デスハートンの白い玉 〜魂を奪うモノ

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月23日〜09月26日

リプレイ公開日:2009年10月05日

●オープニング

 地獄から回収されたデスハートンで取られた魂の白い玉を、主にジーザス教の聖職者達が持ち主を探して、あちらこちらを訪ね歩いている。
 大抵は五人から十人程度の小集団で、三百個から五百個の白い玉を運んで、被害者の居住地近くまで出向くのだ。その作業は地味で地道なもので、結果がよいとも限らないが、これを厭う聖職者はいない。
 その時、一人の神聖騎士が野道を進んでいたのも、先行した仲間の元に、別の場所での確認がすんだ白い玉を届けるのが目的だ。先行した仲間は徒歩、この聖職者は馬で、途中で合流することになっていた。その予定の場所まで、馬ならゆっくり進んでも一時間も掛からぬところまで来ている。
 ところが。
「カオスの魔物か、それともデビルか」
「人の身で、その区別に何の意味があるのか知らぬが、デビルだ」
 青黒い獣の顔を象った仮面の槍使いに行く手を阻まれた。
 神聖騎士は栗毛、槍使いは黒毛の馬に乗っていたが、相手は馬までもがデビルだろう。他にも多数のデビルか魔物の姿があるが、なぜか近付いては来ない。
 デビルと名乗った槍使いの要求は、神聖騎士が運んでいた魂の白い玉。五十個ほどだが、もちろん渡せるものではない。
 ゆえに、神聖騎士は祝福を与える魔法を使用した。あいにくとデビルの魔法などから守ってくれる魔法は覚えていない。

 そうして、飛び降りた乗り手の乱暴な指示で先行した人々がいる方向に遮二無二走り出した馬と、槍使いに向かって剣を抜いた神聖騎士と、周囲で気配を濃くしたデビル達と‥‥
「簡単に諦めぬ者の魂は、ただ掻き集めた魂よりも値打ちがあるな」
 いまだ槍を構えぬデビルの姿とがあった。

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1850 クリシュナ・パラハ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ec4986 トンプソン・コンテンダー(43歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

 トンプソン・コンテンダー(ec4986)がそこを通り掛かったのは、メイディア・ゴーレム工房からの依頼の帰り道だ。メイディアまで連れ帰ってくれればよかったが、ものの弾みで別の街で下ろされたので、身体を鍛える意味でも歩いて戻っているところ。幸い依頼期間中の飲食は支給してくれたから、歩いて帰っても途中で困ることはない。
 後はのんびりと帰ればよいと思っていたが、世の中はそう平穏無事ではなかったようだ。なにしろ正面から、興奮した馬が走ってくる。

 オラース・カノーヴァ(ea3486)がその人々を見付けたのは、ペガサスの騎乗訓練をしていた上空からだった。地上でも、彼を見上げて嬉しそうに手を振っている。背丈より長い杖の先に十字架を掲げて歩いているなどジーザス教徒に違いなく、服装からすると聖職者だ。ペガサスが珍しいのか、下りてきてくれと身振り手振りで語り掛けて来る。
 せっかくペガサスも気分が乗って来たところで、普段だったら適当に挨拶して通り過ぎるのだが、オラースも気になるものを目にしていたので更に上空を飛んでいるグリフォンに合図して地上に降りた。
「後ろから馬だけ追いかけてきてるが、心当たりはあるか?」
 聖職者達が丁寧に挨拶してくるのを掌で留めて、オラースは気になった用件をすぐさま尋ねた。やや年老いてきているが、かなり手を掛けている様子の馬が疾走してくるのを目にしたからこそ、わざわざ降りてきたのだ。馬具にも十字架が描かれていたから、何か関係があるとしたらよくない状態だろうと推測もしている。
 案の定、それを聞いた聖職者達は顔色を変えた。

