な人を苦難の道から守れるだけの力と想いの強さを。
 シルヴィア・クロスロード(eb3671)や七神蒼汰(ea7244)は、一心不乱に祈っている。何に対しては当然神に、何を賭けるかともし問われるならば自分の剣にと答えるだろう彼らの持つ雰囲気は、確かに触れれば切れそうな悲壮ともいえる覚悟と共にある。
 それほどに大切なものを守りたいと願いつつ、でも今は祈るしか出来ない苦しみが滲んでいるような様子だ。
 不意に賛美歌の旋律を奏でる竪琴の音が響いて、そうした張り詰めた雰囲気を持っていた人々も耳を奪われた。セイル・ファースト(eb8642)が神の愛を歌う賛美歌を奏でていて、視線は傍らの妻リリー・ストーム(ea9927)に向いている。笑みかわす二人の姿にしばし視線まで奪われた者がいて、やがて旋律に合わせて歌い始める人々が出る。
 その中の子供達に向ける夫婦の視線の優しさが、旋律にも含まれているようだ。
 そうした光景に、アレーナ・オレアリス(eb3532)は一心の祈りにも抱いていた迷いから覚めた様な気持ちになった。
 どうして命は戦うのだろう。そう考えつつ、平和のため、命のために、大切な人の安らぎのために祈っていたが‥‥人の笑顔を見ただけで、安らぐ自分もいる。
 この賛美歌が響く教会の片隅で、レオ・シュタイネル(ec5382)は天井を見上げて、心の中で思っていた。こんなに誰もが出来ることを懸命にしているのだから、天使が姿を見せてくれたっていいのに、と。どうせなら一緒に戦ってくれたらと思うのは、彼が規律に縛られる立場ではないからだろう。
 残念ながら期待した美人の天使は見られなかったが、何か声は聞いた気がしなくもない。

 その頃のキエフの城壁の外。
 すぐそこに森が迫るが、季節と時間から過ごしやすい場所だ。そうして、ペットが多数過ぎたり、見た目が怖すぎた者が、宗派問わずして追い立てられたのがこの辺りか、冒険者街か。
「正直に言うと、こういうところのほうが馴染むかな」
 パラのクル・リリン(ea8121)が、ぺたんと地面に座って木漏れ日が落ちる辺りを眺めている。ジーザス教の教義にも感じ入るところはあるが、やはり心の根っこは精霊に向いていると思う。
 似たようなことはティアラ・フォーリスト(ea7222)も考えていて、こちらは慈愛の神の他にケルトの神も大事に思っている。どちらも聖職者が聞いたら困惑の表情が返って来そうだが、それは分かっているから無闇と言わずにいたら、森の近くなのである。
 まあ、祈るのに場所は関係ないことも、これまでの経験で知っている。
 同様に身内と信仰が違うカメリア・リード(ec2307)も、祈る事柄に彼我で大きな差がないことを知っていた。彼女達は精霊に、他の人々はそれぞれが信じるものに祈る。でも、願い事は同じだ。
 どうか一日も早く、人々の暮らしが元に戻りますように。
 どうか沢山の人が、強い光の心を持てますように。
 大切な人に、やさしい風が吹きますように。
 辺りには動物や精霊が思い思いに過ごし、走り回っている中で、鳳令明(eb3759)の笑い声が響いている。誰かの犬に跨って、祈っているというよりは楽しんでいる。でもそうしたことが出来るのは、今この場所が平和だから。
 賑やかな中でもジークリンデ・ケリン(eb3225)は瞑目して、祈りを捧げている。心がどこかに離れているように動かないのは、それだけ祈りが深いからだろう。草の上、姿勢を正して座る姿は揺るがない。
 かと思えば、タチアナ・ルイシコフ(ec6513)は森の際の木に寄りかかって、のんびりとしているように見える。ミルファ・エルネージュ(ec4467)も木に背を預けて、柔和な表情だ。
