開拓計画 〜収穫祭

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月06日〜10月11日

リプレイ公開日:2009年10月17日

●オープニング

 とある開拓村では、冬越しの相談のための集会が行われていた。
「それでは、収穫祭をやって、それから出稼ぎに向かいましょう」
 貴族アルドスキー家の飛び地領地の開拓村は、デビルの侵攻による騒乱で今年の夏麦の収穫もほとんど出来ず、多少の野菜や果樹、森の幸を掻き集めて、後は他村の労役を肩代わりしたりすることで領主から食料の支援を受けていた。おかげで冬越しに不安はないのだが、この時期に村で出来る仕事と住人数とがまったく合っていない。
 労働力が余っていて、仕事はあまりない状態なのだ。だからといって遊んで暮らすような性質は、村人の誰も持っていなかった。働かなくては食べていけない。そういう生活を長らくしてきたエルフの村人達は、切実に働き口を求めていたのである。
 働けば食料が手に入るのなら、少しでも働かなくては!
 そうした労働意欲を受けた村長代理のユーリー・ジャシュチェンコが、アルドスキー家領内の各村の代官達と相談した結果、村人の主に男性達が出稼ぎに出向くことになった。女性達は教会の修道女の手ほどきで、手仕事をしていく予定だ。

 その出稼ぎの前に、壮行の意味合いもかねて収穫祭を行い、村人の団結を強めようということになり、村では祭りに来てくれる芸事に秀でた人々への誘いを出入りの行商人に依頼した。
 ついでに。
「どうしてもここの人達に来て欲しいから依頼出しておいてくれって」
「何をしに行く依頼なんでしょう?」
「祭りに参加する依頼」
 そう答えろと言われたのだと、行商人は断言した。

●今回の参加者

 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 eb8588 ヴィクトリア・トルスタヤ(25歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ec2307 カメリア・リード(30歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ フィニィ・フォルテン(ea9114)/ 御陰 桜(eb4757

●リプレイ本文

 一見すると美少女と女の子とシフール女性の三人連れが、それぞれ荷物を抱えて待ち合わせ場所に着いた時、そこでは荷馬車にどうやって大量の本を載せるかが話し合われていた。下手に積み重ねて、移動中に傷んでも弁償出来ないと断言しているのが、多分依頼人だろう。笑顔で言うことではないはずだが、シャリン・シャラン(eb3232)が見たところ、悪気はなさそう。
「お嬢さん達は、どこに行く予定です?」
「あたしが依頼を受けてるのよ。この二人は精霊だから」
 たいした荷物があるわけではないが、なにしろシフールの限界で精霊二体にも荷物を運んでもらわねばならなかったシャリンは、先にウンディーネとアースソウルに話しかけられたのでおかんむりだ。
 更に、荷物を載せてもらおうと思ったら、馬車が結構いっぱいで困惑する。しかもなんだか、変なものが載っているのだが‥‥
「ユーリーさん、天使様には何か被せたほうがいいですよ。えぇと、美術品に直射日光は大敵なのです」
 シャリンと、持参の大量の書籍類を載せようとしていたヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588)が硬直しているのに気付いたカメリア・リード(ec2307)が何か布はないかと探しながら、依頼人のユーリーに勧めている。荷馬車には知る人は知っているノモロイの悪魔像と呼ばれる、見た目が非常によろしくない素焼きの像が大量に載せられていて、カメリアはそれに布を被せようと言っているのだ。これが天使に見える人は、多分美的感覚に難があるのだろうが、それを指摘するより先に物騒な外見のブツを隠すほうが先。
「これを使っていいから、いや使ってほしいかな」
 『天使様』については、やはり警戒していたアリスティド・メシアン(eb3084)が自分の荷物から毛布を出して、見目麗しくないものを隠してくれた。ユーリーは『また買っちゃいました』と嬉しそうだが、何が嬉しいのかは余人に理解できることではない。
 ともかくも毛布をかけた上に、村用の買いだし荷物で壁を作って、更にそれぞれの荷物を載せて、出発とする。アリスティドとエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)は自分の馬を連れているから、そちらでの移動だ。アリスティドのルーナとエルンストのフェアリーは、それぞれにくっついている。
 荷馬車にはヴィクトリアとシャリンとアースソウルにウンディーネ、カメリアと犬猫が乗り込んだが、
「猫に話を聞けといっても無駄なのは承知していますが」
 ヴィクトリアの本の山を魅惑の爪研ぎ場所と狙い定めたらしい猫が始終うろうろするので、適当な籠を空けさせてもらい、その中に詰めるまでは何かと慌しい気分の移動だった。
 後程、エルンストに魚を差し入れてもらったユーリーが、たまたま本が山を為したすぐ横に魚の入った籠を置いていたせいではないかと分かったが、到着してから気付いてもどうにもならない。
 まあ、村までの移動で一番の騒ぎはその程度で、皆は日が暮れた後に開拓村に到着したのだった。