 同じ街道沿いの聖職者達から見るとずっと後方を歩いている一団がいた。
「街でおとなしくしてようよ、アマち〜ん」
「あらいけませんわ。人のために身を粉にして働くことこそ、御仏の心にかないましてよ」
 すでに疲れ果てた風情のクリシュナ・パラハ(ea1850)と、彼女の荷物を持っても平然としているシャクティ・シッダールタ(ea5989)の会話は、先程から大体同じところを回っている。話しかけられたアマツ・オオトリ(ea1842)は自分の馬を見上げて、クリシュナを空飛ぶ絨毯に乗せてやるべきかどうか考えている。これを出しても馬二頭まで乗るには何かと危うく、移動の速度はたいして変わらないのが悩みどころだが、さて。
 多少急いだほうがいいとはいえ、自分達と荷物は空飛ぶ絨毯で、その後方を馬に追いかけさせるにはアマツの連れていた馬はあまりに普通だ。まさか移動で潰すわけにもいかない。
「今からそんなんじゃ、目的地に着く前にばてちまうぞっ」
 威勢がよいのは巴渓(ea0167)だが、相互の体力差を忘れているらしい。早く行かないと船が出てしまうと、皆を急かすがそうそう歩く速度は変わらない。
 彼女達は元イムレウス子爵領、現在誰が統治者なのかよく知らない地域に、食料などを届けるべく移動中だった。依頼でもなんでもない自発的な行動だから、移動手段も自前で手配しなくてはならない。もう少し落ち着いて移動手段を揃えてあれば良かったが、馬二頭の体力差も激しく、最速移動とは行かないようだ。
 だが行き先が政情不安定な場所ゆえになかなかそちらに向かう舟がなく、メイディアから少し離れた港に行かなくてはならない。その船に間に合わなかったら、次の出航がいつだか未定だから急ぎたいところだ。今のところ、あまりうまく行っていないが。なにしろいずれもが他の依頼を終えた後、休む暇もなく出発しているので多少の疲れが影響しているのかもしれない。
 なんにしたところで、速やかに目的の港に着かなければならないから、四人はせっせと歩くことにしたのだが、その先になにやら不穏なものの姿が見えてきていた。

「簡単に諦めぬ者の魂は、ただ掻き集めた者の魂より値打ちがあるな」
 自らをカオスの魔物ではないと断言したデビルが、神聖騎士に言い放つのに遅れること数秒。重なる蝙蝠羽の羽音に混じって、大きな翼が羽ばたく音が中空に響いた。そうした音にも気を散らすことなく睨みつけてくる神聖騎士を他所に、余裕の態度で空を振り仰いだデビルは仮面の下、舌打ちをしたようだ。
「こうるさい奴が飛んでいるな」
 デビルにこうるさいと評されたのはペガサスで、神聖騎士にしたら噴飯ものだったが、騎乗した見るからに戦い慣れた風情の男性が、ランスを構えたのを見て身を低くした。
「魔物は地上にしゃしゃり出てくるな!」
 怒号と共に上空から、いかにデビルも騎乗していたとはいえ地上ぎりぎりまでの突撃をかけたのは、ペガサスも十二分に戦う気概に満ちていたからだろう。ただランスが貫いたのは、男性とデビルの間に割って入ったネズミのような顔付きのデビルが二体。背後を襲おうとしたデビルは、グリフォンに邪魔されていた。ただし爪の攻撃がデビル達に効果があるわけではない。体格のよさで一時的に壁になっているだけだ。
 地上に降りてデビルと睨みあった騎馬の横合いに着くようにして、神聖騎士もまた油断なく武器を構えた。
「馬はこの先で別の奴が保護した。あんたの仲間は先に逃げるように言っておいた」
