素敵?なお茶会への招待〜実家に帰ります?
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月31日〜01月03日
リプレイ公開日:2010年01月12日
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●オープニング
世の人々がジーザスの生誕日を祝っている中、冒険者ギルドで知る人ぞ知る有名人のお茶会ウィザード・アデラは、夫のジョリオと並んで叱られていた。
「まったくもう、二人で遊び歩いてばかりいて。来年にはルイザが結婚するというのに、貴方達が落ち着かなくてどうするのっ」
叱っているのはジョリオの母親、アデラのお姑さんである。齢六十を越えて久しいが、未だにとても元気。騎士の夫を支え、五人の息子を育て上げ、そのまた子供達の世話に勤しむ彼女は、ご近所でも有名な肝っ玉母さんだ。
ちなみにジョリオは五人兄弟の真ん中三番目。兄弟全員結婚していて、彼以外はいずれも子供が三人から四人と結構いる。彼とアデラは子供こそいないが、姪の四姉妹が同居なので兄弟全員五人から六人家族。長男夫婦は子供が三人に両親と同居で七人家族だ。
これが珍しく今年は全員集まって食事をしているのだが、赤ん坊も含むものの三十人だと座る椅子もない。子供は床に敷物を敷いて座っていて、大人も父親以外の男性陣は木箱や何かを適当に持ってきて座っていた。
この家では、基本的に女性が何事も優遇される。騎士家系だからではなく、単に母親が『息子なんかもう飽きた』と公言しているからだ。
そんな家なので、色々性格に変わったところがあるアデラも『可愛い可愛い、女の子がいっぱいいて最高。あの三男と結婚してくれていい人』とお姑さんには大事にされていた。義姉妹とも仲良しだ。
だが、一つだけお姑さんには不満があって‥‥
「今年こそは、うちで年越しをしなさい」
先程厳命されたのである。
そもそもアデラはお茶会好きで、年末年始も冒険者を招いて家で過ごしているのだが、他の家族は皆で夫の実家にぎゅうぎゅう詰めになって年越しをしていた。一度くらいはこれに加わってもいいだろうと、そういう命令である。
普通の嫁姑関係なら、ここは素直に頷くか、絶対にはねつけられる理由でも述べるところだろうが、アデラは違う。
「でもぉ、お義母様。お友達の冒険者さんと、今年も一緒ねってお約束しましたのよ」
夫の実家より友人優先発言。
義兄弟達は『うわぁ』と顔が引き攣り、義姉妹達は『相変わらずねぇ』とこっそり笑っている。ジョリオは冷や汗をだらだら流しながら、妻と母の間に挟まれていた。
流石のお姑さんも、これは予想外だったようだが、
「それなら、そのお友達も来てもらえばいいだろう。狭いが、お客様用の椅子くらい、皆の家から持って来ればいい」
お舅さんこと父親の一言に、それはいいと手を打った。そもそもお客さんも大好きな人なのである。
よって。
「お友達を連れていらっしゃい。いいわね?」
「はぁい」
「あらまあ素敵。じゃあ、ご馳走をいっぱい用意しなくっちゃ」
「お皿はうちから持ってくるわ」
「椅子はうちの長椅子がいいと思うけど」
「毛布も準備しないとね」
女性陣の間で話がまとまり、ジョリオと兄弟達はそれぞれの妻の『運んでね』という表情に頷いていた。
アデラのお茶会、今年の年越しの会は、ジョリオの実家で催されることになる。
●リプレイ本文
お茶会ウィザード・アデラからお茶会の誘いがあれば、前日夜から出向いてくるようなマート・セレスティア(ea3852)は、明日には新年という早朝に珍しく働いていた。
「サラ姉ちゃん、薪はこのくらいでいいかな?」
「多くて困るものではありませんから、もう一山お願いしますね」
別にお茶会仲間のサラフィル・ローズィット(ea3776)の監視の眼が光っているからではない。さっき朝ご飯前の軽い食事を済ませて、美味しい朝ご飯の前に少し働いたら肉料理の味見をさせてもらえるからだ。やっているのは、ジョリオの実家で大量に必要になるだろう薪を運びやすいように小分けにして束ねる作業。
そんな早い時間から、もう身内同然に出入りしているサラとリュヴィア・グラナート(ea9960)は、ジョリオとアデラが夜勤でいないものだから、姪の四人に本日の作業指示を出していた。年長のルイザとシルヴィがサラと一緒に朝食の支度、年少のマリアとアンナはリュヴィアと後ほどの大掃除の準備である。家主の意向は気にしない。
