プロポーズ大作戦〜マント領主と‥‥

■イベントシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:24人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月27日〜10月27日

リプレイ公開日:2009年11月08日

●オープニング

 ゆるゆると風にたなびく薄雲が流れる空は、深い深い夜色を淡やかに染まる。
 淡い紫紺に染まる宵の空には、まるで貴婦人がショールを纏うように薄雲を纏った月が灰かに輝き、星々も綺羅と光を零す。空から降る優しい光とともに、大地に灯るのは月道渡りの東国で仕立てられた色紙に覆われるキャンドル達。飾らぬ光に照らされて、夜闇に姿を見せるのは、この季節にこそうつくしい庭を持つノルマン王国の離宮の1つ。王家に仕える事を誉れとする国でも指折りの庭師達が、情熱を注いで作り上げた庭は、秋の絢爛に華やぎ、黄金から深紅に染められた峻峰をそのまま写したかのよう。けれど、鮮やかな色彩の見事な庭は今、やわらかな光によって優しい色に染められていた。
 かように優麗な庭には繊細なつくりの東屋が置かれ、そこへと至る遊歩道は愛らしくも珍しい薄紅の岩敷き作り。ふらりと散策に足を踏み出せば、染まる樹木に劣らぬ見事な貴紫色が広がる。咲き誇るのはアメジストセージ。ベルベットのごとき花弁を、涼やかな風に揺らし優しげな音を奏でる。花の音色に負けず涼音を響かせるは、秋の虫達。誘われるままに庭を抜け、薄紅の道を辿れば、壮麗さは王宮に叶わぬまでも、直線ではなく曲線を交えて描かれる造りがとても女性的な趣を与える優美な宮がそこにあった。
 優しい色合いに満たされた、優しい造りのうつくしい宮ならば、若い男女が恋を語らうにどれほどふさわしい事だろう‥‥。



「漸く離宮の出番がきた」
 重々しく口を開いたのは、フランと楽しい仲間達筆頭・通称‥‥赤様。
 別名・お見合い爺。
 隊の中枢メンバーが勢ぞろいしているのは、かの英国を倣った円卓‥‥ではなく、赤様が絶対的な位置取りを占めている長テーブル。末席を占めるのは、赤様に頭のあがらない独身者ばかりである。
「無論、差配に抜かりはございませんとも」
 世論を問う為、まずは民に近く貴族に近い冒険者達に王妃候補について是非を問うた仕掛け人は、にっこりと人の良い笑みを浮かベカ強く請け負った。かの人物、通称・灰。
 王家の離宮の1つを整える采配を終え、冒険者酒場での集計結果を仲間達にまわす藍は秘密結社的な雰囲気に馴染めないのか、あるいは赤様のプレッシャーによってか、眉間にしわが寄っている。
「新たな自薦、推薦候補者はなく。フラ‥‥灰殿が挙げられた候補者それぞれに賛否含めて票が入っている」
 赤様の鋭い眼光をかわす様に、さらりと羊皮紙に視線を落した橙は結果を見て僅かに首を傾ける。
「冒険者達の支持は、圧倒的に聖女殿‥‥か」
「けれど、藍殿が言われるとおり支持者のいない候補者もいないんだね」
 相応の視点をもって捉えられた意見が並んでいるのをみた緑がぽつりと呟いた。
「それぞれ、利点、難点がある。全て踏まえた上で陛下に決めてもらい、決まらねば先の公約どおり我らで決めた候補を王妃としてもらうしかあるまい。情勢からやむをえなかったとはいえ、春から秋まで随分延びたが‥‥今年中には妃を決めてもらわねば!」
 卓が軋むほどの勢いで、拳を叩きつけた赤様は、断固とした口調で宣言した。

 4日間、王は執政後に離宮に渡る。
 離宮で開かれる今回の夜会は、戦役の慰労を兼ねて開かれる。
 離宮の警備は、ブランシュ騎士団が行うため、騎士や貴族、冒険者達は夜会を十分に楽しんでもらいたい。

