素敵?なお茶会への招待〜畑仕事です!
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月16日〜03月19日
リプレイ公開日:2005年03月24日
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●オープニング
この日、冒険者ギルドにやってきたのは双子の女の子達だった。ちゃんと身の丈に合った色違いのローブを着て、お下げにした髪は服と同じ色の幅広のリボンで留めてある。
年の頃、七つか八つと言う外見を考えれば、明らかに子供が働かなくてもよい家庭のお嬢さん達だ。つまりはそれなりにお金持ち。
「こんにちわ〜」
「依頼に来ました〜」
日頃から金持ちどころか、貴族にも良く会う冒険者ギルドの受付は、相手が子供でも驚かない。ついでのこの双子は、過去にも依頼人になったことがあるので尚更だ。その時には、姉が二人一緒だったのだが‥‥
「お姉ちゃんたちはお仕事なの。おばちゃんもお仕事だから、代わりに来たの」
「あたしたちはお休みなのよ。さぼってないからね」
口々に事情を述べつつ、双子は抱えてきた板を受付に示した。そこには流麗な文字で、こう書いてある。
『お茶会で使う香草のための畑作りをしてくれる方をお願いします。
畑は当家の庭にある小さなものです。
報酬は現物で、仕事の後に食事も兼ねたお茶会で受けてくださる方を八名』
最後の署名は、『アデラ・ラングドック』となっていた。通称『お茶会ウィザード』だ。
「いつもおばちゃんが頼んでるから、これで分かるはずって言ってたの。平気?」
「お金もね、預かってきたのよ。これで足りる?」
ある意味やかましい双子は、受付のカウンターにしがみつくようにして話している。同じ顔で、ほとんど同じ声、しかも子供特有の甲高い音程は、なかなか暴力的だ。
と、突然。
「うるさい?」
「うるさい?」
いきなり小さな声になり、次には無口になった。冒険者ギルドと冒険者街で局地的有名人のアデラは子供が泣こうが叫ぼうがうるさいとは言わなさそうだが、双子はどこかで怒られたことがあるらしい。
怒りたくなる気持ちが、ちょっと分かった受付係員だった。
とはいえ、黙り込まれても話が進まない。それに冒険者ギルドは基本的に代理人からの依頼は、相応に信頼が置ける人物でないと受け付けないことになっていた。よって、分かってはいても確認しなくてはならないことがある。
「あなた達は、アデラさんとどういう関係だったかな?」
「おばちゃんの名前がアデラ」
「おばちゃんとお姉ちゃんたちと、五人で住んでる」
もっと端的に答えてほしかった係員だが、双子には通じなかったようだ。『おばちゃんなんだよね?』と聞き方を変えると、『二十一よ』と返ってきた。
誰も歳など聞いていない。ましてや依頼人をおばちゃん呼ばわりしたかったわけでもない。アデラが二十代前半だろうことは、見れば分かるのだから。
「えーっとね、あなた達とアデラさんとの関係をもうちょっと説明して」
二つ返事で引き受けた双子は、自分達とアデラの関係をものすごく複雑怪奇に説明した後に帰っていった。多分余分な説明と無駄な解説とどうでもよい注釈を外せば、一言で済んだ話だろう。係員が全部記憶していれば、双子の親族関係にものすごく詳しくなれたこと間違いないが‥‥子供の話はえてして要領を得ない。
よって、たった一言が欲しかっただけの受付は、同僚達の『聞き方が悪い』という冷たい感想の元、混乱した頭を抱えて依頼書を書く羽目になった。
依頼内容は、ものすごく簡単だ。
『アデラ女史のお茶会参加者募集。
今回はお茶会の前に、香草用の畑を耕すことが必要。
現金報酬はないが、代わりに食事とお茶が出る』
もちろん最後に『このお茶会の飲食物で体調不良となっても、冒険者ギルドは一切関知しない』の一文は外せない。
●リプレイ本文
依頼人アデラのお茶会は、今回で七回目を数えるそうだ。冒険者ギルドに依頼してのお茶会なので、もちろん毎回違う顔ぶれである。たとえば全員クレリックで、似たような作業用衣服でやってきたビター・トウェイン(eb0896)とブノワ・ブーランジェ(ea6505)とシャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)は今回初参加だ。他に依頼を受けるのは二度目だが、諸般の事情でアデラと初顔合わせのオフィーリア・ルーベン(ea1845)がいる。
