結婚式を盛り上げて

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:05月22日〜05月28日

リプレイ公開日:2005年05月30日

●オープニング

 その日、冒険者ギルドの係員は、『久し振りのこの台詞を聞いたな』と思った。
「そっかー、お金がいるのかー。考えてみればそうだよなぁ、お金稼がなきゃ生活できないもんなぁ」
 目の前の客人、ちょっと羽振りのよい農夫が何かの用でドレスタットまでやってきた、そんな感じの男はいかにも純朴そうでついでにのんびりした風だ。それにしたって冒険者が食事支給だけで来てくれると考えたのは、ちょっと世間を知らなさ過ぎる。
 そんなことを心配した係員だが、男の一言で納得した。
「でも司祭様、毎年食費だけで呼んでるって言ってたけどなぁ」
「メドック司祭のとこのお人か。あれは希望する冒険者の奉仕活動だ、相手は教会だからな」
 教会からだって依頼料は取ることが多いが、男の住む街の司祭は『毎年必ず、複数の冒険者に奉仕活動を願う(と書いて、気のいい奴をタダで連れて行くと読む)』ことでギルド係員の何人かとは顔見知りだ。古株いわく『喰えないエルフ』である。
 ちなみに男の用件は、今度行われる領主の結婚式を盛り上げてくれる芸人や吟遊詩人を派遣してほしいと言うものだった。これまた冒険者ギルドの仕事とは、微妙に違う。芸人も吟遊詩人もギルドがあるし、領主の婚礼ともなればそちらに頼むのが筋なのだが‥‥
「いやぁ、毎年来る冒険者さんたちは楽しい人が多いから、来てくれたらいいって皆で言っててね。それにご領主は再婚だからって、あんまり派手にやる気がないんだよ」
 まあ世間が何かときな臭いこともあるし、今月末頃は近隣の貴族が顔を揃えて親交を深めると銘打って、小規模ながら祭りもある。そちらで改めて披露の席を設けるとしたら、地元で華やかに一席設けるほどの余裕はないのかもしれなかった。
 ただし、領民である男の意見はこうだ。
「うちのご領主は照れ屋でね、色々理由を言っては派手にならないようにしてるらしいよ。色々お振る舞いはしてくれることになってるけど、お祝いごとは派手でなきゃぁ」
 そんなわけで、芸人や吟遊詩人を求めて冒険者ギルドにやってきたわけだ。ただ男の持ち金は今回の所用に用立てるためのもので、依頼料を払う余裕はない。ついでに報酬を支払うことなど考えていなかったから、すぐに準備できる金銭の余裕もなかった。
 あんまり困った顔をする男が可哀想だったので、係員は『お祝い事なら、黙っていても聞きつけて駆けつけるのがいますよ』と言った。男も納得して、一度は帰ったのだが‥‥

 しばらくして。
『ご領主しゃまなごんれえを盛り上げてるひゃとぼしゅー』
 羊皮紙に誤字脱字満載で募集要項を書き付けて、掲示板に張ってくれと再登場したのである。
 そのあまりにもあまりな出来栄えに、係員達は書き直した募集要項を『お知らせ』として掲示板の一番隅っこに貼り付けることにした。
 仲介手数料も、もしかすると破格のお値段だったのかもしれない。

●今回の参加者

 ea0459 ニューラ・ナハトファルター(25歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea3892 和紗 彼方(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6000 勝呂 花篝(26歳・♀・浪人・パラ・ジャパン)
 ea7586 マギウス・ジル・マルシェ(63歳・♂・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea7983 ワルキュリア・ブルークリスタル(33歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea8875 劉 水(31歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb0159 チェリー・インスパイア(17歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

大曽根 萌葱(ea5077)/ マグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)/ 神楽 香(ea8104)/ ユノ・ユリシアス(ea9935)/ 野乃宮 美凪(eb1859

