ご馳走食べたら運動だねっ

■イベントシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 83 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月05日〜01月05日

リプレイ公開日:2010年01月17日

●オープニング

 ある日、ある時、ある場所で。
 詳しく言うなら、新年を迎えようという一年の終わりの、それも日が暮れて寒さが増して来た頃に、メイディアの一角の豪邸の屋根裏で。
 とある家族が話し合っていた。
『今日はご馳走がある。楽しみだな』
『たまには美味しいものが食べたいわね』
『どれだけ食べられるかなぁ』
『いっぱい食べるぞ』

 ある日、ある時、ある場所で。
 詳しく言うなら、新年を迎えようという一年の終わりの、それも日が暮れて(中略)、メイディアの一角の豪邸の台所で。
 とある友人達の輪が出来ていた。
『今日はご馳走の匂いがする』
『俺達にも回ってくるかな。楽しみだな』
『夜中に働いたら、明日もご馳走かもしれないよ』
『うーん、夜中は寒いのが困るなぁ』

 ある日、ある時、ある場所で。
 詳しく言うなら、新年を迎えようという一年の終わりの(中略)、メイディアの一角の豪邸の庭で。
 とあるご夫婦がくっついていた。
『寒いわねぇ。でも今日のご飯はご馳走ね』
『今日は何のお祭りなのかな。毎日こうだったらいいのにな』
『ほんとにね。それと毎日外に出かけられると楽しいのに』
『最近ちっとも出かけられないねえ』

 ある日、ある時、ある場所で。
 詳しく言うなら(中略)、メイディアの一角の豪邸の一室で。
 この豪邸の主の子供達が語り合っていた。
「にわのわんこがなかよししてる」
「あら本当ね。寒いからくっついてるのよ」
「にゃんこも?」
「そう、猫も」
「じゃあじゃあ、おやねのところにいるっていうねずみさんたちも?」
「ネズミは‥‥早く猫が捕まえてくれないと困るのよねぇ」


 メイディアの一角の豪邸から、
「ネズミ捕り用の猫が襲われて怪我をした上に、庭で立ち向かった犬達まで咬まれた。ちょっと退治してくれ」
「ネズミ退治ですか?」
「まさか。こんな大きなゴ」
「巨大な黒くてぬめぬめした羽の付いた虫ですねっ。了解しました!」
 巨大害虫駆除の依頼が入るまで、もう少しだった。

●今回の参加者

美芳野 ひなた(ea1856)/ 忌野 貞子(eb3114)/ ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)/ 水無月 茜(ec4666)/ 村雨 紫狼(ec5159)/ ソペリエ・メハイエ(ec5570

●リプレイ本文

 要するに、今回の依頼は巨大なゴキブリ退治である。
 と訪ねていった依頼人宅でいきなり聞かされたルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が一気に蒼褪めたが、事実だけに致し方ない。水無月茜(ec4666)とソペリエ・メハイエ(ec5570)は聞かなかったことにしているようだが、それならなんでこの依頼を受けたのか。
「でもまあ‥‥たいしたことは、なくてよ」
 虫の駆除なら以前もやったことがあるしと、無闇と含み笑いを入れつつ忌野貞子(eb3114)が言ったのだが、彼らの案はさくっと却下された。
「でも煙で燻したら、隠れている虫は全部出てくるですよ」
 一応美芳野ひなた(ea1856)が頑張って過去の実績を説明したのだが、屋敷全体を燻されたら、煤や臭いがついてしばらく住めなくなる可能性があると譲らない。それを避けるために全部の家具や衣類を持ち出すのも、あまり現実的ではないだろう。そもそも小鳥がたくさんいるので、建物自体が燻されると非常に困るのだ。その間だけ移動させるとしても、建物に煙の臭いが付いたら小鳥など生存の危機である。
 反対するのには他にも理由があって。
「ファンタジー補正にしても、限度があるだろっ」
 余人にはなかなか通じない愚痴を村雨紫狼(ec5159)が叫んでいたが、確かに限度があるとの一点には誰もが賛成だった。
 一メートルの巨大ゴキブリだから、見付けるのは難しくないだろうって、どういうこと?

