講習会へは着飾って?

ショートシナリオ&
コミックリプレイ プロモート


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月15日〜02月18日

リプレイ公開日:2005年02月23日

●オープニング

 パリの冒険者ギルドのギルドマスターのフロランス・シュトルームが外出先から帰ってきた時、彼女は行きより機嫌が悪かった。非常にけちな支援者のところに用があって出向いていたので、機嫌が悪いのは何か無理難題でも言われたのだろうと誰もが思ったのだが‥‥
「アレ絡みの講習会をする羽目になったわ」
「アレ? アレってなんですか?」
「馬鹿ね、男の人がいるところでは言えないようなことよ、きっと」
 三人姉妹でギルドの受付を勤めている一番下と真ん中が、いきなりギルドマスターの頭を抱えさせている。最近入った新人がギルドマスターの表情に疎いのは多少仕方がないこととして、真ん中は結構経験があるはずなのだが‥‥
「あの調子じゃ、しばらく薄幸の称号は取れないな」
 ぼそっと呟いたのは、記録係の男性だ。でも彼は自分が他の仲間から『色恋沙汰に幸薄い奴』と言われていることを知らない。もしかすると気付いているのかもしれないが、その場合は無視を決め込んでいるのだろう。
 ちなみに彼が良く話し込んでいる受付嬢は、先日より風邪を引き込んでしばらく休んでいる。まあ、それはそれとして。
 ギルドマスターのフロランスは、額に青筋が浮かばんばかりの様子で、しばらく立ちすくんでいたが、ようやく自分を取り戻したらしい。目の前の受付嬢姉妹に事の次第を説明しようとして、横合いからの声に遮られた。
「もしかすると、聖夜祭のときにねじ込まれた件ではありませんか?」
「あー、あのけちんぼ」
 フロレンスとちょうど一回りくらい歳の離れた受付三姉妹の長女が、自称『若手随一の将来有望』男性と山のような書類を抱えて歩いてきた。パリのギルドに限ったことではないが、ノルマン国内は復興戦争前後の混乱で古い書類が散逸したり、保管がいい加減になったりしているものが多い。それの整理をたまにやっているのは、この長女が多い。
 もう一人の男性が手伝っているのは、単に巻き込まれたからだろう。新しい話題に加われて、それはそれは嬉しそうだ。彼が大声を出すので、ギルド内にいた他の面々も何事かと集まってきた。
「けちんぼ?」
「あー、知ってます。あの人でしょう。ギルドマスターにふられて、すっかりひねくれた人」
「それは別人よ」
 そんな話があったっけと男性陣が首をひねっている間に、話はどんどんずれていく。フロランスはまた額に青筋を浮かばせて、受付嬢達を一時無視することにしたらしい。
「聖夜祭の頃に、例の資金提供を先延ばしにする支援者からモラルが下がっていると言われたこと、覚えてるかしら?」
「あー、金払い悪いけど、護衛つけるときの注文がうるさい奴」
「記録係を同行させるとその分経費が掛かるってごねた挙句に、報告内容に偽りがあって、フロランスにものすごく叱り飛ばされたんだっけな」
「馬鹿だよな、フロランス姐さんを怒らせるなんて」
 冒険者ギルドは、商人ギルドから派生したと言われるほどに縁が深い。モンスター退治などもするが、商人の護衛として依頼を受けることも多いため、運営資金の一部は富裕な商人から寄付されている。もちろん常時人を頼むのなら、報酬とは別に応分の寄付をするのが当然とされていた。他には貴族などからも支援があるし、依頼の仲介手数料も大事な資金源である。
 ただし、そうした相手が多ければ、中には付き合い辛い輩もいる。聖夜祭の際に、『パリの冒険者はモラルが低下している』と伝聞だけでねじ込んできた商人など、その上位に入るだろう。その商人がまた話を蒸し返してきて、きちんと冒険者を教育しろと言い放ったのだそうだ。更に女性のフロランスへの嫌がらせだろうが、ジャパンの褌を槍玉に挙げたらしい。
 あいにくと、フロランスはジャパンの男性用下着を言われたくらいで動じるような神経の持ち主ではなかった。繊細なところは、仕事以外で持っている‥‥らしい。
「あれはエチゴヤの陰謀だろう。月道渡りで珍しいからって、高値をつけて」
 記録係が言うのに、受付の青年も頷いていたが、支援者に言われたからには多少なりとも動いたほうがいいのは分かっている。問題の支援者は、困った支援者同士で仲がよく、放置しておくと揃って騒ぎ立てるからだ。
 と、フロランスと男性陣の話がまとまったところで、三姉妹の長女がこう言った。
「すみません。馬鹿な妹達と同僚で」
 見れば、受付嬢が寄り集まって、次のような話題に花を咲かせていた。
 男性用下着の講習なので、もちろん男女別だ。しかし女性が使用するものではないから、簡単に概略だけ教えてもらえばいい。それより女性の場合、よその国の衣装を手に入れた際に着崩していては恥さらしなので、そちらの講習のほうが大事ではないか。
 意訳すると、『褌なんかの説明より、よその国の衣装を着てみたーい』である。
「説明を受けるだけなら、いいけれどね」
 フロランスが頷いたので、受付嬢達はどこまで聞いていたものか。きゃあきゃあ言いながら、集団で走り去っていった。
 何かやらなきゃいいがと思ったのは、居合わせたフロランスと三人姉妹長女だけではないだろう。記録係と受付の青年も、なんともいえない顔をしている。
「なんにしても、ジャパン人の女性に講師をお願いして、寸志程度の謝礼は出すことにしましょう」
「それじゃ、講師募集と講習会のお知らせを張り出さないと」
「女性専用があったら、男もやらないと駄目なんだろ。手分けして書くか」
 受付の男女が立ち去って後、記録係の青年はフロランスにお疲れさんと話しかけた。
「ギルドマスターって、大変だな」
「そう、大変なのよ。ちょっとは楽しみがないとやっていられないんだけど‥‥、あなたの結婚式はまだ先のようね」
 後輩を沈黙させて、ちょっとの気晴らしをしたフロランスだったが、翌日には受付嬢達に呆然とさせられることになった。
「こんなに借りてきましたから」
「綺麗に着せてくれる人、呼んでくださいね!」
 大量の各国の衣類をテーブルに広げられて、フロランスは深々とため息をついた。

