毒を断つ

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月01日〜11月08日

リプレイ公開日:2009年11月12日

●オープニング

 先日、ブランが眠ると古くから伝わるウラル山脈の方向からキエフに向けて、広範囲の町や村に毒が入った食料を支援物資だと偽って配布し、多大な被害者を出す事件があった。
 かなり重篤な被害者も多く出たが、死者数は両手で数えられるほど。そのために救済の人手がなかなか追いつかず、一部は冒険者ギルドにも依頼が出て、ようやく沈静化した。
 この問題に対処する貴族、騎士、役人達の一部では、わざと死者が出ない程度に被害を抑えて追跡の手を鈍らせ、救援用に多大な物資を消耗させたのではないかと見る向きもあるが、真実はどうあれ多くの人が助かることは喜ばしい。国王はじめ王族や近隣公国の大公に連なる人々も、当人達は座して動かずとは言え資金や物資を出し、人を遣わせてのよい結果に、まずは安堵したようだ。
 だが、この事件で実際に毒入り食料を配布して回った連中は、今だ一部しか捕縛がなっていない。当初の捜査では十名ちょっとの男女と思われていたものが、どうやら外見、特徴を似せて小集団を幾つか形成していた三十から五十名近い集団だと判明したからだ。
 暗黒の国と呼ばれる森の中やあちらこちらの街道、小さな村に繋がる小道なども舞台として、その犯人達を追い詰めてきたロシアの騎士と役人達は、ようやくほとんどの相手を一つところに追い込んだのだが、そこで睨み合いになってしまった。

 示された地図には、古い砦を示す印が描かれていた。
「この砦は‥‥昔、こちら側の集落が改宗を拒んで敵対していた時に建てられたものかしらね」
「おおよそ百年前に建設で、用がなくなったのが七十年位前だそうですが」
「そうそう。亡くなった夫との結婚が決まったのに、あの人がこの砦に詰めていて顔を合わせる機会もなくて。それで憶えているわ」
 冒険者ギルドマスター・ウルスラの昔語りに付き合う羽目に陥った受付が、どういう返答をしたらいいのかと忙しなく視線を周囲に配ったが、誰も助け舟を出してくれる気配はない。目をそらしたり、反対に野次馬根性を発揮して身を乗り出したりと様々だが、若い人間の受付の心中を思いやってくれることはないようだ。
「攻めるに難しく、守るに易い。理想的な立地の砦だけれど、ここに立て篭もられたのでは辛いわねぇ。この辺り、水源が砦の泉しかないはずだし」
「よくご存知ですね」
 ウルスラがエルフで亡夫は人間で、何人いるのか諸説ある子供達は当然ハーフエルフ。寿命の違いすぎる家族構成はロシアでは珍しくないが、それとて主に貴族社会でのこと。庶民の受付には、どう会話を進めればいいのか迷うので、当たり障りのないことだけ口にしていたが、
「依頼書の注意書きに追加しなさい」
 やおら突然、仕事の指導が入ってしまった。
「内部の見取り図は古すぎて当てにならないわね。近隣の集落の者に尋ねたほうが正確でしょうけど」
「それは依頼人側で進めていて、現地で確認できるそうです」
「‥‥」
「書きます、これは覚書ですぅ」
 受付になれば一度はやられるウルスラの注視の中での依頼書作りに、受付はみぞおちの辺りを押さえながら必死に取り組んでいた。

 問題の砦は、キエフから歩けば三日弱。今回は軍勢移動の馬車に同乗可能なので、一日半で到着する。
 依頼開始から三日目を目標に、キエフと近隣から派遣された騎士団、弓兵などの攻撃が始まる予定だが、状況により半日程度前後する可能性がある。
 内部にいる者は男女合わせて、約三十五人から四十人と推測されるが男女比は不明。これまでに戦士や弓兵、火と地系の精霊魔法使いが一人ずついることは判明している。また事件の経緯から、毒物に詳しい者が複数いると推測される。
 砦は地上三階、地下一階建て。おおよそ百メートル四方の厚い城壁の中に、中庭を囲む形で建物が建っている。門は二つあるが、一つは石化されており開閉不可能。
 城壁上部は歩哨用の通路があるが、現在も使用可能かどうかは不明。
 内部に立て篭もった者達の態度から、援軍が来る気配が濃厚であり、早期に討伐する為の援軍として、冒険者に依頼が出たものである。

