【怪盗と花嫁】足元の謎

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月05日〜04月13日

リプレイ公開日:2005年04月12日

●オープニング

 多分、ここまではっきりと断言されたのは、彼は初めてだった。長命種族と言われ、自分でもそれなりに長い年月を生きてきた自覚はあるが、それでも女性にこうまで断言された記憶はない。
「私、地位も名誉も金銭も、愛情と友情と健康にも現在不自由はしておりませんから」
 まあ、彼とて言われっぱなしではなかった。
「若さと美貌と知性にもご不自由はなさそうですな。不足しているのは、時間ではないかと」
「そればかりはどうにもなりませんわ‥‥お互いに」
 いやまったくと、彼は目の前の人間の女性に苦笑を向けた。神ならぬ身に自由に出来ない時間以外の交換条件では、この相手を動かすのはやはり難しい。前回は依頼人として名前を貸すことで、自分が手にしたかった情報を得たが‥‥
 パリ冒険者ギルドマスターのフロランス・シュトルームは、明らかに知りえた情報の何割かを隠している。まだ三十を超えて一つ二つのはずだが、いつの間にこうまでしたたかになりおおせたものか。
 人払いもしたことだし、いつまでも外面を取り繕っている場合ではないかと彼が思ったところ。きちんとそれを汲み取り、ついでに余計なことにも気付いたフロランスが声色を改めた。
「私もいつまでも子供ではありません。二十年も前のことを思い出されるのは、程々にしていただかないと」
「確かに。では、単刀直入に伺おうか。今度は何人名前を貸したら、君が言わずにいる話を聞かせてもらえるのかな?」
 先程済ませた晩餐は、彼が誘ったものだ。今は食後の菓子をつまんで、ワインを傾けながら、昔話に勤しんでいるはずの時間。実際はどちらも、過去に浸るほど老成してはいない。
 それより何より、今はもっと気に掛けるべきことがある。
「心配せずとも、依頼人として問題のない名前の五つや六つ、すぐに用意は出来る。それくらいの人材はいるさ。たった十年で、こうまでつまらぬことに煩わされることになるとは思いもしなかったがね」
「もう十年とも言えましょう? せっかく表に出た膿です。しっかり始末しませんとね」
 いつから十年か、また何がつまらぬことなのかは、言わずとも通じる。『膿』がなかなか手ごわそうだと彼が考えていることも、フロランスには伝わっているだろう。
 そうして。
「マントの街の地下に、聖遺物があるらしいと報告がありました。他に、あの街の地下に遺跡があるのではないかとも」
「‥‥そんなところに、デビルかね」
「ええ。そろそろ皆様に動いて欲しいところではありますが、なかなかそうもいかないでしょうし‥‥人の家の地下を漁ってこいという依頼に名前を貸してくださる方もいらっしゃいませんでしょう」
 そんな依頼を出したら、冒険者ギルドから官憲に引き渡されてしまう。フロランスの言う『皆様』も彼自身も、世間体というには重すぎる外聞がある。それだからこそ、冒険者ギルドの支援者の一端を担っているわけだが。
「だから、お小遣いがほしいの、おじさま」
「‥‥そこだけ、娘風の口調を装うんじゃない」
「金を出せでは、まるで強盗ではありませんか」
 しれっと言い放ったフロランスに、彼はせいぜい渋面を作って見せた。彼女の本日の用は、どうやらこの一言に集約されるらしい。それならそれで、ギルドで動いてくれるということなので有り難くもあるが‥‥今の台詞はいただけない。
 つい、昔を思い出して、ほだされてしまいそうになるからだ。
「それで、お嬢は幾ら欲しいんだね」
 いや、すでにほだされているかもしれない。
「たくさん」
「‥‥順次、問題のない方法で届ける。それほどの大事になりそうか?」
 にこりと微笑んだきり答えない相手に、彼は頷いた。これはつまり大事になるのだ。
 それならば、どう自分達が動くかと頭を巡らせた時、秘書官が扉の向こうから彼を呼んだ。人払いの最中なのだから、よほどの出来事に違いない。
 そうして、それは確かに『よほどの出来事』だった。
「依頼人も、適宜向かわせる。金は一日待て」
「はい。では、上の方々にもよしなに」
 パリ近郊で、モンスターやアンデッド大量発生の情報あり。いまだ未確認の部分も多いその急報に、彼は客人を慌しく送り出すと、自分も職務を全うするために自宅を出た。

