ゴーレム機器、新規開発計画〜検討会議再び

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月19日〜01月24日

リプレイ公開日:2010年01月29日

●オープニング

 メイディアのゴーレム工房で、ゴーレムニストのエリカが経理から分捕ってきた資金を数えていた。ついでに四角錐の形に積み上げている。
「鉄製のグライダーやら、ゴーレムで土木工事やら‥‥まあ、他所では城を飛ばしたりもしていることだし、なんだってやってやれないことはないわよね」
 綺麗に積み上がったところで、エリカは使い古しの羊皮紙を取り出して、冒険者ギルド所属のゴーレムニスト呼び出しの覚書を、お付きの鎧騎士のプロコピウス・アステールに書けと言う。読み書きが達者ではないエリカは、届く恋文も時々アステールに代読してもらう有様だから、これはよくあることだ。
 条件の幾つかを書き留めてもらい、最後にエリカが追加したのが。
「開発責任者になったら、冒険者辞めるくらいの覚悟で来いって書いといて」
「天界人の多くは身分保障も兼ねて、あそこに登録させられているのですよ。工房の仕事に専念でいいでしょうに」
「身分保障なら工房のゴーレムニストでいいじゃない。実際なんにも困らないわよ。ま、覚悟の程を確かめたいから書いといて」
 確かにゴーレム工房所属のゴーレムニストなら困ることもなかろうが、相変わらず無茶を言うと思ったのかどうか。アステールはそれ以上は言葉を重ねずに、冒険者ギルドに依頼を出しに出掛けた。
 新規開発計画の検討会議第二回は、出席者五割増しで行われる予定だ。


●今回の参加者

 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec5196 鷹栖 冴子(40歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

 ゴーレム兵装その他の企画会議第二回は、書記を門見雨霧(eb4637)にして始まった。前回来る予定が果たせなかったので、当人が各所に詫びを入れたら回ってきた役目である。参加するゴーレムニストは大抵提案したいことがあるから、押し付けられたのだろう。
 ちなみに会議の参加者は三十五人ほど。前回の約五割増しなのでこの人数だが、五倍と勘違いしたらしい鷹栖冴子(ec5196)は百人程度と意気込んでいたのでちょっと肩透かしを食っている。そういう勘違いを見付けたら見逃さないエリカが『算数も出来ない。依頼書も読んでない』と高い踵で足を踏んでいた。
「なにすんのさ」
「明朗に馬鹿にしたのよ。あたし、他の連中みたいに陰でこそこそ言わないから」
 これであわや掴みあいかと周囲は心配したが、この時は冴子が引っ込んだ。間違えたことは素直な認めたわけだが、エリカの態度が正しいわけではない。
「前回もこんなだった?」
「もっといい意味で緊迫感があったかな」
 前回の様子を尋ねる門見に、布津香哉(eb8378)は正直な感想を述べている。この様子から判明したのは、事前の根回し段階でまたぞろあちらこちらの我の強い面々がぶつかっていたのだろうということだ。
 ゴーレムニストとして工房に居つくにしても、これに巻き込まれるのはごめんだなと思うのは、三人共に同じだった。

 しばし後。先程の騒ぎはなかったかのように会議は始まった。前回に比べて、技術面や実行面、必要性と採算性の整理をした提案が増えているが、だいたいが『費用が掛かりすぎ』で要検討とされている。
 余りに同じ点が問題になるので、議事進行を担当していた者が『費用がかからなさそうなものを検討してみよう』と言い出した。少し目先を変えてみようということだろう。
 それで一時的に書記から離れた門見が手を挙げた。
「前例があるけど、人型ゴーレムの換装システムと搭乗者の兵装改善はどうだろう」
 換装って手足を付け替えたりするのかと疑問が上がったが、彼の考えは否。もっと簡潔に『戦場に合わせてゴーレムと搭乗者の装備を変える』だ。これは確かに前例があって、砂地、沼地など、幾つかの地形に合わせたゴーレム用の具足などはすでに少量ならばある。
「でもデータも少ないし、活用されているとも言い難い。それを誰でもこういう時はこれって準備出来るようにして、数も揃えるのはどうかな」
 加えて、操縦者用の装備もよりよいものを開発する。寒暖差に合わせて消耗を少なくするための道具や鎧など。いかなる場所でも最善の活動が出来るように準備して、それを誰にでも提供出来る環境を整備する。
 地球のオイルカイロは想像がつかなかったようだが、懐中式の暖房設備があれば寒冷地でも今より長い時間ゴーレムが操縦可能とは理解される。メイでは極端な寒冷地戦は通常起きないが、沼地や酷暑は分かりやすい。
「冷気を取り入れるなら、制御胞内に氷を入れるだけで違うよね。冬なら操縦席に毛皮を張るとか」
「狐のマフラーに兎革を張った長靴、手袋、テンの毛皮の帽子なんかいいわね」
「そういう贅沢は個人でやって。操縦者用の防寒具はデザインから考えたほうがいいと思うけど」
 いい加減付き合いも長いので、門見はエリカの発言はあっさりいなし、ゴーレム機器の新規開発とは少し違う計画を述べていく。新しい物を作るというより、今あるものを活用する手段だ。
 このところカオスの魔物と戦う機会が多かったゴーレムだが、元々は恐獣相手の戦闘が多かった。相手は生息域もばらばらだから、地勢に合わせた装備があって困ることはない。これまでに作られたものも、改良、量産で活躍の場が広がるかもしれないし。
 人だって装備を変えるのだから、人型ゴーレムも同様でよかろうとの門見の提案は、前例の資料を揃えて、工房内で関係した者を集めてみるとの話になった。こうなると責任者が門見以外になる可能性はあるが、実現が見えてくる。門見は開発に加われれば責任者には拘らず、実際に色々作成できればよいと考えているようだ。
 ちなみに彼は、もう一つ『新型フロートシップの開発』を考えているが、地球技術は精霊力を利用するフロートシップに適合しないところもあるから、両者の技術を合わせた新たな形を‥‥などというものだったので、まだ黙っている。説明で下手を打つと、布津の邪魔になるかもしれないからだ。

