デスハートンの白い玉 〜修道院襲撃

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月05日〜09月12日

リプレイ公開日:2009年09月17日

●オープニング

 現場は、キエフから少し離れた修道院だった。
 都市部から離れているとはいえ、街道沿いにあるために建物も大きく、そこにいる聖職者は神聖騎士も含めてかなりの人数であるそこが襲撃されたのは、深夜のことだった。
 ほとんどがデビルの襲撃者達の目的は、教会の礼拝堂に保管されていたデスハートンの白い玉が入った箱。あの地獄の地で発見され、各所に運ばれてきた魂の白い玉は、聖職者達の地道な活動で持ち主探しが進められている。その魂を奪い返そうと、デビルが襲撃してきたわけだ。
 この魂が納められた箱が運び込まれてから、神聖騎士を中心に警備の者を増やしていたのと、元々聖職者への魔法修行も行う場であったことから、デビル達は目的を果たさずじまいで撤退した。だが修道院の人々も相当の負傷者を出し、死者を出さずに済んだのはかろうじてといったところ。
 そんな事件があったため、魂の持ち主探しは一旦停止されている。襲撃を目論んだ者を捕らえるか退治して、道中と目的地での安全を確保しなくてはならないからだ。

 襲撃を行ったデビルの追跡は、キエフ公国の騎士団、兵団が担っている。
 修道院には各所から神聖騎士やクレリックが集まっているが、人手は十分とは言えない。
 よって、冒険者ギルドにも依頼の形で応援の要請が行われたのである。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea2181 ディアルト・ヘレス(31歳・♂・テンプルナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea7465 シャルロット・スパイラル(34歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec5023 ヴィタリー・チャイカ(36歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

エスリン・マッカレル(ea9669)/ ジルベール・ダリエ(ec5609

●リプレイ本文

 件の修道院に到着したのは、冒険者が五人。女性はフランシア・ド・フルール(ea3047)のみだが、ディアルト・ヘレス(ea2181)はジーザス教白派のテンプルナイトだ。他にウィザードのシャルロット・スパイラル(ea7465)、ナイトだが精霊魔法を使うデュラン・ハイアット(ea0042)、フランシアと同じ黒派のクレリックのヴィタリー・チャイカ(ec5023)で合計五人。最初は六人のはずだったが、何か行き違いがあったようでこの人数になってしまった。初日だけヴィタリーの友人、ジルベール・ダリエが同行しているが、こちらは戦闘より建築物の修繕などを検討しているようだ。
 事態を考えると人数は幾らいても良かったが、幸いにして集まった五人の実力は依頼を果たすのに不足はない。修道院長や警備責任者との顔合わせでは、ヴィタリーとフランシアが冒険者側の技能や検討した作戦を的確に説明して、話は滞りなく進んだ。彼らの経験からくる助言、作戦が的確なこともあったろうし、宗派こそ違うがディアルトが警備に役立ててもらおうと石の中の蝶を複数準備して来ており、シャルロットがイフリーテの存在を告げて、有事の際に呼び出す許可をわざわざ求めたことなども相まって、信頼感が生まれたのだろう。普段は『この有能にして有名な私が』とでも言い出しそうなデュランが、珍しくおとなしかったのもよかったかもしれない。
 そうして、修道院の正門と裏口の扉は打ち付けると危急の際の脱出路がなくなるので、閂を強化する事になり、修道院の各所にフランシアが提案したデビルの透明化対策の色水が作って置かれた。修道院内外の出入りの際には、ヴィタリーが持ち込んだ聖遺物箱に触れて祈りを捧げることも決められている。
 更なる注意点としては、デビルの魅了による内通者の存在への警戒もあるが、こればかりはただ見たところで分かるものではない。だが元から修道院にいれば普段の様子が分かっているので不審な点の発見は早いし、応援でやって来た者も四、五人以上の集団で派遣されている。そちらも全員が‥‥ということがなければ、やはり仲間に見付かるだろう。
「なんだ、かえって私達のほうが怪しいかもしれないな」
 デュランの言うことがもっともだとしても、修道院長と警備責任者はそれを口と表情には出さなかった。
「いずれにせよ、礼拝堂の出入りもホーリーフィールドを張って備えればいいことです」
「この水晶球も置いて、発動は皆さんにもお願い出来れば、より安心だろ」
 フランシアとヴィタリーに切り返されて、デュランも石の中の蝶を示している。シャルロットはディアルトから石の中の蝶を借りて、羽ばたきがないことを確かめていた。
 後は実際の警備に当たっている人々と顔合わせをして、警備の順番などを決めることになるだろう。

