【復興支援】実りを引き継ぐために

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月25日〜09月30日

リプレイ公開日:2009年10月07日

●オープニング

 地獄の扉が開いた折、多くの国の様々な軍勢が自国への侵攻を食い止めるべく、この世ならぬ地で戦った。
 その戦いは門が閉じることで一旦終結したが、そこから派生した問題の全てが片付いたわけではない。
 ロシア王国では、各所でデビルの襲撃で荒らされ、その対応のために放棄されざる得なかった耕地があり、それらの多くはいまだ荒れた状態で放置されている。

 特に被害が大きかったある村では、国王からの命だと領主が租税を免じてくれ、来年春まで何とか食いつなげる食料も用意してくれた。けれども、長雨で泥を被り、すっかりと姿を変えてしまった畑を戻すための人手はない。
 村人の数も大分減じてしまった今、村人の気力も飢えてきていたのだが。

「石を拾え。鍬の手入れをして、畦を作り直せ。泥も耕せば実りを得られよう」
 隣村の教会から歩いてやってきた聖職者が、連れてきた驢馬に積んでいた作物の種を下ろしながら声を掛けた。

 同じ頃。
「家の修理に、畑の整備‥‥食料などは必要ありませんか」
「今困っているのは人手がないこと。食料がないことではありません。無闇と物を与えられては、自ら生活を立て直す気概が失われます」
「では、村の復興に骨身を惜しまずに働いてくれる人ということで」
「はい。大いなる父の御心に叶う方々を」
 キエフの冒険者ギルドには、荒れた耕地の復興をともに行う支援者を求める依頼が張り出された。

●今回の参加者

 ea2181 ディアルト・ヘレス(31歳・♂・テンプルナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 ec5876 ユクセル・デニズ(32歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 泥に埋もれて荒れた村で、ディアルト・ヘレス(ea2181)はこう口にした。
「初心に帰ることもたまには必要です」
 彼の初心がどういうものかは余人の知るところではないが、戦闘馬を二頭、作業に用立てて構わないと申し出たのは教会の人々には意外だったらしい。行軍、戦闘のために特別な訓練をされている馬に、荷役馬と同じ事をさせてはかえって筋を痛めたりするのではないかと心配したのだが。
「それは私が注意すればいいことだから、皆さんに迷惑は掛けません」
 物静かに断言されれば、手助けを断ることはありえない。同様にユクセル・デニズ(ec5876)の珍しい馬も、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)の馬というより天使の騎獣も、連れてきた当人達の意欲の高さを移して佇んでいる。だがいずれも普通の村で見る事のない生き物達だから、村人達は何が来たのかと遠巻きに様子を伺っていた。
 そりゃまあ、子供がふらふら空を飛んでいたら驚いても仕方がないなと、うっかり眼を放した隙に空中浮遊を披露されたユクセルは思ったが、後ろ向きな思考のままではいられない。冒険者について村人がどう思っているか分からないが、ここは生真面目に働けばいいはずだ。
「あいにくと人数が少ないので、まずは最も人手を要するところを集中して手伝わせてほしいのだが」
 一番荒れたところが直れば、村人の感情も上向きになるだろうと、人手以外のことも考えているのは、冒険者三人共に同じ。この村がどういう被害を受けたかは、今の様子から想像することしか出来ないし、その痛みを真実理解することが出来るなどとは口が裂けても言わないが、一緒に働くことは出来る。
「人手は三人ですが、精霊も二人いますから」
「そちらも子供ではなくて精霊ですか」
 教会の人々は弟子でも連れていると思っていたようだが、レティシアとユクセルの連れているのは精霊だ。あまり難しい指示は理解出来ないのと、人の生活方法に疎いのを了解してもらい、作業を割り振ってもらうことになった。その前に村人に引き合わされて、見た目が一番警戒されなさそうなレティシアが代表で挨拶した。合わせて、精霊二人の事もよく伝えておいた。
 村人は精霊と聞いてどう接したものか途惑っていたが、人手が増えるのは歓迎してくれて、まずは三人に上着を貸してくれた。泥が多いので、汚れても平気な服装でなければ大変だというのである。
 少し身近に接してみると年齢問わず善良で、よく働きそうな人々なのだが、そうした性質が挫けるほどに疲れ果てた風情なのが気に掛かった。

