素敵?なお茶会への招待〜摘んでください〜

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:07月02日〜07月05日

リプレイ公開日:2005年07月11日

●オープニング

 パリの冒険者ギルドには、だいたい毎月お茶会開催の参加者募集にやってくるウィザードがいる。種族は人間、お歳は多分二十一、性別は女性、名前はアデラ。特技は変なお茶の調合。趣味はそれを他人に飲ませること。そして腹痛患者多数を出した経歴あり。
 このアデラが、今月もギルドへやってきた。いつもはたいてい何かに浮かれているような女性だが、なぜだか今回は趣が違う。見るからに疲れている様子だが‥‥
「どうしました。なんだか大荷物だし。うちは基本的に現金取引ですからね」
「ええ、仲介手数料はこちらに持ってきましたの。これはお土産ですわ。お嬢様たちにどうぞ」
 疲れている原因だろうモノは、一抱えもある籠だった。中にはさくらんぼと木いちごがどっさり入っている。仕切りに使われているのは香草のようだ。
「たくさんありますねぇ。どうしたんです? お茶じゃなくて、果汁が絞れますよ」
 ギルドの係員に言われて、アデラはほうっとため息をついた。続いた言葉が。
「そうなんですの。そのまま食べたり、絞ったり、干したり、蜂蜜漬けにしたりしてみましたけど、まだあるんですのよね‥‥もう、見るのも嫌な感じですわ。木いちごはとげがありますし」
「もしや今回は、お茶会ではない?」
「まさか! もう、お茶会をしないと気が晴れませんわ!」
 いきなり勢いづいたアデラが語ったところによると。

 アデラの家の庭には、さくらんぼと木いちごの樹がある。他にも林檎などあるが、今実がなっているのはこの二つだ。日当たりのせいか、それとも土の具合か、他所より何日か遅れ気味なのは毎年のことだそうだ。
 それならそれで、他所で出回らなくなった時期に食べられていいかと言えば、そんなことはない。アデラの同居している四人の姪達は『誰よりも早くさくらんぼや木いちごを食べてみたい』と思い立った。そして去年から、それはそれは一生懸命に世話をしたのだ。甘くておいしい実がなるように、人に習って色々と肥料もやってみた。
 結局実のなる頃合に変化はなかったが‥‥なる量には大異変があった。今までになく豊作だったのだ。食べきれないくらい。
「でもさくらんぼの樹にははしごをかけなきゃいけなくて、木いちごはとげがある枝を避けながらの収穫で、それはもう大変なんです。お茶と料理とお菓子を用意しておきますから、ぜひとも! 収穫して、ついでに食べてくれる人を集めてくださいな! ええ、お茶は皆様に教えていただいたことを思い出して、一生懸命合わせておきますわ!」
 来たときとは別人のように力強く言い切ると、アデラは仲介手数料をおいて速やかに帰っていった。

 その後のギルドで、さくらんぼと木いちごの争奪戦があったかどうかは、余人の知るところではない。

●今回の参加者

 ea1763 アンジェット・デリカ(70歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea3856 カルゼ・アルジス(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4078 サーラ・カトレア(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea4111 ミルフィーナ・ショコラータ(20歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea4167 リュリュ・アルビレオ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)

