樹海探索行

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月06日〜08月13日

リプレイ公開日:2009年08月18日

●オープニング

 その話がもたらされたのは、元はラスプーチンの軍にいたエルフ達からだ。
 エルフの大半はどういう理由かラスプーチンやデビルに切り捨てられる形で戦場に孤立し、それほど高い忠誠心で従っていた訳ではないから、あっという間にロシア王国軍に投降して捕虜になった。捕縛後の処遇については各論あったが、すべて牢獄に置くには多すぎ、食べさせていくだけでも大変な人数だった上に、森のあちらこちらに隠れ潜んでいた女性や子供、老人達までが捕まった男性達に合流したものだから、適当に分散して兵士の監視下におきつつ強制労働をさせることになったのだ。
 戦闘で廃村になった村や荒れ果てて村人だけで再建が困難なところ、開拓途中で作業が止まったところ、城塞都市の壊れた城壁など、人手を要する地域は多々あるし、案外と器用で仕事を厭わない態度は重宝された。どうしても敵対した時の記憶で地域の住人といがみ合うこともあるのだが、中には打ち解けてくる者もいて、
「おかしな生き物達は、この辺りによくいた」
 と、話していたと報告があったのだ。
 蛮族はジーザス教の洗礼を受けていない人々だから、デビルなどと言う言葉は知らず『おかしな生き物』と呼んでいた。事実生き物としては不自然極まりない存在なので、それで十分に通じたのだろう。

 そして、彼らがデビルやラスプーチンがいたと証言したのはキエフから歩けば三日から四日ほど。暗黒の国と呼ばれるにふさわしい人跡稀少な深い森の中だ。エルフ達でもその辺りでの行動には難儀したというから、近くに集落もなく、隠れ潜むにはよかったのだろう。
 今もそこにいるとは思えないが、なんらかの手掛かりがあるかも知れず、またその周辺はこれまで詳しい調査が入ったこともなかった。ゆえに王国の軍から偵察が行って、どうもいまだデビルが徘徊しているようだと掴んで来た。
 目的があっての行動か、たまたま行き会うのかは分からないが、直接出くわすことこそなかったものの三日間で十数回も魔法感知に引っかかったとなれば、頻繁に現われる事は間違いがない。だがデビル達の存在はせいぜい二体までで、多くは単独で感知され、大きな軍勢が近くにいる様子は見付けられなかった。
 よって、どこかに潜んでいるはずのラスプーチンの居場所を知るモノを捕らえ、何を企んでいるかを引き出すことが出来るかもしれない。
 そのための偵察行の依頼が、冒険者ギルドに掲示された。

●今回の参加者

 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0882 シオン・アークライト(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb5195 ルカ・インテリジェンス(37歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ec3237 馬 若飛(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec3272 ハロルド・ブックマン(34歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3565 リリス・シャイターン(34歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ナノック・リバーシブル(eb3979)/ エメラルド・シルフィユ(eb7983

●リプレイ本文

 迎えが来るのは四日後の正午。その時間までに合流場所に到着していなければ、三時間ほどは待ってくれる。それでも誰一人として姿を見せなかったら、全滅したと見なす。
 この面子でそうなったら、森を焼き払うくらいの騒ぎになるかもとの御者に身をやつした兵士の軽口に、アリスティド・メシアン(eb3084)とルカ・インテリジェンス(eb5195)が一瞬表情を厳しくしたが、もとより軽口。そうならなければいいだけのことだ。

