料理対決! 食べるのも戦い‥‥かも?

■イベントシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月27日〜12月27日

リプレイ公開日:2010年01月07日

●オープニング

 間もなく生誕日が来て、新しい年を迎えることにもなろうかというある日のこと。
「料理ですか?」
「料理ですよ?」
 自分の耳を疑って問い返した受付に、依頼人は不思議そうに首を傾げた。
 つい先日も軍が暗黒の国奥深くまで攻め寄せたと聞くが、その後漏れ伝わる情勢は悪くないらしい。
 ならば新年は明るく迎えてもいいはずだと、依頼人が言うのは間違いではないだろう。
 確かに情勢はいいらしい。ならば祝い気分もあって当然。

 だがどうして、そこで料理『対決』?

「美味しいものを皆で作って楽しむのではないんですね?」
「何をおっしゃいます。食事を楽しむならともかく、作るというのは、これ戦いですよ。特に料理人たるもの、常に騎士様が戦場で戦うのと同じ気持ちで、全力で当たらねばなりません!」
 騎士が聞いたら怒るんではないかと受付は思ったが、依頼人の心情がそれならば、まあ意見を戦わせることではない。要するに真面目に取り組めという意味合いの、大袈裟な言い分なのだろう。
 それが高じて、料理人同士で対決しようというのはどうかと思うが、見ている分には娯楽にもなりそうだ。
 だが、『戦い』はあまり生易しいものではないようだった。

「食材はこちらで用意しますが、当日まで秘密です。調理道具の持込は認めますが、調味料はやはり準備のものを使ってもらいます。キエフでの対決ですからね、もちろん食材も調味料もキエフで手に入る物を準備しますよ。それを、いかに美味しく、見た目も美しく、集まった人々を満足させられる料理に仕立てるかが『戦い』なのです」
「どういう方々がお集まりで?」
「さあ? 会場にする店の常連の方々には席を用意しますが、それ以外は来たい人が来るでしょうから」
 キエフの街中で適当に宣伝して、当日は集まった人々から少しばかりの料金を取って、飲食込みで楽しんでもらう趣向らしい。
「だから、豪華な料理を一品よりは、たくさんの人が楽しめる料理をたくさん作ってくれるといいですね」
 冒険者の人達なら、きっと依頼で各地に出向いたときに覚えた料理がたくさんあるだろうから、ぜひとも披露して欲しいと、依頼人の真意はそこにあるようだ。

●今回の参加者

エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)/ 明王院 未楡(eb2404)/ エリザベート・ロッズ(eb3350)/ 明王院 月与(eb3600)/ ラルフェン・シュスト(ec3546)/ リュシエンナ・シュスト(ec5115

●リプレイ本文

 食材は主催者が用意。つまりは料理人自らが目利きして選んだ、好みの食材とは違う。挙げ句に当日まで内容は秘密。調理道具の持込は可能だが、調味料は駄目。食材も調味料もキエフで手に入る物を色々と準備してくれるそうだが、代わりに他国の品はないと思ったほうがよいだろう。
 そうした材料を使い、いかに美味しく、見た目も美しく、集まった人々を満足させられる料理に仕立てるか。
 しかも、作り放題。ここが重要だ。

