ハロウィン〜天界の祭りを迎えるために

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月29日〜11月03日

リプレイ公開日:2009年11月09日

●オープニング

「はろうぃんっつー祭りを知っておるかね?」
 メイディアの冒険者ギルドで受付に尋ねてきたのは、ドワーフのご老人だった。
「天界の一部で盛んな祭りで、ここ数年は冒険者の間でも大分広まっています。その日は魔物がうろつくので、連れ去られないように普段と違う格好をして、火を焚いて用心する日だとか。それが転じて、お祭り騒ぎをする習慣になったところもあるようですね」
「なんだか、特別なランタンを使うというのは本当かね?」
「かぶをくりぬいて中に蝋燭を入れたり、天界には祭り専用の色々なランタンが出回るとは聞きました」
 こんな会話があったのは、実は一月近く前のこと。

 そんな事があったのも、冒険者ギルドでは忘れられて久しい十月下旬。訪ねてきたのはいつぞやのご老人と金属鍛冶師や彫金師などのギルドの人々だった。
 持参したのは、なんだかランタンらしからぬランタン。
「これは‥‥綺麗だけど、外歩きに使うのはどうなんだろ?」
 珍しい物好きのギルドマスターがしゃしゃり出てきて、そのランタンをひねくり回しているが、確かに普通の灯りとしてより装飾品の趣が強い代物だ。灯火の周りの金属覆いが妖精や城、どこかの景色など、見た目麗しい代物を象って作られている。
 その分、周囲の照らし振りにむらがあって、外歩きには向かないかもしれないが、職人の技術がこめられた見目良いランタンであることは間違いがない。
「あぁ、そうか。屋内用だね。これに灯を入れたら、周囲にこの綺麗な模様の影が映って、宴に華を添えるだろう」
「冒険者の皆さんが使うランタンよりは、多少照らす範囲が狭いかもしれませんが、十分外でも使えますよ。とは申せ、実際の用途はやはり室内や屋外でも庭などを考えて作ったものですが」
 このランタン、実際はメイディアの職人達が作ったものではなく、ウィルのある小領地からの売り込み品だ。たまたまあちらに行っていた月道商人が、物珍しいので手に入れてきた天界人作成のランタンである。
「天界人が作ったランタンですか」
「正しくは最初の一つを天界人の知識と技術で作り上げ、そこの領地で大量生産しているようだよ。夜会好きのお貴族、お金持ちに案外と好評でね」
「そうだろうねぇ。これ、多分寝室に置いたらとっても艶っぽい雰囲気になるよ。いくら?」
 すっかり自分も買うつもりのギルドマスターはとりあえず奥に追いやって、用件をきちんと質してみると、要は売り子兼配達だった。
 問題のランタンは今年の販売分はウィルから輸入し、来年以降の作成はメイディアの鍛冶師や彫金師ギルドで行えるように先方と話し合いがついている。相応の対価を支払ったので、普通のランタンより高いが注文も順調に増えて、ハロウィン祭りの月末までに注文主に届けるのが間に合わない恐れが出てきたのだ。
 冒険者にはその配達と、買主に対してハロウィン祭りの説明をしてもらいたいという依頼だった。

●今回の参加者

 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec7059 カリナ・フリナ(23歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

