竜を奪う者達 〜遠来より敵来たる〜

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 12 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月26日〜02月05日

リプレイ公開日:2005年02月04日

●オープニング

 この依頼は、最初、非常に簡潔だった。
「実家の警護をお願いしたい。よろしく」
 ドレスタット冒険者ギルドの係員は、簡潔に返した。
「ご実家の場所と警護が必要な理由をどうぞ」
 すると、依頼人はぽんと手を一つ打った。
「そうだな。それは大事だ」
「こちらがお尋ねすることに、出来るだけ詳しく答えてくださいよ。よろしいですか?」
 素直に頷いた依頼人の男に、係員が矢継ぎ早に質問を浴びせていく。

 この依頼人は、海戦騎士団の一員だった。言葉が少ないのは、単なる性格だろう。
 まあそれはそれとして、係員が聞き出した要望はというと‥‥
「フィールドドラゴンを飼ってる? え、あれって幾らで買えるんですか?」
「買ってない」
 依頼人の祖父は、ある時フィールドドラゴンを見付けて、何を思ったか延々と後をつけて歩いたらしい。もちろん手に入れるためだが、相手はそう簡単に人間を背に乗せてくれる動物ではなかった。狩りの獲物を差し出すことから始めて、触るのに半年、乗せてもらうのに一年、乗りこなすのに一年半掛かって、ようやっと家まで連れ帰ったそうだ。
 以来、ものすごい大食漢を養うために子供と孫が苦労しようが、妻と嫁達に嘆かれようが、祖父は気にせずドラゴンと過ごし、一昨年亡くなった。家族は以降もフィールドドラゴンも高齢になっているようなので飼い続けているが、ドラゴンは誰も背には乗せないのだという。そこまでされると、かえって家族も情がわくらしく、依頼人も家族もドラゴンを手放すつもりはないそうだ。
 ところが珍しい動物は買いたいと言い出す輩が多く、祖父が元気なころから大枚はたいても買い取りたいとの申し出には事欠かなかった。さすがにドラゴン騒動の後はぱたりと申し出も止んでいたのだが、先日のこと。
 久し振りにフィールドドラゴンを売って欲しいと、身なりのよい女性が来たそうだ。買い取り金額の提示は金貨六百枚。たまたま帰宅していた依頼人が現実味のない数字に憮然としたら、次の日には前金と言って金貨二百枚を持ってきた。さすがに一人で運べる量ではないので、下働きらしい男性二人がろばを引いてきたが。
「それを断ったんですか?」
「あれも見るからに年寄りだし、爺さんの形見だ」
 係員も、そして依頼人もフィールドドラゴンの寿命は知らなかったが、依頼人の目には年寄りに映るらしい。それでやっぱり断ったところ、である。
「翌日から度々厩舎の扉が壊されたり、あれが騒いだりする。しかも三日前には家の裏手にその商人達がいた」
 これは盗みに入るつもりだろうと思った依頼人は、入れ替わりで帰ってきた弟に後を任せ、ここへ護衛を雇いにきたのだった。彼の弟もしばらくしたら仕事に戻らなくてはならないから、その後の護衛と怪しい奴らの捕縛をしてほしいと、そんな依頼内容である。
 これだけなら、護衛対象が変わっているが、よくある依頼だろう。
「ご家族がおばあさまとご両親、それからドラゴンの世話係の男性が一人、その嫁さんが家事の手伝いで五人ですか。普段はこの五人とフィールドドラゴンと他に何かいます? 家畜とか?」
「鶏が百羽くらいに、馬とろばが一頭ずつ」
 この鶏は、フィールドドラゴンの餌の一部だそうだ。他によそで飼っている豚を何頭か買い付けてあって、適宜それを与えるらしい。
 係員、ここでちょっと聞いてみた。
「餌代か? 月に金貨で七枚くらいだな。鶏分も入れたら、十枚だろう」
 そんなもの高くつくものを盗んで、どうするんだろうと言ってはいけない。買い手のあてがあるのかもしれないからだ。
 依頼人は、もちろんそうした相手がいるのなら、それも聞き出して欲しいと言っている。

