奪い返す魂

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月29日〜12月06日

リプレイ公開日:2009年12月10日

●オープニング

 同行者はスノーマンが百五十くらい。
 それは兵卒として使えるものなのかと問い返せば、依頼人の視線が宙を泳いだ。
 雪原をものともしないが、平地では人間の子供より歩くのが遅い。突撃なんかまず無理。転がしたらけっこう速いかもしれないが。
 駆け出しの水精霊魔法使いくらいの強さで、なにかしら一つは魔法を使えるが、戦闘力があるとは限らない。
 中にはキングスノーと呼ばれる、ちょっと強いのも混じっていて、こちらは水の精霊魔法を三つくらい使えるようだ。でもやっぱり戦闘系とは限らない。
 要するに雪だるまを連れて戦うのは、現実的なところかといえば、視線が宙を泳ぐのも致し方ないだろう。
 だが。
 デビルと戦う気分で弾けそうな雪だるまが大量に、指揮官を待っているのは事実なのだ。。

 そして、雪だるまとは別に。
 先だって、キエフ公国内のあちらこちらに毒入り食料がばら撒かれ、多数の被害者が出る事件があった。更にその犯人達が廃砦に立て篭もり、近隣騎士団等と攻防を繰り広げた事件に続いてる。
 これらの事件は冒険者ギルドへの依頼ともなり、解決したかに見えたのだが、毒で弱っていたと考えられていた人々の中に相当数のデスハートン被害者が含まれていたことが最近になって判明したのだ。
 どうやら毒を飲ませて弱ったところに、デスハートンを掛けて回ったようだ。廃砦から捕らえた犯人達からそれを聞きだすのに時間が掛かり、魂の白い玉を持ち去られた先が特定できたのはつい先程のこと。
 それとてもいささか広い範囲になるので、冒険者にも応援をというわけだった。

 冒険者の捜索範囲はキエフからウラル山脈方向の暗黒の国の森の中。キエフから馬で一日半から二日の範囲のおおよそ半径十五キロとなる。
 近隣の集落を繋ぐ細い道はあるが、大部分は猟師くらいしか立ち入らない森を移動している敵勢力を発見、追跡し、魂の白い玉を奪うことが優先事項だ。敵の生死は不問、周辺被害も集落に危険が及ばない範囲で許可されている。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea2181 ディアルト・ヘレス(31歳・♂・テンプルナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9311 エルマ・リジア(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0655 ラザフォード・サークレット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)

●リプレイ本文

 魔法陣といえば、精霊魔法などでも用いられることが稀にある。けれども近年ではデビルがなんらかの大規模儀式を行うために準備することが多い。今回などはまさにそれで、魂を使うところなど地獄のゲヘナの丘を思い起こさせもする。そこに運び込まれている魂を取り戻すのが、今回の依頼だ。
 加えて。
「破滅の魔法陣のようなものなら、絶対に止めなくてはなりません」
 周りに集まるスノーマン達に聞かせるように、エルマ・リジア(ea9311)が彼女にしては珍しく強い調子で言い切った。スノーマン達は、拳を振り上げつつ、今も前に進んでいる。
 先行していたはずのスノーマンには、だいたいの方向に目星をつけて向かいつつ、シャリン・シャラン(eb3232)のサンワードで確認をしてもらって、最後尾に追いついた。この調子で先に行っているものとも合流したいが、それをするなら今いるスノーマン達に合流地点を指示しなくてはならない
 エルマの陽精霊には悪魔崇拝者やデビルの存在を調べてもらっていたが、こちらはまだ反応が遠い。
「とりあえず先に行っちゃってるのに追いついて、移動方向だけでも指示しようか」
 シャリンが言うのは、スノーマン達の向かう方向が少しばかり魔法陣とずれているからだ。彼らがここに来る前に訴えていたフロストクイーンなどが石化されている地点に向かっているのかもしれないが、それならそれで目的地を確認すべきだ。
 それなら自分がと、ここまで二人に同行していたラザフォード・サークレット(eb0655)が歩を進めた。敵勢力の居場所も大事だが、こちらの戦力も十分ではない。スノーマンと可能ならフロストクイーンや他の精霊達の助力も欲しいところ。
「発見出来たとして、今解除出来るのは一体。女王優先だな」
 戦力補充を考えたら、それは当然の判断だろう。仮に彼が個人的好みを優先するとしても、結局同じ結論になるのだが。
 なんにしたところで、ロシアの別の地で奪われた魂も運ばれている中にあるかもしれないのなら、取り返さねばなるまい。