 それから丸一日。
 十人の冒険者は三手に分かれて、森の中を進んでいた。もとよりしっかりした地図はなく、簡易地図をハロルド・ブックマン(ec3272)が作成しているが、隠密行動優先ではなかなかはかどらない。
 そして石の中の蝶を持っているレイア・アローネ(eb8106)、馬若飛(ec3237)、リリス・シャイターン(ec3565)、ルカとディテクトアンデッドを使うセシリア・ティレット(eb4721)、の五人を、三方それぞれに割り振っているがデビルの反応はまだ一度しかない。それも結構な距離があって、隠密行動に最も優れる双海一刃(ea3947)でも追跡には到らなかった。
 探索の中央になる班のシオン・アークライト(eb0882)が、後方にも目をやる。後背からの襲撃を警戒してだが、流石に彼女や他に同行しているセシリア、リリスにまったく気付かれずに近付いてくるような獣はいない。風読みに長けたアリスティドがルカと相談して、風上に入らないような進路をとることもあり、獣に追われることも今までのところはなかった。
 シオンのいる班の右翼に展開しているのは、雨宮零(ea9527)とルカ、馬のいる班だが、こちらも異変と呼べるようなものは見付けていない。ただし、ルカが時折魔法を使う際に発動光が漏れないような場所は随時確かめていた。
 これらは元々アリスティドと双海、リリスが警戒していたことで、前日には装備そのものが光るレイアとセシリアはエンジェルズハロウを外すか何かで隠すようにと注意を促されている。昼日中でも木々の下では目立つかも知れず、用心に越したことはないからだ。故に特に魔法の掛け直しが多いアリスティドは、皆の盾やマントで周囲を覆ってもらってから呪文詠唱をしていた。ペットを連れている面々は、不用意に鳴き声を出さないように厳しく指示している。
 もちろん夜間は火を焚くこともなく、交代で眠ったのだが、季節がらそれでも耐えられないことはなかった。また完璧を期すなら相当の明るさが必要だとしても、さらに北方には暮れない夜もあるお国柄。宵闇が支配する時間が少ないのも、彼らには有利に働いている。やはり深い森の中での火のない夜は、いかに物慣れた冒険者達でも気の休まることがないからだ。
 それにしたところで、
「何にもないわね、枝折れ一つ見当たらないじゃない」
 さらに半日経って、流石に空も薄暮となり、野営のために合流した仲間を見てのシオンの一言がそれだった。獣の姿がほとんどないのは、いかに風上を選んで移動していても猟犬や忍犬、フロストウルフなどがいれば、近付いたとしても姿を見せずに立ち去るのだろうから違和感はない。そうした気配は、誰もが何度か感じていた。
「でも静か過ぎる気もするな。もっと騒々しくてもいいのでは?」
 大型動物に行き会わぬまでも、鳥や獣の気配はもっと濃密でいいのではないかと、ルカとアリスティドに問い掛けたのは雨宮だった。二人の反応は是。
「ラスプーチンどもがいた間に逃げて、まだ戻ってないのかもしれないけどね」
「元々は熊もいたようだが、今は気配がないな」
 交わされる会話は小声だが、声色は熱心だ。ルカもアリスティドも、そこここに残る獣の気配は見取っているのだが、それがいささか古いことを気に掛けていた。
 ただ、レイアが言うには、
「鳥はデビルの目撃情報から、この辺りから逃げているだろうし‥‥大型の動物がいないのは、エルフ達が狩り尽くしたのかもしれないな」
 そうなると、小動物の大繁殖で森が荒れるかもしれないと三人は憂い顔だが、その心配は今するべきでないことも承知していた。エルフ達がいた頃にいただろう細道はまだ残っているが、そこに最近の跡が一つもないことの方が重要かつ危険なのだ。デビルは空を移動するかもしれないが、ならばなぜこの周辺を飛び交うのか。
「最大二体で、広範囲を飛んでいる可能性‥‥目的の物の在り処を絞れずに探しているのでしょうか」
 セシリアは思案顔だが、デビルが探し物をしている確証はない。探すなら何かまでの予想もしていないから、理由にもなかなか思い至るものではない。少数での移動に理由があるのは間違いなかろうが、そうしなくてはならない事情は他の者もこの探索行で確かめようとしている。
「居場所がばれたから撤退するのは当然として、落し物だとしたら相当貴重品だな」
「ならば、普通は数の力で探すものだよ。見られて困るものも、一度で消してしまった方が安全なんだけどね」
 馬も首をひねっているが、リリスはそろそろ自分の考えに懐疑的になっていた。これは徐々に皆にも伝わってきた感情だが、では一体何が目的で動いているのかとなると、まだこれと言ったものが浮かばない。馬など、考え込むより先にテントを張ることに、リリスは白光の水晶球を発動させることを優先し始めた。
 双海は忍犬二頭の世話をして、早々と休ませている。夜明け前にはまた警戒に当たってもらうためにも、細やかな気遣いは欠かせないところだろう。
「明日以降、デビルが見付かったらどうする? 種別を問う余裕はなさそうだが」
 でも仲間にはどうにも無愛想さが抜けぬ声色で、双海が問い掛ける。出来れば情報を多く持っている期待が持てるデビルを捕らえて尋問したいというのが皆の一致した意見だが、今の遭遇状況では贅沢も言えない。そこの意思統一をどうするかと言うことだろう。
『夜間行動の危険を冒すなら実利を求めたい』
 ハロルドが、相手が読めるかどうかには無頓着に地面に記した意見はもっともだったので、夜間は変わらず捕らえるなら少しでも高位のデビルを目的とすることにした。代わりに、翌日昼間での成果によっては見つけ次第に捕らえると目標を変更することもやむなしとなる。

