デスハートンの白い玉 〜ウィル発

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:3 G 98 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月16日〜08月23日

リプレイ公開日:2009年08月28日

●オープニング

 デスハートン。
 カオスの魔物が使う魔法で、主に主従の契約を望む者から魂を奪うのに使うものと言われる。
 また言葉巧みに人を騙し、その望みを叶えてやるとそそのかして、代わりに魂の一部を得るためにも使う。
 主従の契約を望む者は進んで魂を差し出すから、魔法を掛ければ必ず魂の一部が手に入る。
 けれども多くは魔物との契約など望まない。それで相手を騙して、魂を得ていく。または差し出すしかない状況に追い込んでいく。
 魔物の群れに村が襲われて命も危うい時に、『お前の家族の命を助けてやろうか』と言えば、多くの人はそれにすがってしまうだろう。ここで『助けてくれ』と言えば、魔物の側からは契約完了だ。
 そうやって集められたのだろう多くの魂が、地獄のゲヘナの丘で捧げ物とされて、消滅した。
 けれどもそうされるはずだった魂の一部は、ディーテ城砦から冒険者達によって奪還されたのである。

 この魂の一部がウィル王都に持ち込まれたのは、実は一月以上以前だった。
 以降、ジ・アースからやってきた聖職者を中心とする面々が、カオスの魔物の被害にあった土地に出向いて持ち主を探していたが、地道な作業で遅々として進まない。
 持ち主が見付かればよいが、その傍らには自分の魂が見付からずうな垂れる者もいて、双方がギクシャクしないように心配りしたり、今後の生活に有益な助言を与えたりするのはなかなか困難な仕事だ。けれども地獄に向かうには魔法の力量もなく、また戦うことを是としない聖職者達はこの作業に率先して携わっていたのだが‥‥
 そういう人々が多いだけに、今回の目的地に到達するのは相当困難であると冒険者ギルドに足を向けたのだった。

 目的地はウィルから馬車で二日ほど。馬車は依頼主側で用意するので、自前の馬などを持っていない冒険者でも構わない。
 ただ途中の森の中に巨大な蟻が群れをなして現われる様になっている。これがいるために、目的地の集落は半ば孤立している状態でもあり、魂の白い玉を持ち込めない障害でもあった。
 ラージアント。
 個々の戦闘力は経験豊富な冒険者には及びも付かない巨大昆虫だが、群れで襲撃してくるので普通の村人や聖職者達には十分な脅威となる。もともと目的地から谷一つ越えた先の森にいるのは近隣では有名だったが、数が増えたのか、森の環境が変わったのか、谷を越えて集落近くに陣取っているらしい。
 これを退治して、更に魂の持ち主がいないかどうかを探すのが依頼内容である。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec4600 ギエーリ・タンデ(31歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

ミーティア・サラト(ec5004

●リプレイ本文

 依頼人達が向かう集落への道を辿りつつ、途中でラージアントを退治して、目的地ではデスハートンの被害にあった人々への対応に当たる。これが依頼人達の思い描いていたおおまかな流れだったが、集まった人数と顔触れ、それから敵の特性などを考慮した冒険者達の考えは違っていた。
 ラージアントを退治する者は戦闘中心、デスハートン被害者への対応に当たる者は対人対応中心で、きっぱりと役割を分けたのだ。機動力や装備の都合、仮に移動中に敵に襲われた場合に依頼人達が足止めを食らう危険性など色々加味した結果だろう。
 そんな訳で、依頼人の聖職者達に同行するのはエリーシャ・メロウ(eb4333)とラマーデ・エムイ(ec1984)、ギエーリ・タンデ(ec4600)、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)の四名。ラージアント退治にはアシュレー・ウォルサム(ea0244)、オラース・カノーヴァ(ea3486)、ディアッカ・ディアボロス(ea5597)の三名が向かう。後者が三名のみだが、連れているのが精霊や戦闘馬にドラゴン、オラースとアシュレーもグリフォンを連れているとあれば、少人数でも心配はない。オラースのペガサスは特に頼りになると思われたようだ。
 ただ出掛けにアシュレーがペットのフォレストドラゴンを小屋に入れる際に機嫌を損ねたのか、足を尾で払われて痛い思いをしていたが、女性聖職者が蒼褪めたので細かい事情は省かれた。
 ともあれ、ラージアント退治へ向かう面々は道を確認して先に出発し、集落へ向かう人々は自分の愛馬か馬車に乗っての出発となった。