 というのは表向きの理由。
 それぞれの王妃候補者が想いを告げる手伝いをして欲しいというのが本当の依頼。
 各日、それぞれの候補者が王と語らう時間をもてるよう協力して欲しい。
 離宮の夜会には貴族や国の有力者が集うため華やかな席にはなる。
 そのため、王が王妃候補と過ごす時間を妨害したり、夜会に参加する他者の迷惑になる行動を取る者がいた場合、問答無用でブランシュ騎士団が叩き出すので注意されたし。


●今回の参加者

マナウス・ドラッケン(ea0021)/ リーディア・カンツォーネ(ea1225)/ ディーネ・ノート(ea1542)/ クリス・ラインハルト(ea2004)/ ユリゼ・ファルアート(ea3502)/ シェアト・レフロージュ(ea3869)/ ジュディ・フローライト(ea9494)/ リリー・ストーム(ea9927)/ フルーレ・フルフラット(eb1182)/ 十野間 空(eb2456)/ カイオン・ボーダフォン(eb2955)/ フィーネ・オレアリス(eb3529)/ 明王院 月与(eb3600)/ シェリル・オレアリス(eb4803)/ リディエール・アンティロープ(eb5977)/ アーシャ・イクティノス(eb6702)/ リア・エンデ(eb7706)/ 鳳 双樹(eb8121)/ レア・クラウス(eb8226)/ サクラ・フリューゲル(eb8317)/ セイル・ファースト(eb8642)/ エルディン・アトワイト(ec0290)/ エフェリア・シドリ(ec1862)/ アイリリー・カランティエ(ec2876

●リプレイ本文


『陛下がどんな道を選ばれても‥‥ウィリアム様でいらっしゃる限り、私に出来る限りでお助け致します。どうぞお心のままに進まれて下さい』
『人の生き死にも、心も国の利益のために操ることがあっても‥‥それを貴女に問うのは、愚問だったね』
『時々は息抜きを致しましょう。ご一緒にお忍びで歩いたパリの街並みは私にとって大切な思い出です、若君さま』
『それは魅力的な申し出だけど‥‥この先ずっと友人でも?』
『その時は国と王室を支えるために頑張りますね。お忍びは、たまにだったらお付き合いしますから!』
『そうか。友人だとたまにしか付き合ってくれないんだね』


『テレパシーリングだったら、こっそり愚痴もお聞きできますよ?』
『わざわざ愚痴を聞きに来てくれたわけではないだろう? 何かご要望があればどうぞ』
『それはそうなのですが‥‥ええと、それじゃあ、あのですね‥‥今だけ、名前で‥‥‥ウィリアムさんって呼んでもいいですか?』
『それは、嫌だ』
『そ、そそそそうですかっ、あのその』
『ウィルでよいよ。子供の時はそう呼ばれることも多かったしね。せっかくだから、そう呼んでくれるかな』



●宴の化粧が済まぬ頃
 夜会の始まる時刻間近になっても、会場である離宮に招待客の姿はほとんどなかった。招待された者は開催の時刻に合わせて、馬車で乗りつけるものが大半。今忙しいのは準備に追われる使用人達と、万事に過不足なきようにと目を光らせているブランシュ騎士団赤分隊長ギュスターヴ・オーレリー(ez0128)である。
 現在お妃候補と目されている四人は、それぞれ控えの間が用意されていて好きな時に出入り自由だから、関係者という名の侍女や護衛、冒険者達と一緒に多くが離宮に入っているようだ。その四人と直接関係はなくとも、離宮にいる冒険者は他にも何人かいて、ユリゼ・ファルアート(ea3502)もその一人だった。宮廷医の一人と、歓談と言う名目の薬草談義に花を咲かせている。
 元は人が集まる席では何かと入用になるかもしれないと持ち込んだ薬草の確認をユリゼがギュスターヴに頼んだのだが、そうしたものにたいして詳しくない赤分隊長は宮廷医と話をするようにと引き合わせてくれたのだ。正確には、そう部下に命じてくれた訳だが。
 そして結構妖艶といえなくもない女性宮廷医殿は、ユリゼの持参した薬草を全部検分して、幾つかを預かってしまった。気付けに有効な薬草だが、『刺激物は駄目よ』と本人の控え室で鍵の付いた箱に仕舞っている。
 国王の体調が急変するようなことがあったら、あの薬草を飲ませたと疑われるかもしれないからかと思い至ったのは、しばらくしてから。それまでは人酔いした患者が出たらどうしようなどと悩んでいたが、
「正式な夜会だものねぇ」
 ブランシュ騎士団副団長主催で、国王出席の夜会。格式の高さは、きっとすごいものなのだろう。
 でもユリゼがしたのは、橙の分隊関係者を探すことだった。