 冒険者の警備場所は礼拝堂やその周辺が主となったが、一日中そこに張り付くことはない。場所にもよるが三交代か四交代だ。それ以外は修道院の時課に従って生活している者が多いが、合間にそれぞれが気になるところを確認していることも多い。例えばフランシアは食料庫や井戸を、シャルロットは書庫の周り、デュランは人が多いところ、ヴィタリーはフライングブルームで上空から建物を、ディアルトは礼拝堂の造りなど。
「私はノルマンの生まれなので、こちらの建物の造りは色々と珍しいことが多いのですよ」
 礼拝堂警備の人々から、熱心だねと声を掛けられたディアルトはそう答えて、警備の心配をしているわけではないことを示している。襲撃してくるなら夜間だろうとの思いもあるので、まずは礼拝堂の細かい造りを記憶するところから。
 シャルロットは書庫の周りで、防火用に整えられた水桶の位置を確かめている。実際に消火の必要が出たら彼は魔法で行うが、水桶に被害を出すわけには行かないし、なにより書庫に不要な被害を出したら後が大変だ。
「リオートにも、それはよく言っておかないと駄目だな」
 人とは感性が違うイフリーテに教えることを一つ追加して、不審なことがないかも確かめている。
 そんなことをしていると、冒険者の五人が顔を合わせる機会は案外と少ない。ばらばらに配置されているから、意識して情報交換をしないとならなかった。もちろん同じ場所・時間の担当の人々とは、もっと綿密な打ち合わせを行っている。
 幸いなことに修行の場である修道院に一般の来訪者はおらず、人の出入りに神経質になる必要はない。代わりに、シャルロットとヴィタリーが非常に残念に思ったことに、修道院の壁の外に少しある葡萄園や畑の世話は放置されてしまっている。
「書庫も写字室もある場所に襲撃とは、まったくデビルのやることは愚かしい」
「造りはしっかりしているはずなので、多少の火で燃え上がることはないと思います。ただ窓が広いので、今は内側にもう一枚板を打ちつけてありますが」
 魔法は使えないが、元々この修道院で写字生を務めている少年達がよくシャルロットの話し相手になっていた。これだけの人数がいれば、生活の諸事を世話してくれる者がいたほうが警戒に専念できるので、希望者だけが居残っているらしい。聖職者ではないシャルロットやディランの高飛車、倣岸不遜な態度も物珍しいと思うようだが反発せず、色々情報をくれるのがありがたい。
 建物の見取り図や、移動の際の注意なども細かく教えてもらい、後程他の四人にも教えることにした。どこそこの回廊は石畳が磨り減って、走ると危ないといったことは、心に留めておいたほうがいいだろう。
 ちなみにヴィタリーは、ものの弾みで畑の話を持ち出したら、修道院長にここの歴史をしばらく語り聞かされていた。最初は建物も一つだったのが、徐々に人が増え、役割も増していく内に中にあった畑が塀の外になって、今回は仕方なく放置するような次第になっている‥‥ところに辿り着くのに、フライングブルームを使えばキエフと二往復出来るくらいの時間が掛かったが、やはり内部の案内をしてもらえたので警備で見落としがないかどうかは確認が出来た。
「昨日来てくださったご友人が、あちこち塞いでくれたので助かりましたよ」
「ネズミが多いのなら、注意をしておかないといけませんが」
 流石に相手が目上では言葉遣いも改めたヴィタリーだが、皆まで言わずともデビルの変身能力についても周知はされている。後は万が一に実際に入り込まれた際に、すぐに見付けられるかどうかだ。透明化は常に傍らに控えている忍犬に異変を察知したら知らせるよう指示してあるが、犬の嗅覚や石の中の蝶を持っている人や魔法で感知が出来る者にだけ頼っていては見付かるものも見付からないだろう。
 あちこちに準備されている色水を覗いていたヴィタリーは、あることに気付いてあらまと声を上げた。
 同じことに早々に気付いたのは、提案者のフランシアだ。
「染料が重いのでしょう。定期的に混ぜなくてはいけません。手間が増えますが、怠りないように、皆様にお知らせ願います」
「手間を厭うなどありえませんわ」
 修道院にあった染料が水と混ざりにくいものだったようで、気が付くと色水を入れた桶に色のない上澄みが浮いている。フランシアが連れているフェアリーのヨハネスが、棒を突っ込んで回しているが、たいして混ざっている様子はない。各所の見張りが時折混ぜることも仕事に入れてもらわないと、いざという時に使えない。頼まれた女性も、笑顔で請け負って早足に警備責任者のところに向かってくれた。
 そんな手間など手間のうちに入らない人々は、新しく増えた仕事に嫌な顔などしなかった。各所の見張りの交代や担当時間の中間に、よく桶の中身を混ぜておくだけのことだ。時間の区切りを確かめるのにいいと思う者が多かったようだ。
 だが。
「なにゆえ私がこのような‥‥いや、今回は久し振りに真面目に仕事をだな」
「きちんと休みを取らぬから、こんなことでも面倒に感じてしまうのではないか」
 デュランが非常に物憂げに桶をかき混ぜていたところ、警備責任者にさらりと言われてしまった。他の者だったらもっと怒られそうだったが、どうやらこの御仁はデュランが担当の礼拝堂以外の警備の者にも声を掛けて様子を確かめ、顔と名前を一致させているのを知っているようだ。それで休養が足りなくなっているとは思わないが、まあ気遣ってくれるのを嫌がるほど、愚かなわけではない。
 でも、決めてあった通りに合言葉を確かめる辺り、素直な性格でもない。そして、見た目で相手を判断するだけで足りると思うほど、生易しい戦いをしてきたわけでもなかった。
 デビルとの苛烈な戦いという点では、他の四人にもそれぞれの経験があるが、テンプルナイトのディアルトは夜間の警戒を怠りなく務めていた。自身には就眠前にボウの魔法、他の者には時間と魔力が許せばレジストデビルを付与したりと、対デビルの戦いへの準備も怠りない。
「回廊の灯りも少し増やしたほうがいいだろう。明るさに差があると、目が慣れるまでの間に攻撃される」
「足付きの燭台を増やすと移動の妨げになりますから、吊り燭台を用意しますかな」
 払暁の頃、灯りの置き場所を相談していた時。
 異変を知らせる鐘の音が、修道院内に響き渡った。