 馬車で集落を目指すのは、依頼人を含めて七名の男女だ。種族は人間とエルフが三人ずつ、シフールが一人。エリーシャとユラヴィカが馬で移動だから、馬車には五人のはずだが‥‥
「ほほぅ、それでは皆様は月道を潜ってあちらとこちらの世界で、各国を巡っていらっしゃるのですか? いやはや、その素晴らしいお志には実に頭が下がります」
 一人で五人分くらい喋るギエーリがいるので、非常に賑やかだ。一息に『ご助力は惜しみません!』と畳み掛けられて、依頼人達は呆然としている。エリーシャもラマーデも、地獄から回収された持ち主のいる国どころか世界すら判然としない魂を返そうと活動している聖職者達に頭が下がる思いだが、それを言う間もない。
 ただラマーデはギエーリの言動に慣れているので、途中からは彼の話に割って入り、今度は二人掛かりになった。ユラヴィカが、『落ち着いて話をするのじゃ』と声を掛けたが、聞こえていないだろう。
「聞いた話だと、地獄からいっぱい持ち帰ったんでしょ。これ以外の分もまた持ってきて調べるの? 大変よねー、精一杯手伝うからね」
 しばらくして、ようやく怒涛の語りに慣れた依頼人達が並べられた質問に答えてくれたところによれば、最初メイディアに運ばれた魂は持ち主のいた世界も分からないまま、ジーザス教を主とする聖職者達の手で各国に運ばれた。それからデビルやカオスの魔物の被害が出た地域に運ばれて、持ち主探しが行われている。魂も数が多いので、分散して各地に持ち込まれるから、一箇所には時期を置いて何度も訪ねることになっていた。気の遠くなる手間の掛かる作業ながら、携わる聖職者達は待つ人の方がよほど辛いのだからと苦にした様子はない。
 これに感激したギエーリとラマーデが、またしばらく質問攻めにしたので、エリーシャが質問出来たのは出発から大分経ってからだった。
「ご領主も集落の人もエルフですか。エルフの貴族はこのあたりではあまりいませんが」
 心当たりがないと目的地の情報を聞いたエリーシャが困惑を見せたが、まったくいないわけでもない。街一つ、村三つの小さな領地の貴族では、彼女が知っている貴族に仕える騎士家系かもしれなかった。集落は孤立しているものの、領主側でシフール伝令を派遣して聖職者と冒険者の来訪は告げてあるそうだから、怪しげな輩が来たと言われることはないだろう。
 それなら、作業の説明以外は余り労がなさそうだとエリーシャも安心して、ギエーリが聖職者達にねだりにねだった魂の持ち主探しの様子に耳を傾けていることが出来た。ちなみに、魂は可能な限り調べた後は、国毎に交換したりして新たに持ち主を探す事を繰り返す予定だが、携わる聖職者はその地域に居住、滞在している者なので、世界を股に掛けた話は聞けない。
 休憩の時にはユラヴィカが魂の探し方に魔法は有効かと、リヴィールポテンシャルの説明も交えて尋ねていた。ユラヴィカが提示した効果で同様のことを試した者がおらず、正確なところは分からない。ラマーデの精霊のサンレーザーは、尋ねる内容の絞込みをしているうちに魔力が切れた事例しか聞いておらず、リヴィールポテンシャルもその点が危惧されるとのことだった。
「最初だけ魔法を使って、後は出来ませんでは不公平感も増すしのう。魔力の消費を抑えると、効果もないし」
 その後は、いかにしたら住人の負担が少なく確認作業が出来るのかが、話題の中心になった。