 今回開かれるのは、冒険者のモラル向上を目的として、とある支援者を納得させるための褌の講習会である。別に褌に拘る必要はないのかもしれないが、先方の要望に入っているので仕方がないようだ。
 しかし、あくまで講習会であって、各国衣類を着て喜ぶ集まりではないはずだ。
 そう、フロランスは言っている。

●今回の参加者

 ea3501 燕 桂花(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3826 サテラ・バッハ(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea5803 マグダレン・ヴィルルノワ(24歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea6592 アミィ・エル(63歳・♀・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9543 箕加部 麻奈瑠(28歳・♀・僧侶・パラ・ジャパン)
 ea9784 パルシア・プリズム(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ea9960 リュヴィア・グラナート(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●あくまで講習会です、講習会
 パリの冒険者モラル向上のための、女性限定講習会。なぜか内容はジャパンの褌について。このような集まりに、しかし八人の女性が参加登録をした。なんと出身は七カ国にわたり、もちろんジャパン出身の箕加部麻奈瑠(ea9543)もいて、講師に苦労することはありえない。
 更にシフールの仕立て屋として、多分同族にはそれなりに知られているだろうマグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)は集められた衣装の材質を、すでに色々と語っていた。そんな彼女のいる方角からいい匂いがするのは、同じくシフールの燕桂花(ea3501)が、個人的な趣味で料理を持参したからだ。
 しかしながら、わざわざこの講習会に参加しようとする人々は真面目なのか、今のところは料理に心を奪われてはいなかった。サラフィル・ローズィット(ea3776)は麻奈瑠と二人、どういう具合に講習会を進めていくか話し合っている。本来ならここに、冒険者兼教師として名高いサテラ・バッハ(ea3826)が加わってしかるべきだが‥‥
「ほらほら、先に形だけ講習会して、ちゃっちゃっと本題に入ろう。みんな、綺麗な服が着たいんだろ?」
 サテラは、問いかけられたパルシア・プリズム(ea9784)が返答に詰まるようなことを言っている。挙句にそんなパルシアを挟んで、今度はアミィ・エル(ea6592)が言い放つ。
「あら、わたくしの着飾ったところが見てみたいと正直にお言いなさいな」
 押しの強い二人の合間で、パルシアは精神的に遭難寸前だ。
 そんな彼女の腕を掴んで、二人の合間から脱出させたのはリュヴィア・グラナート(ea9960)だが、こちらはこちらで何人かから怪訝そうに見られている。当人は慣れているものと見え、上品かつ穏やかに『色々な服があって楽しい』と口にしている。
 もちろんこの集まりに参加しているのだから、見た目がどんなに美青年風でも、それは男装の麗人である。
 よって、女性のみでの褌講習会は開始となる。形だけかどうかは、麻奈瑠の解説と、全員の態度によるが‥‥