 デビルの襲撃は夜ではないか。そういう気分はかなり多くの者が持っていて、時間としては少し気が緩んでくる頃合だった。
 けれども実際に襲撃があった時間は、修道院ならどこでも全員がすでに目覚めている時間で、つまりは全員がすぐに緊急事態に対処できる状況だった。
 礼拝堂の中にいたのは、フランシアとヴィタリー、それとクレリックと神聖騎士が一人ずつで計四人。異変の際にはすぐに応援が来る手筈だが、それまでの三分から五分はこの四人で礼拝堂というより魂の白い玉が入った木箱を守らねばならなかった。
「北の方角から来ているようですね」
 ホーリーフィールドを詠唱して張り終えたフランシアが、笛の音がする方向を聞き、襲撃の方向を確かめた。ヴィタリーも耳を澄ませて、まだ他の方角からは音が聞こえない。
 仮に四方から包囲されても、彼らはここを動くことはないが、応援が来ないことも考慮する必要が出てくる。ヴィタリーも、他の二人も場所を移してホーリーフィールドを張り巡らせていた。周辺を囲むことで、近付かせないのが主目的だ。状況により、四人で交互に結界を張れば、半日くらいは篭城出来なくもない。
 そろそろ、外からは戦闘によるのだろう雑多な音が響いてきたが‥‥礼拝堂の中は沈黙が支配していた。立つ音は、彼ら自身が白光の水晶球の反応有無を外に知らせるための鐘の音のみだ。

