●リプレイ本文
いままさに、ゆきだるまがふってきたのです!
世の中にこんなことがあろうとは、一体誰が予想したでしょうか。いいえ、誰もしていませんでした。そりゃそうです。雪だるまさんが数え切れないくらいいっぱい、崖の上から降ってくるなんて思いません。
だから。
「過去にもこういう目に合ったことがあるような‥‥」
なんて言いながら、ディアルト・ヘレス(ea2181)さんはぶちぷちっと潰されてしまいました。雪だるまさんの下です。もう見えません。
他にもきゃーとか、わーとか、ぎゃーとか、人の声とは思えないすんごい悲鳴を上げて、リュシエンナ・シュスト(ec5115)さんや桂木涼花(ec6207)さん、エルマ・リジア(ea9311)さんにアーシャ・イクティノス(eb6702)さんと、女の人達が次々と雪だるまさんとごろごろ、しがみ付いたり、しがみ付かれたりしながら転がっていきます。転がりたくなくても、雪だるまさんが止まれませんから一緒です。
他にも皆さんが何か叫んでいましたけれど、もう何がなんだか分かりません。女の人でも、シフールのシャリン・シャラン(eb3232)さんとセレーナ・アクア(ec5865)さんは、空中で手を取り合って、びっくりしています。
そんな中で、まあまあ無事だったのは、
「貴殿、もう離れても大丈夫だぞ」
「いやいやいやいや、周囲の安全が確認されるまでは!」
オーラシールドで雪だるまさんの体当たり直撃を防いで、どかどか突き飛ばされつつ踏ん張ったアンリ・フィルス(eb4667)さんと、その腰に背後からしがみ付いて離れない桃代龍牙(ec5385)さん、二人の足元で目をぱちくりしているレイズ・ニヴァルージュ(eb3308)さんの三人でした。そんな三人の周りには、雪だるまさんが横になって押し合いへし合いしています。積み重なっているとも言うようです。
そこに、シャリンさんが叫びました。
「ウェザーコントロールが効かなかった!」
それはそうです。雪だるまさんはお天気とは別物としか思えません。
「しふしふ〜」
セレーナさんが、恐々雪だるまさんに挨拶していますが‥‥お返事がありません。やっぱりお口がないのがいけないのでしょうか。聞こえてはいるみたいなんですけれど。
「あぁっ、アーシャさんはどこですかっ。アーシャさん、アーシャさん!」
レイズさんが、慌てて雪だるまさんの山をかき分けようとして、
「うわぁ〜」
崩れてきた雪だるまさんにつぶされています。ぷちゅっとな。
そんな中、結構無事だったわんこさんや精霊さん達が、雪だるまさんをぐいぐい押しています。だって、下敷きになっている人達を早く探さなかったら、きっと大変なことに!
「足りないのは五人だな。さ、貴殿も探してくれ」
アンリさんがとっても落ち着き払って、足りない人数を数えました。最近は人型の精霊もいっぱいで、数えるのも結構大変ですね。
「あ〜、はいはい。探すのねって、この雪だるまが動くのはなんなんだ」
桃代さんがとっても残念そうにアンリさんから離れて、近くの雪だるまさんを抱えました。じたばたしている下から、まずはレイズさんを掘り起こします。雪だるまさんとちゅーしてましたけど、目は回していなくて良かったのです。
それを見て、セレーナさんとシャリンさんも、雪だるまさんの上を飛び回って、見えなくなっている五人を捜し始めました。
「雪だるまさんのリーダーさんとお話できたら、皆さんに退いてもらえそうですけれど」
セレーナさんは雪だるまリーダーさんを探しましたが、皆白くて、ころころしていて、お話が出来ません‥‥リーダーさんは不明なのです。
「フレアー、溶かさずに退けるのよ。溶かしちゃ駄目だってばぁ!」
そして、シャリンさんの連れていた火の精霊さんが姿を見せたら、雪だるまさん達は大暴れ! 右に左に走ろうとして、なにしろ足がありませんからごろごろごろごろ‥‥
アンリさんも桃代さんも、二人の間に挟まっていたレイズさんも、なんとかかんとか巻き込まれませんでした。わんこさん達は頑張って逃げました。にゃんこさんは、二本足で走って逃げましたとも。
シフールさん二人とドラゴンさんと空を飛べる精霊さんとお馬さん達は、ふよふよしながら様子を眺めています。
そういえば、雪だるまさんペットが何体かいた気もしますけど‥‥もうどこにいるのか分かりません。後で探すのも大変そうです。呼んだら出てきてくれるかな?
なんて誰かが思っていたら、わんこさんとペガサスさんがえっちらおっちら雪だるまさんの下から何かを引っ張り出そうとしています。なんか、人の形をしているような?
「「「「「あ」」」」」
見てないで、助けてあげなくっちゃ!