●ですから講習会なのです
 アミィは明らかに自分の出番まで、爪の形を眺めることにこだわるらしい。
 サラは話も一応聞いているが、時々左右を見回しては緊張の面持ちだ。
 マグダレンは聞いた話をすべて書き留めたいような表情で、羊皮紙の上に座っている。
 パルシアは顔こそ正面を向いているものの、見ているのは着物ばかり。
 リュヴィアは目の前に広げられた白い布を、つまんで眺めていた。
 サテラは、相変わらず『本題〜』と言っている。
 そんな中で、麻奈瑠は落ち着いて本日の講習会のおもな項目について語り始めたが‥‥実物をどう使うかの説明をしようとしたところで、桂花の一言があった。
「あたい、レースのやつをしてるよ。ほら、空を飛ぶのにしてるとちょっと安心だし」
「なるほどね。でも体を締め付けるものだから、ジャパンの方以外には馴染みにくいかと思ったんだけど」
 使い心地はどうと、同性ならではの遠慮のない言葉はマグダレンのものだ。シフールはスカートで飛ぶ際に何かと気遣いが必要だから、反応が早いのだろうか。
 そうかと思えば、爪を眺めていたはずのアミィが言ったりする。
「腰を締めますの? これ以上細くなったら大変ですわ」
「腰回りに布が入るのですから、着膨れても嫌ですわね」
 サラも、真剣な表情で頷いていた。実際にはこの程度だと、麻奈瑠が腰回りの分だけ実演して見せている。
 何人かがそれを見て、今の自分の服装だとどうとかこうとか考えていると、サテラがやはり言う。
「結局女物じゃないんだから、そんなに真面目にやらなくても。侍の袴とか着てみたいな」
「結局そこに来ますか」
 麻奈瑠がものすごく基本的なことだけ語ったところで、話を切り上げようかと考えたとき、マグダレンが桂花に尋ねていた。使い心地は、当然使用者に訊いてみるに限るからだ。
「飛んでるときに、お尻がちょっとは寒くないかな」
「腰回りに一枚加わるから、案外あったかい。でも寝るときは慣れないと苦しい」
 どうしてここでサテラも答えてくれたのだろうと、やや呆然とした者が数名。どうやらサテラは今更講習してもらわなくても大丈夫だったようだ。
 そうして、袴を着けてみたいと自己の欲求を繰り返している彼女の横で、パルシアが固まっている。袴を着けたいとのサテラの希望のオーラに、もしかすると当てられているのかもしれなかった。
 しかし、麻奈瑠が着付けしましようと言った途端に顔を上げたので、パルシアもやる気充分らしい。もちろん、各国衣装を着る『やる気』のほうだ。
 講習会だったものは、なし崩し的にどうなったのやら‥‥

