【雪合戦】ヨシュアスからの挑戦状?

■イベントシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:19人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月31日〜12月31日

リプレイ公開日:2010年01月11日

●オープニング

 それはある日の月道で。
『なんか、派手な結婚式があるって聞いて来たんだけど!』
 アトランティスからやってきた少女に、当然そう詰め寄られたアデラ・ラングドッグがいた。二日くらい前のことである。
 彼女はゲルマン語は話せないようだが、ジャパン語を解するので月道では言葉がわかる相手には困らない。明確な目的地があるわけではなく、何か派手な行事を求めてきたようなので、皆でよくよく話を聞いたところ‥‥
『国王陛下がお妃様選びをしていらっしゃる話かしら?』
 巷にもそのくらいは漏れ聞こえてくる噂のことではないかと、判明した。
『なんだぁ、まだ結婚してないのか』
『でも聖夜祭の季節ですから、見物して行ったらいかがです?』
 アトランティスとは別世界から来訪して、アトランティスの冒険者ギルドに所属している人だと判明したので、月道ではノルマンの基本的な約束事を教えてから送り出す。アトランティスには教会もないそうなので、聖夜祭とはなんぞやということも含めてお知らせした。
 しばらくして、どうやって手に入れたのか色々持って月道に戻ってきた少女は、荷物と一緒に慌しくアトランティスに帰って行ったが‥‥

『たのもーー!』

 数日後。どういう手段でかパリ郊外の雪原に現われた少女は、お仲間と共にパリからあるお人に呼び集められてきた冒険者達を前に高らかに宣言したのだった。
『雪合戦なら、あたし達が勝つ!』


 月道で変わった少女がやってきたのとたいして変わらない頃。
「最近のノルマンでは、美味しいお茶ってどこで飲めますか?」
 パリの街を散策中のヨシュアスと自称する青年は、非常に変わった杖を持つ少女に突然そう尋ねられた。さっきまで、そこには誰もいなかったはずと思う場所に立っている少女は、まったく悪意のかけらもない顔付きで、ノルマンは久し振りなのでどこでなら美味しいお茶が飲めるのか知りたいと言葉を重ねている。
 身なりは非常にいいし、杖の造りからして少女はウィザードだろうと自称・ヨシュアスは判断したが、ちゃんと財布を持っているのか危ぶんだ。なまじ身分が高いと、買い物なんてしたことがないというお嬢さんもいるのだ。身分はとても高い自称・ヨシュアスだが、自分のお財布には銅貨と銀貨をちゃんと詰めて持っている。
 どう見ても、やっぱり自分で支払いをしたことがなさそうなお嬢さんなので、自称・ヨシュアスは自分もたまに利用する飲食店を値段と一緒に教えてやった。
 するとやっぱり。
「あ、お財布は持ってきてません。冒険者の人と出直してきますね」
「そうだね、誰か一緒の方がいいと思うよ」
 にこにこと罪のなさそうな笑顔を交わしあい、少女と自称・ヨシュアスはすんなり別れれば、周囲の後の苦労はなかったのだろうが‥‥
「そうだ、雪合戦が出来る場所ってご存知ありませんか? 冒険者の皆さんと競いたいんです」
「雪合戦?」
「こう雪玉を作って、対戦相手に投げて、最後まで立っていた人が勝ちの遊びです」
「なるほど。それならね」
 道端で一見すればいいところの青年とお嬢さんが和気藹々と話している風情の光景は、後日、何かとんでもないことになるのだった。

『雪合戦のパリ代表を求む
 出来るだけ面白く戦って勝てる人優遇』


 そうして、冒険者ギルドに掲げられた張り紙を見てしまった人々と、はるばるアトランティスからやってきた人々とが、とある雪原で出会うのだった。



※簡単ルール説明※
試合形式
参加者の体力の続く限り投げ続ける。

ルール
○途中で雪玉作成は可能。事前に用意しておいても良い。
○魔法使用は適時OK。ただし著しく試合進行を阻害すると審判が判断したものは不許可。
○ペットやアイテムによる空中戦は、上空3メートルまで。
○チームや連携相談はお好きにどうぞ。

判定
○参加者が時間内(一定ターン)に雪玉を投げ合って、一番被弾数の少なかった人が勝者。
○ただし、雪玉を一度も投げずに逃げ回っていた場合は次点とみなされる人が勝者に繰り上がる場合があります。