 村人が疲れていても、今の状況では休んではいられない。今の時期に畑を整えておかねば、来年の春になっても種蒔きが出来なくなってしまう。それ以前に雪の下に埋もれている冬の間にも、畑には適した姿があるはずだ。
 最初に最も人手を要する畑をと申し出た彼らが連れて行かれたのは、村の南端にある大きな畑だった。ただ全面に泥が被り、北端の辺りは沼のようになっている。
「かなり水が入ってしまっているが、差し支えなければ魔法で取り除ける」
 村人が見て驚かないなら実行するがと、ユクセルが村長に尋ねていた。その間もディアルトが黙々と、村人に混じって溜まった泥水を汲み出す作業を行っている。力が足りないレティシアと精霊二体は、その水を入れる桶を次々と運んでくる担当だ。
 自ら努力するのがジーザス教黒派の本分だが、この申し出をはねつけて全体作業を遅らせるようなことはしない。まずは試して、うまく行くようなら速やかに水を掻き出してしまおうと話がまとまった。スクロール魔法のウォーターコントロールで、沼と化していた部分から相当量の水が取り除かれた時には、村人達はしばし我が目を疑う風情だったが、
「このくらいで、土を返しても大丈夫だろうか? いいのなら、馬を連れてくる」
「端っこはスコップを持ってきたから出来るよ〜。畦道を直すのが先なのかな?」
 魔法効果を見慣れているディアルトとレティシアが、次はどうしようかと話し掛けたので、慌てて何を先にしたら一番いいかと相談を始めた。何箇所か水が大量に入った畑があって、なかなか進まない水の掻き出しに気力を奪われていた村人達の頭には、作業効率なんてものはなかったらしい。
 教会の人々はあまり強い指示はせず、村人が働くのに不自由がない様に農具の手入れを済ませていた。ディアルトのおかげで、戦闘馬も蒙古馬もペガサスもいつでも鋤がつけられるようになっている。
「畦の修繕が必要なのはここだけだから、村の者でやる。あんたには、もう二箇所水を出してもらいたい。あと土を返したいが、あの馬達はどう扱っていいか分からんのだが」
 大分時間が掛かったが、村人達が寄り集まって地面に地図らしいものを描きながら、わいわいと相談した結果、ユクセルはもうしばらくスクロール魔法で畑に不要の水を出し、ディアルトは村人が扱いかねた三人の馬を村人が扱えるように手助けを、レティシアは精霊二体を連れて鋤き返した土と泥の中から石や木片を拾い上げることになった。村人も年齢性別等に応じて、それぞれ仕事を割り振りし直して、教会の人々も加わってあちらこちらで畑の手入れが始まった。
「なんか、ものすごく疲れている気がするのよね」
「その見立ては間違いないだろう。ほとんど寝不足のようだがね」
 思っていたよりはちゃんと働いているし、気力も戻ってきたようだが、作業手順がなかなか決まらなかったり、物事一つ決めるのにも時間が掛かりすぎている。ユクセルとレティシアは端から見てそう思ったが、ディアルトは村が所有している馬二頭の具合も見てやりつつ、村の青年達から愚痴を色々と聞かされていた。誰に対して不満があるかといえば、当然デビルに対してで、領主には色々目配りしてもらったと感謝しているくらいだ。
 けれども、いかに手順が悪かったとはいえ毎日朝から晩まで一応働いていたのに、『夜になると不安が押し寄せてくる』や『来年のことが心配でどうしたらいいか分からない』と、寝付けない理由を訴えていた。畑が駄目になれば作物が取れず、食い扶持も稼げなければ租税も納められないのだから、不安はもっともだ。この状態から抜け出すのに、魔法はかなり役に立ったが、もう一押し必要だろう。もっと明朗に復興が見えてくれば、皆安堵して、今まで生活してきた力を取り戻すのに違いない。
 という情報と見立てから、冒険者三人が行ったのが。
「馬は蹄の手入れが重要だから、特にこの辺りは見落としがないようにな」
 ディアルトは馬の世話の仕方を教えるとして、青年達を連れ出す。今までも世話していた人々がいたのだが、災害で亡くなったり、村を離れてしまって、思うように馬を使えず困っていたらしい。だから疲れた顔付きでも集まってきた。中には女性もいる。
 レティシアは持ち込んだチーズや餅を使って、幾つか料理を作っていた。自分達の食料は持ち込んだが、村も景気付けを兼ねて歓迎の会食と言うにはささやかながら場を設けてくれたから、そこに混じって珍しい食材を物々交換の形で提供している。全員に行き渡るように、餅を細かく切って焼き、スープに入れたが、子供達が特に喜んでいた。今年は収穫祭も満足に出来ないと薄々察していたのに、意外なところでご馳走が食べられたからだろう。
 更にユクセルが他の国の話をしてくれると聞いて、わらわらと集まってきた。子供が来れば、母親が何人かついてくる。
「エジプトという国では、毎年川が氾濫するが、その時に畑に積もる泥が多いほど豊作になるんだ。川底の泥はそういう力があるらしい」
 どこも間違いなくとは言えないが、畑を休ませることになったから豊作の期待は持てる。目先のことに捕らわれている風情の村人に、子供への話を通じてその可能性を示した訳だが、納得するには少し時間がいるようだ。期待と不安半々の顔付きの母親達が、表情を和らげたのはレティシアが竪琴を鳴らし始めてから。
 最初は気持ちが上向くような歌でも皆で歌えればよいと相談していたけれど、村人に必要なのはまず休養だ。気持ちが安らぐからと魔法使用も皆に伝えて、今夜はメロディーの魔法を使っている。もちろん、よく眠れるようにの効果付きだ。
 この魔法、畑の泥地化という村始まって以来の難問を解決できた安心感も手伝ってか、村人の大半があっという間に家に帰って寝てしまうほどの効果があった。ついでに一日働いた冒険者三人も、速やかに眠っている。レティシアは単に疲れ果てていただけかもしれないが、よく眠れたので翌日からも十分働けるだろう。