 それでも、誰もが祈っていた。この場は最初にしつらえられた場所より、よほど精霊の存在を近しく思うことが出来るから。
 精霊と人がともにあれますように‥‥

 ジーザス教黒派の敬虔な信徒で有名な国王の声掛かりにしては異例だろうが、各宗派の祈りの場が用意された。中には祈りの話を聞いて、宿で祈り始めた峰春莱(eb7959)といった、気が早いのか、長旅で動くのも辛くなったのか分からない者もいるが、多くは街で集っている。
 けれども実際に準備をする人々が世界各地の宗教全部に詳しい訳ではないからか、仏教の白派と黒派は区別されていたがジャパンの神道は場所がない。月道商人に氏子がいたようで、仏教と譲り合って場所をこしらえていた。
「こうして譲り合うのも平和への近道でしょうか」
 自分と異なるものへの不寛容が争いの原因ではないかと思う桂木涼花(ec6207)は、子供の頃に行っていた鎮守の森を思い起こしつつ、用意されていた鏡や供え物を置いていく。重量物は田原右之助(ea6144)が担当だ。
 すぐ隣では仏教徒達が祈り始めていた。中には鬼切七十郎(eb3773)のように気合の声を上げつつ、祈っているのか鍛錬しているのか分からないような者もいる。
 だが大半は念仏を唱えたり、手を合わせて、誰かが持ち込んだ仏像を拝んでいた。大抵はやはり誰か大切な人の無事を祈っていて、月道商人達は冒険者同様に故郷の、遠く離れた土地の者のことを願う。
 中には、火射半十郎(eb3241)のように、同行している七神斗織(ea3225)の兄の無事を一緒に祈りつつ、傍らの者にも加護があるようにと祈らずにいられない者もいた。一番に祈るのは、結局は大切な者の笑顔が絶えないようにと。
 かたや信仰心が厚いとはいえない自分が祈って聞き届けられるものかと、そう迷いつつも黒派の仏像に手を合わせているのが呂白龍(ec2900)。念仏もうろ覚えだし、途中から腹が減ってもきたが、周りの空気から祈り続けている。大半が白派だったが、隣りあわせでもぶつかることもなく、平穏なままに祈りが続いていた。
 無心に、祈る。
 そうした空気に当てられたのか、自分で思っていたより信心深かったのか、限間時雨(ea1968)も時間の過ぎるのを忘れるほどに長いこと祈っていたようだ。神仏に何かしてもらおうとは思わないが、友人のこれから生まれる子供が見る世界が綺麗なものであるようにと、やはり願わずにはいられなかった。
「神様にも仏様にも、本当はお願いじゃなくて感謝をするもんなんだよな」
 やがて、田原が口にした言葉が、聞いた者の胸に染みた。
 感謝の前に、失った者への慈悲を願う必要がなくなればよいのにと。
 子供の頃はもっと無邪気に思ったままを願えた。大人になって、必死に祈ることがこれだとは切ないものだとも。

 あちこちで祈りを捧げる人々とは別に、歌や踊りに願いを託そうと考える者はかなり多かった。これなら宗派の違いも目立たず、街の人々も明るい気持ちになってくれるだろうというのが、大体の一致した意見だ。
 もちろんそのための場所など用意されていないから、デフィル・ノチセフ(eb0072)が断りの必要そうなところを巡って、広場を一つ使わせてもらえることになった。警邏の役場と吟遊詩人ギルドの両方に許可を貰ったが、大きな生き物は連れて行くなと釘を刺された。でも後は自由に使ってよいとのこと。
 信仰問わずでは、教会はじめ祈りの場での周知は出来ない。だから集まってくるのは吟遊詩人ギルドから話を聞いた者か、冒険者が大半だ。後は通りがかった人達が、何かあるのだろうかと足を止めたり。先に祈るために参詣した教会などから、そのまま出会った人を誘ってきたり。