 開拓村は、その呼び名が示すとおりに華やかなところのない、小さな村だった。収穫祭とはいえ、冒険者達の他にはこれからキエフに向かう途中で寄ったという軽業師と吟遊詩人が三人ほど。行商人すらいないので、出店といったキエフの祭りなら欠かせない楽しみはない。
 もともとこの程度の人数の村なら、村人が集まって少々羽目を外し、楽しむ収穫祭も珍しくない。だから不自然なことはないのだが、困ってしまったのがカメリアだ。似顔絵描きの出店をやろうと思っていたが、他に露店がないのでは一人だけというのは気が引ける。ついでに、村の中ではほとんど現金を持っている村人がいないと聞いた。
「お金は目的ではありませんが、お店をする環境ではありませんねぇ」
 この調子では似顔絵を描くための板なども買えなそうで、何をしたらいいかしらと迷っている。でも一応、板のことは代官の誰かに尋ねてみることにした。
 予想外の質素さに予定変更を余儀なくされたのは、エルンストやシャリン、アリスティドも同じ。
「踊っても、大丈夫よね?」
 吟遊詩人や軽業師も来ているんだし、おひねりがなくても今回は気にしないけどと気前のいいことをシャリンが口にすると、吟遊詩人が『村から幾らか貰えるでしょ』と首を傾げた。滞在中の飲食の提供とキエフまで荷馬車に乗せて行って貰う約束を含めて、吟遊詩人達は祭りに花を添えるらしい。よく考えたら依頼料も出ているので、シャリン達も条件はたいして変わらない。ともかくも、踊れることは分かったのでよしとする。
 アリスティドとエルンストはそれぞれ持ち込んだ酒や食材などを提供すると申し出ていたが、エルンストからは食材、アリスティドからは酒を受け取って、それ以上は教会の修道女から丁寧に受け取りを断られたのだ。エルンストからの衣類が主だが、『子供が喧嘩をするので』と言われて辺りを見れば、彼らが連れている精霊を触ってみたいと悪戯心が大分入った顔で様子を眺めている子供達がいる。確かに用意した品数と子供の人数が釣り合わないから、喧嘩の元かもしれない。という訳で、魚と酒をそれぞれ収めたが、
「精霊が一緒って本当か?」
 彼らの用事が終わるのを見張っていたかのような子供達に、さあ精霊に会わせろと詰め寄られることになった。両方とも傍らに連れているのだが、それが精霊だとは分からないらしい。
 そういう祭り前の少し浮ついた雰囲気を眺めやり、ヴィクトリアが、
「開拓してからの年数が浅いにしても、大分習慣が違う村々から人が集まっているようですね。服の染めからして、多種多様で面白い」
 冷静に分析して、当人なりに楽しんでいた。