 そうして、冒険者ギルドでは、依頼人の名前がない依頼に人が集められる。
 領主が不在のマントの街の、地下にあるという遺跡の情報収集を行うこと。

●今回の参加者

 ea1695 マリトゥエル・オーベルジーヌ(26歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea4071 藍 星花(29歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 ea4078 サーラ・カトレア(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea4778 割波戸 黒兵衛(65歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5180 シャルロッテ・ブルームハルト(33歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea5362 ロイド・クリストフ(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea8650 本多 風露(32歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 マントの街は、怪盗の手の者の襲撃と、その後の伯爵の行方不明とで不穏な状態にあるという。幾ら隠そうと、結婚式前に領主がどこにも姿を見せないは異常だし、パリ近郊の大事件の首謀者とも噂されている。
 そして、そんな状態の街で不用意に噂を聞き歩いたらどうなるか。吟遊詩人として動こうとしたマリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)に、ギルド係員は『何かあっても、ギルドは無関係だよ』と苦笑を寄越した。
 マリとロイド・クリストフ(ea5362)が中心でひっくり返した報告書の中から出てきたのは、遺跡からの発掘品と思われるものが密売されている闇市と、遺跡の存在を主張する男の存在だった。下手にあちこちを当たるより、目的は絞っておくに越したことはないだろう。
 前回の依頼で城内に入り込んでいたフランシア・ド・フルール(ea3047)は、護衛を買って出た藍星花(ea4071)を伴って、城で保護した侍女三人を預けた教会を訪れていた。負傷したわけが、三人とも朗らかに笑っていてフランシアは面食らう。星花も『随分と元気ね』と口にしたくらいだ。どうやら今後のことに口添えしてくれる者が現れたとは、教会のほうから遠回しに伝えられて、納得したが。

 つい先日までは、領主の結婚を前に賑わっていたマントの街も、騒動が続いて寂れた感は否めない。そんな中でも踊り子として街に入ったサーラ・カトレア(ea4078)は、劇作家の触れ込みの割波戸黒兵衛(ea4778)とノルマン風に装った本多風露(ea8650)を伴っていた。更にクレリックのシャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)やバードのマリ、やはりクレリックのフランシアや付き添いの星花、ロイドと一緒、つまりは依頼を受けた八人揃ってマントの街に入り込んだわけだが‥‥誰に怪しまれることもなかった。冒険者だといえば何かあったかもしれないが、『教会から派遣された者とその付き添い』『旅の芸人とその仲間』と並べて、同道したといえば不思議はない。
「男衆は一人でも多いほうが、安心だからね」
 星花が街の門にいた当番に言うと、彼女の父親ほどの年齢の男性は確かにと頷いた。フランシアとシャルロッテにも教会はあちら、サーラとマリには街中で興行するならどこに挨拶に行けばいいと、親切に教えてくれる。
 ただし、伯爵の婚礼については経過も何も、口をつぐんでしまったのだが。言葉少なにパリの近辺は物騒なことになっているようなので、しばらく逗留していたほうがいいとそれだけ教えてくれた。