●今回の参加者

リーディア・カンツォーネ(ea1225)/ イルニアス・エルトファーム(ea1625)/ クリス・ラインハルト(ea2004)/ ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)/ ウィル・エイブル(ea3277)/ ラシュディア・バルトン(ea4107)/ フレイハルト・ウィンダム(ea4668)/ セルミィ・オーウェル(ea7866)/ シルヴィア・クロスロード(eb3671)/ 鳳 令明(eb3759)/ ヴェニー・ブリッド(eb5868)/ アーシャ・イクティノス(eb6702)/ アンドリー・フィルス(ec0129)/ ククノチ(ec0828)/ エフェリア・シドリ(ec1862)/ ラルフェン・シュスト(ec3546)/ レオ・シュタイネル(ec5382)/ ヴァラス・シャイア(ec5470)/ 愛編 荒串明日(ec6720

●リプレイ本文

 パリ郊外の雪原で、アトランティスから来たと称する人々を迎えたのは総勢二十五名くらいだった。くらいとなるのは、自称ヨシュアス、本名はその辺でみだりに口にするとお付きのじいじいが怒るので秘密のお人に、気配を断つのが上手な護衛がきっといるのだろうなと思われるからだ。姿はないが、それっぽい気配は時々ある。
「相変わらずだなぁ、あの兄ちゃん」
 見えている以外のお付きの気配を感じなくもないレオ・シュタイネル(ec5382)が、呆れて呟くのに同意する人多数。分かっていて集まってくる彼らも彼らだが、異世界から普段着で到着する相手も変わっている。
 だが細かいところを追求はせず、多くは雪合戦の準備に勤しんでいた。基本行動は、まず雪玉を作ること。せっせ、せっせと大小取り混ぜて、雪玉を作りまくるのだ。これを怠ると、後で武器切れという恐怖が待っている。
「たくさん‥‥作るのです」
「そうだな。雪玉遊びなんて、子供の頃以来だ。気合入れて作るか」
「雪玉は何個当たったら失格でしょうね」
 エフェリア・シドリ(ec1862)やラシュディア・バルトン(ea4107)、ヴァラス・シャイア(ec5470)などは、ひたすらに雪玉を作って積み上げている。もちろんアトランティスの二チームにも同様のことをしている人達がいて、負けじと雪玉を作っている様子だ。
 それをこっそり観察しているのがウィル・エイブル(ea3277)とシルヴィア・クロスロード(eb3671)の二人。陣地の様子も確かめて、後ほどの行動に備えてぼそぼそと作戦会議中である。
 そうかと思えば、観覧席作りをしている者もいたりする。自身も観覧希望のイルニアス・エルトファーム(ea1625)は全面的に手伝わされ、他は雪玉作成やその他準備の合間に風除けの場所を作っている。
「国王が観戦とは酔狂な‥‥」
 なにやら言ってはならない一言が漏れたが、皆で礼儀正しく無視する。言われた当人はちょっと笑って、リーディア・カンツォーネ(ea1225)とクリス・ラインハルト(ea2004)が貸してくれた毛皮の外套を羽織り、太陽の扇子を持って、なんにもせずに座っている。背景のように太陽の浴衣が掛けられて、足元にはまるごとおおがらすが敷物よろしく広がっているが、もうなんでもありの様相を呈しているので誰も気にしない。
 観覧席の近くでは、買い出し途中で引っ掛かったラルフェン・シュスト(ec3546)がどっさりと材料を提供し、更にククノチ(ec0828)が中心になって、せっせと対戦の前後と合間に食べるものを作っている。いつ食べるのかは、どこで音を上げるのかによるだろう。
 この雪合戦、最後まで立っていた者が勝ち。ただし雪玉被弾数が少ないのが条件だ。逃げ回っているだけでは駄目だが、雪まみれは負け。そこまで頑張れないと思ったら、いつでも抜け出して大丈夫。多分。仲間に引き摺り戻されたりしなければ。
 準備段階ではパリ有志チーム、命名『アルジャンブラン』は士気高揚、負ける気なんかしないという勢いだ。もちろん他の二チームも同様で、いい勝負である。
「なるほど、白銀はこちらの言葉で『アルジャンブラン』ですか」
 ちなみにチーム名は、愛編荒串明日(ec6720)が納得しているようにノルマンと縁が深いジャパンの言葉で『白銀』。その漢字を大書した旗もあるが、誰が作ってきたものだか。
 ともかく皆で手分けして雪玉を作り、それをロックフェラー・シュターゼン(ea3120)が作ってきた手押し車に乗せて持ち運びしやすくし‥‥たところで、問題が発生した。
「あ、雪の上は車輪じゃ無理か」
 そう、一面の雪原を手押し車や台車で移動するのは難しい。力がある者が引くなり、押すなりすればなんとか動くが、速度は望めない。やはりこういう場合にはそりが良かっただろうが、うっかり誰も思い至らなかったようだ。
 盛大に上がった悲鳴の中、アーシャ・イクティノス(eb6702)と鳳令明(eb3759)、セルミィ・オーウェル(ea7866)が奮い立った。
「そりに改造するのです」
「勝利にょ栄光をキミに、なにょじゃ〜」
「全力で頑張りますよぉ!」
 気合は素晴らしいが、三人中二人はシフール。彼らの指導の下に、他の力自慢が頑張ることになりそうだ。
 そんなこんなの合間に、ヴェニー・ブリッド(eb5868)がするすると自称ヨシュアスに近付いていった。なぜだか雪玉を『にぎにぎ』しているフレイハルト・ウィンダム(ea4668)もくっついている。
「雪合戦への意気込みなどお聞かせいただけますかしら」
「滅多にない機会だから楽しんでほしいね」
 さらっと一言。自分の意気込みより、参加者へのお言葉であった。
「他には?」
 重ねて尋ねられても、しれっと『怪我しないようにね』と答えている。どこかで『言うことはそれだけか』とか聞こえた気もするが‥‥じいじいが雪玉を投げて発言者を黙らせたようだ。
 そして、細かいことはさておき、そろそろ雪合戦も開始である。わざわざ審判を買ってでたアンドリー・フィルス(ec0129)が、一応対戦範囲を示して、それから開始の合図をする。
 雪合戦、楽しく、激しく開戦である。

