ゴーレム工房 〜鉄のチャリオット製作

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 98 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月12日〜07月19日

リプレイ公開日:2009年07月24日

●オープニング

 この日、ウィルのゴーレム工房の一角、風信器開発室では現在部屋の主のナージ・プロメと助手のユージス・ササイが話し込んでいた。
「無ぅ理よぉ。鉄だものぅ。傾いちゃうわぁ」
「そこは鍛冶師の腕の見せ所ですよ。グライダーよりは船、それよりはチャリオットのほうが造りやすいだろうって、実際に手をつけたようだし」
「鉄でぇねぇ‥‥」
 なんだか分からないが、ナージが呆れている時点で開発室の人々の意見は一つだった。
 この人が呆れるような事柄は、ただの世間話に違いない。仕事の話で、ナージが呆れるような発案は実現などしないのだ。
 だがしかし、この時だけは事情が異なっていた。

 ゴーレム工房には、ナージやユージスのようなゴーレムニストが結構な人数いる。彼らは工房長のオーブル・プロフィットを頂点に、一応は序列があって仕事に取り組んでいる。ただし、この序列に持って生まれた身分はあまり関係しない。
 頂点はゴーレムニスト魔法の生みの親であるオーブル。これは不動の地位だ。
 以下、人によって考え方の違いはあるが、重要役職に就いている者やドラグーンはじめ新型ゴーレム機器の開発に関わる者は格が上と見られる。中でも自分で発案、設計が出来て、開発事業を牽引できる人物は工房の中核を担うことにもなる。ただし性格、性質も重要で、調整能力に優れていることが大切だ。
 それからゴーレムニスト魔法の能力が高い者と経験年数が長い者、この二つが重要視される。仕事が出来て、その進め方が巧みな者ほど、皆から重用され、頼られるのだ。
 後は見習いとか、駆け出しとか、性格に難ありとか、程々のところで満足した向上心の欠ける者とか、人を使う立場にない者が、上の人々に扱き使われつつ働いている。大体のところは、多くのギルドの職人などと変わらない。
 この他に他の分国から修行のために送り込まれている人々と冒険者ギルドに所属して普段は工房にいないゴーレムニストが一種の外様扱いで、序列の外にいた。
 こうした序列は絶対ではないが、新規開発の提案などの発言力には影響する。他に王城からの注文や作る各職人達、実際に使用する鎧騎士からの意見も尊重されるが、ゴーレム機器を作るのはゴーレムニストだから、彼らが作れると思わなければ開発は始まらない。ただ王城からの注文には必死に頭を働かせるし、予算のやりくりがつかないことには了解が出ないという現実もある。
 そして今回、あちこちから色々な開発計画が出てきた中で、使用目的と合わせて実行が決まったのが金属製のチャリオットの製作だった。

 金属製チャリオットの作成は、長引いている地獄の戦いに出陣する鎧騎士や冒険者達から『負傷者運搬用にチャリオット、フロートシップを使用したい』と繰り返し要望があることに由来した。現在の木製で問題があるわけではないが、金属製なら丈夫でより安全、また作れると考えた金属鍛冶師の一団がいたのだ。少数派だったが、ユージスの元に金属製のグライダーや小型フロートシップ開発計画が持ち込まれていた事を知るとやってきて、『このくらいの鉄があれば造れる、都合できないか』と交渉を行ったのだ。
 そういう話は、ユージスのところには時々やってくる。ナージは風信器の能力拡大には熱心だが、それ以外のことには疎いので、少しでも分かってくれそうなユージスのところに来るわけだ。他のゴーレムニストよりは、日頃からナージ共々職人との交流もしてくれる彼は話しやすいというのもあるだろう。
 この金属製のチャリオット、ユージスは当初乗り気ではなかったが、冒険者ギルド専用のチャリオットの損傷具合を確認しているうちに有用だと考えを改めたらしい。つまり、結構傷んで戻ってくるのだ。新しいものに優先で交換してもらっているが、より丈夫なものがあればありがたい。
「ユージスに人助けって持ち込めば大体受けてくれるって、分かってやっているんじゃないでしょうね、あのドワーフ達」
 風信器開発室では、本業が進まないと経理担当の文官ダーニャが嘆息しているが、金属職人達に予定外の鉄製風信器素体の作成を承諾させたのは彼女である。

