難敵は依頼人

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:3〜7lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 96 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月17日〜01月24日

リプレイ公開日:2005年01月25日

●オープニング

 その女性の名前を、冒険者ギルドの係員は記憶していた。毎日大量の人に会う仕事で、たった一度きりの依頼を鮮明に覚えているのは珍しいことだが、それほどに相手は印象が強烈だったのである。
 その日、係員はこの場所で、この依頼人のイザベラから言われたのだ。『男が欲しい』と。そりゃあもう、慌てたのなんのって。
 結局、彼女の望みは『掃除をするための男手が欲しい』だったのだが‥‥さすがにその『掃除』もただ事では済まなかったらしい。どこかにその時の記録が残っていることだろう。
 ところで、本日のイザベラ女史はというと。
「探し物をお願いしたいんです。敷物なんですけれど、物置のどこにしまったのか分からなくて」
 なぜか傍らに、屋台で買い込んだと思しき大量の軽食を抱えた見たところ二十歳程度の青年を従えて、こう言った。とはいえ彼らはエルフなので、人間の係員の主観で二十歳程度ということだ。顔立ちが似ているから、姉弟かもしれない。
「敷物ですか。物置のどこにあるのか分からないって、そんなに広い物置なんですか?」
「婆様が敷物集めを趣味にしていて、二百枚くらいあるから‥‥あの隣の部屋くらいの地下室にしまってあるんだ」
「そうなんです。ちゃんと色や柄で分けていたはずなのに、目的のものがどうしても見付からなくて」
 隣の部屋と、通称作戦ルームを二人に指されて、係員は黙り込んだ。依頼を受けた冒険者達が打ち合わせをするために開放されている部屋は、細かく仕切られているとはいえ、幾つものグループが一度に入っても大丈夫なだけの広さがある。
 その中にある、二百枚の敷物って、どういう状態?
「元は酒屋で、酒樽をしまっていたとかで、棚があるんです。そこに分類して敷物が並べてあったはずなんですけど、どうしても見付からなくて」
「みんなで探したのにな」
 困った困ったと顔を見合わせているイザベラと、その従兄弟だという青年は、なかなかに悲壮感を漂わせている。聞けば高齢の祖母が、二月初旬の自分の誕生日にはこの敷物が使いたいと指定したものがあるのだという。それでパリ近郊にいる孫十五人が総出で探したが、どうしても見付からない。
 弱り果てていたときに、イザベラが以前に冒険者に助けてもらった話をして、皆でお願いしようということになったらしい。それはそれで、ギルドには問題がないのだが。
「その物置にあるのは敷物だけですか?」
「ええ。でも大きなものがほとんどです」
 総じて力に恵まれていないエルフの一族が十五人がかりで取り掛かっても、上手に探しきれなかったのだろう。探すものは間違いなくそこにあるそうだから、単に要領が悪いのかもしれない。
 とりあえず探して欲しいのは、毛織で地は紺、白と黄色で幾何学模様の縫い取りが全体に入っている敷物だ。紺色の敷物はたくさんはないので間違えることもないだろうし、孫達も見知っている品物なので確認は出来るとのこと。
「単なる探し物ですね? 他にネズミが出るとか、そういうこともないですか?」
「大丈夫です。人手も必要でしょうから、私達も一緒に探しますので、いい方法を考えてくださる方を」
 その台詞にちらと思ったことがある係員だったが、とりあえず黙っていた。と、しばらくだんまりを決め込んでいた青年の様子を見て、目をむく。
「あらいやね、ペトロ。こぼしてるわよ」
「ん〜」
 先程から抱えていた軽食の攻略をしていたらしい青年は、めったやたらとこぼした食べ物のかすを眺めて立ち尽くしていた。かなり大きな食べかすもあるので、係員としては拾って片付けてほしいところであるが‥‥
「ペトロ、襟巻きも落ちたわよ」
 青年ペトロは足で食べかすを脇に押しやったついでに、荷物を取り落としている。しかもそれを拾い上げようとして、また食べかすを散らかした。のみならず、全部食べ終えた後に包んでいた木の皮をぽいとカウンターの上に捨てている。
 まったく悪気はなさそうな顔で、しかもどう始末しようか迷った表情の後、この行動である。イザベラも困った顔はするのだが、やはりどうしていいか分からない様子だ。
 そして彼らは、まるで何事もなかったかのように依頼の手続きを済ませると帰っていった。
「手伝い‥‥?」
 掲示板に依頼内容を記した羊皮紙を張りながら、係員は思わず呟いていた。