 しばらくは人型ゴーレムの武装についてのあれこれが上がり、一度休憩があった。その際に布津がエリカに尋ねたのは、ゴーレム工房でゴーレムニストがどういう身分保障を得られるかだ。
「メイディアから出なければ、格別何にもいらないけど‥‥帰省やあれこれで遠出するなら身分証を発行して貰うことは出来るわよ」
 商人達がどの町のギルドに所属するかを示す身分章を持つのと同じように、ゴーレム工房に所属する旨を記した物がもらえる。
「通行証みたいなものか?」
「よほど関所税を取りたい領地か、極悪人でも逃亡してなければ、身分を改められることは無いけど、その時には役に立つわよ」
 ただし紛失や不注意からの盗難は処罰対象となる。悪用でもされたら、当人もただでは済まないだろう。
 実際はメイディアから出る必要がある者も少なく、勤め先はすぐに知れるから、それだけで生活に不足はないのが普通のところらしい。冒険者三人にしたら、気に掛けておくべきことかもしれなかった。

 休憩後はまたあれこれは提案が出されたが、大分もめたのが冴子の提案であった。前回は今までを考えれば好感触だったが、その際の指摘を考慮したとは思えないというのか理由だ。
「国の機関としてスタートさせるより、冒険者への依頼で数をこなして運用データを集めて、それから格上げを狙うのに問題があるかい?」
 冴子の提案の根幹は、ゴーレム機器の土木運用で変わりない。前回は人型ゴーレムにだけ偏っていた使用案を、輸送はサドルバックを使用し、工事は地勢に合わせて人型ゴーレムと人馬を使い分けるという変更だ。基本的に広範囲、大掛かりな行動はゴーレムで、細かいところは人手と分ければよかろうと言った後に続いたのが、その試験運用は冒険者ギルドへの依頼とするというもの。
 これに数名が噛み付いた、前回は国防工事限定でとの話だったが、わざわざ冒険者ギルドに依頼する意味は何かという。試験運用の成果が国が抱える鎧騎士達と冒険者で変わるとは考えられないと主張するのは、だいたいが貴族階級だろう。
 ゴーレムニストからは『サドルバックは上下動限定なので、輸送はフロートシップかゴーレムシップではないか』と指摘が入る。サドルバックの改良も加わるなら、説明が足りないわけだ。
「国防のためなら、最初から正規兵、つまりは鎧騎士で対処すべきなのよ。あんたの提案って‥‥なんて言うか、ゴーレムを使うことにだけ気が向きすぎてない?」
「土木工事を速やかに進めるのに使わない手はないだろう? 高価なゴーレムを平時に遊ばせる手はないさ」
「じゃあ、鎧騎士にも平時に働いてもらうべきよね。冒険者に頼む費用を出す必要もないわ」
 国防なら機密保持と訓練を兼ねて、人員は鎧騎士で賄えばいい。ただしそれに値する工事でなければ、そもそもゴーレムを動かす意味がない。ゴーレムを『使わないのは勿体無い』と思うのが冴子で、エリカなどは『土木工事に使うのが勿体無い』と感じるのだ。この違いは個人の性格よりは、育った環境の違いだろう。細かいところで価値観の違いが現われて、そこが絶対的に咬み合わない。
 しばらくやいのやいのと話しているうちに双方と周囲もそれに気付いた。門見や布津に地球の様子を質す者もいる。高層ビルなど想像も出来ないだろうが、技術面での違いは理解された。ただし必要性まで感じたかどうかは、やや怪しい。
「大規模な整地なんかはすぐにでも出来ると思うんだけどね」
「説得材料を集めるのは、提案者の仕事。春になったら辺境には恐獣が出てくるわよ。早めに考えたら」
 それなら恐獣被害が多いところにゴーレムを配置して、恐獣避けの堀なり囲いを作らせるのはどうだと冴子は身を乗り出したが、『例えばどこに』と返された。そういう仮定ではなく、どこの地域になどと明示して説得しないと、他にも色々提案がある中ではやはり予算の割り振りようもないのだろう。
 大建築時代はまだ遠そうだが、取っ掛かりは見付けたと冴子は意気込んでいる。