それからしばらくして。
激戦の地から少し離れた広い場所で、雪だるまさん達は輪になって踊っていました。真ん中で、皆さんが雪だるまさん達の下から生還した人達のために焚き火をしているのが熱いからではないはずです。くるくるくる〜。
輪の中では、助け出された五人ががたがた震えながら焚き火に当たっていました。
「帽子と手袋と靴下もいいのにしたのに、それでも寒いのに、こんな‥‥こんなことになるなんて思いませんでした」
かちかち、震えて歯が音を立ててますが、エルマさんは相棒わんこさんを抱えながら喋ります。黙っていると、余計に寒い気がするのです。
「危うく天に召されるところだった」
そこまでかちかちしてませんけれど、ディアルトさんも寒そうです。雪だるまさんに潰されつつ、上から退いてとお願いしていたのですが、ちっともお話が通じなくて雪だるまさんがぎゅうぎゅうしている下に埋もれていたのでした。もしかすると雪だるまさん達も動けなくて困っていたのかもしれません。
「兄様ごめんなさい。取って置きのケーキを食べちゃったのは私なのに、違うって嘘ついて」
ぐったりとわんこさんに抱きついて、さっきから色々謝っているのはリュシエンヌさんです。他にお友達のお誕生日に帰れないかもとか、あーんなことやこーんなことを、一生懸命謝っています。あまりの寒さにお目目がうつろ。
その横ではアーシャさんが、まだ濡れているまるごときたりすを着たまま、踊り踊る雪だるまさん達を見て、首を傾げています。
「いじめる? いじめる?」
アーシャさんの背中を後ろからどすんとしたのは、わんこさんですが‥‥ぺしょりと潰れたアーシャさんを見て、ドラゴンさんと顔を見合わせて不思議そう。
かと思えば、涼花さんは不意に叫びました。
「涼、この薄情者ーっ!」
涼さんは、涼花さんの連れてきた精霊さんの名前です。今はそのあたりをふよふよしています。雪だるまさんが降ってきた時も、とっととお空に逃げていました。
まあ、空を飛べるシフールさんや精霊さんは、大体皆さん逃げましたけどね。わんこさんも。でも涼花さんのお馬さんは、一緒に雪だるまさんに潰されて、涼花さんの上でじたばたしていたのでした‥‥
巻き込まれた五人の人は、そんな感じでともかく暖まらなきゃと焚き火に当たっているのです。
でも他の五人の人達は、雪だるまさん達とお話してみようと頑張っていたのでした。
「あの〜、溶けちゃった人とかいませんか? 皆さんが人の上に乗っていたら、そこから溶けたりしそうですよね」
レイズさんが心配そうに訊いていますが、雪だるまさん達はぴょんこぴょんこするばかり。
「崖から足でも滑らせたのか? って、ここらにはまだ雪もないが」
桃代さんも訊いてみますが、やっぱりぴょんこぴょんこ。でも良く見ると、時々丸々した体がちょっぴりいびつになっている雪だるまさんもいるみたいです。
「リーダーさんがいればお話を聞かせて欲しいのですか‥‥いったい何があったのでしょう?」
セレーナさんは首を傾げています。お向かいの雪だるまさんも、一緒になって首をかしげて‥‥ころりんと転がってしまいました。すると雪だるまさんは、他の雪だるまさんとお話していた、低空飛行中のシャリンさんの上に。
「ぎゃーっ、死ぬ、死んじゃうぅ!」
シャリンさんの悲鳴に、周りの雪だるまさん達はえっちらおっちら倒れた仲間を起き上がらせようと頑張り始めました。お話は出来ないけれど、やっぱり聞こえてはいるみたい。でも、なにしろ手が短くて、足がないのです。
「いかに事情があれど、もう少し落ち着いてくれねば話にならぬ」
アンリさんがどんどかどんと雪だるまさん達を避けてくれたので、シャリンさんは潰される前に助けてもらうことが出来ました。あとちょっとでぷっちり昇天しそうでしたけれど。
あまりの悲鳴に、暖まっていた人達も駆けつけています。雪だるまさん達は、また良く分からない踊りを始めました。もしかすると、慌てているのかもしれません。
冒険者の人達の知りたいことは、どうして雪だるまさんがこんなに一杯降って来たのってことです。でも雪だるまさんとは、普通にしていてはお話できません。こんな時はどうしたらいいのでしょう。
そう。
テレパシーリング〜!
しばらく時間が経ちました。
涼花さんとレイズさん、アンリさんは雪だるまさんを治しています。崩れたところに、あちこちから集めた雪をくっつけて、ぽんぽん形を綺麗にしてあげるだけですけど。
でもだけど、なんとなく嬉しそう? 雪だるまさんがアンリさんにすりすりしています。と思ったら、他の雪だるまさんがすりすりしているお仲間を押し退けました。アンリさんは元々雪だるまさんを二体もつれていたから、
「殿方を巡って争う娘さん達のようですねぇ」
「ええと、そういう光景なんでしょうか」
雪だるまさん達がアンリさんを前にぽかぽか殴り合っている光景は、そんな風に見えなくもありません。でも雪だるまさん達が取り合いって、なんだか変かも?