 ともかくも、それだけ大きいものが以前からいたなら、もっと早くに騒ぎになっていたはずだからと依頼人は主張するように、多分どこかから移動してきたものなのは間違いがない。よって屋内に巨大楽園を築いている可能性は低くなったが、どこに潜んでいるのかは不明。正確には、家人も使用人も気持ちが悪いので探していないようだ。
 それに深く共感するソペリエや茜、ルエラだが、あいにくと彼女達は退治する依頼を受けている。やらねばならない。何をって、G退治。
 ちなみに一部の強烈な要望により、以降は敵の正式名称は呼ばないことになった。とりあえず暗号Gを使用し、それも出来るだけ使わない方向で作戦再検討は行われたが‥‥
「あれは、どこに出たんです?」
「具体的な目撃談はいいです。場所だけ教えてもらえれば」
「あ〜、なんでメロディって自分に効果がないんだろ」
 名前を聞くことすら拒否的な三人は、ほとんど会話に参加していない。下手に聞かせても話が進まないので、ひなたと貞子と村雨の三人で依頼人や使用人から話を聞いて、作戦を立ててしまった。
 小鳥が飼われている部屋は、そもそもねずみも猫も入り込まないように壁も石造りで密閉出来るようになっていて、大きな窓にもしっかりと鉄製の飾り格子がはまっている。飾り格子は嵌め殺しだから、外から乱入される恐れはない。よって、危険度も少ないため手をつけない。
 Gが目撃されたのは、地下の廊下と屋敷の外壁だ。あと屋根裏でねずみがけたたましく鳴いていたことがあったから、多分そこにもいるだろう。食料庫での目撃はないが、気持ちが悪いので早々に食料は庭の物置に移動させてあるらしい。こちらは厳重に仕舞いこんで、今のところ被害はない。
「屋根裏‥‥よねえ」
 体長一メートルにげんなりしているものの、作戦立案担当の三人の意見は『Gは屋根裏部屋にいる』で一致した。ここにしまわれているのは『そのうちに使うかもしれないな』程度の品物なので、依頼人は壊れてもいいようだ。おそらくGがうろうろしていた空間にあったものなど使いたくないので、一気に処分するつもりだろう。後で片付けと掃除もやってくれれば、中の物を運び出さずに暴れてもよいと言い出した。家屋に傷が付くのは困るので、基本は屋外に出して退治して欲しいのだろうが、そこまでは譲歩してくれたわけだ。
 そんな訳で、屋根裏部屋の造りをよく聞いて、自分達の侵入路やGなら逃げられそうな場所を確かめた後に、作戦立案担当の三人が呼んだのは茜だった。
「だ、だって、相手は動くものですよ。一番近いのと指定しても、正確さに欠けるじゃありませんかっ」
「それでもさっぱり分からないよりましじゃん。幽霊ちゃんの魔法で冷蔵庫にしてもらうから、それから頑張ってくれよな」
 ムーンアローでGの数を調べようと言われて、件の屋根裏部屋に近付くのも嫌らしい茜がじたばたしているが、あいにくと聞く耳持たない仲間ばかりだ。ひなたは申し訳なさそうにしているものの、数が分からないと取りこぼしが出そうで困ると見守るばかり。味方してくれそうなソペリエとルエラは、そもそも関係する話題に加わりたくないので耳を塞いでいる。貞子と村雨は『いいからやれ』の態度で取り付く島がない。
 結局耳を塞いでいる二人も引き摺られるようにして、屋根裏部屋に通じる廊下まで引っ張り出された。廊下に置いてあった彫刻などは、すでに使用人達が運び出し、床の絨毯まで剥いだ後だから、何か壊したり汚したりする危険性はない。最後に唯一の男性だからか、村雨に屋根裏部屋への扉の鍵を渡した執事が早足に立ち去って、冒険者だけになった。
 ちなみにルエラと村雨が連れてきた精霊達は『お仕事中は邪魔をしたら駄目よ』と依頼人の妻と娘達に連れて行かれて、近所のお宅に一緒に避難してしまっている。依頼人は庭にいるが、ルエラのペガサスを愛でるのが主目的らしい。珍しい物好きはいいが、あからさまに現実から目をそむけている様子でもある。
「魔力消費を抑えるとしたら‥‥扉の手前からかしらねぇ」
 結構広い屋根裏部屋全体をフリーズフィールドで包むには手間が掛かるので、貞子が非常に怠惰そうに扉の前に陣取った。それで効果の範囲を変えつつ魔法を発動させれば、屋根裏部屋全体を氷室にすることも可能だ。もちろん最初は冷気を嫌って飛び出してこないように、手前のところから魔法を発動させる。
 と、ここで貞子も気付いた。
「見えないと‥‥駄目よね‥‥?」
 魔法を発動させるには、その場所なり相手を視認していることが基本条件だ。茜のムーンアローのように、指定だけで済む魔法は滅多にない。
 つまり、ある程度扉を開けて中を見えるようにするか、貞子一人だけ中に入って頑張るか。一人でなければならないことはないが、一緒に入りたい人はいない。
「‥‥あらあら‥‥うふふふふ‥‥」
 彼女がいきなり笑い出したので、ずっと『Gナンカミエナイ』と呟いていたソペリエとルエラが逃げの体勢になった。神聖騎士や鎧騎士にあるまじき態度だが、生理的に嫌なものはあるのである。それに巻き込まれたくないと思うのは、どうしようもないだろう。
 ひなたはどう対処していいかわからない感じで、護衛しないでもないようなことを言ってはいる。ただしこちらも逃げ腰だ。多分そんなことはないと理解していても、Gの楽園候補地に足を踏み入れるのは勇気がいる。茜はそういう三人の背後で、自分にお鉢が回ってこないように祈っていた。なにしろかなりの有効打を放てる魔法があるので、巻き添えにされる可能性が高い。
 そこで立ち上がったのが、村雨だった。
「最初に魔法を掛けてくれたら、俺が入口で見張るからさ。幽霊ちゃん、ぱぱっと魔法掛けちゃってよ。それからムーンアローでいいんだろ?」
 女性陣になんと素晴らしい犠牲精神って目で見られたかどうかは個人差があるが、村雨は頑張るつもりになっていた。代わりに、
「後で俺の活躍をちゃんと宣伝してくれよなっ」
 念押ししている。この際やる気の源がどこでもいいので、彼に尊い犠牲をはらってもらうことにしたが、幸いにして魔法を掛けている間中に貞子と村雨が変なものを見たり、Gが飛び出してくることはなかった。
 冷気がGどもに効果を及ぼすのを待つ間、六人も休憩である。廊下だけど。

