●リプレイ本文
●お茶会の前日
藍星花(ea4071)はサラフィル・ローズィット(ea3776)と一緒に、パリの郊外で香草を摘んでいた。一部は土ごと掘り出して、アデラの庭に植え替える予定。
同じ頃、キャシー・バーンスレイ(ea6648)は、パリの市場で買い物に勤しんでいる。
サテラ・バッハ(ea3826)はお茶に最適な香草リストを、羊皮紙は高いから布に書いた。
ガイアス・タンベル(ea7780)は持っていくハンカチと袋を用意している。
ユーディクス・ディエクエス(ea4822)はお茶会用の焼き菓子と干し果物の入手の際に、顔を合わせた友人から前の依頼のことを言われ、気持ちを暗く沈めていた。弟に心配されても、そう簡単に浮上はしない。
でも、そんなことは知らないマート・セレスティア(ea3852)とミーファ・リリム(ea1860)は、それぞれ馴染みの食堂で散財していた。明日は食費が要らないからだ。
●そして、お茶会当日
お茶会主催者アデラが言うところの『アレ』こと蛇は、卵を丸呑みしてとぐろを巻いていたところを、マーちゃんに捕らえられていた。ガイアスが捜してきたひびの入った壷に入れて、星花が捨てに行く。と、誰もが思っていた。
「つまんないやあ、つついて遊ぶと面白いのに」
放っておけばいつまででも蛇をいじって遊んでいただろうマーちゃんだが、サラに『お茶会が始まりません』と言われてしぶしぶ手を離している。ユーディクスは自分が馬で捨てに行こうと思ったのに、出番がなくて困っているようだ。
この間に、蛇がいる間は敷地に入らないと言い張っていたアデラをミーちゃんが迎えに行き、すでに台所で色々しているサテラやキャシーと合流した。キャシーはユーディクスの持ってきた干し果物を刻んで、なにやらお菓子を作るらしい。
ここまでは、大変に素晴らしい進行状況だったのだが‥‥
「おたくもさ、いい加減に駄目なものは覚えていいはずだよ」
「アデラ様、これはいけませんわ。これは」
サテラとサラのエルフ娘二人組が茶器の横に積んである種類雑多な草の中から選り分けたのは、どうやら『とてもいけないもの』らしい。ぽかんとしているアデラに対して、横から覗いたミーちゃんがボソッと言う。
「あれ、毒なのらよ〜」
「まあ、花はあんなに綺麗なのに」
サテラが差し出した『香草リスト』に、サラの注意が延々と続く‥‥ある意味、お茶会ではいつもの光景が繰り広げられている。キャシーはあまりの勢いにちょっとびっくりしていたが、ミーちゃんが『お菓子』と連呼するので作業に戻っていた。
その頃、ガイアスとユーディクスはサラの土産の香草を、庭の畑のどこに植えたらいいものか悩んでいた。なにしろナイトと神聖騎士、畑仕事の知識はまったくないのだが、そちらの専門家はアデラの教育にかかりきりなのである。
「とりあえずは、水でも掛けておきましょうか」
「そうだな。水汲みはこの桶でよさそうだ」
結局、二人は更に預かった香草以外にも、畑全体に水遣りなど始めてしまっている。その横で、せっかくのおもちゃを取り上げられたマーちゃんは林檎の横のさくらんぼの木を眺めていた。いつ頃が食べごろか考えているのだろう。
なぜか卵を片手に持った星花が帰ってきたのは、このときのことだ。彼女はそのまま台所に行って、なにやら料理を始めたらしい。
今回、初めてアデラのお茶会に参加したのはユーディクスだけだった。よってアデラのお茶を知らないのも彼だけ。そんな彼に、サラが『お作法』を教えてくれた。
アデラの淹れたお茶を、『せーの』で一斉に口をつけるというのは、もちろんこのお茶会でのみ有効な作法であるが‥‥二度目以上で、それを素直に守るのはガイアスのような素直な性格か職業意識の持ち合わせがある者だけだ。
「また、雑草で淹れて」
「に、苦い‥‥」
舐める程度に味見をしたキャシーの横で、サテラが口もつけずにため息を吐いた。アデラはげほげほと咳をしているから答えない。自分で入れた雑草茶が、よほど口に合わなかったのだろうか。
そして。
「なにするのら〜っ」
「ここからここまではおいらのっ」
もはや基本の作法も何もなく、テーブルに座り込んだミーちゃんと、複数の皿を勝手に手前に引き寄せているマーちゃんの二人が、戦っていた。この二人の場合、もちろん争いのネタはどちらがより多く料理やお菓子を取るかだ。揃って相手を最大のライバルとみなして、『まけるものか』と思っていた。