 雪合戦のルールは色々あるが、とりあえず魔法も使ってよい。別に審判のアンドリューのフライは特別ではなく、参加者もちょっとした制限を守れば使用可能だ。
 可能だから、使っても誰が文句を言うはずもないのだが、
「さて童心に返って、思いっきり投げるか!」
 国内五指に入るかもしれないラシュディアほどのウィザードが、幾ら加減していてもストームをぶちかますのはいかがなものなのか。それも地表すれすれ、雪が舞い上がって視界が遮られること甚だしい。何人かは、早くも雪原に転げているし。
 それでも念のために人が怪我をしない程度に用心はしているが、気を取り直して進んでくる相手陣営の人々を次に見舞ったのはストームの超絶勢いに乗って飛んでくる雪玉の嵐だった。
「必殺雪玉嵐ね〜。もう一回行くわよ〜!」
 めちゃくちゃ楽しそうなのは、やはりウィザードのヴェニー。山ほど作って雪玉を積み重ねて、そこにストームをぶつけて飛ばしている。大半は飛ぶ過程で崩れて雪片になってしまい、被弾数として有効かどうか分からないが、勢いがついているからまともに当たったらさぞかし痛いだろう。これは標的を絞ったり出来ないから、見た目の派手さの割には被害は少なかったようだが‥‥
「行っけーっ!」
 雪を積み上げて身を守る壁にしようとか、遮蔽物に隠れつつ進もうなんてことは見事に誰一人として考えていなかったチーム『白銀』の面々は、三々五々に散らばって対戦相手を目指している。改造が間に合ったそりを引いているラルフェンが、オーラエリベイションを掛けて、対戦場に飛び出したのは仲間なら知っている。
だから他の人々もフレイムエリベイションとか、テレパシーとか役に立ちそうな魔法は一通り掛けてから飛び出したようだ。テレパシーは被弾数が少ない人を庇う為の連絡に役立つかもしれない。
 なお、すでに人に庇ってもらおうという考えの者はいて、令明はあちらこちらの仲間の背後から、対戦相手を見つけては雪玉を投げている。惜しむらくは彼の手で投げられる雪玉は小さいので、射程距離が短いことだ。これまでのところは、なかなか当たらない。
 まだまだ序盤なので、たくさん雪玉が当たった運の悪い人は敵味方合わせてもそういるものでない。だがうっかりしていれば、ポコポコと集中攻撃を喰らうわけで。
「アニマさん、アニムスさんは、出来れば他の人を庇うのですよ。分かりましたね?」
 連れてきた精霊に言い聞かせているのは、リーディアだった。なんだか分からないが顔見知りの多いはずのアトランティス陣営から狙い撃ちにされ、すでに髪の半分くらいが雪で白い。それでも顔は紅潮して、まだまだやる気に満ち溢れていた。
 壁は作らないし、遮蔽物も利用する気がないが、チーム『白銀』の面々には似たようなことを考える者が複数いた。そう、雪玉に当たっていない人を皆で庇えば、その人が勝者に慣れる可能性は高いのだ。
 現在のところ、リーディアを庇っているのはヴァラスで。他にも駆けつけた面々が、アトランティス側との一進一退の攻防を繰り広げていた。あちらにはあちらなりの思いやりがあったらしいが、お互いにちっとも通じていない。雪玉を投げるのにかなり夢中。
 たまに握りすぎて氷の玉になったものをこめかみや鳩尾など急所に喰らって、よろよろと後方に下がる者が出ても、それはそれ。冒険者だから簡単に死なないと思うのか、怪我人のことなんか考えてもいなかったか、チーム『白銀』にはなんと救護班もいない。
 熱くなっていても、童心に返った遊び。だから怪我をしても休息したら戻ってこれるはず。そういうことなのかもしれない。
 集まった冒険者が雪合戦でも本気で取り組んだら、戦争になりそうだが、今のところは大丈夫。
「上空使用の制限を越えないように」
 たまに審判に注意される精霊やシフールがいるくらいのことだ。