 そういう依頼というより、趣味・特技の世界の実現機会に惹かれた冒険者が三人。
 明王院未楡(eb2404)と明王院月与(eb3600)の母娘にリュシエンナ・シュスト(ec5115)で三人だ。ここでは母と娘であろうと、競争相手である。
 他の料理人は主催した料理屋とその近所の厨房で働く人々が数名で、合わせて十人余り。一人で全部作る者もいれば、三人くらい集まって修行の成果を見せようとする者あり。いずこの店も厨房を預かる親方は不参加なので、修行中の料理人達の腕前披露の場を兼ねているのだろう。
 そんな訳で、勝負だ、対決だ、戦いだと言っても、そもそも審査は親方達がするつもりでいたようだが、客としてやってきたエリザベート・ロッズ(eb3350)が審査はどうなっているのかと尋ねたので、話が大きくなってきている。
「作った料理人ではなく、出来上がった料理を選ぶのだな?」
 目印に切れ目を入れられた大きな豆を三つ渡されたエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が、主催者に確かめているのは審査方法。大人も子供も関係なく、やってきた人全部に豆を渡して、よく出来ていたと思う料理の横に置いた壷に一つ入れてもらう。一人三つまで選べるということだ。一番豆の数が多かった料理人にも賞金や賞品はないが、皆に認められた料理だという自負が得られるだろう。
「出来れば、先に料理人の紹介くらいはして欲しいな」
 それで評価を変えるわけではないが、どういう人々が腕前を振るっているのか分かると、待っている間も楽しかろうとラルフェン・シュスト(ec3546)も遠慮なく希望を述べている。それぞれ得意料理があるはずで、食べる側もそれを承知していれば、全員の作ったものを漏れなく口にすることも出来るはずだ。
 場を盛り上げるには仕込みも重要というのは主催者にも伝わり、料理人達は全員一言ずつ挨拶をすることになった。本職料理人の面々は店ごとのお仕着せで、エプロンをして、どういう料理を作る予定と述べていく。
「得意は卵と肉料理。ノルマンのパリで覚えた料理も披露したいと思います」
 そうした中で、料理人というよりはメイドのお仕着せ風の真っ赤なドレス姿のリュシエンナは、異様に目立っていた。兄のラルフェンが頭痛を覚えてこめかみを揉んでしまうくらい、悪目立ちしている。
 変わった娘さんが来たねえと囁かれるに到って、ラルフェンの頭痛は増しただろうが、リュシエンナの料理の腕は間違いなくよい。腕前を省みず参加したわけではないので、評価については心配しなくてもよいだろう。
「ジャパンとパリの料理が得意です。今日はスープを中心にたくさんで楽しめる料理を作るつもりだよ」
 月与は頭にうさぎの耳を付けているのがこれまた奇抜だが、まだ子供と行って差し支えない年齢なので仮装と受け止められているらしい。他の料理人から汚れるんじゃないかと言われたりしているが、それは厨房での動き方によるだろう。
 客側から見ると、荷物から出した大きな包丁を使うなんて、どこかで修行しているのだろうかと期待もある。いつもの行き付けの店の味とは違うものが混じっていたほうが、やはり対決らしいし、食べる楽しみも増すと言うもの。
「華国、ジャパン、それとこちらの国にも度々参りますので、色々と習い憶えた料理をご披露できればと思っております」
 未楡もうさぎの耳がついているが、娘とお揃いにしたのだろうと多くは余り気にしていない。一部の女性客は耳はさておき、着ている衣装が物珍しいだの、している指輪が綺麗だのと、さっそく噂をしているようだが。
 まあ料理となれば、いかに魔法の効果がある指輪でも外さないと汚れるし、肉や魚の脂で滑って落としたりもしかねない。未楡自身は自分がそういうことで注目されているとは思わないようで、準備に取り掛かる際には外してしまって、女性客を落胆させている。
 料理そのものは厨房で行われるから、覗くことは出来ても間近に眺めることは叶わない。もちろん出来上がるまでは食べられないから、客の中にはその頃になってから来る者も多いだろう。最初からいるのは常連客とか料理人の家族が多い。
 だが、ただ待っているなんて出来ないよ、という訳で。
「こういう短時間で仕上げる料理は、かえって素材選びの目が問われると思いますの」
 ラルフェンの提案が集まった人々の賛同を得て、まずは一品、待ち時間に摘める簡単料理を提供することになった。色々並んだ皿を前に、エリザベートが小難しいことを口にしたが、頷いたのはエルンストやラルフェン、料理人の親方達ばかり。
 他の客はおいしそうとか、おなかが空いたとか、口々に好きなことを並べて、とっとと料理を取り分けている。うかうかしていると、全部なくなってしまいそうな勢いだ。後で評価する前準備だから、まだの人達はしっかりと自分の分を確保する。
 みっともないから慌てない。でもがっちり取り分ける。もちろん誰が作ったものか、きっちり確認も忘れない。
「この時期は乾燥野菜が出るのは当然だが、これは色がいいな」
「味も悪くはありませんね」
「ちょっと盛り付けが乱暴だったがな」
 冒険者三人は、この段階からあれこれと評価をはじめ、店主や親方達が『目も舌も肥えている』と喜んだ。多少手厳しいことを言われようと、いい悪いをしっかり言ってくれる人がいれば盛り上がるというものである。
 とは申せ、実際に料理人達が腕を振るった料理が並ぶまでには、結構な時間が掛かるのだが。
「退屈‥‥他のワインも欲しい‥‥お酒に合うおつまみが少なかった気がする‥‥」
 しばらくして、ぶつぶつと呟かれたご不満は、酒飲み達の共感を得たが‥‥料理は簡単には出来上がらない。