●リプレイ本文

 件の街へ向かう馬車は二台。シフール二人とパラ一人がいても、一台に乗り切るのはなかなかきついのでありがたい話である。どう見ても、乗り心地を追求した様子はない、普通の荷馬車だし。
 冒険者八人に、御者を兼ねた商人が二人、それから街の助祭が二台の馬車に分乗して、一路目的地を目指し始めた、その最中から、色々なことは起きている。
「占いは幸先いいんだから、気分よく行こうね」
「そうですね〜。ジャパンの方が一緒で心強いです〜」
 なぜだか砂埃まみれの和紗彼方(ea3892)が自分に言い聞かせるように口を開いたのに、勝呂花篝(ea6000)がからからと笑いながら頷いた。どちらも着物姿で、結婚式の引き立て役らしく華やかだ。髪型はどうしようかと、時々ジャパン語の単語を取り混ぜて相談も始めていた。
 その二人の横で、あまり邪魔にならないように片膝を立てて座りながら、マスク・ド・フンドーシ(eb1259)は助祭のアンリエットと挨拶を交わしていた。人間だがパラの花篝そう変わらない小柄なアンリエットと、ジャイアントのマスクとでは、座っていても大変な身長差だが会話はそれなりに続いている。
「ご領主の婚礼となれば、祝いの品はつきもの。しかし旅先でこれという品が思いつかないので、代わって教会に寄付をと考えたのであるが」
「まあ、どうしましょう。イギリスのお話だけで、皆は喜びますから」
「ふむ。しかし故国に戻った際に、ご領主殿のお許しを得て、教会に寄進が出来たとなれば、我輩にとっても名誉なのだ。司祭殿にお願いしてもよいかな」
 そんなちょっとだけ強引な会話が届いていないもう一台の馬車の中では、半数くらいがいささか暗い表情でなにやら話し込んでいた。劉水(ea8875)とチェリー・インスパイア(eb0159)は勢いに呑まれて、なんとなく黙っている。
 と、シフールのニューラ・ナハトファルター(ea0459)が、力の入った一言を口にした。
「結婚式は一生に一度のことなのですっ」
 途端に、何か喉に詰まったような表情になる同族のマギウス・ジル・マルシェ(ea7586)とエルフのワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)。劉もチェリーも怪訝そうにしているし、御者台にいる今回の依頼人であるところの商人にも聞こえたものと見えて、大口を開けて笑い出した。
「お祝い事も、どういうものかの確認は大事なのね」
「このたびの婚礼は、お二人とも再婚でいらっしゃいますよ。前のお連れ合い様は、もう亡くなっておいでで」
 マギウスとワルキュリアに聞かされて、ニューラの目はまん丸になった。なんとなくチェリーが手を差し出して、落ちてきたら受け止めてあげる体勢だ。なんとかニューラも宙で踏みとどまったが。
「失礼がないように、ご存知のことをお聞かせいただけますか?」
 苦笑した劉の助け舟で、この馬車では唯一目的地に出向いたことがあるワルキュリアが、話し出した。
 確かに、失礼だけはあってはならない。お祝い事が台無しになるからだ。

 再婚だろうが、領主の結婚式を控えた街は、かなり浮かれていた。夜中に到着した一行が、明け方以前に人々の声で目が覚めたくらいである。
 そして、泊めてもらった商人の家からワルキュリアが出た途端に、子供達がわっと集まってきた。日頃家の手伝いをしているはずだが、教会の掃除と飾り付けに駆り出されたものらしい。それが外をうろうろしている時点で、進行具合が怪しい‥‥結婚式は明日のはずだ。
「だって、飾りつけってどうするのか、分からないんだもーん」
 大人が何人もいるが、いまいち意見まとまらないらしい。そうと知ったら、作法教師のワルキュリアは黙ってはいられない。子供達に他の仲間の案内を割り振ると、速やかに教会に向かっていった。
「結婚式は明日の朝からね、午後に振舞い酒が出てからが稼ぎ時なのね。劉さん、あなたは私と一緒に明日の宴会の場所の確認ね。女の子達は今日のうちに花を摘んできたらよろしい。桶を借りてから行くのね」
 シフール百十七歳に『女の子』とくくられた四人は、街の子供と連れ立って出掛けていった。マギウスから見れば、二十一の彼方も十分女の子である。
「うむ。我輩はこちらの主に手伝いを頼まれたので、皆、行ってくるが良いのだ」
「それでは、こちらはお願いします。人手がいるようでしたら戻ってきますから」
 マスクに送り出される格好になった一同だが、劉以外はなにやら思うところがあるらしい。簡潔に『あられもない姿になったら、ただじゃおかない』的な思考だったり、もっと単純に『綺麗じゃないのは嫌だなあ』という感想なのだが‥‥気持ちというものは、なかなか伝わらない。
「我輩の礼服姿に見惚れておったから、今日は目も合わせてくれんらしい」
 いつもの簡略化しすぎ、更に季節と場をほぼ問わない姿が警戒されているとは、全然思っていないマスクだった。ただし今回は、礼装で現れ、今は上着を脱いだ姿でワイン樽の移動を手伝っている。たまに子供達に腕の筋肉を見せつけているのは‥‥大変に、喜ばれているようだ。
 とにかく、教会前の広場に設えられる振舞い酒や料理の置き場、ついでに簡易の舞台などは、ワルキュリアの指示でてきぱきと飾り付けられていった。午後からは、彼方と花篝、チェリーがしこたま抱えてきた花や葉を輪に編み、ニューラが人間用の大きさの花束を苦労しながら作って、それぞれに水を張った桶に入れておく。マギウスと劉は、簡易舞台の上で踊っても心配がいないかどうか、組み上げた大工と確かめていた。ちょっと狭いので、暗くなってから舞台上で火を焚くと危ないということになり、マギウスが劉ににっこりと笑いかけた。
「次々作れば、問題ないのね」
 魔法が使える者には、どういう魔法か念入りに確認していたマギウスの目的に、ようやく気付いた劉だった。よもやホーリーライトをここで使うとは思わなかったが、今回はマギウスの芸人魂を敬して、お役に立つことにした。
 もちろん、ライトの魔法が使えるニューラも、にこやかに『お願い』されて、『はーい』といいお返事だ。
 そんなこんなで、領主当人の気分はどうあれ、賑やかに祝いの席は整えられていったのであった。