「今のうちに、あちらに持って行く茶葉は私のものとすり替えておくか」
それが済んだら、ジョリオの実家に持っていく料理や荷物の準備もある。聞けば通り三本向こうと近いので、たくさんあっても二往復すればいい。ジョリオもアデラもちょくちょくと、姪っ子達は二人とも夜勤の際など泊まりに行ったりしているのだが、なぜだか年末年始だけは家でお茶会をしていたらしい。
お茶会を止めて欲しいとは思わないが、家族の集まりをないがしろにするとは何事かと、サラはこれから帰ってくる二人にお説教する準備も済ませていた。
それから三時間ほどして、午前中に他人の家を訪ねるのに差し支えない時間になってから、年越しに参加するハティ・ヘルマン(ec6747)とマリー・ル・レーヴ(ec7161)がやってきた。ハティは道案内を兼ねて旧知のラルフェンが付き添っている。こちらの目的は何度かお茶会などで世話になった礼を述べることも含まれていた。
で、残されたハティとお茶会とは素敵なと久方振りの故郷に戻った懐かしさとお茶会の言葉に惹かれて出向いてきたマリーは、目前の騒ぎに両目をしばたたかせていた。どちらも一般家庭の年越しに混ざった経験のない神聖騎士と騎士である。どこの家もこんなに大騒ぎなのだろうかと思いつつ、何をしたらいいものかと迷っている。
「ご家族揃っての年越しを兼ねたお茶会に混ぜていただけると聞きましたけれど‥‥」
「‥‥賑やかで楽しいと聞いた」
なんだか予測と違うとどちらも思いつつ、家人がこれほど忙しく立ち働いているなら自分も何かせねばと思い立った。どこから手をつけたものか分からないし、家事も得意ではないが、それなら先に向こうで使う椅子を運んでくれと頼まれて、マリアを道案内に出掛けることになった。なんだか引越しの手伝いのようである。
「あらまあ、お客様に荷物を運ばせるなんて、うちの息子は何をしているのかしら」
出向いた先でも似たような状況だが、ジョリオとアデラは夜勤明けで仮眠中。更にこの礼儀正しく挨拶してくれた二人はお茶会初体験だと聞いた実家の母君のお顔は、一瞬怖かった。もちろん事情がまだよく飲み込めていない二人は、マリアに倣って黙っている。何か取り成すにしても、事情がちゃんと飲み込めてからの方がいいだろう。
そんなこんなで、掃除をしたり、薪も運んだり、足りないものを買いに出たり、色々料理を作って運びやすい器に入れたりして、仮眠を済ませたこの家の夫婦とおなかがすいた人がご飯を済ませると、ようやく出発である。アデラも一応野菜煮込みを作り置きしてあったので、人に準備してもらったものばかりを持って行ったわけではない。大半がそうだとしても、そのあたりは作った人達が納得しているので多少うやむやにして、気の利くお嫁さんを演出すればいいのだが‥‥
「これ以外は全部用意してもらいましたの〜」
正直に白状してしまい、朝のサラに引き続いて今度は実家のお母さんにお説教されている。この頃には、マリーとハティも『こういう人なのか』と理解していたから、取り持つ努力は放棄した。多分色々、他の三人から聞いたのだろう。
さて、怒られている二人は放置して、招かれた五人は簡単に紹介されていたものの、改めてジョリオの親族達と挨拶を交わしていた。子供達はお土産のお菓子の匂いに落ち着かない。
普通こういう時には最も落ち着かない食欲魔人のマーちゃんが、挨拶が済んだと見るやお菓子の包みを開けたが、これは当人が用意してきたもの。
「これ、食べてもいいよ」
リュヴィアとサラが『熱でも出たのか』と心配したが、普段のマーちゃんは人の食べ物まで食べても譲ることはないのだから仕方ない。
ちなみにこれにはマーちゃんなりの考えがあって、
「ジョリオ兄ちゃんの家のご飯は美味しいって聞いたんだ」
故に、食事の際の難敵であるだろう子供達には今のうちに身銭を切っても菓子を食べさせておき、美味しい料理を少しでも自分のものにしようと画策している真っ最中。もちろんすぐに制止された。子供達もマーちゃんも不満だが、まだいっぱいある仕事に向かわされる。
他の四人はリュヴィアとハティが、子供達の数名を連れて庭の手入れに、サラはルイザとお説教から解放されたアデラと一緒に庭のかまどで料理に、マリーはジョリオの父親と一緒に居間に飾られている骨董めいた装飾品などを移動させたり、片付けたりと、それぞれの適性に合った仕事をすることになった。
「故郷での聖夜祭は落ちつきますわ。あら、こちらはジャパンの品物ですのね」
