素敵?なお茶会への招待〜ワイン飲み放題!

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月03日〜08月06日

リプレイ公開日:2005年08月13日

●オープニング

 夏の日差しが眩しいこの日。パリの冒険者ギルドには、毎月やってくるお茶会好きのウィザード、アデラが現れていた。
「こんにちわ、今月もお茶会ですか」
 顔見知りになっている受付の係員に問われて、アデラは何か考え込んだが‥‥やがてキッパリと言った。
「今回は、ワインなんですの」
 言われた係員も珍妙な顔付きになったが、こう尋ね返す。
「そのワインの出どころは? ご自分で仕込まれたわけじゃないでしょう?」
 お茶で腹痛患者多数を出した経歴の持ち主が仕込んだワインだったら、命に関わるかもしれない。頭をよぎったその考えはもちろん顔に出さずに、係員は商売用の笑顔を取り戻している。
 聞けばワインはアデラの亡父の友人が作ったもので、もちろんその人はワイン醸造の専門家だ。昔その人の畑が壊滅的な被害を受けたときに、アデラの父親が資金を貸したらしい。らしいというのは、借用書は確かに出てきたが、アデラも子供のときのことで実際にどういうやり取りがあったのかはよく分からないからだそうだ。
 ともかく借用書によれば、アデラの父親が友人に貸したのは金貨十五枚。返済は十年後に作ったワインで返すことになっていた。その返済が今年だったのだが‥‥
「二十五樽届きましたの。なにしろ父も祖父も酒豪でしたから‥‥金貨十五枚分のワインなんて飲めませんし、置く所もありませんもの。相手も律儀な方で、そんなにいらないと言いましたのに返すものはきっちりしたいとおっしゃって」
 ちなみに樽の大きさは、アデラの十歳の姪が中に入って隠れられるくらい。結構な大きさである。
 あまりのことにアデラも職場の人に配ったり、それだけでは減らなくて同僚のつてを頼ってその知人友人にも配ってもらったのだが、まだ半分に減っただけ。残り十三樽が家の中に鎮座ましましている状態なのだそうだ。幾ら味はよくても、アデラもそんなに飲めない。
 そんなわけで、アデラはワイン消費のために、お茶会ならぬワインの会を催すことにしたらしい。
「お茶も用意しておきますわ。でも、わたしは酒の肴はあまり作ったことがないので、どなたか作っていただけるとありがたいんですの。あと、この間作った木いちご漬けワインもいい味ですわ」
「別に一日二日で腐るものではないんだから、そのまま置いておいたらどうですか。地下室もおありでしょう?」
「でもうちの地下室、どうやってもあんなにたくさん入りませんし、危なくて運べませんわ」
 樽が大きいので重いわけだ。それは仕方がないと係員も思った。
「じゃあ、力仕事してくれる人も優遇ってことで。しかし、この時期は井戸で冷やしたワインが最高ですよねぇ。うちもこの間、ワインをたくさんもらったんですよ」
「井戸だけでは冷やしきれませんわ、どうしましょう?」
 飲む奴に考えさせないと言われて、アデラはご機嫌に帰っていった。

 アデラのお茶会、今回はワインも飲み放題だ。

●今回の参加者

 ea1872 ヒスイ・レイヤード(28歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea4071 藍 星花(29歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea4817 ヴェリタス・ディエクエス(39歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea9960 リュヴィア・グラナート(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

セシリア・カータ(ea1643)/ サラフィル・ローズィット(ea3776)/ オレノウ・タオキケー(ea4251

●リプレイ本文

●一日目は準備
 市場では、壮絶な値切り争いが繰り広げられていた。主役は店の主とヒスイ・レイヤード(ea1872)だ。店にあるチーズを大量に積み上げて、幾らで折り合うかをもう結構長いことやっている。観客はオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)とカレン・シュタット(ea4426)、その友人のセシリアだった。
「お肉買えるかしら。厚く切ったのを焼いて食べたいんだけど」
「おつまみになりそうな乾物も欲しいですけれど」
 今回のお茶会兼ワイン飲み放題では、依頼人が金貨二枚の予算で必要な食品を買ってもいいと言ってくれた。その依頼人のアデラの家には畑もあり、鶏だって飼っているから、足りないものは限られている。それでも冒険者八人にアデラで九人分の料理の材料となれば、ヒスイが頑張ってくれても希望のものが揃えられるかは怪しい。
 ヒスイはまだ、楽しそうに値切っている。