●今回の参加者

 ea0033 アルノー・アップルガース(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0926 紅 天華(20歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1757 アルメリア・バルディア(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea3587 ファットマン・グレート(35歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 ea4847 エレーナ・コーネフ(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea7400 リセット・マーベリック(22歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●一日目は順調
 フィールドドラゴンを狙う一味から家族とドラゴンを守る。この依頼を受けた冒険者八名は、目的の家ですんなりとそれぞれの仕事に就いていた。依頼人の家族は『守ってもらうのだから』と協力的で、彼らがしたいことに口を挟まなかったからだ。
 そんなわけで使用人風に装った深螺藤咲(ea8218)だが、一緒に家族の護衛についた荒巻美影(ea1747)、エレーナ・コーネフ(ea4847)が普通の服装なので、いきなり作戦的には行き詰まっている。
「いきなり人数が増えてるから、全員が使用人っていうのは難しいと思うのよね」
 エレーナの台詞はもっともだが、使用人の振りをしていれば来客の最初の応対が出来る。故に家族の側での護衛は美影とエレーナに任せ、藤咲は使用人夫婦の妻と家の内外の仕事をしていた。
 もっとも、この家は近所の顔見知りとたまに来る決まった行商人以外、ほとんど来客はないそうだが。

 家に三人となれば、残る五人はドラゴンの傍に居た。中には藤咲のように、ドラゴンの世話役見習いを計画したファットマン・グレート(ea3587)もいるが、それ以外はドラゴンへの興味が先に立つようだ。
 なにしろリセット・マーベリック(ea7400)と紅天華(ea0926)、アルノー・アップルガース(ea0033)の三人は、厩舎の柵にかぶり付きで中を覗いていた。当のドラゴンは意に介せず、火に当たっている。寒い日は、外を走り回ってから火にあたるのだそうだ。
「誰も乗せてくれないのでしょう? それでは転売もしようがないと思いますが」
 アルメリア・バルディア(ea1757)が世話役の男性に尋ねると、まったくだと頷きで返された。彼に限らないが、この家の誰もが冒険者一行に協力的だ。どうやら金貨の山を積めば頷くだろうと思われたのが、相当腹に据えかねたらしい。
 ファットマンは大金で誰かが敵方に寝返るのではと警戒していたが、使用人夫婦も本気で憤っている様子なので、その心配は薄いようだ。ちなみに依頼人家族とこの使用人夫婦以外の言うことは、まるで聞かないドラゴンだとか。
 となれば、もちろん触ってみたくなるのが人情というもので‥‥
「え、餌あげてみていいかな」
「寒くないように、もっと火を焚いてやるとしようか」
「お、おじいさん、こっち見てくださーい」
 十代の三人のはしゃぎっぷりに苦笑する男性の前で、アルメリアとファットマンはちょっと居たたまれない思いをしていたが‥‥さりげなく餌やりなど始めていた。
 なお男性の説明によると、ドラゴンは勝手に外には出ないが、人が入り込まないように外から閂と鎖を掛ける。その鎖を解こうとした跡があって、依頼が出されることになったのだ。
 厩舎はフィールドドラゴンの他に、一同の馬やろばを入れてもまだまだ余裕があるほどに広かったが、ドラゴンに慣れていない馬達が落ち着くまでにはかなりの時間を要した。あまり顧みられなかったかも知れないのだが。