 ここに来て、ようやく準備が整ったものがある。いやもっと前から出来ていたかもしれないが、そろそろ出ても良かろうと作戦参謀のクリスが判断したようだ。
「ふふふっ、ここは捨て身の攻撃で相手により多くの雪玉をぶつけるのです」
「思い切り引っ張るから、転げ落ちないようにな」
「盾になりますから、どんどん向こうにぶつけてください」
 クリスが乗っているのは、台車改造のそりだ。急ごしらえに引っ張りまくりが祟って、大半は壊れてしまったが、まだ健在の貴重な一台に乗っている。引き役はラルフェンとヴァラスと、馬の役には惜しい騎士二人。二人の気遣いを半ば聞き逃したクリスは、そりの上で水鳥の扇子を片手に仁王立ちだ。
 何しろこれからチーム『白銀』最大の作戦を披露しようというのだから、気合も入る。ちなみに彼女と牽引の二人はほとんど囮。目立つようにとヴァラスなどアイテムを使って分身まで作っている。
 そこに現われたのが、まるごとスノーマンに身を包んだロックフェラー。それだけでもなんとなく悪目立ちの姿だが、それで自ら雪原に転がったらそれはもう何が始まるのかとウィル側の人々も胡乱な目付きで眺めている。攻撃していいものかどうかと、少しばかり悩むらしい。
 挙げ句に。
「これからがノルマンの『オーバードライブ・ユキダルマン・人間にとっては小さな雪玉だが人類にとっては偉大な雪玉だ。そして我々は星になった』です!」
 チーム『白銀』の面々も知らなかった気がする作戦名、しかも末尾がなんとなく不幸を予感させる名乗りを上げた愛編が、雪まみれのロックフェラーに抱きついている。正確にはその途中でミミクリーでジェルモンスター風になった愛編がまるごと全体を覆っているのだ。流石に当人より二回り以上大きいまるごと全部を覆いつくして巨大化するのは、愛編の魔法を持っても無理だったし、この体勢でロックフェラーが動けるはずもないのだが。
 もちろん当然、作戦ではこの二人の転がし方も考えられていた。
「さあ、今こそノルマン冒険者の団結力を見せるときです!」
 扇子を振って合図をするクリスに応えるように、アーシャが高らかに言う。言うのはいいが、彼女の両脇にはどちらもキムンカムイが控えている。巨大雪玉を前に、ちょっと興奮気味。
「イワンケ殿は、私と一緒に先陣を切ろうと言ったのに‥‥」
「まあまあ、あの後から一緒に行こうぜ」
 キムンカムイのうちの一頭の相方であるところのククノチが、同族に誘われて行ってしまった彼を見やっていた。彼女は彼女なりに、キムンカムイに跨って、やはり自分が相手チームの目を引きつけている間に婚約者のレオが雪玉をぶつけまくってくれることを期待していたのだが‥‥なんというか、チーム『白銀』には自己犠牲精神の持ち主がいっぱいだ。とりあえずこの二人は、一緒に雪玉を抱えて突撃することにしたらしい。
 盾、ロックフェラーと愛編。見た目は可愛くない雪だるまとジェル。
 押す人と熊、アーシャとキムンカムイのテパとイワンケ。なんだかキムンカムイの琴線に触れたようで、ものすごい勢いで雪玉もどきが転がり始めた。突き飛ばされているとも言う。アーシャは早々に脱落して、雪原に埋もれていた。
 その上をレオとククノチのパラ二人が、跳ねるように走って行った。雪玉もどきに付かず離れず、せっせと雪玉を投げている。
「かわいーよ、お砂糖だよっ」
 もちろん迫られたアトランティス・アルテイラチームはただ黙って突撃などされず、魔法だ雪玉だと対抗してくる。なんだか近付いてほしくない気配濃厚だ。
 かと思えば、アトランティス・女子高生チームからは、互いに庇い合っている二人を見て黄色い声が飛んでいたような。こちらはそりで突撃しているクリスとラルフェン、複数のヴァラスに雪玉を投げられて、慌てて応戦中。