 未だ準備が忙しい離宮には、主賓の国王は宴の始まる時間にならなければ到着しない。そう使用人に告げられて、手持ち無沙汰になったのがアイリリー・カランティエ(ec2876)とマナウス・ドラッケン(ea0021)だった。妃が誰に決まるかや自分の売り込みに熱の入った貴族とよりは、自分が時間潰しの相手になったほうがいいだろうとか、年貢の納め時で緊張していたら解して差し上げようとか、あれこれ考えていたのだが、当の国王がいないのでは話にならない。執務の後でやってくるわけだから、そういうこともあるかとそれぞれ自分の時間潰しをしなくてはと悩む羽目になったのだが。
「仕事が予定より早く終わったから、他の用が出てこないうちに出て来ただけだよ」
 マーシー一世にでも見付かったら、それこそ延々と娘二人の話を聞かされるから、貴族用ではなく冒険者向けの控え室の一つを陣取ることにした国王ウィリアム三世は、
「それならば、チェスなどいかがでしょう?」
 礼儀正しく申し出たマナウスに鷹揚に頷いた。面識があるアイリリーも同席することになったが、二人とも落ち着かない。部屋の中には侍従の少年が、外には護衛が気配はほとんどさせないが控えているのだ。少なくとも、今日この日というか、四日間はどこにも『お忍び』などもっての他と、目を光らせている様子である。
 これは大変だと思うか、よくこれを掻い潜って『散歩』に出られると呆れるかは性格にもよろうが、なかなか世間話も出来やしない。やれやれと思いつつ、アイリリーにチェスの説明を交えながらマナウスが駒を操っていると、侍従が飲み物の支度に席を外した。
「なんだい?」
「よく息が詰まらないなと思ってな」
 普通の口調で話しても今だけは大丈夫そうな様子だったので、マナウスが正直なところを口にすると、アイリリーも頷いた。先日彼女が国王に会ったのは視察旅行中で、これ程の付き添いはいなかったから、そうしたものだと思っていたのだ。
「コンコルド城に落ち着いてからはこれが普通だから、息が詰まることはないな。ただ時々街の喧騒が懐かしくなるよ」
「それって気晴らしがしたいってことだよね」
 どう違うのかとアイリリーが口走ってしまった時には侍従が戻ってきていて、背中に目がなくても分かるような注視が注がれた。取り繕う余裕がなくて、無意味にじたばたしているアイリリーのことは見えないような態度の国王に倣って、マナウスも素知らぬ振りをする。となれば侍従も見なかった振りをすることにしたようで‥‥
 その後は緊張してしまったアイリリーにチェスをまた説明してやっていたものだから、結局勝負はつかずじまいだった。