マーちゃんもミーちゃんも、食べるのに忙しいからそんなことは口には出さないが。でも顔付きを見ればバレバレである。
「そんなに抱え込まなくても、たくさんありますから慌てないで。ほら、これはまだ食べていないでしょう」
ガイアスは、『自分の分を取ったら、お菓子の皿は他の人の手の届くところにおきましょう』と言いたかった。が、彼の同族とシフールの食いしん坊たちは差し出された皿を奪うと、互いの間の、より自分に近いところに置こうと引っ張り合っている。
お茶会の優雅な印象をぶち壊しにする光景に、ガイアスがどう思ったのかは分からない。呆然としていたのは確かだが。
と。
「その料理を寄越してくれないなら、後で作るとっておきの揚げ物は渡さないわよ」
星花がにっこりと一つの皿を指して、マーちゃんに寄越せと言った。マーちゃんは恨めしそうだったが、一応自分の分を『どっさり』取り分けてから回してくれる。『とっておきの揚げ物』にちょっと心が揺れたものらしい。
そして星花は『これ、見たことないのよね』と言いながら、卵料理に舌鼓を打ち始めた。ガイアスとは同じ二回目の参加だが、料理に対する探究心が違うものらしい。
更に。
「あ、その葉と右から四番目と、そっちの白いのとで淹れてもらおうか」
実力行使でミーちゃんから料理を何品か奪い返し、サテラが次のお茶の茶葉を指定して、自分の席に戻った。キャシーも最初のお茶を飲むことは諦めて、器の中身を下の地面に零している。屋外のお茶会は、こういうときに便利だった。
でも、ユーディクスだけは、何のためらいもなくお茶を飲み干して、お代わりまで飲んだ後だったりする。サラがしみじみと様子を伺っているが、心ここにあらずだ。
「どんなお味でした?」
「えっ? ‥‥あぁ、おいしかった‥‥」
「アデラ姉ちゃん、このお茶、めちゃくちゃ苦いよっ」
「この炒め物は、ミーちゃんのものなのら〜」
ユーディクスの、誰もが『嘘だろ』と思うような返答に被せて、マーちゃんが文句を垂れた。その隙にミーちゃんは鶏肉の炒め物の皿を、必死に引き寄せている。手にしたフォークは、もうこれ以上は何も突き通せないというところまで、みっしりと野菜と肉が刺してあった。まあ、マーちゃんも同じだが。
ちなみにマーちゃんは、自分のフォーク持参でお茶会にやってきている。
ようやくユーディクスが自分の前にあったはずのパンから料理から消えているのに気付いた頃、アデラはサテラの要望通りの香草を大量に茶器にぶち込んで、お湯を注ごうとしているところだった。もちろんサラに叱られて、適切な分量についての講義を受けている。
そして、サテラは悠然と料理を摘み、キャシーはそのご相伴に預かっていた。
まあ、いつも通りのお茶会なのである。料理やお菓子はいい、今回は大分散り始めたが林檎の花も咲いていて眺めもよい。でもお茶の味が今ひとつ、二つ、三つ‥‥
相変わらずぼうっとお茶を飲んだり、時々ふと我に返って咳き込んでみたりしながらユーディクスがお茶を飲み、キャシーが焼いたパン菓子を食べて遠い目をしていた。それをサテラが徹底的に落ち込ませてやれというもので、誰も表立っては構わなかったのだ。
もちろん例の二人は、互いに難敵との争いに熱中していたから、他人のことはどうでもいい。知ったこっちゃない。目の前の料理が取られそうなときだけ、食べるのとは違う動きをしていた。
そうしてキャシーとガイアスとサラは、林檎の花を眺めながら、明日は摘み取りの手伝いにこようかなどと語り合っていた。アデラはとっても大喜びだ。
そこに、星花が持ってきたのである。『とっておきの揚げ物』を。ジュウジュウ音がしそうな揚げ立てで。
「おや。なんかすごいのが出てきたな」
まず、最初に目に留めたサテラが、苦笑した。星花は『有益に使ってみたのよ』となんだか嬉しそうである。
卓の上に出されたのは、青に綺麗と言えば綺麗な模様が入った薄い『何か』を揚げたものであった。油をたくさん使って、贅沢な一品である。
「なんなのら〜?」
新しい料理に食通らしく早速興味を示したミーちゃんが、その揚げ物をフォークで突き刺して持ち上げた。どう見ても、それは青地に模様が入った『何か』である。
この隙に、マーちゃんはまだたくさんある焼き菓子を自分の持ってきた袋に入れている。ガイアスが慌てて止めているのは、彼だって持って帰りたいからかもしれなかった。パラが二人、食べ物の取り合いをしている光景は、見る者によっては和む光景だ。現にアデラは、