 休憩の後、G退治が始まった。
 ちなみにGの総数は四。思っていたより少なかったが、大きさだけ見れば大変なものだ。しかも飛ぶ。
 いかに広い方とはいえ、屋根裏部屋で飛ばれた日には、一匹だけでも恐ろしい騒ぎになった。上に向かって飛んだ後に、天井に当たって無茶苦茶な方向に落ちてくるのだ。退治するほうだって寒いから、動きが鈍っているというのに。
 依頼人は、自宅の屋根裏から聞こえてくるただならぬ悲鳴や叫び声、更に時折人のものとは思えない何かに、使用人達と供に戦々恐々としていたが‥‥一番驚いたのは、冒険者達が顔色失って、よろよろと建物から出てきた時だったと、事が落ち着いてから話したのが無理もない有様だった。
 でも退治されたので、まずは一安心である。
 なお、退治の細かい点についての記録がないのは、色々なことが壮絶に過ぎたからである。冒険者達も凍りそうになっていたGをうっかり踏んだとか、ムーンアローを撃ったら『キシャアッ』と悲鳴のような音がしたとか、壁にいたのが頭の上に落ちてきたとか、飛んだ挙げ句に天井にぶつかったのが落ちてきて二人も下敷きになりかけたとか、頑張って真っ二つにしたのが動いて靴を咬まれたとか、そういうことは早く忘れたいに違いない。
 ついでに、そんな寒さの中でも置かれていた箱の中に閉じこもってGの侵略を凌いでいたねずみ達がばらばらにしたのを加えて逃げようとしたなんて事は、すでに頭の中から抹消された記憶のはずだ。持って行ってどうするのか、ねずみと言葉が通じなくてさぞかし安心したことだろう。
 見るからに、『腹減った。これ食えそう』って顔はしていたのだが。
 そんなこんなで、なんとかG退治は終わったのである。