 検討会の最後は布津の提案の再検討だった。
「まだ煮詰めるところがあるけど、進捗具合をまず説明する」
 彼が実行したいのは、地球の飛行機型の鉄製グライダーだ。金属素体で内部が空洞である必要から、板金技術が問題視されたり、視界確保の方法が決められずにいた。
 そのうち視界確保のためのガラス風防は、現状実行不可。これはエリカが某所から連れてきたガラスとレミエラの職人に相談したけれど、地球で言う『強化ガラス』は作れない。相当数の天界・地球人に当たって、製造には温度管理が重要とまでは判明したが、厳密な温度計測が出来ないのではおそらく無理だろう。よって、装備のほうでなんとかするしかないと、そこまでは今回でまとまった。
 板金技術は鋳型を作っているが、まだ布津が考えた飛行機型を作り上げるまでには行っていなかった。それらしい形は出来ているのだが、左右の部品のずれが大きかったり、形が異なったりと、素体組み上げには至らない。
「胴体を四つ、翼は左右とも二つ、それと尾翼なんて感じで分けると、鋳型も作りやすいところまでは分かったんだ。これは有志の協力で、現在は木と粘土で作ってる」
 また黒板を出してきて、こんな風に分割してと絵を示しているが、当然布津も高く付く材料は使えない。金属鍛冶や木工細工師の有志に手伝ってもらい、試作の段階だ。代わりにヒートハンドの腕を貸したりと、会議前は忙しくしていたのである。
 それと制御胞も試してみたくて、大きさを計りはしたが、これを使うともうグライダーの大きさとはいえない。形も飛行機型は無理があると考えて、布津自身が検討課題にしているところだ。
「地球には、この形で全長が百メートルを超えるものが飛んではいたんだ。だから制御胞を使うなら、うんと大きいものになりそうだが‥‥」
「そうでなければ、形は一から考えるかだね。制御胞を使って、空を飛ぶ輸送目的のゴーレム機器を新開発って考えれば、色んな考えが出てくるんじゃないかな」
 布津に助け舟ではないが、そこで門見が口を挟んだ。アトランティスのフロートシップは空を飛ぶのに最適の形ではなかろうが、精霊力で飛んでいる機体に地球の飛行機型も最適とは言えないはずだ。
「一から作るって、考えるの大変だぞ」
「いっそロケットも試しいみるかい?」
「精霊力を最も発揮できる形‥‥かな? その辺はまだ具体的じゃないし、相当難しいけど、けして無理ではないと思うんだよね」
 今すぐやろうとは言わないけれど、皆が気に留めておいてくれれば、素晴らしい案が沸くかもしれない。布津の鉄製グライダーを実行する間にも、また転用可能な新規の技術が出来るかも知れず。その結果、大量輸送可能なフロートシップが出来れば、平時に有効活用出来る可能性は無きにしも非ず。
 こうしたことをずらずらと遠慮なく述べたのは、提案者達よりエリカだが、『まるっきり新しいゴーレム機器』にちょっと心を揺さぶられた者は何人かいたようだ。多分エリカは『あたしは新しいゴーレムシップが造りたい』と、今の発言に含んでいるだろう
「夢物語に近いな。天界人は突拍子もないことを言う」
「だが考えるだけならさせても問題はなかろう? 少なくとも、換装の計画はやるべきだ。人手は必要になる」
 換装システムの計画が立ち上がるなら、そこに潜り込んでまずは居心地のよい一室を確保したいなとか、煙草吸ってもいい部屋がいいなとか、足掛かりにしてやるとか‥‥
 そういうことを胸に秘めつつ、三人に限らず、ゴーレムニスト達は自分の意見を挟む隙を狙っていた。
 会議はもうしばらく、熱っぽく続きそうだ。