●サポート参加者

藍 星花(ea4071)/ 源真 結夏(ea7171)/ 皓月 花影(ea7262)/ 野乃宮 美凪(eb1859

●リプレイ本文

●戦いはすでに始まっていた
 お茶会前日、夜明けとともに起きだして、家事と庭の畑と鶏の世話などを手分けして行っていたアデラとその姪達は、同じ頃合に起きだしてそのままにやってきたような一団に、朝食の席を強襲された。なんと八人もいる。
 朝早くにすみませんと言いつつ、友人も二人も連れてきたサラフィル・ローズィット(ea3776)や、なんにも構わないでという割に畑を興味津々入り込みそうなアンジェット・デリカ(ea1763)、ミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)と、先日はお手伝いが出来なくてと謝るガイアス・タンベル(ea7780)がアデラに会釈している背後で、マート・セレスティア(ea3852)を追いかけているカルゼ・アルジス(ea3856)の姿がある。
「あーもーっ、ここからここまではおいらので、キミはそっから向こうでいいじゃないか」
「ちゃんと皆で明日の準備をするんだろうっ」
 するするとさくらんぼの木に登って、勝手に自分の取り分を主張しているマーちゃんにカルゼでなくても呆れ顔だったが‥‥家の主と姪達は違うことを思ったらしい。
「そんなにおなかがすいているなら、マーちゃんもパン食べます?」
 自分達は明日のお茶会の準備がてら、収穫作業をしに来たのであって、ご馳走してもらいに来たわけではない‥‥と言い返す間もなく、嬉しそうにパンをもらっているパラ二人を前に他の六人は沈黙した。
 結局、彼と彼女達も一緒になって朝食のお裾分けをしてもらい、仕事や勉学に出掛ける家の住人達を見送ることになった。
 そして。
「食べる前に、ちゃんと明日の分を採るですよー!」
「こらっ、マートは何しに来たんだいっ」
 両腕いっぱいに、とはいえシフールなので量は僅かだが、さくらんぼを抱えたミルが、義母だというアンジェットと一緒になってマーちゃんを叱っている。言っても態度は改まらないが、言わずにいると収穫した果実の入った籠の中まで漁るので、時々怒る必要があった。
 同じパラのガイアスは、木いちごの枝のとげ対策に厚手の皮手袋をして、せっせと収穫作業に勤しんでいた。日差し対策の帽子も持ってきていたが、サラが何の準備もしていなかったので貸してあげ、彼女のジャパン人の友人達に教えてもらって布を被っている。
 そんな親切な彼だが、熟れて今にも落ちそうな実は全部自分の口に放り込んでいたりするのは内緒のつもりだ。口の周りが汁で染まっているから、隠しようもないのだが。
 帽子を借りたサラは、収穫はほとんど友人任せにして、持ち込んだ蜂蜜に木いちごやさくらんぼを漬けている。ワインにも漬けている。潰して果汁を絞ったり、やることがたくさんあって大変そうだ。
 そんな彼女が使っている蜂蜜の半分は、『お菓子持って帰りたい』と表情だけで語っているカルゼが買い求めてきたものだった。彼は熱心かつ真剣に、さくらんぼの摘み取りをしている。
 途中から、サラに連れられてきた美凪がスクロールでクーリングの魔法を使い始めたので、やはりサラの友人の結夏に収穫を頼んでカルゼもクーリング使いに変身した。ウィザードたるもの魔法を使っているときが一番楽しい、ではなくて。
「お持ち帰りできるかな〜」
 手伝いに来ただけの美凪と結夏も結構持って帰ったくらいだから、その点に心配はないだろう。
 ずっと食べまくりの一人を除いて、今回の参加者はたいてい『持って帰りたい』仲間だった。

●戦いは加熱する
 そして、お茶会当日。収穫もあるからと早めにやってきたはずのサーラ・カトレア(ea4078)とリュリュ・アルビレオ(ea4167)は目を疑った。お茶会の時間よりうんと早く来たのに、庭ではすでに収穫作業が進んでいたからだ。