マリーはまず壊れては困るものを箱詰めにして避難させる作業をすることになったが、暖炉の上に飾られていた短剣や装身具の中にジャパンの螺鈿が施された小柄が混じっているのに目を留めた。
こういうものに濡れ布巾は厳禁のはずと口にしたら、次からは気をつけないとと父親が苦笑したので、好きで集めたわけではないらしい。
「復興戦争の終わりに、ジャパンの方から譲り受けてね。あちらはノルマンの飾り物を欲しいが、持ち合わせがないと言うものだから」
その後人伝にやはりジャパン人の女性に求婚して、一緒に帰ったとは聞いた。などという辺りから昔話が始まってしまい、マリーが生まれる前の頃からあれこれ聞かされる羽目に。
これだけ家族が集まれば、皆が子供の頃の話など聞かせてもらうのも楽しかろうとは思っていたマリーだが、今から聞かされるとは思っておらずに少しばかり困惑している。楽しそうに話をしている御仁を遮って、荷物を片付ける場所を尋ねてよいものかと‥‥しばらく悩むことになるだろう。
そんな彼女の苦労は知らないサラは、庭のかまどでルイザに煮込み料理の味付けを教えていた。年が明けて六月になったら結婚するそうだから、今のうちに役に立ちそうなことは教えてあげたいと思ってのことだ。当人も特に料理には関心があって、熱心に耳を傾けている。
ちなみにルイザの結婚式には、相手方も『冒険者さんも都合がよければ呼んで』と言ってくれたそうで、お祝いに行けそうである。ルイザの相手の見極めに関わったせいもあるだろう。
「でも結婚なんて、なんだか不思議ですわね。最初にお会いした時は、まだ小さいと思っていましたのに」
「今は背も同じくらいなんだから、大きくなったの」
言われて、確かにあったばかりの頃は頭のてっぺんが何とかだが見えたものだと思い出した。そのうちに妹達も結婚すると言い出して、その度にジョリオが蒼くなるのかもしれない。
そうなる前に、一通り家事は教えてあげないと駄目だろうと、相変わらずよく怪我をしないものだと思う手付きで薬味を刻んでいるアデラを眺めるサラだった。
覚束ない手付きは、近くで庭掃除をしているハティにも共通している。まだ剪定には早いのだが、庭木の中に枯れているものがあるのを見付けたリュヴィアが手早く切り倒し、それを焚き付けに出来るように切るのがハティの仕事だが、妙に難しい顔で取り組んでいる。
リュヴィアも先程ちょっと考え込むような顔をしていたが、こちらは緊張しているハティと違い、ジョリオの実家に集まった子供達が見事に男の子ばかりだったのが残念なだけだ。男の子は放って置いても大きくなるが、女の子は手の掛け方で違う。その過程を見守って、時に手助けしたりするのが楽しいリュヴィアにしたら、女の子は赤ん坊だけというのは大変に残念。代わりにアデラの姪っ子達がまったく血が繋がらないのに皆から可愛がられていて、それには安堵したのだが。
ただ、今度は目の前に以前編み物をしていたアデラのような緊張具合のハティがいた。別にばっさりと短く切ってくれればいいのだが、たぶん頭の中であれこれと考えているのだろう。
まず太い枝と幹を切り離して、幹は薪の長さに切り分ける。それから運びやすいように枝を切るように言っていたら、掃除を終えた子供達が寄ってきた。
「せっかくだから、枝は君達が切るか?」
リュヴィアの問い掛けに、年少で手斧は使ったことがない子供達が、やりたいと目を輝かせている。
これに慌ててハティが斧を使って枝を切り落とし、子供が扱いやすそうな長さに枝を分けて、こんなものかと悩んでいる。そんなに緊張しなくてもと思うが、真面目に頑張っているのだし、子供と話をする時は幾らか物柔らかな表情になるので、あれこれ構わないほうがいいのかもしれない。
「そうだ。‥‥ちょっと面白いものを、持ってきたんだ」
ひとしきり庭仕事をして、冷たいと口々に言いつつ手を洗った子供達を見て、ハティはラビットハンズを取り出してきた。うさぎの前足を模した長手袋は子供達に面白がられたし、買って来てあった差し入れの肴は男性陣が楽しみにしている。
他に子供向け家のお菓子もあって、これは仕事の合間のお茶と一緒に供されたが‥‥この時すでに年長の子供達とマーちゃんが取り合いで戦っていた。
やがて日が暮れる頃になって、年越しというより親族集合にお客様を迎えた宴会準備は整った。ジーザス教白派の信徒は年末の教会詣でも済ませて、人でぎゅうぎゅうなので食卓も四つに分散して子供は床に座り、揃って食前のお祈りもして、
「食べていい? もういいよね?」