●警戒
 夜間の襲撃に備えて、ドラゴンの厩舎に泊り込んだファットマンとアルノーが何事もなく警備の交代をし、家でもエレーナが寝台に収まった頃。残る五人は家の内外の確認作業をしていた。敷地に隣り合う畑は別にして、問題の商人達が様子を伺っていたと思しき森の方向にはリセットとアルメリアが向かい、異常がないかを確かめる。
 それをただ眺めていると、エルフの女性同士で木の側で和んでいるようにも見えたが、実際はどちらもこうした場での観察眼は鋭い。数日前には、間違いなく森の中を歩き慣れない者が複数、あちこちに動いていたようだと見て取った。
「あれだけ小枝が折れていれば、私たちでなくても分かりますよ」
「もっと細い道かと思いましたが、ろばをいれて作業が出来る幅はありましたね」
 それだけの道があるのに枝が茂る場所を歩くのは、もちろん怪しい。そもそも藤咲と美影が家の周囲を確認した折に、一冬分の薪は備蓄してあるのを見たばかりだ。わざわざ雪も降る季節に、森の中には誰も入りたがらない。
「そうなると、専門で盗みを働く輩ではなさそうか。いよいよもって、荒事になるかもしれんな」
 自分はドラゴンの研究にドレスタットに来たといってはばからない天華が、つんとくちびるを尖らせた。そもそもがよほど信頼関係を築かないと乗せてはもらえないフィールドドラゴンを転売しようとしていそうな連中だ。まともな判断は期待できないだろうと言いたげである。
 これにはファットマンや藤咲も意見を揃えていて、ドラゴンを連れ出すために家人を人質に取るくらいはしかねないと予想していた。そうでなければ、まとめて始末して、力ずくで運び出すか。
 ただ、そうするにはドラゴンの強靭さが災いするので、やはり人質説がありえそうだと、まずは家人に常時最低一人は付いていることになったのだが‥‥

●襲撃
 二日目の夜は、屋内で美影が、厩舎ではリセットと天華、本日もと気張ったアルノーが不寝番を務めていた。もっとも警戒した深夜も無事に過ぎ、夜が明けたらドラゴンとアルノーのオーラテレパスを介してゆっくり話でもしてみようかと厩舎組の眠気覚ましの会話がまとまったときのこと。
 遠く、馬のいななきが聞こえた。厩舎の窓からアルメリアが覗いても見えない方向、母屋の向こう側に誰かがやってきたものらしい。リセットもそのいななきが複数だと聞き取った。

 母屋では美影が馬の気配に気付いて、まずは仲間を起こそうと動き出した途端のこと。
 屋根と壁を打つ激しい風の音と、大量の何かが当たる音が続いた。起こすまでもなく、冒険者は揃って飛び起きてくる。藤咲とエレーナは心得て、速やかに家人と使用人夫婦の寝室に向かっていった。

 そうして、厩舎では。
「トルネード‥‥? まさかウィザードだとは」
 今回の依頼では、依頼人からして相手はドラゴンを盗み出そうとする『商人』だと思い込んでいた。もちろん相手がそう名乗り、商売をしていても滅多にお目にかかれない量の金貨を持ち出してきたからの判断だ。男女共に細身で、荒事に向いていなさそうとの証言も、盗人の印象ではなかった。
 思わず呟いたリセットも、それゆえに決定的な行動を捉えて捕まえねばと考えていた。これもまた全員に共通した認識で、ゆえに冒険者達は屋外に見張りを置くことをしなかったのだが‥‥
 まさかと思っている間に、今度は厩舎に別の魔法がぶつけられた。明らかに建物の破壊を狙った威力に扉が飛んで、ドラゴン以外の動物達が暴れだす。ドラゴンは足を踏み鳴らしたが、一応はアルノーを振り返った。昨夜話しかけられたことは記憶しているらしい。実はまるで返事をしてくれなくて、一方通行だったのだが。
『いいって言うまで、中から出てこないでっ』
『だめ?』
 落ち着いているようで、実は相当怒っている気配を聞き取ったアルノーだったが、とにかく駄目だと言い放つ。万が一にも魔法でドラゴンが傷付けられることがあってはならないと考えたし、相手が何人いるかもまだ確認できていないのだ。
「三人きりだが、全部属性の違うウィザードか?」
「乗馬しています。女は慣れていませんが、男達はそれなりに」
 相手は商人との思い込みから、まず間違いなく直接叩きのめすことになると思っていた彼らに、天華とリセットの見て取った事実は衝撃的だ。