●宴の化粧の只中
 夜会そのものは、季節柄おおむね屋内で行われる。だが庭園やテラスにも煌々と明かりが灯され、あちらこちらに花が飾られていた。庭師が忙しく歩き回って、観賞用とは別に育てられている切花用の花々を携えて、飾りつける使用人に渡している。
 そうした庭師と一緒に移動するリア・エンデ(eb7706)とクリス・ラインハルト(ea2004)は、こちらも綺麗に咲き誇る花を前に、それぞれが今回応援すると決めた相手のために花を選んでいた。リアは白の野薔薇、クリスは薄紅の大輪の薔薇を。
「こちらは四日目に満開のものをお願いします」
「今から使うのなら、どの花がいいかなぁ?」
 他にも細かい注文が入ったけれど、庭師は慣れた様子でそれぞれの希望に叶う薔薇の株を見付けてくれた。
 表側の庭園の一角、建物から見えていて、つぶさには中の様子を知ることが出来ない東屋にてリディエール・アンティロープ(eb5977)が花瓶を前にじっと佇んでいた。マント侯爵家のクラリッサ・ノイエンの従者として、離宮の使用人とは違うお仕着せで東屋の飾り付けに臨んでいるが、これがなかなか難しい。結局慣れた人に変わってもらい、頼んで用意してもらった香草茶のブレンドと、友人に託されたローズキャンドルの置き場を確かめる。
 後はクラリッサが国王と話をする間、肌寒くも暑くもないように、東屋を暖めておくことが彼の役割だった。

 屋内で人目に立つことなく、ゆっくりと話せる場所がよいとの十野間空(eb2456)が告げた希望に、ギュスターヴが示したのは夜会の主会場から程近い扉がない部屋だった。壁の一面が主会場の大広間から、ほんの小さな通路めいた部屋を挟んで開いており、ある意味覗き放題だ。部屋のしつらえは素晴らしいし、控えの小部屋があって何か供するにも不自由はなさそうだが、その気があれば覗けてしまう場所はいただけない。下手をすれば、国王を訪ねることも出来そうだ。
「うら若い娘が男と一室に籠もっては外聞が悪い。そこなら誰にはばかることなく、二人で話が出来るぞ」
 内緒話は人目がないところの他に、こうした場所も向いているのだとギュスターヴは十野間の視線を広間から部屋に繋がる辺りに移させた。
「楽士はあの辺りに配置される。何人か演奏したいという者がいたから、話は通しておいた。反対側に卓と椅子を置いて、騎士団長殿か分隊長のいずれかが座っておれば、聞き耳も立てられまい」
 国王と話し相手両方の外聞に配慮しつつ、話している中身は余人の耳に届かないよう、また様子も確かめられるようにする方法の一つだと、十野間はそう教えられた。

「とても素敵ですよ。これなら‥‥」
 クラリッサが領主である以上、当然彼女に常日頃から付き従う女官などが今回も同行している。そしてマントは銀細工職人の街。宝飾品は夜会にふさわしい物が多数持ち込まれていたが、クラリッサが手にしたのはアーシャ・イクティノス(eb6702)がにこにこと差し出した魅了のピアスだった。他の飾りは持参の中から選んで、薄紅色のドレスと魅了のピアスとに合わせている。
「今までも随分助けていただきましたもの。きっといいお守りになります」
 微笑と共に、当然のようにこれまでの幾つかの出来事への協力への感謝を述べ、それを態度でも示すクラリッサに、かえってアーシャの方が軽口が叩けなくて困ってしまう。いつもならぽろりと言っているところだが、女官の皆様がじっと見るので『王様も惚れる』なんてことは口にし難い。耳を先だって入手の付け毛で隠している手前、あまり睨まれたくもないし。
 そろそろ夜会が始まると知らせに来たシェリル・オレアリス(eb4803)が目を細めたように、クラリッサは清楚に飾りつつも、一領地を背負って立っている者の堂々とした立ち居振る舞いを見せていた。