 さて厨房では、最初の課題を乗り越えた人々が、作業場所を分けて、存分に腕を振るい出していた。こんなことをするだけあってそれなりに広い店だが、十人余りが全部調理に掛かるとなると少々手狭だ。普段は下ごしらえだけしている見習いも、本日ばかりは包丁を使うのだから致し方ない。
 そういう中で、狭くても結構平気なのは未楡と月与の母娘。どちらもあちらこちらの災害救援などで、調理場以外での料理にも慣れているから、手間取ることがない。どちらもかまどに大鍋を置き、違う具材でスープを取っているところだ。未楡は小麦粉を練って、何か麺をこしらえるつもりらしい。月与はまずは根菜を中心に、野菜を刻んで煮る準備をしている。どちらにも共通するのは、やたらと大量だということ。
 大量なのはリュシエンナもで、集められた材料をほとんど片端からと言っていい勢いで集め、厨房の片隅に積み上げている。とりあえずあるものを集めて、何を作るかは今考えているようだ。
「いいわぁ、作り放題って。これ、なにかしらね」
 なんだか分からないものも持ってきて、その場で味見をしたりしている。肉が生でも、まずはそのまま。味が分かったので、幾つか野菜を取り出して炒め合わせることにしたらしい。他にもパイ包みを作りたいのか、新たに小麦粉を持ってきたり。
 他の料理人はすでに考えていた料理がある者がほとんどのようで、必要なものを選んで作業場所を確保すると、それぞれに作業に入っていく。だいたいが温かいものをと思うのか、かまども窯も火が途切れることがない。
「熾火でもうしばらく煮込みたいんだけど‥‥」
「じゃあ、そっちのかまどに移してくれるか?」
 月与が煮ていたスープは、時間が掛かるので急造のかまどに移されてしまった。元から据付のかまどの方が大きな火力が得られるので仕方ないが、大量の野菜を運ぶのが大変だ。他の人々も忙しく動いているから、ぶつからないように注意しなくてはならない。
 こうして考えると、炊き出しをしたりする時は手を貸してくれる人がいて助けられていたと思うが、まあ弱音を吐いてもいられない。別に炒めた野菜を鍋に入れて、火の調整をしてから、今度は小麦粉をこねる。麺類は母が作るし、その腕前はあちらが上だから、小麦粉と蕎麦粉もこねて、両方合わせたすいとんにするつもりだ。蕎麦を使う量を増やしたほうが、キエフの人々には喜ばれるだろうかと悩んで、他の料理人の手元を見る。
 そうしたら、野菜の飾りきりなどをしている人がいて、しまったと思う。乱切りの大きさは揃えて、味の染み込み具合はよくしてあるが、見た目はいま一つ。味だけでなく、盛り付けや彩りも言われていたっけと、別に作る料理の手順を少し変更することにした。
 見た目の点では、母親の未楡のほうは華国の料理を選んでいたので、見た目の華やかさも考慮に入っていた。中の具をロシア風にした肉饅頭も皮に少し色を付けたり、煮込み料理の上に乗せる香味野菜の切り方を工夫したりと、細かいところに手を入れている。
 他には当人のこだわりで、立ったまでも食べられるものも幾つか作っているが、今回は別に慈善活動などとは縁がない。そうした料理は子供達が食べやすいものとして喜ばれるだろう。
「これは見せない」
「あら残念ですわね。ではこちらも秘密にしましょう」
 こちらでも、どういう盛り付けがいいかしらと他の人の手元をみれば、向こうは未楡の手付きを眺めていたりして、まあお互いに勉強させてもらっている。でも一番大事なところは、一応対決なので皆が秘密だ。隠すどころではなく、作るのに必死の見習い達もいるが、それはそれ。
 だが作るのに必死の見習いも、リュシエンナの手付きには大抵しばらく目を奪われていた。
「あの、普段は冒険者ですよね?」
「うん。でも最近は仕事も料理に関することが多いかな」
 依頼を受けていない時は食堂の店員のリュシエンナは、まな板に数種の刃物、鍋も自前の品物を持ち込んで、生き生きとした表情で何かを作っている。『何か』となるのは、数種類を同時に作っていて、具体的に何が出来上がるのか分かりにくいためだ。
「あぁ、菓子もあった方が女性や子供は喜ぶねえ」
 中にはちゃんと分かる料理人もいるが、皆忙しく料理中で、細かい観察には至らない。ついでにくるくる忙しなく動いて作っているリュシエンナに尋ねるのも気が引ける。
 という訳で、誰が何を作っているのか、具体的な出来上がりは結構料理人同士も分からないままに、料理は出来た順に供され始めた。同時ではないから、ここで計算違いが出た者がいるかもしれないが、待つ方だって限度というものがあるのである。