 今後の情報収集の方法と持ち寄った情報の再確認を兼ねて、八人は街中の食堂で軽食を取っていた。賑やかな場所では、他人の話を聞き取るのも至難の業だし、手慰み程度にマリが竪琴を鳴らせばまず盗み聞きは出来まい。
 そうして、全員が頭に叩き込んだ情報は幾つかある。怪盗が領主の血筋にのみ伝えられると言った地下遺跡の事柄を知るのは、現状ではクラリッサ一人であろうということだ。他に近親者はおらず、それゆえに遠縁のカルロスが爵位を継いだのだ。
 それから侍女達の話では、カルロスの居室がある階には人の出入りが非常に厳しく制限されていたらしい。身の回りの世話をする者も、先代に比べたら半分もいるかどうかだったそうだ。その割に室内の家具を動かしたり、廊下の絨毯を張り替えさせたり、色々としていたという。
 それとは別に怪盗が捕らわれていた時、そちらから戻ってきた騎士の装束が随分と汚れているのを目撃した侍女がいる。大半が土埃だったので落としましょうかと声を掛けたら、険しい顔付きで構うなと怒鳴られた。その騎士の紋章が黒い山羊で、元々のマントの紋章の白い山羊とは異なっていた。伯爵に近いところに多い黒山羊の紋章の騎士が、どうして石造りの塔の中で土埃に塗れたのか不思議で覚えていたそうだ。
 ちなみに、報告書では黒山羊紋章は正道ではない仕事に従事、つまりは暗殺などを請け負っている手だれの者達に与えられたものらしいとなっていた。
 このすべてが伯爵に従って街を離れたとは考えにくいため、活動は出来るだけ秘密裏に行うことで、八人の意見は一致を見たのだった。

 割波戸とマリは郊外からマントの全景を眺めていた。城のない地下室、地下遺跡の上に築かれたとされる街、その中に眠る聖遺物。少なくとも地下に遺跡があるというなら、地形がそれを示していて不思議ではない。
 割波戸がそうした視点で街を眺めやっている間に、マリは地図と地形を見比べていた。ついでに近くに見える湖にも視線を投げる。
「指輪をデビル達が気にかけていたと報告書にあるけれど、何か関係があるのかしら」
「どうじゃろうな。外部から持ち込まれたものでもあるし。潮の満ち干がないから、どこかに打ち寄せられることもなかろうて」
 少なくとも、現在の彼らに人目に立たずに湖の底を浚う方法はない。まず地下遺跡と気を引き締めて、街の全景に視線を戻し‥‥割波戸がふと口にした。
「入り口は街の中だろうが、遺跡が水没していては論外じゃ。湖より下にすべての遺跡があるとは考えにくいから、やはり城のいずこかじゃな」
「教会は位置が低そうだものね。それに、水位の変化がないから隠し水路も可能性は低いと」
 次は城の見取り図と実際の差の確認だと、マリはさっさと身を翻したが、割波戸は地図に木炭で街と湖の高低差を書き入れてから歩き出した。

 理路整然とした主張で城内に入ったフランシアは、付き添いと称した星花とロイドを連れてくまなく城内を歩き回っていた。幸いなのかどうか、伯爵の部屋に続く廊下の石像は姿がなく、案内に着いた騎士はもとよりそんなものはないと証言した。もちろん後に続くのは、怪盗の仕業に違いない、だ。
 その騎士の紋章が黒い山羊なのを見て取り、三人は口をつぐんでいた。相手は不愉快そうだが、一通り案内をすれば追い出せると考えてか、歩みは止めなかった。ただし伯爵の部屋には入れない。単純に鍵が掛かっているからだ。
「中を見せていただけないとは、なにゆえ?」
「空けるのなら、鍵開けに通じた者を手配する必要がある。先触れがあれば、その準備もしておいたが」
 いきなり来て、何を言うかとの態度だが、手配しないとは言わなかった。ロイドが断って、扉を押した際にも不機嫌そうに見守っているばかり。もちろん丈夫な鍵で、壊して入れるものではなかった。その間に星花が廊下を行ったり来たりするのは、後ほど落ち着きがないと厭味の対象になった。
 そんなことを言われても、三人とも真新しい絨毯に土の痕が残っているのを見たら、怪しいと思う。侍女の話がなければ、おそらく気付かなかった程度の汚れだとはいえ。
 この日は速やかに逃げたのか、それともすべてが伯爵に従ったのか、デビルの気配は城内のどこからも感じられなかった。それでも、伯爵の部屋を確認するまでは日参すると言い置いたフランシアに、騎士は仏頂面で頷いたのである。
 このとき、星花とロイドが城周りと廊下の長さ、つまりは外と内の大きさが伯爵の部屋の階だけ明らかに違うことを察していたと知れば、三人を帰したかどうかは定かではない。

