ゴーレム工房 〜開発責任者決定

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月11日〜11月18日

リプレイ公開日:2009年11月22日

●オープニング

 ウィルのゴーレム工房では、日夜あれこれの仕事が綿密に組まれた予定と、その場限りの勢いの両立で進められている。人のやること、どれだけ綿密に予定を立ててもうまく行かないことがあり、その時は勢いで乗り越えるべく動く人々が何割かいるものだから、そういうことになっている。
 だがそれとは別に、地道に各部署の人々の説得工作を進めている人もいた。
「なんとかならないのかしらね。この『早くて沢山』案って名前は」
 風信器開発室と鉄製フロートシップ製作の事務を兼任している経理文官のダーニャも、その中の一人だ。新規開発だと好き放題並べる各所のゴーレムニストと職人達の間を巡って、まずは『速度第一、搭載量重視』を試作機とする決定稿を説明し、ぶつくさ言う者を説得する仕事がようやく終わったところだ。そんなことは『決定事項だ』と工房長から一言貰えば済むとの意見もあるが、船大工や鍛冶師などの職人達を頭ごなしに押さえつけてはいいものなど出来やしない。
 それで説得に時間を要したが、ともかくも皆を納得させ、後は天界人を含む冒険者兼任ゴーレムニストと文官達に主導させるからと了解を取り付けた。
 今までは風信器開発室のナージ・プロメが主責任者、ユージス・ササイが副責任者で進んでいたが、この二人が風信器開発に専念したいと主張したのと、文官では雑務全般を担当していたダーニャ本人も年内でゴーレム工房を退職するので、権限委任を進めることになったのである。
「企画名も考えさせるとして‥‥船の形を決めてもらえば、作るのは職人の仕事で、外枠を作っている間に中をどうするか考えてもらえばいいのかしらね。貨物部分を入れ替えられるかの実験は、どうやるのか決めてもらわないと」
 そこまで決まれば、後の計画進行も大枠が作れるはずで、それに沿って職人にも船体作成を急いでもらえばよい。本当に国王の御座船にも使うのなら、そのための内装を行う職人は工房外から招く必要もある。中に据える家具などの発注もせねばならないだろう。
 そこまでしても、ゴーレム機器はおおむね五年前後で使用限界が来るとされるが、試作機はまず作り上げることが重要だ。何隻も作れないから、形状決定は十分考え抜いてもらうことになる。
 すでに山ほど模型は出来ているが、その中から天界・地球の『飛行機型』とゴーレムグライダーに近い形式は外されている。『早くて沢山』の実現にそぐわないからだ。
 残った形式は通常のフロートシップ型か、それとも細身の船体を並べるようにして真ん中を繋ぐ船倉が置かれる形か、それとも今までにない形式か。どこから貨物や人を出し入れするかでも、搭載量は変わってくる。
 色々考えることはあるが、その辺りは自分の仕事ではないと割り切っているダーニャは、冒険者ギルドへの正式依頼書面を綴って、工房の雑用担当少年ソージーに代理で依頼を済ませてくるように頼んだ。

 彼女はこの後、わざわざ遠方から顔合わせのために来てくれた婚約者の両親との会食が控えているから、仕事以上に忙しいのだ。

●今回の参加者

 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec4600 ギエーリ・タンデ(31歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec5004 ミーティア・サラト(29歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