●宴の華やかなりし始まり
 この夜会が国王の妃選びの場であることは知られているはずだが、招待客の貴族達はそのことにばかり関心がある様子ではなかった。ブランシュ騎士団分隊長達の目が光っていることもあろうし、妃候補に娘二人を送り出したマーシー一世の機嫌を損ねたくない者も少なくなかろう。国王本人の意向も、きっと関係しているに違いない。
 それでもクラリッサがその身分にふさわしい時間に会場に姿を見せれば、好奇の視線はそこここから失礼になる一歩手前の勢いで注がれてくる。
 同様の視線は、その傍らに控えるフィーネ・オレアリス(eb3529)にも向かうが、髪を大きく結った彼女の耳に気付いた者はいない。クラリッサに挨拶に来て、神聖騎士だと紹介されれば、かなり丁寧に遇してくれる。かえってあれこれ話しかけられても、国王がやって来てからクラリッサをそちらに向かわせる障害になりそうなので、生真面目に話を聞いているクラリッサには申し訳ないがうまい具合に話を切り上げていたけれど。
 聖職者ゆえにやはり丁寧に遇されていたエルディン・アトワイト(ec0290)は、国王到着の知らせの後、社交で必要だろう会話が途切れたのを見計らってするりと近くに寄って行った。ぴかぴかの聖職者らしい笑顔に服装、物腰と揃えた上に、国王も一緒に薔薇園を巡った神父の顔は憶えていたようだ。聖職者への礼儀かあちらからも歩み寄ってくれた。
「お久し振りです、陛下」
「名前はよく聞いていたよ。各国の者を分け隔てなく癒してくれたことに、感謝している」
 地獄での戦いに連なる四方山事から、街中の収穫祭の賑わい、教会での行事などと話が移って、他の者も交えての会話がしばらく。
 やがて踊るための曲に楽士の演奏も変わっていき、一人二人と会話の輪を外れて、国王も誰と踊るのかと思えば、まずは自分の乳母を誘っている。その曲の後にはヨシュアス・レインがどこぞの令嬢と踊りだしたのに皆が目を奪われた時。
「後で、冒険者の女性と踊ろうと思うが、誰がよいものか助言を頼むよ」
 エルディンが勧めるより先に、するりとクラリッサの元に歩み寄った国王は、そのまま二言三言交わして、連れ立って広間から滑り出て行った。
 席を外していた間は半時間もなかったけれど、クラリッサが髪に挿していた白い薔薇が薄紅色に変わっていたのと、国王が白い薔薇を一輪携えていたのを見て、安堵の吐息を漏らしたのはエルディンやフィーネだけではないだろう。

●宴の終わりを飾るため
 夜会も三日を終え、妃候補と目されるうち、三人は国王となにかしらの話をした。どんな会話だったかはわざわざ探ることでもないが、その三人にリーディア・カンツォーネ(ea1225)を加えた四人が互いに和やかな雰囲気で挨拶を交わしたりしていることは、十分余人にも知られている。
 クラリッサがリーディアに何か贈り物をしたとも漏れ聞こえ、マーシー公の娘二人はもとより平然と『国のためなら側室でも』と口にしていたのを耳にした者もいるし、リーディアは地獄の戦いでノルマンの騎士、兵士を多数救った癒し手のまとめ役だった。いずれもが王妃にするには難点の一つ二つを抱えているのも、貴族の間では知られているが、誰かを推すためにそれをあげつらうことはし難い雰囲気になっている。中には自身の見合いを用意されている者も少なくないようで、口さがない噂話に加わっている場合ではないこともあるのだろう。
 そうして四日目ともなれば、毎日招かれている者達はゆったりと歌や料理、他の者との会話や踊りを楽しんでいるが、今日こそ慌しい者達もいる。
「これ、緊張なんて吹っ飛ぶお守りなんだけど‥‥どうかしらねぇ」
「色が浮いてしまいますね。ドレスの中に隠しておきましょうか」
「花に沿わせると、映えるかもしれませんよ」
 多分恋敵になるクラリッサから、白と赤の薔薇が金の飾り文字のカードと一緒に届けられ、綴られていた感謝や励ましの言葉にかちんこちんになっているリーディアを真ん中に、ディーネ・ノート(ea1542)とジュディ・フローライト(ea9494)、フルーレ・フルフラット(eb1182)が真剣な顔で相談している。当の本人が口をパクパクさせている間に、あれやこれやとドレスに付ける造花の飾り付けをどうするかの話が進んでいた。
 傍らでは、庭師の厚意で用意された山盛りの薔薇の花びらを相手に、リーディアの付ける造花に香り付けを試みている鳳双樹(eb8121)もいて、控え室は先程から賑やかだった。早い時間から詰めている彼女達のために、料理人の心尽くしの軽食が並んでいるが、食べているのはもっぱらディーネ。リーディアは緊張のあまり果物を少し摘んでいるくらいだ。
「こんな‥‥感じに、なる‥‥はず」
 皆がああだこうだと衣装を吟味する話を聞いて、エフェリア・シドリ(ec1862)がどんな様子になりそうかを絵に描いて見せている。華美にならず、あくまでも清楚な装いを念頭にしたものだが、冒険者でもクレリックのリーディアには素晴らしく華やかに見えたらしい。随分と弱気な発言が目立つので、周囲が励まし、宥めすかし、気合を入れたり、緊張をほぐす様に与太話を持ち出したり、あれこれするのだが効果は今ひとつ。
 そうこうしている内に、夜会が始まる時間が近付いて、この期に及んでじたばたし始めたリーディアに、皆でドレスを着せ付けて、髪を結い、あちらこちらから集めた装飾品の中で一番似合うものを着けさせる。最後に香水を少しつけさせて、見た目の準備は万端だ。
 ここからグッドラックを付与したりもするが、効果がきちんと発揮されたのかはいささか微妙に見える。
「落ち着いて、思いを伝えてきてくださいね」
 双樹が口にしたのは、他の人々と大差のない言葉だが、そう言われること十人近く。ようやく言葉が心にも染みてきたらしいリーディアは、これまでの三日で多少は慣れてきた様子の夜会会場へと向かっていった。
 もちろん準備に忙しかった人々も、それぞれに目指す位置へとにこやかな笑顔で進んでいく。リーディアが緊張せずにいられる様な雰囲気を全体で作り出す気概と共に、『我らが隊長を苛める奴がいたら許さない』という気持ちも持っていた。