 翌日。結婚式は粛々と行われた。街の住人の大半は教会の周囲で中に入るところの領主と花嫁をちらりと見たきりだ。それだってよほど運がよくないと見られず、噂話に花を咲かせている。
 そんな中、チェリーはすっかり沈んでいた。花嫁の後ろにつく役をしたかったのに、それは親族の女の子がやるからと教会にも入れなかったのだ。今回は領主と花嫁の親族と、町の有力者のみしか式に臨席していないので、別に彼女が差別されたわけでもなんでもないのだが。
 代わりのように、マギウスが彼女にも『お願い』をしている。
 そうして、式が終わって領主夫婦が教会から出てきたところに、チェリーと花篝を先頭にした子供達が花束を持って近付いた。失礼にならず、咄嗟に引き止められない距離で花束を差し出す。もちろん受け取るのは領主でも花嫁でもないが、特に問題ないと警備の人々が確認したものから二人の元に届けられた。
 この近付き加減は、ワルキュリアの指導の賜物である。更に領主夫妻が乗るはずの馬車までの通路は、彼方と劉が色とりどりの布を張り巡らせて封鎖している。こちらもワルキュリアが、警備に掛け合ってくれたおかげ。
 と、そこに。
「ないですっ、私のティアラがありません! このままでは結婚式が出来ません〜」
 右に左にせわしく飛びながら、ニューラがいかにも芝居がかった口調で叫びだした。礼服の上に大きなリボンを巻いて、髪にはスミレの花を挿している。後ろでやはりうろうろ上がったり下がったりと飛んでいるのは、新郎風に装ったマギウスだ。こちらの芝居がかりっぷりは、鼻の下にくるんと描かれた髭にある。
「困ったのね、このくらいの小さいティアラなのね。あれ、このくらいだったかな?」
 こちらは次々に色紐で作った様々な大きさの輪を手の中から取り出して見せ、しまいにはそれを全部繋いだりしていた。更に、それが大きな一つの輪になったところで‥‥
「「「「「こっちにはありませんー」」」」」
 劉、彼方、花篝、チェリー、ワルキュリアの五人が、広場のそこここから声を上げた。領主夫妻が案内された舞台正面の貴賓席から、舞台までに設えられた、振舞い酒と料理を楽しむためのスペースのどこかにあるという趣向だ。何事かと眺めていた人々も合点がいったようで、テーブルの下を覗き込んだり、中には舞台の下に潜り込んだり、マスクに頼んでワイン樽を持ち上げてもらって地面を捜している子供の一団もいる。貴賓席でも、領主の子息が三人でせっせと椅子をひっくり返して捜してくれたが、ちっとも見付からない。
「ねえねえ、先生。魔法で捜してよ」
 どこかの少年が、ワルキュリアにそう言ったのは、ひとしきり捜した後のこと。待ってましたとばかりに手を打ったのはマギウスだ。
「ああ、私はそういえばいい魔法が使えるのね。でも困った、あの魔法は金の指輪がないと使えないのね」
 途端に、貴賓席のあたりで何人かが吹き出した。どうやら陽魔法のサンワードについて、多少の知識があるものらしい。金であればなんでもいいのに、指輪と限定したのはマギウスの即興だ。
「金の指輪だな? では、貸してあげよう」
 太っ腹な言葉に拍手が上がったのは、それを口にしたのが領主だったからだ。マギウスが失礼にならない高さを保って近付いて、矢継ぎ早に祝いの言葉を述べるものだから、領主の表情は『もう勘弁してくれ』といった感じに真っ赤だ。街の人々と花嫁は、忍び笑いを漏らしている。
 やがて、ようやくといったのんびり速度で領主の前まで辿り着いたマギウスが、ぐりっと、首を回して真横を向いた。さすがにこれには、皆驚く。
「花嫁違いなのね〜」
「あら、これは水晶ですもの。金の指輪でないと駄目なんでしょう?」
「‥‥あちらの花嫁が待っているのだから、渡してあげなさい」
 花嫁がわざと掲げて見せた花束に、小さな水晶のティアラがリボンで留めてある。花嫁がこういう反応を返してくれると思わず、マギウスもしばし考えたのだが‥‥自分の胸に飾っていたスミレと交換にして、渡してもらった。
 この時、歓声や拍手と一緒に、
「花婿はどこだっ」
 と誰かが声を掛けたのは、マギウスとニューラが親子ほどに歳が離れた花婿花嫁役だったからだろう。とりあえず、二人でぐるぐると広場を飛び回って、最後に本物の花嫁花婿に住民から預けられた花輪を渡し、被ってもらって、まずは大団円である。
 ここからは、無礼講なのだ。