●今回の参加者

 ea0144 カルナック・イクス(37歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ノルマン王国)
 ea4471 セレス・ブリッジ(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・イギリス王国)
 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4399 岬 沙羅(28歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb4578 越野 春陽(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec4600 ギエーリ・タンデ(31歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec5004 ミーティア・サラト(29歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec6739 チェスワフ・カンパネラ(16歳・♂・ファイター・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

 こういう事態であれば、当然起きているだろう出来事が予想通りに展開していて、信者福袋(eb4064)の顔に浮かんだのは苦笑だか失笑だか。
「まずは何をすればよろしいので?」
 これまでも今回も他に指示を仰ぐ相手に引き合わされないのでダーニャに尋ねると、数字を書いた石板が飛んできた。
「予算の計上ですか? 相変わらずすごい金額ですね」
「新型開発はどうしてもね。今回は急いだ分、余計に掛かってるわよ」
 素体が鉄だとしても、普通のチャリオットの八倍くらいの金額に信者の眦に皺が寄った。これは大変という気分を示すものだが、かなり深い。
「この材料在庫をもう少し増加しておけば、危急の事態にも慌てず、費用も跳ね上がらずに済むと思いますが?」
 しばらく計算を手伝って、資料から読み取れたことを告げると『ずっと危急の事態じゃない』と返されてしまった。確かにその通りではある。だからこそ戦車を思わせる鉄製のチャリオットなんていう代物が開発されているのだ。まあ、木製の次は石か鉄が素体材料だから、一足飛びに鉄製となるのはごく普通の流れだが、
「新型の開発も現場からの要望だと対応が早いのですねぇ。更に皆が使える汎用型が優先でしょうか」
 ナージもより遠距離通信が可能な風信器開発を主張していて、それは用途もあるのに、新型開発がさくさくと進んでいるわけではない。ゴーレムニストにありがちに思える自身の欲求や浪漫、技術向上優先の提案より、『何が必要か』が大切なのだろう。
 いずれにしても、先立つものがなければどうにもならないわけだし、より多く先立つものを確保するには無駄をなくすのが何よりと信者とダーニャの意見は一致している。で、今後の作業のためにどこの手順を変更するのが有効かと、他の文官も交えて相談をする。
 その合間に、風信器開発が最近停滞しているのはナージが『銀の素体〜』とぶちかましたためだと判明したが‥‥良い結果が出ると予測は出来ても、そんな余裕が今の工房にないのは、金銭の動きを示す数々の書類から明白だった。