 だから後は、この囲みを突破して逃げればいいとの小声の説明に、神聖騎士も流石に反論するつもりはない。目の前の仮面のデビルと傍らの男性となら、おそらく男性の方が実力で上回るのではないかと思われるが、相手はなにしろ手下の数が多い。仮面の奴はどうだか分からないが、他には魔法を使うデビルがいるだろう。あからさまに分が悪いのだから、まずは生き延びることを考えてもよいはずだ。男性も、きっぱりとそこのところは割り切った気配がある。
 馬を保護してくれた仲間とやらが、大切なものを抱えて自分の仲間と一緒に逃げてくれていればいいと願ったが、世の中なかなかそこまでうまくはいかない。
「来るなって言っただろうが!」
 ペガサスに騎乗した男が怒鳴った。仮面のデビルが背中を向けた方向から、神聖騎士の馬に乗った誰かがやってくるのが見えた。幸い、括っていた荷物はすべてない。
「逃げるにも足が要るだろうが。ええい、わしも自分の馬が連れてこられたらよかったが」
 どうもこの二人は元からの仲間ではないようだと、神聖騎士は双方の態度から察した。冒険者はその時々で違う者と組むので、顔見知りくらいではあるかも知れないが。
 いずれにせよ、魂は自分の仲間達が持って逃げているようだから安心していいだろう。後は出来るだけ時間を稼いで後、この囲みを突破して逃げられればありがたい。少なくとも、わざわざ助けに来てくれた二人には逃げてもらえれば。
「荷物は預かったとお仲間から伝言じゃぞ。しかし今頃、魔物が大挙して現われるとは」
「デビルだそうだが」
 逃げるのではなく突進してきた相手には道を開いて、囲い込んだデビル達に聞き取られないように小声で知らされた伝言はありがたく受けて、神聖騎士は重要な情報を代わりに渡した。もしもの場合、誰か一人でもこのことを他に伝えてもらわねばと思ってだが、聞かされた冒険者二人も流石に『デビル』の一言は衝撃的だったらしい。
 ペガサスがレジストデビルを付与してくれたが、それを労わるより先に、
「デビルだとぉ!」
「魔物ではないのか!」
 口々に叫んでいる。聞こえただろうが、デビル側は特段反応することもなく、仮面の男はそのまま、他のデビル達が群れをなして襲い掛かってきた。三人共に十二分の装備をしていたから、いきなりやられることはないし、レジストデビルのおかげで敵の魔法も効果がない。ペガサスの騎士は複数まとめてソードボンバーで塵にせしめ、撃ち漏らしたものを馬を連れて来てくれた騎士と神聖騎士とが斬り付けていく。それでしばらくは互角だったが、なにしろ相手は数が多い。しかも仮面のデビルはまだ見物しているだけだ。
 この頃には、それぞれの騎獣にグリフォンを貸して貰い、三人とも撤退すればよいと分かっていた。偶然であった三人組だけで相手取るには危険な相手だ。だから無理は禁物なのだが、抜け出す隙間が得られなかった。ペガサスの騎士だけなら逃げられようが、やはり騎士たる者、自分だけ逃げようとは考えないらしい。
 もうひとりが鎧騎士だとは、戦う合間に本人が名乗ったので間違いなかろうが、ペガサスに騎乗している方は装備や身ごなしからの判断だ。もしかすると元騎士の冒険者戦士かもしれないが、名を聞けば分かる相手かだろうか。
 ただ、悠長に名乗りあっている暇はやはりなく。
「誰か来たぞなっ」
「グレコ、追い返せ!」
 少しばかりの高低差がある街道の、高い位置からこちらを見て騒いでいる一団がいるのを三人共に目にしたが、叫んで聞こえる位置でなし。またそれどころではない騒ぎの只中にいる。
 他人が巻き込まれる事なかれと、祈りの声が紡がれたが‥‥