ここまでが、冒険者ギルドの係員達が『怖いもの見たさ』と噂するお茶会の初参加者だ。
そしてこの依頼の募集人数が八人ということは、他の四人は初めてではないということになる。
アミ・バ(ea5765)とサーラ・カトレア(ea4078)は今回二回目だし、パラのマート・セレスティア(ea3852)は四回目。サラフィル・ローズィット(ea3776)は係員が顔を見たとたんに『また行くんだね』と言われた六回目である。
ちなみに今回の畑仕事依頼は、サラフィルが庭の畑を見て『香草を植えましょう』と言ったことに端を発するらしい。
それから、アデラと一緒に動きやすそうな服装で待っていた双子のマリとアンナは、サラフィル、マート、サーラ、シャルロッテの四人とは、別の依頼で面識があった。双子もきちんと顔を覚えていたらしく、マート以外には『おばちゃん、こんにちは』と挨拶する。マートにだけは『マート、ひさしぶりね』だった。
もちろん双子に掛かれば、年齢に関係なくアミもオフィーリアもおばちゃん、ビターとブノワはおじちゃんである。種族の違いをさておき、社会的な扱いから見れば最年長はマートのはずだが、相手は子供、目くじらを立ててはいけない。マートもマートだし。
とりあえず、お茶会の前に働くのだ。
畑仕事をしたことがあるのは、サラフィルも含めたクレリック達だ。アデラと双子も自分の家の庭だから、多少は鍬も使えるだろう。たぶん、きっと、そう期待してみよう。
そして、他の四人はというと。
「ここの家族に鍬とはいえ刃物を持たせるのは、ものすごく危険な気がするわ」
前回の依頼参加で何かがあったのか、アミは鍬を確保している。自分の馬で鋤を引かせてもいいと気前のいいことを言ってくれたが、鋤がないのでは話にならなかった。よって、ナイトの彼女とオフィーリアが力のあるところで鍬を持っている。
「確かに子供に重い道具はよくないが‥‥他に何か理由があるのだろうか?」
クレリック四人組が、畑の土の様子など確認している合間に、日頃とは違う刃物の持ち具合を試していたオフィーリアが尋ねた。が、それは指し示された様子で納得の表情に変わる。
「どこに置きますか? ああ、よそ見はしないで」
サーラがせっせと声を掛けている先で、アデラと双子が苗の入った籠を抱えて右往左往していた。自分の家の庭で何を迷う必要があるのか他人には分からないが、三人でくるくる同じところを回って歩いている。
「アデラ様、苗はこちらにくださいな」
今回の畑仕事は、サラフィルを筆頭にしたクレリック四人組に一任するのが正しいと思う、サーラとアミ、オフィーリアの三人だった。
マートはすでに、畑の端で穴掘りに熱中している。どうやらミミズを掘り出して、遊んでいるらしい。
サーラが魔法を使うまでもなく、畑仕事に支障のない天気だった。
けれどもビターの周辺では、なんとはなしに暗雲が垂れ込めている。幸いなことに、それは彼の種族特性によるものではなかったが‥‥
「おんぶーっ」
「だっこーっ」
御歳七歳、アンナとマリアの二人が彼にへばりついているのだ。自宅の庭の畑とはいえ、実は今まで植え付けはしたことがないというアデラとマリアとアンナは、素晴らしく役立たずな雰囲気だった。
それでというわけではないが、人手もあることだし、ビターが双子にお茶会用にテーブルの準備をしておきましょうかと声を掛けた結果がこれである。
「おや、懐かれましたね」
ブノワがにこやかに言うが、何人かは『違うだろう』と思っている。明らかにそれは双子によるビターの奪い合いだ。
「以前の郊外の畑でご一緒したときも、やはり男の人に懐いていらっしゃいましたわ」
シャルロッテも苗の種類と様子を確認しながら、以前のことを思い出しているようだ。彼女が思い浮かべるのもほほえましい光景のようだが、実際はどうだったのやら。そう思わせるような勢いでの、ビター奪い合いだった。
当人は迷惑にも思っていない様子なので、誰も助けにも行かないけれど。
「うちは女所帯で、男の人がいることなんて滅多にないので、そのせいですかしら」
アデラも、せっかくシャルロッテが仕分けした苗をまたしっちゃかめっちゃかにしながら、双子の様子は見ているだけ。