 そうして、更にもう一日経過して、方針は『時間に関わらず、見付けたものを早急に捕らえる』と変化していた。この日中もデビルの存在を感知することはなく、夜の森の中はレイアが普通より少ないと評する獣の声が時折響くだけで、また夜明け。魔力の回復には十分な休息が取れるが、成果が上がらないので気分はよろしくない。
 変わらず三方に分かれて、テレパシーの届く距離を保つように用心しつつ、あちらこちらを巡って半日。状況が突然変化したのは、昼頃のことだ。
 森の奥から、煙が一筋立ち昇る。明らかに誰かがいることを示す印は、いずれの班からも良く見えた。狼煙のような煙ゆえ、目立つことこの上ない。
 慌しくアリスティドを介した情報のやり取りが行われ、煙を目視した双海とルカはすでにそちらへの道を探し出した。その後ろから、レイア、ハロルド、雨宮、馬が可能な限り早く追う。更にアリスティド達もそちらに向かうが、テレパシーの中継をしながらでは、相当の時間が掛かるだろう。
『人の気配はないようだが、近くまで到着した』
 火が焚かれている場所までの時間は、双海やレイア、ハロルドで半時間ほど。ルカと雨宮、馬でそれより十分掛かった。明朗な道標を残すのは難しい中、かろうじて前を行く者が残した跡を追い、テレパシーでの誘導を受けつつ、更に全員が揃うまでに要した時間は最初の目撃から一時間余り。
 辺りに人の行き来する気配はないと、ルカと双海とレイアがすでに確かめていた。だがデビルだとわざわざ火を焚く意味はなんなのか、誰も予想が付かなかった。
 後は直接火を焚いている者を確かめたいところだが、全員集まったのでセシリアのディテクトアンデッドで確認をする。結果、感知されたのは人くらいの大きさのデビルが三体、シフール大が二体で計五体。すぐに皆からは背後になる位置から十体ばかりのデビルの存在も感知された。どう考えても合流するのだろう。
 十五体のデビルを相手にどうするか。視線と身振り手振りで、依頼時の情報とは違う状況への対応を話し合った十人だが、敵が多い時はその情報を持ち帰ることが重要ではないかと考えている者が多かった。
 けれどもデビルの種類次第では、この面子で十分に対応出来る。敵殲滅と情報入手が並び立つなら、そちらを選びたいところ。
 結局彼らの行動を決めたのは、多くに共通する『ラスプーチンをのさばらせたままではいられない』という思いだった。せめても相手の正体なり、目的を把握しなくては。存在だけ見付けましたと戻っては、デビル達がここに執着する理由の予測もつけがたい。
 オーラエリベイションなどの付与魔法を使う者は、これまで以上の用心深さでそれを使用して、その後にまた偵察に三人が向かう。アリスティドは双海とレイア、ルカとの会話を途切れさせず、彼らには能力で及ばない他の六人も万一に備えて少しずつ、いまだ上がっている狼煙の位置へと移動していく。
 デビルの目的地も、当然そちら。地上からそっと見上げれば、その数は少しずつ増えているようだ。