 とはいえ、いつまでも呆然としているはずなどなく、また周囲が開けているのを幸いとアルメリアが母屋からライトニングサンダーボルトを放った。威力は全開、制御している場合ではない。彼女は少し離れた位置を取っている女と同系魔法を使うが、その効果範囲からして相手はアルメリアより上手なのだ。
 当てることより馬を驚かせることを狙った一撃は、男の一人が乗っていた馬の足を打った。こちらは投げ出されたが、あっという間に起き上がる。もう片方の男はさおだった馬を何とか制御して、もう一人をかばう位置に馬を寄せた。
「ええい、中に篭っていては捕まえるどころの話ではないぞ」
 ファットマンが今まで出番がなかったと皮鎧を着けた身で示しながら、誰にともなく口にした。なにしろ相手は魔法射程ぎりぎりまでしか寄ってこない上に、馬にも乗っている。馬が二頭になっても、徒歩で向かってくる相手を打ち伏せるくらいはやってのけるだろう。
 この合間に、エレーナと藤咲が家人や使用人夫婦を連れて、皆がいる部屋に戻ってきた。ばらけていてはお互いの状態がわからず、連携のとりようもないからだ。すでに厩舎と母屋に分断されているので、母屋の五人がまとまっている必要はある。
「近寄れれば、こちらに有利でしょうけれど」
「あちらも長時間は掛けられないわよ。その間、近付かせないのも方法ね」
 その間、こちらの家と魔力が持てばだけれどと笑顔で怖いことを言い切ったエレーナへの家人の反応を心配した四人だが、老婦人は『それもやむなし』と請け負った。そうまで言われて、本当に籠城したのでは名折れだとばかりに、五人は打って出る方策がないかとそれぞれの頭をめぐらせている。

 この頃、厩舎では敵に対して矢を放つリセットの背後で続いていた押し問答が、実力行使で終わったところだった。
『あれを戦闘に出してどうする』
 ちょっと興奮したのか、天華がイギリス語を口にした。アルノーもイギリス出身なので、目いっぱい顔をしかめたが‥‥彼がジャイアントであったとしても、飛び出したフィールドドラゴンを止められるものではない。
「馬は‥‥潰します」
 一瞬迷ったように言葉を詰まらせたリセットだが、新たな矢をつがえながら、ドラゴンの後を追った。自分達の馬が役に立つ状態でないのは先刻承知の天華とアルノーも、方向を変えて飛び出す。
 一方向に固まって的にならないくらいの用心は、相談するまでもなくやってのける経験を、彼らはもちろん積んでいた。

 フィールドドラゴンが飛び出したことで、相手が気圧されたのを見て取り、母屋からも三人が飛び出した。家人達の護衛には、藤咲とエレーナが残っている。まさかこの騒動の最中に、全員で敵に向かうことは出来まい。
 ただ、この二人は周囲に油断なく目を配りつつも、じりじりとした気持ちを味あわずにはいられなかった。
 問答無用とばかりに、飛び出した三人には魔法が放たれている。