●フロートシップ新規開発計画室
 鉄製フロートシップの開発計画室に集まったのは、総勢五名のゴーレムニストと二人の文官と、ちょこまかする雑用係達だった。
「棚はねぇ、その辺りぃ」
 相変わらずののんびり口調で、雑用係達にあれこれ運ばせているのはナージ・プロメ。研究資料が詰め込まれている棚とは別物だから、多分ここに茶器や香草茶、食品類が並ぶのだろう。
「食事の時間も惜しんで働けと言われているようですなぁ」
「それなら寝台代わりの長椅子も必要ね」
 感心したのか、それとも呆れたのかどちらとも付かない信者福袋(eb4064)の言葉を、相談用の卓についている文官ダーニャが混ぜっ返す。だが顔付きが真面目なところを見ると、
「なるほど。寝る間も惜しんで働くとしても、本当に寝ないわけには参りません。となれば、仮眠を取るための道具は必要ですな」
 朗々と歌い上げるようなギエーリ・タンデ(ec4600)の結論に行き着くわけだが、そんな生活は、通常まともではない。
 だがしかし、それとても職種により。
「炉に火を入れると、三日間付きっ切りなんてことも珍しくないものねぇ」
 ゴーレムニストで金属鍛冶師のミーティア・サラト(ec5004)が、この中では二番目ののほほん口調で納得してしまっている。鍛冶師でもあるミーティアは工房に詰めきりでも気にならないらしい。
 ともかくも個室をもらえたお祝い‥‥ではなく、今後の打ち合わせはお茶でも飲みながらと、ラマーデ・エムイ(ec1984)は早速棚から色々取り出していた。
「さてさて、まずは計画名よね。入口に『速くて沢山計画』じゃ、やっぱりカッコつかないもの」
 今回は冒険者ギルド登録ゴーレムニストが三名のみの参加で、文官の福袋はダーニャの後釜決定だから、何が何でも三人の中から代表を決めなくてはならなかった。それでラマーデを据えて書類を作って、一室貰ったので‥‥最初の仕事は計画名を決めて、その表札を入口に掲げることだ。
 表札がなければならないことはないが、風信器開発室のように存在を誇示するには有効だし、嬉しいので作る。
 そういうわけで、ユージスとナージ、ダーニャも交えているが、主にはラマーデ、ギエーリ、ミーティア、福袋の三人で相談した結果。
「天界の船長一族か。縁起を担ぐのも悪くはないだろうな」
 なにやら色々情報伝達にあやふやなところがあるものの、福袋が推した『トレーシー計画』と決定した。後日入口にミーティア作の『トレーシー計画推進室』の文字と鉄製フロートシップの完成予想図が打ち出された看板が掲げられることになる。

●トレーシー計画推進室の悩み事
 部屋が決まれば、次は図面作りだ。幸いにして、それらの草案も前回までに描かれたものが大量にある。他に模型も実在のフロートシップはじめ、図面起こしが終わっているものは幾つか外形のみの模型が作られていた。ものにもよるが、特に天界人が描いた図面の中には元になった乗り物の様子が想像つかないものも混じっていて、外形も所々作り掛けだったりする。
 そうした中から、今回ゴーレムニスト達が選んだのは『イルカ型』だ。
「流線型だったわよね。風の抵抗が少なくて、スピードが出るんでしょう?」
 天界で空を飛ぶ乗り物はこういう姿をしているのだと説明された形をそのまま真似るかどうかは別として、彼らの意見はまず風の抵抗をとことん排除することで一致していた。既存のフロートシップは帆があることで順風なら加速を得るが、逆風や無風ではその設備が障害物となる。この辺りは通常帆船と変わらない。
 今回は鉄製というこれまでにない素材で、速度を重視する計画だから、帆走に頼らない船体を造りたい。
「操船要員を減らして、その分を搭載量に回せば、帆走はしなくても精霊力で飛べると思うのよね。減らしすぎると航行時間が落ちるって言われたけども」
 現状のフロートシップ、ゴーレムシップは搭乗員が多いほどに航行時間が長くなる傾向がある。素体でどこまでその分を代替出来るが不明なので、あまり減らしすぎないほうがいいだろうとは船大工からも言われたことだ。
 ミーティアとラマーデが、外形のみの流線型模型をひねくり回して、どこにどの設備を置けばよいのかと頭を悩ましている横で、ギエーリは鉄製ゴーレム機器の魔力浸透時間の一覧を睨んでいた。こうした資料は福袋に頼めば見易いものを作ってくれるが、機器の大きさによる浸透時間の変化傾向なんてところまで頼むわけにはいかない。よって彼自身で計算しているのだ。
「進行計画表とは、なかなか難物ですなぁ」
 船体作成の時間は、船大工と金属鍛冶師達で相談してもらうとしても、今後のフロートシップ作成には他種のゴーレム魔法が必要だ。トレーシー開発室で付与出来ないものは他所から応援を頼むのだから、関係者の予定を押さえるためにも計画表はいい加減には作れない。
「後日のことは知らないけど、戦闘はしないのっ。グライダー発着もとりあえず考えない!甲板は狭くて大丈夫っ!」
「でもこの模型みたいに全面覆うと、外が見えないわよ? 見張り台は外に面していないと、周りが見えないでしょう?」
 ラマーデとミーティアも、天界の乗り物の図面を見て、既存フロートシップから新型機に残す機能を検討している。流線型にするには出来るだけ全体を鉄板で覆うのが良いのだが、甲板に覆いを付けたら周囲確認が困難になってしまう。ここが大問題だ。
「これ、人型ゴーレムみたいにならないのかしら」
 ラマーデが卓上を這うような声色で、模型を掴んで宙を動かしている。天界には透明度の非常に高い板があって、それを覆いに使用して視界を確保しているそうだが、アトランティスで同じことは出来ない。ならば人型ゴーレムのように制御胞で制御出来るかと言えば、船長と操舵手、他の操船技術者達が連携することで動くシップ類には不向きだと、こちらは実際に乗り込む鎧騎士達からの意見だ。人型ゴーレム用に開発された制御胞で、人型ではない船体を動かすことは想像も難しいらしい。
「一部は甲板に風除けを作って、風の抵抗を弱めるとしたら‥‥前部の形を工夫しないとだわね」
 いかに速度が出る機体の形でも、操船出来ないと言われてはどうしようもない。こうなると、既存船体と自分達の希望をどこまですり合わせられるかが腕の見せ所だ。
 とりあえず全体に船縁を高くして、前部は風の抵抗を受けにくい丸い形にし、見張り台の位置も帆柱の上から移動させる。帆の形も検討課題だが、これは船大工などの意見もよくよく尊重したほうがいいので、ちょっと保留。出入り口は船体後方で、跳ね橋のように開閉する形‥‥
 といったあたりを相談して、新たな図面を起こしてみる。考えながら描くから全体の均衡が取れているとは言い難いが、計画した内容が映し出された図面を前に、ラマーデが『よっし』と気合の声を上げた。
 ところで。
「‥‥‥‥‥‥」
 慣れない計算で気力が消耗しすぎてしまったギエーリは、別人のように押し黙って計算式の書かれた石板を見詰めていた。多分、放心していたのだろう。
「あぁ、お話しにいくのですね。そういうことでしたら私も参りますとも。ええ、心配はないと思いますが、新人と侮って我を通される方がいたらいけませんから!」
 仮に放心していなかったとしても、毎度このくらいのことは言うギエーリだが、この日はいつもに倍する声で主張していたのは、自分に気合を入れていたのかもしれない。