●服はきちんと着られたらよい‥‥女物でなくても
 なし崩し的に終わってしまった講習会の後、桂花は持参の料理を広げたかったのだが、しばし諦めることになった。なにしろ皆さん、準備されたもの、自分の持ち込んだものを広げて、大変熱心に侃々諤々やっているのだ。
 持込もだが、冒険者ギルドが準備した衣装は結構値打ちものだろうと思うものが多く、万が一にも汚して弁償などとなっては大変だ。場合によっては、多額の借金を背負う羽目になる。
 でも残念ながら、桂花が期待していた華国の衣装の人間、エルフ用は見当たらなかった。ちぇとか思っている彼女の横では、パルシアが熱心に各国衣装を見比べてなにやら考え込んでいた。幾つ抱え込んでいるのは、多分着たいのであって、持ち帰るつもりではないだろう。なにやら畳んで、今にも荷物に入れてしまいそうな勢いだが。
 そんな二人と、勝手に衣装を引っ張り出しているアミィをよそに、他の女性の意識はジャパンの着物に向かっている。ジャパンとは縁が深いノルマンで、もっとも集めやすくて異国情緒を掻き立てるのが着物だったからかもしれない。サテラは『侍の袴』を手にして、すでにご満悦だ。
 更にマグダレンが化粧道具を引っ張り出してきて、髪も結うと言い出したので、麻奈瑠は非常に忙しくなった。リュヴィアも『不思議な模様だ』と言いながら、しっかり衣装を選んでいる。反対の手に、なにやら大きな袋を持っているのだが、それぞれが自分のことに忙しい中では気にされることはなかった。とりあえず、今のところ。
 さて、本職のはずのサテラが『侍の袴』と繰り返しているので、なぜだかサラが皆に念押しをしている。クレリックとしての職業意識が言わせるのかもしれないが。
「よろしいですか、皆様。同じ服でも異なる印象になるのは、その方の内面と、着こなしによります。必要以上に着崩したりするのは、色気ではなく破廉恥と受け取られますよ」
「もっと分かりやすく言うなら、似合わないことはするなということですわ。そもそもジャパンや華国に比べて、ビザンチンやノルマンなどは胸元に飾りが多用されますけれど、これとてそれなりに女らしい身体つきでなくてはねぇ」
 どうしてそこで高笑い? と皆が不思議に思ったほどの勢いで、アミィが割ってはいる。言うだけのことはあって、彼女の身体つきは殿方の目の保養だろう。黙っていれば。
 ちなみにここで、マグダレンが麻奈瑠に視線を向けると、麻奈瑠は『一理あります』と頷いた。よって、マグダレンの羊皮紙に一項目追加。
「ジャパンでは、胸元をくつろげるより、うなじを際立たせるほうが色気があると思われます。そもそも胸元の合わせをきちんとしないと、あっという間に着崩れますから」
 へえなんて感心しながら、桂花はさりげなく華国の衣装を広げていた。シフール用で小さいが、着物の横に並べて刺繍の美しさを喧伝する。残念ながら、両国以外の者が見るとどちらも『まあ素敵』で差が分からないのだが。
「この刺繍の一つずつに意味があってね、土地によっては刺繍が出来ないとお嫁にいけないんだって。下にズボンをはくから、結構動きやすいんだよ」
 しかしパルシアが熱烈に視線を送るので、桂花は満足して説明を加えている。それを拝聴しているように見えなくもないパルシアだが、目付きは『欲しい』と訴えかけているようにも感じられた。さすがにシフール用では、彼女には着られない。
 パルシアがさりげなく何枚もの衣装を畳んで、自分の背後においている間に、サテラとリュヴィアの着付けは終わったようだ。背丈が大分違う麻奈瑠が着付けるので苦労はあったが、難しい帯の結びがあるわけではないからなんとか完了。
 髪の色も銀白色系、瞳は同じく赤系統で、並び立つとなかなかの美形振りが際立つ二人に、桂花とサラが拍手などしていたら‥‥、リュヴィアの手が奇妙なものをつかみ出した。
「冒険者は褌と獣耳をつけるのが礼儀だと聞いたので」
 ちゃんと全員分あると、リュヴィアが出したのは獣耳ヘアバンドだった。その認識は明らかに間違っていると一斉に文句を言われたが、彼女は『それは残念』の一言で終わらせてしまった。しかもサテラの頭のものを取る気配はない。もちろん自分の頭のものも。