 しかしながら、相手にはドラゴンを巻き込むつもりはないらしい。おかげで広範囲に効果を及ぼす魔法の難を逃れたリセットは、魔法を放った男が乗っている馬の足を狙った。僅かにかすっただけでも、ドラゴンに怯えていた馬を暴れさせる役には立つ。こちらは先程の男と違い、すぐには起き上がらなかった。ドラゴンは、そのまま遠方の男女に向かってしまう。
 そこに別方向から駆けつけたアルノーが、鞭を振るう。顔を当たったそれに皮膚を裂かれて、男は鈍い悲鳴を上げた。けれども。
「姐さん! 逃げろ!」
 先程の魔法の被害もさほど見せずに、ファットマンと美影が立ち上がったのを見て、男ははっきりと叫んだ。身内に呼びかける言葉ではなく、あくまで年長の女性に対する特殊な呼称の響きがある。続いて吐いたのは、結構な量の血だった。
 この間に、こんなに前線に出たのは初めてだったかもと思いつつも、アルメリアは一頭の馬に二人乗りした敵に向かっていた。ウィザードは、彼女もそうだが直接的な攻撃に弱い。それを連発する魔法で防いでいるのなら、声が出なくなれば後は簡単のはず。
 とはいえ、すぐに美影とファットマンが追いかけてくれ、ドラゴンがウィザード達と向き合っているからと、彼女が前に出るのはかなり無謀だ。でも近付かなければ、その目的を問うことも出来ない。だが。
 彼女達が近付いてきたのを目にして、馬の手綱を握った男がドラゴンへグラビティーキャノンを放った。
「なんてことを!」
 美影が傷付いた足を忘れたように動く速度を上げたことにも構わず、女が印を結んだ。その手から生まれた風の刃の向かう先は、アルノーやリセット、天華の前だ。
 ざっくりと切り開かれた背中から飛び散った血が、彼ら三人に降りかかるのは、母屋からもよく見えた。続けて、男女が乗った馬が速やかに馬首を巡らせて、一目散に逃げていくのも。
 
●残ったもの
 馬を徒歩で追うことはかなわないまでも、魔法で足止めは出来たかもしれない。だが目の前にドラゴンが傷ついて倒れ伏していれば、そちらをどうにかしたいのが人の気持ちだろう。また、彼ら自身も全員が無傷ではない。
 ドラゴン優先でポーションを随分と使い、人にもそれなりに使い、その間に駆けつけた近隣の警備士達が賊の死体を確認した。そうして判明したのが二つ。
 一つは、この男が商人を名乗った女の連れに間違いがないこと。
 もう一つは、男がハーフエルフだったこと。更に罪人でもあり、教会の神父の立ち会いもなく、調べが済んだら街道辻の端に埋めるのだと一同は聞いた。
 死体は語らないから、目的は不明のままだ。

 唯一の幸いは、ドラゴンがポーションのおかげですぐに回復したことだ。ドラゴンなりにちょっとは感謝したのか、それまでよそよそしい態度だったのが触っても避けるようなことはなくなった。それでも背に乗せてくれることはなく、リセットや天華を残念がらせているが。
 でも、この期になってようやく、アルノーのオーラテレパスには返答があった。
『首輪、色、危険。宝盗った奴の色。でも、自分、ここいる』
「それはあれかな。何が大変なのかは知ってるけど、ここにいたいから居続けることを選んだってこと? そういう選択が出来るんだ?」
「この家が好きなのかな。それで暴れないの?」
「主のために、ここにいることを選んだのか聞いてみろ」
 途中、あれこれと割り込んでくる気配もあったが、全部伝えてもドラゴンの返答は短かった。
『ここいる、大事』
 あとは義理を果たしたとばかりに、壊れた厩舎の中に入って、餌を求める仕草をした。

 その後は契約期間いっぱいに周辺の警戒を勤めた八人だが、逃げた二人の動向は伝わってこなかった。さすがにこれだけの事件になれば、地元の警備士や自警団、それから依頼人の所属する海戦騎士団からも人が動くことになる。
「馬に乗って、あれだけ魔法が使えるなんて詐欺だわ」
「よくも悪くもやり手というのでしょう」
 エレーナとアルメリアのウィザード二人が憤然と漏らしたように、一同はまったく達成感から遠いところにいた。もちろん、疑問はたくさん残る。
 わざわざ海戦騎士団の一員の家に押し込んだ理由や、ドラゴンを連れ出すにはあまりに甘いやり口、なにより大金を動かせた理由など。
 それらの疑問を解くには、いずれ逃げた二人を見付ける必要があるだろう。その日が来るかは、そのときになってみなくては分からないが‥‥