 風信器開発室はさておき、トレーシー計画推進室は新規開発の特性と機密保持上、特定文官の担当が望ましいとダーニャが根回ししておいてくれたおかげで、何の問題もなく福袋がその担当になっていた。ダーニャの仕事の幾つかも引き継ぎだから風信器開発室にも関わるが、経理は別の者が担当してくれる。主に交渉事が彼の担当になるだろう。
「まだ計画が終わってないわね。予想の五割増しで日程とっておけば失敗しないと思うけど」
「代わりにゴーレム魔法を必要としない部分の製作に、必要な人手をその期間確保する必要があるわけで‥‥残念ながら、今回の開発では腕前も並みの方ではやや不安ですしねぇ」
 これまでとはまったく違う船を、船大工と金属鍛冶師協力の下に作り上げようというのだから、その腕前は皆が一目置く様な職人でなければ難しかろう。一度成功すれば、その経験を伝えることで造れる者は増えるだろうが、最初は肝心だ。
 ついでに福袋はコンテナ換装が実現化したら、そちらの大型化も視野に入れているから、生産に携わる人手は可能な限り、トレーシー計画専従で確保したい。ゴーレム魔法付与は掛かりきりの仕事ではないが、造船は長期労働だ。片手間では、職人たちとてやりにくかろう。
「職人方のスケジュール確認は、私がやろうかと考えていますが、ご協力をお願いしても?」
 地球にいた頃もこういう仕事はしたなあと、妙に懐かしく思い出しながらの福袋の問い掛けに、ダーニャは『二週間くらいなら』と苦笑して寄越した。
 結婚のお祝いも考えねばと、福袋はこっそり考えて皆から資金も集めているが、当人の欲しいものがわからないのでそこはナージが訊いている、はず。