 敵も小集団なら、スノーマン達も同様。しかもどう移動しているのか、はっきりしないところまで同じ。
 森の中で、敵の痕跡を探していた双海一刃(ea3947)は、上空から落ちる影に空を振り仰いだ。降りてくる影がグリフォンとイーグルドラゴンのものであるのを確かめて、移動の際も姿を隠すようにしていた木々の合間から出た。敵も空を飛ぶ騎獣を使っていないとも限らないが、一瞥すれば仲間の騎獣かどうかは分かる。
 先方も姿を見せた双海を見付けて、近くに下りてきた。グリフォンがデュラン・ハイアット(ea0042)の、イーグルドラゴンがエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)の騎獣だ。二人とも、上空からの索敵と先行しているスノーマン達の行方を捜していた。ただ敵に存在を気取られないようにするには、そうそう目的地近くまで上空を巡っているわけにも行かなかったのだろう。
「かなり前方に、人型の彫像がある。石化された精霊だろうな」
 懲りもせずに謀を巡らせるデビル達を、自分を敵に回しては長くなかろうと断じたデュランが、拓けた場所に一体精霊がいるらしいと告げた。あまりに遮蔽物がないので近寄れず、合流したエルンストと一緒に降りてきたらしい。
 誰が確かめに行くかという話になって、名乗りを上げたのはエルンストだ。ミラージュコートがあるから、一人だけなら人目に立たずに近付くことが出来る。代わりに、彼が上から見付けた移動の痕跡らしいものを双海が確かめにいくことになった。
「スノーマンは進路がずれているようだが、誰かの精霊が一緒のようだ。二時間くらいで合流出来るだろう」
 確かめるのは敵の痕跡だが、それとは別にスノーマンもようやくこの周辺にやってきているらしい。移動開始した日数差を考えれば相当経っているが、彼らなりに精一杯やっていたのだろう。
 そちらはデュランが二人の騎獣と共に気に掛ける事になったが、スノーマンの先頭集団にはすでに先行したディアルト・ヘレス(ea2181)が加わっていた。意思疎通もユニコーンを介して、なんとか可能な人物の到着に、スノーマン達は『援軍が来た』と自分達が主戦力の気分で意気高揚している。
「今私の仲間が敵の居場所を探している。君らは‥‥」
 後方からも追いついてくるスノーマン達を一度集めて、シャリン、エルマと共にリーダー役のキングスノーとスノーマンの小集団に組み直し、それぞれに基本の作戦を伝える。ユニコーンを介するからまだるっこしいが、おおよそ十五体ずつ、十の集団が出来る頃には、索敵に回っていた三人とも合流を果たした。
 ここにラザフォードとエルンストが石化解除を果たしたフロストクイーンとフロストプリンセスが加わって、敵を迎え撃つ準備の基本は整っている。