 挙句にシフール用も出してきて、マグダレンと桂花にも渡すし、自前のヘアバンドがあるパルシアにも一つ、麻奈瑠とサラ、アミィにも一つずつ。更にはまだ余っているから、交換したければと続いた。どこから持ち込んだのか、ちょっと不明である。
 現在、殿方の目がないのをいいことに、この場で着替えている妙齢の女性陣も、さすがに獣耳ヘアバンドはどうかと思ったらしい。特にパルシアはこっそり袋に戻していたりする。しかし。
「ほら、美人でかわいらしい女性には何でも似合うから」
 リュヴィアがこう口にしたのに、アミィが反応した。当人いわく『色彩豊かで、様々な国の良いところを取り入れ、とても壮麗』なビザンチンの衣装に、獣耳は本当にどうかと思わせるのだが‥‥
「わたくしくらいになれば、いかなるものでも着こなしてみせますわ。そうそうビザンチンでは装飾品の技術も発達していましてね」
 いきなり一人舞台を形成して、とうとうと話し続けるアミィ。話は上手だし、話題は尽きないし、思わず獣耳のことも忘れてマグダレンと桂花が引き込まれている。二人とも、いつの間にか頭に獣耳を乗せているのだが。多分手に持っているのが邪魔だったのだろう。
 だんだん衣装のことを離れて、話題は化粧のことになっている。
 この間に、パルシアはサラと麻奈瑠から着物とノルマンの衣装のどちらを着たいか尋ねられていた。どうやら彼女がヘアバンドに触られたくないのは周囲も理解して、それに合わせた色合いで着るものを選んだらいいと勧めているようだ。なんだかもう、時間があるなら両方着てみたらどうだという話になりかけている。
 一揃い、神職の女性用の衣装も出てきたが、細かいところを麻奈瑠が説明していないので、白と緋色だけで素っ気無いと皆の視線は通り過ぎている。
「ヘアバンドの上にリボンをしてみましょうか」
「だから冒険者は獣耳だと」
「この集まりはモラル向上のための‥‥」
 乱入したリュヴィアは、パルシアの黒髪に白っぽい獣耳をつけようとしている。おそらく彼女なりに、人を着飾らせて楽しんでいるのだろうが、パルシアは嫌そうだ。ところが、である。
「ああもう、なんて地味なのかしら。他に誰がいるわけじゃないのだから、冒険しなさい」
 ビザンチン風の化粧法をと身を乗り出してきたのが、当然ながらアミィで‥‥マグダレンは櫛を握って『髪の下半分だけでもいじりたい』と表情で訴えている。
「なんだったら、フランクの衣装の解説も」
 サテラまで加わって、パルシアを着飾らせる方向に場の空気は流れている。
 この勢いに弾かれた桂花、サラ、麻奈瑠の三人が何をし始めたかというと‥‥彼女達はちょっと部屋の隅に移動していた。
「こうも色々広げると、壮観ですねぇ」
「お茶の時には、あちらに片付けましょう。せっかくのお料理、冷めてしまいましたね」
「大丈夫。こういうのを見越して、冷めても美味しいものにしてきたから」
 お茶の準備である。楽しく各国衣装を着て、華国の美味しい料理を摘まむ。どんどん当初の目的とずれていることなど、誰も気付かなかった。
 そうして。
「そうとなったら、本格的にお化粧してみましょう!」
 マグダレンが気合の入った声を出したと思うや、お茶請けを広げている三人が振り返ったときには、パルシアが寄ってたかってお着替えをさせられているところだった。何事かと思いきや、アミィが簡潔に。
「男一人に手玉に取るくらいの美貌、今すぐ教えて差し上げますわ!」
 その後に『わたくしに勝つにはまだまだね』と高笑いがつくのには、なんとなく全員が慣れてしまった。というより、今は誰も聞いていない。
 そうして、よく考えると多忙なギルドの係員達が来ないうちにすっかり盛り上がった仮装大会は、パルシアの一言で最高潮に達していた。とっかえひっかえ着替えてみて、ああでもないこうでもないと言い合って、最後は勝手にお茶まで淹れて飲み食いし、一応片付けはしていく。

 そして翌日。
「根気よく古着屋を回りなさい。たまに掘り出し物がありますから」
 帰りに衣装を持ち出したパルシアが、係員達の執拗な追跡で捕まって、返却させられていた。

●コミックリプレイ

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