 翌日からは、畑に入り込んだ不要物を拾い、石は村はずれに捨て、木片は所定の場所に置いておく。来年の冬に乾燥して薪になるよう、置き方も工夫が必要だ。精霊に任せると適当にやらかすので、主にレティシアが村の子供達に混じって作業している。
 畑は馬を入れて、鋤で土を念入りに掘り返していく。太陽に当てて、不要な湿気を飛ばすのと同時に土と泥を混ぜていく。よく混ぜれば肥沃な土になると、畑仕事に詳しい教会の人が請け負ってくれたが、この『よく混ぜる』が難物だ。一度上下を返したくらいでは追いつかないので、
「あちこちの畑に人手を分散させずに、東ならその方向の畑からまとめてやろう。そうすれば馬も道具も移動が少なくて、手早く進む」
 ディアルトがわかりやすい言葉で、村長に効率よく作業が進む手順を示している。畑の持ち主ごとに作業させていると、いつもと違う今回ばかりは手間が増えるからだ。
 昨日に比べると、久し振りに熟睡した村人の大半は相当元気を取り戻しているが、いきなり無理もさせられないのでそこを考慮した配分も必要だ。村長はすっかりとやる気だが、それが空回りしないように教会の代表が着いて相談役になってくれている。他の人々は得意分野で村人の細かい相談に乗ってくれていた。ディアルトはその全体を見て、変なところがないかを確かめている。
 代わりにユクセルは預かった戦闘馬二頭もつれて、作業が必要な畑を巡っていた。彼などは見慣れているから体格が大きな馬でも平気だが、村人はやはりちょっと怖いようだ。畑の中で働かせる時以外は、不用意に近付いて来ない。というか、必要な時も呼ばないと近くに来ない。
「これを貸すから、端の方は頼んだよ」
 仕方がないので持参の道具は貸し出して、ユクセルが細い身体でえっちらおっちらと鋤を押している。馬の力があるから何とかこなしているが、エルフのウィザードには結構辛い。子供も畑仕事をするのが農村の当然だから、弱音を吐いてはいられないが‥‥
 同様に、レティシアも結構辛かった。日頃の依頼と違いすぎて、慣れない作業は大変だ。昨日頑張りすぎて、腕の筋がぱんぱんだし。でも精霊達が石拾いに楽しさを見出したらしく、二体で子供達に混じって『キャーッ』とやっていると目を離せない。大体は文句なく仕事しているのだが、たまに子供と喧嘩になっているし。
 ひどく喧嘩した時は、いっそ別々にしておこうかと思ったけれど、子供達が珍しい他所からの同年代に見えるお客と一緒にいたい様子や、精霊達が楽しそうに子供達と荷物を運んでいるところなどを見るとそうも出来ない。
 またしばらくすると、『きぃ〜や〜』と何が起きたか分からない声がして、駆けつけることになるのだが。