 収穫祭というか村祭りは到着の翌々日。
 到着日は顔合わせ程度のことしか出来ず、翌日は準備で何かと忙しい。
「お手伝いしたほうがいいわよねー。そうは思うけどさぁ」
 シャリンはシフールの体格で何か出来ることはないかと一応検討しているのだが、これといって出来そうなことはない。というか、村人達にはアースソウルのアーシアやウンディーネのアクアが冒険者に見えるようで、彼女のところには仕事が回ってこないのだ。そういう状況でも、アーシアやアクアが何か手伝うとなれば細かい指示はシャリンが出すことになるので、役に立っていないこともないのだが‥‥物足りない気分だ。
 そんなシャリンを呼んだのは、村人に混じっていたアリスティド。手が空いた者から、元いた村に伝わる伝承や歌などを聴いて回っていたが、なにしろ皆忙しい。子守唄を聞かせてもらっていたら、そのまま子守をさせられることになり、人数がどんどんと増えて彼一人の手に余ってきているのだ。五、六歳ならもう家の手伝いをしているから、それ以下の言葉も覚束ない子供ばかり預けられると、言葉巧みな吟遊詩人でも対応出来ないことが多い。
 正確には彼一人ではなく、一緒に話を聞いていたヴィクトリアもいるのだが、
「魔除けの印がジーザス教のものとはまったく異なるところが面白いではありませんか。しかも出身地によっても違うのが興味深い」
 赤ん坊の服にされたつたない刺繍を見て、その模様を貰った板に描き記している。彼女は彼女なりに、子供の世話ではないところで忙しいようだ。村の成り立ちを聞いて、元いた村の習俗や習慣がこれから消えてしまうのかと、今のうちに記録したいことがたくさんある様子だったので‥‥下手に遮るのも、ある意味怖い。誰しも夢中になっているところを邪魔されたら、気分がよろしくないだろう。
「僕も子守唄なら自信があるけど、この人数には目が届かないんだよね。一人につき一人でどうだろう?」
 熱烈記録中のヴィクトリアが赤ん坊を一人、シャリンと精霊二体で子供三人、アリスティドも一人、彼のルーナのミモザも一人でなんとかなるのではないかと、アリスティドからはそういう提案だ。多分そうしないと、移動可能な子供が一人二人、どこかに飛び出していきそうな状態ではある。
 途中から時間が出来た軽業師や吟遊詩人もやってきて手伝ってくれ、彼らが伝承などを聞きたがっていると知った村の女性達が、座って出来る準備の時には子供の世話をしがてらに知っている話を聞かせてくれるようになった。もちろんヴィクトリアは、そういうのも片端から記録している。
 合間にシャリンも他の人々と翌日の相談が出来て、まあ祭り気分は盛り上がってきた。

 同じ日、エルンストは何か手伝うことがあるかとユーリーに問い掛けて、なぜか計算の手伝いをさせられていた。一緒にカメリアも石板を睨んでうんうん唸っている。
「これはなんだ? 何かの価格のようだが」
「家畜の価格です。切り詰めて高い時に売ったのはいいんですけど、計算が全然合わなくて」
 本来はここに穀類や野菜を売った分も入るはずだったが、諸般の事情で家畜のみ。ところがその代金と持ち帰って金額が違い、しかも現金の方が少ないので代官も村人も首を傾げているところらしい。
 どうせなら勉強も兼ねて村人にやらせればいいとエルンストは口にしたが、カメリアが先程聞いた話を教えてくれた。
「ここの村の人、誰も字が読めないし、計算の仕方もまだ教えているところなんですって。なんだか数の数え方も独特らしくて」
 後で試しに何人かに聞いてみたが、普通に一つずつ数える者がいれば、三つずつ数えたり、木材と家畜で数え方が違うものがいたりとややこしい。これで出稼ぎに出して平気なのかと思わなくもないが、森の中での作業は手馴れていて頼りになるそうだ。
 まったく字が読めないので、アリスティドが村の女性に出稼ぎに行く男性達の名前の縫い取りなどしてあげたらと言ったのはどうにもならないのだが、それを耳にしたユーリーが、カメリアやエルンストの書く達者な字を見て一言。
「皆さんに書いてもらって、それを持たせてあげましょうかー。似顔絵なんか、特に喜ぶと思いますし」
 と無責任に言い放ってくれた。もとより似顔絵を描くと言っていたカメリアに逃げ道はなく、エルンストはしばし考えた後に、村の興隆に役立つなら多少は手伝おうと頷いた。仮に嫌だと言ったところで、多分繰り返しお願いされる気配を感じたのかもしれない。もしくは、よくよく確かめたら市場で売買の仲介人に支払った手数料がごっそり抜けていた世間知らずぶりを多少は応援するつもりになったものか。
 似顔絵を描く板は、一日掛けて村の子供達が綺麗に準備してくれて、今度はヴィクトリアを捕まえて拝み倒しているカメリアの姿があった。