 多くの者が自分の信仰の祈りの場に出向いてから集まってきたのに対して、ミシェル・サラン(ec2332)とアーシャ・イクティノス(eb6702)、セルシウス・エルダー(ec0222)の三人は場所が決まった時からそこにいた。皆が集まるのが待ちきれないのか、アーシャとセルシウスがそれぞれ持参の楽器で曲を奏で、ミシェルが踊っている。セルシウスの竪琴はつたないところもあるが、皆に集まるべき場所を知らせる役に立っていた。
 演奏する二人の信仰が実は違うことなど、言わなければ分からない。だがそのせいで一緒の祈りの場に赴けないから、せめてもここで過ごしたいのだ。二人がハーフエルフであることに厳しい目を向ける者など、このキエフにはいないのだけれど。
 やがて、徐々に人が集まってきて、あたりが賑やかになってくる。冒険者が増えると同時に精霊が増えて、空を飛ぶ彼らにぎょっとする街の住人も少なくない。怪しくないと分かってもらえるまでは、二体の精霊を抱えたディーネ・ノート(ea1542)の姿は子守のようで。踊る前から、飛び跳ねて踊っているように見えた。音楽が途切れると、なんだか気まずい。明らかに変。
「ああもう、誰か演奏して〜。思いきし踊っちゃるわ!」
 その楽しそうにも聞こえる悲鳴に、応えたのがユーリユーラス・リグリット(ea3071)と藤村凪(eb3310)。他にも何人か吟遊詩人が加わって、あからさまに即興の弾むような曲が、時々音程を外し、歌声が重なっても歌詞がばらばらで始まった。こんなにもたくさんの人が祈らなければならなくなったその原因を吹き飛ばしてしまえと言わんばかりの、騒々しさ一歩手前の賑やかで楽しそうな音楽だ。
 ただちょっと音が大きいので、びっくりしたような振り返る人もいた。そちらには、気付いた者が会釈して、笑顔を振りまいておく。
 それから誰とは言わないが、周りに集まった人々を踊りに引き込む者がいて、
「歌も踊りもできませんが、いえ、その思いを表現するというのは素敵だと想いますけれど」
 リスティア・レノン(eb9226)が広場の中央に引き摺りこまれたのが最初。出来るかどうかなど関係ない。願い事と、吹き飛ばしたいものとがあればいいのだ。
 そういうことであればと、ここに来ても何か熱心かつ生真面目に祈っていたルザリア・レイバーン(ec1621)も踊りの輪に。その頃には、踊りを生業にする人々が興行をしているのではないと足を留めた人々にも分かっただろう。音楽も時々ずれるが、踊りはずれっぱなしだ。途中から加わった瀬崎鐶(ec0097)は生国の踊りが自然と出るのか、皆と明らかに違う振りに自然となるのか、わざとやっているのかも分からない。
 ともかくも、とても楽しそうなのは変わりなく、親しいわけでもなさそうな者同士も笑み交わして、手を取り合って踊ったりしている。たまに転びかけつつ。
 本当は心の中に思うのは、こんな時勢でも誰もが無事であるようにとか、友人知人が敵を倒して怪我なく戻ってくるようにとか、戻ってきたら美味しいお菓子を揃って食べたいとか、誰もが仲良く出来たらいいとか‥‥そういうことだ。願いはここでも変わらない。
 なによりも、こうして集まって奏で歌い、踊れることの喜びが弾けている。次第に街の人々も加わって、即興だった歌も演奏もキエフで知られたものに変わり、より踊りやすくなる。耳慣れた音楽に引き寄せられて、集まってきた人々も少なくない。
 やがて、そうした踊りの時間が随分あって、皆の息が上がってきた頃に曲調が変わった。素人では付いていけない激しい動きを予想させる曲に、レア・クラウス(eb8226)が飛び出す。
 歌声を上げたのは、エレェナ・ヴルーベリ(ec4924)。出だしに黒派の教会で唱えられる祈りの文言が入ったが、そこからは賛美歌ではなく、人も精霊も入った物語のような歌が続いた。それを支えるように、幾つもの楽器が音を添え、レアが跳ねる。