●今回の参加者

 ea1770 パーナ・リシア(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea1845 オフィーリア・ルーベン(36歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2868 五所川原 雷光(37歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3073 アルアルア・マイセン(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea4071 藍 星花(29歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 ea5415 アルビカンス・アーエール(35歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

サイラス・ビントゥ(ea6044

●リプレイ本文

●執事は色々語れり 〜惨状形成物語〜
 自分の力が至らないばかりにと、イザベラの家の執事は冒険者九名に丁寧に詫びた。予定より一人多いのは、五所川原雷光(ea2868)が力仕事仲間を連れてきたからだ。
 そして五所川原と藍星花(ea4071)とサラフィル・ローズィット(ea3776)の三人、イザベラの依頼を受けるのが二度目の彼らは予想通りの展開に苦笑していた。
 敷物を仕舞う棚はあるが、ほとんどが空。そして中身は地下室のあちこちで、小高い丘を作っている。幾つも、幾つも。
「思ったより、悪い状況ではないようね」
「敷物だけで幸いですわ」
 思ったよりとんでもない状況に笑顔のまま凍りついたパーナ・リシア(ea1770)や、礼を逸しない程度にしかめ面のオフィーリア・ルーベン(ea1845)の横合いから小柄な影が飛び出した。誰が止める暇もなく、床に乱雑に積み重なっている敷物の山に抱きついていく。
「ひゃっほー! ったぁあぁ!」
 そしてマート・セレスティア(ea3852)は、奇妙な声と共に床に崩れ落ちていった。もちろん大量の敷物も一緒に、だ。
「おまえが散らかしてどうするんだよ」
 冷たく言い捨てたアルビカンス・アーエール(ea5415)ほか、誰もマートを助けようとはしなかった。彼のお騒がせな性格は、もう十分に知っているからだ。短時間でも顔を突き合わせたら、嫌でもわかる。
 それでもここまでの道中、マートが何かしでかすと『恥を知りなさい』と正してくれたアルアルア・マイセン(ea3073)も、この時ばかりは何も言わなかった。自業自得なのだから、勝手に這い出してこいと思っているのか‥‥
「埃もほとんど立たぬ。これは楽でござるな」
 五所川原の言葉に驚いたのか、それは分からない。とりあえず。
「敷物は二百なのでしょう? それなら依頼人方としらみ潰しに探せば見付かりましょう」
 アルアルアのこの台詞に、執事は『それだけはご勘弁ください!』と祈る姿勢になり、サラと星花はにっこり微笑んで『駄目』と告げた。
「なぜ? 多少遠回りになろうと、何がいけないのか指導して、祖母君の為に働こうという素晴らしい心根を活かすべきでしょう」
「そうですね。私、掃除は苦になりませんから、多少のことでしたら」
 単なる偶然だろうがアルアルアとパーナのイギリス出身者が意見を揃えたところで、星花とサラと五所川原の三名が出身国と種族の違いを超えて異論に回った。
「それだと、探し出せない恐れありでござる」
「敷物を探すのが依頼だから、そのための最良の手段を講じないと大変よ」
「そういえば、泊めていただけるお部屋はお掃除しなくても使えるものでしょうか」
 イザベラ依頼経験者が口を揃えて言うことに、パーナとアルアルアはちょっと首を傾げたが‥‥状況はその間にも進んでいた。
 とても悪い方向に、だ。
「おまえが荒らしてどうするー!」
 敷物が置いてある地下室に響き渡ったアルビカンスの声の先には、マートが小さな敷物を頭の上に広げ持って走り回る姿がある。先程山になっていた敷物の中から引っ張り出したらしい。
 もちろん、敷物の山は平べったい丘になって、床に広がっていた。
「まず、これは我々だけで始末しましょう。その間に、依頼人方には敷物の柄を描いていただきたいですし」
 アルビカンスが面倒そうに、丘を避けてマートを追いかけているのを横目に、オフィーリアが提案する。マートが散らかした分については異論がなく、彼らは急きょ仲間の尻拭いから仕事を始めることになった。
「十六人目‥‥」
 誰かがマートを評して、こう言ったらしい。