「ねえねえ、まだ終わらないの? おいら、おなかがへったよ」
この調子ではいつ終わるか知れないと、耕し担当のナイト二人は心底思っていた。
しかし、それは杞憂だったのである。一応。
マートは、大変おなかがすいていた。アデラのお茶会に食べ物目当てで参加することも三ヶ月ぶり、なんと今年に入って初めてだ。しかも先日の依頼では食生活がままならない状態で数日を過ごし、心身ともに衰えそうな感じなのだ。
おかげで元気の出ない彼は、日当たりのよい庭先で、麻袋を被って昼寝を決め込んでいた。しかし、おかげで畑の穴は三つで済んでいた。埋め戻すのだって大変なのだ。
そして、畑を耕すより埋め戻すのに忙しいオフィーリアは、ちょっとだけ不機嫌だ。原因はマートにある。彼が掘った穴に近付いたら、上から落ち葉が降ってきたのだ。いつの間にか、トラップが仕掛けられていたものらしい。
「何を考えているんだ、あれほど言っておいたものを」
人様の家に上がるときに、こんな泥だらけでは失礼に当たると思案中のオフィーリアだったが、やたらと大きな穴を埋める手付きは力強かった。
ミミズもひょいとつまんで、穴の中にぽいだ。
サーラは、先程から延々と草むしりをしている。こんな時期に顔を出す雑草は小さいから、しっかりつまんでぷちっと引き抜くのだ。かがんで下を向いたままで、なかなか骨の折れる作業である。
「‥‥、こういうのがお茶になったら大変ですわ」
雑草をお茶にすると聞いたアデラの噂を思い出し、今度は掌いっぱいになった雑草を持って捨て場所を探している。
オフィーリアの埋め戻している穴に入れてもらって、こちらは一安心だ。
アミはのどかで、珍しい時間を過ごしていた。実は記憶喪失で、人生の一部しか覚えていない彼女だが、畑仕事をしたことは多分人生初めてである。鍬を持つのも初めてで、なかなか土を深く掘り返せないが、ちょっとは慣れてきた。
「オーラパワーで、いつもより深く掘り返せます‥‥、ちょっと疲れたか?」
日頃はまず言わないことを口にしてしまい、反省する彼女は、今後は言葉に気をつけようと思った。よっこらしょなどと言ったら、双子の『おばちゃん攻撃』が待っている。
言わなくても待っているが。
ブノワとサラフィルとシャルロッテ、それからアデラは大変忙しかった。アデラがしっちゃかめっちゃかにした苗を再度選り分け、用意された種の具合を確認し、オフィーリアとアミに耕してもらった畑に畝を作って、せっせと植えつけていく。途中から、アデラは指をくわえて眺めているだけになったが‥‥
「アデラ様、そんなに難しく考えないでも大丈夫ですわ。この畝はこちらの苗にしましょう」
「これとこれは、区別がつきにくいから離して植えましょうね」
「そちらは先程苗床に蒔いた種が芽を出したら植えるのに、空けておきますから」
しかし、サラフィルもシャルロッテもブノワもへこたれなかった。せっせと手を動かし、それから口も動かして、アデラにあれこれと指示を出す。一度に色々言うと余計に動かないので、とうとうサラフィルがつききりで作業を教え始めた。この間にも、ブノワとシャルロッテは手分けして苗を植えていく。
ちなみに使っている道具は、ブノワが持ち込んだ自前の農具類で、植えているのはシャルロッテが間違いなく香草と断言したものだけだ。アデラの用意した苗には、噂どおりに単なる雑草が幾つか混じっていたのである。
「あ、ブノワさん、ほらほら白い花ありましたよ。小さいけれど」
「摘んでもよいか、アデラさんに伺ってみましょう」
そんな二人がさっさと作業を終わらせ、もう二人のことを振り返ると。
「アデラ様、そんなに土を叩かなくても大丈夫ですのよ」
「あら、じゃあ、もう一度掘り返して」
サラフィルとアデラは、いつ果てるとも知れない作業を延々と繰り返している最中だった。
多分、放っておいたら日がくれるまでやっていることだろう。
そして、ビターはといえば。
「これがお父さんとお母さんでね、こっちがおじいちゃんとおばあちゃんなの。後あっちにおじちゃんたちが」
「この間、おばちゃんとお姉ちゃんたちと一緒に絵を描いてもらったのよ。それはまだ届いてないけどね」
お茶会の支度も進まないうちに、延々と家の中を案内されていたりする。
双子はただいま、彼の両手にぶら下がるように歩いているところだ。