●今回の参加者

 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7789 アクエリア・ルティス(25歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec5382 レオ・シュタイネル(25歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)

●リプレイ本文

 先んじて移動し、現地の状況確認に努めた者もいたが、作戦詳細は砦攻めに参加する全員が揃ってから詰められた。
「中の連中は全部死体でも構わないんだな」
 オラース・カノーヴァ(ea3486)の確認に、指揮官はあっさりと頷いた。あまりに簡単に返され、アリスティド・メシアン(eb3084)やレオ・シュタイネル(ec5382)はそっと息を呑んだが、国や種類は違えどナイトの叙勲を受けている他の三人はごく当然の顔で頷いた。内面はどうあれ、説明を受けた限り砦に立て篭もっている輩が捕らわれた後に助命される可能性はない。被害者達が事件の解決を実感するための処刑に必要だから生かして捕らえろと言われるよりは、殲滅の方がまだ易いことでもあった。
 そう思うのは、周囲より高い位置に建てるという基本を守った砦が、明らかに相手有利な立地を作っているからだった。
 当初、アリスティドの魔法で内部にレオとアーシャ・イクティノス(eb6702)を潜入させられないかと相談していた冒険者達だが、実際に砦を見ると内部を窺える場所がない。門は見えるが、図面で見ると壁は厚さが二メートル近くあるようだ。簡単に壊して侵入とはいかないだろう。
「これを使う人がいれば、持っていって」
 どうも魔法の使い手も苦労することになりそうだと、アクエリア・ルティス(eb7789)がソルフの実を幾つか取り出した。オラースのミスラが使うかどうかは分からないが、魔法で内部を探ってくれるというし、後方支援のクレリックが必要になることもあるだろう。オラースもポーションの提供を申し出た。
 その後も偵察が続けられ、敵方が不定期で砦壁の上を巡回していることは判明した。時間や人数はわざとその時々で変えているようで、いつ、どこが死角と言う事はない。目視では、弓手がほとんどだ。サンワードでは一度もウィザードが見付からず、建物内部にいるのだろうと推測された。
 その間にレオとアーシャは指揮官が引き合わせてくれた数人と面会し、建築と戦地の工作にそこそこ詳しい弓手兼レンジャーを二人、同行させることになった。砦内部までアリスティドの魔法で送ってもらうことは出来ないから、人数が多いのは侵入を勘付かれる危険性が増すのだが、どう見ても砦の門は補強されていてレオとアーシャの二人だけで素早く開けることは困難だと見えたからだ。
「扉は外から開けるのも難しそうですし、役に立ちませんか」
 魔法で四人を壁まで送り出すことになりそうなアリスティドは、ドヴェルグの黄金を差し出した。
「これ、使ったらなくなってしまうものでは」
 戦い前の高揚感を『わくわく』と表現して、冒険者はともかく他の人々からなんとも言えない顔をされたアーシャだが、流石に高価な品を預けられては確かめる。それでも構わないと言われれば、身が引き締まる想いだろう。どちらかと言えば穏やかな表情だったのが、ややきつさを含んだ顔付きで門周囲のどこが仮に発見されても弓が届きにくいかと弓兵達と相談を始めた。
 かたやレオは開いた門を戻されないための細工を、一緒に行動する二人とどうするかと悩んでいる。ミスラに細かい質問をして、門の向こう側の様子を確かめようとしているが、なかなかはかどらないところだ。
「頼むぜ、ここで見付かるわけにはいかないんだよ」
 砦の中も、どこまでこちらの戦力を掴んでいるかは分からないが、元から睨みあっていた兵士達を警戒する態勢に変わりはない。増援は気付かれないように細心の注意を払い、騎獣も後方に控えさせているが、ミスラは砦近くに来ている。今はレオが色々問い掛けている訳だが、魔法の発動光をまったく気にしないのでふらふら飛び回らないように見張らなくてはならなかった。
 合間には、レミエラを使う者同士で、そちらの発動光が暗がりでも目立たないように、マントの羽織り方を注意したり、それ以外の発光するアイテムがあれば布を巻くなど、細かい準備も多い。特に内部に最初に潜入する予定の四人は慎重に準備をする必要もある。
 この間に、アリスティドはオラースと水路を確かめに行っていた。そこから敵が逃げたり、攻めてこれるものならば塞ぐ必要があると考えていたが、砦から流れてくる水は小川程度のもの。それを溜めるために掘り入れられた大きな甕から水を汲んでいたようだ。懸念していた事柄は、先からいる騎士にも杞憂だろうと言われていたが、念のために複数の目で確かめたいとは指揮官達も考えていたらしい。
 それと、周囲の植生や様子から、毒が入っているかどうかを確かめてほしいというのも頼まれていた。植生はアリスティドが、周辺の様子はオラースが猟師の目で確かめて、今のところ異常はないのを見て取った。特に小動物の水場になっている様子に変化がなく、毒の混入の危険性は低くなった。警戒して、この水を使わないことに変わりはないものの、毒が混入したかどうかで周りの集落の今後の生活に関わるから、討伐が無事に終われば後日は正式に調査をする人員を回して欲しいところだが。
 後は月が自分達に都合よく巡ってくれるのを祈りつつ、見付からないように息を潜めて休息を取るのが仕事になった。