●宴の終幕
 四日目の宴には、今までとは少し違う趣向が用意されていた。これまでは踊りといったら集った人々が踊る宮廷のダンスだけだったが、本日は演目としてレア・クラウス(eb8226)の踊りが追加されている。演奏も宮廷の楽士ではなく、カイオン・ボーダフォン(eb2955)とシェアト・レフロージュ(ea3869)の笛と竪琴で。歌はサクラ・フリューゲル(eb8317)が添えることになっていた。
 宮廷で日頃聴く音楽とは異なる曲に、上品さより闊達さが前面に出た小気味よい踊り。それでいて柔らかな調子で平和を歌い上げたり、心弾むような希望が感じられる演奏に踊りが合わされる様は、目と耳を楽しませてくれる。
 なによりも、聴く人、見る人を楽しませ、心安くしようという気持ちが十二分に詰まった趣向は、自身が踊らなくても多くの人の気持ちを弾ませた。特にこの日は目立っていたブランシュの緑分隊長は、絶妙の間合いで拍手をくれた。

  おやすみ 小鳥もさえずりひそめ
  あなたの安らぎを見守っている
  おやすみ 聞こえるのは花開く音
  あなたの心がほどける様‥‥

 そこから一転、涼やかな声が子守唄のような静かな調べを歌い上げると、人々は視線を自分の周囲に戻して歓談を始めた。
 まずは自らに課した役目を果たした人々には、少しの拍手が贈られている。