●ほかの部屋は完璧 〜はぁとひらひら〜
 マートが散らかした部屋を『元通り』にして、一行は宿泊用に整えられた部屋に案内された。完璧な客間である。
「拙者達のことは心配ご無用。野宿に比べたら、寝台がないくらいどうということもない」
 とはいえ、エルフの家ゆえに五所川原や連れのサイラス・ビントゥらジャイアントは何かと身の丈にあっていない。しかし食事も出るし、聖職者の彼らに文句があろうはずがなかった。
 同じ部屋の寝台では、すでにアルビカンスが寝心地を試している。
 そして。
「よろしいですか、お客様。不要なものはこちらにお入れくださいましね」
「うん、わかったよー」
 座り心地の良い椅子の上では、マートが年配の女性からゴミを入れる籠を渡されていた。彼は夕食前の間食にいそしみ、包みの木の皮を早速入れているところだ。

 そうして女性の部屋だが‥‥
 生活習慣と持ち物の手入れなどの違いで、クレリックのパーナとサラ、ファイターの星花とナイトのアルアルア、オフィーリアで部屋割りをして、非常に気持ち良く落ち着いた。
 殊更に、こちらに変わったことはない。ただ食事の支度をしなくても、この家の料理人が腕を振るってくれるのを楽しみにすればいいだけのことで。

●執事はまた語れり 〜別名懺悔の時間〜
 翌日。昨日の労働は大変だったはずだが、仕事は振り出しから始まる。執事の謝罪もまた始まった。
 彼が言うには、この地下室は力仕事のために雇ったドワーフ三人が管理している。ゆえに日頃はきれいに整理整頓され、サラが心配した『実は探しものはここにはない』ことはありえない。
「普段でしたら、色や柄で棚毎に区分けして仕舞ってあるのですが、若様方が‥‥」
 手当り次第に棚から全部引き摺り出してしまったのだ。ちなみにドワーフ三人は、一人が結婚するのに合わせて、揃って休みを貰っている。
「整理してあるのに、こうなってしまいますのね」
 パーナの表情はにっこり笑顔だが、どこか引き釣っている。ちなみに彼女、執事に捕まって延々と事情説明を受けていた。まるで懺悔されているかのようだ。
 クレリックのパーナもその雰囲気に馴染んだのか、向き合って熱心に聞いている。なにしろ執事を解き放つと、あちこち巡って謝り倒すので、なかなか作業の邪魔である。ゆえにパーナがお相手を努めていた。
 さて、そんな貴重な働きの合間に、男女各三人の六人が働いている。アルアルア、サラ、星花とアルビカンス、五所川原、サイラスである。基本体制は女性が敷物の端を捲って色を確認し、男性は明らかに違うと判断されたものを簡単に仕分けして棚に納めていくのだ。
 問題は、通路のあちこちで山を為している敷物が動きを邪魔すること。山を順次崩して、それから一枚ずつ見るので、それなりに時間はかかる。仕舞うのも山を迂回して動くから、なかなか大変だ。
「人手があったほうがいいと思いますが」
 やっぱり『依頼人にも頑張らせよう』思考のアルアルアだが、その依頼人達は現在お絵描きの真っ最中だ。捜し物の柄を描いてもらっているためである。こちらの担当はオフィーリアだった。
 更には。
「これ、棚に色柄をきちんと張り出しておけばいいわよ。その札も作ってもらいましょ」
 適材適所とばかりに、星花が言い出している。彼女とサラ、そして五所川原の証言によれば、イザベラは細工ものがなかなかに得意なのだ。
 何のかんのと作業が進んでいる最中、不意にアルビカンスが近くの棚に結んであったロープを引っ張った。
「逃げるな。夕飯抜くぞ」
「えーっ、おいらも手伝うのにー!」
「あっ、もう食べたのか、おまえ」
 パーナと、サラも苦笑した、マートの腰縄結びつけ作戦は、現在のところ成功している。片端から面白がって散らかし回り、挙げ句に敷物の上に乗るマートを棚にくくりつけたのはアルビカンスだ。子供のお仕置状態だが、黙らせておく為に間食付き。
 マートが食べている間は、他の者も楽が出来る。彼もパリで買い込んだ食べ物をここまでの道中で消費したので、ありがたい扱いだが‥‥食べ物がなくなると黙って座っていられない。
 いつのまにやら縄抜けして、棚の一番上によじ上っている彼の様子に、アルアルアが視線を泳がせた。ここまで言っても聞かない輩は、彼女もそうそう会ったことはあるまい。
「一時に全部は片付かんゆえ、一つずつ着実に済ませていくのが上策でござろう?」
 マートはアルビカンスに構われて嬉しそうだしと、五所川原がアルアルアに言ったりする。それに彼女は応えて‥‥
「アルビカンスさんが聞いたら、お怒りになりそうですが」
 もっともな言い分に五所川原が応じるより前に、彼らの後方で悲鳴がした。
「サラが潰れるっ!」
 今にも崩れそうな山を押さえて、サラが踏ん張っていた。星花が最初に駆けつけ、その後に珍しく顔を強張らせたパーナが執事と助けに入ったが、はっきり言って力不足だ。サイラスと五所川原が押さえに回り、アルアルアとアルビカンスが崩れそうな敷物を次々と床に下ろして事なきを得た。
「みんな、大丈夫?」
 マートはもちろん、上から見ているだけだ。
 作業は遅々と、でも一応進んでいる。