 アリスティドの予想もミスラの魔法も、天気は夜が明けてから崩れ始めると告げていた。戦闘が長引けば視界が悪くなるから、早い時間で片を付けたいところである。
 砦の壁の上を灯りが移動してしばし後、他に気配がないことを目のよい者達が目視で確かめて、アリスティドに合図を送る。彼の傍らには、アーシャがドウェルグの黄金を、レオがスコップを、他の二人が油や杭、ロープなどをそれぞれの武装の他に持って潜んでいた。
「扉は内開きだ。身を隠すところがなければ、空いた隙間から外に回って押すんだぞ」
「でも」
「私は姿を消せるし、この中では打たれ強いですよ」
 冒険者に比べれば隠密行動の為に装備が薄い二人は、扉を開けるときには出来るだけ安全圏に。自分達も危ないところに留まるつもりはないが、もしもの時の順序は明朗にしておいたほうがいい。
 扉に取り付ければ、アリスティドのテレパシーを介して、オラースがウィングシールドで駆けつける手筈にはなっていた。彼に扉の蝶番を壊してもらえば、再び閉じることは出来ないから、味方が一気に雪崩込める。
 アリスティドが低く呪文詠唱をして、レオ、アーシャ、弓兵の二人の順で砦の壁が作る影に送り込む。そこからどうしているかはテレパシーで伝わるものの、全員には周知出来ずにじりじりと待つこと半時間。
「行けっ。危険なところは避けろよ」
「オーブ、お願いしますよ」
 蝶番に油を注いでも、やはり音が響く。同時にオラースがペガサスを上空に放ち、自身はアリスティドの乗るグリフォンと並ぶように低空を飛んで砦へと向かう。扉の位置を示すように輝くのは、アーシャが持っている輝きの石だろう。
 ここまで音がすれば、もう潜んでいる必要なしと、動きの邪魔になるレミエラ隠しの布などは取り払って、アリスティドは壁の上を、オラースは扉を目指す。
 背後では、
「さて、出番が来たわよ! 全員、ついていらっしゃい!」
 アクエリアが気勢を上げていた。騎乗が基本の騎士だが、砦内部に入るなら馬は不要とばかりに歩兵の一団を率いるように走っていく。実際に炎を纏わり付かせた剣を掲げ、白いドレスを翻す姿は目標にするのによかったが、それは敵とて同じ。盾のない彼女の両脇には、幅広の盾を掲げた兵士が付き従って遅れることなく進んでいる。
 彼女達の頭上では、砦の弓手目掛けて、弓兵達が盛んに放つ矢が先んじて砦に飛び込んでいく。誰か味方に当たらねばいいがと思うより先に、自分達が敵の矢に当たらないようにするのが大切だった。
 だが、内部に潜入した四人がどう苦心惨憺したかが余人に伝わるより先に、砦攻めの戦力は周辺警戒の者を残して、大半が門まで辿り着き、中にはすでに内部に進攻を果たしていた。
 と、ほぼ同時に。
「上、来るぞ!」
 塀の上でイリュージョンの魔法を使っていたアリスティドと、多少の難はあれ無事に最初の任務を果たして塀の上に上がったレオとが、速やかに砦の上階窓に取り付いたオラースの叫びに、かたや騎獣を上に飛び上がらせ、かたや身を投げ出すように伏せた。暗い中のこと、二人も建物の中に魔法の発動光を目にしたから素早く動いたが、それでも飛んできた炎の塊が壁を壊して瓦礫を周囲に降らせる。
「舐めんなぁっ!」
「もっとも近いウィザードをっ」
 レオが光の見えた方角に、三本の矢を放つ。当たらなくても、足止めが出来ればよい。後はアリスティドのムーンアローが傷を負わせ、中に一足先に入り込んだオラースが片を付けてくれるはずだ。魔法使いを先に無力化するのは、オラースの指摘通りに大切だ。
 同じ頃、アーシャとアクアは扉の内側で合流していた。輝きの石やバーニングソードを掲げている女性騎士二人が隣り合うと目立つことこの上ないが、予想外に襲ってくる敵はほとんどいない。
「逃げるつもりでしょうか」
「そんなことはさせないわよぅ」
 どこかに隠れていないか、逃げ道を用意していないか。砦の内部を探すのだと、走りこもうとした二人を慌てて止める兵士達がいる。アクアが先に立っては明らかに危険だと、先頭を変更するためだ。灯りは元々使用していたものを落としたのか、床で小さな炎を上げているものが二つ、三つだが、外は夜明けが近い。新たに灯を準備する間を惜しんで、一階部分を駆けた。
 二階はすでに、彼女達に先んじて中に入り込んだ騎士達が、馬から飛び降りて向かっている。