●計画推進会議
 二日ほどして、やはりトレーシー計画推進室。
 そこは優雅なお茶会の香りと、新型開発の熱気と、言い争いとで満たされていた。
 お茶会の香りは、『会議ならいるわよねぇ』と香草茶からお菓子、軽食まで持ち込んできたナージの手配によるもの。手馴れた様子の少年少女達が給仕してくれて、ゴーレム工房とは思えない優雅さだ。
 ただし提供されるのはゴーレムニストと文官はまだともかく、工房から時間をようやくやりくりして駆けつけた汚れた作業着のままの鍛冶師や職人達。非常に嬉しそうだが、茶器や菓子盆が浮いて見えるのは否めない。そういう者が予定より多数押しかけたので、部屋は暑いくらい。
 その一角では、話し合いが始まらぬうちから、
「それをこれから相談するんだからー!」
「いい案も提示されずに、模型が作れるわけないでしょう!」
「まあまあお二人とも、そろそろお時間ですから」
「「ちょっと黙ってて」」
 ラマーデと模型制作職人とが、だいたい同じ内容をぐるぐると行きつ戻りつしながら言い争っていた。双方頭に血が昇って、仲裁に入ったギエーリを押し退けている。
「あいつはああなるとうるさいからよ、摘まんで出して来い」
「あらあら。そうすると責任者も一緒に出されちゃうから、まずは引き離してきますね」
 鍛冶師工房の人々からミーティアが『早く始めよう』と急かされた頃には、福袋とギエーリとあと何人かが二人を離していた。
「さて、大体のところは皆さんご承知でしょうが、鉄製フロートシップの船体や設備の相談です。それぞれの専門家の視点でアイデアを出して、すり合わせてまいりましょう」
 司会と責任者は別でなくては混乱しやすいと、司会は福袋が買って出ていた。まずは今までの段階で全体合意が出来たところを確認する。イルカ型に安定翼付きの船体は当初飛ばないのではないかと心配する声が多数だったが、たまたま工房外から招かれた天界・地球人が『こういうのが高速で飛んでいる』と証言したので、形としては有効なのだと認められた。
 後は具体的な船体の寸法とコンテナ換装するとしたらどの部位か、どういう手順で造船を進めるかなどが大まかな議題だが、問題点は寸法だ。前例もなければ作り直しも容易ではないものを造るのに、経験から導き出される知恵が少ないのが難点となる。そもそも寸法が決まっても、それが本当に空に浮かんで速いのかを事前に確かめる術がない。
 それとコンテナ換装も考えどころ。こちらも前例がないもので、成功すればいいが実用性がなかったら大損害である。新しい案で実行してみたい気持ちは当初に比べると関係者の中で育っているが、役に立たなかったら嫌という気分も同じだった。
 ただ、こちらについては、
「あんまり未知数ならば、別に実験したほうがいいのではないかしら? 今回は鉄製フロートシップと客室・貨物部分の換装が一緒に実現しなければならない理由はないのだし」
 ミーティアが原案に拘り過ぎない態度を示したので、多くの考えはそちらに流れている。特に船大工達は木造船での実験なら自分達の腕が十二分に披露できると乗り気だ。
 まあ、それ以外の部分で主に鍛冶師との自尊心のぶつかり合いが多々勃発し、一部若い者が拳で語り合う出来事を起こして、同席のユージスに怒られ、ギエーリに朗々と嘆かれたりしたのも理由には挙がろう。一つずつ実行する分には、それぞれの得意分野が十二分に活かせる活動が出来るので文句はないのだ。喧嘩している場合でもないし。
「我々は自分の願望の成就だけを願っているわけではありません。皆でより高みを目指し、成功の美酒を味わうことが大切です」
「それは分かったから、ちょっとしばらく黙ってて」
 している場合ではないが、ギエーリがまだ滔々と話しているので、ラマーデがよいしょと横に押しやっている。ぎエリーがどれだけ残念そうな顔をしても、ここで甘い対応をするとゴーレムニスト以外からの信頼が固まらないと、事前にユージスに事細かに注意されているからラマーデも一生懸命だ。
 でも、どうも模型製作者の性急さとはちょっと合わない感じで、どうしようかと悩むところ。後で内々で作戦会議が必要かもしれない。
 他に喧々囂々あったが、船体の形は案から正式決定になりきらない。なにしろ実際に魔法付与してから傾きましたと言われたくないが、じゃあどうやったら問題なく浮かぶ形か確認方法が見付からないからだ。それさえ決まれば、鍛冶師も船大工も専任で造船に当たる者を決めて、作業により必要な人手が出せるように取り計らってくれることになっているが‥‥
「模型に魔法付与しても、飛ばないし〜」
「鉄製だと浮かせることも出来ないものね」
「‥‥模型の前後に紐を付けて、水中で姿勢がどう変化するか確かめたらいかがです?」
 潜水艇の模型ならバランスの良し悪しはそれで分かりますしと、他に理解できない独り言付きで、福袋がラマーデやミーティアに申し出た。完璧とはいかないだろうが、水流があるところに沈めてあまり姿勢が崩れない形なら、空中でも安全に航行できる期待が高い。
 聞かされた皆はしばらくその光景を思い描いて、想像力は満ち溢れているだろうギエーリが最初に膝を打った。船大工達も、頷いている。
「ちゃんと寸法を決めてくれないと、作れませんからねっ」
「明日から毎日一枚ずつ書いて渡すから、よろしくね」
 ラマーデと模型製作者とは、なにやら勝負のように作業手順を決めていたから、模型が揃ったところで実験をして、必要な手直しの後に船体作成に入れるだろう。
 材料はすでにおおむね揃っているから、製作が開始されれば最大三ヶ月の工程で進水式に漕ぎ着けてみせると、ゴーレムニスト以外が盛り上がっていた。