ものの見事に台所から子供達と一緒に締め出され、摘み食いもままならなかったマーちゃんが歓声をあげて、数々のお皿から自分の手元に料理を掠め取っている。本日朝から今までに食べた食事やおやつはなんだったのかと思う勢いだが、ジョリオの両親は動じない。育ち盛りの子供はこんなものだと達観しているようだ。その認識には間違いがあるのだが、本人の申告も他人の指摘もなかったので、そのまま。
「お二方とも、尊敬に値する親御さんですわ」
サラなどこういう席だと目立つアデラの慣れない場所での要領の悪さも気にせず、適切な目配りをしている二人にすっかり感心していた。確かにアデラの引き起こしたあれこれを知っている彼女にしたら、感服してしまうのも致し方ない。ついでにアデラのお茶のことも知っていて、平然としている兄弟達にも感心しきりだ。流石に率先して飲みたくはないようだし、子供がいる席に出すと事故が起きそうなのでジョリオの判断は賢明だろう。
これについてはリュヴィアも同感で。ついでに小さい子供をジョリオのところに送り込んでいたりする。たまには男の子の相手もすれば、将来役に立つかもという心遣いだが、疲れ知らずの子供相手はたいそう疲れているようだ。
でも、
「そういえば、アデラ様のご両親とこちらのご夫婦とかお友達だと伺いましたのよ。それがご縁で結婚なさいましたの?」
マリーが散々聞いた昔話のことを持ち出して、ジョリオの立場はなんだか悪くなった。ハティとマリーが首を傾げているが、サラとリュヴィアの視線が厳しくなったからだ。
「アデラ殿の兄上とご友人だとは聞いたが、ご家族ぐるみのお付き合いだったのかな?」
「うちの兄達とお義兄様達とジョリオさんがお友達で、それで知り合いましたのよ。だから実は私、ジョリオさんが二十歳くらいの時にお付き合いしていた方も知ってますもの」
うふふとアデラが告白したのに、リュヴィアがちょっと意地悪なことでも言ってやろうかと思ったら、家族が反応した。それは知らないと、親と兄弟と義姉が身を乗り出している。お酒が入った勢いのままに責めたてているので、他の面々は子供も一緒に下がるしかない。
数分の後。
「ええとじゃあ、最初は元気な曲にしようかな」
やはり酒が回って、妙に饒舌になったハティが人が変わったようにうきうきと楽器を取り出して、子供達の前で演奏している。最初は酔うと寝てしまうようだからと固辞していたが、どうも呑まれて記憶が飛ぶ方向だったようだ。楽しそうなので、特に誰も心配はしない。
ジョリオはまだ責められているのでマリーが申し訳なかったかしらと思ったのだが、リュヴィアもサラもアデラまで『あれも家族の団欒』と断じたので、気にしないことにした。アデラの義妹達も気にせず、リュヴィアが用意してくれたお茶を飲んでいることだし。
何か色々白状させられたらしいジョリオが憔悴してしまった後は、大分料理が片付いたので卓を減らして、子供達は廊下に出て遊んだりもしているが、マーちゃんは相変わらず食卓に張り付いている。美味しいものが多くて、嬉しくて泣き出しそうな様子だ。
その頃には幼児は疲れて眠くなってしまったり、それでも遊ぶどぐずったりしているので、サラが子守を請け負い、ジョリオの母となにやら話か弾んでいる。リュヴィアはお茶を淹れたり、ホットワインに入れる香草の話をしたりとアデラの義理姉妹と仲良しだ。ハティは相変わらず楽器を演奏していて、時々何がおかしいのか笑っている。マリーは羊皮紙を広げて、なにやら描いていた。
ジャパンでは新年最初の朝日が昇る様を見ると大変縁起がいいとの話をマリーがしていたので、夜明かしして拝んでみようかとそんな話にもなっている。散々飲食し、さらに酒も入っているし、子供は起きていられないしで、実際に朝日が拝めたのは少なかったが‥‥その頃にはマリーが描いた皆が勢揃いで並んでいる素描も完成して、壁に張り出されていた。
「ねーひゃん、ことひもよりょひくね」
さっきまで壷入りの蒸し物を抱えて寝ていたマーちゃんが、眠い目を擦りつつも腸詰を食べながらアデラに言っている。時々他所の家でもいいとは、お茶会のことだろう。やはり先程まで寝てしまっていたと思っている酔いが醒めてきたハティも、こういう賑やかな年越しは初めてだったと楽しそうに口にした。アデラと一緒に、なぜかお姑さんまで頷いているので、きっと今年も時々お茶会があるのだろう。
それで他の人々も、互いに今年もよろしくと挨拶して、今度は新年のお祝いをするために屋内に戻ったのだった。