●オフィーリアはかく命じる 〜絵を描け〜
 仲間八人が地下室で働いている間、オフィーリアは依頼人とその身内を一室に集めていた。彼女の役割は『この十五人の足止め』だ。地下室の惨状を見るだに、彼らが整理してあったものをしっちゃかめっちゃかにしたのは想像に難くない。
 なにしろここでも、たかだか椅子が一つ余ったのを全員であっちこっちにやった挙げ句に、なぜか真中に置いている。
「捜索をするにも、まず敷物の模様が分からないといけません」
 オフィーリアの断言に、頷く十五人。
「そこで皆さんに、その柄を絵にすることを、是非! お願いします」
 万が一にも間違いないよう、全員で記憶を擦りあわせて完璧なものを! これまた素直に、十五人は頷いた。
「‥‥机で描いていいですよ」
 彼らが真中に置いた椅子の上に石板を置くのを見て、オフィーリアは付け加えた。

●ご飯はおいしい 〜奪われるな!〜
 一日仕事をすると、食事はとてもおいしいものだ。星花やサラは料理もする気でいたから、すっかり楽をしている気分である。
 と、気疲れ甚だしいオフィーリアと、しっかり噛んでいたパーナの前から、パンが消えた。アルアルアの前のパンは、彼女とマートが同時に握っている。もちろんアルアルアは行儀について、注意を欠かさない。こんな愚かな態度、まず見捨ててはおけないからだ。
 結局、五所川原が大量に盛られたパンを一つ分けてやったが、アルビカンスが全員の気分を代弁した。
「あれだけ食べて、まだ足りないのか」
 マートは、懸命に食べ続けているが。