 隠し扉はないかとムーンアローを使ったアリスティドは、自分に戻ってきた光の矢を受けて、ほっと息を吐いた。直撃すれば痛いだろうが、こういう依頼ゆえ装備は厚く痛みはない。
 それからもう一人魔法使いがいるはずだと、今度はそちらを指定してのムーンアローに切り替える。今度は戻らなかったので、効果を上げてもう一度。その軌跡を追うように、数人が武器を片手に走っていった。
 だが。
「地下だ!」
「そうか。地下室が使えたか」
 下手をすれば、そこに『隠し扉ではなくなっている』避難路があるかも知れず、アリスティドはムーンアローを続けて唱えつつ、地下室への入口を探して建物内に入った。中庭にグリフォンが置き去りだが、襲ってくるものがいなければじっと待っていることだろう。
 だが、彼が地下室に到達する頃には、抜け道だったところから逃げ出そうとしていた者達は捕縛されたか、討伐が済んでいた。ただし人数は七人程度。

 戟を振って血を落としたオラースを、負傷はしていても睨みつけてくる魔法使いは彼の倍くらいの年齢の女だった。案外年配の者もいたなというのが、その護衛か家族か知らないが、戦士の青年を斬ったばかりのオラースの感想だ。
「素直に縄を受けるなら、この場では命は取らないが」
 返事は魔法の高速詠唱だった。彼には十分予想していたことだが、相手にとって予想外だったのはオラースが傷一つ負わなかったことだろう。言葉通りに世界を行き来して戦場を駆け巡る生活のオラースは、十二分に武装を整えている。
 そして、一度は投降を進め、相手がそれを断った。そうなれば、やることは一つだ。
 どうせここで命ながらえても、待っているのは処刑。形だけの命乞いもしない相手は、捕らえておくことも手間が掛かる。
 陽動を終えたペガサスが窓辺に現われた頃には、オラースは背後を振り返ることもしなかった。