それからしばらくの後。
「ひどいやっ、ちゃんと起こしてくれよぅ!」
と、起こしに行く前に自分で起きたマートが飛び込んできて、お茶会は始まった。せっかく寝ているので、始まる直前まで起こさないようにしていたら、匂いでお茶会の始まりを察知したものらしい。
本日は卵をふんだんに使った料理とお菓子がテーブルに並んでいる。ほとんど作り置きでとアデラは言うが、ちゃんと温めてあるから問題はない。
アミが呆れて眺め、オフィーリアが仕方なさそうにつまみ食いの手を両手で押さえて、早くも口に入れた味付けゆで卵を飲み込んでいる最中のマート以外が食前のお祈りをして、皆は料理に手を伸ばしたが‥‥
これはお茶会であるからして、もちろんお茶が出る。先程サラフィルが危ないものがないか確認して、でも毒以外はそのまま使わせている、見た目も今ひとつな香草茶が配られて、これまたマート以外が一口飲んでから。
「おばちゃん、これ、変っ」
「いつものお茶がいい、取ってくるからっ」
「あらやだ、二人とも無作法な。おうちの中は走らないのよ」
シャルロッテ、ブノワ、ビター、オフィーリアが一瞬動きを止め、ものすごく渋い顔で飲み下した茶は、本当に涙が出るほど渋かった。彼らが吐き出さなかったのは、せっかく汗も拭いて、服からも出来るだけ汚れを落とし、顔も洗ったのに、茶を吹いたら服が汚れると思った‥‥わけではなく、無作法はならぬと考えたからだ。そういう点では、自分に厳しいクレリックとナイトだった。
「やっぱり。前回もひどかったのよね」
「ほんの一口だけで、舌がぴりぴりします」
でももう一人のナイトのアミとジプシーのサーラは、用心してほんの数滴舌に乗せただけらしい。それでも渋い表情だが、まだましだ。
そして常連のサラフィルは。
「何を入れたら、こういう刺激的な味になるのでしょう。奥が深いですわ」
と、分析に余念がなかった。
そんなことをしていると、マートがせっせと他人の前の皿にも手を伸ばしてくるのだが。
「んーっ、んーっ」
そして、何かを喉に詰まらせた彼に誰かが渡したのは、アデラ特製の渋いお茶。嫌がらせでもなんでもなく、他に飲み物がなかったので仕方がない。
「ふーっ、アデラ姉ちゃん、このお茶渋いよ。どうして料理はこんなにおいしいのに、お茶は不味いんだろう」
マートがそれを言うかと、七人の表情が物語ったが‥‥当人は気にしない。そもそも彼が言わなかったら、誰も言わないのだ。だって皆、大人だから。
「今回こそは、間違いなくおいしいお茶をと思いましたのに、残念ですわ。でも他にも色々ありますから」
にこにこと、やはり見た目がおいしそうでない茶葉を披露するアデラの横で、サラフィルが『毒は入っていません』と断言する。その内容を断言されても、嬉しくないのは皆同じだ。マートだって例外ではない。
しかし、今回はマリアとアンナがいた。台所に走り去り、一度戻ってビターを連れ去った彼女達は、小さな壷を持ってきた。正確にはビターに持たせて。
「おばちゃん、お客さんだから上の戸棚のお茶持ってきた」
「今日のお茶、絶対に失敗だから捨てちゃって」
言いにくいことをきっぱり口にし、更には用意されていた茶葉を全部よけて、持ってきたお茶を置く。
この後、サラフィルが『今迄で一番素晴らしい』と大絶賛だった香草茶が出て、やはり皆は思ったものだった。こんなお茶があるなら、自分で作らなきゃいいのにと。
でも、例外はいる。
「アデラ様がきちんとお茶を淹れられるようになるのも、なんだか寂しいですわ」
そうサラフィルが嘆いている横で、マートは食欲のままに振る舞い、ブノワに節制という言葉について語られている。それでも時々他人の皿から料理を取って、双子に卵の殻を投げられ、それをビターがたしなめる。すると今度はビターが、双子に文句を言われていた。
「それでも今回は、お茶がおいしい分いいのかしら」
「そうかもしれませんね」
そんな光景の横、ようやく確保した卵たっぷりの焼き菓子を口に運びつつ、サーラとアミはお茶を飲んでいた。横では、あまりのことに神妙な顔付きでシャルロッテが成り行きを見守っている。
そうしてオフィーリアは、手土産の菓子は双子の姉達のために、この場には出さないことに決定していた。
最後には、マートと双子が残ったお菓子を奪い合って、大変な騒ぎになるのだが‥‥それはもう少し後のことだ。