 今回の依頼は、領主の結婚式を派手に賑やかに盛り上げて、だ。
 マギウスとニューラの寸劇の後、ワルキュリアが短いが気の聞いた挨拶をして、子供達が練習した賛美歌の始まりに華を添えた。この中に、ちゃっかりチェリーも混じっている。
 その間に祝い酒はものすごい勢いで振舞われていく。一箇所に積んであったワインの樽を、マスクが適宜担いで動かすので、人々の手に回るのも早かったようだ。たまに、まとわりついてきた子供を二人、三人とまとめて担いでいたりもしたが。おかげで男の子達に大人気だ。一部、はらはらしながら見ている者もいるけれど。
 やがて、一通り祝いの杯が巡ったところで、花篝がちょこんと舞台上に立った。朗々と詠いあげたのは祝詞だが、ジャパン語が分かるものは少ないし、そのジャパン語でも通常とは韻が違うので珍しい歌として聞かれたようだ。他の宗教の言葉を使ったと知れたら、なかなか大変なところだったが。
 その後の舞は、まさに異国情緒たっぷり。見ている中には、花篝がパラだと気付いていない者も多く、『子供なのに上手』とやんやの大喝采を浴びた。ドレスタットから二日の距離とはいえ、滅多に異国の芸事など見られるものではない。
 続いて、彼方が突然の大変身、振袖姿で現れたときには呆けたように舞台を見上げる者多数。ちょうど言い開き具合の木の花が見付からず、形のよい枝に摘んだ花を彩りよく飾ったものを掲げての舞は、動きにつれて花が舞い散るのが花篝の舞とは違う華やかさだ。
 しかも、扮装を解いたニューラとマギウス、ワルキュリアやチェリーが同様の花吹雪を撒いて、見る側の杯に花びらが舞いおりたりする。中には、杯を取り落としている若者もちらほら。
 あまりに皆が見惚れてしまったので、しばらくは余興の類は取りやめて、振る舞いの料理と菓子が配られた。裏方で、彼方が『お菓子〜』と声なき叫びを上げながら、振り袖を脱ぎ捨てていたことは知らぬが花だろう。
 この後、領主夫妻や家族が皆に挨拶してから退席し、無礼講はどんどんと度合いを増していく。それでも飲食が満ち足りると、また何か珍しいものが見たいとあけすけに催促する者がいたりして、今度は劉が舞台に上がった。先の二人に比べると恥ずかしいなどというが、華国の舞はまた違った風情で楽しめるものである。それに男性で僧兵の劉の舞は、先の二人に比べて力強く、勇壮だ。
 ただ、ジャパンも華国も話にしか知らない人々が、その違いをどこまで感じ取ったかは分からない。それでも、舞い終えた劉に対する拍手は惜しみなかったし、また彼が急造の寄り合い楽隊に曲を促して、皆にも踊ろうと示したときには次々と立ち上がる人が出た。それぞれに同年代とお菓子を食べていたチェリーも花篝も彼方もニューラも、卓の間を回っていたワルキュリアとマギウスも手近な人に手を引かれて、卓や椅子を動かして出来た空間に連れ出された。劉はすでに慣れない踊りに悪戦苦闘しながら、体を動かしている。
 そのまま日が暮れていくかと思いきや、各所に用意された明かりや篝火に火を入れてから、マスクがアンリエットを伴って踊りの輪に加わってきた。アンリエットは踊っているというより、明らかに右往左往しているのだが、マスクが上手にリードしている。ただし身長差は実に一メートル。まるで大人が子供に歩き方を教えているような光景だ。
 その後は、ニューラのライトと劉のホーリーライトを見て盛り上がった人々が、延々と歌い踊り、飲み食いしていたのである。もちろん、盛り上げ役を買って出た冒険者が先に休むなんて許されない。
 賑やかな祝いの席は翌朝どころか、次の日の夕暮れまで楽しく続いたのである。
「お祝いというのは、皆が楽しく過ごせるように気を配るのが大変で、腕の見せ所なのね」
「本当に。でも滞りなく終えられてなによりです」
 延々と周囲に気を配り、演目に采配を振るい、場の様子を確認し続けたマギウスとワルキュリアが、『片付けは明日』と寝台に向かったのは、誰よりも遅い、皆が満足した後だった。