 捜索の途中に、シオンが口にしていたことがある。
『ラスプーチンがいても、あのずるい男が本当に姿を見せるとは、簡単には思えない』
 馬が言っていた様に、居場所がばれたろうと思えば別の場所に姿を隠すのが普通だ。大半がそう考えて、ラスプーチンの存在は考慮していなかった。いても、囮だろうと考えていた。
 けれど。
「やれやれ、やはり呼び出すモノも数よりは質で選ばないと。ちょっと移動したくらいでこちらを見失う存在など‥‥使い道はたいしてありませんよ」
 それにしても、いつの間に森の中に入り込んでいたものか、と。
 おそらくは相手も感知魔法か何かを使ったのだろう。不意にレイアの前に飛び込んできたデビル・リリスは、人がいたことにぎょっとしたように上空に逃れたが‥‥その背に掛けられた嘲笑交じりの声に硬直していた。
 双海やルカのそれまで必ず守られていた合言葉をすっ飛ばした連絡に、アリスティドが顔色を変える。当然知らされた内容には、皆も多少の差はあれ同様で。
 駆けつけて、何をしていると問いかけた声が誰のものだったか。返答はなく、魔法の詠唱があって、なんらかの付与魔法を使ったのは分かる。それがデビル特有の魔法なのも。
「ラスプーチン‥‥本物?」
「常々思っていましたが、そんなことは倒してから確かめたらいかがです? 別に理解しあう必要など、ありませんでしょう?」
 一度でも見たことがある者なら忘れていないラスプーチンが、そこにいた。こんなときにも飄々とした様子は、確かに当人のようだ。こんな森の中で、冒険者の誰もが大分埃を被っている中、こざっぱりとした様子は見るからに怪しいが‥‥この周囲にだけ、人が暮らしていたような様子が残っていた。
「伝令か」
 地獄での戦いが緊迫していた頃に多数行き交っていたデビルは、もう逃げたと思われた場所なら見付からぬと身を潜めていたラスプーチンへ状況を報告に来ていたものかと、ようやく皆が気付いた時にはデビルが更に数を増していた。
 が、この後の対応をどうするかと迷わなかったのか、ルカだった。ラスプーチンが何か答えようとしたと見える時には、他のデビルに目もくれずに肉薄している。
「わざわざ解説をして差し上げようというのに」
「そうかい」
「いい態度ですね。ジーザス教徒が、強くなれるからと平然と東洋の神の道具を使って自らの神に恥じず、それでいて正義を口にする冒険者と我欲に走った私の間に何の差があるかと思いますが、貴女は違うようだ」
「ありがとよ!」
 すかさず武器を寄せて来たルカの手を掴み、力比べの状況になってラスプーチンは饒舌になった。ルカも短く返事はしているが、全力で刃を押している。
 その周辺ではラスプーチンを助けようとするデビル相手に、他の九人がそれぞれの持てる技で戦っていた。デビル側はラスプーチン以外の仲間の被害など頓着しない。そして、後から駆けつけてくるデビル達は事態をよく飲み込まぬままに、乱戦に加わってくる。
 なし崩し的に起きた乱戦に、そもラスプーチンとの遭遇を考慮していなかった冒険者達はいささか劣勢に置かれていた。撤退するか、それともラスプーチン討伐をまだ目指すか、その認識から噛みあっていない。
 もう一つ、半数を数えるハーフエルフだけを狙って、フォースコマンドを繰り返していると思しき二体のデビル・リリスが厄介だった。シオンには最初から雨宮が注意をしていたが、他の四人はそれに抵抗しても、生まれ持った狂化の危険が残っている。
 戦闘が続いたのは、半時間くらい。
 それが中断させられたのは、ルカとラスプーチンの力比べが前者の辛勝で一旦離れたから。ラスプーチンもたいした怪我ではなく、当然血は流れない。
「たった五人の相手ではね。どうぞ、撤退を」
 近日、改めてお相手させてもらいますと人を食った言い様の合間に、忠誠心か、それとも役立たずと断罪されるのを恐れてか、ラスプーチンの周囲にデビル・リリスがカオスフィールドを張る。ルカも別のフィールドに入れられて、飛び出したところを馬とハロルドに支えられている。
 そこに群がってくるデビルに、リリスがライトニングサンダーボルトを放った。レミエラの力で拡散したそれは、近付いたデビルを蹴散らす。それでも追いすがろうとするモノは、レイアが何か言ってやりたいが息が上がるのは困るといった様子で、打ち伏せる。
 セシリアはこの中でもコアギュレイトをラスプーチン目掛けて放ったが、警戒すらしていないのは、対策済みということだろう。アリスティドのスリープも、こちらは抵抗したのか効果がない。
 そうした中で、双海は敵の配置が変わっていることに気付いた。先程までは周囲を取り囲むようにしていたのが、今は後方が開いている。そこから逃げろと促されているようだ。
 これには雨宮とシオンも気付いて、どちらも半眼になったが‥‥上空から大きな影が落ちたのに視線を上げて、どちらかが舌打ちした。もしかすると、それは他の誰かだったかもしれないが。
 アクババも戦闘に加わりそうな様子に、ハロルドが牽制の魔法を放ち、後方から追いすがるデビルは皆それぞれに叩きのめして、勧められたのは業腹だが撤退する。
 デビルの追撃がなくなったところで、怪我と魔力の回復を行って、
「このまま帰るのは業腹だ」
 誰の意見だか、この一言でラスプーチンが向かっていた方向へと進路を取った。どこかで見付け出せれば、今度こそ討伐してやると考えてだが‥‥
 一度、デビル・リリスと遭遇して、フォースコマンドを乱発された煩わしさはすっきりと塵にして解消したものの、ラスプーチンを探し当てることは叶わなかったのである。