 伯爵が暗殺稼業に手を染めていれば、当然裏の世界とも深い繋がりがあるだろう。そうしたことから闇市の情報収集は危険だと判断され、風露とシャルロッテ、サーラは街中を歩き回っていた。地図に井戸の位置を書き入れていくためだが、幾らもしないうちに法則性があることに気付く。
 街の通りとは別に、綺麗な方形を連ねた場所に井戸が点在しているのだ。そして、見て歩いたところ、空井戸はない。活気のある街だから整備が行き届いているのだろうが、井戸の位置は街の設立時に決められたわけだから、やはり作為はあるはずだ。そうして。
「あら、このお水、なんだか冷たいような‥‥」
 歩き回った後、井戸の一つで水を分けてもらった三人は、揃って同じことを思った。声を上げたのは最初に水を使わせてもらったシャルロッテだが、サーラと風露も手に受けてみて地下水にしては冷たいと感じる。
「湖から水を引くためには、地下に水路を掘る必要がありましょう?」
「それは‥‥大変な話です」
 二十歳そこそこの人間の女性ばかりで、一人はクレリックのためか、井戸端話に紛れ込んだ三人は、井戸の水が地下水ではなく湖の水を引いたものをくみ上げてあるのだと知った。だから冬など大変に冷たいらしい。金持ち用の屋敷には、地下水をくみ上げる井戸を掘ったところもあるようだ。
 しかし、パリにはまったく及ばないとしても、それなりの都市であるマントの地下に水路を巡らせるのは大変な労力を必要とする。と思えば‥‥
「だからね、この街は遺跡の上に立っているって昔話があるんだよ。誰も見た事がないし、あったってほとんど潰れているんだろうけどね」
 遺跡の残りを利用して井戸が使えるんだからありがたいと、住人は屈託なく笑っているが、彼女達にとっては貴重な情報であることに間違いはない。

 八人が再度顔を合わせたのは、宿屋の食堂でのことだった。時間は大分遅い。サーラとマリが風露と星花をつれて、地元の者が繰り出すだろう界隈を巡り、報告書にあった地下遺跡の研究している男を捜したのだが、状況ゆえかいずこも閑古鳥が鳴いている始末だ。とてもではないが人探しの出来る様子ではなく、以前からいる同業者と悶着にならないうちに戻ってきたのである。
 もちろん捜している相手も城の内部に入れなかったということだから、ここで無理に探し出す必要はないのかもしれない。見付からないのも、これだけ夕方からの人出が途切れる様相では、何か危険なことに巻き込まれたとも考えにくいし。
 その間に残った四人が交わした情報で、遺跡の入り口があると目されたのは二箇所だった。城の伯爵の私室前の廊下と、塔の内部。どちらも、よく照らしあわせると井戸の並びと重なっている。また両方共にありえない方角から土の汚れが現れているのだ。廊下はその突き当りから、塔は階段の一番下から。
 この場所が入り口であろうが、問題はどうやって内部に入るかだ。壁も床も魔法で崩して雪崩れ込む方法はあるが、そんな魔法の持ち合わせは誰にもない。そんなことをすれば、明らかに見付かるだろう。
 ただ。
「入るのなら、スリープは使えるわよ」
「湖側から潜り込めないこともないが」
 マリや割波戸が口にしたように、なんとかして遺跡を確認したいとの気持ちは皆にあり、そしてなによりシャルロッテとフランシアには無視できないことがあった。
「聖遺物をデビルなどには渡せません」
 こうした気持ちには、ノルマン騎士のロイドのみならず、華国出身の星花も同意を示した。サーラも聖遺物と聞いて黙ってはいられないし、風露は宗教的共感がなくともデビルをのさばらせておこうとは考えない。
 それで、二日目はもう少し細かい内部の状況を確認することとして、八人は三々五々に散ったのである。