 空を飛ぶもので、蝙蝠以外にそれらしい羽を持っているものとなれば限られる。そうでなくとも、姿を見れば自然のものかどうかは大体分かるわけで。
「目的地に着かないうちから魔物かよ」
 渓が様子を見て取るなり、とっとと要らぬ荷物を放り出したのに、慌てたのはクリシュナだ。
「ま、まだ何が起きてるかもよく確認しないうちからって‥‥わぁ、グリフォンが来たっ」
 多分人間が三人ほど人間外に襲われていて、一人はペガサスを連れているから冒険者の可能性が高い。そうでなくとも、魔物との戦い方を心得た者だとは思うが、
「いきなりは危ないってぇ」
「何をおっしゃいますの。襲われている方を守らねばなりませんわ!」
 様子もよく確認しないうちに殺気を漲らせるのはよくないと慌てるクリシュナに、シャクティまでもがやる気十分で身支度を整えている。いきなり攻撃の意思を見せたらかえって危険ではないかとか、グリフォンがこちらを威嚇しているのは逃げろということではないかとか、そういうことは考えていないようだ。
「魔物とあらば見捨ててはおけぬ。荷物の守りに残るか?」
 アマツにまで言われて、そこで是と言えないクリシュナだった。この中で攻撃魔法を使うとしたら、自分が最初に挙がることは承知しているのだし。自分がじたばたしている間に、仲間が怪我するのも嫌なことだ。
 なんて思っている間に、アマツと渓は走り出す体勢だし、シャクティはスクロールを取り出していた。見ただけで囲まれている三人の実力は分からないが、四方八方を囲まれているのは一目瞭然だ。その囲みを突破する隙を作れば活路は見出してくれるだろうと、わざわざグリフォンを仕向けてくるあたりから期待できる。
 単に邪魔だと思われている可能性も考えられるが、渓やシャクティは今更何か言っても止まるものではない。アマツもそういうところはたいして変わらず、クリシュナも魔法詠唱に入った。
 そうして、クリシュナとシャクティがファイヤーバードで上空を埋めている『魔物』の一角を切り裂くべく飛び立った。それを目にした『魔物』はとっさに回避したが、大半は彼女達に背を向けている。一部は火の鳥に切り裂かれ、他の多くが姿勢を崩した。
「何事だ。誰ぞ」
 騎乗した『魔物』が部下を叱責したのか、問い掛けたのか、判然としない声色で口にした。もとよりそういう性質なのかもしれないが、少なくとも囲まれていた三人から注意がそれたのは間違いない。
 だが、もっと注意を引いたのは。
「よぅし、誰だと言ったな、妖魔!」
 この時点で、付き合いが長いアマツは渓が言いたいことがよく分かっていた。このところ名乗りを上げられる機会がなかったから、それはもう気合を込めているのだろう事も。騎士道のそれとは異なるが、まあ付き合うのにやぶさかではない。
 けれど。
「殺れ」
 実際は違うが、『魔物』に相手の名乗りを待つ感性も習慣もありはしない。新たな邪魔者が入ったことにようやく苛立った様子を見せ、ファイヤーバードで現われたクリシュナとシャクティ、名乗りを上げようとした渓とアマツを見やった。
 おかげでどちらも、最初の三人同様に『魔物』の群れに襲われている。どちらかと言えば、後の四人の方が先の三人より、多数の『魔物』に囲まれてしまっていた。
 その時。
「よし、今だ」
 奇妙に落ち着いた声で、ペガサスの騎士がもう二人に声を掛けた。言われた二人はあからさまに途惑っていたが、ソードボンバーで開かれた道から囲みの外に飛び出した。
「とっとと逃げろ。あっちは助けなんかいらねえ」
 言われた四人からしたら、さぞかし文句をつけたかったろう。だが先頭に立って血路を開いてくれる相手に、助けられている立場の二人がとやかく言っているとまた命の危機だ。それにざっと見たところでも、確かに二人より新たに加わった四人の方が力量は上のようだった。
「これはデビルだぞ。魔物と思って戦うでないぞ」
 囲みを抜けて、またデビル達に向き直ろうとしたトンプソンを、オラースが蹴り飛ばす勢いで宙に駆け上がっている。神聖騎士は心を残した様子だが、自分が手出し出来る者がいないと察したようだ
「どういうことだよっ」
 実際、それぞれに囲まれてはいるが、戦いは有利に運んでいる。未だ仮面のデビルに到らないが、それは配下が多いから。そんな中でも、聞き逃せない一言に皆が色めきたった。配下とのせめぎあいも、苛烈さを増したようだ。
 それがそろそろ枯渇してこようかという気配が見えてきて、オラースが本格的に神聖騎士を逃がそうとし始めた時に、急に周囲の殺気が薄れた。
「人の身がそれを言い立てて、何の意味があるのだ」
「こっちの世界にデビルがいるのはおかしいでしょうがっ」
 返答はなく、槍の先から放たれたのはオラースと同じ技だ。それに合わせて、配下のデビル達はまた包囲をしようと動き回る。が、
「掻き集めた魂より価値があるものが見付かったが、興が削がれた」
 皆が反応しきれないうち、正確には配下のデビルに群がられている間に、騎乗のデビルはふいと姿を消してしまった。取り残された配下達は慌てるでもなく、それぞれに小規模の群れを作って逃げ出す。
 同様にオラースは神聖騎士を急かし、トンプソンがデビルの追撃を警戒しつつ追いすがる。先んじて逃げさせた教会の人々が無事かの確認と、ここまで付き合ったからには合流までの面倒をみてやるべきだと考えているかどうかは不明だ。
 そして、名乗りを上げるのを頭から無視された渓はひどく怒っていたが‥‥
「出航しただぁ!」
 目的地で乗るはずだった船が一時間前に出港したと聞いた時の方が、より激怒していたらしい。
「だからつてがある人に任せたらいいって言ったのに」
 クリシュナの呟きに同意があったかどうかは不明ながら‥‥
 デビル出現の報を持ち帰る仕事を果たす必要はあるだろう。