 今回の開発対象である鉄製のチャリオットは、異常ともいえる速度で素体が出来あがってきて、現在ゴーレム生成まで済んでいる。おかげで自分が使える魔法が役に立たないラマーデ・エムイ(ec1984)が『つまんないわねー』と零して、ユージスに後頭部を叩かれた。もう叱っている暇もないのか、そんな労力を掛けるのは放棄したのか、小言はない。
 結構強く叩かれたのでラマーデは涙を浮かべていたが、珍しくミーティア・サラト(ec5004)が小言を担当した。いわく、
「ドワーフの先達方が心血注いで考え造った素体を前に、つまらないなんて口にしたら、聞いた人達は不真面目なと思うでしょう。費用も手間も掛かっているのだから、それに見合う以上の結果を出せるように仕上げて、他のものも造ろうと言う評価をいただけるようにしなくては」
 これには、ラマーデの頭にこぶでも出来ていないかと過保護に確かめていたギエーリ・タンデ(ec4600)も頷いている。今回は戦場での救護に特化した珍しい機体の作成、かつ鍛冶師達からの発案だけに、直接手が出せないからと『何にも出来ません、しません』と受け取られる態度は避けないと評価が下がると考えたようだ。やる気がないわけではないのは近くにいれば分かるが、工房でも関わりが薄いところの人達からは見たとおりにしか受け止められないだろう。そういう危惧があったらしい。
 まあ余人が入るところではなかったので、とやかく言うより先に出来る作業を済ませてしまおうと、まずはミーティアとギエーリが鍛冶師達に付属させる機関の出来具合とあちらの希望、意見を確かめに出向いた。後程作業場所になっている、冒険者ギルド貸与のゴーレム機器格納庫で合流だ。
 待ち時間には、魔法付与が可能な者を再度確認して、それから魔力の浸透具合を予測し、完成までの日程を検討する。これが決まらねば他所の手伝いにも行けないから、余裕を持った時間と魔法回数で考えて、まずは表にした。天界人も含めてセトタ語の読み書きに困らないから、表は格納庫の壁に掲示しておく。後程風信器開発室にも。
 それからチャリオットに追加する救護特化用の設備の案を出し合ったが、まず地獄で使用することを考慮したら防寒対策だ。
「鉄製でもチャリオットの大きさだから、掛ける魔法は同じ強さで大丈夫かな。荷台を箱型にすると、寒風や敵の攻撃に晒されないと思うが」
 浮遊機関の魔法を付与することになるカルナック・イクス(ea0144)が少々の不安もあげつつ、考えたことを口にする。それをざっと絵に描き起こすのがラマーデだが、岬沙羅(eb4399)の操縦席前や荷台に風が流れ難いような板などの出っ張り『風防』をつけようという提案には、どこにどのくらいの板を張ればいいのか、頭をひねり始めた。
「天界だとガラスで出来ているので視界確保の苦労がないんですけど‥‥走行時と停止時で機体の角度も違いますから、両方で有効となると」
 二人で頭をつき合わせて考えているが、風向きが一定とは限らないとの越野春陽(eb4578)とカルナックの指摘もあり、話が停滞してしまった。
 なにしろ今回は鍛冶師達が『いきなり形が変わると即戦場に投入できまい』と気を使い、知恵と経験を振り絞って既存のチャリオットとあまり変わらぬ大きさと形になるよう、ゴーレム生成での素体膨張率を考慮して作ったゴーレム生成付与済みの素体がそこにある。出来ることは完成までの魔法付与の他には、後付で変更可能な外装部分だけなのだ。ラマーデが思ったまま正直に『つまらない』と言い、沙羅が『形から検討したほうがよかったのでは』と、春陽が『弄りにくい』と考えたくらいに、やりにくい開発ではある。
 ついでにこの発展形として沙羅は精霊砲を搭載したり、ゴーレム輸送用に大型化したチャリオットのアイデアも持っていたが、今回の機体が成功しないことには次がない。そういうものを造るとしたらこんな感じと、ラマーデが目をキラキラさせつつ描いたに留まった。
 急がれる防寒対策は、
「チャリオットの走行方法は、元々が怪我人搬送に向いているものではないわ。その衝撃を緩和することも考えれば、素体の金属部分と乗っている人とが触れないようにしないと」