 畑仕事が忙しくて、空き家の処理に手が回らないと三人が思っていた頃。
「ペガサス殿をお借りしても大丈夫か?」
 教会の人が二人と村の少年達が、農具が着けにくいペガサスの助力を得て、修繕と解体を始めていた。村内の仕事がうまい具合に回り始めて、ようやく手が空いて来たようだ。全部解体しないのは、古くなった村の倉庫の代わりに何軒か使うことにしたからと、
「今回みたいにお客があった時に泊まる場所がありゃいいかと思ってな。またそのうちに、誰か住むかもしれないし」
 いずれ村人が増えた時のためと思って取っておくことにしたようだ。壊した家は、端材はこの冬の薪に、木材として使えるものは倉庫に入れて、木っ端は焚き付けにするのに集めておく。
 ここにいる村人以外の者がそういう生活を知っているかは人それぞれだが、蒙古馬の宝が引く鋤を押していたユクセルが、ふいに口を開いた。


冬に挑む 拳のような固い種
春にはほころび 夏には突き抜け


 節回しを聞けば、農作業の時に歌うものだとなんとなく分かる。幸いゲルマン語だったから、村人も分かる。途中、ラテン語に切り替わって分からなくなったが、節回しは大体同じ。しばらくして、またゲルマン語に戻った。


秋には 大いなる実りとなり
お前のエプロンの上に落ちてくる


「なかなかお上手ですな」
 村長が誉めてくれたが、基本こういう歌は誰でも簡単に歌えるものだ。
 すでに子供達は口真似で歌い始めている。


固い種が 美しい実りとなり
お前のエプロンの上に落ちてくる


「あの歌の区切りで、休憩にしよう。馬には水をやるのを忘れないように」
「演奏は‥‥もう一回くらい聴かないと無理かな」
 村のあちらとこちらで交わされた会話は歌の終わりが近いか遠くなるか、まるきり反対の内容になっていたが、
「そうか、私はそんな大きな声で歌っていたか」
 自分は小さい声で歌っていたつもりのユクセルは、多分子供達の要望を受け入れるだろう。
 次には村に伝わる歌を、それから他の人々が知っている歌も覚えて、皆で歌い繋いでいこうかと、そんな話も出始めて‥‥
 また子供達が『きゃーっ』と、楽しそうに叫んでいた。