 敵の目的地は、冒険者達が冬精霊戦力との合流を果たした地点から、更にもう十キロ弱行ったあたりだ。結構距離があるようでも、そりで移動すればさほどでもない。荷物があり、人目を憚る連中はまだ通り過ぎている気配はないが、冬精霊を取りまとめている間に相当近付いていた。
「この周辺で範囲魔法を十分に使うなら、この先の地域しかない。こちらが隠れる場所にも事欠かないからな」
 双海が薄く積もった雪の上に書いた地図で『ここ』と示されたのは、フロストプリンセスが石化されていた拓けた場所だ。ここは、敵も移動のしやすさから利用するはず。そこに精霊の姿がなければ嫌でも異変に気付くから、ここに到着した敵を順に叩き潰して、魂を奪い返す。
 ただ偵察の結果、この地点を敵の小集団が次々と通る可能性が高かった。一度に来られると、いかに多少の戦力増強を図ったとはいえ、不利になる可能性もある。
 それについては、もとより、
「足を遅らせればいいのだろう」
 デュランが言う通りの意思統一は出来ているので、後は戦力の割り振りだ。進行を妨害して、接敵予定地に到着する敵人数を調整し、各個撃破が無理でも少人数ずつ相手取りたい。
 ここまでの移動は、荷が少ないことや敵が人目を憚っているらしいことが味方して、順調だった。それでもたいした時間の余裕はなく、速やかに動けて、的確に妨害が出来なくてはならない。更にデビルへの警戒も必要な上に、冬精霊達だけを置いていくことも出来ない。幸いにして、スノーマンとの意思疎通はフロストクイーンとプリンセスが仲立ちをしてくれるので、手間が相当軽減されたが。
 結局、飛行移動可能なエルンストとデュラン、それから妨害工作に長けた双海が行くことになった。
「妨害すれば、存在がばれるがもう構わないな?」
 エルンストが念のために全体意思を確かめるが、そもそも進行方向で戦闘が開始されれば嫌でも気付かれるだろう。普通ならそこで逃げに転じるはずだが、敵の目的は魂を生贄にすることだから、戻ることは叶わない。この一点が、攻め手側に有利なところだ。
「ぎりぎりがいいわよ、ぎりぎり。そうしたら、こっちに来たのを退治してから、駆けつけられるじゃない?」
 スノーマンはともかく‥‥とは、流石にシャリンも言わなかった。フロストクイーンやプリンセスには同行願うとしても、スノーマンには確保した魂を守ってもらいたいが、それはその時に指示したほうが混乱も少なかろう。とは、全員が思っている。
 三人が離れていき、残った四人と冬精霊達は、開けた一角の周辺に分かれて散った。厳密には動きが遅いスノーマン達と冒険者とで、大きく二手に分かれたようなものだ。
『デビルを見たら、攻撃を集中させるわよ』
 フロストクイーンが石化された恨みを晴らしてやると言わんばかりに宣言したのに、エルマが力強く頷いた。
「それでしたら、私は魔法使いを狙いますから」
 種族は違うが女同士が意気投合した周りでは、スノーマン達が気合十分で隊列を組んでいるようだ。細かいところはディアルトが指示を出している。範囲魔法が使えるものは前、それ以外は敵の足を止めたら魂を奪い取るのに準備しておくようにと。
 後は連れてきたペガサスに、炎から彼女や彼らを守るようにと告げている。フロストクイーンならある程度身を守れるかもしれないが、それでも炎の攻撃には弱いのだ。出来るだけホーリーフィールドの範囲から外れないように注意しても貰う必要もある。
 それから先は、足止めがうまく働いて、適度な間隔をあけて敵がこの地を通ってくれることを、まずは祈ってみる。

 その祈りを実現に近づけるために、双海は魔法で示された敵がいる方向から、進路のあたりを付けていた。彼の場合、敵を直接確認する必要はない。予想される進路に、大掛かりな罠を仕掛ける時間はないが、倒木を転がしたり、なければ作り出したり、そりを引く馬が動きにくいように枝を打って広げたりすればいいのだ。
他の二人が魔法頼りなので、不自然に見えないように画策する必要はない。どれほど怪しかろうが、速度さえ緩められればよいのだ。
「持ち帰る時に手が足りるといいがな」
 そりを引く馬やトナカイを標的にするか、それとも逃がしてしまうか。その時々で方法は異なるだろうが、帰りは自分達の馬に苦労を掛ける事になりそうだと、そう思ったところで‥‥
 彼方から、雷の音が轟いた。

 上空から見ても、馬そりの荷台に載せられた荷物は厳重に梱包されていた。多少傾こうが、荷崩れを起こすことはなさそうだ。今回は、荷物が散らばらなければよい。
 デュランの呪文詠唱が終わると、雷が荷台のくびきを撃った。馬がへたり込んでしまったが、周りを進んでいた人はそちらに目もくれない。相互に視認出来る位置からの雷撃だから、すでに弓に矢をつがえて放ってくる。
 だが。
「雑魚に構っている暇などないのだよ」
 デュランは向かってくる矢を畏れる風情もなく、速やかに次の得物を目指してグリフォンの手綱を操っていた。
 同様に。
「炎使いか、ちょうどいい」
 ここで食い止められれば、それだけ仲間の襲撃にも有利になると、平坦な声で呟いたのはエルンストだった。その合間に、イーグルドラゴンは眼前に迫ってきたデビルを爪に掛けようとしている。
 エルンストが狙ったのは、ウィザードだ。彼の施したレジストファイヤーで対抗出来る程度の魔法の使い手なのか、こちらを侮ったのか知らないが、行動を阻害されなければ一方的に攻撃することが出来る。当然、デビルも対象だ。
 こうした攻撃で足を止められなかった集団のうち、幾つかは騒ぎを察して足を早めただろう。そのうち二つほどは、障害物に行く手を遮られた。更に風の魔法を喰らったのが二組。