 なぎ払うほどの敵はおらず、まるで計画していたかのように三々五々に散って逃げようとする連中を、少人数で追いかけていたアーシャは今も一人にスタンアタックをかけたところだった。
「これはまた若い女の人ですね‥‥何を考えて、こんなことをしたのだか」
 後できちんと白状させなくてはと息巻く兵士や騎士が仲間にたしなめられるのを横目に、アーシャは捕らえた相手が縄を掛けられる間に目を覚まして抵抗しても対処出来るように目を配っていた。
 潜入の時の息を潜めて、自分の鼓動の音さえも邪魔に思えてしまった緊張に比べれば、やはり武器を手にして戦うのが自分にはあっていると思う。だが今回のような、この後の処分が透けて見える時はまた少しばかり気分も異なった。どうしてかがはっきりしたら、すっきりするのかもしれないが。
 今はまだ見付からない毒薬と、それを使えるだろう輩を探すほうが先だった。

 思いのほかと言ってよいだろう速度で捕らわれたりしている連中はさておき、アクアは怪我人を運ぶ者達に付き添っていた。。ほぼ優勢でことを進めたとはいえ、やはり負傷者はいて、回復薬を使っても自力で歩けない怪我人が二人ほど。そこに行きあったのも縁だと、撤収に付き添うことにしたのだ。
「心配ないわよ。陣まで戻れば、すぐに治して貰えるわ」
「きっとお説教が長いんでしょうね」
 周囲の警戒に巡らせていた視線が負傷者と交わって、元気付ける為に声を掛けたら、黒クレリックの説法が怖いと返ってきた。それだけ言う元気があれば、皆で揃って帰れそうだとアクアの表情も綻んだ。
一時の仲間でも欠けない事は喜ばしい。

 砦を囲む壁の上で、レオは目を凝らしていた。敵の逃亡があれば足を射てやろうと弓は構えているが、明け方の時間帯は敵味方の判別がつけにくい。だがまだ毒薬が見付かっていないと連絡は届いているから、どこかに隠れている可能性がある。建物は階段が崩れていた三階もくまなく探して、そこに残されていた骸は運び出していたが、後三人か四人が見付かっていないらしい。周辺の森に捜索の手を広げるかと、そんな話になっている。
 石化された門も気にしたほうがいいとの指摘もあって、レオはそちらにも不審な者がいないかと探していたが、夜が明けて随分してから陽炎のようなものを見付けた。
「なんだ? 何かで見たような気がする‥‥」
 なにもなさそうだが、気になって仕方がない。しばらく睨んでいるうちに、ふと仲間が持っている指輪に思い当たった。念のためと、どこに当たっても効果があるようにと稲妻の矢を放つ。
 雷撃の音と悲鳴とに駆けつけた仲間達が、荷物を背負った者数人を取り押さえたのを見て、レオもようやく肩の力を抜いた。

 砦に立て篭もっていたのは、全部で三十六人。そのうち二十人が討伐され、十六人が捕縛されて、依頼は討ち漏らしなく終わったようだ。十六人には重傷者もいるが、討伐隊は回復薬や治療が効果を奏して大きな怪我が残った者はいない。
 最初に見付からずに扉を開けられたのが最大の理由だが、その半時間の武勇伝を尋ねた者にレオとアーシャは苦笑した。
 壁を一メートル塵にして、その向こうの音が途切れるのをひたすら待っていたのが八割で、残り二割は扉に取り付いて開けることに腐心していたとは、脚色してもなかなか聞き応えのある話にはならないからだった。
 そのうちに尾ひれが付いて、すごい話になるかもしれないが。