 アデラの家の地下食料庫は、五メートル四方くらいしかなかった。さらにはしご段で下りるので、とてもではないがワイン樽を下ろすのは危ない。ヴェリタス・ディエクエス(ea4817)とヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)の二人掛かりでなら下ろせるが、今度はアデラや家族が樽を外に出せない可能性がある。
「ふむ、飲みつくしてもかまわんと依頼人殿がいうわけじゃな」
「さすがに飲みつくすには量が多いが‥‥この小さい樽は井戸で冷やしておこう」
 庭先の納屋に無理やり押し込んであった樽を、料理用に一つ台所へ、それ以外はきちんと並べなおしたりしながら、二人は今からワインを飲んでいる。

 その頃、庭の片隅に厚地の布を張り巡らせて作った空間で、リュヴィア・グラナート(ea9960)はフリーズフィールドのスクロールを広げていた。魔法を完成させると、色々冷やすことが出来るからだ。
 ただ、その前に。
「この辺は、ワインの樽が来る予定なんだよ」
 涼しくなった空気を察して、鶏達がフリーズフィールドの周辺に陣取り始めたのを何とかする必要があるようだ。

 台所では、作りおくはずの料理を色々盛りつけた皿が一枚、でんとテーブルに置かれた。
「この皿以外からつまみ食いしたら、明日は食べるものないわよ」
 藍星花(ea4071)に念押しされたマート・セレスティア(ea3852)は、すでに皿に取り付いて盛られた料理をどんどん口に放り込んでいる。いつもの光景だが、お茶会は明日なのにいつもの調子で食べられては、星花と手伝いのサラは彼専属の料理人になってしまう。
「あ〜ん」
 それでも、マートが今摘んでいるのは、取り分けてもらった料理ではないものだ。この後届く食料も、彼はもちろん狙っている。
 星花が包丁を逆手に握るのも、それほど先のことではないかもしれない。