 翌日。祭りの当日。
「うーん、規模が小さい」
「練習にはちょうどでしょ」
 軽業師と吟遊詩人達が言い交わしているように、村を上げての収穫祭もキエフの祭りと比べると盛り上がり方がこじんまりしていた。村の真ん中の広場で焚き火をして、そこで煮炊きもして、大きいテーブルがないので適当に各家から持ち出したテーブルを並べて、椅子も普段本人が使っているのを運んでくる。来客分の椅子は教会からの借り物だ。
「誰かー」
 悲鳴は、後で踊ると宣伝に飛び回っていたシャリンの声。一番近かったエルンストが行ってみると、幼児二人に足と上半身を握られてじたばたしている。珍しい生き物を見つけて目がきらきらの幼児から、まず自分のフェアリーを避難させてからシャリンを助けたエルンストに恨みがましい視線を送っていたシャリンだが、体のどこも傷めていないのを確かめて一安心。
「まさか子供を蹴ったり噛み付いたりするわけにいかないじゃない。町の子供と違うって忘れてたわ」
 シフールを見慣れない開拓村の年端も行かない幼児相手では勝手が違うと零しつつ、シャリンは踊る準備に飛んでいく。行く先は、音合わせ中のアリスティドのところだ。
 昨日一日、あれこれと村人の話を聞いていたアリスティドと吟遊詩人は、その伝承などと合わせて奏でる旋律を相談中である。他にそれぞれの得意な曲も演奏して、一晩中でも歌い演奏する準備は万端だが、のんびりとご馳走が出来るのを待っている村人の様子からして夜通し騒ぐかどうかは分からない。
「キエフの流行と、ご領地の歌で判るものがあれば演奏しようと思うけど、誰か試しに歌える人はいるかな」
「十年くらい前にキエフで流行った恋歌が今も人気ですけれど、歌いだしはどうだったかしら」
 女性代官が首をひねると、吟遊詩人が幾つか歌いだした。その中の一つが目的の物で、アリスティドも耳にしたことはあるから歌はお任せで演奏を合わせる事にする。
 直火で焼き上げる素朴なパンが出来上がって、まずはお客人にと振る舞われて、ようやく祭りらしい雰囲気が漂ってき始めた。

 始めはちょっと珍しい食材も入ったご馳走をおなかに収めるのに忙しい人々に合わせて、のんびりした曲が流れる中、カメリアは冷や汗をかいていた。
「そんなに緊張しても仕方ないでしょうに」
「ち、注目されていると思うだけで、顔があげられません」
 じっくりと村の味付けを楽しんでいるヴィクトリアの横で、猫背になってスプーンを使っているカメリアは眉間に皺が寄っている。出稼ぎに行く村人に持たせるために似顔絵を描くことになって、試しに一人二人描いてみたら、なかなかの出来栄えだった。このくらい描ければと安堵したが、それを見た村人の期待が高まっているのを知って、今度は怖気づいてしまっている。注目されるのが苦手らしいが、似顔絵描きを手伝う手筈のヴィクトリアが堂々としているので、妙な光景だ。
 彼女がそんな風だというのに、広場の中央では、
「じゃあ、絵を描いてもらう順番を決めておきましょうかー。くじ引きですよ」
 ユーリーが呑気な声を上げている。
 いっそ描くべき人を指定してくれれば、その人の祭りの様子を観察して描くから勘弁してくれと言いたかったが、カメリアのそんな意見は誰も気付いていなかった。
 なにしろヴィクトリアはすでに子供達の祭り用の衣装の模様や作りを眺めて、簡単に絵を描いている。エルンストとは、その特徴について注目点など語り合ってもいるし。
 しばらくして。
「さー、踊るわよー」
 見てなきゃ損するからとシャリンが小さい体から大きな声を張り上げ、アリスティドが竪琴をかき鳴らす。食欲が満たされた人々は、軽業師のこっけいな動きに散々笑った後だが、シャリンへと目を向けて。
「少し一緒に踊って、緊張をほぐして来たらどうだ」
 手が痛くなるのではないかと思うくらいに手拍子や拍手をして、段々と統一感はないが広場の中央に出てきて踊り始めた。
 それに混じったらどうだとエルンストに勧められたカメリアだが、その頃にはすっかりと皆の笑顔を描き止める作業に没頭している。ヴィクトリアは、踊りの振りまで書き付けて、絵を描くのと記録を取るのに忙しい。
 やがて村人達が交互に歌い出して、その順番でもめたこともあったが、深夜まで賑やかに祭りは続いたのだった。