 さて、熱戦繰り広げられる雪原のとある場所で、こそこそとしている二人がいた。別々の場所で、それぞれに白っぽい格好をして、敵陣目掛けて進んでいく。隠密の技能を生かすには、敵味方入り乱れる乱戦状態は今ひとつ適さないが、一緒になってわあわあ騒いでいると案外目立たないものだ。
 さすがに不審に思われて振り返られると一目で仲間ではないとばれるから、ウィルは声色を使ってわざと興奮してひっくり返ったような叫び声を出して、シルヴィアは歓声だけあげて、なんとか敵陣に。
 何をするかといえば。
「これ、あっちに渡してくるよ〜」
「皆さんに渡しにいきますね」
 場所こそ違うが、やっていることは一緒。相手の雪玉を奪取するのだ。
 敵の補給を断つのは戦の常道だとシルヴィアは対戦開始前に言っていたが、一応子供の頃を思い出しての遊びのはず。だからこれは、ウィルいわく悪戯なのである。
 奪取するところまでは結構うまく行ったが、抱えて逃げるとなれば話が違う。
「ちょっと! 雪玉盗られてるわよッ!?」
 味方がいない方向こと、『白銀』方面に逃げ出せば、そりゃあ見付かりもするのである。見付かったら当然集中攻撃が待っているが、その時は雪玉を放り出して逃げればいい。
 要するに、敵の手元から雪玉を奪って使えないようにすればいいのだ。
 今度は隠すことなく悲鳴とも歓声ともつかない大声を出しながら、二人ともあっちとこっちに逃げ回っている。
 またしばらくしたら、盗りに行こうと思っているのは内緒だ。