 騎獣で先行した三人は、ラージアントが出没する地域に昼過ぎくらいには到着していた。全員が空を飛ぶ騎獣で、敵の探し方や退治方法などきちんとすりあわせが出来たとは言い難いが、幸いにして相手は巨大でも蟻。カオスの魔物が相手なら待ち伏せなどもありえたろうが、そういう危険の可能性は低い。
 アシュレーは上空からの追跡、ディアッカは持参した魚を撒き餌にしての誘き寄せ、オラースは所持した指輪の能力で、それぞれ巣の位置を特定してから全滅させることを考えていたが、目撃された地域も結構広くてなかなか姿を探せない。それで上空から見やすい場所に魚を置いて、拾いに現われるのを待つ持久戦になった。
「道具はあるんだよ。でもこれだと、ちょっと小さいかな」
 アシュレーが出したのは、掌に乗せられる大きさの箱だ。質のよい紙製にカラフルな彩色で天界・地球の品物だと分かるが、確かにラージアントには小さく思える。巣の近くでなければ、臭いが虫を引き付けるとしても効果が薄そうだ。
「臭いで虫を引きつけるなら、魚も少し刻んだほうがよかったですね」
 こういうものがあると説明されたディアッカは、丸のまま落とした魚が臭いを撒き散らしやすいように手を加えようと立ち上がりかけたが、そんなことなら自分が行くとオラースが向かった。一日回って、蟻一匹退治できなくて鬱屈が溜まっていたようだ。
 ちなみにこれは順調に後を追ってきて、蟻が出る地域の手前で野営のために合流した依頼人とその護衛の七名と、それぞれの成果を報告していた時のこと。野営ばかりは少人数では見張りも辛いので、エリーシャが出発前に合流しようと声を掛けていた。まとまっていれば、アシュレーがラマーデに貸してくれた虫が近付けない結界を作る蜂比礼を活用して、有利に攻撃をすることも出来る。
 だが、まだ陽精霊が空に残っているうちに、オラースが蟻の姿を見付けたと戻ってきて、結局巣の近くと安全そうな場所に分かれて野営することになった。蟻退治の三名は、巣の入口が見張れる場所に陣取って、翌早朝はラージアントが活動し始めるのと同時に退治に入る予定だ。依頼人を含む一同は、早いうちに集落を目指す。
「夜行性なら、今夜のうちに片付いたのにな」
 オラースは残念そうだが、なにしろ巣穴は地面の下に向けて掘られていて、アトランティス生まれのギエーリとラマーデがそれはもう賑やかに、エリーシャは理路整然と『夜に穴に潜るなんてとんでもない』と言い募り、彼らの常識の『カオス界に繋がる』かどうかは別にしても、暗く狭い場所で戦う不利は避けるに越したことはなく、別行動の選択となっている。
 オラースが所持していたフォースリングの効果がラージアントにもきちんと影響すれば、操って巣穴から引きずり出すことも可能だったろうが、あいにくと効果なし。アシュレーが内部の数を確かめようとしたものの、地中深くではブレスセンサーも効果が及ばず。ディアッカのサンワードで他に巣の入口がないかを確かめて、その時に日があたる場所にはないと返答を得、更に周囲を探しても同様だったので、依頼人達も多少は心配しながらも休んでいた。

 そして翌日、非常に早く野営を切り上げた馬車の一団は夕方前に目的の集落に到着できた。依頼人の最年長者とエリーシャとが、まずは村長なりの代表者へ挨拶に向かい、他の五人は荷解きをしつつ、顔を出した村人に笑顔で声を掛けている。
 実際の作業は明日からになるが、まずは村長などの主だった人々に何をするのか理解してもらい、皆への説明の際に口添えしてもらえるとありがたい。そうしたことを交えてお願いすることも目的の挨拶だったが、
「おお、この娘さんは存じておるぞ」
 エリーシャが以前に『村を作って』と言われた別の依頼で依頼人だったエルフの貴族がいた。聞けば、領主の父親で先代領主だという。人なら五十代半ばに見えるが、早々に引退を決め込みつつ、最近は領内の村を定期的に回っていたらしい。足止めされて大変だったと苦労話が長くなりそうなのは適当に切り上げてもらい、顔を知っていたよしみで挨拶は手短に済ませて、村の様子を尋ねる。
「この村が襲われたのは‥‥ちょうど一年位前か。死人は出なかったが、家畜が大分やられてな。今いるのは、領主からの預かりものってことになっておる。おかげで依頼を出す金がなくなってのう」
 すぐに横道にそれるが、村人も先代が知っている人達ならと安心したし、依頼人の的確な説明で明日の朝に必要なものを貸してもらえることになった。ついでにラマーデとギエーリ、聖職者の一人がエルフで、親近感もわいたらしい。ユラヴィカが占い師、ギエーリが詩人だと名乗ったので、何か旅芸人が来たかのような期待感まで。
 なんにしても、翌朝には皆に集まってもらうことになると告げて、今夜は村の中で休むことになる。