 ただ、リュリュのほうが立ち直りは早い。
「すっごぉーいっ。これだけあったら、ワイン漬けにしてぇ、持って帰ってもいいよね」
 ワイン持ってきたと、両手で高々と容器を掲げて見せたリュリュの横で、驚きがさめたサーラもワインの小さな樽を取り出した。どうやら同じことを考えていたらしい。
 ついでにサーラは。
「雨が降ると実が傷みますから、ウェザーコントロールも使っておきました」
 近所に雨を乞う農家があったら怒られそうなことを言ってのけた。リュリュは大感激で、庭に走りこんで自分も収穫を手伝うと宣言している。仕方がないので、彼女が置き去りにしたワインはサーラが全部運び込んだ。
 リュリュほど大感激はしないものの、全員が木いちごとさくらんぼに心奪われていそうな中、アデラは庭の畑で座り込んでいる。お茶にする香草を選んでいるようだが、どうやら本当に見るのも嫌なほど食べたらしい。果物が山盛りになっている台所にも近寄らない。
 アデラがそうして畑で香草とにらめっこをしている頃、台所ではサラとアンジェット、ミルがそれぞれに腕を振るっていた。特にミルは動きが軽快だ。
「こ、これも持って帰りたいですよぅ。でもそうしたら、この先のお茶会で誰かシフールが来たら困っちゃいますねぇ」
 彼女が笑み崩れているのは、冷菓を作るための氷が豊富だからでも、材料が使い放題だからでもない。本当はそれもあるだろうが、なんとシフールサイズの調理道具が完備されていたからだ。ランタン改造の簡易かまど付き。
 なんでもアデラの知り合いがお茶会の噂を聞いて、近所のシフールの家で要らなくなったものをもらってきてくれたらしい。だからどれも古いのだが、とにかく使いやすい。ありがとう、知り合いの人。ミルはそんな気分だろう。
 もちろんシフールの彼女が作るものは、人間の一口サイズだが、下ごしらえだけさせるには惜しい腕だとアンジェットも言うので、好きなものを延々と作ってもらっている。
 代わりにサラがさくらんぼの下ごしらえをしていたが、やってきたサーラがそのくらいなら出来ると言うのでお願いすることにした。木いちご、さくらんぼともに、ワイン漬けは相当な量が出来ることだろう。
 なにしろ、元々アデラが用意していたものの他に、皆が持ち込んだワインが一人一樽分以上ある。小さい樽とはいえ、この集まりはお茶会のはずなのだが。
 サラはパン生地をこねて、かまどに火を入れている。本日は甘いパンがたくさん食べられるようだ。他にも色々出てくるかもしれない。
 そしてアンジェットは手際よく片付けもこなしつつ、鶏肉の焼いたものにかけるソースを作っていた。さっきは果物と固くなったパンに卵と蜂蜜、ミルクを加えて作る菓子を作っていたが、これは味がしみこむのを待つために最初に作ったものらしい。
 お茶会の準備は着々と進んでいたが、台所の四人は気付いていた。ずっと収穫作業をしているはずの残り四人が、一度も台所に採ったものを届けにやってこないことを。
「氷はこっちに持ってきておいてよかったねぇ。外だったら、今頃食べつくされているよ」
「お茶会のお料理を食べる分、おなかがあいているといいんですけど」
 もちろん彼女達の思ったとおりに、庭ではマーちゃん筆頭にガイアス、カルゼ、リュリュの四人が収穫作業という名の強奪戦と、収穫物を井戸水で冷やすつかの間の休戦、そして天日干しと呼ばれるお持ち帰り所有権争いを繰り広げていた。
「ずるぅい! それはあたしのでしょぉ」
「もう食べちゃったから、おいらの」
「年下の女性のものを奪うなんて、恥だと思ってくださいっ。逃げるなーっ」
「‥‥また、上まで登る。落ちても知らないよ」
 賑やかな庭の一角で、額にしわを寄せたアデラが目に付いた香草を全部一掴みずつ籠に押し込み始めている。全部混ぜて、お茶にするつもりのようだ。
 そろそろ、お茶会の始まりである。