 修道院を巡る壁を掠めるように、稲光が空を目掛けて走った。
最初に修道院に近付いてきたのは、空を飛べるデビルの群れだが、こうしたときに多いインプの姿はあまりなかった。多いのはふいごを持ったグザファンで、当然四方八方に炎を振りまいて寄り来る人々へ攻撃をする。
 他にネルガルとグリムリンがいるが、こちらは姿を消せるので正確な数は分からない。とはいえ、感知魔法で『いるようだ』となれば、遠慮なしにデュランがストームを打ち込んでくれるから、その衝撃で姿を見せたり、気配を感じさせたものを追い詰めることも出来る。
「こう空を飛ぶ連中は、人を見下ろしてくるのが気に入らんな」
 自分の普段の態度にはまったく頓着せず、デュランはライトニングサンダーボルトとストームを使い分けてデビルの集団を攻撃する。こう規模が大きい集団戦では、よく兵士の装備がデビルに効果があるのかと気にしなければならないが、場所柄そうした心配は無用。挙げ句に、相手は火攻めを計画していたのだろうが、
「貴様らの計画は、防いでくれるリオート達がいるからな。まあ無駄だと思うぞ」
 デュランは周囲が『あまりにも誉められない態度だが、囮のつもりかもしれない』と迷う程に自信満々で、目に付いたデビルを片端から地上に突き落とすべく魔法の猛威を振るっていた。
 ちなみにリオートとは、シャルロットが連れているイフリーテの名前だ。本来はシャルロットの名前を呼ぶほうが当然だが、まあ当人達には聞こえていないので揉め事にはならないだろう。
「本当に火消しが役目になったな。ま、消火の心配はしなくてよい」
 グザファンには、火の魔法は効果がない。ネルガルとグリムリンには相応の効果が見込めるが、こちらは姿を消して動くので魔法が使いにくい。だがシャルロットもリオートも、火付けが得意な相手に対してはファイヤーコントロールやプットアウトで広がらないうちに消し止めることが出来た。
 もしもの時には消火に携わるはずだった少年達が、用意の色水をあちらこちらに撒き散らしているので、シャルロットや他の人々も結構見目がよろしくないことにはなっている。だがそちらに集中して働いてくれるおかげで、徐々に姿を消しているデビルも見付け易くなってきて、そうなると。
「居場所が分かって効果があるなら、攻撃はするぞ。油断したな」
 周囲を巻き込まないように用心、この用心には近くの建物の内部に被害が及ばないことも含んで、ファイヤーボムでの攻撃も厭わなかった。下手に書庫に取り付かれて、内部に被害が出たら大損害であると考えていたかもしれない。
 北の一角にはデビルの群れが張り付いているが、いまだ礼拝堂近くまで近付けたものはおらず、戦闘の騒がしさもその一角以外ではほとんど聞かれる事がなかった。

 そのデビルの群れが張り付いたのとは別の方角で、礼拝堂まではまだ距離がある場所で、ディアルトや数名の神聖騎士は警戒を怠らず、自分達の持ち場を守っていた。北側が持ちこたえられないと判断した場合の連絡は、いかなる方法でも届いていないし、鬨の声を聞けばあちらが有利かどうかは大体予想がつく。今のところ心配することなく、こちらの持ち場を守るべきだった。
「大分、汚れましたね」
 ディアルトが掛けられた言葉に我が身と相手を見やった時、北の人々と同じくその服は色水で相当に汚れていたが‥‥各方向から姿を消しての侵入を計ったデビルを三体打ち倒すための代償だから、誰も文句はなかった。
「礼拝堂からの連絡も途切れたし、一度仕切り直して、配置を検討する頃合か」
 礼拝堂からの鐘の音は耐えて久しく、あちらこちらで念を入れて確かめられた感知魔法やアイテムの反応も同様。
 その後、真昼にもう一度今度は少数のデビルの透明化による侵入はあったが、やはり礼拝堂には近付ける事もなく退治に追い込んでいる。その後の四日間は何事もなく、流石に諦めたのか、しばらく様子を見ることにしたのかは分からないものの、危急の事態はとりあえずやり過ごしたようだ。
 これからは撃退の際に傷めた建物を修繕することなども検討せねばならないだろうが、修道院はなによりもまず魂の持ち主探しを実行するための方策を検討していた。
 いずれはそちらでも助力願えればとは、依頼期間ぎりぎりまで修道院にいた五人への申し出だった。