 結局、二日目もフランシアとロイド、星花が城内の確認をしたが、デビルの痕跡は見付からなかった。鍵開けも人選があるようで、まだ叶わない。時間稼ぎかもしれないが、どこに行くにも必ず不機嫌な顔をした騎士が着いてくるので、使用人から話を聞くことも出来なかった。
 それでも城内の騎士の数はフランシアが前回訪れたときに比べて激減していたし、白と黒の紋章の違いでくっきりと一線が引かれているのも見て取れた。両者の仲は明らかによくないが、力関係は黒が上。
 そうして三日目の夕刻。だんだんと重い雲が垂れ込めてきた空を見上げつつ、白山羊の紋章の騎士が二人、壊れたまま放置されている城壁の見張りに立った際に、マリがスリープを唱える。内部の三人は、いつになったら伯爵の部屋が確認できるのかと騎士数名を相手に言い争い一歩手前の会話をしているところだった。双方最低限の礼儀は守っているが、徐々に高くなる声に使用人も何人かが様子を伺っている。
 この間に城壁を乗り越えた五人は、人目につかないところを駆け抜けて塔に近付いた。さすがにこのまま遺跡には入れないので、もとより入り口の有無を確認したら撤退予定だったが‥‥
「デビルですっ」
「侵入者が、何を言うか」
 塔まで至り、その扉を前にしたところで、シャルロッテが声を上げた。まだ、彼女が手にしたヘキサグラム・タリスマンの結界は張られている。しかし。
 だらりと下げられた腕にはレイピア、天使のような翼の持つ身体の上に乗っているのは梟の頭。黒い大きな狼にまたがった姿は、明らかに通常の生物ではありえない。
 凶悪な気配を放つモノに対し、それでも風露と割波戸が抜剣すると、くぐもった笑い声が漏れた。それが途切れたのは、塔の扉が押し開けられたからだ。
「何奴っ」
 たった一言の後、すいと近付いたデビルのレイピアに串刺しにされた騎士の紋章は黒山羊だった。その奥、階段の下にはめられていた石畳が持ち上がって、黒々とした穴を開けているのが見える。
「わざわざこやつらの探し物を曝しおって。‥‥いや、これでまた、この地に争いが満ちるか?」
 現れたとき同様に、ふいと姿を消したデビルの存在が消えた後も、五人が塔に入ることは叶わなかった。城の方向から、誰何の声が届いたからだ。ここで見付かれば、間違いなく騎士の死体を作り出したことにされてしまう。
「あれは‥‥デビルでも高位、いえ悪辣で不和を好むと言われる神に叛いた罪深き輩」
 明確な名前はとっさに出てこなくとも、自分達が見たものと、シャルロッテの知識とを合わせた成果を持ち帰らねばならないと、五人は来た道をまた走った。
 ちょうど、サーラの魔法の効果で呼び寄せられた雨雲が、大粒の雫を落とし始めている。

 この頃。
「教会の使者殿に、何をするのっ」
「そもそもこの街は、聖なる母の御許にあるっ。どうしてもというなら、白の教会の方々にも同席してもらわねば納得出来ぬ!」
「では、そのように致しましょう。パリの大聖堂からどなたかお越し願うのがよろしいでしょうか」
「伯爵殿が相手ならば、やはり大聖堂の方々が適当だろう。私も心当たりがあるが、そちらも懇意の方がいればお越しいただくといい。今度は先触れを出そう」
 計算高く、あれこれと難癖をつけていたフランシアを、激昂した騎士の一人が転ばせかねない勢いで突いた。支えた星花が先に食って掛かり、フランシアとロイドが畳み掛けて退去の理由を作る。
 もとより、ここで街を出るための理由を作ることが目的だった言い争いだが、そのまま本当に放り出されるような勢いで追い返された理由を他の五人から聞いた彼女達は、翌早朝にマントの街を出た。

 パリ近郊での一連の騒動と、カルロス行方不明の報を耳にしたのは、急ぎに急いだ帰り道のことだ。