 夜会の席ながら温かい緑茶が供された卓には、五人が着いていた。
「やはりジャパンのお茶はあちらの人が淹れてもらうべきね」
「どうも、この取っ手のない器が馴染まぬな」
 月道渡りの最高級品だろう緑茶を前に、ギュスターヴが妻と味や茶器を云々と話している。その背後で緊張の面持ちで控えているのは、この日は侍女に扮装した明王院月与(eb3600)だった。まずは自分の淹れた茶が世辞ではない様子で誉められて、安堵する。
 そんな月与ににこやかな笑顔を向け、そのままオーレリー夫妻とヨシュアスとに堂々と対しているのはリリー・ストーム(ea9927)。隣席の夫のセイル・ファースト(eb8642)はやや緊張の面持ちだが、話題が茶談義であるうちは難しい宮廷話術も要さずにいるようだ。月与自身、よもやブランシュ騎士団団長と副団長に自分が茶を淹れる羽目になると思わず、茶器を持つ手が少し震えたが‥‥
 よく考えたら、国王に茶を供する時は対面に座るリーディアの様子が気になって緊張どころではなかったのを思い出した。今も振り返れば様子が見えるはずだが、リリーとセイルが表情一つ変えないのであれば問題はないのだと、無作法に後ろを向くようなことは避けておく。
 だが、堂々としているように見えるリリーとて、まさか自分がこういう状況になるとは予想しておらず、いささか途惑ってもいた。大事な友人をそしる輩があれば只では置かない気概はあったが、目前の三人は妃候補のいずれにも好意的に見える。少なくとも国王の信頼が厚いのは間違いがない。先程国王に対して、『陛下とリーディアが作る国がよい国であるように』と口にしたのは、ある意味不敬だったが『そなたらもだぞ』と取り成してくれもしたし。多分、ああいう言われようは国王が好かぬのだろう。
 とっとと相手を決めていれば、皆から言われないで済んだのだとは、後日別の機会に、今隣にいるのとは別の『ヨシュアス』に言えばよかろう。いっそ皆で責め立ててやりたい‥‥
 ファースト夫妻が、幾ら『ここで休めば、ご友人も安心だろう』と勧められたとはいえ、この雰囲気はちょっと辛いと思っていたら、話題は突然に二人のほうに向かってきた。セイルがイギリス生まれなので、いずれはあちらに戻るのかと、そんな問いかけだ。
「生まれは確かに違う国ですが、今は妻がいるこの国のために剣を振るう覚悟をしております。ノルマン王国は、そうした者を受け入れてくれる度量がある国だと信じておりますゆえ」
 妃候補の中で唯一他国、国交断絶中の神聖ローマ帝国生まれのリーディアが只それだけで不利になってはならじと、そんな思いも入っての言葉はまっすぐに三人に届いたらしい。
「親兄弟、わが子を失っておれば、どうしても許せぬという者もいようよ。それは他の三名も同じだ。そう言われてもなお、陛下の傍らにある覚悟があるかどうか、それが重要であろうな」
「十年、二十年もあれば思いも変わりましょうが、人の身には長い年月です。支え手は多いに越したことはない」
 リーディアにそれだけの覚悟が示せたかどうか、そしてそれを応援すると言った者達はこの先、顔を合わせる事が出来なくなっても支え手であれるのか。ちゃんと覚悟をして乗り込んできたのだろうなと、そう問い返すような物言い。
「私は、子が暮らす国を良くしたいと願っておりますわ」
「デビルに立ち向かうよりは、決めやすい覚悟と思う」
 地獄の戦いの前線を担う一翼であったのは間違いなく自分達冒険者だと、淡々と事実を述べ、他の皆がただ頷いただろう一言に、ブランシュ騎士団の二人は苦笑し、少しばかり表情を曇らせた。
「後詰めが基本の赤分隊でも三人除隊者を出した」
「私の部下も二人。灰と緑、紫はもっと多かったですし、黒は今も」
「‥‥殿方は、すぐに危険な話をし始めてしまうのよねぇ」
「そのうちに、新入隊の明るい話にせねばなるまいな」
 そんな話を自分達に聞かせていいのかと、セイルとリリーと月与がそっと視線を交わしあった頃になって、国王は内緒話を終えたようだった。


 しばらくして。
 クラリッサとエカテリーナ、フロリゼルの三人が供連れの冒険者達と共に装飾品談義に花を咲かせている輪に混ざったリーディアは、そのまま床にへたり込みそうになって、慌てた周囲に見苦しくないように椅子に座らされた。
「もういっぱいいっぱいですぅ」
 彼女の呟きには、三人ほどが頷いたようだ。