 冒険者と冬精霊が潜む場所に、最初に入り込んだのは男女六人と馬そり一両だった。男女のうち四人は装備から戦士や弓遣いだろう。デビルの姿はない。
 けれども。
 彼らの周囲を包むように、魔法の吹雪が吹き荒れた。吹雪に紛れて目立たないが、他の広範囲を包む精霊魔法も幾つか放たれている。悲鳴が上がっただろうが、それすらもしばしの間は聞こえなかった。
 姿を消したデビルが付いていると魔法を色々組み合わせて確かめていたゆえ、第一撃は可能な限り打撃を与えるべく動いた結果が、この猛吹雪だった。少しずつ発動をずらさせるのにフロストクイーンとプリンセスがきりきりしたが、スノーマンだけでは出来ない攻撃を成功させている。そうなると信じて、自分の魔法に注力した冒険者達の魔法はいずれも詠唱付きで、狙った効果を得ていた。
 確実を求めるから、魔法効果は全力といかないが、攻撃魔法を使える存在が八十からいれば多少の相手に抵抗などさせない。
「馬は無事か。後で溶かしてやらないとな」
 ラザフォードが吹雪が止んだ後の雪原で、まだ抵抗しようとする連中をディアルトと一緒に無力化しつつ、フロストクイーンが吹雪と同時に氷柱化した馬をサイコキネシスで動かそうとしたが、流石に重過ぎて叶わない。人が凍っているのは、放置だ。
 なぜなら。
「来たわよ〜、次」
 騒ぎを聞いても停滞することなく、速度を上げて突っ込んできた馬そり目掛けてぶつけるのに、ちょうど程よい大きさだからだ。氷の塊に横合いを飛ばれたシャリンが、一瞬文句を言いたそうに口を開いたが、あいにくとそういう余裕はない。
 火精霊がシャリンを抱えて、大きく跳び退った。その位置には魔法の炎が向けられていたが、巨大な精霊に遮られて辺りに被害は出ていない。だが炎を見た冬精霊達が、統率を乱しかけ‥‥
「怯んだら、やられてしまいます!」
『決めたとおりにおしっ!』
 エルマとフロストクイーンの叫びに、決めてあった魔法の連動を始めた。今度はラザフォードが怒れるクイーンの後ろで、スノーマン達に細かな指示を出している。
「なかなかしぶといのもいるようですね」
 ものは流通するから、ある程度は仕方ないがと、相当強化された気配がある武器を受けつつ、ディアルトはほとんど魔法使いである仲間達の前で前衛を務めていた。流石に魔法攻撃の雪嵐を掻い潜るのは、その衝撃より視界の点で難しいようで、状況は彼に有利だ。
 そして、妨害に回っていた三人が合流し、今度は待ち伏せから狩りに転じることになる。同行出来る冬精霊は二体きりになったが、叩きのめした敵から取り戻した魂の守り手は十分だ。

 どうしても行かねばならぬ先を目指す者と、それを妨げる者。反対の立場になったことがある冒険者は多かろうが、その時を思い出している場合でもない。
「逃げずに向かって来てくれるのは助かる‥‥」
 誰の呟きだったか、『狩り』が常に冒険者達に有利なのは、相手が逃げられないからだ。それに加えて、空中を移動できる機動力や細い木々の隙間を抜ける道を見出せる者の存在など。
 だが一番の差は、経験だった。
 魔法を放つ時間差や、相手により変わる反応など、後で尋ねたところでは寄せ集められた集団では、個々の力が優れていても対応出来ない。大半は冒険者ほどの実力も無く、多くが氷柱と化す羽目になった。一々捕縛する手間が無いので、冬精霊達に任せた結果ともいう。魂が入っている箱も、一部凍らされたのにはいささか参ったが。
 あいにくと双海が探していたバーリン領の兵士達の魂は別の道を運ばれていてなかったが、奪われた地域はおおむね判明した。そこまで運ぶのは無理だが、シャリンが箱に地名を書いて、書き終えた箱はディアルトやラザフォード、エルンストが、利用する馬そりに積み替えた。デュランは首尾を知らせるのと復路の確認に、グリフォンで飛び立っている。
『荷物は後で届けてやろう。大切なものだけ持っていくがいい』
 魔法を駆使し、この周辺にいる敵は一通り平らげたと判明して、魂が入った箱を集めた冒険者達に、フロストクイーンが申し出てくれた。『荷物』は氷柱化した人で、スノーマン達が運んでくれる。
 それならと、エルマが差し出した雪のかけらを見て、スノーマン達は素晴らしくやる気を出したようだが‥‥多分氷柱人がキエフからの兵士達に引き渡されるのは、三日後くらいのことだろう。
 その頃には、取り返した魂は持ち主達のいる集落目指して、出発しているはずだ。