 天界の祭りハロウィンに使われる意匠を元にしたものだというランタンは、なかなか見栄えのよい品物だった。照明道具のランタンとしてはやや明るさのむらが気になるが、飾り物として屋内で使うには悪くない代物だろう。特に天界地球の出身である布津香哉(eb8378)には馴染みのある模様が、随所に象られていた。
「見たこともない物をここまできちんと作るのは、相当難しいよな」
 似たようなことはゴーレム工房で度々体験している布津の感嘆に、職人達は自分達の苦労と技術を理解してくれたと好意的だ。ついでに苦労話を始めようとしたが、さすがに時間がなくなるので遠慮する。
 だがその見栄えにすっかりと惚れ込んだ様子のシャクティ・シッダールタ(ea5989)が説明を求めて、しばしのハロウィン談義が始まってしまった。まあその間に配達の割り振りを決めてしまえばいいので、それはそれで職人の相手をしてもらうことにする。布津が耳に入れただけでも、かなり正確にハロウィンの習慣が伝わっていて、ウィルに来落した地球人がどこの出身か分からないまでもたいしたものだと感心したくらいだ。
 そうした説明をやはり小耳に挟む形で聞いていたキース・レッド(ea3475)が、
「天界では、世界中で祝う祭りかと思っていたが違うようだね」
「祭りをする地域では賑やかにやる。そうでなければ、まったく無関心だ。天界というなら、地球でなくともそうだろう」
 人によって色々話すことが違うが、大本は一緒で、地域性の強い祭りなのかと問い掛けてきたので、布津はごく基本的なことを答えた。アトランティスは国が違っても大体同じ時期に同じ祭りを行うが、細かい内容はやはりそこここで違う。それとたいして変わらない。
「ジャパンのお盆みたいなお祭りですねぇ」
「それは仏教関係者が聞いたら、きっと怒る」
 美芳野ひなた(ea1856)の感想は布津の同意を得られなかったが、熱心に職人の話を聞いていたシャクティが『ああ違いますのね』となにやら納得していた。ジ・アースの仏教徒からすると、『死者の魂と悪霊が一緒の日に横行する』のはなかなか微妙なことだったのだろう。ついでに他の宗教に関係する仕事というのも、気になったかもしれない。
 ただ、そうした宗教的なことは大分取っ払って、
「思い思いの仮装をして、死者を悼む日ですよね。楽しい思い出を思い返すにふさわしいランタンですわ」
 と言うのはいいが、サンタクロースを思わせる衣装はどうかと布津は思わなくもない。
 職人達の苦労話が一区切り着いた後は、依頼人代表から『期日に遅れないこと、怪我をしないこと、人に迷惑をかけないこと』を注意されて、四人は仕事に勤しむことになった。『怪我をしないように』とは、最も遠方に出掛けるキースに向けられた言葉だったろう。
 そのもっとも遠い配達先に向かうキースが、道すがらのもう一軒と共に二軒。
 後はメイディアかその近郊なので、地区別に分けて、順次残りの三人が分担して配達することになっている。

 配達は、人数の都合もあって地道で孤独な作業だった。
 愛馬ハリケーンにまたがったキースは、配達先二軒分、四つのランタンを荷物にして街道をやや急いで進んでいた。歩いて徒歩二日ということは、馬で走れば一日足らず。流石に届け物に傷でも付いたらいけないから、やや急いで一日弱というところだ。
 日程には並足でも十分に余裕があるが、急ぐのにはもちろん訳がある。明るいうちに先方に到着して、日が暮れる前にランタンの意匠とハロウィンについての何点かを説明してから辞するとなると、やはりそれなりの時間を見越しておかなければならないからだ。契約時におおよその配達日は伝えてあるが、日時を確約しての訪問でなければ、届けるほうがそのくらいの配慮をするのは当然のことと彼は考えていた。
 もちろんいつもの服装も改めて、きちんと礼装に身を包み、愛馬の毛並みも入念に梳ってから出てきたが、流石に十月も末になると吹く風も冷たい。街道移動で休む場所には困らなかったが、訪問先に行く前に一度身なりは確認したほうがよかろうなどと思いつつ、まったく何事もなく目的地まで到着した。
「こう何事もないのも珍しいな」
 そんな感想と共に、自分の身なりと愛馬の見た目を確かめたキースは、配達先の門を叩いた。
 そして。
「なんと、あなたも天界人なのですか。我が家に天界人をお迎えしたのは初めてですよ。これはぜひ、明日は友人達にも武勇伝などお聞かせいただかねば」
 依頼人からの説明と、今までに他の者から伝え聞いたハロウィンの祭りについて説明している間、『天界人から聞いた話』と断っていたキースが、話が一区切り付いたところで自分もジ・アースから来たのだと口にして、訪問先の主人に両手を握りしめられた。隣では奥方が、その周りでは子供達がきらきらと目を輝かせている。
「だが、僕はもう一軒寄らねばならないところがあるのだが」
「そうですか、そうですか。でももう今日は暗くなりましたし、泊まって頂いて、明日は行く先に間に合うようにゆっくり出発してください」
 馬がいれば大抵のところはすぐでしょうと、もっともらしいことをごり押しで言われ‥‥キースは明日早々に立ち去るためには、今のうちに色々話をしないと駄目なようだと察した。すでに子供達は彼の両脇に移動してきて、話をせがんでいるし。
 そんな考えが甘かったことは、翌日の昼頃には嫌でも十二分に理解させられる羽目になるのだが。