●二日目はお茶会、ワインはおまけ
 いつも通りのお茶会というには、いささか卓の周囲に置いてあるものが多く、また料理もふんだんに準備されている本日。八人中三人の初参加者はこの時点でおおむねご満悦だった。
「なんか、あたしより若いのにこんないい生活しててずるいわよね」
 オイフェミアのように納得がいかない者もいたりはするが、ワインやお茶、料理がただで振舞われるのだから基本的に誰も文句はない。文句がないどころか、すでに笑み崩れている者もいたりする。
「昨日は一日よい汗を流したからな。さぞかしワインがうまかろう」
「みんなは飲むのに忙しいだろうから、おいらが料理は食べてあげるよ」
 仲良く隣り合わせでにこにこと会話しているヘラクレイオスとマートの共通点は、それぞれ目的に即したものを持参していることだった。ヘラクレイオスは漆塗りの酒器、マートは愛用のナイフだ。
 二人はとてもご機嫌だが、配膳役を買って出た星花とヒスイは警戒心もあらわにマートを見ている。星花は度々体験し、ヒスイは料理中の会話でマートが『他人の皿に手を出す危険なパラ』だと承知しているからだ。
 そんなわけで、マートの反対側の隣はヴェリタスである。止めてくれることを期待はしないが、簡単に押しのけられないでくれれば有り難いのだ。
 なにはともあれ、『ちゃんと配るから待ってなさい』と言われて、『たくさん盛ってね』と返したマートはきょろきょろと落ち着かない。カレンがマートの前の杯に並々とワインを注いでくれたが、目的はそれではなかったようだ。
 食い気満々のマートはともかく、オイフェミアも焼きたて厚切り肉を前に喜んでいる。ワインは冷やしすぎたのは体も冷えると、井戸水につけてあったものをヴェリタスに分けてもらっている。こちらも準備万端だった。
「たくさん飲んでくださいね。余っても困りますから」
 他の者にも料理とワインが行き渡り、アデラが気前のいいことを言って、本日のお茶会は開始になった。このときには、誰もアデラがああいうことになるとは思わなかったのだが‥‥
 とにかく本日はワインが飲み放題だ。この理由だけで参加を決めたヘラクレイオスは、最初からぐいぐいと杯を干している。カレンが友人と一緒に差し入れてくれたつまみを時々口にするが、料理はほとんどマートに取られている。ヴェリタスも、やはりねだられて料理の半分は隣に持っていかれていた。
「ちょっと、あたしのはあげないわよ」
「ああもう、騒がしいわね。まだあるんだから心配しないのよ。ちゃんと甘いものや冷やした果物も準備したから、それも考えながら食べてちょうだい」
 オイフェミアとマートが肉を争っているのを見て、ヒスイがため息混じりに口を挟む。折角のワインが楽しめないじゃないと零すと、ヘラクレイオスが重々しく頷いた。
「折角ご馳走してもらうのじゃから、心楽しく飲めねばならん。とはいえ、子供は食べるのも仕事じゃな」
 気前よくオイフェミアにも料理を分けてやりながら、ヘラクレイオスはやっぱりぐいぐいとワインを飲んでいる。カレンが呆然と見ているが、当人はまったく気にならないようだ。でもカレンが今回はワイン用に使用している茶器を、自分のほうに押しやってくれたのは気付いて礼を言っている。
 付き合わされて、大変な勢いで飲んでいるヴェリタスも、これには苦笑いだ。間のマートが食べるのみなので、大変な人の近くになったと思っていることだろう。それでも、依頼でワイン産地として知られるプロヴァンに出向いたことがあるとかで、飲み比べているらしい。
 この間に、星花は『お代わりがほしい』とのオイフェミアの要求と、もはや勝手に料理の皿を独占したがるマートの双方をあしらいつつ、自分もワインを楽しんでいた。でも時々、ふらりと席を離れるアデラが、庭先で摘んだ雑草をお茶の葉に混ぜようとするのを止めることは忘れない。
 これを横で見ていたリュヴィアも呆れたようで、星花と二人で確認をした茶葉の入った籠を自分の前に移動させていた。これでお茶になんだか見たこともない草が入る事は防げるはずだ。
 はずだったのだが。
「アデラさん、なんだか顔色が変わってますけれど」
 冷たいスープを飲んでいたはずのアデラの様子がおかしいと、気が付いたのはワインを樽から茶器に移していたカレンだった。それほど飲んでいないのにと両隣の星花とリュヴィアが顔を覗き込むと、確かに真っ赤になっている。そして目付きがとろんとしていた。
「あら、ワインちょっとでこんなになるの?」
「お茶にしたほうがいいんじゃないか?」
 明らかに酔っ払っていると、二人はアデラに茶葉を渡して、茶器を揃えてやった。お湯は先ほどから沸かしてあるし、酔っ払っていたから摘んで歩いた雑草は全部つまみ出しておいたから、アデラには自分で茶を入れてもらえばいいはずだったのだが‥‥
「皆さんの分ですの〜、ワインばっかりはいけませんわ〜」
 と、アデラが入れてくれた茶は、オイフェミアが香りを嗅いで、ヒスイは色を見て、カレンはそんな二人の反応で、星花とリュヴィアは茶を淹れ終えた後の茶器の中を覗いて、手を出すのをやめるようなものだった。
 色、黒に近い茶色。香り、ものすごく緑くさい。茶葉の量、茶器にぎゅうぎゅう詰め。
 とてもではないが、これを飲むのとゴブリンと戦うのなら、ゴブリンのほうがましではないかと思うような、とんでもない代物が器に注がれていたのだ。茶葉が多すぎて、量はちょっぴりだが。
「うわ、まずっ。お湯もらうねっ」
 何にも気にしないマートは一気に飲み干して、素直な感想を述べていた。が、ぐいぐいと器を押し付けられたヴェリタスは、困惑しながらも口をつけて‥‥
「い、以前の茶のほうが俺は好みかな」
 素直に不味いと言えと、他の七人から表情で突っ込まれていた。額に浮いているのは、明らかに脂汗なのだから。
 でも、言ったのはヴェリタス当人なので、アデラが使った茶葉を半分だけ捨てて、全然種類が違う香草をまたぎゅうぎゅうと押し込んで淹れた茶は、他の誰も受け取りを拒否した。なにしろなんだか分からないが刺激臭がするのだ。
「大丈夫だ。少なくとも毒は入っていない」
「昨日、サラが見てくれたしね。だけど肉の臭い消しだわ、それ」
 リュヴィアと星花の慰めにもならない一言をもらって、ヴェリタスはアデラに押し付けられた茶を口に含んだ。よく吐き出さないものだと思うくらいに顔色が変わったが、それでも『ちょっと刺激的過ぎる』と言葉は気遣いでぐるぐると包んである。
「うふ、うふうふ、じゃあ、次はこれ〜」
 もはやヴェリタスを生贄に、残りは楽しくワインを飲もうじゃないかといった様相の茶会になりかけていたところ、酔っ払ったアデラがワインに手を出した。これ以上飲ませていいものかと、カレンが止めようとした時に、ずっと手酌で飲んでいたヘラクレイオスがアデラを叱ったのだ。理由は簡単、お湯の代わりにワインを使おうとしたから。
「ワインの一滴は、ジーザスが血の一滴。例えどれほどあろうとも、無駄にすることはならぬっ。それはわしが飲もう!」
 こんなヘラクレイオスの口癖は、『酒は命の源』だ。あまりの勢いに、アデラも素直に手にしたワインを差し出した。そして結局、『きゃーっ』と無意味に叫びながら、変な茶を淹れてヴェリタスに勧めている。星花もリュヴィアも、毒でなければいいと開き直ってしまったので、ヴェリタスの苦難はまだまだ続くだろう。
 その間に、オイフェミアはマートに食べつくされないうちに取り分けてもらった料理を堪能し、ヒスイと星花は甘味の冷菓に冷やしたフルーツをどう飾ろうかと相談する。甘味だけでも幾つかあると聞いて、カレンが手を叩いて喜んだ。更にリュヴィアが、ごく普通に茶に使われる香草で茶を淹れてくれたので、この四人はのんびりと正しいお茶会だ。
 マートとオイフェミアは、冷菓になったら自分達も茶がほしいと主張しつつ、おいしそうに肉料理を食べている。
 ヘラクレイオスは心の底から幸せそうに、大きな樽を横に置いて、そこから手酌で飲んでいる。たまにお茶会四人組の会話に加わって、それだけで楽しそうだ。
 一人だけが、苦難の道を歩まされているのだが‥‥
 結局、酔っ払いアデラがくふくふ笑っている間に、星花の手配で料理はどんどんと出され、皆はそれを楽しみながらワインを飲み、ヴェリタスはわけの分からない配合の茶を飲み続けた。
 最後は、フリーズフィールドを使ってよかったねと七人の意見が一致した冷菓で締めくくられたのだが‥‥それが味わえなかった一人は多分悲しんだことだろう。
 アデラはちゃっかり残しておいてもらったものを、後になって食べている。
 そして、ヘラクレイオスを始め、何人かはちゃっかりと残ったワインをもらって帰ったのだった。でもヘラクレイオスは一樽飲み尽くしたからと、買出しで足りなかった費用を太っ腹に払ってくれたので誰も文句は言わなかった。