 踊るのが楽しい、歌うのが楽しい、今この場のこの喜びが天に届けとばかりに、レアも歌も音も空に駆け上がるかのよう。それを追う歓声と拍手もまた。
 やがて、一際大きな歓声と共に歌い手や踊り手がまた入れ替わる。今度は厳密には歌い手でも踊り手でもなく、本来は剣を手にする者達。でもサクラ・フリューゲル(eb8317)もファング・ダイモス(ea7482)も、それぞれの腕前は玄人はだしだ。レイア・アローネ(eb8106)は思い切り腰が引けていたが、固いことは言う場所ではないとあちこちから押し切られて、ファングともども剣を抜いた。
 一合、二合。
 どう見たところで、ジャイアントの男性のファングが優勢の打ち合いは、当然だが本気ではない。けれどもそこに沿うた、サクラの鳴らすフェアリー・ベルと澄んだ歌声共々、けして力を出し惜しんだ様子など見受けられない。
 打ち合う二人には、周りに危険を感じさせない間合いを計り、それを互いに守りつつも相手を打つ技量がある。サクラにはそうした戦いに合う叙事詩を歌い上げる技能があった。先程までの楽しげな時間とは一転した厳しいやり取りだが、それを見ることで安堵する人もいる。実際の戦いは知らないが、不安は抱えていた人々には、分かりやすい力の示し方だったろうか。当人達の気持ちが別の、それぞれの信仰が違うところにあっても、こうして同じ事のために力を尽くせること、またそれを成し遂げることを尊ぶことにあっても、受け止め方は人それぞれでいいはずだ。
 そうして、また本職の吟遊詩人達とそれに混じったリディエール・アンティロープ(eb5977)が、素朴な自然を讃える歌を歌いだした。水の優しさ、怖さ、地の、風の、火の変わりようと太陽と月の繰り返される動き。リディエールが力を込めたのは、水のくだり。
 太陽への感謝を踊りに込めたのは、サラン・ヘリオドール(eb2357)。生国の再生の象徴である太陽の、その黎明から宵までを踊りで表すつもり。同伴が許されなかった巨大な相方は、ちょうど上空を飛んで皆の目を引きつけたところで‥‥次は彼女が地上にその目を向けさせ、それでいて太陽を思わせる番。
 歌は色々の精霊を讃え、様々な世界を巡って、踊り手も変わる。アニェス・ジュイエ(eb9449)はサランの沈んだ太陽の後を受けて、月を示すところから始まった。北の大地も熱砂の海も、大海の向こうも等しく照らす光。違う光の元から這い上がってこようとする輩に、それらが変えられることがないようにと励まし、楽しませ、時に艶のある動きで目を奪う。
 でも。
「さあさあ、あんた、踊りは相当得意だろ? 平気、猫だって踊れるからね」
 誰かが合図したかのように、ぴたりと演奏と歌と踊りが止まって、アニェスがファングの腕を取った。それから手当たり次第に、次々と、また最初のように見ていた人々を踊りの中に巻き込んでいく。ファングがあまりに綺麗に踊るので、腰が引ける街の男性陣は手馴れた様子の踊り手達が一緒にどうぞと誘いをかけ、老若男女で手を取り合って。
 人は信仰で道が分かれ、振る舞いが異なり、時に衝突することもあるけれど、こうして笑顔で踊り明かした絆は解けることはないだろう。

 宿の窓の外、賑やかさが段々に収まっていくのをアンドリー・フィルス(ec0129)は感じていた。正しくは耳から聞いているのだろうが、瞑想から解き放たれようとしている時は音より気配を濃厚に感じる。
 流石に阿修羅教はロシアではほとんど知られておらず、同輩も見付からず、わざわざ自分一人のために場所を設けさせる必要もないと、彼は宿の室内で瞑想をしていた。
 平和を、争いのない世界を願う。
 その気持ちは、外の楽しげな賑やかさからも漏れ伝わっていた。