 春陽はチャリオットの床面に板を張り、その上に布や毛皮、皮で寒気の伝わりを遮断する方法を提案している。カルナックも内側には毛皮を張るべきだろうと提案していて、これはほぼ決まりだろう。後は木工が出来る職人を頼んで、魔法付与の合間に作業を進めてもらうだけだ。
 ちなみに春陽も将来的には同目的なら超小型のフロートシップを作って傾きのない操縦が出来るようにすべきだとか、チャリオットのままなら浮遊装置の出力方向を改造して前傾姿勢以外を取って浮遊できるようにとかは考えている。そうした代物を作るなら制御胞が有効ではないかとまで考えを進めているが、フロートシップにもない物を転用する必要性があるかは未知数。
 まずはギエーリとミーティアが福袋も連れて戻ってきたので、カルナックが浮遊機関の魔法付与をしている間に、皆で福袋が持って来た資料を紐解いてみる。過去のチャリオット関係の開発資料の一部だが、半分くらいは他国の情報だ。公開のものも、非公開のものもある。
「精霊砲を積むとしたら、搭載量を今の四倍くらいに上げないと駄目なのですか。走行しながらの発射も困難、と」
「天蓋も結局重量が問題になるのね。鉄製にしたら精霊力に余剰が出ないかしら」
「その図面、こっちのほうが分かりやすくない?」
 目的からすれば、機体重量は抑えて搭載量を上げたい。人間を出来るだけ多数載せるなら、中の構造も吟味しないと駄目だろう。そのためには天蓋は木製でも攻撃を防げるほどの厚みは持たせにくい。これには鍛冶師達から話を聞いてきたミーティアも、
「重心が変わると、走行出来なくなるかもしれないから‥‥もうちょっと軽く出来ないかしら」
 とかなり難色を示した。今の段階でもそこが実は最大の懸念事項で、まったく動かない可能性も若干残っているのだ。色々凝り過ぎた挙げ句に重過ぎて動けなかったでは目も当てられないから、外装甲は必要最低限がよいというのが彼女の意見。
 鍛冶師達に苦労話を聞いた結果、延々浪々と普段の自分のお株を奪う勢いで語られてしまったギエーリは、珍しく鍛冶師達の意見をまとめて手短に皆に伝えている。人命救助のための機体だから、ともかくも素早く現地に向かわせられるように魔法を掛けてくれと言うことだったようだ。魔力の浸透時間は短縮できないから、その間は皆他の作業をするのだが。
 カルナックの浮遊機関の魔法付与が無事完了して、鍛冶師達がやって来てから精霊力制御装置を春陽が掛けることになった。ミーティアは鍛冶師達と、各装置の接合場所時間の確認をしている。
 木工職人にはラマーデと沙羅が作業を依頼しに行き、数名がやってきて寸法を測り、皆の希望を聞いて、ラマーデと春陽が描いた概要図を眺めて質問をしてくる。天界・地球式の設計図はなかなか理解されないが、概要図やイラストめいた完成予想図は飲み込みが早い。細かい寸法が入っていなくても、そこは実地で図りつつ書き足したりすることで補うようだ。春陽や沙羅にはいささか馴染まないが、相互に分かりやすいほうがいいので、以降はこの図面が活躍するだろう。
 出来るだけ多人数を乗せる事を考慮して、外装甲も最低限。精霊力集積機能の付与前に、防御力制御を付与するかどうかが検討課題になっているが、これは他のゴーレムニストにも相談してみることになった。魔力浸透中に結論が出ればいいのだから、慌てないことにした。
 後はゴーレムの内部が寒いのを、操縦者にレジストコールドを付与して防寒具を着けさせて対処する以外の方法を探して、制御胞の床に毛皮を敷いたり、隙間に布を詰めたりしてみたが、成果の程はいささか微妙。ゴーレムそのものに魔法付与が出来れば一番簡単だが、それが出来ないのはゴーレムニストには知られた話だ。いっそオーブル工房長に直訴して、ゴーレム魔法の生み出し方を尋ねてみたい気持ちに駆られたものが何人かいた。そうしたら、劇的にあれやこれが改善するのに!
 機体そのものは寒冷地でも動くが、関節部に水が掛かると凍って稼動域が一時的に狭くなる可能性があり、視界を妨げない足関節周辺には布を張ってみた。凍ったらはがしてもらうしかなく、一時しのぎだがないより安心だろう。
 一番はミーティアはじめ鍛冶師達が、足に氷の上でも動けるように滑り止めを設置するのに忙しい。
 そういう合間を縫って、久し振りに皆で集まって外装甲の相談をしようと計画していたのだが‥‥