「まあ、仲良しさんですのね」
とにこにこしている。よく見ると、運悪くマーちゃんの腕が鼻に当たったガイアスが鼻血を噴いていたりするのだが。
ところで、問題の揚げ物はユーディクスに程近いところに置かれていたから、もちろん彼も見た。そして思った。思ったついでに口から出そうになった。
「それは、さっきのへ」
ここで、先程から目をまん丸にして揚げ物を見ていたキャシーが、ユーディクスの口を塞いだ。手元から離さなかった聖書で殴りかからんばかりの勢いだったから、ユーディクスも椅子から立ち上がりかけている。
お茶会の前、アデラがその名前すら聞くことを拒否して『アレ』と言い続けたものが料理になっているなんて、口が裂けても言うわけにはいかないのである。なにしろユーディクスは神聖騎士で、キャシーはクレリックだ。人の心の平穏を守るのは大事。
アデラの隣に座っているサラも気付いたようで、今度はこちらの目がまん丸になっていた。星花はそんなサラに向かって、微笑んでこう言う。
「無益な殺生はいけないと言うから、きちんと全部使ってみたの。おいしい?」
「歯ごたえが最高だねっ」
いつの間にか、しっかり味見しているマーちゃんが返事をしている。ミーちゃんは咀嚼中で、サテラも『火は通っている』と奇妙な納得をして一口齧っていた。
ガイアスとユーディクスとキャシーは、笑顔で勧められてもちょっと迷っていた。しかし。
「そうですわ、アデラ様。せっかくですから林檎の花を少し摘んで、お茶になるか試してみましょう。でも道端の雑草はいけませんのよ。体に悪いものを間違って摘んでしまったらと思うと、わたくし心配で心配で」
ものすごい勢いで、サラがアデラを林檎の木の下に引きずっていったのを見て、分かるものは分かった。この間にこの料理を何とかしたほうがいいということに。
マーちゃんとミーちゃんと星花は平気で食べる。サテラとキャシーは味見程度に食べる。ガイアスとユーディクスは、仕方がないので懸命に食べた。それでも結構あったので、しまいにはマーちゃんの『お持ち帰り袋』に押し込んだ。
そう。蛇の皮の揚げ物を。
「あんな簡単に捕まえられたから、今日のお茶会は平穏だと思ったんですが」
「いつもこういうものを食べているわけではないのか」
「たまに食べるとおいしいねっ。あ、これも持って帰るから!」
「塩味が絶妙なのら〜、でも盛り付けがちょっと寂しいのらよ〜」
「あと、あの肉団子と肉の香草巻きも材料は一緒なのよ。いい香草がもらえたから」
「肉の臭い消しはあの組み合わせが一番だからな。今度は鶏で作ってくれ」
「‥‥食べてしまいました」
感想は皆それぞれだった。
そしてなにより、アデラがいない間にサテラが入れてくれたお茶は、素晴らしくおいしかった。同じ香草とは思えないほどである。
その後、しこたま摘んだ林檎の花でアデラが淹れたお茶は、茶器を使ったはずなのに、器に花がみっちりと浮いている飲みにくいものだった。香りは悪くなかったが。
「もっと修行しろ」
サテラが以前も言ったかもしれないことを、また言っている。
やがて、何も知らないアデラがご機嫌で残った料理と菓子を皆に分けてくれて、お茶会は平和に終わったのである。表向きは。
●お茶会翌日
この日、別に頼まれたわけではないが、キャシーとサラはアデラの家で林檎の花摘みをしていた。こうして間引いて、いい実がなるようにするのだ。
しかもよく見ると、アデラの家には他にも実のなる草木が多い。さくらんぼも大きな枝を広げている。
「ベリー摘みも出来て、素敵なお庭だと思います」
心ひそかに、『今度はあれでお菓子』と思ったキャシーが言うのに、サラも同意する。ただ彼女はもうちょっと大胆だ。
「ベリー摘みでしたら、お弁当を持って、少し遠くに行ってみたいですわね。避暑で旅行なんていうのも素敵ですわ」
「ベリーって小さいし、さくらんぼははしごをかけなきゃいけないし、結構大変なんですの。お願いしたら、誰か来てくださいますかしら」
自分が来るという二人を前に、アデラは次のお茶会のことを考えているらしい。
けれどもその頃。
ユーディクスは朝も早くから腹を下し、単なるお茶の飲みすぎか、それともあの料理の所為かと悩んでいた。
ガイアスは胸焼けがひどく、以下同文。林檎の花の摘み取りに行けなくて、それも気になるからだんだんおなかも痛くなってきた。
しかし、マーちゃんと女性陣の全員がなんともなかったので、真相は闇の中なのである。