 故に、今度は掃除である。
「幽霊ちゃん、ここ寒いよ」
「‥‥だから?」
 魔法効果が長いもので、寒くて仕方がない状態が維持されている中で、六人は掃除を開始した。別に翌日に持ち越してもいいわけだが、依頼人は落ち着かない。
 そして何より、魔法の効果がなくなると。
「一度凍ったものが、下の暖房で溶けると大変なことになりますからねっ」
 防寒服の上から、袖や裾にきっちりと貰った布を巻きつけ、更に頭にもすっぽりと布を巻き、口元も覆ったひなたが皆を鼓舞するように声を張り上げる。大口を開けると喉が痛むので、口と鼻を覆う布は厚手のものだ。執事が色々準備しておいてくれたので、掃除中の寒さ対策は万全だが、やっぱり寒い。
 故に彼女が言う通りに、皆でずんばらりん、どばびしゅしたGはかちんこちんになって原型を思い起こさせない姿になっていた。床から引っぺがすのがちょっと大変だが、今のうちに庭に運んで、燃やしてしまうに限る。後のものは明日の掃除でもいいが、見た目が厳しいものだけは素早く。
 だが魔力の使いすぎを主張する貞子は、唯一の男手村雨を使いまくり、自分はたいして働かない。ルエラとソペリエと茜は、凍り付いていても見たくないので顔を背けて作業するから床板に傷が付きそうだ。結局村雨とひなたの二人が大半のGの残骸を引っぺがし、使用人がくれた『もう燃やしちゃっていいぼろ桶』にそれを入れて、庭に運んでいく。なぜかちゃっかりと貞子が焚き火の横にいて、この時だけは自分の手で『残骸』を炎の中に叩き込んでいた。
 高笑いが聞こえた気がするのは、きっと疲れていたからだ。
 なお、この作業の後にはルエラとソペリエの二人が、ものすごい勢いで自分の装備を洗っていたが、それも致し方ない。当然その後には、自分のことも洗わねばならないだろう。
 翌日は朝から屋根裏部屋の荷物を皆で運び出して、床や壁を一通り酢に浸した布で拭いまくった。よほど匂いが染み付いたらしく、依頼人の飼い犬や飼い猫は危機を救ってやった彼女達に無碍な態度を取っていたが、ここで仲良くしなくてはならない相手ではないのでよしとする。
 それよりなにより、
「なんだか棒が出てきましたよ。これも燃やしてもらいましょうか」
「変わった棒だな。何に使うんだろう?」
「どうせ捨てるんだから、気にせず早く終わらせましょうよ」
「それがいいと思いますっ」
 ソペリエが床の片隅から拾い上げ、変わった造形というかとげとげがあるのにルエラが目を留めて、茜がさほど興味を示さなかったものを、ひなたが見てすたこらさと捨てる箱に投げ込んだ。なんでそんなに慌てるのだろうと思った人々は、あまりに巨大で思いつかなかったその『棒』がなんだったのかにようやく思い至り‥‥
 また人とは思えない悲鳴を上げて悶絶していたりする。
 それとは別に、力仕事のし過ぎで疲れ果てた村雨と、焚き火の前で無駄に元気な貞子がいるのだが、仕事はもうしばらく掛かりそうだ。
 この時点で、三人が片付け戦線を離脱していたのだから。