 事が起きたのは、仕事の合間に時間を作って地獄に出陣するゴーレムに付き添ったり、実際に出陣した人々がようやく戻ってきて、さてこれから使われたゴーレム機器の整備に向かうかとした頃合だ。フロートシップが着陸と言うか、半ば墜落に近い状態で到着したのだ。船体は修理可能か確かめることもなく廃棄決定、船員の安否確認で工房側の作業は一時的に停止した。
「はい、ちゃんと食事しないと仕事にならないからね。少しでも食べて」
「まったくですね。二十四時間続けて働いたのは久し振りですよ」
 一段落したところで、ナージは疲労困憊して風信器開発室の長椅子でのびている。ユージスも左腕が上がらなくなって、顔色が蒼い。カルナックはまあまあ元気だが、皆に食べさせねばと言う気力で料理をしていて、信者はいつもぱりっとしている服装がよれよれだ。残る五人はそれぞれに楽な姿勢で座り込んでいて、椅子より床の上が多い。カルナック心配りのさっぱり料理も、しばらくは喉を通らなかったようだ。
 教会の協力で死傷者もごく少数で済んだのが不幸中の幸いだが、少なくとも鉄製風信器に精霊碑文を刻んだものの正確な通話可能距離実験をしたかったナージの希望は流れた。時間がないのだから、当人も納得している。
 そうして、今回のような被害が出る可能性はもう薄いが、鉄製チャリオットは外装甲より足の速さを優先したほうがいいと助言があった。いずれは外装強化も検討できるが、まず負傷者を危険地域から運び出すための逃げ足が現状一番求めやすいとあちこちから意見が出たからだ。その分、内部のつくりをしっかりとして、担架や座席に付いた者を固定するシートベルトなるものをつけることにもなっている。
 これを色々地上の車について説明しているうちに思い付いたのは沙羅だが、春陽と信者が加わって三点式と六点式のシートベルトの図面を起こして、しっかり固定できるようにと職人衆に依頼をした。天蓋部分は今回は幌で代用だ。
 これでようやくにして、精霊力集積機能の魔力付与。それからチャリオットの操縦が出来る鎧騎士に依頼し、実際に操縦してもらった。
 結果。
 速度は既存のものよりかなり速い。動きも滑らかだ。ただし操縦者には木製のチャリオットより高い技量が起動から必要とされる。更に練達の鎧騎士を乗せれば、もしかすると相当の速度が出るかもしれないが、あまり速過ぎても安全面に不安が出る。やって来てくれた鎧騎士の限界でも十分な速度だったので、より強化は別の機会に何とか二台目を造ってみたいところだ。
「なんでー、冒険者ギルドに貸し出しじゃないのー?」
「いきなり乗った事のないチャリオットに乗せたら、事故の元だろう」
 沙羅が交通事故の事例を挙げたからではなく、ユージスは戦場では少しでも乗り慣れた者が優先登場するべきと考えている。こればかりは幾らチャリオットに有能な冒険者がいても、工房も新型機は工房付きの鎧騎士に任せるだろう。
「ではその様子の地ほど確認させていただくとして、鍛冶師の皆様にも早めにお知らせいただけますか。それはもう、気にしていらっしゃいましたし。ね?」
 それならとギエーリが主張しているが、多分それは背後に控えて結果報告を聞き、操縦者が誰になるのか気にしている鍛冶師達の意向を受けてのことだろう。最初に顔を合わせた時の、新型開発の苦労を讃えたのが気に入られたのか、橋渡し役を仰せつかっているのだ。無言の圧力でやらされているとも言う。
「いっそ次は鉄製のフロートシップとか?」
 それはいいかもとゴーレムニスト達が頷いていたら、鍛冶師達は『重心がなー』と呟いていた。模型段階で、まだ成功が見えないらしい。
 だがそうしたものを実現するには、この『いつも危急の事態』である現状が改善することをまずは願うべきなのだろう。
 努力もしつつ。