●戦いは佳境に入る
 この日のために、マーちゃんは白ヤギ黒ヤギのデザートナイフだけを持参していた。他人に呆れられても、食べるために来ているのだから構わない。
 ぷすっ。
「食前のお祈りはしないのかい、まったく。たくさんあるんだから慌てるんじゃないよ、あんたも」
 アンジェットに怒られて、一瞬お祈りしたマーちゃんは、ナイフに突き刺した鶏肉を口に放り込む。もうちょっとちゃんとお祈りしたガイアスは、自分の皿に山盛りに料理を取った。この二人を見て、パラ全体を判断してはいけないが‥‥少なくともこの二人は似ていたようだ。
 でもその横で、カルゼがうきうきといきなり蜂蜜たっぷりの焼き菓子を確保しているのだから、単に皆似たもの同士なのかもしれなかった。少なくとも、これから出るはずの冷菓に心惹かれない参加者はいないのだから。
 ただ、その前の争奪戦が、お茶会初参加のリュリュが目を零れ落ちんばかりに見開いた程度に激しかっただけで。おもに男性陣の間でだが。
「これは私が作ったものですよ。小さいですけれど、ぜひ食べてくださいね」
 そんなリュリュにミルが自信作の野菜料理や、木いちごを加えて甘くした肉料理などを勧めている。サラとアンジェット、サーラが料理の乗った皿を抱えて死守しているような状態だが、彼女達だって色々食べたいのは同じだから仕方がない。
 だが、料理もお菓子もたくさんあるので、無作法に目を瞑れば何も食べられないなんてことはない。このお茶会の問題は、常にお茶にあるのだ。果物漬けワインはたくさん作ったが、それは今回飲めるものではない。
 そうして今回も、お茶の時間がやってきたのであるが‥‥
「お湯が沸きましたよ」
 サーラがにこにこと茶器を前にしたアデラに伝えたものの、その両脇に立つアンジェットとサラは渋い顔付きで茶葉をえり分けている。今回は雑草は入っていないが、香草がなんだかとんでもないことになっているようだ。
「せっかく蜂蜜漬けのさくらんぼと木いちごを用意しましたから、お茶は厳選しませんと」
「それでなくてもね、アデラ、あんたの茶はみんなの協力があって初めて茶になるんだ」
 ぷうっと膨れた見せたアデラだが、香草から肉の臭み抜きや保存に使うものまで引っ張り出されて、テーブルに指で丸を書き出した。よほどさくらんぼと木いちごが嫌なようで、料理も甘くない味付けのものだけを選んで食べていたくらいだ。今回は機嫌が麗しくないのだろう。
 とはいえ、傍から覗いていたリュリュとミルも『あれにお湯を注がれても飲めない』と思ったので、ここは一つアデラに堪えてもらうしかない。
 この間、今回は果汁があるのをいいことに、男性陣は延々と食べ続けていた。だって、なにもかもおいしいから。食堂や酒場でこんなにふんだんに飲み食いしようと思ったら、結構いい金額がするはずだ。それが今回はただ。しかも珍しい冷菓付き。
「「「あぁ、おいしい」」」
 図らずも三人同時の台詞は、お湯を沸かしている鍋に水を足していたサーラが小さく噴出したくらいに実感がこもっている。
 そして、別の方向では。
「これ、おいしいっていうかぁ、今まで食べたことがない素敵な味〜」
 と感涙に咽びつつ、リュリュがミルとアンジェットが作った鶏に色々な詰め物をして焼いたものに、木いちごソースがかかった料理を独り占めしている。サラがあちらに行っているから空いた椅子に乗せて、完璧に独占体勢だ。サラが帰ってくるまでに食べつくすつもりかもしれないが、さすがにそれは無理だろう。
 でも、独り占め。ミルも褒められて嬉しいようで、やはりアデラがもらっていたシフール用の食器でサラの作った木いちご入りパンとアデラの根菜煮物を食べている。
 そんなことをしている間に、ようやくお茶の準備が整ったようだ。今回は蜂蜜漬け果物入れのお茶もあるので、器は一人二つである。もちろん入れるお茶も二種類。
「淹れるのは、相当上手なんだけどねぇ」
 アンジェットがやれやれといった面持ちで呟いたのは、お茶に詳しい誰もが思うことだ。アデラは『この茶葉の適温はこのくらい』と言えば、ちゃんとそれを守って、きちんとした手順でお茶が淹れられる。単に茶葉を適当に合わせて、適当に淹れて、それがどんなに不味くても反省しないだけで。
 そしてそのアデラの一番の師匠であるサラが、最近『これはこれで一つの味わいですわ』と変な方向に開眼してしまったので、相変わらずとんでもない味のお茶を振舞ったりしているらしい。それでも最初に比べれば、随分とまし。
 特に今回は甘いのと爽やかな味わいの二つが楽しめるので、誰も文句はなかった。
 いや、正確には苦情と要望があったのだが。
「お茶が足りないよ、アデラ姉ちゃんっ」
「あのあのあの、氷がまだあったら、これを冷たくして飲んでみたいんです」
「俺は、もうちょっと果物を入れて欲しいかな〜って」
「あたしも飲むのぉ、あたしもっ」
 自分の器から、器用にミルの分のお茶を分けてやりながら、アンジェットが『飢えた子供の群れ』と呟いた騒ぎは、もちろんちっとも収まりはしなかった。おかげでサーラは延々とお湯を沸かして、サラはずーっとアデラの傍でお茶に変なものが混じらないか見ている。
 アデラ当人は、蜂蜜漬け果物入りお茶が気に入ったようで、途中から明らかに果物の量をケチって淹れ始め、また苦情を言われていた。
「お菓子はお土産に差し上げますから、これはおいていって欲しいんですのよ」
「アデラ姉ちゃんにはワイン漬けがあるんだから、けちけちしたら駄目だよ」
 マーちゃんの今回のお茶会唯一の至言があって、アデラは庭に残った木いちごの量を見て、少しケチるのを止めていた。
「さて、そろそろ冷菓にしようかね。木いちごとさくらんぼのどっちがいい?」
「「「「「「両方!」」」」」」
 すっかり童心に返った一団の遠慮のない台詞も、アンジェットには予測済みだったらしい。さすがにミルに半ば凍った冷菓は扱いがたいので、サーラに手伝わせて人数分のそれを盛り付けてくる。この間、ミルはお湯の沸き具合を確認し、サラはアデラが調合するお茶にものすごく変なものが入らないかを見張っていた。
 そうして、今回の最大のお楽しみ冷菓だったが‥‥
「あら、何か間違えたみたいですわ」
「アデラ様、前の茶葉をちゃんと捨ててから新しいものを入れてくださいってお願いしましたのに」
 奇妙に渋いお茶に、げんなりする人々の姿があったが‥‥例外が一人だけ。
 そして大半の者も、すぐに気を取り直して冷夏を満喫したのだった。
 もちろん、帰りには持てるだけのお土産を持っていったりしている。

●戦いはしぶとく続く
 お茶会の翌日、蜂蜜漬け果物にお茶を入れて飲む楽しみを知ったアデラの姪達が、朝一番で庭に残った木いちごを摘み取ろうと外に出たら‥‥
「マーちゃんのくいしんぼーっ!」
 名指しされた一人が、さくらんぼの木の上でちゃっかりと僅かに残った実を食しているところだった。
 挙げ句に彼は、しっかりと朝食の席にも混じっていたらしい。
「今度はワイン漬けがいい頃合になったら呼んでよね」
 平然と、そんなことまで言いながら。