 かたやメイディアの街の中。
「怪我も事件もないようにお願いしますよ」
 依頼人達に念押しされたのはひなたと布津だった。二人とも困惑と反省しきりで、とことこと配達に向かっている。
 どちらも依頼を早く済ませようと、ひなたは疾走の術を、布津はフライングブルームを使っての配達を試みたのだが、色々芳しくなかったのだ。ひなたは往来で何人かとぶつかり、布津は珍しいものを見付けて追いかけた来た子供達が転んだり、これまた人にぶつかったりする騒ぎになっていた。特にひなたは本人が避けても、高速で迫ってくるものに驚いて転倒したお年寄りなどもいるから、避けていけばいいというものではない。
「もうちょっと人が少なかったら、よかったと思うのですが」
 終わり間際とはいえ収穫祭の時期でもあり、市場や商店などではいつもより商品と人の出入りがあり、それを当て込んで移動してきた芸事を披露して稼ぐ人々も多い。その中を縫うように金物を提げて移動すると、何かに当たって傷でも付きかねない。それもあって依頼人が渋面を作る羽目になったが、普通に抱えて、普通に早足で移動しても、道順をきちんと考えておけば一日四軒は軽く回れる。
 故に、普通に歩いて回っていたひなただが、
「亡くなった方は精霊界に行きますよね。天界では、ハロウィンの日だけ死者の国とこちらを繋ぐ門が開くと言われているのですよ。それで、その門を通って魔物も来ると信じられているようで」
「魔物は精霊界にはいけないだろう。カオスの世界に行くはずだよ」
「え〜〜とですね、天界ではその両方の扉が開くような日だと信じられているみたいです」
「天界も怖いことがあるもんだねえ」
 説明しているうちに、話題が妙な方向に流れていくこと度々。そもそも『死んだら精霊界に行く』と信じられているが、現世に思いを残して留まる死霊もほぼいなければ、転生の概念もないアトランティスの人々には『お盆』が分からない。そこを起点に説明されても、なんだか難しすぎる話になってしまうのだ。
「でもこのランタンは魔除けのランタンなんですよ」
「火を灯しておくと魔物が近付かないならいいねぇ」
 火霊祭のようだと、その点はどこの家でも納得してもらったが‥‥すっきりしきれないひなたがいた。

 そうして微妙に悩んでいるひなたとは対照的に、シャクティは明るい気分で大量のランタンを一度に包んで、配達に勤しんでいた。行く先々で飲食の振る舞いを受けるから、他に休憩も必要なく、一部は信仰で食べられないものがあるのを詫びるのが一番の苦労だ。後は役に立つと思ったセブンリーグブーツが、近距離細切れの配達では、十全の効果を発揮できていないのが残念だが、まあ消耗するほど遠い配達先もないので困ることはない。
 なにより、久方振りにこれまた天界の祭りのクリスマスに欠かせないらしいサンタ衣装で配達に繰り出しているから、楽しくて仕方がないのだ。迎えた側も最初は驚くが、天界の衣装だといえば大抵喜んでくれた。天界の祭りのランタンなど買う家は珍しいものが好きなのだろう。中にはどういう仕立てか見てみたいと、馴染みのお針子を呼び寄せる家まであって、彼女も分かる限りのことは教えてあげる。
 ただし。
「わたくしの生まれた世界のジーザス教のような宗教の儀礼が元らしいですわ。死者の弔いらしいですが、えーとこすぷれと言って、妖邪どもの姿を真似るらしいのです」
「天界で、どうして弔いと魔物が繋がるのだろう?」
「今は魔物の装いも廃れて、普段着る事のない煌びやかな衣装も良いらしいですわ」
「ああ、それでその衣装なのねぇ」
 説明に質問が入っても、勢いで流して、自分が一番楽しいと思っていることを説明している。聞くほうも難しい話よりは面白おかしい話が聞きたいから、特別問題にはなっていなかった。
「冒険者ギルドのギルドマスターも寝室に置いたら素敵だと言っていたそうですのよ。この邪抗ランタン」
 うふふふと含み笑いつきで説明されると、笑い返してくるご夫婦や困ったような顔をする人と様々だが、まあ邪なものを近付けないと言う点はどこでも喜ばれたようだ。