だけどもう一人、雪だるまさん達にもみくちゃにされそうな人がいたのでした。エルマさんです。周りで雪だるまさん達が、激しく踊っています。
「ここここここ、これはどうしたらぁ」
「早くそれを仕舞って。一つしかないから取り合いになるんだ」
雪だるまさんより右に左にうろうろしていたエルマさんは、ディアルトさんに言われて、慌てて雪のかけらをしまいます。雪だるまさん達はこれが好きだと聞いていたから、試しに出したら大興奮。危うくエルマさんは潰されてしまうところを、ディアルトさんが助けてくれました。ディアルトさんはどんどか体当たりされていますけど、そのくらいなら大丈夫。‥‥多分、きっと。
「特別何も見当たりませんでしたわ」
セレーナさんはそっと崖の上まで行って、様子を見てきたのです。だけど雪だるまさん達を驚かせるような悪いものも、なんにもありませんでした。どうして雪だるまさん達は降って来たのか‥‥よく分かりません。
そんな間に、桃代さんは苦労しながら、冷たいお料理を作っていました。お仲間や自分用には、もちろんこんな季節ですから温かいお料理が作りたいのです。でも雪だるまさんに熱々のスープを飲ませたら、考えるだけで恐ろしいことになってしまいます。
「これを食べたら、俺達が大変なことになりそうだけどな〜」
お仕事の帰り道、いっぱい色々仕入れたご馳走の材料から冷たいスープを作りました。
ところがっ。
「「「いやーっ、信じられない!」」」
リュシエンナさんとアーシャさんとシャリンさん、雪だるまさんと一生懸命お話していた三人のすんごい声が響いたのでした。
雪だるまさん達は、熱く語りました。
『我々はこの大地が雪に閉ざされる頃に、各地に散らばって思い思いに過ごす。
だがしかし、ここ数年はそうしたことがままならぬ要因として、デビルの存在があったのは諸君達も良く知るとおり! この冬も、なんと懲りぬデビルどもが、ここより北の地にて怪しげにして、危険、更に広範囲の術陣を巡らせていることが判明した。
更に問題なのは、この術陣には我らが冬の精霊族のやんごとなきお方達が、複数囚われている事なのだ。大元は人の生贄を使うようだが、我々は冬の精霊族の一員として、同胞が虐げられるのを看過することならず! そもデビルの跳梁を許していいものか、いやよくはない!
ここに我らは手を取り合い協力者たる人族を求めて寄り来たのである。いざ行かん、我らと共にデビルとその術陣を消し去るために!』
宴会している場合ではないですよ!
あと、雪だるまさんは言いました。
『おれっちら〜、ごはんはたべないさ〜』
せっかく冷たく作ってあげたのに!
さて、ことは大事です。とっても困ったことになっているようです。
そうして冒険者さん達も、大変なことになっていました。
「転んでしまいますから、止めてください。ええっと‥‥個別のお名前はおありなのかしら?」
涼花さんは雪だるまさん達の『一緒に行こうよ』攻撃に押しまくられています。お馬さんが足を踏ん張ってくれているので、なんとか転ばないで済んでいるところです。
「どうする? 先に行って、ギルドに報告する?」
「ですか怪我人が出たら、私の魔法が入用ではないかと」
お空を飛べる精霊さんやお馬さん、それからシャリンさんとセレーナさんはまたふよふよと避難していました。だって、下にいたら潰されてしまいます。
お空を飛べるお馬さんの上にはディアルトさんがいて、今まさに潰されそうレイズさんを引っ張りあげようと頑張っていました。だけど半分釣り上げられちゃったレイズさんの足を、雪だるまさん達が掴んで離しません。
エルマさんとリュシエンナさんはアンリさんと桃代さんとアーシャさんの三人に囲まれて、雪だるまさんの『一緒に行こうよ』攻撃から守られていました。相変わらずアンリさんの前では、雪だるまさん同士がぽかぽかやっています。桃代さんは押されるとアンリさんによっかかって、じたばたしながら倒れないようにやっぱりアンリさんに掴まったり。
「なんだか人気ですねえ」
なんか違う気がするリュシエンナさんでしたが、エルマさんにはそう言えませんでした。アーシャさんもです。
だって、余裕がないんですもの。
そりゃあロシアの平和のためには、今すぐ行ったほうがいいのです。だけど用意もせずにデビルがいっぱいいるところに行ったら大変なのです。他のお友達にも声を掛けて、いっぱいで行ったほうがいいに決まっています。
そのためには、冒険者ギルドに報告に行かなくちゃいけないのです。行きたくないわけじゃないけど、物事には順序ってものがあることを、雪だるまさん達は分かって欲し〜い。
と思ったら。
「うわぁあぁあぁあぁ〜〜〜〜っ」
最初は誰の悲鳴だったか分かりません。
でも、レイズさんが雪だるまさんの中に飲み込まれ、ディアルトさんも引っ張られ、空飛ぶお馬さんの羽に叩かれたシャリンさんとセレーナさんが落っこちて、転がった雪だるまさんに胸に飛び込まれた涼花さんが転んでしまって、ぽかぽかしている雪だるまさん達とアンリさんと桃代さんとアーシャさんとリュシエンナさんとエルマさんも‥‥
今もまた、雪だるまさん達は降っていくのです。
キエフがある方向への崖をごろごろと‥‥皆さんと一緒に。