 さて、料理人達からすれば短く、待っていた客側からすると大変に長い時間が過ぎて、最初の料理が出されてきた。参加各店の見習いが集まって作った宴会用の前菜である。出す順番にも有利不利があるだろうが、前菜が最初に出てくるのは悪くない。
 量もたっぷりで、待ちかねていた客達はわいわいと取り分けて、悪くはないと言っていたが、一部違う人達がいる。
「ちょっと酢が効きすぎですわね。少し控えて、塩気を足したほうがよかったと思いますわ」
「塩気がきついと後の料理が楽しめませんからね。酢だけ控えめでもいいでしょう」
 親方の一人と手厳しい会話を繰り広げているのは、エリザベート。親方の料理の心得と彼女の味の好みが合うようで、先程から意気投合していた。この二人は、基本的に新鮮な素材が手に入ったら、それを損なわない味付けがよいと考える人達だ。
「これは魚の焼き加減に少しむらがあるな」
 次々と料理が出てくる頃になると、火の通し方などにも注文がつく。エルンストは焼き色などが結構気になるらしい。だが知人への土産話にと作り方などを尋ねてくるので、料理人も自分の料理について色々述べる場が作れると思うのか、呼ばれるとすぐに出て来てくれた。
 そんな彼の背後で、各店の親方が弟子に『それ以上は言うな』とか『もっと説明しろ』と目で指示していることは、気付いた客には面白い見物だったろう。
 エリザベートもエルンストもお世辞は言わないから手厳しいのだが、冒険者三人の中ではラルフェンが料理人には最も手強い相手だった。妹のリュシエンナが卓越した技量を持つからか、野菜や肉、魚の切り方といった細かいところから、合わせた食材の彩りの妙、盛り付けと皿の見栄えまで、細々と感想を語ってくれる。
 ただし、語り始めるまでの時間が料理によって違い、早く始めるとそれほど美味しくなかったもので、美味しいものは全部平らげてから話し出す。
「本当に美味しいと思うものを食べたら、小難しいことを喋ったりしたくないだろう?」
 とてももっともで、これには親方達も普通のお客も頷いたが、最後のほうで一度だけラルフェンの評価が大勢と合わなかったことがある。
「甘すぎるだろう」
「もっと蜂蜜は控えめがいいですわね」
「そうか? 美味しいじゃないか」
 多分超が三つくらいつく気配の甘党ラルフェンは、菓子類については皆と意見が余り合わなかったのである。このあたりは個人の好みなので、致し方ない。
 この頃にはいささか華やかさが足りないが美味しいと評された月与のすいとんも、物珍しさから取り合いになった未楡の肉饅頭も、種類と量が他を圧倒してどれを食べればいいのかと皆を惑わせたリュシエンナの料理も、すっかりと片付いていた。食べ切れなかった分は、ちゃっかりした主婦連がお持ち帰りしている。
 そうして。
「この飾りは華国で、こちらはジャパンで縁起物とされる花をかたどっていましてね」
「この店でも丸焼きの鳥に羽飾りはしたことがあるよ」
「それは貴族の宴会みたいですね」
「羽って、本物の鳥の羽を使って?」
 残った僅かな材料で、今度は自分達のまかないを作った料理人達が、妹を置き去りに出来ないラルフェンと、せっかくなので色々料理の話を聞いておこうかと腰を据えているエルンストとエリザベートを交えて、飲食談義に花を咲かせていた。これはなかなか終わりそうもない。

 ちなみに対決結果は。
 店の片隅で、散らばってしまった豆を何人かが連れてきた精霊、妖精達が集めたり、また散らかしたりしている。珍しい存在を見て、お客は待ち時間を楽しく過ごしたのだが‥‥あまり難しい事を考えない彼らは、皆が料理に舌鼓を打っている間に豆の入った壷を掻き集めてしまっていた。もちろん中身も混ざり合っている。
 だいたいは評価で分かっていたものの、対決結果はこうして不明のままに終わっているのだった。