●三日目、後始末といえば聞こえはいい
「昨日の食事はおいしかったわ。あれでお母さんがいたら最高だったんだけど‥‥呼んであげたいわ。あ、今日はワインでお風呂は入ろうと思って。ちょっとちょうだい」
 朝一番でやってきたオイフェミアは、ヘラクレイオスがいたら叱り飛ばされそうなことを言っていた。次のワイン飲み放題はいつだろうと尋ねているのは、次回本当に母親を呼ぶつもりなのかもしれなかった。すっかり酔いが醒めているアデラは、のほほんと『お祭りがあるときにでも』と返している。次回は予算がもっとあったら嬉しいと言われて怒らないのだから、オイフェミアにはありがたい話だろう。
 そんな二人の横では、ものすごく当然のような顔をして、ワインを飲んでいる。まだかなり残っているので、台所にあったチーズを齧りながら、木陰でワインといういい生活だ。さすがに昨日のヘラクレイオスのように、大きな樽を脇に置いてとはいかないが。
 オイフェミアがワインをもらって帰っていくのと入れ替わりに、今度はヘラクレイオスがやってきた。こちらも当然のようにワインの樽、それも大きいものを出してきて、林檎の木陰で飲み始める。ちゃんと始末するから安心しろというのは、意訳すれば『全部飲むから』なのだろうか。
「そのチーズはうまそうじゃな」
「おいらのだからあげないよ」
「まだありますから、持ってましょうね。野菜の酢漬けもこの間作ったのが確か‥‥」
 本日も当然のように肴を出してもらって、二人は延々と飲んでいた。しまいにはアデラも混ざって、また『うふ、うふうふ』と笑い出している。
 やがて。
 前日の片付けでワイン樽の始末をしていなかったと気付いた星花とヒスイ、カレンにリュヴィアが誘い合わせて訪れたときには、昨日とたいして変わらない光景が繰り広げられていたのだった。
 これでいいのかと呟いたのは、誰だったか。
 そしてヴェリタスは。
「ちがう、二日酔いじゃないぞ」
 と、身内に酒の飲みすぎを咎められて、弱々しく信憑性のない主張を繰り広げていた。