 雪合戦。走り回ってはいるものの、それでも寒いし、雪玉が当たらないとむっとするし、当たれば痛いし、走り回ると疲れてくるし、色々と忙しい。当たれば嬉しいが難しいのだ。
「あたったのです‥‥あたってしまったのです」
 熱血対戦の端っこで、雪玉を握って雪原を転がし、専用の盾を作ったエフェリアはぽいぽいと幾つか雪玉を投げていたが‥‥当たったら痛かったし、『ゆきだるまん』を絵に描こうとチーム『白銀』で最初に離脱を宣言した。
 観覧場所に向かう途中、フレイハルトがにぎにぎとしっかり握った雪玉を観覧席の自称ヨシュアス目掛けてえいやと投げているのを見たが、あれと首を傾げただけだ。そちらじゃないのに‥‥くらいは思っていたかもしれないが。
 まあ、観覧席は特に異常を感じさせることなくのんびりしていたので、エフェリアは広げた羊皮紙に木炭を滑らせて雪合戦の様子を描き始めた。
 そこからちょっとばかり離れた、妙にぬくぬくで豪華な観覧席ではイルニアスが、隣でにこにこと対戦場を眺めている自称ヨシュアスに尋ねていた。
「お楽しみいただけているようですが‥‥眺めるところが偏っていませんか」
「そうかな?」
 まさかある一人を眺めるために、こんなことを仕出かしたのではあるまいなとまでは追求しないイルニアスが、じいじいの苦労に共感しつつ、対戦場のどこかにいるアトランティス勢の妹を探したり、パリ勢の様子を眺めていた。
 そうしつつも、念のために先程のような流れ玉が飛んできたら叩き落すか盾になるつもりで、周囲に目は配っている。
 反対に、周りを見ようにもあまり見えていないのはセルミィだ。
「あの〜、そんなに皆様で守っていただかなくてもいいのですけれど」
 シフールの彼女がはたはたと飛んでいる周りは、精霊達ががっちりと固めている。地上は人同士で庇い合いが出来るが、上空はそうはいかない。という訳で、飛ぶことが出来る精霊はセルミィの壁になっているのだ。当人からして結構身のこなしは軽いので、精霊達の合間を潜り抜けてくる雪玉も避けている。
 やがて。
「よし、終了!」
 審判達の合図があった時には、最後にアルテイラが適当に放り投げた雪玉が上から降ってきて息を詰まらせたセルミィが、雪まみれの精霊達に抱えられてチーム『白銀』陣地に担ぎ込まれてきたのだった。

 温かいスープに軽食、もちろんお茶。お茶については、危険なものも危険ではないものも両方ある。お酒などもあった。
 疲れ果てた人々は観覧席手前の焚き火の周りで、シルヴィアとククノチらが作った野菜スープやミルクスープ、ラルフェン差し入れの焼き菓子などを摘みながら暖まっていた。さすがにもう敵味方寄り集まって、楽しく、美味しく、休憩している。ヴァラスが火の番を請け負ってくれたから、他の人々はしばらくのんびり出来そうだ。
 令明は年越し蕎麦など用意したかったが、あいにくと作ってくれる人がおらず、スープや菓子を運んでアトランティス勢の合間を飛び回っている。このまま年越しでもしようかという雰囲気だ。かと思えば、ミルクスープの美味さに給仕をちょっと躊躇ってしまったレオがいたりもする。
 それだけならよかったが、ウィルがにこやかな笑顔で迷茶ムーンロードを『美味しい』と何も知らない人々に勧めている。善男善女がよせと止めようとしたが間に合わず、マリンが飲んでしまって‥‥誉めているのか、けなしているのか、どっちつかずの感想を述べていた。変調をきたさねばいいのだ、とりあえず。
 皆がそうして一安心すれば今度は、
「結婚し」
「なるほど君はいい男だ。だが断る」
 フレイハルトが以前はノルマンにいた冒険者に求婚されたりしていたが、周りが状況を察して振り返った時には断ってしまっている。一体どういうことと顔を見合わせたりしているが‥‥フレイハルト本人は別の誰かのそういうところが見たいようだ。まあ、見せてくれる相手ではないが。
 凍り付いてしまった相手を慰めるためか、誰かが演奏を始め、チーム『白銀』参加のバード達もそれぞれの楽器を取り出した。バードでなくても歌いだす者も出てくる。雪合戦の結果が出るまで、集計と確認に忙しい審判とは別の意味で、皆も忙しいようだ。


「では、勝利を祝って乾杯!」
 雪合戦はチーム『白銀』の『雪玉に当たっていない人を庇う作戦』が功を奏して、見事勝ちをもぎ取った。故に希望者には飲み物が配られて、乾杯の声が唱和する。
 本日の功労者のセルミィは旧知のイルニアスの横、観覧席の一角で濡れた上着を乾かしながら、精霊達に礼を言っていた。更にその横では、精霊達を連れてきたリーディアが、まだ冷えすぎて血の気が引いた顔で、でも楽しそうにお茶を啜っている。貸した上着が戻ってきて、幾らか暖まってきたようである。
 そうして勝利チームからの一言が欲しいと申し出たヴェニーに、自称ヨシュアスは観戦を満喫した笑顔で、
「この先こんな機会はなかなかないからね。楽しんでくれてよかったよ」
 そう、述べた。