 かと思えば、歩いての配達に切り替えた布津は、三日目に配達地域最大の難問に立ち向かっていた。依頼人見地の難問は、届け先が非常に厳しい身分確認を必要とする場所だということ。ただ布津にとっては仕事先なのでその点は問題ないが、
「なんとなく、いると思ったんだ」
「配達のアルバイト? あんた、普段の仕事を冒険者ギルドから工房勤めに変更したら? なんか他に仕事してたっけ?」
 予想では訪ねる配達先のパーティーにでも混じっているのではないかと予想していた先輩ゴーレムニスト・エリカが、ランタン七つの大口注文先だった。ここが最後で、メイディア担当の他の二人は先に仕事を終えているはずだが、もう一人がまだ帰ってこない。ここで布津まで長時間掴まると、いつまで経っても仕事が終わらないので警戒するも、エリカはランタンの出来を見て満足したようだ。お茶でも飲めとは、彼女にしては破格の申し出である。淹れてくれるのは別人だが。
「ハロウィンの説明は必要か?」
「地球の一部でやる祭りでしょ。墓参りと、子供が菓子強盗するのと、大人が仮装大会するパターンがあるのよね」
「菓子強盗‥‥」
 仕事中のはずだが長椅子の上に優雅に身体を伸ばして、ランタンを一つずつ検分しているエリカの言うことは、ものの見方が変だがものすごく間違っているわけではない。でも頷きがたいものを感じるのは、相手が相手だからだろう。
「そんなに頼んで、どうするんだ?」
「工房内に飾るのよ。火霊祭に使えるじゃないの」
 たまには皆が楽しめることも手配しなきゃ、いざという時に無理が通せないわよとごく当然のように言われて、自分はそういう道には進むまいと布津が思ったかどうか。でも『きっと愛人に買わせているだろうな』的なことを考えていたのは、ちょっと反省したのだが。
「あたしの分は、欲しいって言ったら男どもが幾つも買ってくれたもの」
 この台詞を聞いて、反省しなくても良かったと切実に思い直したのだった。
 郊外への配達も含めて十軒近く、一番疲れる配達を終えて報告に戻った布津は、でもメイディア担当の他の二人同様に自分もランタンを貰って、機嫌を上向かせたのだった。

 ところで。
「遅かったなぁ」
「心配致しましたわよ」
「なんだかお疲れですね」
 五日目。キースは、流石に探しに行こうかと他の三人と依頼人達が色々準備を整えていた時になって、ようやく戻ってきた。
「天界には魔物がいないそうだが‥‥人も時には魔物より怖いな」
 ひなたとシャクティがよほど疲れているのだと心配した発言の理由はキースの口から語られることはなかったが‥‥勘のいい者は大体察した。
 礼服に染み付いた香水の匂いからして、届け先のどちらかでご婦人に言い寄られて、その手練手管を逃れるのに苦労したのだろう。誘いに乗るような者だと、しれっと何事もなかったように帰って来て、あんなことは零さないからだ。
「ま、ランタンも貰ったし、後は帰って休めばいいな」
 ひなたは皆に料理でも振る舞いたいところだったが、布津の声掛けにそそくさと帰りたそうなシャクティと、まったくその通りと頷いたキースをわざわざ引きとめることはしなかった。
 まずはランタンの使い心地を試しながら帰るのが、今はきっと一番だろう。