 夕暮れ時のジーザス教白派の教会には、まだ人の姿が絶えてはいなかった。いずれもが、昼同様に熱心に祈りを捧げているが、どことなく張り詰めた気配の者も多い。
 その中の一人のユキ・ヤツシロ(ea9342)は、本来はまだ護られる立場でよいはずの年齢で茨の道を自ら進んでいるとしか思えない年下の友人のことを考えている。彼女が笑顔でいてほしい、自由でいられるように。
 それから自分がこうして教会で堂々と祈れるように、他の国でも同族が差別されないようにと、それも願わずにはいられない。
 同じハーフエルフはもう一人、ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)がいた。こちらもクレリックだが、傍らには将来を誓ったジルベール・ダリエ(ec5609)も何かを祈っている。
 聖職者の結婚は地域により禁忌だったり、そうでなくとも神への奉仕が滞ると忌避する考えが目立つ。その上二人は異種族で、互いに相手の無事や平穏を祈りつつも、生国の教会では思い合うことさえ認められないのが骨身に染みている。故にキエフの教会でも自分達の祈りが聞き届けられるのかと、そもそも祈っていいのかと思い詰めていたが‥‥二人が連れ立つことを咎める者など、この街にはいない。
「信仰とは気付く事だと思う_。求めるから与えられるのでなく、神の御心、愛は常にそこに在るのであり‥‥それに気付き信じられるかどうか。それを言う資格が俺にあるのか、それは迷うのだが」
 教会の入口扉の傍らでは、ラルフェン・シュスト(ec3546)が祈りの結晶を、自分を見上げているルネ・クライン(ec4004)の掌に落として、上から自分の手を重ねた。それは幾人もが行った祈りの時の仕草と同じで、通い合う想いにもきっと差はないだろう。
 願うこともささやかな幸福。信じあう心、希望の光、そんなものを持ち続けていられること。
 後は出来るなら、大切なものを失わずに済むようにと。誰もが辛い過去の一つも持っているが、それが次々と増えていかないように‥‥
 愛しいと思う気持ちが互いの間にあるが、それが男女の愛情に繋がるには少しきっかけが足りない二人は、それでも互いの手のぬくもりに安堵を覚えつつ祈っている。
 兄と親友の寄り添う姿を少し離れて見ていたリュシエンナ・シュスト(ec5115)は、亡くなった兄の家族達に祈っていた。自分にとっても家族だったが、喪失感は当然兄のほうが強いに決まっている。もう信仰心も枯れたと口にしていた兄が、また祈れるようになったことを喜んで欲しいと思う。そう願っていたら、近くでエルシー・ケイ(ec5174)が彼女を見ながら佇んでいる。
「こちらはあなたのものではないかと思って」
 差し出されたのはどうにも実用に耐えそうにない矢。見覚えはないはずだが、荷物に似たようなものが紛れている。でもエルシーの持っているのは、彼女の傍らにあったものだとか。
 不思議ねと思わず笑顔になった二人は、縁起がいいものかもしれないと不思議な矢をしばらく眺めていて、なんとはなしに楽しい気持ちになった。
 平穏を祈るのは辛いことでもあるけれど、笑顔があれば諦めず支え合い、きっと新たな何かを生み出せるだろう。まずは自分の心が奮い立つ。

 祈るといっても『何に?』と返したくなるザッカリア・ブランドン(ec5933)は、皆が祈っている姿を見てもやはり神にすがる気持ちにはなれなかった。最後には自分しか頼れない生活があまりに長かったからか。
 でも戦い終わって帰る場所もない、迎えてくれる人もいない惨めさも知っているから、それを護りたいと祈る人々の願いが叶えばいいと、街角で思っていた。

 それもこれも、この日溢れた願いの一つ。