 同じ日、午前中。
「手ごたえがねえ!」
「この数だから、あんまりあってもねー」
「目に来ますね」
 オラースとアシュレー、ディアッカの三人は、ラージアントを突いて、射て、礫を投げ、魔法も交えて攻撃していた。夜明けの気配と共に出てきた一匹を退治したところ、その臭いか音で次々と巨大蟻が這い出してきたのだ。一匹ずつだと三人共にたいした敵ではないし、うっかりと後方に逃してもグリフォンやムーンドラゴンが始末してくれる。たまにエシュロンやペガサスも。
 そんなわけだから、速やかに退治できるかと思いきや、オラースが吼えたように手ごたえがないのにわらわらと巣から這い出してくるのだ。三人と騎獣、精霊で四十体くらいを潰して、酸味の強い臭いでいい加減鼻が利かなくなってきた頃になっても、まだ出て来る。ガイチュウホイホイを使う必要もなく、出てきた順から潰して回った。
「この辺に川はあったかな。これは念入りに洗わないと」
「流石に蟻潰しも終わりか」
 それが一区切りついて、弓を使うアシュレー本人は綺麗なものだがグリフォンがかなり汚れていて、そちらの世話に気を向ける余裕が出来ている。オラースも技量の振るい甲斐がない相手に、いい加減にうんざりしている様子。
 ただし中には女王蟻が残っているかも知れず、少なくとも蛹と幼虫はいるはずだとディアッカはエシュロンに燻し出すように指示をしている。
「これで他所から煙が上がったら、類焼を防ぐのに確認に行かねばなりませんので」
 幸いにディアッカの懸念は現実のものにならなかったが、確認のために飛び回ることにはなった。それで疲れるほどの腕前ではないのだが、這い出てきた一際大きなラージアントを潰すのにしばし掛かり、一番時間が掛かったのは浴びた体液を洗うことだった。

 この間に集落では五百個の白い玉を籠に二十個ずつ小分けして、五人から七人程度に分かれた被害者達に一籠ずつ確かめてもらう作業を進めていた。集団ごとに色を決めて、確認が済んだ籠にはその色の糸を結んでおく。二度手間にならないように配慮しつつ、籠を持って回るのは住人にお任せだ。聖職者とラマーデ、エリーシャは被害者のところを回って、話を聞き、他にも回収された白い玉があって順次持ち込まれる機会があることを丁寧に説明して、面倒でなかなか進まない作業に気落ちしないようにと励ましている。
 ギエーリは普通ではない状態に浮き足立っている人々相手に、地獄の親玉を封印した話や魂が奪還されていきさつなどをかなり誇張して、面白おかしく語り聞かせている。生真面目に事実をそのまま語っても不安になっている人には逆効果だし、そもそも彼は賑やかしが好きだ。そのせいで非日常が祭りのような方向性に流れて、最初は被害者の相談や頼まれ事を受け付けていたユラヴィカは、すっかり恋占いに失せもの探しなどの通常営業状態になっている。
 一日掛けて、作業の進み具合は半分くらい。魂が見付かったのは一人だけだが、最年少の子供で体力のなさも際立っていたから、集落の人々はまだ見付からない人も含めて安堵していた。

 翌日も引き続き作業を進めていたが、騎獣の都合で集落の外れに陣取ったラージアント退治の三人からおおむね退治の報告があり、集落の男性陣の大半が彼らと一緒に巣穴に向かった。
「なんとも地道な作業だねぇ」
 やることは、巣穴の火攻め。蛹や幼虫を燻り殺すのに、中に大量の木の枝を放り込み、エシュロンに火を付けて貰う。それで時々枝を足して、一日掛けて燃やし続けた。付き合うほうは大変だが、退治依頼ゆえに同行している。
 集落では前日と変わらぬ作業が続き、それ以外の人々は流石に普段の仕事に戻って、魂が見付かった人が五人。
「また依頼があったら、受けるからねー。ちょっと待っててねー」
「ウィルの教会からも時々書簡で様子をお知らせすれば、こちらの安心なのではありませんか」
「ここ、普段は文字の読める者がおらんのじゃ」
 ラマーデは本業が休める時は、次に依頼があっても来るからと約束して回り、エリーシャは今後の相談を依頼人と先代と行っている。魂が見付からなかった人達も、それを見て幾らか元気付けられているようだ。ユラヴィカはまだ占いをさせられていて、現在の流行は幸運が向く方法。魂が見付からなくても、運良く暮らせれば苦労とは思わないということだろうか。
 戦闘担当の三人は、交代で集落で休んだり、騎獣の番をしたり。物珍しいので遠目に眺めに来る人は多いのだが、家畜は気配がすると騒ぐので集落の中には入れない。休む分には問題ないので、三人でうまい具合に分担していた。
 そうして帰り道。行きとは違って、とても静かな馬車の中で
「‥‥‥」
「ギエーリ、平気?」
 時間を忘れて喋りすぎ、夜に喉を冷やしたギエーリが、黙っているのが我慢できないような顔で座っていた。