●働く冒険者 〜一人は除いて〜
 二日目。マートはまた棚に括りつけられていた。本日は落ち着いた執事が、苦笑しながら食べ物の詰まった籠と空の籠をくれる。
「いらないものはこちらの籠ですよ」
 この籠は、オフィーリアの詰める十五人のエルフがお絵描き中の部屋にも、五つもある。どうやら依頼人達用に、大量に用意されているようだ。屑物入れが。
 そして本日はパーナも含めた七人が、せっせと敷物を山から運んで少し広げ、色で分けて仕舞っていた。女性が二人ずつ組になって動くようにしたので、昨日のように崩れかけた敷物に埋まりかけることもない。
 もちろんそれは、五所川原とサイラスがせっせと山を崩して棚に立てかけ、アルビカンスが重いものは引き受けるようにしていたからでもあり、適材適所で作業は随分はかどっている。
 途中、すやすや寝ていたマートをアルビカンスが踏んだのは、おそらく不幸な事故だ。
 そして、オフィーリアが十五人のエルフに囲まれて『完璧というからには、やはり実物大?』と疑問をぶつけられていたのは、依頼人達の突拍子の無さの表わす素敵な話だろう。
 この日、仕事は七割方片付いたが、目的のものはまだ出てこない。一部の者は、さすがに腕が痛くて上がらなくなったようでもあった‥‥

●働く冒険者 〜依頼人襲撃!〜
 昨日までに、二百枚のうち七割が片付いたと言うことは、残りは六十枚前後となる。マートに真面目にやらせるとして、八人でやれば一人が七、八枚を確認すれば終わるはずだ。
 ここまできたら、依頼人にも入ってもらえば、それこそ一人が二、三枚で済むのにとアルアルアが言わないうちに‥‥地下室に依頼人達が雪崩れ込んできた。オフィーリアと執事が血相を変えて追いかけている。
 でも先頭にいるのが、マートだから‥‥
「あのね、みんなも手伝ってくれるって。人手が多かったら、早く済むよ、きっと」
 これが探す敷物の模様ですと、やたらと綺麗な彩色までされた布を示しながら、十五人のエルフが無節操に地下室に散ろうとした。
 途端、アルビカンスとオフィーリアが指令を下した。
「全員、あっちの棚からやるんだ」
「そう。手分けをしなくては終わりません」
 この間に、勝手なことをするんではないと、マートは五所川原と星花に怒られている。
 そして、勢いに巻き込まれたエルフのサラが、一緒になって確認済みの棚に行き、あっという間にしっちゃかめっちゃかにされる敷物を前に右往左往していた。
「今のうちよ、早く早く」
 星花が小声で冒険者を呼び集め、彼らは一心不乱に残り六十枚に取り付いた。もう片付ける暇はないから、とにかく手当り次第に広げて色と模様を確認だ。
 唯一気にするのは、確認したものはきちんとよそに避けること。それだけを徹底して、途中でサラが誰かが埋もれたと叫んだときだけ助けに行き、彼らは大変な勢いで敷物を広げて、また丸めた。
 それでもって。
「こういうことって、あるんですのね」
 パーナがにっこりと笑ったのは、最後の一枚が、目指すものだったからだ。依頼人達が描いた柄と寸分違わぬ模様だから、これに間違いはないだろう。
 ‥‥依頼を達成するって、なんてすがすがしい。

●依頼期間はもう少し 〜働け冒険者〜
 三日目で、目指す品物は見付かった。しかし、彼らが依頼された期間はまだ残っている。
 アルビカンスは、やたらと休憩をとっては寝ている。マートは食っちゃ寝ばかりだ。
 五所川原とサイラスは、緊急時の要員として控えている。やたらと敷物を崩して、人が埋もれそうになるからだ。途中から星花も加わって、のんびりと一角で茶を飲んでいる。
 そしてクレリックとナイトのパーナ、サラ、アルアルア、オフィーリアは‥‥
「確認したら、棚に仕舞うんです。その棚ではなく!」
「色で分けてますから、こちらの棚ですよ」
「丸め方が問題です。ちゃんと端を合わせてください」
「それは明らかに緑だと思います‥‥」
 アルアルア最初の計画に従い、依頼人達の教育にこれ努めているが。
「イザベラ様くらいはと、私もお生まれになった時から気を配ったんでございます」
 執事が嘆き始めたように、依頼人達に百年近く染み付いた習慣は、一向に治る気配すらなかった。
 まだまだ整理すべき敷物は、山を成している。